特許第6354341号(P6354341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354341
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】溶融金属への旋回流付与方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20180702BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20180702BHJP
   B22D 41/62 20060101ALI20180702BHJP
   B22D 41/50 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B22D11/10 310Z
   B22D11/10 320D
   B22D11/10 320F
   B22D11/11 B
   B22D41/62
   B22D41/50 520
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-113247(P2014-113247)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-226921(P2015-226921A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】後 真理子
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/055484(WO,A1)
【文献】 特開2007−069236(JP,A)
【文献】 特開2008−030069(JP,A)
【文献】 特開昭63−016855(JP,A)
【文献】 特開昭63−002540(JP,A)
【文献】 特開昭63−002541(JP,A)
【文献】 特開平06−226409(JP,A)
【文献】 米国特許第04287933(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10,11/11,41/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁に1つ以上の側孔が設けられた中空の円筒状、円錐状または円錐台状の耐火物製構造体を、該耐火物製構造体の中心軸を鉛直にしてタンディッシュ内の浸漬ノズル上方に配置し、前記タンディッシュから浸漬ノズル内に流入する溶融金属に旋回流を付与する方法において、
前記耐火物製構造体は、タンディッシュ内の溶融金属の表面よりも上端が突出するような長さを有するか、或いは、前記上端を閉じて前記溶融金属に没入するような長さを有し、
前記側孔の内壁側の開口位置における前記耐火物製構造体の横断面の平均内径2Rが0.25m 〜1.2m 、前記側孔の内壁側の開口部の高さhが0.03m 〜0.5m であって、
前記横断面の中心から半径方向と前記側孔の中心軸がなす角度をθ1 (°)、前記タンディッシュ内の溶融金属が側孔を通過するときの流量速度をQ(m3/s )、前記側孔の総開口面積をS(m2)、前記側孔の開口位置における前記横断面の平均内半径をR(m )とした場合に、旋回流を付与するエネルギー効率を示す下記(1) 式で表される指標Pが、0.005m2/s 以上、0.100m2/s 未満の範囲において、
側孔の上側と下側の内壁が水平断面に対してなす角度θ2 (°)とθ3 (°)が、それぞれ下記(2)式及び下記(3) 式を満たすことを特徴とする溶融金属への旋回流付与方法。
P=R×(Q/S)×sinθ1 …(1)
h/2≦Ctanθ2(但し、0°<θ2 ≦60°)…(2)
h/2≦Ctanθ3(但し、0°<θ3 ≦60°)…(3)
ここで、Cは側孔の中心軸の延長線と耐火物製構造体の側壁内面との2つの交点を結んだ距離(m)である。
【請求項2】
前記指標Pが、0.005m2/s 以上、0.015m2/s 未満の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属への旋回流付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼などの溶融金属の連続鋳造において、浸漬ノズル及び鋳型の内部における溶融金属の流動の安定化を図るために、浸漬ノズルの内部を通過する溶融金属に旋回流を付与する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラブの連続鋳造のように幅の広い鋳型に溶鋼を供給する場合は、通常、対向する位置に吐出孔を有する一本の浸漬ノズルが使用される。この場合、鋳型内の流動に自励振動が生じて流速の変動や湯面の波立ちを引き起こすので、鋳片表層部の品質欠陥を防止するために、鋳造速度を低下することが要求される。
【0003】
鋳造速度を低下する等の鋳型内の流動制御を目的とするものとして、浸漬ノズルの内部を通過する溶融金属に旋回流を付与する方法がある。この浸漬ノズルの内部を通過する溶融金属に旋回流を付与する方法としては、テープを捩った形状とした部品を浸漬ノズルの内部に設置する方法(例えば特許文献1,2)や、円形断面をもつ側壁に孔を設けた中空状の耐火物製構造体をタンディッシュ内に設置する方法(例えば特許文献3,4)が公知である。
【0004】
特許文献1や特許文献2に開示された方法の場合、旋回流の形成によりスラブ鋳片の表層及び内層ともに欠陥の発生が大幅に低減される効果が確認されている。しかしながら、溶融金属中に含まれる非金属介在物が浸漬ノズルの内部に設置する前記部品に付着しやすく、浸漬ノズルの閉塞を誘発するために、多量の溶融金属を連続して鋳造することが難しいという問題がある。
【0005】
一方、特許文献3や特許文献4に開示された方法では、旋回流発生機構をタンディッシュ内に設置することで、特許文献1や特許文献2に開示された方法で問題となった非金属介在物の付着による浸漬ノズルの閉塞を誘発することなく、溶融金属に旋回流を付与することができる。
【0006】
しかしながら、発明者らは、特許文献3や特許文献4に開示された技術では、鋳型内における溶融金属の流動を安定化させる効果が必ずしも十分でないことを見出し、特許文献5で、浸漬ノズルの内部に形成される溶融金属の旋回流の角運動量の適正な範囲を規定して、適正な強さの旋回流が得られるように改善した連続鋳造方法を開示した。
【0007】
この特許文献5では、溶融金属が側孔を通過する速度と旋回流発生機構をもつ耐火物製構造体の内径、側孔の中心軸と前記耐火物製構造体の水平方向の中心とがなす角度によって角運動量を規定している。しかしながら、側孔から耐火物製構造体の内部に流入する流れ同士の干渉については言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−237852号公報
【特許文献2】特許第3515762号公報
【特許文献3】特許第4419934号公報
【特許文献4】特許第4670762号公報
【特許文献5】国際公開2011/055484号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献5で開示した方法では、側孔から耐火物製構造体の内部に流入する流れ同士の干渉については言及していないという点である。
【0010】
発明者らは、特許文献5で開示した方法についてさらなる研究開発を進めた。その結果、側孔から耐火物製構造体の内部に流入する流れ同士が干渉しないように側孔の上側と下側の内壁面に傾斜をつければ、傾斜をつけない場合に比べてより強く安定な旋回流を形成することが可能であることを見出した。さらに、前記傾斜をつけることで、特許文献5において規定した浸漬ノズル内に形成される溶融金属の旋回流の角運動量の下限よりも小さい範囲であっても、鋳型内の溶融金属の流動を安定化させるのに十分な強さの旋回流を発生させることが可能であることも見出した。
【0011】
本発明は、上述の改善により、特許文献5で開示した溶融金属に旋回流を付与する方法において、側孔から耐火物製構造体の内部に流入する流れ同士の干渉を抑制することで、特許文献5で開示した旋回流付与の適用範囲を大幅に広げるものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
側壁に1つ以上の側孔が設けられた中空の円筒状、円錐状または円錐台状の耐火物製構造体を、該耐火物製構造体の中心軸を鉛直にしてタンディッシュ内の浸漬ノズル上方に配置し、前記タンディッシュから浸漬ノズル内に流入する溶融金属に旋回流を付与する方法において、
前記耐火物製構造体は、タンディッシュ内の溶融金属の表面よりも上端が突出するような長さを有するか、或いは、前記上端を閉じて前記溶融金属に没入するような長さを有し、
前記側孔の内壁側の開口位置における前記耐火物製構造体の横断面の平均内径2Rが0.25m 〜1.2m 、前記側孔の内壁側の開口部の高さhが0.03m 〜0.5m であって、
前記横断面の中心から半径方向と前記側孔の中心軸がなす角度をθ1 (°)、前記タンディッシュ内の溶融金属が側孔を通過するときの流量速度をQ(m3/s )、前記側孔の総開口面積をS(m2)、前記側孔の開口位置における前記横断面の平均内半径をR(m )とした場合に、旋回流を付与するエネルギー効率を示す下記(1) 式で表される指標Pが、0.005m2/s 以上、0.100m2/s 未満の範囲において、
側孔の上側と下側の内壁が水平断面に対してなす角度θ2 (°)とθ3 (°)が、それぞれ下記(2)式及び下記(3) 式を満たすことを最も主要な特徴としている。
P=R×(Q/S)×sinθ1 …(1)
h/2≦Ctanθ2(但し、0°<θ2 ≦60°)…(2)
h/2≦Ctanθ3(但し、0°<θ3 ≦60°)…(3)
ここで、Cは側孔の中心軸の延長線と耐火物製構造体の側壁内面との2つの交点を結んだ距離(m)である。
【0013】
前記旋回流を付与するエネルギー効率とは、旋回流を形成するための耐火物製構造体で与えられた角運動量Pと浸漬ノズルの内部で旋回している溶鋼がもつ角運動量の比を意味する。また、前記側孔の総開口面積Sは全ての側孔の流路断面積の総和を意味し、前記(1) 式中のQ/Sは溶融金属が側孔を通過するときの平均流速を意味する。
前記耐火物製構造体における前記のh、C、θ2 、θ3 、Ctanθ2、Ctanθ3を図1に示す。
【0014】
本発明では、側孔の上側と下側の内壁が水平断面に対してなす角度θ2 及びθ3 を、それぞれ上記(2) 式及び(3) 式を満たすように規定することで、側孔から耐火物製構造体の内部に流入する流れ同士の干渉を効果的に抑制することができる。
【0015】
上記(1) 式で定義した指標Pを、0.005m2/s 以上、0.015m2/s 未満とした場合には、本発明の効果がより顕著になる。
【0016】
すなわち、本発明は、上記(1) 式で定義した指標Pの下限値を、特許文献5で規定されている下限値よりも小さい0.005m2/s まで延長することが可能となる。
【0017】
本発明において、上記(2) 式及び(3) 式を導入したのは、図1(a)の紙面右側の側孔5aから内壁に沿って入った流れが直進した場合に、その延長線上にある紙面左側の側孔5aとの干渉を避けるためには、側孔の内壁側の開口部分の高さhだけ下に向けて流入させる必要があるからである。
【0018】
すなわち、図1(a)の紙面右側の側孔5aから内壁に沿って入った流れの、Ctanθ2、Ctanθ3で表される下向きの程度を規定することを想到したからである。
【0019】
また、上記(2) 式及び(3) 式において、高さをh/2にしているのは、側孔の上側と下側の内壁に沿って流入する流れがおよそ1/2ずつ程度の割合とみなしたためである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、タンディッシュから浸漬ノズルに溶融金属を流入する際、タンディッシュ内の浸漬ノズル上方に、中心軸を鉛直にして配置した耐火物製構造体によって旋回流を付与する際に、耐火物製構造体の側孔を通って内部に流入する流れ同士の干渉を抑制して、旋回流を付与する適用範囲を大幅に広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明で規定する側孔の内壁側の開口部の高さh、側孔の中心軸の延長線と側壁内面との2つの交点を結んだ距離C、側孔の上側内壁が水平断面に対してなす角度θ2 、側孔の下側内壁が水平断面に対してなす角度θ3 、Ctanθ2、Ctanθ3を示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)図のA−A断面図である。
図2】請求項1の本発明を実施するための旋回流付与機構の実施例を模式的に示した図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)図のA−A断面を拡大して示した図である。
図3】請求項1,2の本発明を実施するための旋回流付与機構の実施例を模式的に示した図2と同様の図である。
図4】請求項1,2の本発明を実施するための旋回流付与機構の他の実施例を模式的に示した図2と同様の図である。
図5図2に示した実施例の第1の比較例を模式的に示した図2と同様の図である。
図6図2に示した実施例の第2の比較例を模式的に示した図2と同様の図である。
図7図3に示した実施例の比較例を模式的に示した図2と同様の図である。
図8図4に示した実施例の比較例を模式的に示した図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明では、側孔を通して耐火物製構造体の内部に流入する流れ同士の干渉を抑制して、特許文献5で開示した旋回流付与の適用範囲を大幅に広げることを目的とするものである。
【0023】
そして、前記目的を、側孔の内壁側の開口部分の高さをh(m )、側孔の中心軸の延長線と側壁内面との2つの交点を結んだ距離をC(m )とした場合に、側孔の上側内壁と下側内壁が水平断面に対してなす角度θ2 及びθ3 がそれぞれ下記(2) 式及び(3) 式を満たすように規定することにより実現した。
h/2≦Ctanθ2 …(2)
h/2≦Ctanθ3 …(3)
【0024】
図2は本発明を実施するための旋回流付与機構を模式的に示した図であり、この図2を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0025】
1は、その底部に上ノズル2を設置したタンディッシュであり、スライディングゲート3を介して前記上ノズル2に浸漬ノズル4を接続している。そして、前記タンディッシュ1の内部には、側壁を横断面方向から見た場合に、例えば8つの側孔5aを等角度位置に設けた、例えば筒状の耐火物製構造体5を、耐火物製構造体5の中心軸5bが鉛直となるように配置している。この耐火物製構造体5はタンディッシュ1内の溶融金属8の表面よりも上端が突出するような長さを有している。
【0026】
前記側孔5aは、水平方向の円形断面の中心Oから放射状に伸びる仮想線X1〜X8の上に内壁側の中心を有し、仮想線X1〜X8に対して側孔5aの中心軸Y1〜Y8が傾斜するように開口させている。これら側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abは、水平断面6,7に対してそれぞれθ2 及びθ3 の角度で傾斜させている。
【0027】
前記耐火物製構造体5を内部に配置したタンディッシュ1内の溶融金属8は、側孔5aを通過して耐火物製構造体5の内部に流入する際、円周方向の速度成分を付与されて旋回流を形成し、タンディッシュ1から浸漬ノズル4を経て鋳型9に供給される。この時、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに設けた傾斜θ2 及びθ3 により、隣接する側孔5aから流入する流れ同士の干渉が抑制される。
【0028】
本発明において、浸漬ノズル4の内部に形成される溶融金属8の旋回流の角運動量の指標として、下記(1) 式で定義した指標Pを0.005m2/s 以上、0.100m2/s 未満としている。
P=R×(Q/S)×sinθ1 …(1)
【0029】
なお、R(m )は側孔5aが開口している部分における内壁側の水平方向の円形断面の平均内半径を、Q(m3/s )はタンディッシュ1内の溶融金属8が側孔5aを通過するときの流量速度を、S(m2)は全ての側孔5aの流路断面積の総和である側孔5aの総開口面積を、θ1 (°)は横断面の中心Oから半径方向と前記側孔5aの中心軸Y1〜Y8がなす角度を示す。
【0030】
本発明では、隣接する側孔5aから流入する流れ同士の干渉を抑制し、旋回流を形成する効率が下がらないようにしても、前記指標Pの値が0.005m2/s を下回ると、浸漬ノズル4の内部で形成される旋回流が弱く、十分な鋳型内流動安定化作用を発揮できないため、前記指標Pの下限を0.005m2/s とした。
【0031】
一方、前記指標Pの値が0.100m2/s を超えると、耐火物製構造体5による旋回流の顕著な減衰が生じ、その圧力損失によって旋回流を付与するエネルギー効率が低下するので、前記指標Pの上限を0.100m2/s とした。
【0032】
また、本発明では、側孔5aの上側内壁5aaと下側内壁5abが水平断面に対してなす角度θ2 及びθ3 をそれぞれh/2≦Ctanθ2及びh/2≦Ctanθ3のように規定した。
【0033】
その理由は、Ctanθ2およびCtanθ3がh/2よりも小さい範囲では、側孔5aから流入する流れが耐火物製構造体5の内壁の円周方向に沿って旋回流を形成する前に隣接する側孔5aから流入する流れと衝突して旋回流付与のエネルギー効率が低下するからである。
【0034】
前記θ2 及びθ3 は60°よりも大きくしても側孔5aから流入する流れが上側内壁5aa或いは下側内壁5abに沿わなくなり、旋回流形成の効率が低下する。従って、本発明ではθ2 及びθ3 の上限値を60°とした。なお、θ2 及びθ3 は正の値、すなわち0°より大きい値とする。
【0035】
また、耐火物製構造体の横断面の平均内径2Rを0.25m 〜1.2m 、側孔の内壁側の開口部の高さhを0.03m 〜0.5m と規定したのは、特許文献5と同じ理由である。
【0036】
すなわち、前記平均内径2Rが0.25m 未満では旋回流を付与する機構としては小さすぎて十分な角運動量を得ることが難しくなる等のためである。反対に、前記平均内径2Rが1.2m を超えると旋回流を付与する機構としては大きすぎて専用のタンディッシュが必要になる等のためである。また、側孔の内壁側の開口部の高さhが0.03m 未満では溶融金属の流路が小さすぎて閉塞しやすくなるからである。反対に0.5m を超えると側孔の断面積が大きくなりすぎて側孔を通過する溶融金属の流速を確保して十分な角運動量を得ることが難しくなるためである。
【0037】
なお、図2中の10は、上ノズル2を通って浸漬ノズル4に供給される溶融金属8に不活性ガスを供給する配管を示す。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の溶融金属への旋回流付与方法の効果を、水モデル実験を行った結果に基づいて詳細に説明する。
【0039】
試験装置はアクリルで作成したタンディッシュを想定した水槽と、その水槽の中に設置した本発明の旋回流付与機構をもつ耐火物製構造体と、アクリル製浸漬ノズルを介してモールドを想定した水槽から成る構成である。
【0040】
実験は、タンディッシュを想定した水槽に一定の水を供給しつつ、同じ量の水を鋳型を想定した水槽から排出し、常に水面のレベルが一定になるようにして行った。そして、その際の旋回流の強さを調査するため、浸漬ノズル内の吐出孔より50mm上方位置の周方向流速及び下降流速をプロペラ流速計により測定した。
【0041】
下記表1に請求項1に規定する要件を満たす実施例1、請求項1,2で規定する要件を満たす実施例2,3、及び実施例1の比較例1,2、実施例2の比較例3、実施例3の比較例4の一覧を示す。
【0042】
下記表1中の旋回流の強さは、浸漬ノズルの吐出孔の上方50mm位置での評価で、一般的に使われている下記式で示される無次元数(スワール数)Swで評価した。そして、0≦Sw<0.05の範囲を、遠心力の作用により浸漬ノズルの2つの吐出孔からの吐出流を均等にして、鋳型内において安定した流動を形成するには弱い強さとした。一方、0.05≦Swを、遠心力の作用により浸漬ノズルの2つの吐出孔からの吐出流を均等にして、鋳型内において安定した流動を形成するのに十分な強さの範囲である強さとした。
Sw=(2×(周方向流速の断面平均値))/(3×(下降流速の断面平均値))
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例1)
図2は、前述した通り、本発明を実施するための旋回流付与機構を模式的に示した図であり、同図に示す実施例1は、請求項1で規定する条件を満たす実施例である。
【0045】
図2に示す実施例1は、側孔5aが開口している位置における、耐火物製構造体5の側壁内面側における水平方向の円形断面の平均内半径Rは0.560m 、溶融金属8が側孔5aを通過するときの平均流速Q/Sは0.120m /s 、前記指標Pは0.048m2/s であり、請求項1で規定する指標Pの範囲を満たしている。また、側孔5aの中心軸5bの延長線と側壁内面との2つの交点を結んだ距離Cは0.330m 、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abの傾斜角θ2 及びθ3 はそれぞれ25°及び20°であり、上記(2) 式及び(3) 式で規定する範囲を満たしている。
【0046】
実施例1では、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに、耐火物製構造体5の内部に流入する流れの干渉を抑制するのに十分な傾斜が設けられており、側孔5aから流入する流れ同士が干渉しない。従って、遠心力の作用により浸漬ノズル4の2つの吐出孔からの吐出流を均等にして、鋳型9の内部において安定した流動を形成するのに十分な強さであるスワール数Swが0.29の旋回流が形成された。
【0047】
(比較例1)
図5は、図2に示した実施例1の第1の比較例(比較例1)を模式的に示した図2と同様の図であり、同図に示す比較例1は、請求項1で規定する条件を満たさない例である。
【0048】
すなわち、図5に示した比較例1は、前記平均内半径Rは0.560m 、前記平均流速Q/Sは0.120m /s 、前記指標Pは0.048m2/s と実施例1と同じであり、請求項1で規定する指標Pの範囲を満たしている。
【0049】
しかしながら、前記傾斜角θ2 及びθ3 はともに0°であり、上記(2) 式及び(3) 式を満たすかどうかを判定するために使用する傾斜角θ2 及びθ3 の範囲ではない。
【0050】
このような比較例1では、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに傾斜を設けていないため、側孔5aから流入する流れ同士が干渉する。従って、形成される旋回流の強さを示すスワール数Swは0.11であり、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに傾斜を設けて側孔5aから流入する流れ同士が干渉を抑制した実施例1に比べて弱い。
【0051】
(比較例2)
図6は、図2に示した実施例1の第2の比較例(比較例2)を模式的に示した図2と同様の図であり、同図に示す比較例2も、請求項1で規定する条件を満たさない例である。
【0052】
図6に示した比較例2は、前記平均内半径Rは0.560m 、前記平均流速Q/Sは0.120m /s 、前記指標Pは0.048m2/s と実施例1と同じであり、請求項1で規定する指標Pの範囲を満たしている。
【0053】
しかしながら、前記傾斜角θ2 及びθ3 はともに70°であり、上記(2) 式及び(3) 式を満たすかどうかを判定するために使用する傾斜角θ2 及びθ3 の範囲を超えている。
【0054】
このような比較例2では、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに設けられた傾斜の角度が大きすぎるため、側孔5aから流入する流れが内壁面に沿わない。従って、形成される旋回流の強さを表すスワール数Swは、浸漬ノズル4の2つの吐出孔からの吐出流を均等にして鋳型内において安定した流動を形成するには弱い0.04になる。
【0055】
(実施例2)
図3は、本発明を実施するための旋回流付与機構の実施例を模式的に示した図2と同様の図であり、同図に示す実施例2は、請求項1及び2で規定する条件を満たす実施例である。
【0056】
図3に示した実施例2は、前記平均内半径Rは0.425m 、前記平均流速Q/Sは0.043m /s 、前記指標Pは0.008m2/s であり、請求項1及び2で規定する指標Pの範囲を満たしている。また、前記距離Cは0.315m 、前記傾斜角θ2 及びθ3 はそれぞれ20°及び15°であり、上記(2) 式及び(3) 式で規定する範囲を満たしている。
【0057】
この実施例2では、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに、干渉を抑制するのに十分な傾斜が設けられており、側孔5aから流入する流れ同士が干渉しない。従って、遠心力の作用により浸漬ノズル4の2つの吐出孔からの吐出流を均等にして、鋳型内において安定した流動を形成するのに十分な強さ(スワール数Swは0.08)の旋回流が形成される。
【0058】
(比較例3)
図7は、図3に示した実施例2の比較例(比較例3)を模式的に示した図2と同様の図であり、同図に示す比較例3は、請求項1及び2で規定する条件を満たさない例である。
【0059】
図7に示した比較例3は、前記平均内半径Rは0.425m 、前記平均流速Q/Sは0.043m /s 、前記指標Pは0.008m2/s と実施例2と同じであり、請求項1及び2で規定する指標Pの範囲を満たしている。
【0060】
しかしながら、前記傾斜角θ2 及びθ3 はともに0°であり、上記(2) 式及び(3) 式を満たすかどうかを判定するために使用する傾斜角θ2 及びθ3 の範囲ではない。
【0061】
このような比較例3では、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに傾斜が設けられていないため、側孔5aから流入する流れ同士が干渉する。従って、形成される旋回流の強さは浸漬ノズル4の2つの吐出孔からの吐出流を均等にして鋳型内において安定した流動を形成するには弱くなる(スワール数Swは0.01)。
【0062】
(実施例3)
図4は、本発明を実施するための旋回流付与機構の実施例を模式的に示した図2と同様の図であり、同図に示す実施例3は、請求項1及び2で規定する条件を満たす実施例である。この実施例3の場合、耐火物製構造体5に設ける側孔5aを6個とするとともに、耐火物製構造体5の上端を閉じて、溶融金属8に没入するような長さとした。
【0063】
図4に示した実施例3は、前記平均内半径Rは0.300m 、前記平均流速Q/Sは0.088m /s 、前記指標Pは0.014m2/s であり、請求項1及び2で規定する指標Pの範囲を満たしている。また、前記距離Cは0.120m 、前記傾斜角θ2 及びθ3 は共に60°であり、上記(2) 式及び(3) 式で規定する範囲を満たしている。
【0064】
この実施例3では、側孔5aの上側内壁5aa及び下側内壁5abに干渉を抑制するのに十分な傾斜が設けられており、側孔5aから流入する流れ同士が干渉しない。従って、遠心力の作用により浸漬ノズル4の2つの吐出孔からの吐出流を均等にして、鋳型内において安定した流動を形成するのに十分な強さの旋回流が形成される(スワール数Swは0.12)。
【0065】
(比較例4)
図8は、図4に示した実施例3の比較例(比較例4)を模式的に示した図2と同様の図であり、同図に示す比較例4は、請求項1及び2で規定する条件を満たさない例である。
【0066】
図8に示した比較例4は、前記平均内半径Rは0.300m 、前記平均流速Q/Sは0.088m /s 、前記指標Pは0.014m2/s と、実施例3と同じであり、請求項1及び2で規定する指標Pの範囲を満たしている。
【0067】
しかしながら、前記傾斜角θ2 及びθ3 はそれぞれ10°及び5°であるものの、前記距離Cは0.120m であるため、上記(2) 式及び(3) 式を満たしていない。
【0068】
このような比較例4では、側孔5aの中心軸5bの延長線と側壁内面との2つの交点を結んだ距離Cが短すぎるため、側孔5aから流入する流れ同士が干渉する。従って、形成される旋回流の強さは浸漬ノズル4の2つの吐出孔からの吐出流を均等にして鋳型内において安定した流動を形成するには弱くなる(スワール数Swは0.02)。
【0069】
以上、本発明を水モデルで検証し、実用規模の連続鋳造方法の鋼での適用例について記載したが、本発明は、鋼以外の溶融金属の連続鋳造方法にも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の方法は、テープを捩った形状とした部品を内部に有する旋回流付与浸漬ノズルの欠点であるノズル閉塞を起こすことなく、浸漬ノズル内の溶融金属に旋回流を形成し、スライディングゲートの絞りによる旋回流の減衰や偏流を抑制し、旋回流付与浸漬ノズルが有する、鋳型内溶融金属の優れた流動安定性や、非金属介在物の除去などの効果を発揮して、安定した連続鋳造操業および鋳片の品質向上を達成することができる。従って、本発明の方法は、安価な設備と簡便な方法により連続鋳造の安定化および金属鋳片の高清浄度化を目指す鋳造分野において広範に適用できる技術である。
【符号の説明】
【0071】
1 タンディッシュ
4 浸漬ノズル
5 耐火物製構造体
5a 側孔
5aa 上側内壁
5ab 下側内壁
5b 中心軸
6,7 水平断面
8 溶融金属
C 耐火物製構造体の横断面の中心
h 側孔の内壁側開口部の高さ
Y1〜Y8 側孔の中心軸
θ1 耐火物製構造体の横断面中心から半径方向と側孔の中心軸がなす角度
θ2 上側内壁が水平断面に対してなす角度
θ3 下側内壁が水平断面に対してなす角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8