(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ワークばらつきとしての項目は、前記ワークと該ワークに熱を加えるトーチとの離間距離、前記ワークの母材断面積、及び一方の前記ワークの前記継手部分の先端と他方の前記ワークの前記継手部分の先端との段差の大きさのうちの少なくとも何れか一を含むことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項記載の溶接装置。
前記溶接条件としての項目は、溶接電流、溶接時間、前記ワークを把持する治具の前記ワークに対するチャック位置、及び前記ワークに熱を加えるトーチの前記ワークに対するトーチ位置のうちの少なくとも何れか一を含むことを特徴とする請求項6記載の溶接装置。
前記関係における前記チャック位置は、前記離間距離が長いほど、前記母材断面積が大きいほど、又は前記段差の大きさが大きいほど、前記トーチから遠ざかる方向に移動されることを特徴とする請求項7記載の溶接装置。
前記関係における前記トーチ位置は、前記離間距離が長いほど、前記母材断面積が大きいほど、又は前記段差の大きさが大きいほど、前記ワークに近づく方向に移動されることを特徴とする請求項7記載の溶接装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明に係る溶接装置及び溶接方法の具体的な実施の形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施例である2つのワーク10,12を溶接する溶接装置14の構成図を示す。本実施例において、2つのワーク10,12は、例えば、断面が矩形状に形成される平角導線からなるモータ用コイルなどの導電性部材である。2つのワーク10,12は、対向面同士を水平方向に対面させたうえで、その先端部が溶接により継手となるものである(拝み継手)。溶接装置14は、2つのワーク10,12の先端にある継手部分に電気的に熱を加えて両ワーク10,12を溶融させて互いに繋ぎ合わせて接合する電気溶接装置である。
【0012】
溶接装置14は、溶接対象のワーク10,12を把持する位置決め治具16を備えている。位置決め治具16は、隙間を空けて平行に延びる2つの棒状部18,20を有している。2つの棒状部18,20は、水平に延びており、2つのワーク10,12が対向面同士を合わせて並ぶ方向に互いに離間している。位置決め治具16は、2つの棒状部18,20の間に2つのワーク10,12を配置してそれら2つの棒状部18,20にそれら2つのワーク10,12を挟持させることで両ワーク10,12を同時に把持する。
【0013】
溶接装置14は、また、ワーク10,12の先端に熱を加えるトーチ22を備えている。トーチ22は、位置決め治具16(特に、その位置決め治具16が2つのワーク10,12を把持した位置)に対して上方に離間して配置されており、下方に向いたノズル24を有している。ノズル24内には負極電極が収容されている。上記した位置決め治具16には、正極電極が接続されている。溶接装置14は、トーチ22側の負極電極と、ワーク10,12を把持した位置決め治具16側の正極電極との間に電圧を印加して両電極間の空間においてアーク放電を施すことで、ワーク10,12同士を一体化するように接合させる。
【0014】
溶接装置14は、また、カメラなどの画像認識装置26を備えている。画像認識装置26は、溶接対象のワーク10,12(特に、ワーク10,12同士が溶接される先端の継手部分)を画像認識するための装置であって、主にそれらのワーク10,12に生じているばらつきを示す画像情報を取得する。
【0015】
上記した溶接対象のワーク10,12に生じているばらつき(ワークばらつき)としての項目は、ワーク10,12の先端の継手部分の位置などである。例えば、ワーク10,12の母材断面積(すなわち、2つの棒状部18,20が挟むワーク10,12の、それらの棒状部18,20が延在する方向の幅と、それらの棒状部18,20が離間する方向の奥行きと、の乗算値)や,ワーク10,12の出代(すなわち、ワーク10,12が位置決め治具16に位置決めされている場合におけるそのワーク10,12の、位置決め治具16によるチャック上端から先端までの長さ),2つのワーク10,12の各出代の差(すなわち、ワーク10の先端とワーク12の先端との高さ位置の差;段差の大きさ),溶接後の継手部分の棒状部18,20が延在する方向の幅(溶融幅),溶接後の継手部分の棒状部18,20が離間する方向の奥行き(溶融奥行き),溶接後の継手部分の高さ方向の長さ(溶融高さ),色などである。
【0016】
尚、画像認識装置26による画像認識によりワークばらつきとして測定される項目は、上記したワーク10,12の母材断面積、出代、段差の大きさ、溶融幅、溶融奥行き、溶融長さ、及び色のうちの何れか一を含むものであればよく、そのうちの一つであってもまた複数であってもよい。また、上記のワークばらつきとして測定される項目は、上記したもの以外の項目を含むものであってもよい。以下、本実施例において、画像認識装置26による画像認識によりワークばらつきとして測定される項目は、ワーク10,12の母材断面積、出代、及び段差の大きさとする。
【0017】
画像認識装置26には、コントローラ30が電気的に接続されている。画像認識装置26により取得された画像情報は、コントローラ30に供給される。コントローラ30は、画像認識装置26からの画像情報に基づいてワーク10,12に生じているワークばらつきを測定する。コントローラ30は、溶接前にワークばらつきを測定すると、後に詳述する如く、その測定結果に基づいてワーク10,12を溶接する条件を設定する。そして、その設定した溶接条件に従って溶接を実行させる。具体的には、トーチ22側の負極電極と位置決め治具16側の正極電極との間に電圧を印加して電流を流すことにより両電極間にアークを発生させる。
【0018】
上記した位置決め治具16は、移動機構(図示せず)により少なくとも昇降することが可能である。コントローラ30は、この移動機構に電気的に接続されており、この移動機構に対して指令を行うことで位置決め治具16がワーク10,12を把持する上下方向位置(以下、チャック位置と称す。)を決定することが可能である。位置決め治具16は、コントローラ30の指令により決定されたチャック位置でワーク10,12を把持する。
【0019】
また、上記したトーチ22は、移動機構(図示せず)により少なくとも昇降することが可能である。コントローラ30は、この移動機構に電気的に接続されており、この移動機構に対して指令を行うことでトーチ22がワーク10,12又は位置決め治具16に対して上下方向に離間する距離(或いは位置;以下、トーチ位置と称す。)を決定することが可能である。トーチ22は、ワーク10,12又は位置決め治具16に対してコントローラ30の指令により決定された離間距離だけ上方向に離れたトーチ位置でトーチ22を位置させる。
【0020】
以下、
図2〜
図4を参照して、本実施例の溶接装置14により行われる溶接方法について説明する。
図2は、本実施例の溶接装置14においてコントローラ30が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。
図3は、本実施例の溶接装置14に情報格納される溶接前のワークばらつきと溶接条件との関係を表した図を示す。また、
図4は、本実施例の溶接装置14においてワーク10,12の溶接後に測定されるワークばらつきを模式的に表した図を示す。
【0021】
本実施例において、ワーク10,12は、溶接前、対向面同士を合わせた状態で溶接装置14の2つの棒状部18,20に挟持されることで位置決め治具16により把持される。この位置決め治具16によるワーク10,12の把持は、ワーク10,12の出代が所定範囲内に収まるように行われると共に、ワーク10,12の先端がトーチ22に対して離間する距離が所定範囲内に収まるように行われる。
【0022】
溶接前においてワーク10,12が位置決め治具16により把持されると、次に、その把持状態で画像認識装置26を用いてワーク10,12の先端の継手部分が画像認識され、その画像認識結果に基づいてコントローラ30が溶接前のワーク10,12のワークばらつきを測定する(ステップ100)。この際に測定されるワークばらつきとしての項目は、主にワーク10,12の母材断面積、出代、及び段差の大きさである。
【0023】
コントローラ30は、データベース32を有している。データベース32には、溶接前の各ワークばらつきの項目に対してワーク10,12の溶接を適切に行うことのできる範囲(溶接可範囲)を示す情報が予め定められて格納されている。具体的には、ワーク10,12の溶接が適切に行うことのできる溶接可範囲としては、ワーク10,12の母材断面積や出代,段差の各範囲が定められている。コントローラ30は、上記ステップ100において溶接前のワークばらつきを測定すると、次に、データベース32に予め定められている格納情報を参照して、その測定した溶接前のワークばらつきがワーク10,12の溶接が適切に行うことのできる溶接可範囲内にあるか否かを判別する(ステップ102)。
【0024】
コントローラ30は、上記ステップ102における判別の結果、溶接前のワークばらつきが溶接可範囲内にない場合は、ワーク10,12の溶接が不可能であると判定し(ステップ104)、ワーク10,12の溶接不可を作業者に知らせるべく、例えば溶接不可表示などの処理を実行する。一方、溶接前のワークばらつきが溶接可範囲内にある場合は、次に、そのワークばらつきに対してワーク10,12の溶接を行ううえで用いるべき溶接条件を設定する(ステップ106)。
【0025】
この溶接条件としての項目は、例えば、溶接を実施するうえでの溶接電流の大きさや、溶接時間の長さ,トーチ22がワーク10,12又は位置決め治具16に対して離間する位置(トーチ位置),位置決め治具16がワーク10,12を把持する位置(チャック位置)などである。尚、上記ステップ106において設定される溶接条件としての項目は、上記した溶接電流の大きさ、溶接時間の長さ、トーチ位置、及びチャック位置のうちの何れか一を含むものであればよく、そのうちの一つであってもまた複数であってもよい。また、上記の溶接条件としての項目は、上記したもの以外の項目を含むものであってもよい。
【0026】
コントローラ30のデータベース32には、溶接前のワークばらつきと溶接条件との関係を表した情報が予め定められて格納されている。この関係は、溶接前にワークばらつきが発生しても溶接条件を変えることでワーク10,12の溶接をある程度均一な品質に保つことができるものを示す関係である。
【0027】
ワーク10,12の出代が長いと、ワーク10,12の先端がトーチ22に近づいた側に位置してワーク10,12の先端とトーチ22との離間距離が短くなるので、ワーク10,12の溶接時における入熱量が増えると共に、ワーク10,12の先端が位置決め治具16によるチャック位置から遠くなるので、ワーク10,12の溶接時における放熱量が小さくなる。この点、ワーク10,12の出代が長いほど溶接時の溶融量が大きくなる。
【0028】
従って、ワーク10,12の出代の大きさによらず溶接の品質を均一にするうえでは、ワーク10,12の出代が長いほど、すなわち、ワーク10,12の先端とトーチ22との離間距離が短いほど、溶接電流を小さくし、溶接時間を短くし、トーチ位置をワーク10,12や位置決め治具16から離す側とし、又は、チャック位置をワーク10,12のトーチ22がある先端側とすることにより、ワーク10,12の溶接時における入熱量を減らしつつ放熱量を大きくしてワーク10,12を溶融し難くすることが有効である。
【0029】
また、ワーク10,12の母材断面積が大きいと、ワーク10,12の質量・体積・表面積が増えるので、ワーク10,12の溶接時に温度が上昇し難くなると共に、放熱量が大きくなる。この点、ワーク10,12の母材断面積が大きいほど溶接時の溶融量が小さくなる。
【0030】
従って、ワーク10,12の母材断面積の大きさによらず溶接の品質を均一にするうえでは、ワーク10,12の母材断面積が大きいほど、溶接電流を大きくし、溶接時間を長くし、トーチ位置をワーク10,12や位置決め治具16に近づける側とし、又は、チャック位置をワーク10,12のトーチ22から離れた側とすることにより、ワーク10,12の溶接時における温度を上昇し易くしつつ放熱量を小さくしてワーク10,12を溶融し易くすることが有効である。
【0031】
また、ワーク10,12の段差の大きさが大きいと、トーチ22に近い側のワーク10,12が溶け易くかつトーチ22から遠い側のワーク12,10が溶け難くなるので、ワーク10,12の溶接が全体として不安定となる。
【0032】
従って、ワーク10,12の段差の大きさによらず溶接の品質を均一にするうえでは、ワーク10,12の段差が大きいほど、溶接電流を大きくし、溶接時間を長くし、トーチ位置をワーク10,12や位置決め治具16に近づける側とし、又は、チャック位置をワーク10,12のトーチ22から離れた側とすることにより、ワーク10,12を溶融し易くしてより多くの面積を溶融することが有効である。
【0033】
そこで、コントローラ30に情報格納される上記の溶接前のワークばらつきと溶接条件との関係は、
図3に示す如く、例えば、ワーク10,12の出代が長いほど、溶接電流が小さく、溶接時間が短く、トーチ位置がワーク10,12や位置決め治具16から離す側とされ、又は、チャック位置がワーク10,12のトーチ22がある先端側とされるものである。また、ワーク10,12の母材断面積が大きいほど、溶接電流が大きく、溶接時間が長く、トーチ位置がワーク10,12や位置決め治具16に近づける側とされ、又は、チャック位置がワーク10,12のトーチ22から離れた側とされるものである。また、ワーク10,12の段差が大きいほど、溶接電流が大きく、溶接時間が長く、トーチ位置がワーク10,12や位置決め治具16に近づける側とされ、又は、チャック位置がワーク10,12のトーチ22から離れた側とされるものである。
【0034】
コントローラ30は、上記ステップ106においてワークばらつきに対する溶接条件を設定すると、次に、その溶接条件に従って溶接を実行させる(ステップ108)。例えば、ワーク10,12の出代が長いほど、溶接電流を小さくし、溶接時間を短くし、トーチ位置をワーク10,12や位置決め治具16から離す側とし、又は、チャック位置をワーク10,12のトーチ22がある先端側としたうえで、溶接を実行させる。また、ワーク10,12の母材断面積が大きいほど、溶接電流を大きくし、溶接時間を長くし、トーチ位置をワーク10,12や位置決め治具16に近づける側とし、又は、チャック位置をワーク10,12のトーチ22から離れた側としたうえで、溶接を実行させる。また、ワーク10,12の段差が大きいほど、溶接電流を大きくし、溶接時間を長くし、トーチ位置をワーク10,12や位置決め治具16に近づける側とし、又は、チャック位置をワーク10,12のトーチ22から離れた側としたうえで、溶接を実行させる。
【0035】
尚、溶接条件は、溶接電流、溶接時間、トーチ位置、及びチャック位置のうちの少なくとも何れか一が変更されるものとすればよく、そのうちの一が変更されるものでもまた複数が変更されるものであってもよい。また、複数が変更される場合は、各変更が同時に行われるものであってもよい。
【0036】
かかる溶接時の処理によれば、ワーク10,12の出代が長くてワーク10,12の先端がトーチ22に近づいた側に位置するほど、溶接条件を上記の如く変更することで、ワーク10,12の溶接時における入熱量を減らしつつ放熱量を大きくして、ワーク10,12をトーチ22からの入熱により溶融し難くすることができる。また、ワーク10,12の母材断面積が大きいほど、溶接条件を上記の如く変更することで、ワーク10,12の溶接時における温度を上昇し易くしつつ放熱量を小さくして、ワーク10,12をトーチ22からの入熱により溶融し易くすることができる。また、ワーク10,12の段差が大きいほど、溶接条件を上記の如く変更することで、ワーク10,12をトーチ22からの入熱により溶融し易くして、ワーク10,12に対して多くの面積を溶融することができる。
【0037】
このため、本実施例の溶接装置14及び溶接手法によれば、溶接前にワーク10,12の先端の継手部分についてのワークばらつきが生じていても、そのワークばらつきに応じてワーク10,12を溶接するうえでの溶接条件を変更することで、ワーク10,12の溶接をある程度均一な品質に保って安定化させることができる。この場合は、ワーク10,12の溶接品質を良好に保つために、ワーク10,12の継手部分を大型化することは不要である。従って、本実施例によれば、ワーク10,12の大型化を招くことなく、ワーク10,12の溶接後の品質をワークばらつきによる影響を受けない良好なものに維持することができる。
【0038】
本実施例において、コントローラ30が上記ステップ108において溶接条件に従った溶接を実行すると、その後、画像認識装置26を用いて溶接後のワーク10,12の先端の継手部分が画像認識され、その画像認識結果に基づいてコントローラ30が溶接後のワーク10,12のワークばらつきを測定する(ステップ110)。この際に測定されるワークばらつきとしての項目は、主に、
図4に示す如き、ワーク10,12の溶融後に生じた溶接部分40の溶融幅、溶融高さ、溶融奥行き、溶融面積、及び色である。尚、この際にワークばらつきとして測定される項目は、上記したもののうちの何れか一を含むものであればよく、そのうちの一つであってもまた複数であってもよい。また、上記したもの以外の項目を含むものであってもよい。
【0039】
コントローラ30のデータベース32には、溶接後の各ワークばらつきの項目に対してワーク10,12の溶接部分40の溶接品質が良好である範囲(品質OK範囲)を示す情報が予め定められて格納されている。具体的には、ワーク10,12の溶接品質が良好である品質OK範囲としては、ワーク10,12の溶接部分の溶融幅や溶融高さ,溶融奥行きなどの各範囲が定められている。コントローラ30は、上記ステップ110において溶接後のワークばらつきを測定すると、次に、データベース32に予め定められている格納情報を参照して、その測定した溶接後のワークばらつきが溶接品質が良好である品質OK範囲内にあるか否かを判別する(ステップ112)。
【0040】
コントローラ30は、上記ステップ112における判別の結果、溶接後のワークばらつきが品質OK範囲内にない場合は、ワーク10,12の溶接品質が悪いと判定し、ワーク10,12の溶接品質の悪化を作業者に知らせるべく、例えば溶接NG表示などの溶接異常処理を実行する(ステップ114)。
【0041】
一方、溶接後のワークばらつきが品質OK範囲内にある場合は、次に、品質OK範囲内にあるワークばらつきについて溶接前後の測定データを比較することで、溶接装置14自体やその他の異常が生じているか否かを判別する(ステップ116)。尚、この溶接前後の測定データの比較は、例えばMTシステムなどのパターン認識の手法を用いて行われるものとしてもよい。上記ステップ116における判別の結果、上記の異常が生じていない場合は、以後の処理を終了する一方、上記の異常が生じている場合は、その異常を作業者に知らせるべく、例えば溶接プロセスNGの表示などの警告処理を実行する(ステップ118)。
【0042】
かかる溶接後の処理によれば、ワーク10,12の溶接品質の良否を判定することができるので、溶接されたワーク10,12の品質保証を確保することができる。また、ワーク10,12の溶接品質が良好であっても、溶接前後のデータ比較に基づいて溶接装置14自体やその他の異常の有無を判定して、異常発生時にその異常を作業者に知らせることができるので、ワーク10,12を溶接するうえでのプロセス保証を確保することができる。
【0043】
尚、上記の実施例においては、コントローラ30が溶接前にワーク10,12の継手部分のワークばらつきを測定することが特許請求の範囲に記載した「溶接前測定手段」及び「溶接前測定工程」に、コントローラ30がデータベース32に格納されている溶接前のワークばらつきと溶接条件との関係を参照して、測定したワークばらつきに対してワーク10,12の溶接を行ううえでの溶接条件を設定することが特許請求の範囲に記載した「溶接条件設定手段」及び「溶接条件設定工程」に、コントローラ30が設定された溶接条件に従って溶接を実行することが特許請求の範囲に記載した「溶接実行手段」及び「溶接実行工程」に、それぞれ相当している。
【0044】
また、上記の実施例においては、コントローラ30が溶接後にワーク10,12の継手部分のワークばらつきを測定することが特許請求の範囲に記載した「溶接後測定手段」に、コントローラ30が測定した溶接後のワークばらつきが溶接品質が良好である品質OK範囲内にあるか否かを判別することが特許請求の範囲に記載した「品質判定手段」に、コントローラ30が品質OK範囲内にあるワークばらつきについて溶接前後の測定データを比較して溶接装置14自体やその他の異常が生じているか否かを判別することが特許請求の範囲に記載した「異常判別手段」に、それぞれ相当している。
【0045】
ところで、上記の実施例においては、ワーク10,12の先端の継手部分に生じているばらつきを測定するうえで、カメラなどの画像認識装置26を用いることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、ワーク10,12に直接的に接触してそのバラツキを測定するものを用いてもよいし、また、ワーク10,12に対して非接触でそのバラツキを測定するものを用いてもよい。
【0046】
また、上記の実施例においては、トーチ22を移動させる移動機構を用いてトーチ位置を上下方向に可変することが可能である。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、移動機構を用いて、トーチ位置を上下方向だけでなく更に前後方向に可変すること、すなわち、トーチ22をワーク10,12が位置決め治具16に把持される位置に対して平面方向に移動させることが可能であってもよい。また、トーチ22を移動させる移動機構を設けることなく、ワーク10,12又は位置決め治具16に対するトーチ22の上下方向の離間距離(トーチ位置)を、位置決め治具16を移動させる移動機構を用いて可変することとしてもよい。
【0047】
また、上記の実施例においては、溶接する2つのワーク10,12と位置決め治具16とトーチ22との位置関係を
図1に示す如きものとした。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、それら位置関係を
図1に示す如きもの以外のものに適用することとしてもよい。
【0048】
また、上記の実施例においては、コントローラ30が、溶接後のワークばらつきが品質OK範囲内にないと判別した場合に、ワーク10,12の溶接品質が悪いと判定して、溶接異常処理を実行する。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、コントローラ30が、溶接後のワークばらつきが品質OK範囲内にないと判別した場合に、そのワーク10,12の溶接の結果が再溶接可能なものであるか否かを判別し、そして、再溶接可能なものであるときはそのワーク10,12に対して再溶接を実行し、一方、再溶接可能なものでないときはワーク10,12の溶接品質が悪いと判定して溶接異常処理を実行することとしてもよい。
【0049】
かかる変形例において、コントローラ30は、上記
図2に示すルーチンに代えて、
図5に示すルーチンを実行する。尚、
図5において、上記
図2に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0050】
具体的には、コントローラ30は、上記ステップ112において溶接後のワークばらつきが品質OK範囲内にないと判別した場合は、まず、そのワーク10,12の溶接の結果が再溶接可能なものであるか否かを判別する(ステップ200)。尚、溶接の結果が再溶接可能なものであるか否かの判別は、画像認識装置26を用いた画像認識結果に基づいて測定される、溶接後のワーク10,12の溶接部分40の溶融サイズ(すなわち、その溶接部分40の大きさ;具体的には、溶融幅、溶融高さ、及び溶融奥行きのうちの何れか一以上であればよく、望ましくはそれらのすべて)に基づいて行われるものとすればよい。コントローラ30のデータベース32には、溶融サイズと、品質OK範囲、ワーク10,12の再溶接を適切に行うことのできる再溶接可範囲、及びワーク10,12の再溶接を適切に行うことのできない再溶接不可範囲との関係を示す情報が予め定められて格納されている(
図6参照)。
【0051】
そして、コントローラ30は、上記ステップ200において、溶接部分40の溶融サイズが、品質OK範囲内にある(尚、このときは、溶融サイズ以外の項目で溶接品質が悪いものが存在する。)又はその品質OK範囲よりも大きい再溶接が不可能な範囲(再溶接不可範囲)内にあると判別した場合は、その溶融サイズが再溶接が可能な範囲内にないとして、ワーク10,12の溶接品質が悪いと判定し、溶接不良が生じたとして溶接異常処理を実行する(ステップ114)。
【0052】
一方、コントローラ30は、上記ステップ200において、溶接部分40の溶融サイズが、品質OK範囲よりも小さい再溶接が可能な範囲(再溶接可範囲)内にあると判別した場合は、次に、前回溶接(前回溶接が再溶接である場合も含む。)が行われたワーク10,12の更なる溶接(再溶接)を行ううえで用いるべき再溶接条件を設定する(ステップ202)。そして、かかるステップ202において再溶接条件を設定すると、次に、その再溶接条件に従って溶接を実行させる(ステップ108)。
【0053】
上記の再溶接条件としての項目は、上記した溶接条件としての項目と同じであってもよく、溶接電流の大きさ、溶接時間の長さ、トーチ位置、及びチャック位置のうちの何れか一以上を含むものであればよい。コントローラ30のデータベース32には、溶融サイズと再溶接条件との関係を示す情報が定められて格納されている。尚、この関係は、前回溶接時における溶接条件(前回溶接が再溶接である場合はそのときの再溶接条件を含む。)を基準にして定められるものとしてもよく、また、前回溶接後の溶融サイズの大きさに応じて溶接条件が変更されるものとしてもよい。具体的には、前回溶接後の溶融サイズが再溶接可範囲内にあるとき、今回の再溶接条件は、前回溶接時に用いた溶接条件よりも、ワーク10,12の溶接部分40の溶融サイズが大きくなるように設定される。例えば、溶接電流が前回溶接時よりも大きくされ、溶接時間が前回溶接時よりも長くされる。また、前回溶接後の溶融サイズが品質OK範囲に対して小さいほど、ワーク10,12の再溶接の溶接部分40の溶融サイズが大きくなるように再溶接条件が定められる。例えば、前回溶接後の溶融サイズが品質OK範囲に対して小さいほど、溶接電流が大きくされ、溶接時間が長くされる。
【0054】
かかる変形例の処理によれば、一旦行われた溶接の結果としてのワーク10,12の溶接品質が品質OK範囲内にない不良であっても、その溶接後の溶接部分40の溶融サイズが再溶接可範囲内にあるときは、そのワーク10,12の再溶接を実行させることができる。従って、溶接後のワーク10,12の溶接品質が所望の品質OK範囲内になくかつその溶接後の溶接部分40の溶融サイズが再溶接可範囲内にあるときに、直ちにワーク10,12の溶接品質が悪いと判定されて溶接異常処理が実行されるのを防止することができ、溶接されたワーク10,12が溶接品質OKを得られなかったときに直ちに廃棄されるのを回避することができる。
【0055】
また、上記の変形例においては、溶融サイズと再溶接条件との関係が、前回溶接時における溶接条件を基準にして定められ、具体的には、前回溶接後の溶融サイズが再溶接可範囲内にあるとき、今回の再溶接条件が、前回溶接時に用いた溶接条件よりも、ワーク10,12の溶接部分40の溶融サイズが大きくなるように設定される。このため、ワーク10,12の再溶接を、溶接部分40の溶融サイズが確実に大きくなるように実行することができる。
【0056】
また、上記の変形例においては、溶融サイズと再溶接条件との関係が、前回溶接後の溶融サイズの大きさに応じて再溶接条件が変更されるものとし、具体的には、前回溶接後の溶融サイズが品質OK範囲に対して小さいほど、ワーク10,12の再溶接の溶接部分40の溶融サイズが大きくなるように今回の再溶接条件が設定される。このため、ワーク10,12の再溶接を、一律な再溶接条件によらず、前回溶接後の溶融サイズに応じた再溶接条件に従って実行するので、再溶接後の溶融サイズを所望の品質OK範囲内に収める確実性を向上させることができる。
【0057】
更に、上記の実施例においては、溶接装置14が、トーチ22側の負極電極と位置決め治具16側の正極電極との間にアーク放電を施してワーク10,12を溶接する電気溶接装置である。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、他の溶接手法でワーク10,12の溶接を行うものに適用することとしてもよい。
【0058】
尚、以上の実施例に関し、更に以下を開示する。
【0059】
[1]2つのワーク(10,12)の継手部分に熱を加えることで両ワーク(10,12)を溶接する溶接装置(14)であって、溶接前に前記継手部分のワークばらつきを測定する溶接前測定手段(30)と、前記ワークばらつきと溶接条件との関係を表すデータを格納するデータベース(32)と、前記データベース(32)に格納されている前記データを用いて、前記溶接前測定手段(30)により測定された前記ワークばらつきに対して溶接を行ううえで用いるべき溶接条件を設定する溶接条件設定手段(30)と、前記溶接条件設定手段(30)により設定された前記溶接条件に従って溶接を実行する溶接実行手段(30)と、を備える溶接装置(14)。
【0060】
上記[1]記載の構成によれば、溶接前に2つのワークの継手部分についてワークばらつきが生じていても、そのワークばらつきに応じて溶接条件を変更するので、2つのワークの溶接をある程度均一な品質に保って安定化させることができる。このため、ワークの溶接品質を良好に保つためにワークの継手部分を大型化することは不要である。従って、ワークの大型化を招くことなく、溶接後の品質をワークばらつきによる影響を受けない良好なものに維持することができる。
【0061】
[2]上記[1]記載の溶接装置(14)において、前記ワークばらつきとしての項目は、前記ワーク(10,12)と該ワーク(10,12)に熱を加えるトーチ(22)との離間距離、前記ワーク(10,12)の母材断面積、及び一方の前記ワーク(10,12)の前記継手部分の先端と他方の前記ワーク(10,12)の前記継手部分の先端との段差の大きさのうちの少なくとも何れか一を含む溶接装置(14)。
【0062】
[3]上記[2]記載の溶接装置(14)において、前記溶接条件としての項目は、溶接電流、溶接時間、前記ワーク(10,12)を把持する治具の前記ワーク(10,12)に対するチャック位置、及び前記ワーク(10,12)に熱を加えるトーチ(22)の前記ワーク(10,12)に対するトーチ位置のうちの少なくとも何れか一を含む溶接装置(14)。
【0063】
[4]上記[3]記載の溶接装置(14)において、前記関係における前記溶接電流は、前記離間距離が長いほど、前記母材断面積が大きいほど、又は前記段差の大きさが大きいほど、大きくされる溶接装置(14)。
【0064】
[5]上記[3]記載の溶接装置(14)において、前記関係における前記溶接時間は、前記離間距離が長いほど、前記母材断面積が大きいほど、又は前記段差の大きさが大きいほど、長くされる溶接装置(14)。
【0065】
[6]上記[3]記載の溶接装置(14)において、前記関係における前記チャック位置は、前記離間距離が長いほど、前記母材断面積が大きいほど、又は前記段差の大きさが大きいほど、前記トーチ(22)から遠ざかる方向に移動される溶接装置(14)。
【0066】
[7]上記[3]記載の溶接装置(14)において、前記関係における前記トーチ位置は、前記離間距離が長いほど、前記母材断面積が大きいほど、又は前記段差の大きさが大きいほど、前記ワーク(10,12)に近づく方向に移動される溶接装置(14)。
【0067】
[8]上記[1]乃至[7]の何れか一項記載の溶接装置(14)において、前記溶接実行手段(30)による溶接の実行後に該溶接の結果を測定する溶接後測定手段(30)と、前記溶接後測定手段(30)により測定された溶接の結果に基づいてワーク品質の良否を判定する品質判定手段(30)と、を備える溶接装置(14)。
【0068】
上記[8]記載の構成によれば、溶接後のワーク品質の良否を判定することができる。
【0069】
[9]上記[8]記載の溶接装置(14)において、前記品質判定手段(30)によりワーク品質が不良であると判定された場合に、該溶接の結果が再溶接可能なものであるか否かを判別する再溶接判別手段(30)を備え、前記溶接実行手段(30)は、前記再溶接判別手段(30)により溶接の結果が再溶接可能なものであると判別される場合に、再溶接を行ううえで用いるべき再溶接条件に従って溶接を実行する溶接装置(14)。
【0070】
上記[9]記載の構成によれば、溶接後のワーク品質が不良であっても、その溶接の結果が再溶接可能なものであるときは、ワークの再溶接を実行することができる。
【0071】
[10]上記[9]記載の溶接装置(14)において、前記データベース(32)は、また、溶接の結果と再溶接条件との関係を表す再溶接データを格納していると共に、前記再溶接判別手段(30)により溶接の結果が再溶接可能なものであると判別される場合に、前記データベース(32)に格納されている前記再溶接データを用いて、該溶接の結果に対する前記再溶接条件を設定する再溶接条件設定手段(30)を備える溶接装置(14)。
【0072】
上記[10]記載の構成によれば、再溶接後の溶融サイズを所望の品質OK範囲内に収める確実性を向上させることができる。
【0073】
[11]上記[9]又は[10]記載の溶接装置(14)において、前記再溶接判別手段(30)により溶接の結果が再溶接可能なものでないと判別される場合に、溶接不良が生じたと判定する溶接不良判定手段(30)を備える溶接装置(14)。
【0074】
上記[11]記載の構成によれば、溶接後のワーク品質が不良でありかつその溶接の結果が再溶接可能なものでないときに、溶接不良が生じたと判定することができる。
【0075】
[12]上記[8]乃至[11]の何れか一項記載の溶接装置(14)において、前記溶接前測定手段(30)により測定された前記ワークばらつきと前記溶接後測定手段(30)により測定された溶接の結果との比較結果に基づいて、溶接を行ううえでの異常有無を判別する異常判別手段(30)を備える溶接装置(14)。
【0076】
上記[12]記載の構成によれば、ワーク品質以外の溶接を行うための溶接装置自体やその他の異常の有無を判定することができるので、溶接を行ううえでのプロセス保証を確保することができる。
【0077】
[13]2つのワーク(10,12)の継手部分に熱を加えることで両ワーク(10,12)を溶接する溶接方法であって、溶接前に前記継手部分のワークばらつきを測定する溶接前測定工程と、前記ワークばらつきと溶接条件との関係を表すデータを格納するデータベース(32)に格納されている前記データを用いて、前記溶接前測定工程において測定された前記ワークばらつきに対して溶接を行ううえで用いるべき溶接条件を設定する溶接条件設定工程と、前記溶接条件設定工程において設定された前記溶接条件に従って溶接を実行する溶接実行工程と、を備える溶接方法。
【0078】
上記[13]記載の構成によれば、溶接前に2つのワークの継手部分についてワークばらつきが生じていても、そのワークばらつきに応じて溶接条件を変更するので、2つのワークの溶接をある程度均一な品質に保って安定化させることができる。このため、ワークの溶接品質を良好に保つためにワークの継手部分を大型化することは不要である。従って、ワークの大型化を招くことなく、溶接後の品質をワークばらつきによる影響を受けない良好なものに維持することができる。