(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354402
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】軸受装置の保護カバー及びその製造方法、並びに金属及びゴムからなる機械部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/48 20060101AFI20180702BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20180702BHJP
B60B 35/02 20060101ALN20180702BHJP
F16J 15/328 20160101ALN20180702BHJP
【FI】
B29C65/48
F16C33/76 A
!B60B35/02 L
!F16J15/328
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-141040(P2014-141040)
(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2016-16594(P2016-16594A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝彦
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−240026(JP,A)
【文献】
特開2010−174981(JP,A)
【文献】
特開2010−106909(JP,A)
【文献】
特開2007−118292(JP,A)
【文献】
特開2010−190237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
B29C 43/18
B29C 45/14
F16C 33/76
F16J 15/328
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布し、金型成形により前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させて形成される金属及びゴムからなる機械部品において、
前記金属及びゴムからなる機械部品が軸受装置の保護カバーであり、
前記保護カバーは、
前記金属部品であるカップ状のステンレス鋼製本体の外周面に、前記ゴムであるシールを加硫接着させてなり、
前記本体の最大外径部に、第1円筒部、及び前記第1円筒部よりも縮径して前記第1円筒部の端縁に繋がる第2円筒部があり、
前記第1円筒部の外周面が前記軸受装置の外輪に圧入され、
前記金型成形をする前に前記本体の表面に塗布された前記接着剤の範囲が、前記シールの接合面である前記第2円筒部の外周面のみであることを特徴とする
軸受装置の保護カバー。
【請求項2】
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布する接着剤塗布工程、及び前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させる金型成形工程を含む金属及びゴムからなる機械部品の製造方法において、
前記金属及びゴムからなる機械部品が軸受装置の保護カバーであり、
前記保護カバーは、
前記金属部品であるカップ状のステンレス鋼製本体の外周面に、前記ゴムであるシールを加硫接着させてなり、
前記本体の最大外径部に、第1円筒部、及び前記第1円筒部よりも縮径して前記第1円筒部の端縁に繋がる第2円筒部があり、
前記第1円筒部の外周面が前記軸受装置の外輪に圧入され、
前記接着剤塗布工程において、前記本体に対し、前記シールの接合面である前記第2円筒部の外周面にのみ前記接着剤を塗布することを特徴とする
軸受装置の保護カバーの製造方法。
【請求項3】
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布する接着剤塗布工程、及び前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させる金型成形工程を含む金属及びゴムからなる機械部品の製造方法であって、
前記接着剤塗布工程における前記金属部品への前記接着剤の塗布を、
所定領域に前記接着剤が付着した、転写体であるパットを押し付けることにより、前記金属部品に前記接着剤を転移させるパット印刷処理、
所定領域に開孔部を有するスクリーン版上の前記接着剤を前記開孔部を通じて押し出すことにより、前記金属部品に前記接着剤を転移させるスクリーン印刷処理、
刷毛塗り、及び
マスキングをしてから行うスプレー
の何れか1つにより行うことにより、
前記金属部品に対し、前記ゴムの接合面にのみ前記接着剤を塗布することを特徴とする金属及びゴムからなる機械部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型成形により金属部品の表面の一部にゴムを加硫接着させて形成される機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布し、金型成形により前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させて形成される金属及びゴムからなる機械部品として、アキシャル型の磁気エンコーダを覆うように軸受の外輪に圧入され、前記磁気エンコーダ及びセンサ間に介在する、加硫接着したゴムシール(シール部材、弾性部材)により密封性を持たせたカップ状の保護カバーがある(例えば、特許文献1及び2参照)。
このような保護カバーにおいて、金属部品である本体は、例えば非磁性で防錆性能の高いステンレス鋼製の板材からプレス加工により成形される。
そして、プレス加工によりカップ状に成形された後の本体の表面への接着剤の塗布は、本体を槽内に溜めた液体状の接着剤に浸漬することにより行われるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−84265号公報
【特許文献2】特許第5355987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような浸漬処理による接着剤の塗布を行った場合、多数の金属部品を同時に処理できる反面、金属部品の表面全体に接着剤が塗布されることから必要箇所以外にも接着剤が塗布されるとともに、振り切りや接着剤の入れ替え等による廃棄率が高く、無駄になる接着剤が多いため接着剤の材料費が嵩んでしまう。
その上、金属部品の表面全体に接着剤が塗布されるので、金型成形により金属部品表面に所定形状のゴムを加硫接着させる際に、ゴムを接着させる所定範囲を越えてゴム材料が加硫接着するという不具合が発生しやすく、ゴムの加硫接着を前記所定範囲内にとどめるためには、金型構造が複雑に、かつ高精度なものになるため、製造コストが増大する。
その上さらに、成形の際に接着剤が付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がある。
その上、金属部品を軸受の外輪へ圧入した際に、嵌合部の接着剤が剥がれてゴムシールに噛み込んで気密性不良になる場合や、軸受の内部に異物として残留する場合がある。
その上さらに、金属部品の表面全体に接着剤が付着しているので、外観が綺麗でなく見栄えが良くない。
【0005】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、接着剤の材料費が嵩むことなく、金型成形における製造コストが増大することがなく、成形の際に接着剤が付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がなく、金属部品を嵌合した際に嵌合部からの接着剤の剥がれに起因する不具合がないとともに、外観が綺麗で見栄えが良い、
軸受装置の保護カバー及びその製造方法、並びに金属及びゴムからなる機械部品
の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る
軸受装置の保護カバーは、前記課題解決のために、
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布し、金型成形により前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させて形成される金属及びゴムからなる機械部品
において、
前記金属及びゴムからなる機械部品が軸受装置の保護カバーであり、
前記保護カバーは、
前記金属部品であるカップ状のステンレス鋼製本体の外周面に、前記ゴムであるシールを加硫接着させてなり、
前記本体の最大外径部に、第1円筒部、及び前記第1円筒部よりも縮径して前記第1円筒部の端縁に繋がる第2円筒部があり、
前記第1円筒部の外周面が前記軸受装置の外輪に圧入され、
前記金型成形をする前に前記
本体の表面に塗布された前記接着剤の範囲が、前記
シールの接合面
である前記第2円筒部の外周面のみであることを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、
軸受装置の保護カバーのステンレス鋼製本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲以外には接着剤が塗布されていないことから、無駄になる接着剤の量が非常に少ないため、接着剤の材料費が嵩むことがない。
その上、
前記本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲を越えてゴム材料が加硫接着するという不具合が発生しない。よって、金型構造を複雑に、かつ高精度なものにする必要がないため、金型成形における製造コストの増大を抑制できるとともに、加硫生産方式を選ばないため、製造する際の自由度が高い。
その上さらに、
前記本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、成形の際に接着剤が付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がない。
その上、
前記本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、視認される
前記本体の表面に接着剤が付着していないことから、外観が綺麗で見栄えが良いため、商品価値が向上する。
【0008】
その上さらに、前記本体を軸受の外輪に圧入した際に、嵌合部の接着剤が剥がれてゴムシールに噛み込んで気密性不良になる場合や、軸受の内部に異物として残留する場合がない。
【0009】
本発明に係る
軸受装置の保護カバーの製造方法は、前記課題解決のために、
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布する接着剤塗布工程、及び前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させる金型成形工程を含む金属及びゴムからなる機械部品の製造方法
において、
前記金属及びゴムからなる機械部品が軸受装置の保護カバーであり、
前記保護カバーは、
前記金属部品であるカップ状のステンレス鋼製本体の外周面に、前記ゴムであるシールを加硫接着させてなり、
前記本体の最大外径部に、第1円筒部、及び前記第1円筒部よりも縮径して前記第1円筒部の端縁に繋がる第2円筒部があり、
前記第1円筒部の外周面が前記軸受装置の外輪に圧入され、
前記接着剤塗布工程において、前記
本体に対し、前記
シールの接合面
である前記第2円筒部の外周面にのみ前記接着剤を塗布することを特徴とする。
【0010】
このような製造方法によれば、接着剤塗布工程における
軸受装置の保護カバーのステンレス鋼製本体の表面への接着剤の塗布範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲以外には接着剤が塗布されていないことから、無駄になる接着剤の量が非常に少ないため、接着剤の材料費が嵩むことがない。
その上、
前記本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲を越えてゴム材料が加硫接着するという不具合が発生しない。よって、金型構造を複雑に、かつ高精度なものにする必要がないため、金型成形における製造コストの増大を抑制できる。
その上さらに、
前記本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、成形の際に接着剤が付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がない。
その上、このような製造方法により製造された
軸受装置の保護カバーにおいて、
前記本体の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、視認される
前記本体の表面に接着剤が付着していないことから、外観が綺麗で見栄えが良いため、商品価値が向上する。
その上さらに、このような製造方法により製造された軸受装置の保護カバーにおいて、前記本体を軸受の外輪に圧入した際に、嵌合部の接着剤が剥がれてゴムシールに噛み込んで気密性不良になる場合や、軸受の内部に異物として残留する場合がない。
【0011】
本発明に係る金属及びゴムからなる機械部品の製造方法は、前記課題解決のために、
所定形状の金属部品の表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布する接着剤塗布工程、及び前記金属部品の表面の一部に所定形状のゴムを加硫接着させる金型成形工程を含む金属及びゴムからなる機械部品の製造方法であって、
前記接着剤塗布工程における前記金属部品への前記接着剤の塗布を、
所定領域に前記接着剤が付着した、転写体であるパットを押し付けることにより、前記金属部品に前記接着剤を転移させるパット印刷処理、
所定領域に開孔部を有するスクリーン版上の前記接着剤を前記開孔部を通じて押し出すことにより、前記金属部品に前記接着剤を転移させるスクリーン印刷処理、
刷毛塗り、
及び
マスキングをしてから行うスプレー
の何れか1つにより行う
ことにより、
前記金属部品に対し、前記ゴムの接合面にのみ前記接着剤を塗布することを特徴とする。
このような製造方法によれば、接着剤塗布工程における、金属部品のゴムの接合面にのみ接着剤を塗布し、前記接合面以外には接着剤を塗布しないようにする塗布作業を安定かつ確実に行うことができる。
その上、接着剤塗布工程における金属部品の表面への接着剤の塗布範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲以外には接着剤が塗布されていないことから、無駄になる接着剤の量が非常に少ないため、接着剤の材料費が嵩むことがない。
その上さらに、金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲を越えてゴム材料が加硫接着するという不具合が発生しない。よって、金型構造を複雑に、かつ高精度なものにする必要がないため、金型成形における製造コストの増大を抑制できる。
その上、金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、成形の際に接着剤が付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がない。
その上さらに、このような製造方法により製造された金属及びゴムからなる機械部品において、金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、視認される金属部品の表面に接着剤が付着していないことから、外観が綺麗で見栄えが良いため、商品価値が向上する。
【発明の効果】
【0012】
以上のような本発明に係る
軸受装置の保護カバー及びその製造方法、並びに金属及びゴムからなる機械部品
の製造方法によれば、
(A)
軸受装置の保護カバーのステンレス鋼製本体又は金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲以外には接着剤が塗布されていないことから、無駄になる接着剤の量が非常に少ないため、接着剤の材料費が嵩むことがないこと、
(B)
前記本体又は金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、ゴムを接着させる所定範囲を越えてゴム材料が加硫接着するという不具合が発生しないことから、金型構造を複雑に、かつ高精度なものにする必要がないため、金型成形における製造コストの増大を抑制できるとともに、加硫生産方式を選ばないため、製造する際の自由度が高いこと、
(C)
前記本体又は金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、成形の際に接着剤が付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がないこと、
(D)
前記本体又は金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、
前記本体又は金属部品を嵌合した際に嵌合部からの接着剤の剥がれに起因する不具合がないこと、
(E)
前記本体又は金属部品の表面に塗布された接着剤の範囲がゴムの接合面のみあるので、視認される
前記本体又は金属部品の表面に接着剤が付着していないことから、外観が綺麗で見栄えが良いため、商品価値が向上すること、
等の顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る金属及びゴムからなる機械部品である保護カバーが装着された軸受装置の縦断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る金属及びゴムからなる機械部品である保護カバーを示す縦断面図である。
【
図4】要部拡大縦断面図であり、(a)は接着剤が塗布されたステンレス鋼製本体、(b)は(a)のステンレス鋼製本体に対し、金型成形によりゴムであるシールを加硫接着させて製造された保護カバーを示している。
【
図5】直圧成形(コンプレッション(加硫)成形)による金型成形の例を示す縦断面図である。
【
図6】射出成形(インジェクション(加硫)成形)による金型成形の例を示す縦断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態2に係る金属及びゴムからなる機械部品であるダンパー部品を示す縦断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態3に係る金属及びゴムからなる機械部品であるゴムパッキン付きプレートを示しており、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1の縦断面図、及び
図2の要部拡大縦断面図に示すように、本発明の実施の形態1に係る金属及びゴムからなる機械部品1である保護カバー1Aが装着された軸受装置11は、外周面に内輪軌道面12Aが形成された内輪12、及び内周面に外輪軌道面13Aが形成された外輪13、並びに、内輪軌道面12A及び外輪軌道面13A間を転動する転動体14,14,…等を有する軸受、この軸受の軸方向の一端部に位置して固定部材9により内輪12に固定された磁気エンコーダ8、並びに、外輪13に固定された、磁気エンコーダ8の磁極に対向して磁気エンコーダ8の回転を検知するためのセンサ10、前記軸受の軸方向の他端部に配置したシール部材15等を備えている。
【0015】
図2要部拡大縦断面図及び
図3の縦断面図に示すように、保護カバー1Aは、金属部品2である本体2Aの最大外径部に、第1円筒部4、及び第1円筒部4よりも縮径して第1円筒部4の端縁に繋がる第2円筒部5があり、第2円筒部5の外周面にゴム3であるシール3Aが加硫接着される。
保護カバー1Aは、磁気エンコーダ8を覆うように、第1円筒部4の外周面である嵌合部Cが外輪13に圧入され、磁気エンコーダ8及びセンサ10間に介在する。
よって、前記軸受の軸方向両端部の,シール3Aを有する保護カバー1及びシール部材15により前記軸受の内部が密封され、その内部空間に磁気エンコーダ8が収容されるので、異物等から磁気エンコーダ8や軸受内部を保護できる。
【0016】
ここで、保護カバー1Aの本体2Aは、SUS304等のステンレス鋼製の板材からプレス加工により、第1円筒部4及び第2円筒部5等を備えるようにカップ状に成形されたものである。
また、ゴム3であるシール3Aは、耐油性の良好なゴム素材として、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・アクリルゴム(AEM)、フッ素ゴム(FKM、FPM)、シリコーンゴム(VQM)等のゴムから、1種、あるいは2種以上のゴムを適当にブレンドして使用することができる。
【0017】
次に、金属部品2であるステンレス鋼製本体2Aの表面に熱硬化性樹脂接着剤を塗布する接着剤塗布工程について説明する。
先ず、熱硬化性樹脂接着剤としては、フェノール樹脂系接着剤やシラン系接着剤等のゴム用加硫接着剤全般が使用できる。
例えば、フェノール樹脂系接着剤を使用する場合、組成としては特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を、メタノールやメチルエチルケトンなどの溶解させたものが使用できる。また、接着性を向上させるために、これらにノボラック型エポキシ樹脂を混合したものであってもよい。
【0018】
図4(a)の要部拡大縦断面図に示すように、ステンレス鋼製本体2Aの表面に対して熱硬化性樹脂接着剤Aを塗布する範囲は、ゴム3であるシール3Aを接着させる所定範囲である接合面Bのみとし、接合面B以外には接着剤Aの塗布を行わない。
このような本体2Aの表面の一部の所定範囲(接合面B)への接着剤Aの塗布は、所定領域に接着剤Aが付着した、転写体であるパットを押し付けることにより、本体2Aに接着剤Aを転移させるパット印刷処理、所定領域に開孔部を有するスクリーン版上の接着剤Aを前記開孔部を通じて押し出すことにより、本体2Aに接着剤Aを転移させるスクリーン印刷処理、刷毛塗り、又はマスキングをしてから行うスプレーによって行うことができる。
このような塗布方法によれば、金属部品2である本体2Aのゴム3であるシール3Aの接合面Bにのみ接着剤Aを塗布し、接合面B以外には接着剤Aを塗布しないようにする塗布作業を安定かつ確実に行うことができる。
【0019】
次に、
図4(a)のように接着剤Aが塗布された金属部品2である本体2Aに対して、所定形状のゴム3であるシール3Aを加硫接着させて、
図4(b)の要部拡大縦断面図に示す金属及びゴムからなる機械部品1である保護カバー1Aを製造する金型成形工程について説明する。
このような金型成形は、
図5の縦断面図に示すように、加熱した下部金型6Aに本体2Aをセットした状態で、上部金型6Bを閉じて生ゴム材料Dを加圧して硬化させる直圧成形(コンプレッション(加硫)成形)により行うことができる。
また、
図6の縦断面図に示すように、下部金型7Aに本体2A,2A,…をセットして上部金型7Bを閉じた状態で、液状化した生ゴム材料Eをキャビティに充填する射出成形(インジェクション(加硫)成形)によっても行うことができる。
以上の実施の形態1の説明においては、保護カバー1Aを装着する軸受装置11が磁気エンコーダ8を備えたものである場合を示したが、保護カバー1Aは、磁気エンコーダ8が無い軸受装置に対しても使用できる。
【0020】
実施の形態2.
図7の縦断面図に示すように、本発明の実施の形態2に係る金属及びゴムからなる機械部品1であるダンパー部品1Bは、金属部品2である金具2Bに所定形状のゴム3であるダンパー3Bを加硫接着したものである。
ここで、ダンパー部品1Bは、実施の形態1と同様の接着剤塗布工程において、金具2Bに対してダンパー3Bの接合面Bのみに接着剤を塗布し、実施の形態1と同様の金型成形工程により金具2Bにダンパー3Bを加硫接着できる。
【0021】
実施の形態3.
図8の縦断面図に示すように、本発明の実施の形態3に係る金属及びゴムからなる機械部品1であるゴムパッキン付きプレート1Cは、金属部品2である金属プレート2Cに所定形状のゴム3であるパッキン3Cを加硫接着したものである。
ここで、ゴムパッキン付きプレート1Cは、実施の形態1と同様の接着剤塗布工程において、金属プレート2Cに対してパッキン3Cの接合面Bのみに接着剤を塗布し、実施の形態1と同様の金型成形工程により金属プレート2Cにパッキン3Cを加硫接着できる。
【0022】
本発明の適用対象は、以上の実施の形態における保護カバー1A、ダンパー部品1B、及びゴムパッキン付きプレート1Cに限定されるものではなく、所定形状の金属部品2の表面に熱硬化性樹脂接着剤Aを塗布し、金型成形により金属部品2の表面の一部に所定形状のゴム3を加硫接着させて形成される金属及びゴムからなる機械部品1の全てに対して適用できる。
【0023】
以上のような金属及びゴムからなる機械部品1並びにその製造方法によれば、金属部品2の表面に塗布された接着剤Aの範囲がゴム3の接合面Bのみあるので、ゴム3を接着させる所定範囲以外には接着剤Aが塗布されていないことから、無駄になる接着剤Aの量が非常に少ないため、接着剤Aの材料費が嵩むことがない。
また、金属部品2の表面に塗布された接着剤Aの範囲がゴム3の接合面Bのみあるので、ゴム3を接着させる所定範囲を越えてゴム材料が加硫接着するという不具合が発生しないことから、金型構造を複雑に、かつ高精度なものにする必要がないため、金型成形における製造コストの増大を抑制できるとともに、加硫生産方式を選ばないため、製造する際の自由度が高い。
さらに、金属部品2の表面に塗布された接着剤Aの範囲がゴム3の接合面Bのみあるので、成形の際に接着剤Aが付着して金型を汚染したり異物が発生する場合がない。
さらにまた、金属部品2の表面に塗布された接着剤Aの範囲がゴム3の接合面Bのみあるので、金属部品2を嵌合した際に嵌合部Cからの接着剤Aの剥がれに起因する不具合がない。例えば、金属及びゴムからなる機械部品1が保護カバー1Aである場合において、本体2Aを軸受の外輪13に圧入した際に、嵌合部Cの接着剤Aが剥がれてシール3Aに噛み込んで気密性不良になる場合や、軸受の内部に異物として残留する場合がない。
また、金属部品2の表面に塗布された接着剤Aの範囲がゴム3の接合面のみあるので、視認される金属部品2の表面に接着剤Aが付着していないことから、外観が綺麗で見栄えが良いため、商品価値が向上する。
【符号の説明】
【0024】
A 熱硬化性樹脂接着剤
B 接合面
C 嵌合部
D 生ゴム材料
E 液状化した生ゴム材料
1 金属及びゴムからなる機械部品
1A 保護カバー
1B ダンパー部品
1C ゴムパッキン付きプレート
2 金属部品
2A ステンレス鋼製本体
2B 金具
2C 金属プレート
3 ゴム
3A シール
3B ダンパー
3C パッキン
4 第1円筒部
5 第2円筒部
6A,7A 下部金型
6B,7B 上部金型
8 磁気エンコーダ
9 固定部材
10 センサ
11 軸受装置
12 内輪
12A 内輪軌道面
13 外輪
13A 外輪駆動面
14 転動体
15 シール部材