【実施例1】
【0025】
図2は、DCB(Direct Copper Bonding)基板上および半導体チップ(IGBT7a、ダイオード7b)上に配置される上下に分離されたリードフレームをそれぞれ構成する下側端子10、11および上側端子12、13のそれぞれ近接対向する面に、上側からレーザ光17を照射して溶接し一体化することを示す半導体モジュール20の要部断面図である。この
図2ではレーザ溶接箇所を斜線の溶接領域16で示す。この
図2の半導体モジュール20の断面図は後述する
図6に示すインバータ回路の破線円18内に示すIGBT7aとダイオード7bの逆並列接続部分の組み立て構造を示している。すなわち、
図2のIGBT7aのエミッタ電極とダイオード7bのアノード電極とがチップの表面上でエミッタ下側端子10によりエミッタ上側端子12へ共通に接続され、コレクタ電極とカソード電極とがチップの下側でDCB上面銅箔5へ共通に接続されるように組み立てられていることを示す断面図である。
【0026】
図2に示す半導体モジュールを組み立てる際には、まず放熱ベース1の上面に半田2を配置した。次に、DCBセラミックス4と、DCBセラミックス4の下面に配置されたDCB裏面銅箔3と、DCBセラミックス4の上面に配置されたDCB上面銅箔5とからなるDCB基板を半田2とDCB裏面銅箔3とが接するように搭載した。さらにDCB上面銅箔5の上面に半田6a、6bと半田9とを配置し、半田6a上にIGBT7aのチップを配置し、半田6b上にダイオード7b(FWD;フリーホイーリングダイオード)のチップをそれぞれ搭載した。このIGBT7aの上面に半田8aを配置し、ダイオード7b(FWD)の上面に半田8bを配置した。次に、半田8a、8bの上にエミッタ下側端子10の両端をそれぞれ配置し、半田9の上にコレクタ下側端子11を搭載した状態で加熱した。各半田材を溶融させた後に冷却・再凝固させた。樹脂ケース14は、エミッタ上側端子12とコレクタ上側端子13とを一体成型して作られた。樹脂ケース14の下側接着面に予めシリコーン接着剤15を塗布し、樹脂ケース14を放熱ベース1の外周部分に嵌合させ接着させた。シリコーン接着剤15は加熱硬化されて、樹脂ケース14と放熱ベース1とを固着させた。このときエミッタ下側端子10の上面とエミッタ上側端子12の下面、およびコレクタ下側端子11の上面とコレクタ上側端子13の下面は、それぞれレーザ溶接されるので、相互に密着するように予め配置されることが望ましい。このレーザ溶接の後に、エミッタ上部側端子12およびコレクタ上側端子13における樹脂ケース14の内側に露出した部分を、図示されていない絶縁性の封止樹脂でエミッタ上側端子12およびコレクタ上側端子13が覆われるまで樹脂ケース14の内側に注入して半導体モジュール20が構成される。
【0027】
本発明のレーザ溶接方法を適用することで製造される半導体モジュールは、前述の
図6のように、整流された後のP側共通配線であるPバスバーと、N側共通配線であるNバスバーの2種類を備えている。しかもこれらのPバスバーとNバスバーはモジュールの小型化や回路インダクタンスの低減の観点から、相互の高さ位置を変えて上下に平行配設される構造にされることが好ましいので、レーザ溶接ポイントも相互に異なる高さに設定されることになる。
【0028】
ところが、
図6に示すインバータ回路を構成するIGBTとダイオード(FWD)のすべてを一つの半導体モジュール内に組み立てる場合、P側共通配線とN側共通配線との接続ポイントおよび中間端子の溶接ポイントが合わせて21箇所必要となる。このように多くの溶接ポイントがあると、それぞれのレーザ溶接ポイントにおける対向する端子面の間隔を均等に密着させることが極めて困難になる。それとともに、レーザ溶接を短時間に処理するために、レーザ照射の焦点調節が容易なレーザ溶接機であることが望まれる。
【0029】
そこで、
図1に示したように、本発明のレーザ溶接機100は、導電性下側端子の上に導電性上側端子が重ねられた装置をレーザで溶接するレーザ溶接機において、昇降支持台23をスライドさせる機構を持った昇降機29と、基部が昇降支持台23に固定され、基部からスライド可能に連結された先端部27が導電性上側端子を導電性下側端子へ押圧する加圧アクチュエータ26と、レーザ発振器24と、昇降支持台23に固定されレーザ発振器24から出力されたレーザ光を集光させるためのレンズを持つ加工光学系装置25と、加圧アクチュエータ26の高さ位置を検出する位置検出器28と、位置検出器28の出力信号を受信し位置情報を出力するカウンタ21と、カウンタ21からの入力信号に基づいて昇降機29、加圧アクチュエータ26、および加工光学系装置25を制御し、かつ、レーザ発振24器の作動を制御する制御回路22と、を備える。
【0030】
そして、制御回路22は、昇降機29の昇降支持台23をスライドさせて導電性上側端子と導電性下側端子との密着状態を一定にするために、昇降支持台23のスライド量に対するカウンタ21からの入力信号の変化量が閾値以下になるまで昇降支持台23をスライドさせる加圧調節回路33と、導電性上側端子と導電性下側端子との密着状態が一定になった時の導電性上側端子表面の高さ位置に基づいて、加工光学系装置25へレーザ焦点距離を調整する信号を出力するレーザ焦点距離信号出力回路34と、レーザ発振器へレーザ照射を指令するレーザ照射信号出力回路35と、を備える。レーザ発振器24は、伝送ファイバー30を介してレーザ光を加工光学装置25に送り、導電性上側端子へレーザ照射して、導電性上側端子と導電性下側端子を溶接する。
【0031】
このレーザ溶接機を用いれば、半導体モジュール20のパッケージ内で、それぞれ高さの異なる複数の導電性上部端子12、13の下面と導電性下部端子10、11の上面を容易にレーザ溶接できる。
【0032】
位置検出器28からの出力信号は、第4信号配線L4を経由してカウンタ21へ入力される。カウンタ21からの出力信号は、第5信号配線L5を経由して制御回路22へ入力される。
【0033】
制御回路22は、第1信号配線L1を経由して昇降機29の昇降支持台23のスライドを制御し、第2信号配線L2を経由して加圧アクチュエータ26の加圧力を制御し、第3信号配線L3を経由して加工光学系装置25を制御し、第6信号配線L6を経由してレーザ発振器24を制御している。
【0034】
このように本発明のレーザ溶接機は、レーザ溶接ポイントの高さ位置情報の検出だけでなく、加圧アクチュエータを備えているため、溶接ポイントの上下端子の対向面の密着度または間隔にバラツキがあっても加圧アクチュエータ26の下降動作で、先端部27がエミッタ上側端子12を押圧することにより上下端子を安定する密着状態にしてからレーザ溶接するので、レーザ溶接ポイントの溶接不良箇所の発生が無くなる。また、レーザ溶接後には、前記加圧アクチュエータ26を上昇させ、昇降支持台23の位置を変えずに、次のレーザ溶接ポイントに移動することで処理時間を短縮できる構成にしている。その他、レーザ溶接時に生じる白い煙状の粉塵などのヒュームを吸引するための吸引ノズル31を備えることも好ましい。さらに、レーザ溶接ポイントの拡大影像を見るための撮像カメラ32を有することも望ましい。
【0035】
このレーザ溶接機を用いて、レーザ溶接する手順を
図3のレーザ溶接フロー図と
図1を参照して説明する。
【0036】
まず、レーザ出力検査工程(S1)では、レーザ溶接機のレーザ光が、規定値内のレーザ出力であれば、正常であると判断し、加圧機構検査工程(S2)に移行する。レーザ出力が規定値の範囲を超える場合は、レーザ出力異常の警報を出力する。
【0037】
次に、加圧機構検査工程(S2)では、制御回路22が、加圧アクチュエータ26の先端部27を、図示しない基準台に設けた高さ基準面の上方に移動させ、加圧アクチュエータ26の下降動作によって、先端部27を加圧力P
0で基準台に接触させる。この際、加圧アクチュエータ26に取り付けられた位置検出器28が変位量をカウンタ21へ出力し、カウンタ21が位置情報を制御回路22へ出力することで、制御回路22は、基準高さδ
1を測定する。なお、装置設計上の初期基準変位量δ
0は、先端部27が加圧力P
0で基準台に接触させられた時のカウンタ21の出力によって決定され、レーザ光の初期基準焦点距離H
0は、レーザ光の焦点が基準台のレーザ溶接ポイントに合致するように設定されている。
【0038】
初期基準変位量δ
0と、加圧力P
0における測定した基準面の基準高さδ
1とから、δ
1= δ
0+Δε
1の式に基づいて、補正変位量Δε
1を求める。Δε
1が所定の範囲a
1内に入っていれば、エミッタ上側端子12に接触する先端部27の形状に磨耗や変形等が生じていないと判断し、第1レーザ焦点調整工程(S3)に移行する。Δε
1が所定の範囲a
1を超える場合は、先端部27に異常があると判断し、警報を出力する。
【0039】
次に、第1レーザ焦点調整工程(S3)では、測定した基準高さδ
1の補正変位量Δε
1を考慮して、初期基準焦点距離H
0から一次補正基準焦点距離H
1を次のように補正する。
【0040】
【数1】
【0041】
θ:レーザ光とエミッタ上側端子12表面とのなす角
次に、加圧工程(S4)では、まず、制御回路22は、図示されていない水平二軸方向に動作可能なステージに取り付けられた昇降機29を、レーザ溶接を必要とする半導体モジュール(ワーク)の上方に移動させる。そして、制御回路22は、IGBTチップ上のエミッタ下側端子10とエミッタ上側端子12の対向面にある溶接ポイント直上に、昇降支持台23に取り付けられた加圧アクチュエータ26を下降させて、先端部27でエミッタ上側端子12に加圧力P
0を加えた際のエミッタ上側端子12表面の高さ位置を、変位量δ
i+1(iは自然数。iの初期値を1とする。)として測定し記憶する。そして、制御回路22は、加圧力をP
0+α
1・i(iは自然数。iの初期値を1とする。)に変えて、エミッタ上側端子12表面の高さ位置を変位量δ
i+2として再度測定し記憶する。
加圧力P
0の時の変位量δ
2と、加圧力P
0+α
1・iの時の変位量δ
i+2とからδ
i+1=δ
i+2−Δε
i+1の式に基づいてΔε
i+1を求める。Δε
i+1の絶対値が、規格値a
2の範囲内の場合、エミッタ上側端子12とエミッタ下側端子10との間隙が少なく、密着度が安定した状態であると判定し、第2レーザ焦点調整工程(S5)に移行する。Δε
i+1の絶対値が、規格値a
2の範囲を超える場合、iに1を加えて2とし、加圧力をP
0+α
1・i(すなわちiが1つ増える毎に加圧力をα
1増加させる)に変えて、エミッタ上側端子12表面の高さ位置を変位量δ
i+2として再度測定し記憶する。Δε
i+1の絶対値が規格値a
2の範囲になるまで、予め決められた最大n回まで繰り返す。ここでの繰り返し回数をmとする。n回を超えてもΔε
i+1の絶対値が規格値a
2の範囲内にならない場合は、異常と判定し、警報を出力する。
【0042】
次に、第2レーザ焦点調整工程(S5)では、レーザ光の焦点距離を微調整する。測定した高さδ
i+2の補正変位量Δε
i+1を考慮して、焦点距離H
1から二次補正基準焦点距離H
2を次のように補正する。
【0043】
【数2】
【0044】
θ:レーザ光とエミッタ上側端子12表面とのなす角
次に、レーザ照射工程(S6)では、レーザ溶接を行う。なお、レーザ光を上側端子12表面に斜めに照射しているため、レーザ光の焦点距離が変化したことに伴い上方からみた焦点位置が水平方向にシフトするので、図示されていない水平二軸方向に動作可能なステージに取り付けられた昇降機29を移動させて、レーザ光の焦点位置を調整した後、レーザ溶接を行うことがより望ましい。焦点位置のシフト量が軽微であって先端部27に影響しない場合は、この補正動作を省略してもよい。
【0045】
次に、レーザ溶接を完了すると、制御回路22は、加圧アクチュエータ26を上昇させて先端部27をエミッタ上側端子12から解放させる。
【0046】
それから、レーザ溶接機は、加工光学系装置25の位置と、半導体モジュールの位置とを相対的に移動させて、加工光学系装置25のレーザ光の焦点位置を次の溶接ポイントに移動させる。前述と同様にして、チップ裏面のコレクタに接続されるコレクタ下側端子11とコレクタ上側端子13との対向面にある溶接ポイントをレーザ溶接する。レーザ溶接領域16を斜線で示す。同時に昇降支持台23には吸引ノズル31がレーザ溶接ポイントの表面近傍に吸引口を配置するように設けられており、溶接時に飛び散るヒュームなどを除去する。レーザ光17としては、例えば、YAGレーザ光(波長λ=1064nm)を用いることができる。他のレーザ光17としてはCO
2レーザ発振器のレーザ光やエキシマレーザ発振器のレーザ光でもよい。上側端子12、13の最表面でレーザ光17の吸収が起こり、熱エネルギーに変換されることで端子の溶融が進行して溶接領域16を形成し、それぞれの上側端子12、13と下側端子10、11を溶接により固着させて導電接続させ主電流経路を形成する。半導体モジュールの組み立てに必要なすべての溶接ポイントに順次移動してレーザ溶接することによりレーザ溶接を終了する。
【0047】
以上説明した実施例によれば、レーザ溶接される上下の金属板の間隙にバラツキがあっても充分な接合強度が得られるレーザ溶接機とレーザ溶接方法を提供することができる。