特許第6354415号(P6354415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354415レーザ溶接機とそれを用いたレーザ溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354415
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】レーザ溶接機とそれを用いたレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20180702BHJP
   B23K 26/046 20140101ALI20180702BHJP
   B23K 26/16 20060101ALI20180702BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20180702BHJP
   H01L 23/48 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   B23K26/21 G
   B23K26/046
   B23K26/16
   H01L21/60 321E
   !H01L23/48 G
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-147133(P2014-147133)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2015-57290(P2015-57290A)
(43)【公開日】2015年3月26日
【審査請求日】2017年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-168672(P2013-168672)
(32)【優先日】2013年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】松下 毅
(72)【発明者】
【氏名】玉井 雄大
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 利幸
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−183604(JP,A)
【文献】 特開平11−156574(JP,A)
【文献】 特開2001−129676(JP,A)
【文献】 特開2002−263871(JP,A)
【文献】 実開昭62−19771(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性下側端子の上に導電性上側端子が重ねられた装置をレーザで溶接するレーザ溶接機において、
昇降支持台をスライドさせる機構を持った昇降機と、
基部が前記昇降支持台に固定され、前記基部からスライド可能に連結された先端部が前記導電性上側端子を前記導電性下側端子へ押圧する加圧アクチュエータと、
レーザ発振器と、
前記昇降支持台に固定され前記レーザ発振器から出力されたレーザ光を集光させるためのレンズを持つ加工光学系装置と、
前記加圧アクチュエータの高さ位置を検出する位置検出器と、
前記位置検出器の出力信号を受信し位置情報を出力するカウンタと、
前記カウンタからの入力信号に基づいて前記昇降機、前記加圧アクチュエータ、および前記加工光学系装置を制御し、かつ、前記レーザ発振器の作動を制御する制御回路と、
を備えることを特徴とするレーザ溶接機。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接機において、
制御回路は、前記昇降機の前記昇降支持台をスライドさせて前記導電性上側端子と前記導電性下側端子との密着状態を一定にするために、前記昇降支持台のスライド量に対する前記カウンタからの入力信号の変化量が閾値以下になるまで前記昇降支持台をスライドさせる加圧調節回路と、
前記導電性上側端子と前記導電性下側端子との密着状態が一定になった時の前記導電性上側端子表面の高さ位置に基づいて、前記加工光学系装置へレーザ焦点距離を調整する信号を出力するレーザ焦点距離信号出力回路と、
レーザ発振器へレーザ照射を指令するレーザ照射信号出力回路と、
を備えることを特徴とするレーザ溶接機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ溶接機において、
前記加圧アクチュエータの動力源が空気圧または電圧であることを特徴とするレーザ溶接機。
【請求項4】
請求項1または2に記載のレーザ溶接機において、
前記先端部は、レーザ光を遮らずにレーザ照射ポイントの近傍を押圧する構造であることを特徴とするレーザ溶接機。
【請求項5】
請求項1または2に記載のレーザ溶接機において、
前記昇降支持台に固定され、レーザ照射ポイント近傍上に吸引口が配置される吸引ノズルを備えることを特徴とするレーザ溶接機。
【請求項6】
請求項1または2に記載のレーザ溶接機を用いたレーザ溶接方法において、
前記制御装置が、前記先端部で導電性上側端子の表面を加圧力P0で加圧するように前記加圧アクチュエータを移動させ、前記カウンタの出力信号に基づいて測定した前記加圧アクチュエータの変位量と、前記加圧力P0にさらに圧力を加えるように前記加圧アクチュエータを移動させ、前記カウンタの出力信号に基づいて測定した前記加圧アクチュエータの変位量との差を予め設定した範囲a2内に収まるまで加圧力の増加を繰り返す加圧工程と、
前記レーザ照射ポイントの高さに基づいてレーザ光の焦点距離を演算し、演算結果を前記昇降機と前記加工光学系装置へ出力する工程と、
前記加工光学系装置へレーザ照射を指令する工程と、
を備えることを特徴とするレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールの組み立て工程の際に、上下に分かれたリードフレームを接合するためのレーザ溶接機とそれを用いたレーザ溶接方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車のモータ制御、エレベータ制御などに用いられるインバータ回路を構成するパワー半導体モジュールでは、その小型化とともに大電流容量化が求められている。これに伴い、パワー半導体モジュールに搭載されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体チップに流れる電流はいっそう高電流密度化され発熱量も大きくなるので、従来のアルミワイヤ接続構造による半導体モジュールは、その放熱設計の見直しが必要になっている。
【0003】
図4に示したように、特許文献1は、IGBTチップを搭載した従来の半導体モジュールを開示している。図4は、IGBTチップを搭載した従来の半導体モジュールの基本的な組み立て構成部分を示す断面図である。この半導体モジュールでは、冷却体である矩形状のCu(銅)ベース200の上に半田201を介して矩形状の絶縁基板202が接合されさらにその上面にIGBTチップ204が接合されている。Cuベース200の上面の周辺端203には、IGBTチップ204と絶縁基板202を取り囲むように、樹脂ケース205の内側下端部が嵌合され接着されている。この樹脂ケース205内で対向する側壁面には外部導出端子としてエミッタ用端子206とコレクタ用端子207が樹脂ケースとの一体成型により組み込まれている。このエミッタ用端子206とコレクタ用端子207には、それぞれアルミワイヤ208、209を介して絶縁基板202表面上に形成された不図示の回路パターン210、214に電気的に接続されている。さらにこの回路パターン210とIGBTチップの上面のエミッタ電極(不図示)とがアルミワイヤ213により接続され、チップ裏面側のコレクタ電極(不図示)は異なる回路パターン214に電気的に接続されている。
【0004】
詳細には、IGBTチップ204の上面のエミッタ電極には、ヒートスプレッダ212が半田211により接合されている。このヒートスプレッダ212は、IGBTチップ204の通電時に発生する熱の放熱性を高めるための金属板であり、IGBTチップ204の表面に形成されたエミッタ電極と電気的に接続されている。ヒートスプレッダ212のさらに上面には、前述したアルミワイヤ213の一端がボンディング接続され、その他端は、絶縁基板202の上に形成された回路パターン210にボンディング接続されている。このように、チップ上面にヒートスプレッダを介してアルミワイヤボンディング接続することにより、大電流容量化を図ることができる(特許文献1)。
【0005】
また同様に、特許文献2は、半導体チップの上面からの放熱性を高めるための手段として、前述したチップ表面に接続するアルミワイヤに代えて、例えば、図5に示すように、熱伝導性の良好な銅板などからなり厚さの異なる異形板からなるリードフレームを表面端子板として用いる構造を開示している。
【0006】
特許文献3は、半導体チップ上に半田接合されたヒートスプレッダ(放熱板)上に、さらにアルミワイヤに代えて銅板などからなるリードフレームを複数用い相互にレーザ溶接により接合して所要の端子構造にする方法を開示している。
【0007】
リードフレームをヒートスプレッダ(放熱板)として機能する電極板と配線部材の二部
品に分け、電極板をチップの表面にロウ付けした後に、配線部材の接合部を前記電極板の延長部に重ね合わせて両方の板材をレーザ溶接で接合する構造が開示されている(特許文献4)。
【0008】
レーザ溶接機の焦点距離の制御方法についての記載がある(特許文献5)。
【0009】
レーザ溶接機の焦点距離を、レーザ変位計や接触式変位計により計測し制御する方法についての記載が見られる(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−116702号公報(図1
【特許文献2】特開2005−64441号公報(図1
【特許文献3】特開2008−98585号公報(図5
【特許文献4】特開2008−42039号公報(図1、要約)
【特許文献5】特開1999−129084号公報(要約)
【特許文献6】特開1999−47970号公報(段落00015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、半導体モジュールの小型化、大電流容量化の観点で、チップの上面からの放熱性を高くするためにアルミワイヤ接続に代えてリードフレームを用いる構造では、リードフレームには、チップ上面からの放熱性を高くする機能とチップ上面と外部端子とを接続する配線機能とが求められる。前者の機能としてのリードフレームは厚い金属板が好ましく、後者の機能には複雑な配線パターン形成を容易にする薄い金属板が好ましい。そのような両機能を満たす図5のリードフレームは部分的に厚さの異なる異形材料を必要とするので、リードフレームの製造コストが極めて高くなるおそれがある。
【0012】
一方、特許文献3に記載の半導体装置では、リードフレームはチップ表面上に接合されるヒートスプレッダと配線部材(バスバー)とに分離されているので、それぞれのリードフレームコストは安価となる。しかし、分離された配線部材とヒートスプレッダとを、再度複数箇所でレーザ溶接してリードフレームを一体化する必要がある。さらに、その際、配線部材は図6に示すインバータ回路を構成する半導体モジュールでは、整流された後のP側共通配線であるPバスバーとN側共通配線であるNバスバーの2種類を必要とする。しかもこれらのPバスバーとNバスバーはモジュールの小型化や回路インダクタンスの低減の観点から、相互の高さ位置を変えて上下に平行配設される構造にされることが好ましいので、レーザ溶接ポイントも相互に異なる高さに設定されることになる。このような位置関係のレーザ溶接ポイントを複数必要とする構成の場合、レーザ溶接を短時間に処理するにはレーザ照射の焦点調節が容易となる構成にすることが望まれる。
【0013】
しかしながら、検出されたレーザ溶接ポイントの位置情報をフィードバックしてレーザ溶接を行う前記特許文献5に記載のレーザ溶接機では、相互に高さ位置も異なる数多くのレーザ溶接ポイントを有する上下一対の端子の間隙にバラツキが生じ易いインバータ回路を形成する半導体モジュールでは、レーザ溶接による固着の不充分な箇所が多く発生することがある。
【0014】
すなわち、半導体モジュール内のIGBTチップ数が多い場合、PとNの各バスバーの長さが長くなり、複数のレーザ溶接箇所で、上下の銅板端子の間隙のバラツキが大きくなり易くなる。この場合、溶接箇所の間隙のバラツキが大きいためにレーザ溶接が均一に行われず、溶接による接合不良の箇所が発生し易くなるのである。すなわち、半導体チップ
サイズが大きくなり、チップの数の増加を必要とする大容量の半導体モジュールになるほどレーザ溶接する配線部材の長さも長くなるので、前記問題の発生頻度も高くなる。
【0015】
本発明は、以上説明した点を考慮してなされたものである。本発明の目的は、レーザ溶接する上下の金属板の間隙に多少のバラツキがあっても充分な接合強度が得られるレーザ溶接機とレーザ溶接方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記目的を達成するために、半導体モジュールのパッケージ内に配置され、それぞれ高さの異なる複数の導電性上側端子と、該導電性上側端子の下面にそれぞれ対向する上面を有する導電性下側端子とを溶接して固着するためのレーザ溶接機が、前記導電性上側端子の上部に配置され昇降を制御する回路を有する昇降支持台を備え、該昇降支持台は、レーザ発振器と出力されたレーザ光を集光させるためのレンズを含む加工光学系装置と単独で昇降動作可能な加圧アクチュエータとを備え、該加圧アクチュエータは、先端部の接触により前記導電性上側端子を押圧するとともに前記導電性上側端子の高さ位置を測定する高さ位置検出機能を有し、検出した高さ位置情報を前記昇降制御回路にフィードバックして、前記複数の導電性上側端子毎に前記昇降支持台の高さを補正して前記導電性上側端子と前記導電性下側端子との密着状態を一定にした後、レーザ照射して溶接する機構を備えるレーザ溶接機とする。
【0017】
より具体的には、本発明のレーザ溶接機は、導電性下側端子の上に導電性上側端子が重ねられた装置をレーザで溶接するレーザ溶接機において、昇降支持台をスライドさせる機構を持った昇降機と、基部が前記昇降支持台に固定され、前記基部からスライド可能に連結された先端部が前記導電性上側端子を前記導電性下側端子へ押圧する加圧アクチュエータと、レーザ発振器と、前記昇降支持台に固定され前記レーザ発振器から出力されたレーザ光を集光させるためのレンズを持つ加工光学系装置と、前記加圧アクチュエータの高さ位置を検出する位置検出器と、前記位置検出器の出力信号を受信し位置情報を出力するカウンタと、前記カウンタからの入力信号に基づいて前記昇降機、前記加圧アクチュエータ、および前記加工光学系装置を制御し、かつ、前記レーザ発振器の作動を制御する制御回路と、を備える。
【0018】
前記制御回路は、前記昇降機の前記昇降支持台をスライドさせて前記導電性上側端子と前記導電性下側端子との密着状態を一定にするために、前記昇降支持台のスライド量に対する前記カウンタからの入力信号の変化量が閾値以下になるまで前記昇降支持台をスライドさせる加圧調節回路と、前記導電性上側端子と前記導電性下側端子との密着状態が一定になった時の前記導電性上側端子表面の高さ位置に基づいて、前記加工光学系装置へレーザ焦点距離を調整する信号を出力するレーザ焦点距離信号出力回路と、レーザ発振器へレーザ照射を指令するレーザ照射信号出力回路と、を備える。
【0019】
前記加圧アクチュエータの動力源が空気圧または電圧であることが好ましい。前記加圧アクチュエータに取り付けられた先端部は、レーザ光を遮らないような形状で、レーザ照射時に溶接ポイントの近傍を接触できるよう形成することが望ましい。レーザ照射時に溶接ポイント近傍上に吸引口が配置される吸引ノズルを備えることも好ましい。
【0020】
また、本発明のレーザ溶接方法は、上述のレーザ溶接機を用いて、前記導電性上側端子の下面に対向する上面を有する導電性下側端子とのレーザ溶接ポイント近傍を、加圧アクチュエータの先端部で加圧した加圧アクチュエータの変位量を測定し、前記加圧アクチュエータの加圧力を増分させた加圧アクチュエータの変位量との差が、予め設定した範囲内に収まるまで繰り返すことで、前記上側端子の下面と下側端子所定の間隙を安定した密着状態でレーザ溶接して固着する工程を有する。
【0021】
より具体的には、本発明のレーザ溶接方法は、上記レーザ溶接機を用いたレーザ溶接方法において、前記制御装置が、前記先端部で導電性上側端子の表面を加圧力P0で加圧するように前記加圧アクチュエータを移動させ、前記カウンタの出力信号に基づいて測定した前記加圧アクチュエータの変位量と、前記加圧力P0にさらに圧力を加えるように前記加圧アクチュエータを移動させ、前記カウンタの出力信号に基づいて測定した前記加圧アクチュエータの変位量との差を予め設定した範囲a2内に収まるまで加圧力の増加を繰り返す加圧工程と、前記レーザ照射ポイントの高さに基づいてレーザ光の焦点距離を演算し、演算結果を前記昇降機と前記加工光学系装置へ出力する工程と、前記加工光学系装置へレーザ照射を指令する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、レーザ溶接する上下の金属板の間隙に多少のバラツキがあっても充分な接合強度が得られるレーザ溶接機およびそれを用いたレーザ溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】半導体モジュールのエミッタ端子の上下端子を対向する部分で溶接する状態を示す本発明のレーザ溶接機の概略構成断面図である。
図2】本発明の半導体モジュールに係るレーザ溶接する箇所を示す半導体モジュールの要部断面図である。
図3】本発明の半導体モジュールの製造方法に係るレーザ溶接するプロセスフロー図である。
図4】IGBTチップを搭載した従来の半導体モジュールの要部断面図である。
図5】熱伝導性の良好な銅板などのリードフレームを上部端子板として用いる従来の半導体モジュールの概略断面図である。
図6】インバータ回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のレーザ溶接機とそれを用いたレーザ溶接方法にかかる実施例について、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、実施例で説明される添付図面は、見易くまたは理解し易くするために正確なスケール、寸法比で描かれていない。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
図2は、DCB(Direct Copper Bonding)基板上および半導体チップ(IGBT7a、ダイオード7b)上に配置される上下に分離されたリードフレームをそれぞれ構成する下側端子10、11および上側端子12、13のそれぞれ近接対向する面に、上側からレーザ光17を照射して溶接し一体化することを示す半導体モジュール20の要部断面図である。この図2ではレーザ溶接箇所を斜線の溶接領域16で示す。この図2の半導体モジュール20の断面図は後述する図6に示すインバータ回路の破線円18内に示すIGBT7aとダイオード7bの逆並列接続部分の組み立て構造を示している。すなわち、図2のIGBT7aのエミッタ電極とダイオード7bのアノード電極とがチップの表面上でエミッタ下側端子10によりエミッタ上側端子12へ共通に接続され、コレクタ電極とカソード電極とがチップの下側でDCB上面銅箔5へ共通に接続されるように組み立てられていることを示す断面図である。
【0026】
図2に示す半導体モジュールを組み立てる際には、まず放熱ベース1の上面に半田2を配置した。次に、DCBセラミックス4と、DCBセラミックス4の下面に配置されたDCB裏面銅箔3と、DCBセラミックス4の上面に配置されたDCB上面銅箔5とからなるDCB基板を半田2とDCB裏面銅箔3とが接するように搭載した。さらにDCB上面銅箔5の上面に半田6a、6bと半田9とを配置し、半田6a上にIGBT7aのチップを配置し、半田6b上にダイオード7b(FWD;フリーホイーリングダイオード)のチップをそれぞれ搭載した。このIGBT7aの上面に半田8aを配置し、ダイオード7b(FWD)の上面に半田8bを配置した。次に、半田8a、8bの上にエミッタ下側端子10の両端をそれぞれ配置し、半田9の上にコレクタ下側端子11を搭載した状態で加熱した。各半田材を溶融させた後に冷却・再凝固させた。樹脂ケース14は、エミッタ上側端子12とコレクタ上側端子13とを一体成型して作られた。樹脂ケース14の下側接着面に予めシリコーン接着剤15を塗布し、樹脂ケース14を放熱ベース1の外周部分に嵌合させ接着させた。シリコーン接着剤15は加熱硬化されて、樹脂ケース14と放熱ベース1とを固着させた。このときエミッタ下側端子10の上面とエミッタ上側端子12の下面、およびコレクタ下側端子11の上面とコレクタ上側端子13の下面は、それぞれレーザ溶接されるので、相互に密着するように予め配置されることが望ましい。このレーザ溶接の後に、エミッタ上部側端子12およびコレクタ上側端子13における樹脂ケース14の内側に露出した部分を、図示されていない絶縁性の封止樹脂でエミッタ上側端子12およびコレクタ上側端子13が覆われるまで樹脂ケース14の内側に注入して半導体モジュール20が構成される。
【0027】
本発明のレーザ溶接方法を適用することで製造される半導体モジュールは、前述の図6のように、整流された後のP側共通配線であるPバスバーと、N側共通配線であるNバスバーの2種類を備えている。しかもこれらのPバスバーとNバスバーはモジュールの小型化や回路インダクタンスの低減の観点から、相互の高さ位置を変えて上下に平行配設される構造にされることが好ましいので、レーザ溶接ポイントも相互に異なる高さに設定されることになる。
【0028】
ところが、図6に示すインバータ回路を構成するIGBTとダイオード(FWD)のすべてを一つの半導体モジュール内に組み立てる場合、P側共通配線とN側共通配線との接続ポイントおよび中間端子の溶接ポイントが合わせて21箇所必要となる。このように多くの溶接ポイントがあると、それぞれのレーザ溶接ポイントにおける対向する端子面の間隔を均等に密着させることが極めて困難になる。それとともに、レーザ溶接を短時間に処理するために、レーザ照射の焦点調節が容易なレーザ溶接機であることが望まれる。
【0029】
そこで、図1に示したように、本発明のレーザ溶接機100は、導電性下側端子の上に導電性上側端子が重ねられた装置をレーザで溶接するレーザ溶接機において、昇降支持台23をスライドさせる機構を持った昇降機29と、基部が昇降支持台23に固定され、基部からスライド可能に連結された先端部27が導電性上側端子を導電性下側端子へ押圧する加圧アクチュエータ26と、レーザ発振器24と、昇降支持台23に固定されレーザ発振器24から出力されたレーザ光を集光させるためのレンズを持つ加工光学系装置25と、加圧アクチュエータ26の高さ位置を検出する位置検出器28と、位置検出器28の出力信号を受信し位置情報を出力するカウンタ21と、カウンタ21からの入力信号に基づいて昇降機29、加圧アクチュエータ26、および加工光学系装置25を制御し、かつ、レーザ発振24器の作動を制御する制御回路22と、を備える。
【0030】
そして、制御回路22は、昇降機29の昇降支持台23をスライドさせて導電性上側端子と導電性下側端子との密着状態を一定にするために、昇降支持台23のスライド量に対するカウンタ21からの入力信号の変化量が閾値以下になるまで昇降支持台23をスライドさせる加圧調節回路33と、導電性上側端子と導電性下側端子との密着状態が一定になった時の導電性上側端子表面の高さ位置に基づいて、加工光学系装置25へレーザ焦点距離を調整する信号を出力するレーザ焦点距離信号出力回路34と、レーザ発振器へレーザ照射を指令するレーザ照射信号出力回路35と、を備える。レーザ発振器24は、伝送ファイバー30を介してレーザ光を加工光学装置25に送り、導電性上側端子へレーザ照射して、導電性上側端子と導電性下側端子を溶接する。
【0031】
このレーザ溶接機を用いれば、半導体モジュール20のパッケージ内で、それぞれ高さの異なる複数の導電性上部端子12、13の下面と導電性下部端子10、11の上面を容易にレーザ溶接できる。
【0032】
位置検出器28からの出力信号は、第4信号配線L4を経由してカウンタ21へ入力される。カウンタ21からの出力信号は、第5信号配線L5を経由して制御回路22へ入力される。
【0033】
制御回路22は、第1信号配線L1を経由して昇降機29の昇降支持台23のスライドを制御し、第2信号配線L2を経由して加圧アクチュエータ26の加圧力を制御し、第3信号配線L3を経由して加工光学系装置25を制御し、第6信号配線L6を経由してレーザ発振器24を制御している。
【0034】
このように本発明のレーザ溶接機は、レーザ溶接ポイントの高さ位置情報の検出だけでなく、加圧アクチュエータを備えているため、溶接ポイントの上下端子の対向面の密着度または間隔にバラツキがあっても加圧アクチュエータ26の下降動作で、先端部27がエミッタ上側端子12を押圧することにより上下端子を安定する密着状態にしてからレーザ溶接するので、レーザ溶接ポイントの溶接不良箇所の発生が無くなる。また、レーザ溶接後には、前記加圧アクチュエータ26を上昇させ、昇降支持台23の位置を変えずに、次のレーザ溶接ポイントに移動することで処理時間を短縮できる構成にしている。その他、レーザ溶接時に生じる白い煙状の粉塵などのヒュームを吸引するための吸引ノズル31を備えることも好ましい。さらに、レーザ溶接ポイントの拡大影像を見るための撮像カメラ32を有することも望ましい。
【0035】
このレーザ溶接機を用いて、レーザ溶接する手順を図3のレーザ溶接フロー図と図1を参照して説明する。
【0036】
まず、レーザ出力検査工程(S1)では、レーザ溶接機のレーザ光が、規定値内のレーザ出力であれば、正常であると判断し、加圧機構検査工程(S2)に移行する。レーザ出力が規定値の範囲を超える場合は、レーザ出力異常の警報を出力する。
【0037】
次に、加圧機構検査工程(S2)では、制御回路22が、加圧アクチュエータ26の先端部27を、図示しない基準台に設けた高さ基準面の上方に移動させ、加圧アクチュエータ26の下降動作によって、先端部27を加圧力P0で基準台に接触させる。この際、加圧アクチュエータ26に取り付けられた位置検出器28が変位量をカウンタ21へ出力し、カウンタ21が位置情報を制御回路22へ出力することで、制御回路22は、基準高さδ1を測定する。なお、装置設計上の初期基準変位量δ0は、先端部27が加圧力P0で基準台に接触させられた時のカウンタ21の出力によって決定され、レーザ光の初期基準焦点距離H0は、レーザ光の焦点が基準台のレーザ溶接ポイントに合致するように設定されている。
【0038】
初期基準変位量δ0と、加圧力P0における測定した基準面の基準高さδ1とから、δ1= δ0+Δε1の式に基づいて、補正変位量Δε1を求める。Δε1が所定の範囲a1内に入っていれば、エミッタ上側端子12に接触する先端部27の形状に磨耗や変形等が生じていないと判断し、第1レーザ焦点調整工程(S3)に移行する。Δε1が所定の範囲a1を超える場合は、先端部27に異常があると判断し、警報を出力する。
【0039】
次に、第1レーザ焦点調整工程(S3)では、測定した基準高さδ1の補正変位量Δε1を考慮して、初期基準焦点距離H0から一次補正基準焦点距離H1を次のように補正する。
【0040】
【数1】
【0041】
θ:レーザ光とエミッタ上側端子12表面とのなす角
次に、加圧工程(S4)では、まず、制御回路22は、図示されていない水平二軸方向に動作可能なステージに取り付けられた昇降機29を、レーザ溶接を必要とする半導体モジュール(ワーク)の上方に移動させる。そして、制御回路22は、IGBTチップ上のエミッタ下側端子10とエミッタ上側端子12の対向面にある溶接ポイント直上に、昇降支持台23に取り付けられた加圧アクチュエータ26を下降させて、先端部27でエミッタ上側端子12に加圧力P0を加えた際のエミッタ上側端子12表面の高さ位置を、変位量δi+1(iは自然数。iの初期値を1とする。)として測定し記憶する。そして、制御回路22は、加圧力をP0+α1・i(iは自然数。iの初期値を1とする。)に変えて、エミッタ上側端子12表面の高さ位置を変位量δi+2として再度測定し記憶する。
加圧力P0の時の変位量δ2と、加圧力P0+α1・iの時の変位量δi+2とからδi+1=δi+2−Δεi+1の式に基づいてΔεi+1を求める。Δεi+1の絶対値が、規格値a2の範囲内の場合、エミッタ上側端子12とエミッタ下側端子10との間隙が少なく、密着度が安定した状態であると判定し、第2レーザ焦点調整工程(S5)に移行する。Δεi+1の絶対値が、規格値a2の範囲を超える場合、iに1を加えて2とし、加圧力をP0+α1・i(すなわちiが1つ増える毎に加圧力をα1増加させる)に変えて、エミッタ上側端子12表面の高さ位置を変位量δi+2として再度測定し記憶する。Δεi+1の絶対値が規格値a2の範囲になるまで、予め決められた最大n回まで繰り返す。ここでの繰り返し回数をmとする。n回を超えてもΔεi+1の絶対値が規格値a2の範囲内にならない場合は、異常と判定し、警報を出力する。
【0042】
次に、第2レーザ焦点調整工程(S5)では、レーザ光の焦点距離を微調整する。測定した高さδi+2の補正変位量Δεi+1を考慮して、焦点距離H1から二次補正基準焦点距離H2を次のように補正する。
【0043】
【数2】
【0044】
θ:レーザ光とエミッタ上側端子12表面とのなす角
次に、レーザ照射工程(S6)では、レーザ溶接を行う。なお、レーザ光を上側端子12表面に斜めに照射しているため、レーザ光の焦点距離が変化したことに伴い上方からみた焦点位置が水平方向にシフトするので、図示されていない水平二軸方向に動作可能なステージに取り付けられた昇降機29を移動させて、レーザ光の焦点位置を調整した後、レーザ溶接を行うことがより望ましい。焦点位置のシフト量が軽微であって先端部27に影響しない場合は、この補正動作を省略してもよい。
【0045】
次に、レーザ溶接を完了すると、制御回路22は、加圧アクチュエータ26を上昇させて先端部27をエミッタ上側端子12から解放させる。
【0046】
それから、レーザ溶接機は、加工光学系装置25の位置と、半導体モジュールの位置とを相対的に移動させて、加工光学系装置25のレーザ光の焦点位置を次の溶接ポイントに移動させる。前述と同様にして、チップ裏面のコレクタに接続されるコレクタ下側端子11とコレクタ上側端子13との対向面にある溶接ポイントをレーザ溶接する。レーザ溶接領域16を斜線で示す。同時に昇降支持台23には吸引ノズル31がレーザ溶接ポイントの表面近傍に吸引口を配置するように設けられており、溶接時に飛び散るヒュームなどを除去する。レーザ光17としては、例えば、YAGレーザ光(波長λ=1064nm)を用いることができる。他のレーザ光17としてはCO2レーザ発振器のレーザ光やエキシマレーザ発振器のレーザ光でもよい。上側端子12、13の最表面でレーザ光17の吸収が起こり、熱エネルギーに変換されることで端子の溶融が進行して溶接領域16を形成し、それぞれの上側端子12、13と下側端子10、11を溶接により固着させて導電接続させ主電流経路を形成する。半導体モジュールの組み立てに必要なすべての溶接ポイントに順次移動してレーザ溶接することによりレーザ溶接を終了する。
【0047】
以上説明した実施例によれば、レーザ溶接される上下の金属板の間隙にバラツキがあっても充分な接合強度が得られるレーザ溶接機とレーザ溶接方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 放熱ベース
2 半田
3 DCB裏面銅箔
4 DCBセラミックス
5 DCB上面銅箔
6a 半田
6b 半田
7a IGBTチップ
7b ダイオードチップ
8a 半田
8b 半田
9 半田
10 エミッタ下側端子
11 コレクタ下側端子
12 エミッタ上側端子
13 コレクタ上側端子
14 樹脂ケース
15 シリコーン接着剤
16 溶接領域
17 レーザ光
18 破線円
20 半導体モジュール
21 カウンタ
22 制御回路
23 昇降支持台
24 レーザ発振器
25 加工光学系装置
26 加圧アクチュエータ
27 先端部
28 位置検出器
29 昇降機
30 伝送ファイバー
31 吸引ノズル
32 撮像カメラ
33 加圧調節回路
34 レーザ焦点距離信号出力回路
35 レーザ照射信号出力回路
100 レーザ溶接機
L1 第1信号配線
L2 第2信号配線
L3 第3信号配線
L4 第4信号配線
L5 第5信号配線
L6 第6信号配線
S1 レーザ出力検査工程
S2 加圧機構検査工程
S3 第1レーザ焦点調整工程
S4 加圧工程
S5 第2レーザ焦点調整工程
S6 レーザ照射工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6