(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354422
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】感圧センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
G01L5/00 101Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-152878(P2014-152878)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-31261(P2016-31261A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓己
【審査官】
公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−042021(JP,A)
【文献】
特開2000−329630(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/065055(WO,A1)
【文献】
特開平03−269331(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0071482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/20
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のシフトレジスタを含む走査駆動回路が形成された第1の基材と、
前記第1の基材が貼付実装され、前記走査駆動回路に接続された複数の駆動電極が形成された第2の基材と、
複数の検出電極が形成された第3の基材と、
前記第2の基材と前記第3の基材との間に積層された感圧導電材料層とを備え、
前記第2の基材は、前記複数の駆動電極が形成された側の面が前記第3の基材に面するように配置されており、前記第3の基材の前記第1の基材に面する箇所が刳り貫かれている、感圧センサ。
【請求項2】
前記走査駆動回路は、前記複数の駆動電極から電圧を印加する駆動電極を順次あるいは一括で選択でき、非選択状態の駆動電極は高インピーダンス状態で保持される、請求項1に記載の感圧センサ。
【請求項3】
前記第3の基材に貼付実装され、前記複数の検出電極に接続された1つ以上のシフトレジスタを有する出力選択回路が形成された第4の基材をさらに備える、請求項1または2に記載の感圧センサ。
【請求項4】
前記出力選択回路は、前記複数の検出電極から出力電圧を検出する検出電極を順次あるいは一括で選択でき、非選択状態の検出電極は高インピーダンス状態で保持される、請求項3に記載の感圧センサ。
【請求項5】
前記第3の基材は、前記第4の基材が貼付実装され、かつ前記複数の検出電極が形成された側の面が前記第2の基材に面するように配置されており、
前記第2の基材の前記第4の基材に面する箇所が刳り貫かれている、請求項3または4に記載の感圧センサ。
【請求項6】
前記シフトレジスタは、入力TFTと、転送TFTと、リセットTFTと、シャントTFTと、出力TFTとを含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の感圧センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力を測定する感圧センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
可撓(フレキシブル)性を有する二枚のフィルム基材の相互間に、導電層が塗布された複数の行・列電極が交差する態様(パッシブマトリクス構造)で配置された感圧センサが知られている(例えば特許文献1参照)。この種の感圧センサは、圧力が加えられると、交差する態様で配置された導電層同士が接触し、これにより抵抗値が変化する。そして、この抵抗値の変化を検知することにより、加えられた圧力の面内分布を測定することができる。
【0003】
また近年、印刷プロセスで作製する薄膜トランジスタ(TFT)が注目を集めている(例えば非特許文献1参照)。ここで印刷プロセスとは、コーティングや印刷法(インクジェット、凸版、凹版、平版、孔版等)により、真空工程を用いずに半導体素子を作製する方法を指す。真空工程を多用するエレクトロニクス分野において、印刷プロセスは生産方式の革新技術として有望である。また、印刷プロセスで作製するTFTは大面積、低コスト、低環境負荷、低温形成、フレキシブルといった可能性を持っていることが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−57992号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「特集 次世代ディスプレイを実現するフレキシブル有機エレクトロニクス」、月刊OPTRONICS、株式会社オプトロニクス、2011年5月号、第30巻、第353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1を例とする従来の感圧センサでは、コスト的な理由や、可撓性を制限してしまう等の理由から、駆動回路ICや検出回路ICをフィルム上に実装できなかった。故にマトリクス状に形成した駆動回路及び検出回路の全配線をフィルム外部に引出し、外部回路(駆動、検出機能を有する)と接続する必要があったため、配線数の多いセンサを設計すると、接続端子や配線レイアウトのスペースが膨大となり、センサ設計の自由度を著しく低下させてしまうという問題が生じ、用途拡大の妨げとなっていた。
【0007】
本発明は、マトリクス状に形成した感圧センサを構成する回路の配線数が多く、かつ設計自由度の高い感圧センサを、可撓性を制限すること無く、低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、以下の特徴は単独で、若しくは、適宜組合わされて備えられている。
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の一局面は、1つ以上のシフトレジスタを含む走査駆動回路(スキャンドライバ)が形成された第1の基材と、第1の基材が貼付実装され、走査駆動回路に接続された複数の駆動電極が積層された第2の基材(上部マトリクスフィルム)と、複数の検出電極が積層された第3の基材(下部マトリクスフィルム)と、第2の基材と第3の基材との間に積層された感圧導電材料層とを備え、
第2の基材は、複数の駆動電極が形成された側の面が第3の基材に面するように配置されており、第3の基材の第1の基材に面する箇所が刳り貫かれている、感圧センサである。
【0010】
また、走査駆動回路(スキャンドライバ)は、複数の駆動電極から駆動電圧を印加する駆動電極を順次あるいは一括で選択でき、非選択状態の駆動電極は高インピーダンス状態で保持されてもよい。
【0011】
また、第3の基材に貼付実装され、複数の検出電極に接続された1つ以上のシフトレジスタを有する出力選択回路が形成された第4の基材をさらに備えてもよい。
【0012】
また、出力選択回路(データセレクタ)は、複数の検出電極から出力電圧を検出する検出電極を順次あるいは一括で選択でき、非選択状態の検出電極は高インピーダンス状態で保持されてもよい。
【0013】
また
、第3の基材は、第4の基材が貼付実装され、かつ複数の検出電極が形成された面が第2の基材に面するように配置されており、第2の基材の第4の基材に面する箇所が刳り貫かれていてもよい。
【0014】
また、走査駆動回路、出力選択回路に含まれるシフトレジスタは、入力TFTと、転送TFTと、リセットTFTと、シャントTFTと、出力TFTとを含んでも良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、マトリクス状に形成した感圧センサを構成する回路の配線数が多く、かつ設計自由度の高い感圧センサを、可撓性を制限すること無く、低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る感圧センサの構成図
【
図2】本発明の一実施形態に係る感圧センサの回路構成図
【
図3】本発明の一実施形態に係るスキャンドライバおよびデータセレクタのフィルム貼付構造の説明図
【
図4】本発明の一実施形態に係る印刷TFT層構造の説明図
【
図5】本発明の一実施形態に係る引出し配線削減の概念説明図
【
図6】本発明の一実施形態に係るシフトレジスタ(1段分)の回路説明図
【
図7】本発明の一実施形態に係る入力信号CK+及びCK−の位相関係を説明した図
【
図8】本発明の一実施形態に係る入力信号CK1及びCK2のタイミングを説明した図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る感圧センサの実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る感圧センサの実施形態の構成を示す図である。
図1の(a)は、感圧センサの初期状態と加圧状態とを示す断面図であり、
図1の(b)は、感圧センサの層及びフィルムを分解した斜視図である。この感圧センサは、1つ以上のシフトレジスタを備えるスキャンドライバ6(走査駆動回路)が形成された第1の基材と、スキャンドライバ6(走査駆動回路)に接続された複数の駆動電極1とが一方の面に積層された上部マトリクスフィルム4(第2の基材)と、複数の検出電極2が積層された下部マトリクスフィルム5(第3の基材)と、上部マトリクスフィルム4と下部マトリクスフィルム5との間に積層された感圧導電材料層3とを含む。また、下部マトリクスフィルム5上に積層された第4の基材には、複数の検出電極2に接続された1つ以上のシフトレジスタを備えるデータセレクタ7(出力選択回路)がさらに形成されている。駆動電極1と検出電極2とは、上部マトリクスフィルム4と下部マトリクスフィルム5とを積層した際に、平面視において交差する態様で配置されており、感圧導電材料層3を介したそれらの交差点各々が感圧センサの配列を構成する。なお、駆動電極1およびスキャンドライバ6は、上部マトリクスフィルム4の感圧導電材料層3と向き合う面に積層されている。なお、第1乃至第4の基材は可撓性を有するフィルム基材であることが好ましい。
【0019】
図2は、本発明に係る感圧センサの実施形態の回路構成を示す図である。スキャンドライバ6およびデータセレクタ7は、各々、TFTと薄膜キャパシタとで構成された回路であり、上部マトリクスフィルム4及び下部マトリクスフィルム5とは別のフィルム基材(第1の基材及び第4の基材)上に印刷プロセスを用いて積層して作製され、それぞれ上部マトリクスフィルム4及び下部マトリクスフィルム5に貼付実装されている。以下では、特に断らない限り、第1の基材とこれに積層されたスキャンドライバ6とを単にスキャンドライバ6と呼び、第4の基材とこれに積層されたデータセレクタ7とを単にデータセレクタ7と呼ぶ。
【0020】
スキャンドライバ6は、各駆動電極1を順次に選択し、選択された駆動電極1に駆動電圧V2を印加する機能を有する。非選択時の駆動電極1は高インピーダンス状態に保持される。入力信号ST1,CK1+,CK1−,V1を全てLレベル電圧にすることにより、全ての駆動電極1を同時に選択することもできる。
【0021】
データセレクタ7は、各検出電極2から出力電圧を検出する電極を順次に選択する機能を有する。非選択時の検出電極2は高インピーダンス状態に保持される。入力信号ST2,CK2+,CK2−,V1を全てLレベル電圧にすることにより、全ての検出電極を同時に選択することもできる。
【0022】
スキャンドライバ6及びデータセレクタ7内にある静電気保護素子8は、TFTのゲート端子を浮遊端子とすることによって形成できる浮遊ゲートTFT型保護素子である。
【0023】
本実施形態ではp型TFTを用いているが、n型を用いても良い。その場合は入出力信号の位相が反転することになる。
【0024】
図3は、スキャンドライバ6及びデータセレクタ7の貼付構造を説明する図である。スキャンドライバ6及びデータセレクタ7に余分な圧力が加わらないように、
図3の(a)に示すように、下部マトリクスフィルム5は、データセレクタ7及び複数の駆動電極1が積層された面が上部マトリクスフィルム4に面するように積層されており、上部マトリクスフィルム4のデータセレクタ7に面する箇所が刳り貫かれている。また、
図3の(b)に示すように、上部マトリクスフィルム4は、スキャンドライバ6及び複数の駆動電極1が積層された面が下部マトリクスフィルム5に面するように積層されており、下部マトリクスフィルム5のスキャンドライバ6に面する箇所が刳り貫かれている。
【0025】
図4は、スキャンドライバ6及びデータセレクタ7に用いるTFTの層構造を説明する図である。可撓性を有するフィルム基材9(第1の基材及び第4の基材に相当)と、ゲート電極層10と、ゲート絶縁層11と、ソース・ドレイン電極層12と、半導体層14と、半導体保護層15と、層間絶縁層16と、層間配線層17とを備える。フィルム基材を除く全ての層は凸版印刷法、反転オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の各種印刷方法を用いて形成することが可能である。印刷方法を用いれば真空成膜方法に比べて低温環境下で形成し易いため、フィルム等の可撓性を有する基材に形成することが容易である。
【0026】
図5は、引出し配線削減の概念を説明する図である。
図5の(a)に示すように、従来技術に係る配線引出し形態では、m行n列マトリクスの場合、m+n本の配線を外部へ引出す必要があった。
【0027】
本実施形態に係る引出し配線は、
図5の(b)に示すように、引出し配線数は10本になる(COM,V1,V2,ST1,ST2,CK1+,CK1−,CK2+,CK2−,VOUT)。この形態では、引出し配線数がm及びnに依存しないため、マトリクスのm及びnが大きくなる程、引出し配線削減効果が大きくなる。
【0028】
次に、スキャンドライバ6及びデータセレクタ7の構成単位であるシフトレジスタ(1段分)について詳細に説明する。
【0029】
図6は、シフトレジスタ(1段分)の回路構成及び動作を説明する図である。
図7は、入力信号CK+及び−の位相関係を説明した図である。シフトレジスタは、保持キャパシタ23に入力信号(電位/電荷)を注入(充電)する機能を有する入力TFT18と、次段の入力TFT18へ信号(電位/電荷)を転送する機能を有する転送TFT19と、保持キャパシタから電荷を放出(放電)する機能を有するリセットTFT20と、非選択期間(TRNがHレベルの期間)において、OFFしている転送TFT19から漏れる電荷をV1へ排出する機能を有するシャントTFT21と、選択期間(TRNがLレベルの期間)のみV2をOUTに出力し、非選択期間はOUTを高インピーダンス状態にする機能を有する出力TFT22と、入力信号(電位/電荷)を保持する機能を有する保持キャパシタ23と、TRNの電位を安定させる機能を有する安定化キャパシタ24とを備える。シャントTFT21は、転送TFT19に比べて、サイズ(チャネル幅/チャネル長)を1/10以下程度に小さく設計することが望ましい。
【0030】
各段のシフトレジスタにはクロック信号CKが転送TFT19に、ハイレベル定電圧源V1がリセットTFT20に接続されており、CKがハイレベルのタイミングで入力信号INのローレベルパルスが入力TFT18に入力されると、INからCK半周期分遅れたローレベルパルス信号TRNを転送TFT19より出力する。TRNパルスにより出力TFT22が駆動され、ON状態になる。TRNパルスを出力した直後には、RSTパルスをリセットTFT20に入力し、ノードNAで保持していたローレベル電位をハイレベルにリセットする必要がある。
【0031】
図6の単段シフトレジスタを
図2に示す様に直列多段に接続(隣接する前段OUTと後段INを接続し、さらに後段OUTを前段RSTにも接続する)し、奇数段と偶数段各々に
図7に示す位相が反転しているクロック信号CK+とCK−とを接続し、初段INと終段RSTとにトリガパルス信号STを入力することにより(初段INと終段RSTとのパルスタイミングが同時になるように、総段数に応じてパルス周期を調節する必要がある)、各駆動電極及び各検出電極に順次走査パルスを印加する回路を実現できる。
【0032】
図8は、スキャンドライバ6及びデータセレクタ7の入力信号CK1及びCK2のタイミングを説明した図である。なお、入力信号ST1及びST2のパルス幅は、入力信号CK1及びCK2の半周期相当が望ましい。
【0033】
湿式成膜が原則である印刷プロセスでは、真空工程とフォトリソグラフィを用いる他の半導体プロセスと比較して、微細形状のパターニング制約が厳しい。従って、多数のTFTが複雑に接続する回路を作製することは比較的不向きといえる。この事情を鑑み、
図6のシフトレジスタでは、必要最小限の構成素子(入力TFT18、転送TFT19、リセットTFT20、出力TFT22)に、シャントTFT21と、キャパシタを追加したシンプルな回路構成としている。
【0034】
以上で開示した実施形態によれば、感圧センサの可撓性を損なうことなく、外部への引出配線数を削減することができ、接続端子や配線レイアウトのスペースを削減できるので、駆動電極及び検出電極の本数を増やすことが容易となる。
【0035】
また、スキャンドライバ6及びデータセレクタ7を駆動電極1及び検出電極2を形成する基材とは異なる基材上にそれぞれ形成し、貼り付ける構成とするにより、感圧センサの基材(上部マトリクスフィルム4及び下部マトリクスフィルム5)のサイズに依存することなく作製できるようになり、多種多様なサイズ/形状の感圧センサ作製への対応が容易となる。
【0036】
また、上部マトリクスフィルム4と下部マトリクスフィルム5とを貼り合せる際に、下部マトリクスフィルム5のスキャンドライバ6に面する箇所及び上部マトリクスフィルム4のデータセレクタ7に位置する箇所をそれぞれ刳り貫いておくことにより、スキャンドライバ6及びデータセレクタ7に余分な圧力をかけることがなくなり、断線等の回路破損の発生を防止することができる。
【0037】
また、スキャンドライバ6、データセレクタ7に含まれるシフトレジスタは、入力TFTと、転送TFTと、リセットTFTと、シャントTFTと、出力TFTとを含む必要最小限の回路構成とすることにより、回路構造が複雑にならずに印刷プロセスで安価に作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、エレクトロニクス、ロボテクス、機械工学等の分野への応用が期待できる。
【符号の説明】
【0039】
1 駆動電極
2 検出電極
3 感圧導電材料層
4 上部マトリクスフィルム(第2の基材)
5 下部マトリクスフィルム(第3の基材)
6 スキャンドライバ(走査駆動回路)
7 データセレクタ(出力選択回路)
8 静電気保護素子(浮遊ゲートTFT型)
9 フィルム基材
10 ゲート電極層
11 ゲート絶縁層
12 ソース・ドレイン電極層
14 半導体層
15 半導体保護層
16 層間絶縁層
17 層間配線層
18 入力TFT
19 転送TFT
20 リセットTFT
21 シャントTFT
22 出力TFT
23 保持キャパシタ
24 安定化キャパシタ