(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0012】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
【0013】
なお、同図において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0014】
この空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17と、インナーライナ18と、チェーファ20とを備える(
図1参照)。
【0015】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0016】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造あるいは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、左右のビードコア間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0017】
例えば、
図1の構成では、カーカス層13が、単層構造を有し、左右のビードコア11、11間に連続して架け渡されている。また、カーカス層13の両端部が、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止されている。
【0018】
しかし、これに限らず、カーカス層13が、左右一対のカーカスプライから成り、トレッド部に分断部を有してタイヤ幅方向に分離した構造(カーカス分割構造)を有しても良い(図示省略)。具体的には、左右一対のカーカスプライのタイヤ径方向内側の端部が、タイヤ左右のビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側にそれぞれ巻き返されて係止される。また、左右一対のカーカスプライのタイヤ径方向外側の端部が、トレッド部センター領域にてタイヤ幅方向に相互に分離して配置される。かかるカーカス分割構造では、トレッド部センター領域に中抜き部(カーカスプライを有さない領域)が形成される。このとき、この中抜き部におけるタイヤの張力がベルト層14により担持され、左右のサイドウォール部における剛性が左右のカーカス層13、13によりそれぞれ確保される。これにより、タイヤの内圧保持能力およびサイドウォール部の剛性が維持されつつ、タイヤの軽量化が図られる。
【0019】
また、カーカスコードのコートゴムの60[℃]のtanδ値が、0.20以下であることが好ましい。また、カーカスコードのコートゴムの体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上であることが好ましい。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率を有するコートゴムは、例えば、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用することにより生成される。さらに、コートゴムは、シリカを使用せずに構成されても良いし、シリカを含有させて補強されても良い。
【0020】
60[℃]のtanδ値は、(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±0.5%、周波数20Hzの条件で測定される。
【0021】
体積抵抗率(体積固有抵抗)は、JIS−K6271規定の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」に基づいて測定される。一般に、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満、もしくは表面抵抗率が1×10^8[Ω/cm]未満の範囲にあれば、部材が静電気の帯電を抑制可能な導電性を有するといえる。
【0022】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。
【0023】
一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上65[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。
【0024】
ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成るベルトコードをコートゴムで被覆して成り、一対の交差ベルト141、142をタイヤ径方向外側から覆って配置される。かかる構成では、ベルトカバー143がタガ効果を発揮してタイヤの径成長を抑制することにより、タイヤ性能が向上する。
【0025】
例えば、
図1の構成では、ベルトカバー143が、有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して成るストリップ材であり、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のベルト角度を有しつつ交差ベルト141、142の外周に螺旋状に巻き付けられて配置されている。また、ベルトカバー143が、一対の交差ベルト141、142の幅方向の全域に渡って配置されている。
【0026】
なお、上記に限らず、ベルトカバー143が、1本のベルトコードをコートゴムで被覆して成る部材から構成されても良い。また、ベルトカバー143が、タイヤ幅方向の一部の領域に配置されても良い。例えば、ベルトカバー143が、トレッド部センター領域(特に、後述するアーストレッド51の径方向内側の領域)に部分的に配置される構成が想定される。
【0027】
また、ベルトカバー143のコートゴムの60[℃]のtanδ値が、0.20以下であることが好ましい。また、ベルトカバー143のコートゴムの体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上であることが好ましい。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率を有するコートゴムは、例えば、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用することにより生成される。さらに、コートゴムは、シリカを使用せずに構成されても良いし、シリカを含有させて補強されても良い。
【0028】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。また、トレッドゴム15は、キャップトレッド151と、アンダートレッド152とを有する。
【0029】
キャップトレッド151は、タイヤ接地面を構成するゴム部材であり、単層構造を有しても良いし(
図1参照)、多層構造を有しても良い(図示省略)。キャップトレッド151の60[℃]のtanδ値は、0.25以下であることが好ましい。また、キャップトレッド151の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつキャップトレッド151は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
【0030】
アンダートレッド152は、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層される部材である。アンダートレッド152の体積抵抗率は、キャップトレッド151の体積抵抗率よりも低いことが好ましい。
【0031】
一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。サイドウォールゴム16の60[℃]のtanδ値は、0.20以下であることが好ましい。また、サイドウォールゴム16の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつサイドウォールゴム16は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
【0032】
一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されて、リムRのリムフランジ部に対する左右のビード部の接触面を構成する。リムクッションゴム17の体積抵抗率は、1×10^7[Ω・cm]以下であることが好ましい。
【0033】
なお、キャップトレッド151の体積抵抗率の上限値、アンダートレッド152の体積抵抗率の下限値、サイドウォールゴム16の体積抵抗率の上限値およびリムクッションゴム17の体積抵抗率の下限値は、特に限定がないが、これらがゴム部材であることから物理的な制約を受ける。
【0034】
インナーライナ18は、タイヤ内表面に配置されてカーカス層13を覆う空気透過防止層であり、カーカス層13の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。また、インナーライナ18は、例えば、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物などから構成される。特に、インナーライナ18が熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマー組成物から成る構成では、インナーライナ18がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ18を薄型化できるので、タイヤ重量を大幅に軽減できる。
【0035】
なお、インナーライナ18の空気透過係数は、一般に、温度30[℃]でJIS K7126−1に準拠して測定した場合に、100×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることが好ましく、50×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることがより好ましい。また、インナーライナ18の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、一般に1×10^9[Ω・cm]以上であることが好ましい。
【0036】
ブチルゴムを主成分とするゴム組成物としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)などが採用され得る。ブチル系ゴムは、例えば、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などが採用され得る。
【0038】
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などが採用され得る。
【0039】
[帯電抑制構造]
空気入りタイヤでは、車両走行時にて車両に発生する静電気を路面に放出するために、アーストレッドを用いた帯電抑制構造が採用されている。アーストレッドは、トレッドゴムに埋設されてタイヤ接地面に露出する導電ゴムである。この帯電抑制構造では、車両からの静電気がベルト層からアーストレッドを介して路面に放出されて、車両の帯電が抑制される。
【0040】
また、一般的な空気入りタイヤでは、ベルトカバーが、ベルト層の最外層に配置されて、交差ベルトとトレッドゴムとの間に介在する。このため、ベルトカバーが、交差ベルトからアーストレッドへの導電経路上にある。
【0041】
一方で、近年では、タイヤの転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上させるために、タイヤのゴム部材を構成するコンパウンドのシリカ含有量を増加させる傾向にある。シリカは絶縁特性が高いため、ゴム部材のシリカ含有量が増加すると、ゴム部材の抵抗値が増加して、タイヤの帯電抑制性能が低下する。かかるゴム部材には、ベルトカバーのコートゴムが含まれる。
【0042】
このため、従来の空気入りタイヤでは、タイヤの帯電抑制性能を高めるために、交差ベルトからアーストレッドに至る導電経路を確保すべき課題がある。
【0043】
そこで、この空気入りタイヤ1は、タイヤの帯電抑制性能を向上させるために、以下の構成を採用している。
【0044】
図2は、
図1に記載した空気入りタイヤの帯電抑制構造を示す説明図である。同図は、トレッド部のタイヤ子午線方向の拡大断面図を示している。また、同図において、アーストレッド51および導電部52にはハッチングを付してある。
【0045】
図1に示すように、この空気入りタイヤ1は、帯電抑制構造5として、アーストレッド51および導電部52を備える。
【0046】
アーストレッド51は、
図2に示すように、トレッドゴム15の踏面に露出し、キャップトレッド151およびアンダートレッド152を貫通してベルト層14(ベルトカバー143)に導電可能に接触する。これにより、ベルト層14から路面への導電経路が確保される。また、アーストレッド51は、タイヤ全周に渡って延在する環状構造を有し、その一部をトレッド踏面に露出させつつタイヤ周方向に連続的に延在する。したがって、タイヤ転動時にて、アーストレッド51が常に路面に接触することにより、ベルト層14から路面への導電経路が常に確保される。
【0047】
また、アーストレッド51は、トレッドゴム15よりも低い体積抵抗率を有する導電性ゴム材料から成る。具体的には、アーストレッド51の体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満であることが好ましく、1×10^6[Ω・cm]以下であることがより好ましい。
【0048】
図3および
図4は、
図2に記載した導電部の配置構造を示す説明図である。
図5は、単体の導電部を示す説明図である。これらの図は、ベルトカバー143および導電部52の平面図(
図3)および径方向断面図(
図4)を模式的に示している。また、
図5は、導電部52の撚り線構造を示している。
【0049】
導電部52は、ベルトカバー143の内周面と外周面とを導通させる部材である。ベルトカバー143の内周面は、ベルトカバー143の径方向内側の周面であり、交差ベルト141、142側にある。ベルトカバー143の外周面は、ベルトカバー143の径方向外側の周面であり、トレッドゴム15(151、152)側にある。導電部52は、例えば、(a)1×10^8[Ω・cm]未満(好ましくは、1×10^6[Ω・cm]未満)の体積抵抗率を有するゴム部材、(b)1×10^8[Ω・cm]未満(好ましくは、1×10^6[Ω・cm]未満)の体積抵抗率を有する塗料あるいはペースト、(c)1×10^8[Ω/cm]未満(好ましくは、1×10^6[Ω/cm]未満)の線抵抗をもつ導電物質から成る導電線状体などから構成され得る。
【0050】
例えば、
図3および
図4の構成では、上記のように、ベルトカバー143が、複数のベルトコード1431をコートゴム1432で被覆して圧延加工して成るストリップ材であり、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のベルト角度を有しつつ外側交差ベルト142の外周に螺旋状に巻き付けられて配置されている。また、ベルトコード1431が有機繊維材から成ることにより、タイヤが軽量化されている。また、コートゴム1432がシリカ含有量を増加させた低発熱コンパウンドから成ることにより、タイヤの転がり抵抗が高められている。このため、ベルトカバー143が、絶縁体であり、1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を有している。
【0051】
また、
図3および
図4に示すように、導電部52が、ベルトカバー143に差し込まれて、ベルトカバー143のタイヤ径方向の内周面および外周面に露出している。具体的には、また、導電部52が、ベルトカバー143であるストリップ材の周回部(ピッチ)の隙間に差し込まれて、ベルトカバー143をタイヤ径方向に貫通している。また、導電部52が、タイヤ幅方向に対して略平行に延在して、ストリップ材の隣り合う周回部に跨って配置されている。また、導電部52の一方の端部がベルトカバー143の径方向外側に露出し、他方の端部がベルトカバー143の径方向内側に露出している。そして、導電部52の一方の端部が、ベルトカバー143の内径側にて外側交差ベルト142の外周面に接触し、ベルトカバー143の外径側にてトレッドゴム15(アンダートレッド152)の内周面に接触している(
図2参照)。これにより、導電部52が、外側交差ベルト142からトレッドゴム15への導通経路を形成している。
【0052】
また、
図3および
図4の構成では、導電部52が、導電線状体521を含む線状構造を有している。かかる導電部52は、少なくとも1本の導電線状体521を含む複数本の線状体を撚り合わせて成る撚り線構造を有しても良いし(
図5参照)、導電物質から成る単線のコードであっても良い(図示省略)。導電部52が線状構造を有する構成では、導電部がタイヤに追加設置されたゴム層から成る構成と比較して、タイヤの転がり抵抗が小さい点で好ましい。
【0053】
導電線状体521は、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電物質を線状に成形して成る線状体である。したがって、導電線状体521は、導電性物質から成る単繊維自体、糸自体、あるいは、コード自体を意味する。したがって、例えば、金属や炭素繊維などから成るコード、ステンレスなどの金属を繊維化して成る金属繊維などが、導電線状体521に該当する。
【0054】
導電部52の撚り線構造(
図5参照)としては、例えば、(1)複数本の炭素繊維を撚り合わせて成る構造、(2)1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率を持つ導電線状体521と、1×10^8[Ω/cm]以上の電気抵抗率をもつ非導電線状体522とを撚り合わせて成る構造などが挙げられる。線状体の撚り線構造は、特に限定がなく、任意のものを採用できる。
【0055】
上記(2)における非導電線状体522としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などを採用できる。特に、導電部52が、金属繊維から成る導電線状体521と、ポリエステル繊維から成る非導電線状体522とを撚り合わせて成る混紡糸であることが好ましい。
【0056】
電気抵抗率[Ω/cm]は、繊維の糸長方向に長さ3[cm]以上の試験片を採取し、試験片の間(両端間)に500[V]の電圧をかけて、測定環境20[℃]、20[%]RHの条件下、東亜電波工業社製の抵抗値測定機「SME−8220」を使用して測定される。
【0057】
また、導電部52の総繊度が、20[dtex]以上1000[dtex]以下の範囲にあることが好ましく、150[dtex]以上350[dtex]以下の範囲にあることがより好ましい。総繊度の下限を上記の範囲とすることにより、タイヤ製造時における導電部52の断線が抑制される。また、総繊度の上限を上記の範囲とすることにより、タイヤ転動時における導電部52の断線が抑制される。
【0058】
総繊度は、JIS L 1017化学繊維タイヤコード試験方法 8.3 正量繊度に準拠して測定される。
【0059】
また、導電部52の伸度が、1.0[%]以上70.0[%]以下の範囲にあることが好ましい。伸度を1.0[%]以上とすることにより、タイヤ製造時における導電部52の断線が抑制される。また、伸度を70.0[%]以下とすることにより、タイヤ転動時における導電部52の断線が抑制される。
【0060】
線状体の伸度は、JIS L 1017化学繊維タイヤコード試験方法 8.5 引張り強さ及び伸度に準拠して測定される。
【0061】
上記の構成では、車両に発生した静電気が、リムRからリムクッションゴム17、導電部52およびベルト層14を通ってアーストレッド51から路面に放出される。これにより、静電気による車両の帯電が抑制される。また、導電部52が、絶縁性をもつベルトカバー143の内周面と外周面とを導通させる導電経路を形成する。これにより、最外交差ベルト142からアーストレッド51への導電性が向上して、タイヤの帯電抑制性能が向上する利点がある。
【0062】
なお、リムクッションゴム17、カーカス層13のコートゴムおよびベルト層14のコートゴムは、リムRからアーストレッド51に至る導電経路となる。このため、これらのゴムの体積抵抗率が低く設定されることにより、リムRからアーストレッド51に至る導電効率が向上する。
【0063】
また、上記の構成では、アーストレッド51と、導電部52との距離D(
図2参照)が、0[mm]≦D≦40[mm]の範囲にあることが好ましい。これにより、導電部52からアーストレッド51への導電性が確保される。
【0064】
距離Dは、アーストレッド51と導電部52との最短距離として測定される。例えば、
図2の構成では、アーストレッド51のタイヤ径方向内側の端部と導電部52のエッジ部との距離DがD≦40[mm]の範囲内にある。なお、距離DがD=0である場合には、アーストレッド51と導電部52とが接触する。
【0066】
図3の構成では、導電部52が、長手方向をタイヤ幅方向に略平行にして配置されている。これに対して、
図6の構成では、導電部52が、長手方向をタイヤ幅方向に対して傾斜させて配置される。このように、導電部52が傾斜して配置されても良い。
【0067】
図7〜
図10の構成では、導電部52が、長尺構造を有し、長手方向をタイヤ幅方向に対して傾斜させつつ、ストリップ材の複数の周回部に跨って一方向に延在している。かかる構成では、導電部52の配置領域がタイヤ周方向に分散するため、導電部52の配置に起因するタイヤ周方向の剛性のアンバランスが緩和される。これにより、タイヤのユニフォミティが向上する。また、
図7および
図8の構成では、導電部52が、ストリップ材の周回部の1つの隙間を通って、ストリップ材の径方向外側および径方向内側の双方に露出している。また、
図9および
図10の構成では、導電部52が、ベルトカバー143に織り込まれて配置されている。具体的には、導電部52が、ストリップ材の周回部の隙間を通ってベルトカバー143に織り込まれ、タイヤ幅方向に向かってベルトカバー143の径方向内側および径方向外側に交互に露出する。これにより、導電部52の両端部がベルトカバー143の径方向内側および径方向外側に交互に露出し、また、導電部52が安定的に保持される。
【0068】
なお、導電部52の延在長さは、ベルトカバー143の径方向内側領域および径方向外側領域にて、それぞれ2.0[mm]以上であることが好ましい。これにより、各領域における導電部52の導電性が確保される。
【0069】
図11〜
図14の構成では、導電部52が、ストリップ材を挟み込んで配置される。例えば、
図11および
図12の構成では、短尺な導電部52が、ストリップ材の周回部の隙間に挿入されて折り返されて、ストリップ材の1つの周回部のみを径方向内側および径方向外側から挟み込んで配置されている。
図13および
図14の構成では、長尺な導電部52が、ベルトカバー143のエッジ部で折り返されて、ベルトカバー143の全体あるいはストリップ材の複数の周回部を挟み込んで配置されている。
【0070】
図15および
図16の構成では、長尺な導電部52が、ストリップ材の一部に螺旋状に巻き付けられて配置される。
【0071】
図17〜
図19は、
図3に記載した導電部の配置構造の変形例を示す説明図である。これらの図は、ベルトカバー143および導電部52の平面図を模式的に示している。
【0072】
図3の構成および
図6〜
図16の変形例の構成では、上記のように、導電部52が、
図5に示すような導電線状体から成る。
【0073】
しかし、これに限らず、導電部52が導電性を有するゴム部材、塗料、ペーストなどから構成されても良い。かかる場合においても、
図3、
図6〜
図16と同様な導電部52の配置構成を採用できる。例えば、導電部52が導電性のゴムシートから成る構成では、以下の配置構造が採用され得る。
【0074】
図17の構成では、導電部52が、矩形のゴムシートであり、
図3および
図4の構成と同様に、ストリップ材の周回部の隙間に差し込まれて、ベルトカバー143をタイヤ径方向に貫通して配置される。また、導電部52の一方の領域がベルトカバー143の径方向外側に露出し、他方の領域がベルトカバー143の径方向内側に露出する。
【0075】
図18および
図19の構成では、導電部52が、長尺なゴムシートであり、
図7〜
図10の構成と同様に、長手方向をタイヤ幅方向に対して傾斜させつつ、ストリップ材の複数の周回部に跨って一方向に延在している。また、
図18では、導電部52が、
図7および
図8の構成と同様に、ストリップ材の周回部の1つの隙間のみを通って配置されている。また、
図19では、導電部52が、
図9および
図10の構成と同様に、ベルトカバー143に織り込まれて配置されている。また、導電部52が、
図11および
図12のように、ストリップ材の1つの周回部を挟み込んで配置されても良いし(図示省略)、
図13および
図14のように、ベルトカバー143の全体あるいはストリップ材の複数の周回部を挟み込んで配置されても良い(図示省略)。
【0076】
また、例えば、導電部52が塗料あるいはペーストから成る構成では、導電塗料あるいは導電ペーストをベルトカバー143あるいはストリップ材に対して
図3、
図4、
図6〜
図19の構成と同様の位置に塗布できる(図示省略)。かかる構成としても、ベルトカバー143の径方向内側面から径方向外側面への導電性を確保できる。
【0077】
図20および
図21は、
図3および
図4に記載した導電部の配置構造の変形例を示す説明図である。これらの図は、ベルトカバー143および導電部52の平面図(
図20)およびタイヤ子午線方向の断面図(
図21)をそれぞれ模式的に示している。
【0078】
図3および
図4の構成では、ベルトカバー143のストリップ材と導電部52とが、相互に別部材から成る。しかし、これに限らず、導電部52が、ストリップ材に一体化されても良い。
【0079】
例えば、
図20および
図21の構成では、ベルトカバー143のストリップ材が、有機繊維材から成る複数のベルトコード1431と、導電線状体521から成る導電部52(例えば、
図5参照)とを引き揃えて絶縁性のコートゴム1432で被覆して構成される。そして、このストリップ材が、交差ベルト141、142の外周にタイヤ周方向に螺旋状に巻き回されて配置される(
図1および
図2参照)。このため、導電部52が、タイヤ周方向に螺旋状に周回して配置される。また、導電部52が、ベルトカバー143の外周面に露出していない。かかる構成としても、ベルトカバー143の径方向内周側と径方向外周側との導電性が、導電部52により確保される。
【0080】
図22は、
図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。同図は、アーストレッド51と導電部52との位置関係を模式的に示している。なお、実際の製品タイヤでは、各タイヤ部材142、143、152が密着して配置される。
【0081】
図1の構成では、上記した
図2に示すように、アーストレッド51が、トレッドゴム15の踏面に露出し、キャップトレッド151およびアンダートレッド152を貫通してベルトカバー143に導電可能に接触している。
【0082】
しかし、これに限らず、
図22に示すように、アーストレッド51がキャップトレッド151のみを貫通して終端することにより、アンダートレッド152がアーストレッド51とベルトカバー143との間に介在しても良い。このとき、アーストレッド51と導電部52との距離Dが、D≦40[mm]の範囲にあることにより、導電部52からアーストレッド51への導電性が確保される。
【0083】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードコア11、11間に連続して或いはトレッド部で分断部を有して架け渡される少なくとも1層のカーカス層13と、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置される一対の交差ベルト141、142と、有機繊維材から成るベルトコード1431を1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を有するコートゴム1432で被覆して成ると共に一対の交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に配置されるベルトカバー143(
図4参照)と、1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を有すると共にベルトカバー143のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴム15と、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(
図1参照)。また、空気入りタイヤ1は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共にトレッドゴム15に埋設されてタイヤ接地面に露出するアーストレッド51と、ベルトカバー143の内周面と外周面とを導通させる導電部52とを備える(
図2〜
図4参照)。
【0084】
かかる構成では、導電部52が、絶縁性をもつベルトカバー143の内周面と外周面とを導通させる導電経路を形成する。これにより、最外交差ベルト142からアーストレッド51への導電性が向上して、タイヤの帯電抑制性能が向上する利点がある。
【0085】
また、ベルトカバー143のコートゴム1432(
図4参照)が、1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を有する。かかるコートゴム1432は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。これにより、タイヤの転がり抵抗が低減される利点がある。
【0086】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52が、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有するゴム部材である。これにより、導電部52の導電性が確保される利点がある。
【0087】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52が、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有する塗料あるいはペーストである。これにより、導電部52の導電性が確保される利点がある。
【0088】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52が、1×10^8[Ω/cm]未満の線抵抗をもつ導電物質から成る導電線状体521を有する。これにより、導電部52の導電性が確保される利点がある。また、かかる構成では、導電部52が導電性のゴム部材から成る構成と比較して、タイヤの転がり抵抗が低減される利点がある。
【0089】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52の導電線状体521が、20[dtex]以上1000[dtex]以下の総繊度をもつ繊維から成る。これにより、導電線状体521の総繊度が適正化される利点がある。すなわち、総繊度が20[dtex]以上であることにより、タイヤ製造時における導電部52の断線が抑制される。また、総繊度が1000[dtex]以下であることにより、タイヤ転動時における導電部52の断線が抑制される。
【0090】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52の導電線状体521の伸度が、1.0[%]以上70.0[%]以下である。これにより、導電部52の伸度が適正化される利点がある。すなわち、伸度が1.0[%]以上であることにより、タイヤ製造時における導電部52の断線が抑制される。また、伸度が70.0[%]以下であることにより、タイヤ転動時における導電部52の断線が抑制される。
【0091】
また、この空気入りタイヤ1では、アーストレッド51と導電部52との距離Dが、0[mm]≦D≦40[mm]の範囲内にある。これにより、導電部52からアーストレッド51への導電性が確保される利点がある。
【0092】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52が、長尺形状を有し、長手方向をタイヤ幅方向に傾斜させて配置される(例えば、
図7および
図9参照)。かかる構成では、導電部52の配置領域がタイヤ周方向に分散するため、導電部52の配置に起因するタイヤ周方向の剛性のアンバランスが緩和される。これにより、タイヤのユニフォミティが向上する利点がある。
【0093】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52が、ベルトカバー143に織り込まれて配置される(例えば、
図9および
図10参照)。これにより、導電部52が安定的に導通する利点がある。
【0094】
また、この空気入りタイヤ1では、導電部52が、ベルトカバー143の一部あるいは全部を挟み込んで配置される(
図11〜
図14参照)。これにより、導電部52が安定的に導通する利点がある。
【0095】
また、この空気入りタイヤ1では、ベルトカバー143が、ストリップ材から成る。また、導電部52が、前記ストリップ材に螺旋状に巻き付けられて配置される(
図15および
図16参照)。これにより、導電部52が安定的に導通する利点がある。
【0096】
また、この空気入りタイヤ1では、ベルトカバー143が、ストリップ材から成る。また、ストリップ材が、有機繊維材から成る複数のベルトコード1431と、導電線状体521から成る導電部52(例えば、
図5参照)とを引き揃えて絶縁性のコートゴム1432で被覆して構成される(
図20および
図21参照)。かかる構成では、導電部52がベルトカバー143のストリップ材に一体化されるので、導電部52の設置工程を容易化できる利点がある。
【0097】
また、この空気入りタイヤ1では、サイドウォールゴム16の体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にある。かかるサイドウォールゴム16は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。これにより、タイヤの転がり抵抗が低減される利点がある。
【0098】
また、この空気入りタイヤ1では、カーカス層13の内周面に配置されるインナーライナ18を備える(
図1参照)。また、インナーライナ18の空気透過係数が、50×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下である。かかる低い空気透過係数をもつインナーライナ18を採用することにより、インナーライナ18の厚さを薄くできる。これにより、インナーライナ18を軽量化して、タイヤ重量を低減できる利点がある。
【0099】
また、この空気入りタイヤ1では、インナーライナ18が、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から成る。かかる構成では、インナーライナ18がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ18の空気透過性を低減できる利点があり、また、タイヤ重量を軽減してタイヤの転がり抵抗を低減できる利点がある。
【実施例】
【0100】
図23は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【0101】
この性能試験では、相互に異なる複数の試験タイヤについて、(1)低転がり抵抗性能および(2)帯電抑制性能(電気抵抗値)に関する評価が行われた。この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15 91Hの試験タイヤが試作されて用いられる。
【0102】
(1)低転がり抵抗性能に関する評価では、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機が用いられ、JATMA Y/B 2012年版の測定方法に準拠して、タイヤの転がり抵抗が測定される。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、好ましい。また、数値が99以上であれば、許容範囲内にあるといえる。
【0103】
(2)帯電抑制性能に関する評価では、JATMA規定の測定条件に基づき、ADVANTEST R8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータが使用されてタイヤの電気抵抗[Ω]が測定される。また、電気抵抗が、タイヤ新品時と所定条件下での走行後とで、それぞれ測定される。走行後の電気抵抗は、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機が用いられ、試験タイヤをJATMA規定の適用リムに組み付け、試験タイヤに空気圧200[kPa]およびJATMA規定の最大荷重の80%を付与し、速度81[km/h]にて60分間の走行後に測定される。この評価は、数値が小さいほど放電性に優れており、好ましい。
【0104】
実施例1〜5の試験タイヤは、
図1および
図2の構成を基本とし、アーストレッド51と、導電線状体を含む導電部52とを備える。ベルトカバー143が、有機繊維材から成る複数本のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して成るストリップ材であり、このストリップ材を交差ベルト141、142の外周にタイヤ周方向に螺旋状に巻き回して構成される(
図3および
図4参照)。また、実施例1では、導電部52が、導電性のゴムシートであり、
図17の配置構造を有する。また、実施例2〜5では、導電部52が、ポリエステル繊維とステンレス繊維とを撚り合わせた「混紡糸」であり(
図5参照)、
図3および
図4の配置構造を有する。
【0105】
従来例の試験タイヤは、実施例1において、導電部52を備えていない。比較例の試験タイヤは、従来例において、ベルトカバーのコートゴムが、導電性材料から成る。
【0106】
試験結果に示すように、実施例1〜5の試験タイヤでは、タイヤの低転がり抵抗性能を確保しつつ帯電抑制性能を向上できることが分かる。