(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354435
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
C23C14/34 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-159338(P2014-159338)
(22)【出願日】2014年8月5日
(65)【公開番号】特開2016-37610(P2016-37610A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昌芳
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/104925(WO,A2)
【文献】
特表2015−508456(JP,A)
【文献】
特開平06−057418(JP,A)
【文献】
特開2013−181221(JP,A)
【文献】
特開2002−155356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の短尺ターゲット材の内周にボンディング材により円筒形の短尺バッキングチューブを接合してなる複数のターゲットユニットと、これらターゲットユニットが相互に隣接状態にかつ導電性介在物を介して外周に取り付けられた円筒形の長尺バッキングチューブとを有し、
前記導電性介在物は、導電性液体または導電性ペーストであり、前記短尺バッキングチューブどうしの間に弾性シール部材が設けられている円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項2】
円筒形の短尺ターゲット材の内周にボンディング材により円筒形の短尺バッキングチューブを接合してなる複数のターゲットユニットを作製しておき、これらターゲットユニットを円筒形の長尺バッキングチューブの外周に相互に隣接状態にかつ導電性介在物を介して取り付ける方法であり、
前記導電性介在物として、導電性液体または導電性ペーストを用い、前記短尺バッキングチューブどうしの間に弾性シール部材を設けることを特徴とする円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置などのスパッタリング装置に用いられる円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関する。
【0002】
マグネトロンスパッタリング装置として、円筒形スパッタリングターゲットを備えたマグネトロンスパッタリング装置がある。このマグネトロンスパッタリング装置においては、円筒形スパッタリングターゲットの内側に磁石を配置するとともに、ターゲットの内側に冷却水を流すことによりターゲットを冷却しつつ、ターゲットを回転させながらスパッタを行う。
【0003】
このようなスパッタリング装置で用いられる円筒形ターゲットとして、例えば、特許文献1では、バッキングチューブとターゲット材料との間に、導電性を有するシート状のカーボンフェルト等の緩衝部材を丸めて挿入した円筒形ターゲットが開示されている。
特許文献2はアークイオンプレーティングに用いられるロッド形蒸発源に関するものであるが、このロッド形蒸発源では、円筒形ターゲットの中空部にバッキングチューブである金属管が挿入され、これらターゲット材内周面と金属管外周面との間に円筒状の金属製バネが介在されている。
特許文献3のスパッタリング用ターゲットでは、バッキングチューブである柱状の基体の外周面に、溶射法により、Mo,Ti,W,Ni等の金属製中間層を介してAl含有Si合金がターゲット層として設けられている。
【0004】
特許文献4では、分割された短尺状のターゲット材の内周側にバッキングチューブである短尺状の基体がインジウム等によって接合されるとともに、基体の両端部に雄ネジ部と雌ネジ部とが形成されており、このネジ部によって基体を直列に連結して長尺状に形成されている。
特許文献5の円筒形スパッタリングターゲットでは、円筒形基材の外周面にインジウム等の接合材を介して円筒形ターゲット材が複数接合され、円筒形ターゲット材どうしが間隔をあけて接合されている。この間隔により、スパッタリング時の熱膨張によるターゲット材の割れを防止できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−155356号公報
【特許文献2】特許第4015874号公報
【特許文献3】特開平5−86462号公報
【特許文献4】特開2013−181221号公報
【特許文献5】特開2008−184640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板の大型化に対応して長尺状の円筒形スパッタリングターゲットが求められているが、上記特許文献記載の技術では以下の問題がある。
特許文献1のシート状のカーボンフェルトや特許文献2の金属製バネを設ける場合は、長尺になるほど、ターゲット材とバッキングチューブとの間にカーボンフェルトや金属製バネを挿入することが難しくなり、無理に挿入すると、セラミックス製ターゲット材の場合には割れが生じるおそれがある。また、特許文献3記載のように溶射法によって形成するのは作業性が悪い。特許文献4記載の技術では長尺のものが製造できるが、ネジ部による連結部分が複数生じるため、長尺になると剛性が不足する。特許文献5に記載の構造は熱膨張対策には優れているが、長尺のバッキングチューブの端から嵌合される各ターゲット材のそれぞれに接合材を隙間なく介在させることは難しい。また、ターゲット材のいずれかに損傷等の不具合が生じた場合であっても全体を交換する必要が生じる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ターゲット材とバッキングチューブとの間の導電性並びに熱伝達性を確保しつつ、全体の剛性を高めながら長尺状に設けることができ、部分的な修復も可能な円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットは、円筒形の短尺ターゲット材の内周にボンディング材により円筒形の短尺バッキングチューブを接合してなる複数のターゲットユニットと、これらターゲットユニットが相互に隣接状態にかつ導電性介在物を介して外周に取り付けられた円筒形の長尺バッキングチューブとを有
し、前記導電性介在物は、導電性液体または導電性ペーストであり、前記短尺バッキングチューブどうしの間に弾性シール部材が設けられている。
【0009】
また、本発明の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、円筒形の短尺ターゲット材の内周にボンディング材により円筒形の短尺バッキングチューブを接合してなる複数のターゲットユニットを作製しておき、これらターゲットユニットを円筒形の長尺バッキングチューブの外周に相互に隣接状態にかつ導電性介在物を介して取り付ける
方法であり、前記導電性介在物として、導電性液体または導電性ペーストを用い、前記短尺バッキングチューブどうしの間に弾性シール部材を設ける。
【0010】
全体の剛性を長尺バッキングチューブによって確保しており、この長尺バッキングチューブの剛性により、スパッタリング装置に取り付けたときのたわみの発生を防止でき、高精度で成膜できる。この場合、各短尺バッキングチューブを各短尺ターゲット材の内周に個々にボンディング材によって接合しているので、ターゲット材とバッキングチューブとの熱膨張率差に起因する割れや剥離等が生じにくい。さらに、ボンディング材としても熱膨張差を吸収し得るインジウム等を用いることが可能であるため、より確実に割れや剥離等を防止することができる。
短尺ターゲット材と短尺バッキングチューブとはボンディング材により接合され、短尺バッキングチューブと長尺バッキングチューブとの間には導電性介在物が介在しているので、これらの間の導電性並びに熱伝達性も十分に確保することができる。導電性液体としては市販の導電性グリスを適用することができる。
【0011】
長尺バッキングチューブにターゲットユニットを取り付ける場合は、各ターゲットユニットが短尺バッキングチューブに支持されて補強されているので、導電性介在物を介して取り付ける際のターゲット材の割れ等を防止することができる。また、いずれかの短尺ターゲットに損傷や摩耗が生じた場合には、長尺バッキングチューブからターゲットユニットを個々に取り外して該当箇所のターゲットユニットのみを交換でき、その交換作業も容易となる。
【0013】
また、前記導電性介在物が導電性液体または導電性ペースト
であり、前記短尺バッキングチューブどうしの間に弾性シール部材が設けられている
ことにより、弾性シール部材により、長尺バッキングチューブと短尺バッキングチューブとの間からの導電性液体の漏れを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法によれば、短尺ターゲット材と短尺バッキングチューブとはボンディング材により接合され、短尺バッキングチューブと長尺バッキングチューブとの間には導電性介在物が介在しているので、これらの間の導電性並びに熱伝達性を十分に確保することができるとともに、全体の剛性は長尺バッキングチューブによって確保することができ、短尺ターゲット材の割れや剥離等の発生を防止しつつ高精度の成膜を可能にし、しかも、一部のターゲットユニットの交換等のメンテナンスも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の円筒形スパッタリングターゲットの実施形態を示す断面図である。
【
図3】
図1の円筒形スパッタリングターゲットに用いられているターゲットユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2は円筒形スパッタリングターゲット1の断面図を示しており、
図3は円筒形スパッタリングターゲット1に用いられるターゲットユニット2の断面図を示している。
円筒形スパッタリングターゲット1は、円筒形の短尺ターゲット材11の内周にボンディング材12により円筒形の短尺バッキングチューブ13を接合してなる複数のターゲットユニット2と、これら複数のターゲットユニット2を導電性介在物3を介して外周に保持する円筒形の長尺バッキングチューブ21とを有している。
【0017】
この場合、短尺ターゲット材11、短尺バッキングチューブ13、及び長尺バッキングチューブ21の材料は、成膜の目的に応じて適宜に選択され、特に限定されるものではないが、短尺ターゲット材11は、Cu、Ag、Ti等の金属やSiO
2、Al
2O
3、Ga
2O
3、ZrO
2、Cr
2O
3等の酸化物などからなり、短尺バッキングチューブ13及び長尺バッキングチューブ21は、SUS、Ti、Cuなどで筒状に設けられる。後述するように、短尺ターゲット材11が短尺バッキングチューブ13によって保持されて補強されるので、短尺ターゲット材11として、割れやすい酸化物系ターゲット材を用いる場合に特に有利である。
【0018】
また、これらの寸法も特に限定されることはないが、短尺ターゲット材11と短尺バッキングチューブ13とは同じ長さに形成され、その直径は、これらの間にボンディング材12が介在するので、ボンディング材12を介在させ得るクリアランスを確保できる寸法とされる。また、短尺バッキングチューブ13は、ターゲットユニット2を長尺バッキングチューブ21に着脱する際の剛性を確保できればよいので、長尺バッキングチューブ21よりも肉厚の薄いものでよい。
そして、これら短尺ターゲット材11と短尺バッキングチューブ13とを一体化したターゲットユニット2では、短尺ターゲット材11と短尺バッキングチューブ13との両端が揃えられた状態で、両者の間に気密に介在させたボンディング材12によって一体化されている。ただし、各ターゲットユニット2は隣接するユニットに押圧されるため、短尺ターゲット材11がセラミック系等の割れ易い材料の場合、その長さは短尺バッキングチューブ13よりも若干短く製造され、短尺ターゲット材11同士が直接接触しないようにすることが望ましい。
ボンディング材12は、In系低融点はんだ材のような金属系材料を使用可能であり、導電性を有し、スパッタリング中の熱膨張差を吸収できるものが用いられる。
【0019】
なお、短尺バッキングチューブ13の両端内周部には環状溝15が形成され、各短尺ターゲット材11を相互に隣接させて突き合せたときに、両短尺ターゲット材11の間に環状溝15による凹部が形成され、その凹部内に環状パッキン等の弾性シール部材16が緊密に嵌合されるようになっている。
短尺バッキングチューブ13と長尺バッキングチューブ21の直径は、これらの間に導電性介在物3を介在するためのクリアランスが確保できる寸法とされる。
【0020】
長尺バッキングチューブ21は、その外周に複数のターゲットユニット2を直列に隣接させて保持するものであり、これらターゲットユニット2の列の全長よりも大きい長さに形成され、両端部の外周に雄ネジ部22が形成されている。
長尺バッキングチューブ21と各ターゲットユニット2との間に介在される導電性介在物3は、導電性液体、導電性ペースト、金属製筒状バネ、導電性シートなどにより構成され、前述の特許文献1記載のカーボンフェルト、特許文献2記載の金属製バネを適用することができる。導電性液体を用いる場合、具体的には、鉱物油、合成油を基油とした、市販されている一般的な導電性グリスでよい。その際の導電性としては、体積抵抗率が1.0×10
10Ω・cm以下であることが望ましい。
図示例は、導電性介在物3として導電性液体を用いた例を示しており、各ターゲットユニット2は、相互に弾性シール部材16を介して隣接され、長尺バッキングチューブ21の両端部でナット等の締結具5により軸方向に押圧された状態で保持されている。
【0021】
以上のように構成される円筒形スパッタリングターゲット1を製造する場合、まず、短尺バッキングチューブ13の外周にボンディング材12を介して短尺ターゲット材11を固定することにより、複数のターゲットユニット2を作製する。
そして、長尺バッキングチューブ21の一端部側の雄ネジ部に抜け止め用として締結具5を固定しておき、他端側からターゲットユニット2を一個ずつ装着して嵌合させる。このとき、ターゲットユニット2と長尺バッキングチューブ21との間に導電性介在物3を両者の隙間を塞ぐように介在させる。この導電性介在物3が導電性シート等である場合、長尺バッキングチューブ21に導電性介在物3を介してターゲットユニット2を取り付ける際に大きな抵抗が作用することがあるが、ターゲットユニット2は短尺ターゲット材11が短尺バッキングチューブ13によって補強されているので、短尺ターゲット材11に割れ等が生じることはない。
また、導電性介在物3が導電性液体または導電性ペーストの場合、
図2に示すように、隣接するターゲットユニット2の短尺バッキングチューブ13間には、環状の弾性シール部材16を介在する。
【0022】
そして、複数のターゲットユニット2を導電性介在物3を介して長尺バッキングチューブ21の外周に取り付けながら、これらターゲットユニット2どうしを短尺バッキングチューブ13間に弾性シール部材16を介材させて順次連設する。
最後に、長尺バッキングチューブ21の他端部の雄ネジ部22に締結具5を螺合して、ターゲットユニット2を軸方向に押圧することにより、弾性シール部材16を緊密に挟持した状態に固定するとともに、ターゲットユニット2を抜け止めする。
なお、必ずしも最初に一端側に締結具5を固定しておく必要はなく、すべてのターゲットユニット2を取り付けた後に、長尺バッキングチューブ21の両端部に締結具5を固定してもよい。
【0023】
このような方法により製造される円筒形スパッタリングターゲット1は、各ターゲットユニット2が、短尺ターゲット材11と短尺バッキングチューブ13とをボンディング材12により接合したものであり、これらターゲットユニット2を長尺バッキングチューブ21に導電性介在物3を介して取り付けているので、長尺バッキングチューブ21と各短尺ターゲット材11との間の導電性並びに熱伝達性を良好に確保することができる。
したがって、DCスパッタリングに用いる場合は電極として良好に機能し、また、ターゲット材として酸化物系セラミックスを用いる場合にも、RFスパッタリング時に電荷が蓄積することが抑制され、アーク放電の発生を防止することができる。
また、長尺バッキングチューブ21によって高い剛性を発揮することができるので、スパッタリング装置に取り付けたときのたわみの発生を防止でき、高精度の成膜を行うことができる。各短尺ターゲット材11は、短尺バッキングチューブ13の外周にインジウム等のボンディング材12によって接合されているので、スパッタリング時の熱膨張率差に起因する割れや剥離等が生じにくい。
【0024】
一部の短尺ターゲット材11に摩耗や欠損等の不具合が生じたときには、締結具5を取り外して該当するターゲットユニット2のみを交換でき、円筒形スパッタリングターゲット1全体を交換する必要がなく、コスト的にも優れている。この場合、ターゲットユニット2を長尺バッキングチューブ21に嵌合により取り付けて締結具5で固定しているため、その着脱も容易である。このターゲットユニット2を複数作製して在庫しておくことにより、不具合時も短納期で対応可能である。
【0025】
以上、実施形態について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。また、本発明は、小径から大径までの径、及び様々な長さの円筒形スパッタリングターゲットに対応することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 円筒形スパッタリングターゲット
2 ターゲットユニット
3 導電性介在物
5 締結具
11 短尺ターゲット材
12 ボンディング材
13 短尺バッキングチューブ
15 環状溝
16 弾性シール部材
21 長尺バッキングチューブ
22 雄ネジ部