(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置に用いられる半導体装置として、400V、600V、1200V、1700V、3300Vまたはそれ以上の耐圧を有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等が公知である。IGBTは、コンバータやインバータ等の電力変換装置に用いられている。このような電力用半導体装置は、低損失、高効率、高耐量であることが求められるとともに、低ノイズであること、すなわちEMC(Electro−Magnetic Compatibility:電磁両立性)についての対策が求められる。
【0003】
EMCは電圧の時間変化率(dV/dt)に依存し、インバータ動作時においては、IGBTのターンオン時(対向アームのFWD(Free Wheeling Diode:還流ダイオード)の逆回復時)の低電流領域における対向アームのFWDのdV/dtが最も大きくなりやすい。このため、IGBTのゲート抵抗Rgを大きくしてターンオン速度を遅くすることによりdV/dtを適正な値まで小さくする必要があるが、この場合、IGBTのターンオン損失Eonが大きくなってしまう。したがって、ターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係の改善、および、ゲート抵抗Rgによる、IGBTのターンオン時のdV/dt制御性(以下、ターンオンdV/dt制御性とする)の改善が重要である。
【0004】
次に、IGBTの電流駆動を担う活性領域の構造について、一般的なトレンチゲート型IGBTを例に説明する。活性領域とは、オン状態のときに電流が流れる領域である。
図24は、従来のトレンチゲート型IGBTの構造を示す断面図である。
図24に示すように、活性領域において、n
-型ドリフト層101となるn
-型半導体基板のおもて面側には、トレンチゲート型のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造が設けられている。具体的には、n
-型半導体基板のおもて面側において、n
-型ドリフト層101の表面層を分割するようにトレンチ(以下、ゲートトレンチとする)102が設けられている。ゲートトレンチ102の内部には、ゲート絶縁膜103を介してゲート電極104が設けられている。
【0005】
n
-型ドリフト層101の、ゲートトレンチ102によって分割されたメサ領域には、p型ベース領域105が設けられている。p型ベース領域105の内部には、基板おもて面側の表面層にn
+型エミッタ領域106が選択的に設けられている。エミッタ電極107は、基板おもて面に設けられた層間絶縁膜108のコンタクトホールを介して、p型ベース領域105およびn
+型エミッタ領域106に接するとともに、層間絶縁膜108によってゲート電極104と電気的に絶縁されている。n
+型エミッタ領域106が設けられていないメサ領域には、耐圧を確保するために、層間絶縁膜108によってエミッタ電極107と電気的に絶縁されたp
+型領域(以下、フローティングp
+型領域とする)109が設けられている。
【0006】
n
-型半導体基板の裏面側には、n型フィールドストップ(FS:Field Stop)層110およびp
+型コレクタ層111が設けられている。コレクタ電極112は、p
+型コレクタ層111に接する。このような従来構造のトレンチゲート型IGBTでは、ターンオン時にフローティングp
+型領域109にホール(正孔)が蓄積されることでフローティングp
+型領域109の電位が上昇し、この電位上昇によって生じる変位電流がゲート電極104に流れ込む。これによってdV/dtにかかわる期間のターンオン速度が決定されてしまうため、ターンオンdV/dt制御性が悪化する(例えば、下記非特許文献1,2参照。)。
【0007】
ターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係、および、ゲート抵抗RgによるターンオンdV/dt制御性を改善した装置として、次の装置が提案されている。pベース層およびn層を貫通してn
-層の上層部に到達するように第1の溝および第2の溝がそれぞれ形成される。第1の溝はN
+エミッタ領域に隣接し、内部にゲート電極が形成される。第2の溝は内部にポリシリコン領域が形成される。第2の溝は、近傍領域にN
+エミッタ領域が形成されていない点、内部にゲート電極が形成されない点が第1の溝と異なる(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、第2の溝の内部に絶縁膜を介してエミッタ電位のポリシリコン領域を設けたダミーゲート構造とすることで、pベース層に蓄積されたホールをオフ動作時にエミッタ電極に引き抜き、オフ動作の特性を向上させている。
【0008】
次に、ダミーゲート構造を備えたトレンチゲート型IGBTの活性領域の構造について説明する。
図25は、従来のトレンチゲート型IGBTの構造の別の一例を示す断面図である。
図25に示すダミーゲート構造を備えたトレンチゲート型IGBTは、
図24に示す一般的なトレンチゲート型IGBTと同様に、トレンチゲート型のMOSゲート構造を備える。そして、p型ベース領域105を挟んでMOSゲート構造を構成するトレンチ(ゲートトレンチ)102と隣り合うように、トレンチ(以下、エミッタトレンチとする)122が設けられている。エミッタトレンチ122の内部には、絶縁膜(ダミーゲート絶縁膜)123を介してエミッタ電位の電極(ダミーゲート電極)124が設けられている。
【0009】
ダミーゲート構造を備えたトレンチゲート型IGBTの、エミッタトレンチ122、ダミーゲート絶縁膜123およびダミーゲート電極124以外の構成は、
図24に示す一般的なトレンチゲート型IGBTと同様である。ダミーゲート構造を備えたトレンチゲート型IGBTでは、特にターンオン初期のような高電圧時に、エミッタトレンチ122に沿ってホールが蓄積され、フローティングp
+型領域109からエミッタ電極107にホール電流を流す低抵抗の電流経路が形成される。このため、フローティングp
+型領域109の電位上昇を抑制することができ、一般的なトレンチゲート型IGBTよりも、ターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係、および、ゲート抵抗RgによるターンオンdV/dt制御性が改善される。
【0010】
しかしながら、ダミーゲート構造を備えたトレンチゲート型IGBTでは、オン状態のような低電圧時であっても、ゲートトレンチ102付近よりもエミッタトレンチ122付近にホールが蓄積されやすく、p型ベース領域105を通過するホール電流に対する抵抗を低下させてしまう。このため、IE効果(Injection Enhancement Effect:注入促進効果)が小さくなり、オン電圧の増加を促進させてしまうという問題がある。また、エミッタトレンチ122の内壁に沿って設けられたダミーゲート絶縁膜123のスクリーニングを行うことができないため、初期欠陥を含む装置を検出するための試験によってダミーゲート絶縁膜123の不良を検出することが難しいという問題がある。
【0011】
エミッタトレンチを設けずに、ターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係、および、ゲート抵抗RgによるターンオンdV/dt制御性を改善した装置として、第二のソース領域が、エミッタ電極に対して直接接続されておらず、それによって、エミッタ電極から第二のソース領域および第二のベース・レイヤを通ってドリフト・レイヤへ電荷キャリアを流すためのチャネルが第二のベース・レイヤに形成されない装置が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。
【0012】
また、別の装置として、次の装置が提案されている。p型ベース層を貫きn型ベース層に達するように、一対の主トレンチが形成される。主トレンチで挟まれた電流経路領域内において、p型ベース層の表面に一対のn型エミッタ層が形成される。一対のn型エミッタ層の間で、p型ベース層を貫きn型ベース層に達するように、絞りトレンチが形成される。絞りトレンチは、n型ベース層からp型ベース層を通ってエミッタ電極へ形成される正孔の排出経路を絞ることにより、正孔の排出抵抗を増加させる(例えば、下記特許文献3参照。)。
【0013】
また、別の装置として、次の装置が提案されている。エミッタ側表面のトレンチゲートに挟まれている領域の一部に副ウェル領域を設け、副ウェル領域をダイオードを介してエミッタ電極に接続する。IGBTがオン状態のときにダイオードを非導通状態とし、副ウェル領域をエミッタ電極から絶縁することで、キャリアを蓄積する。IGBTがオフ状態のときにダイオードを導通状態とし、副ウェル領域をエミッタ電極に電気的に接続することで、キャリアを高速で排出する。ターンオン初期には、副ウェル領域に面しているゲート部分の容量をゲート−エミッタ間容量にすることで、ゲート−コレクタ間容量を小さくし、スイッチング時の電磁ノイズを低減する(例えば、下記特許文献4参照。)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0037】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる半導体装置の構造について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図1には、電流駆動を担う活性領域(オン状態のときに電流が流れる領域)の構造を示すが、半導体基板(半導体チップ)の外周に活性領域の周囲を囲む耐圧構造部(図示省略)を配置してもよい。耐圧構造部は、n
-型ドリフト層1の基板おもて面側の電界を緩和し耐圧を保持する領域であり、例えばガードリング、フィールドプレートおよびリサーフ等を組み合わせた耐圧構造を有する。
【0038】
図1に示すように、活性領域において、n
-型ドリフト層(第1半導体層)1となるn
-型半導体基板(半導体チップ)のおもて面側には、トレンチゲート型のMOSゲート構造が設けられている。n
-型半導体基板の裏面側には、一般的な構成によりn型フィールドストップ層10、p
+型コレクタ層(第2半導体層)11およびコレクタ電極(第2電極)12が設けられている。以下に、基板おもて面側のMOSゲート構造について詳細に説明する。n
-型ドリフト層1には、基板おもて面から所定深さで第1トレンチ(ゲートトレンチ)2が設けられている。第1トレンチ2の内部には、第1トレンチ2の内壁に沿ってゲート絶縁膜(第1絶縁膜)3が設けられ、ゲート絶縁膜3の内側にゲート電極4が設けられている。
【0039】
n
-型ドリフト層1の、基板おもて面側の表面層には、第1トレンチ2の側壁に設けられたゲート絶縁膜3に接するように、かつ第1トレンチ2よりも浅い深さで、p型ベース領域(第1半導体領域)5が設けられている。p型ベース領域5の内部には、基板おもて面側の表面層にn
+型エミッタ領域(第2半導体領域)6が選択的に設けられている。n
+型エミッタ領域6は、ゲート絶縁膜3を挟んでゲート電極4に対向する。エミッタ電極(第1電極)7は、n
+型エミッタ領域6およびp型ベース領域5に接するとともに、第1層間絶縁膜8aによってゲート電極4と電気的に絶縁されている。また、n
-型ドリフト層1の、基板おもて面側の表面層には、第2層間絶縁膜(第2絶縁膜)8bによってエミッタ電極7と電気的に絶縁されたp
+型領域(フローティングp
+型領域(第3半導体領域))9が設けられている。
【0040】
フローティングp
+型領域9は、耐圧を確保する機能を有する。フローティングp
+型領域9は、p型ベース領域5から離れて設けられ、少なくとも1つのpn接合(例えばフローティングp
+型領域9とn
-型ドリフト層1との間のpn接合、後述するフローティングp
+型領域9と後述するn
+型領域24とのpn接合)によりp型ベース領域5から分断されている。フローティングp
+型領域9の深さは、例えば後述する第2トレンチ22の深さよりも深く、フローティングp
+型領域9の下側(基板裏面側)のコーナー部は、例えば第2トレンチ22の底面直下にまで延びている。
【0041】
p型ベース領域5とフローティングp
+型領域9との間には、p型ベース領域5よりも深い深さで、第2トレンチ22が設けられている。第2トレンチ22は、p型ベース領域5を挟んで第1トレンチ2に対向する。第2トレンチ22の内部には、例えば酸化膜(SiO
2)などの絶縁層23が設けられ、この絶縁層23上にn
+型領域(第4半導体領域)24が設けられている。すなわち、第2トレンチ22の内部は、絶縁層23からなる下層部と、n
+型領域24からなる上層部の2層構造となっている。n
+型領域24は、p型ベース領域5およびフローティングp
+型領域9に接する。n
+型領域24は、ゲート絶縁膜3とほぼ同じ厚さの第2層間絶縁膜8bによって覆われている。第2層間絶縁膜8bは、エミッタ電極7によって覆われている。
【0042】
n
+型領域24には、n
+型領域24上に第2層間絶縁膜8bを介して設けられたエミッタ電極7によって電界が生じる。このため、ターンオン時には、n
+型領域24は、フローティングp
+型領域9に蓄積されるホールをエミッタ電極7に流す電流経路となる。また、オン状態のときには、n
+型領域24とフローティングp
+型領域9との間のpn接合により、フローティングp
+型領域9からn
+型領域24を介してエミッタ電極7へ向かうホール電流の電流経路が高抵抗となる。すなわち、n
+型領域24は、オン状態のときには、フローティングp
+型領域9からエミッタ電極7へのホール電流の流入を阻止する機能を有する。このため、IE効果が損なわれることを防止することができる。
【0043】
次に、上述した実施の形態1にかかる半導体装置(IGBT)において、インバータ動作時のIGBTのターンオン時の低電流領域における対向アームのFWDのdV/dt(すなわち、対向アームのFWDの逆回復時の最大dV/dt)と、IGBTのゲート抵抗Rgとの関係について説明する。また、IGBTのターンオン時の低電流領域における対向アームのFWDのdV/dtと、IGBTのターンオン損失Eonとの関係について説明する。
図2は、IGBTのターンオン時の対向アームのFWDの最大dV/dtとIGBTのゲート抵抗Rgとの関係を示す特性図である。
図3は、IGBTのターンオン時の対向アームのFWDの最大dV/dtとIGBTのターンオン損失Eonとの関係を示す特性図である。
【0044】
図2,3には、実施の形態1にかかる半導体装置(以下、実施例とする)の他に、比較として、ダミーゲート構造を備えたトレンチゲート型IGBT(
図25参照:以下、従来例1とする)と、一般的なトレンチゲート型IGBT(
図24参照:以下、従来例2とする)と、を示す。実施例においては、第1トレンチ2と第2トレンチ22との間のメサ領域の幅を1.5μmとした。従来例1では、ゲートトレンチ102とエミッタトレンチ122との間のメサ領域の幅を1.5μmとした。従来例2では、ゲートトレンチ102間のメサ領域の幅を3.0μmとした。
図2,3に示す結果より、実施例においては、エミッタトレンチを設けなくても、エミッタトレンチ122を設けた従来例1と同程度に、従来例2よりもターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係と、ゲート抵抗RgによるターンオンdV/dt制御性とを改善することができることが確認された。
【0045】
上述した実施例および従来例1,2のオン状態のときの電流・電圧波形を
図4に示す。
図4は、オン状態のときのIGBTのコレクタ電流密度Jcと電圧Vとの関係を示す特性図である。
図4に示す結果より、実施例においては、従来例1,2よりもオン電圧が低く、IE効果が高いことが確認された。その理由は、実施例においては、第2トレンチ22の内部の絶縁層23上に設けられたn
+型領域24を、ターンオン時にフローティングp
+型領域9に蓄積されるホールをエミッタ電極7に流す電流経路としているため、n
-型ドリフト層101の、エミッタトレンチ122に沿った部分を電流経路とする従来例1よりも電流経路が高抵抗化されているからである。
【0046】
本発明においては、n
+型領域24の構造および寸法を種々変更することにより、ターンオン時にフローティングp
+型領域9に蓄積されるホールをエミッタ電極7に流す電流経路の抵抗値を容易に調整することができる。n
+型領域24の構造および寸法とは、具体的には、n
+型領域24の不純物濃度、n
+型領域24の厚さt1、第2トレンチ22の幅w1、第2トレンチ22の幅w1に対するn
+型領域24の幅w2、および、第2層間絶縁膜8bの厚さt2である。n
+型領域24に代えて、フローティングp
+型領域9よりも不純物濃度の低いp型領域としてもよい。半導体装置により求められるdV/dtごとに電流経路の抵抗値を調整することで、半導体装置に最適なオン電圧、ターンオン損失EonおよびdV/dtに容易に調整することができる。
【0047】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法について、1200V耐圧クラスのIGBTを作製(製造)する場合を例に説明する。
図5〜14は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図5に示すように、n
-型ドリフト層1となるn
-型の半導体ウェハに例えばボロン(B)をイオン注入して活性化アニール(熱処理)することにより、半導体ウェハのおもて面の表面層にp型ベース領域5を形成する。次に、例えば水蒸気雰囲気中で熱処理(熱酸化)することにより、p型ベース領域5上に酸化膜(例えばシリコン酸化膜(SiO
2))(不図示)を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、フローティングp
+型領域9の形成領域に対応する部分の酸化膜を除去する。
【0048】
次に、酸化膜の残部をマスクとしてp型ベース領域5に例えばボロンをイオン注入することにより、
図6に示すように、フローティングp
+型領域9を形成する。次に、イオン注入用マスクとして用いた酸化膜を除去した後、p型ベース領域5およびフローティングp
+型領域9上に、再度、酸化膜(不図示)を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第2トレンチ22の形成領域に対応する部分の酸化膜を除去する。次に、
図7に示すように、酸化膜の残部をマスクとして異方性ドライエッチングを行い、p型ベース領域5を貫通してn
-型ドリフト層1に達する第2トレンチ22を形成する。第2トレンチ22の幅w1は、狭いトレンチは形成が困難なことから例えば0.1μm以上、広いトレンチはチャネル密度が大きくなりオン電圧が高くなることから1.5μm以下程度であるのがよい。第2トレンチ22の深さd1は、p型ベース領域5とフローティングp
+型領域9とを分断するために例えば1.0μm以上、また深いトレンチは形成が困難なことから例えば6.0μm以下程度であってもよい。
【0049】
次に、第2トレンチ22の内部に埋め込むように、p型ベース領域5およびフローティングp
+型領域9上に絶縁層23となる酸化膜を堆積する。絶縁層23は、後述するフローティングp
+型領域9の活性化アニールによる熱酸化膜成長により形成されてもよい。次に、
図8に示すように、活性化アニールにより、フローティングp
+型領域9を活性化する。これにより、フローティングp
+型領域9は、ウェハ主面に平行な方向(横方向)に拡散されて第2トレンチ22の側壁まで達するとともに、深さ方向(縦方向)に拡散されて第2トレンチ22の深さよりも深くなる。p型ベース領域5は、隣り合う第2トレンチ22間に挟まれた部分に残る。
【0050】
次に、
図9に示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第2トレンチ22の内部に絶縁層23を残した状態で、第2トレンチ22上の部分の絶縁層23を除去する。このとき、第2トレンチ22の内部に残す絶縁層23の上面は、第2トレンチ22の内部において例えばウェハおもて面(p型ベース領域5およびフローティングp
+型領域9の表面)から例えば0.005μm以上0.2μm以下程度の深さd2に位置させる。
【0051】
次に、
図10に示すように、エピタキシャル成長またはポリシリコン(poly−Si)膜の堆積により、第2トレンチ22の内部に残る絶縁層23上にn
+型領域24を形成する。n
+型領域24の不純物濃度は、例えば1.0×10
15/cm
3以上1.0×10
19/cm
3以下程度であってもよい。n
+型領域24に代えて、フローティングp
+型領域9よりも不純物濃度の低いp型領域とする場合には、このp型領域の不純物濃度は、例えば1.0×10
18/cm
3以上1.0×10
19/cm
3以下程度であってもよい。
【0052】
次に、
図11に示すように、ウェハおもて面上に残る絶縁層23(絶縁層23の、第2トレンチ22の内部の部分以外)を除去し、再度、ウェハおもて面上に酸化膜25を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第1トレンチ2の形成領域に対応する部分の酸化膜25を除去する。次に、酸化膜25の残部をマスクとして異方性エッチングを行い、p型ベース領域5を貫通してn
-型ドリフト層1に達する第1トレンチ2を形成する。第1トレンチ2の幅w3は、例えば0.1μm以上1.5μm以下程度であってもよい。第1トレンチ2の深さd3は、隣接するp型ベース領域5よりも深くする必要があり、かつp型ベース領域5は短チャネル効果の抑制のためにある程度深いことが必要なため例えば1.0μm以上、また深いトレンチは形成が困難なことから例えば6.0μm以下程度であるのがよい。そして、酸化膜25の残部を除去する。
【0053】
次に、
図12に示すように、熱処理(熱酸化)により、ウェハおもて面上および第1トレンチ2の内壁に沿って、例えば0.005μm以上0.2μm以下程度の厚さのゲート絶縁膜3となる酸化膜を形成する。次に、第1トレンチ2の内部に埋め込むようにゲート電極4となるポリシリコン膜を堆積する。次に、
図13に示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、ウェハおもて面にn
+型エミッタ領域6の形成領域が開口したイオン注入用マスク(不図示)を形成する。次に、イオン注入用マスクをマスクとしてp型ベース領域5に例えば砒素(As)をイオン注入して活性化アニールすることにより、p型ベース領域5の内部にn
+型エミッタ領域6を選択的に形成する。
【0054】
次に、
図14に示すように、例えば化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法により、ウェハおもて面に第1層間絶縁膜8aとなる例えば0.1μm以上6.0μm以下程度の厚さの酸化膜を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第1層間絶縁膜8aを選択的に除去してシリコン面(p型ベース領域5、n
+型エミッタ領域6、n
+型領域24およびフローティングp
+型領域9の表面)を露出させるとともに、ゲート電極4上に第1層間絶縁膜8aを残す。次に、ウェハおもて面の露出されているシリコン面上に、第2層間絶縁膜8bとなる酸化膜を形成する。第2層間絶縁膜8bの厚さは、絶縁耐圧を持たせるために例えば0.005μm以上、エミッタ電極7から第2層間絶縁膜8bを介したn
+型領域24への電界を大きくするために例えば0.2μm以下程度であるのがよい。
【0055】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第1,2層間絶縁膜8a,8bに、n
+型エミッタ領域6およびp型ベース領域5を露出するコンタクトホールを形成する。次に、第1,2層間絶縁膜8a,8bの表面に、コンタクトホールの内部に埋め込むように例えばアルミニウム(Al)からなるエミッタ電極7を形成する。次に、ウェハおもて面を例えばレジスト膜で保護した後、半導体ウェハを裏面側から研削していき、ウェハ厚さを半導体装置として用いる製品厚さである例えば120μmにする。
【0056】
次に、半導体ウェハの研削後の裏面からn
-型ドリフト層1に例えばリン(P)、セレン(Se)またはプロトン(H
+)をイオン注入することにより、半導体ウェハの研削後の裏面の表面層にn型フィールドストップ層10を形成する。次に、n型フィールドストップ層10に例えばボロンをイオン注入することにより、半導体ウェハの研削後の裏面の表面層の、n型フィールドストップ層10よりも浅い位置にp
+型コレクタ層11を形成する。次に、p
+型コレクタ層11上にコレクタ電極12を形成する。その後、半導体ウェハをチップ状にダイシング(切断)することにより、
図1に示すIGBTチップが完成する。
【0057】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、p型ベース領域(チャネル領域)とフローティングp
+型領域とを電気的に接続するn
+型領域上に第2層間絶縁膜を介してエミッタ電極を設けることにより、ゲート電極よりも低電位なエミッタ電極の電位によって、エミッタ電極の直下に設けられたn
+型領域を、ターンオン時にフローティングp
+型領域に蓄積されるホールをエミッタ電極に流す電流経路とすることができる。これにより、従来のようにエミッタ電位のダミーゲート構造(エミッタトレンチ)を設けなくても、ターンオン時にフローティングp
+型領域からエミッタ電極に通じる電流経路を形成することができ、ターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係と、ゲート抵抗RgによるターンオンdV/dt制御性とを改善することができる。
【0058】
また、実施の形態1によれば、オン状態のときには、n
+型領域とフローティングp
+型領域との間のpn接合により、フローティングp
+型領域からn
+型領域を介してエミッタ電極へ向かうホール電流の電流経路が高抵抗となる。このため、フローティングp
+型領域からエミッタ電極へのホール電流の流入が阻止され、IE効果が損なわれることを防止することができる。これにより、ダミーゲート構造を備えた従来構造よりもIE効果を高めることができ、よりオン電圧を低減することができる。したがって、オン電圧を低減させるとともに、ターンオン損失EonとdV/dtとのトレードオフ関係、および、ゲート抵抗RgによるターンオンdV/dt制御性を改善する。また、実施の形態1によれば、n
+型領域の構造および寸法を種々変更することにより、フローティングp
+型領域からn
+型領域を介してエミッタ電極へ向かうホール電流の電流経路の抵抗値を容易に調整することができる。このため、各半導体装置に最適なオン電圧、ターンオン損失EonおよびdV/dtに容易に調整することができる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる半導体装置の構造について説明する。
図15は、実施の形態2にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。実施の形態2にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、ターンオン時にフローティングp
+型領域39に蓄積されるホールをエミッタ電極37に流すための電流経路となるn
+型領域34にエミッタ電極37が接している点である。すなわち、フローティングp
+型領域39とエミッタ電極37とが、pベース領域(チャネル領域)を介さずに、フローティングp
+型領域39およびエミッタ電極37に接するn
+型領域34(上層部)によって電気的に接続されている。
【0060】
具体的には、
図15に示すように、p型ベース領域5は、第1トレンチ(ゲートトレンチ)2間のメサ領域に設けられている。フローティングp
+型領域39は、第1トレンチ2を挟んでp型ベース領域5に対向する。第2トレンチ32は、フローティングp
+型領域39の内部に、フローティングp
+型領域39を貫通してn
-型ドリフト層1に達するように設けられている。第2トレンチ32の内部には、下層部として絶縁層33が設けられ、この絶縁層33上に上層部としてn
+型領域34が設けられている。
【0061】
第1層間絶縁膜38aは、基板(チップ)おもて面のほぼ全面を覆う。第1層間絶縁膜38aには、n
+型エミッタ領域6およびp型ベース領域5を露出する第1コンタクトホール38cが設けられている。n
+型領域34上には、ゲート絶縁膜3とほぼ同じ厚さの第2層間絶縁膜38bが設けられている。第2層間絶縁膜38bには、n
+型領域34を露出する第2コンタクトホール38dが設けられている。エミッタ電極37は、第1コンタクトホール38cを介してn
+型エミッタ領域6およびp型ベース領域5に接するとともに、第2コンタクトホール38dを介してn
+型領域34に接する。また、エミッタ電極37は、第1層間絶縁膜38aによってゲート電極4およびフローティングp
+型領域39と電気的に絶縁されている。
【0062】
次に、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法について、1200V耐圧クラスのIGBTを作製(製造)する場合を例に説明する。
図16〜21は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図16に示すように、実施の形態1と同様に、n
-型ドリフト層1となるn
-型の半導体ウェハのおもて面側にp型ベース領域5およびフローティングp
+型領域39を形成する。次に、イオン注入用マスクとして用いた酸化膜を除去した後、p型ベース領域5およびフローティングp
+型領域39上に、再度、酸化膜(不図示)を形成する。
【0063】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第1トレンチ2の形成領域に対応する部分の酸化膜を除去する。次に、酸化膜の残部をマスクとして異方性ドライエッチングを行い、第1トレンチ2を形成する。第1トレンチ2の幅w3は、例えば0.1μm以上1.5μm以下程度であってもよい。第1トレンチ2の深さd3は、例えば1.0μm以上6.0μm以下程度であってもよい。次に、実施の形態1と同様に、ゲート絶縁膜3、ゲート電極4およびn
+型エミッタ領域6を順に形成する。次に、例えばCVD法により、ウェハおもて面に例えば0.1μm以上6.0μm以下程度の厚さの酸化膜31を形成する。
【0064】
次に、
図17に示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第2トレンチ32の形成領域に対応する部分の酸化膜31を除去する。次に、酸化膜31の残部をマスクとして異方性ドライエッチングを行い、p型ベース領域5を貫通してn
-型ドリフト層1に達する第2トレンチ32を形成する。第2トレンチ32の幅w1は、例えば1.0μm以上20.0μm以下程度であってもよい。第2トレンチ32の深さd1は、例えば0.5μm以上6.0μm以下程度であってもよい。
【0065】
次に、
図18に示すように、第2トレンチ32の内部全体に絶縁層33となる酸化膜を埋め込む。このとき、ウェハおもて面上にも酸化膜が堆積されるため、ウェハおもて面上の酸化膜31の厚さが厚くなる。絶縁層33は、後述するフローティングp
+型領域39の活性化アニールによる熱酸化膜成長によって形成されてもよい。次に、活性化アニールにより、フローティングp
+型領域39を活性化する。これにより、フローティングp
+型領域39は、ウェハ主面に平行な方向(横方向)に拡散されて第1,2トレンチ2,32の側壁まで達するとともに、深さ方向(縦方向)に拡散されて第2トレンチ32の深さよりも深くなる。p型ベース領域5は、隣り合う第1トレンチ2間に挟まれた部分に残る。
【0066】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第2トレンチ32の内部に埋め込まれた絶縁層33の表面層を、ウェハおもて面(p型ベース領域5およびフローティングp
+型領域39の表面)から例えば0.005μm以上0.2μm以下程度の深さd2分除去する。次に、
図19に示すように、エピタキシャル成長またはポリシリコン膜の堆積により、第2トレンチ32の内部に残る絶縁層33上にn
+型領域34を形成する。n
+型領域34の不純物濃度は、例えば1.0×10
15/cm
3以上1.0×10
19/cm
3以下程度であってもよい。
【0067】
次に、
図20に示すように、ウェハおもて面上の酸化膜31を除去した後、例えばCVD法により、ウェハおもて面に第1層間絶縁膜38aとなる例えば0.1μm以上6.0μm以下程度の厚さの酸化膜を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第1層間絶縁膜38aを選択的に除去してp型ベース領域5、n
+型エミッタ領域6およびn
+型領域34を露出させるとともに、ゲート電極4上およびフローティングp
+型領域39上に第1層間絶縁膜38aを残す。このとき、p型ベース領域5およびn
+型エミッタ領域6を露出する開口部は第1コンタクトホール38cとなる。
【0068】
次に、
図21に示すように、n
+型領域34上に第2層間絶縁膜38bとなる例えば0.005μm以上0.2μm以下程度の厚さの酸化膜を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、第2層間絶縁膜38bに、n
+型領域34を露出する第2コンタクトホール38dを形成する。次に、第1,2層間絶縁膜38a,38bの表面に、第1,2コンタクトホール38c、38dの内部に埋め込むように例えばアルミニウムからなるエミッタ電極37を形成する。その後、ウェハおもて面を例えばレジスト膜で保護した後、実施の形態1と同様に、半導体ウェハの裏面研削以降の工程を順に行うことにより、
図15に示すIGBTチップが完成する。
【0069】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、ターンオン時にフローティングp
+型領域に蓄積されるホールをエミッタ電極に流すための電流経路となるn
+型領域によってエミッタ電極とフローティングp
+型領域とが電気的に接続されているため、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3にかかる半導体装置の構造について説明する。
図22は、実施の形態3にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。実施の形態3にかかる半導体装置が実施の形態2にかかる半導体装置と異なる点は、第2トレンチ42の深さd1がフローティングp
+型領域49の深さd4よりも浅い点である。すなわち、第2トレンチ42は、フローティングp
+型領域49内に、基板(チップ)おもて面からフローティングp
+型領域49を貫通しない深さd1で設けられている。
図22において符号43は第2トレンチ42の内部の下層部である絶縁層であり、符号44は第2トレンチ42の内部の上層部であるn
+型領域である。
【0071】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、ターンオン時にフローティングp
+型領域に蓄積されるホールをエミッタ電極に流すための電流経路となるn
+型領域を上層部に設けた第2トレンチの深さがフローティングp
+型領域の深さよりも浅い場合であっても、電流経路となるn
+型領域によってエミッタ電極とフローティングp
+型領域とが電気的に接続されているため、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0072】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4にかかる半導体装置の構造について説明する。
図23は、実施の形態4にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。実施の形態4にかかる半導体装置が実施の形態2にかかる半導体装置と異なる点は、ターンオン時にフローティングp
+型領域39に蓄積されるホールをエミッタ電極37に流すための電流経路となるn
+型領域54を、p型ベース領域5以外(チャネル領域以外)のp型領域(第5半導体領域)55を介してエミッタ電極37に電気的に接続している点である。
【0073】
具体的には、例えば、第2トレンチ32の内部の絶縁層33上に、ターンオン時にフローティングp
+型領域39に蓄積されるホールをエミッタ電極37に流すための電流経路となるn
+型領域54の他に、当該n
+型領域54に接するp型領域55が設けられている。この絶縁層33上のp型領域55は、例えば、n
+型領域54よりも絶縁層33の中央側に配置され、n
+型領域54を介してフローティングp
+型領域39に電気的に接続されている。また、p型領域55は、例えば第2層間絶縁膜38bに設けられた第2コンタクトホール38dを介してエミッタ電極37に接している。実施の形態4を実施の形態3に適用してもよい。実施の形態4においては、電流経路となるn
+型領域54を覆う第2層間絶縁膜38bの厚さt3は、絶縁耐圧を持たせるために例えば0.005μm以上、エミッタ電極37から第2層間絶縁膜38bを介したn
+型領域54への電界を大きくするために例えば0.2μm以下程度であるのがよい。
【0074】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態1〜3と同様の効果を得ることができる。
【0075】
以上において本発明は種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、たとえば各部の寸法や表面濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。