特許第6354508号(P6354508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354508
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】垂直磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/65 20060101AFI20180702BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20180702BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   G11B5/65
   G11B5/64
   G11B5/738
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-203283(P2014-203283)
(22)【出願日】2014年10月1日
(65)【公開番号】特開2016-71920(P2016-71920A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】森谷 友博
(72)【発明者】
【氏名】島津 武仁
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−313659(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/064995(WO,A1)
【文献】 特開2012−181902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62−5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板と、磁気記録層を少なくとも含む磁気記録媒体であって、前記磁気記録層はL1型規則構造を有する規則合金を含み、Fe、PtおよびVを含み、Pt>Feの組成を有し、Vの含有量が3〜12at%であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録層は、前記規則合金を含む磁性結晶粒と、非磁性結晶粒界とからなるグラニュラー構造を有し、前記非磁性結晶粒界はVを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録媒体は、シード層をさらに含み、前記シード層がPtを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に関する。特に、本発明は、規則合金を含み、Fe及びPtを成分として含み、更にバナジウム(V)を含む磁性層を有する垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録の高密度化の要請が著しい。磁気記録の高密度化を実現する技術として、垂直磁気記録方式が採用されている。垂直磁気記録媒体は、非磁性基体と、硬質磁性材料から形成される磁気記録層を少なくとも含む。垂直磁気記録媒体は、任意選択的に、磁気ヘッドが発生する磁束を磁気記録層に集中させる役割を担う軟磁性裏打ち層、磁気記録層の硬質磁性材料を目的の方向に配向させるための下地層、磁気記録層の表面を保護する保護膜などをさらに含んでもよい。
【0003】
良好な磁気特性を得ることを目的として、グラニュラー磁性材料を用いて垂直磁気記録媒体の磁気記録層を形成することが提案されている。グラニュラー磁性材料は、磁性結晶粒と、磁性結晶粒の周囲を取り囲むように偏析した非磁性体とを含む。グラニュラー磁性材料中の個々の磁性結晶粒は、非磁性体によって磁気的に分離されている。
【0004】
また、従来、垂直磁気記録媒体用の金属磁性材料として、CoCrPtをはじめとするCoCr系不規則合金磁性層が主に研究されてきた。近年、垂直磁気記録媒体の記録密度のさらなる向上を目的として、磁性層中の磁性結晶粒の粒径を縮小させる必要に迫られている。ここで、磁性結晶粒の粒径の縮小は、記録された磁化の熱安定性を低下させる。そのため、磁性結晶粒の粒径の縮小による熱安定性の低下を補償するために、より高い結晶磁気異方性を有する材料を用いることが求められている。
【0005】
求められる高い結晶磁気異方性を有する材料として、L1系規則合金およびその製造方法が提案されている。これらのL1系規則合金は、FePt、CoPt、FePd、CoPdなどを含む。
【0006】
上記のような規則合金は、規則性を高めたより良い結晶粒を得ることが困難である。また、グラニュラー磁性材料においては、グラニュラー磁性材料中の個々の磁性結晶粒の分離性を高め、規則性の高いより良い結晶性を実現することも必要とされる。
【0007】
特開2003−313659号公報(特許文献1)は、L1型の規則合金の薄膜を形成するためのスパッタターゲットを開示する。このスパッタターゲットとして、特許文献1は、Fe≧Ptの組成を有するFePtV系合金を一例として記載している。特許文献1では、スパッタ成膜した磁性合金膜をL1規則相に規則化する際のアニール温度を低下させることで、高い磁気異方性定数(Ku)や高い保磁力(Hc)などを有する規則相合金膜を再現性よく得ることを可能にしている。また、特許文献1では、磁気記録媒体は、磁性合金膜を比較的低いアニール温度でL1規則相に規則化することを可能にし、これによって、磁気異方性定数(Ku)が大きいL1構造の規則相合金膜を記録層として用いた磁気記録媒体の実用性や量産性などを高めている。
【0008】
特開2008−059733号公報(特許文献2)は、高い磁気異方性定数(Ku)を有する合金と酸化化合物を含む磁気記録媒体、及びそのような磁気記録媒体の磁気記録層を形成するためのスパッタターゲットを開示する。特許文献2では、磁気記録層は、高い磁気異方性定数(Ku)を有するため、熱安定性を向上すると同時に、この磁気記録層の磁区を著しく小さくできることが開示されている。また、特許文献2のスパッタターゲットは、L1型の規則合金の薄膜を形成するためのスパッタターゲットとして、FePtV酸化物系合金を一例として記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−313659号公報
【特許文献2】特開2008−059733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、より優れたL10系規則合金を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非磁性基板と、磁気記録層を少なくとも含む磁気記録媒体に関し、前記磁気記録層はL1型規則構造を有する規則合金を含み、Fe、PtおよびVを含み、Pt>Feの組成を有し、Vの含有量が3〜12at%であることを特徴とする。
【0012】
本発明では、前記磁気記録層は、前記規則合金を含む磁性結晶粒と、非磁性結晶粒界とからなるグラニュラー構造を有し、前記非磁性結晶粒界はVを含むことが好ましい。
【0013】
更に、本発明の一実施形態では、本発明の磁気記録媒体は、シード層をさらに含み、前記シード層がPtを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、磁性結晶粒子間の分離性能を向上させることにより、磁気記録層の保磁力(Hc)を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の磁気記録媒体の1つの構成例を示す概略断面図である。
図2】実施例1および比較例1〜2の磁気記録媒体におけるV含有量と結晶格子のa軸およびc軸の長さとの関係を示すグラフである。
図3】実施例1および比較例1〜2の磁気記録媒体におけるV含有量と規則度Sとの関係を示すグラフである。
図4】実施例1および比較例1〜2のサンプル1〜6の磁気記録媒体におけるV含有量と飽和磁化(Ms)との関係を示すグラフである。
図5】実施例1および比較例1〜2のサンプル1〜6の磁気記録媒体におけるV含有量と磁気異方性定数Kuとの関係を示すグラフである。
図6】実施例1および比較例1〜2のサンプル1〜6の磁気記録媒体におけるV含有量と保磁力Hcとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板と磁気記録層とを含み、前記磁気記録層は、L1型規則構造の規則合金を有して形成される。さらに、磁気記録層は、Fe、PtおよびVを含み、Pt>Feの組成を有する。
【0017】
以下に本発明を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されない。本発明の一実施形態では、磁気記録媒体は、図1に示すように、非磁性基板10、磁気記録層30、および任意選択的に設けてもよいシード層20を含むことができる。
【0018】
非磁性基板10は、表面が平滑である様々な基板であってよい。非磁性基板には、磁気記録媒体に一般的に用いられる材料を用いることができる。例えば、非磁性基板10に用いることができる材料として、NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、結晶化ガラス、あるいはMgO等を挙げることができる。
【0019】
磁気記録層30は、鉄(Fe)および白金(Pt)と、バナジウム(V)とを含む。磁気記録層30は、規則合金を含み、好ましくは、規則合金は、L1型構造を有する。特に好ましいL1型規則合金は、FePtである。
【0020】
本発明に用いられる規則合金において、FeとPtの比は、at%でFe<Ptである。好ましくは、規則合金におけるFeおよびPtの含有量は、L1型規則合金が形成されるそれぞれの元素の含有量においてFe(at%)<Pt(at%)の条件を満たすものである。より好ましくは、FeおよびPtの含有量は、Fe(at%)<Pt(at%)の条件の下で、Feが40〜45at%であり、Ptが45〜55at%である。また、磁気記録層におけるVの含有量は、3〜12at%、好ましくは3.5〜12at%である。この範囲内の組成比を用いることによって、保磁力(Hc)を改良できるL1型規則構造の規則合金を得ることができる。
【0021】
本発明に用いられる磁気記録層中のVは、好ましくは、0価の酸化状態のV、すなわち金属状態のVである。何らかの理論に拘束されることを意図するものではないが、Vは、L1型規則合金のFePtの外に析出して相分離を高めていると考えられる。本発明では、規則合金は、V酸化物のようなより高い酸化状態のVを含まない。
【0022】
本発明において、規則合金の規則性は、例えば、磁気記録層をX線回折法(XRD)により測定し、測定値と完全に規則化した際の理論値との比により算出することができる。L10型規則合金の場合は、規則合金由来の(001)および(002)ピークの積分強度を用いて算出することができる。測定された(00)FePtピーク積分強度に対する(00)FePtピーク積分強度の比の値を、完全に規則化した際に理論的に算出される(00)ピーク積分強度に対する(00)ピーク積分強度の比で除算し、その平方根をとることで規則度Sを得ることができる。
【0023】
本発明の磁気記録媒体の磁気記録層は、前記規則合金のFePtからなる磁性結晶粒と、Vを含む非磁性結晶粒界とからなるグラニュラー構造を有することが好ましい。グラニュラー構造において、それぞれの磁性結晶粒は、非磁性結晶粒界によって磁気的に分離される。
【0024】
本発明では、磁気記録層は、好ましくは、基板の加熱を伴うスパッタ法で形成される。スパッタ法としては、DCマグネトロンスパッタリング法、RFスパッタリング法などの当該技術分野においてよく知られた一般的方法を挙げることができ、本発明ではこれらの一般的方法を用いることができる。本明細書において、「スパッタ法」の語は、特に断りがない限り上記の一般的方法と同様の意味を有する。磁気記録層を形成する際の基板温度は、400〜500℃の範囲内であることが好ましい。この範囲内の基板温度を採用することにより、磁気記録層中のL1型規則合金材料の規則度Sを向上させることができる。スパッタ法に用いるターゲットとして、例えば、FeおよびPtからなるターゲット、およびVからなるターゲットの2つのターゲットを用いるスパッタ法を採用することができる。あるいはまた、Feからなるターゲット、Ptからなるターゲット、およびVからなるターゲットの3つのターゲットを用いるスパッタ法を採用してもよい。これらの場合、それぞれのターゲットに別個に電力を供給することによって、磁気記録層30の規則合金中のFe、PtおよびVの比率を制御することができる。
【0025】
グラニュラー構造を有する磁気記録層の形成の際には、磁性結晶粒を形成する材料と非磁性結晶粒界を形成する材料を所定の比率で混合したターゲットを用いてもよい。あるいはまた、磁性結晶粒を形成する材料からなるターゲットと、非磁性結晶粒界を形成する材料からなるターゲットとを用いてもよい。前述のように、磁性結晶粒を形成するためのターゲットとして複数のターゲットを用いてもよい。この場合、それぞれのターゲットに別個に電力を供給して、磁気記録層中の磁性結晶粒と非磁性結晶粒界との比率を制御することができる。
【0026】
本発明において、磁気記録を担う層は、磁気記録層30単一の層であってよく、あるいは磁気記録層30に他の層を加えた複数の層の積層体であってもよい。磁気記録を担う層が複数の層から構成される場合、磁気記録層30に加える層は、キュリー温度(Tc)制御を目的とする層、磁化反転を調整するためのキャップ層、2つの磁性層間の交換結合を制御するための交換結合制御層、磁気特性を制御するための磁性層、マイクロ波アシスト磁気記録に向けた強磁性共鳴周波数を制御する磁性層などであってもよい。これらの層は、スパッタ法を含む、当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。これらの層は、磁気記録層30と一体不可分に配置される。磁気記録層30に他の層を加えた複数の層の積層体を採用する場合には、磁気記録層30の上、下等の配置に関する説明は、当該積層体の上、下等として理解されたい。
【0027】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板10と磁気記録層30との間に、密着層、ヒートシンク層、軟磁性裏打ち層、下地層、およびシード層20からなる群から選択される1つまたは複数の層をさらに含んでもよい。また、本発明の磁気記録媒体は、磁気記録層30の上に保護層をさらに含んでもよい。さらに、本発明の磁気記録媒体は、磁気記録層30または保護層の上に液体潤滑剤層をさらに含んでもよい。
【0028】
任意選択的に設けてもよい密着層は、その上に形成される層とその下に形成される層(非磁性基板10を含む)との密着性を高めるために用いられる。密着層を非磁性基板10の上面に設ける場合、密着層20は、前述の非磁性基板10の材料との密着性が良好な材料を用いて形成することができる。そのような材料として、Ni、W、Ta、Cr、Ruなどの金属、前述の金属を含む合金を挙げることができる。あるいはまた、非磁性基板10以外の2つの構成層の間に密着層を形成してもよい。密着層は、単一の層であってもよいし、複数の層の積層構造を有してもよい。
【0029】
任意選択的に設けてもよい軟磁性裏打ち層は、磁気ヘッドからの磁束を制御して、磁気記録媒体の記録および再生特性を向上させる。軟磁性裏打ち層を形成するための材料として、NiFe合金、センダスト(FeSiAl)合金、CoFe合金などの結晶質材料、FeTaC、CoFeNi、CoNiPなどの微結晶質材料、CoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料を挙げることができる。軟磁性裏打ち層の膜厚の最適値は、磁気記録に用いる磁気ヘッドの構造および特性に依存する。他の層と連続成膜で軟磁性裏打ち層を形成する場合、生産性との兼ね合いから、軟磁性裏打ち層が10nm〜500nmの範囲内(両端を含む)の膜厚を有することが好ましい。
【0030】
本発明の磁気記録媒体を熱アシスト磁気記録方式において使用する場合、ヒートシンク層を設けてもよい。ヒートシンク層は、熱アシスト磁気記録時に発生する磁気記録層30の余分な熱を効果的に吸収するための層である。ヒートシンク層は、熱伝導率および比熱容量が高い材料を用いて形成することができる。そのような材料は、Cu単体、Ag単体、Au単体、またはそれらを主体とする合金材料を含む。ここで、「主体とする」とは、当該材料の含有量が50wt%以上であることをいう。また、強度などの観点から、Al−Si合金、Cu−B合金などを用いて、ヒートシンク層を形成することができる。さらに、センダスト(FeSiAl)合金、軟磁性のCoFe合金などを用いてヒートシンク層を形成することができる。軟磁性材料を用いることによって、ヘッドの発生する垂直方向の磁界を磁気記録層に集中させる機能をヒートシンク層に付与することができ、軟磁性裏打ち層の機能を補完することもできる。ヒートシンク層の膜厚の最適値は、熱アシスト磁気記録時の熱量および熱分布、ならびに磁気記録媒体の層構成および各構成層の厚さによって変化する。他の構成層との連続成膜で形成する場合などは、生産性との兼ね合いから、ヒートシンク層の膜厚は10nm以上100nm以下であることが好ましい。ヒートシンク層は、スパッタ法、真空蒸着法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。通常の場合、ヒートシンク層は、スパッタ法を用いて形成される。ヒートシンク層は、磁気記録媒体に求められる特性を考慮して、非磁性基板10と密着層との間、密着層と下地層との間などに設けることができる。
【0031】
下地層は、上方に形成されるシード層20の結晶性および/または結晶配向を制御するための層である。下地層は単層であっても多層であってもよい。下地層は、Cr金属、または主成分であるCrにMo、W、Ti、V、Mn、Ta、およびZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属が添加された合金から形成される非磁性膜であることが好ましい。下地層は、スパッタ法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。
【0032】
シード層20の機能は、下地層などのその下にある層と磁気記録層30との間の密着性を確保すること、上層である磁気記録層30の磁性結晶粒の粒径および結晶配向を制御することである。シード層20は非磁性であることが好ましい。加えて、本発明の磁気記録媒体を熱アシスト磁気記録方式において使用する場合には、シード層20が熱的なバリアとして磁気記録層30の温度上昇および温度分布を制御することが好ましい。磁気記録層30の温度上昇および温度分布を制御するために、シード層20は、熱アシスト記録時の磁気記録層30の加熱の際に磁気記録層30の温度を速やかに上昇させる機能と、磁気記録層30の面内方向の伝熱が起こる前に、深さ方向の伝熱によって磁気記録層30の熱を下地層などの下層に導く機能とを両立することが好ましい。
【0033】
上記の機能を達成するために、シード層20の材料は、磁気記録層30の材料に合わせて適宜選択される。より具体的には、シード層20の材料は、磁気記録層の磁性結晶粒の材料に合わせて選択される。たとえば、磁気記録層30の磁性結晶粒がL10型規則合金で形成される場合、Pt金属、またはNaCl型の化合物を用いてシード層を形成することが好ましい。特に、本発明では、Ptを用いてシード層20を形成することが好ましい。また、複数の層を積層して、シード層20を形成する場合、上記材料に加えて、MgO、SrTiO3などの酸化物、あるいはTiNなどの窒化物などを用いることもできる。磁気記録層30の磁性結晶粒の結晶性の向上、および生産性の向上の観点から、シード層20は、1nm〜60nm、好ましくは1nm〜20nmの膜厚を有することが好ましい。シード層20は、スパッタ法、真空蒸着法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。
【0034】
保護層は、磁気記録媒体の分野で慣用的に使用されている材料を用いて形成することができる。具体的には、Ptなどの非磁性金属、ダイアモンドライクカーボンなどのカーボン系材料、あるいは窒化シリコンなどのシリコン系材料を用いて、保護層を形成することができる。また、保護層は、単層であってもよく、積層構造を有してもよい。積層構造の保護層は、たとえば、特性の異なる2種のカーボン系材料の積層構造、金属とカーボン系材料との積層構造、または金属酸化物膜とカーボン系材料との積層構造であってもよい。保護層は、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。
【0035】
液体潤滑剤層は、磁気記録媒体の分野で慣用的に使用されている材料を用いて形成することができる。たとえば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤などを用いることができる。液体潤滑剤層は、たとえば、ディップコート法、スピンコート法などの塗布法を用いて形成することができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
平滑な表面を有する(001)MgO単結晶基板(タテホ化学工業株式会社製)を洗浄し、非磁性基板10を準備した。洗浄後の非磁性基板10を、スパッタ装置内に導入した。非磁性基板10を350℃に加熱した後に、圧力0.4PaのArガス中でPtターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚20nmのPtシード層20を形成した。
【0037】
次に、シード層20を形成した非磁性基板10を350℃に加熱した後に、圧力0.6PaのArガス中で、FePtターゲットおよび単一元素のVターゲットを用いる同時RFマグネトロンスパッタ法により、膜厚10nmのFePtV磁気記録層30を形成し、図1に示す構造を有する磁気記録媒体を得た。ここで、FePtターゲットとして、Fe/Pt比が45/55を用いた。また、FePtターゲットに印加する電力を300Wに固定し、Vターゲットに印加する電力を40〜450Wに変化させて、磁気記録層30のVの含有量を調整した。作製した磁気記録媒体の組成を表1に示した。
【0038】
(比較例1〜2)
FePtターゲットとして、Fe/Pt比が50/50(比較例1)及び54/46(比較例2)のターゲットを用いた以外、上記実施例1と同様にして、磁気記録媒体を調製した。作製した磁気記録媒体の組成を表2および表3に示した。
【0039】
(評価)
XRDにより、得られた磁気記録媒体の磁気記録層30がL1型規則構造を有することを確認した。また、XRDにより、L1型規則構造の結晶格子のa軸およびc軸の長さ測定した。また、XRDから規則度Sを求めた。
【0040】
さらに、振動試料型磁力計(VSM)を用いて、得られた磁気記録媒体の飽和磁化(Ms)を求めた。また、VSMによりヒステリシス曲線を測定し、保磁力Hcを測定した。また、得られた磁気記録媒体の磁気記録層30の組成を、ラザフォード後方散乱法(RBS)により測定した。トルク磁力計により、磁場中においた試料を回転させて試料の各方向には働くトルクを測定し、磁気異方性定数(Ku)を求めた。
【0041】
L1型規則構造の結晶格子のa軸およびc軸の長さを測定した結果と、規則度Sの値を第1〜表3に示す。表1はFe/Ptの比が45/55(実施例1)の結果であり、表2はFe/Ptの比が50/50(比較例1)の結果であり、表3はFe/Ptの比が54/46(比較例2)の結果である。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
磁気記録層30のV含有量と、結晶格子のa軸およびc軸の長さとの関係を図2に示す。図2から分かるように、V含有量が増加しても、結晶格子のa軸及びc軸の両方ともほとんど変化しなかった。このことから、Vは、FePtの結晶中には入っていないと推定される。即ち、VがFePt外に析出し、Vにより粒界が形成され、FePt磁性結晶粒がVにより相分離していると考えられる。また、磁気記録層30のV含有量と、規則度Sの関係を図3に示す。図3からわかるように、V含有量が増加しても、規則度Sはほぼ一定であった。VがFePtの結晶中にあれば、規則度Sは低下すると考えられる。従って、この規則度Sの結果からも、Vは、FePtの結晶中には入っていないと考えられる。
【0046】
次に、上記実施例1及び比較例1〜2の各試料1〜6について、飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)および磁気異方性定数(Ku)の測定結果を、表4(実施例1)、表5(比較例1)および表6(比較例2)に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
磁気記録層30のV含有量と、飽和磁化(Ms)との関係を図4に示した。また、磁気記録層30のV含有量と、磁気異方性定数(Ku)との関係を図5に示した。更に、磁気記録層30のV含有量と、保磁力(Hc)との関係を図6に示した。図4及び図5に見られるように、実施例1および比較例1〜2において、Vの含有量を増加させても、飽和磁化(Ms)および磁気異方性定数(Ku)の増加は見られなかった。これに対し、図6に示されるように、Vの含有量を増加させると、実施例1の磁気記録媒体の保磁力(Hc)が、比較例1〜2の磁気記録媒体の保磁力(Hc)に比べ有意に増大した。特に、Vの添加量が1.8<V<11.6(at%)でHcが増大した。また、実施例1におけるFePtVの組成がFe42.8Pt51.1V6.1で、Hcの値が最大値5.9kOeを示した。
【0051】
以上の結果から、Vは、FePtの規則合金に対して、Hcを増大させる材料であることが分かった。
【0052】
また、本発明では、Vの含有量が増加するに従い、MsおよびKuが、共に単調に減少しているにもかかわらず、Hcが増大する。
【0053】
本発明のような、MsおよびKuが減少しているにもかかわらず、Hcが増大する理由は、現時点では不明であるが、以下のように推定することができる。
【0054】
HcはKuとMsとの間に次式の関係があるといわれている。
【0055】
Hc=A(2Ku/Ms)
(式中、Aは磁性粒子間の磁気的な分離性能を表す係数である。)
【0056】
Fe45Pt55の組成で検証すれば、Ku/Msは以下の表7に示すように、実施例1においてほぼ一定である。
【0057】
【表7】
【0058】
従って、Hcの増加はAの増加に起因していると考えられる。また、図2及び図3に示した、構造解析の結果を合わせて考えると、次のことが考えられる。
【0059】
構造解析の結果では、c軸およびa軸の軸長の変化は少なく、規則度Sがほぼ一定であったことから、VはFePtの結晶中には入っていないと推定できる。即ち、VをFePt規則合金に添加することによって、FePtの磁性結晶粒の外にVの粒界が形成され、磁性結晶粒子間の分離性能が向上し、この結果、Hcが増加したと考えることができる。
【0060】
また、FePtの組成において、Fe<Ptの場合にHcが増大する理由は不明であるが、Vが粒界に偏析しやすくなって磁性結晶粒の分離性が向上することなどが考えられる。
【0061】
以上のように、L1型規則合金に対するVの添加が、優れた磁気特性の発現に有効であることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
10 非磁性基板
20 シード層
30 磁気記録層
図1
図2
図3
図4
図5
図6