(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らによれば、空気圧縮機から供給される原料空気中の酸素濃度が一時的に低下する、換言すれば、原料空気中の窒素濃度が一時的に上昇する場合が有ることが確認されている。これは、製鉄所内の他の設備からのオフガス等の影響によるものであると推察される。
【0007】
かかる場合、精留塔で生成される製品酸素量が低下してしまい、供給不足となってしまう。そこで、原料空気中の窒素濃度が増加した際は、一時的に空気圧縮機からの原料空気の供給量を増加させ、廃窒素としての排出分を増加させることで、精留塔へ供給する酸素の絶対量を維持することが考えられる。
【0008】
しかしながら、精留塔へ原料空気を供給してから製品酸素が生成されるまでの時定数が大きいため、原料空気中の窒素濃度増加を検出してから原料空気量を増加させても、製品酸素の不足には対応できない。したがって現状は、一時的な製品酸素不足に対応するために、原料空気の量を計画の値よりも常時増加させた状態にしている。
【0009】
そして、製品酸素を増加させるために原料空気の供給量を増加させようとすると、空気圧縮機からはその数倍の窒素も同時に供給されるため、一時的な製品酸素の増加に対応するために、空気圧縮機の動力を大幅に増大させる必要がある。また、原料空気の供給量の増加により、精留塔に供給される窒素の絶対量が増加した結果、精留塔から外部に放出する廃窒素の量も増加してしまう。その結果、使用先のない廃窒素を大量に生産することとなり、ランニングコストやエネルギー的な観点から好ましくない。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、深冷空気分離装置において、特に製品酸素の生成量が低下した際に迅速に安定した状態に戻し、製品酸素の生成量を安定化させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するための本発明は、空気圧縮機で圧縮された原料空気から製品窒素
及び製品酸素を生成する高圧塔及び低圧塔
と、前記高圧塔で分離された窒素を凝縮して液化する熱交換器を備え、当該熱交換器で液化した窒素を高圧塔に還流させる主凝縮器と、を有する深冷空気分離装置であって、
前記原料空気中の窒素濃度が上昇した場合の構成として、前記空気圧縮機から供給される原料空気の一部を
、前記高圧塔をバイパスさせて前記主凝縮器に供
給する第1のバイパス管と、
前記第1のバイパス管に設けられ、前記第1のバイパス管を流れる前記空気圧縮機から供給される原料空気の流量を調整するバイパス弁と、前記主凝縮器で冷却した後の原料空気を、前記高圧塔をバイパスして前記低圧塔に供給する第2のバイパス管と、前記第2のバイパス管に設けられた、前記主凝縮器で冷却された原料空気を膨張させる膨張機構と、を有
し、前記主凝縮器は、前記第1のバイパス管から供給される原料空気を前記主凝縮器内の液体酸素と熱交換して冷却することで、前記主凝縮器からの液体酸素の蒸発量を前記原料空気中の窒素濃度が上昇する前より増加させる。
【0012】
本発明者は、主凝縮器には液体酸素が冷媒として貯留されているので、一時的に低圧塔内の製品酸素の体積を増加させる際に、この主凝縮器内の液体酸素を利用できれば、空気圧縮機から供給する原料空気の量の増加によるリカバリーまでの遅れ時間を低減できると考えた。本発明はこのような知見に基づくものであり、空気圧縮機から供給される原料空気の一部を主凝縮器で熱交換して冷却する第1のバイパス管と、冷却後の原料空気を、高圧塔をバイパスして低圧塔に供給する第2のバイパス管を備えているので、原料空気により主凝縮器内の酸素を蒸発させ低圧塔内の酸素の体積を短時間で回復させることができる。かかる場合、製品酸素の体積を増加させるにあたり、主凝縮器内の酸素を体積増加分に対応する量だけ蒸発させるように空気圧縮機からの原料空気の供給量を増加させればよい。したがって、原料空気の全量を高圧塔から低圧塔に供給して製品酸素の体積を増加させる場合と比較して、空気圧縮機からの原料空気の供給量を大幅に低減できる。また、特に製品酸素の生成量の低下に対して迅速に対応できる。その結果、深冷空気分離装置において、製品酸素の生成量を効率的に安定化させることができる。
【0013】
また、第2のバイパス管を流れる原料空気を膨張させる膨張機構を有しているので、低圧塔内の寒冷バランスを維持し、高圧塔をバイパスして低圧塔に直接原料空気を供給した場合であっても、低圧塔の安定運転を維持できる。
【0015】
前記低圧塔における、当該低圧塔の上部に設けられた廃窒素管と、前記低圧塔の下部に設けられた製品酸素管との間の位置に設けられ、前記低圧塔内の窒素温度を検出する低圧塔窒素温度検出機構と、前記低圧塔窒素温度検出機構の検出温度に基づいて前記低圧塔内の窒素ガス量の増加を検知し、当該窒素ガス量の増加量に基づいて前記バイパス弁を流れる原料空気の流量を制御する制御装置と、を有していてもよい。
【0016】
前記第1のバイパス管は、前記低圧塔における、当該低圧塔の上部に設けられた廃窒素管と、前記低圧塔の下部に設けられた製品酸素管との間の位置に接続されていてもよい。
【0017】
前記主凝縮器の内部には、前記第1のバイパス管から供給される原料空気を冷却する気液熱交換器が設けられていてもよい。
【0018】
別の観点による本発明は、空気圧縮機で圧縮された原料空気から製品窒素
及び製品酸素を生成する高圧塔及び低圧塔
と、前記高圧塔で分離された窒素を凝縮して液化する熱交換器を備え、当該熱交換器で液化した窒素を高圧塔に還流させる主凝縮器と、を有する深冷空気分離装置における深冷空気分離方法であって、
前記原料空気中の窒素温度が上昇した場合に、前記空気圧縮機から供給される原料空気の一部を、前記高圧塔をバイパスさせて
前記主凝縮器に供給し、前記主凝縮器内の液体酸素と熱交換して冷却する
ことで、前記主凝縮器からの液体酸素の蒸発量を
、前記原料空気中の窒素濃度が上昇する前より増加させ、前記主凝縮器で冷却した後の原料空気を膨張させ、当該膨張させた原料空気を前記低圧塔に供給する
。
【0019】
前記低圧塔における、当該低圧塔の上部に設けられた廃窒素管と、前記低圧塔の下部に設けられた製品酸素管との間の位置で前記低圧塔内の温度を検出し、前記検出された温度に基づいて前記低圧塔内の窒素ガス量の増加を検知し、当該窒素ガス量の増加量に応じて、前記高圧塔をバイパスさせて前記主凝縮器から前記低圧塔に供給する原料空気の流量を制御してもよい。
【0020】
前記主凝縮器で冷却した後に膨張させた原料空気を、前記低圧塔における、当該低圧塔の上部に設けられた廃窒素管と、前記低圧塔の下部に設けられた製品酸素管との間の位置に供給してもよい。
【0021】
前記主凝縮器の内部には、前記原料空気を冷却する気液熱交換器が設けられ、前記原料空気の冷却を、前記気液熱交換器で行ってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、深冷空気分離装置において、オフガス等の影響で製品酸素の生成量が低下しても迅速に安定した状態に戻し、製品酸素の生成量を安定化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる深冷空気分離装置を備えた深冷空気分離システム1の構成を示すプロセスフロー図である。
【0025】
深冷空気分離システム1は、吸入フィルタ10を介して吸込まれた空気を圧縮して原料空気として供給する空気圧縮機11と、冷却水と原料空気を接触させることで原料空気の冷却及び除塵を行う水洗冷却塔12と、水洗冷却塔12を通過した原料空気から水と二酸化炭素を除去するMS(Molecular Sieve)吸着器13と、原料空気を所定の温度まで冷却する主熱交換器14と、原料空気から製品酸素と製品窒素とに分離する精留塔15と、を有している。
【0026】
精留塔15は高圧塔15aと低圧塔15bを有している。高圧塔15aは、低圧塔15bの下方に配置されている。また、高圧塔15aと低圧塔15bの間には、主凝縮器15cが設けられている。MS吸着器13と主熱交換器14と高圧塔15aは、原料空気管20により直列に接続されている。原料空気管20のMS吸着器13と主熱交換器14の間には、分岐管20aが設けられている。分岐管20aは、低圧塔15bの中段付近に接続されており、分岐管20aと低圧塔15bの間には膨張タービン21が設けられている。分岐管20aにより低圧塔15bに送られる原料空気は、膨張タービン21と同軸に設けられた図示しない圧縮機により圧縮された後に主熱交換器14で冷却され、再び膨張タービンにより断熱膨張されることで低温低圧になる。これにより、精留塔15に寒冷を補充している。
【0027】
高圧塔15a及び低圧塔15bの内部には、気体と液体との接触面積を確保するための充填物を収容した棚(図示せず)が複数設けられている。そして、高圧塔15a及び低圧塔15bの内部では、各塔15a、15bの上部から供給する低温の液体と、各塔15a、15bの下部から供給する、前記液体よりも温度の高い気体とを気液接触させることで、気体と液体の熱交換が行われる。
【0028】
低圧塔15bの底部と主凝縮器15cとの間は、液体酸素管22により接続されており、低圧塔15b底部の液体酸素は液体酸素管22を介して主凝縮器15cに流れ込む。主凝縮器15cの内部には、高圧塔15aの頂部に接続された頂部窒素管23を介して高圧塔15aから供給された窒素と、主凝縮器15c内の液体酸素との熱交換を行う熱交換器24が複数、
図1では2つ設けられている。熱交換器24で熱交換して冷却された窒素は、高圧塔15aに還流すると共に、高圧塔15aの頂部に接続された頂部還流管25を介して低圧塔15bの上部にも還流する。
【0029】
高圧塔15aにおける頂部還流管25よりも下方の位置には、低圧塔15bにおける頂部還流管25が接続された位置より下方に連通する中部還流管26が接続されており、高圧塔15aの中段部の気体が低圧塔15bに還流する。
【0030】
また、主凝縮器15cの内部には、後述する第1のバイパス管40を介して供給される原料空気と主凝縮器15c内の液体酸素との熱交換を行う気液熱交換器27が、
図1では1つ設けられている。熱交換器24や気液熱交換器27での熱交換により蒸発した液体酸素は、主凝縮器15cの頂部に接続された酸素還流管28を介して低圧塔15bの底部近傍に還流する。なお、熱交換器24や気液熱交換器27の数や配置は本実施の形態の内容に限定されるものではなく、任意に設定が可能である。
【0031】
また、高圧塔15aの底部には、当該高圧塔15aの底部に溜まった液体空気を低圧塔15bにおける中部還流管26よりも下方の位置に還流させる液体空気管30が接続されている。なお、液体空気管30には、精留塔15内に溜まった酸素及びアルゴンを含有するアルゴン原料ガスから粗アルゴンを生成する粗アルゴン塔(図示せず)に液体空気を供給する供給管(図示せず)が分岐して設けられている。また、頂部還流管25、中部還流管26及び液体空気管30における低圧塔15bの近傍には、図示しない膨張弁がそれぞれ設けられ、各管25、26、30内を流れる流体は当該膨張弁により断熱膨張されて低圧塔15bに還流する。
【0032】
低圧塔15bでは、高圧塔15aで粗精留された原料空気がさらに精留され、低圧塔15bの上部には窒素が溜まる。このとき、低圧塔15bの上部ほど窒素の純度が高くなる。また、低圧塔15bの下部には製品酸素が溜まる。そして、低圧塔15bの頂部には、低圧塔15bから純度の高い製品窒素を抽出する製品窒素抽出管31が設けられている。製品窒素抽出管31により抽出された製品窒素は主熱交換器14に送られ、主熱交換器14で原料空気と熱交換を行う。
【0033】
また、低圧塔15bの下部には、低圧塔15bから製品酸素を抽出する製品酸素抽出管32が設けられている。製品酸素抽出管32により抽出された製品酸素も主熱交換器14に送られ、主熱交換器14で原料空気と熱交換を行う。主熱交換器14で熱交換後の製品窒素及び製品酸素は、例えば製鉄所内へ供給される。
【0034】
また、低圧塔15bの製品窒素抽出管31より下方には、製品窒素より純度の低い廃窒素を抽出する廃窒素抽出管33が設けられている。廃窒素抽出管33により抽出された廃窒素は、主熱交換器14で原料空気と熱交換を行った後、さらにMS吸着器13に送られる。MS吸着器13では、当該MS吸着器13に吸着した二酸化炭素や水分を廃窒素により除去する再生工程が行われる。
【0035】
原料空気管20における主熱交換器14と高圧塔15aの間からは、原料空気の一部を高圧塔15aをバイパスさせて主凝縮器15cに供給する、第1のバイパス管40が分岐して設けられている。第1のバイパス管40は、気液熱交換器27に接続され、第1のバイパス管40から供給される原料空気は、主凝縮器15c内の液体酸素と熱交換(冷却)される。また、第1のバイパス管40には、当該第1のバイパス管40を流れる原料空気の流量を制御するバイパス弁41が設けられている。
【0036】
気液熱交換器27には、当該気液熱交換器27で冷却された原料空気を低圧塔15bにおける例えば廃窒素抽出管33よりも低く且つ製品酸素抽出管32よりも高い位置に供給する第2のバイパス管42が接続されている。第2のバイパス管42における低圧塔15bの近傍には、第2のバイパス管42の内部を流れる原料空気を断熱膨張する膨張機構としての膨張弁43が設けられている。これにより、第2のバイパス管42を流れる原料空気の圧力及び温度が低下し、精留塔15に寒冷が補充される。その結果、第1のバイパス管40から原料空気が供給され、精留塔15に熱が持ち込まれた場合であっても、第2のバイパス管42から補充される寒冷により相殺され、精留塔15全体としての寒冷バランスが維持される。
【0037】
なお、低圧塔15bにおける分岐管20aの近傍には、低圧塔15b内の雰囲気温度(窒素温度)を検出する低圧塔窒素温度検出機構50が設けられている。低圧塔窒素温度検出機構50の配置は本実施の形態の内容に限定されるものではなく、低圧塔15b内の窒素温度、特に、酸素が混合した状態の窒素の温度を測定できれば、その配置は任意に設定が可能である。但し、後述するように、低圧塔窒素温度検出機構50で検出された温度から低圧塔15b内での窒素濃度の上昇を検知するためには、廃窒素抽出管33より下方であって、製品酸素抽出管32よりも上方に設けることが好ましい。
【0038】
また、本実施の形態にかかる深冷空気分離装置は、精留塔15、即ち高圧塔15a、低圧塔15b及び主凝縮器15c、並びに高圧塔15a、低圧塔15b、主凝縮器15cとの間を接続する各種管により構成されている。
【0039】
以上の深冷空気分離システムには、
図1に示すように、制御装置100が設けられている。制御装置100は、例えばCPUやメモリなどを備えたコンピュータにより構成され、低圧塔窒素温度検出機構50での温度の検出結果やバイパス弁41、膨張弁43といった各種機器の動作状態を監視すると共に、各種機器の動作の制御を行うことにより、深冷空気分離システム1における深冷空気分離方法が実現される。
【0040】
本実施の形態にかかる深冷空気分離システム1は以上のように構成されており、次に、深冷空気分離システム1における深冷空気分離方法について説明する。
【0041】
空気圧縮機11で圧縮されて高温高圧となった原料空気は、先ず水洗冷却塔12に供給される。水洗冷却塔12では、原料空気の冷却及び除塵が行われ、次いでMS吸着器13に供給される。MS吸着器13では精留塔15での氷の発生を防止するために、原料空気から水と二酸化炭素が除去される。
【0042】
MS吸着器13を通過した原料空気は主熱交換器14に供給されて、主熱交換器14により例えば約−170℃程度まで冷却される。冷却された原料空気は一部液化した状態で高圧塔15aに供給され、高圧塔15aの底部には液体空気が徐々に溜まっていく。この際、高圧塔15a内の圧力は概ね0.4〜0.5MPa程度に維持される。また、MS吸着器13を通過した原料空気の一部は分岐管20aにより膨張タービン21に導かれ、膨張タービン21で断熱膨張した原料空気が低圧塔15bに供給される。この際、低圧塔15b内の圧力は概ね0.04MPa程度に維持される。
【0043】
高圧塔15aの底部に溜まった液体空気は、液体空気管30及び液体空気管30に設けられた図示しない膨張弁を介して気液混合状態で低圧塔15bの中間部に供給される。これにより、窒素よりも沸点の高い酸素が、液体酸素として低圧塔15bの底部に徐々に溜まっていく。
【0044】
低圧塔15bの底部に溜まった液体酸素は液体酸素管22を介して主凝縮器15cへと流下し、主凝縮器15c内に溜まっていく。主凝縮器15cでは、頂部窒素管23を介して高圧塔15aから熱交換器24に供給される窒素と、主凝縮器15c内の液体酸素とが熱交換され、蒸発した酸素は酸素還流管28を介して低圧塔15bに還流する。また、主凝縮器15cで冷却された窒素は、高圧塔15aと低圧塔15bとの圧力差により、頂部還流管25及び頂部還流管25に設けられた図示しない膨張弁を介して低圧塔15bの上部に還流すると共に、冷却により液化して高圧塔15a内の気体と熱交換が行われる。
【0045】
また、高圧塔15aの中間部近傍の気体は、中部還流管26を介して低圧塔15bの中間部近傍に還流する。そして、この状態が継続すると、高圧塔15a及び低圧塔15bの内部が平衡状態となり、例えば高圧塔15a底部の液体空気が概ね−175℃、低圧塔15b底部の液体酸素が概ね−180℃で維持される。そして、製品酸素及び製品窒素が随時製品酸素抽出管32及び製品窒素抽出管31から需要先へ供給されると共に、廃窒素抽出管33に設けられた図示しない調節弁から排出する廃窒素の流量を制御することで、低圧塔15b内の圧力が、概ね0.04MPa程度に維持される。この状態(正常時)においては、例えば
図2に示すように、低圧塔15b内の上部から底部に向かって、製品窒素、廃窒素(酸素含有窒素)、空気(酸素及び窒素)、製品酸素がこの順に滞留している。また、この状態においては、低圧塔窒素温度検出機構50で検出される温度は、概ね−184℃程度となっている。
【0046】
その後、何らかの理由により空気圧縮機11から供給される原料空気中の酸素濃度が低下、即ち原料空気中の窒素濃度が増加すると、低圧塔15b内の窒素量も増加する。そうすると、低圧塔15b内の窒素濃度の上昇及び酸素濃度の低下に伴い、低圧塔15b内に滞留していた気体の分布が変化する。具体的には、例えば
図3に示すように、廃窒素の領域が下方に広がり、製品酸素の領域が減少する。そうすると、通常の運転状態においては−184℃程度となっていた低圧塔窒素温度検出機構50近傍の温度は、窒素濃度の増加と共に温度が低下し、例えば約−186℃〜188℃程度に低下する。
【0047】
これにより、制御装置100では、低圧塔15b内の窒素濃度が上昇(窒素ガス量が増加)したことを検知すると共に、製品酸素の生成量が不足することを検知する。そこで制御装置100は、バイパス弁41を所定の開度に開き、原料空気管20を流れる原料空気の一部を主凝縮器15cにバイパスさせる。これにより、主凝縮器15c内の気液熱交換器27に原料空気が供給され、原料空気と液体酸素との熱交換が行われる。その結果、主凝縮器15cからの酸素の蒸発量が増加し、酸素還流管28から低圧塔15b内に還流する酸素量が増加する。これにより、低圧塔15b内では酸素ガスの上昇流が増加し、低圧塔15b内の酸素濃度が上昇する。その結果、低圧塔15b内の気体の分布が、異常な状態であった
図3に示す状態から、
図2に示す正常な状態へと戻っていく。この低圧塔15b内の気体の分布の変化は、例えば−186℃〜188℃程度となっていた低圧塔窒素温度検出機構50の検出温度が、再び−184℃程度となることで確認される。この際、廃窒素抽出管33からの廃窒素量を増加させることで低圧塔15bに還流する酸素量の増加分を相殺し、低圧塔15b内の圧力が概ね0.04MPa程度に維持される。
【0048】
また、主凝縮器15cの気液熱交換器27で液体酸素により冷却された原料空気は、膨張弁43により断熱膨張されて低圧塔15bに供給される。そして、断熱膨張により低温低圧となった原料空気により低圧塔15bに寒冷が補充され、主凝縮器15cからの酸素の蒸発量の増加分の熱が相殺される。これにより、バイパス弁41から原料空気を供給した場合であっても、精留塔15内の寒冷バランスが維持される。なお、バイパス弁41の開操作に伴い、精留塔15への原料空気の供給量が減少する場合、必要に応じて空気圧縮機11からの原料空気の供給量を増加させるが、かかる場合の空気圧縮機11からの供給量の増加分は、最大でもバイパス弁41から供給される原料空気の流量分に抑えられる。
【0049】
その後、バイパス弁41の開度は例えば低圧塔窒素温度検出機構50の検出温度を−184℃に維持するように制御される。そして、空気圧縮機11から供給される原料空気内の酸素濃度が回復すると、低圧塔窒素温度検出機構50の検出温度が−184℃よりも少し高くなるため、制御装置100によりバイパス弁41の開度が徐々に閉じられて全閉状態となる。これにより、深冷空気分離システム1は通常の運転状態に復帰し、そのまま運転が継続される。
【0050】
以上の実施の形態によれば、原料空気中の窒素濃度が一時的に上昇しても、空気圧縮機11から供給される原料空気の一部を主凝縮器15cで熱交換して冷却する第1のバイパス管40と、主凝縮器15cで冷却後の原料空気を、高圧塔15aをバイパスして低圧塔15bに供給する第2のバイパス管42を備えているので、原料空気により主凝縮器15c内の酸素を蒸発させ低圧塔15bの酸素の体積を短時間で回復させることができる。かかる場合、製品酸素の体積を増加させるにあたり、空気圧縮機11から供給する原料空気の増加分は、主凝縮器15c内で所望量の酸素を追加で蒸発させる分で足りる。したがって、原料空気の全量を高圧塔15aから低圧塔15bに供給して製品酸素の体積を回復させる場合と比較して、空気圧縮機11からの原料空気の供給量を大幅に低減できる。その結果、深冷空気分離システムにおいて、製品酸素の生成量を効率的に安定化させることができる。
【0051】
また、第2のバイパス管42には膨張弁43が設けられているので、低圧塔15b内の寒冷バランスを維持し、高圧塔15aをバイパスして低圧塔15bに原料空気の一部を直接を供給した場合であっても、精留塔15の安定運転を維持できる。
【0052】
さらには、第1のバイパス管40内を流れる原料空気を主凝縮器15c内で冷却することにより、原料空気の一部が気液熱交換器27の内部で凝縮し、第1のバイパス管40内の圧力が減少することにより、原料空気管20から第1のバイパス管40への気体の流れが形成される。換言すれば、空気圧縮機11出口の見かけ上の圧力損失が低下する。その結果、バイパス弁41を流れる原料空気の供給量を増加させた場合であっても、空気圧縮機11の動力の増加分は極めて軽微なものとなる。
【0053】
加えて、バイパス弁41から原料空気を供給して主凝縮器15cの酸素を蒸発させるので、極めて短時間のうちに低圧塔15bの酸素ガスの体積を回復することができる。したがって、通常運転時はバイパス弁41を閉じておき、原料空気中の酸素濃度が低下する非常時にのみバイパス弁41を開くようにしても、製品酸素の不足を招くことがないので、従来のように、一時的な製品酸素不足に対応するために空気圧縮機11からの原料空気の供給量を常時増加させておく必要がない。したがって、深冷空気分離システム1を極めて効率的に運用することができる。
【0054】
なお、以上の実施の形態では、バイパス弁41の開操作に伴い空気圧縮機11からの原料空気の供給量を増加させたが、空気圧縮機11からの供給量は必ずしも増加させる必要はない。原料空気内の窒素濃度の上昇(酸素濃度の低下)に伴い、空気圧縮機11からの供給量をどの程度増加させるかについては、製品窒素の供給量などに応じて定まる精留塔15内のバランスに応じて定まるものであり、空気圧縮機11からの供給量を増加させない場合もありうる。特に、酸素の増加量が少ないか、期間が短期の場合、主凝縮器15cに貯留された液体酸素を蒸発させることで不足分をまかなうことができるので、そのような場合には、空気圧縮機11は負荷一定のまま運転継続できる。
【0055】
以上の実施の形態では、第2のバイパス管42を、低圧塔15bにおける廃窒素抽出管33よりも低く製品酸素抽出管32よりも高い位置に設けたが、第2のバイパス管42の低圧塔15bへの接続位置については、低圧塔15b内の気体の組成が空気と同程度となっている箇所が好ましい。具体的には、分岐管20aが接続されている高さと同程度の高さに接続することが好ましい。そうすることで、低圧塔15b内に原料空気が供給された後に速やかに酸素と窒素に分離し、低圧塔15b内に与える外乱を最小限に抑えることができる。
【実施例】
【0056】
実施例として、通常運転時の酸素製造量を約60000Nm3/hrとした場合に、本実施の形態にかかる深冷空気分離システム1を用いて製品酸素の生成量を一時的に0.6%程度増加させた場合の空気圧縮機11の動力の増加分を確認した。なお、通常運転時の空気圧縮機11の動力は、例えば約20000kW/hrであるものとする。
【0057】
本実施の形態にかかる深冷空気分離システム1では、約60000Nm3/hrの0.6%に相当する約360Nm3/hrの酸素を増加させる場合、バイパス弁41から約450Nm3/hr程度の原料空気を供給することで、主凝縮器15cからの酸素の蒸発量を約360Nm3/hr程度増加させることができる。かかる場合、450Nm3/hrの原料空気を増加させるための空気圧縮機11の動力の増加分は概ね30kW/hrであり、0.15%程度の増加に抑えられる。また、空気圧縮機11の負荷を一定に維持し、バイパス弁41の操作のみで主凝縮器15cからの酸素の蒸発量をまかなう場合には、当然に空気圧縮機11の動力は増加しない。
【0058】
一方、第1のバイパス管40や第2のバイパス管42を有していない従来の深冷空気分離システムを用いた場合、例えば酸素濃度を0.6%増加させるためには、原料空気を3%増加させる必要がある。その場合、空気圧縮機11の動力も概ね3%程度増加させる必要がある。したがって、本発明の深冷空気分離システム1によれば、製品酸素の生成量を増加させた場合であっても、空気圧縮機11の動力の増加を極めて少なく抑えられることが確認できた。
【0059】
また、本実施の形態のように、バイパス管40、バイパス弁41を介して原料空気を供給して主凝縮器15cからの液体酸素の蒸発量を増加させた場合、概ね5〜6分程度で低圧塔15b内の酸素の体積を増加させられることが確認できた。その一方、第1のバイパス管40や第2のバイパス管42を有していない従来の深冷空気分離システムにおいては、空気圧縮機11からの原料空気の供給量を増加させた後に低圧塔15b内の酸素の体積が増加させるまでに、概ね30〜40分程度の時間を要することが確認されている。したがって、本発明の深冷空気分離システム1によれば、オフガス等の影響により原料空気中の酸素濃度が低下した場合であっても、低圧塔15b内の酸素の体積を短時間で回復させ、製品酸素の生成量を安定化させられることも併せて確認できた。