特許第6354556号(P6354556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6354556位置推定装置、位置推定方法、位置推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354556
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】位置推定装置、位置推定方法、位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/30 20060101AFI20180702BHJP
   G01S 17/89 20060101ALI20180702BHJP
   G09B 29/10 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   G01C21/30
   G01S17/89
   G09B29/10 A
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-250182(P2014-250182)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-109650(P2016-109650A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】武藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 翼
(72)【発明者】
【氏名】三田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】米陀 佳祐
【審査官】 高田 元樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−511281(JP,A)
【文献】 特開平11−282529(JP,A)
【文献】 特開2011−191239(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/069726(WO,A1)
【文献】 特開2011−210121(JP,A)
【文献】 特開2012−185011(JP,A)
【文献】 特開2012−242262(JP,A)
【文献】 特開2011−209845(JP,A)
【文献】 特開2008−250906(JP,A)
【文献】 山田大地他,『高所特徴による自己位置推定を用いた明示的な動作計画に基づく屋外自律ナビゲーション』,日本ロボット学会誌30巻3号,日本,日本ロボット学会,2012年,30巻3号,pp.253-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00−21/36
G01C 23/00−25/00
G01S 17/89
G09B 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、
前記測定結果取得部が取得した観測データおよび前記地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)と
前記測定部の姿勢を決定して、前記地図データ取得部が取得した前記三次元地図データを、前記測定部の姿勢に基づいて補正する地図補正部(S10)とを備え、
前記マッチング処理部は、前記地図補正部が補正した後の三次元地図データを前記複数の層に分割することを特徴とする位置推定装置(16)。
【請求項2】
請求項1おいて、
前記位置推定装置は移動体に搭載され、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)を備え、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、
前記位置計算部は、前記マッチング処理部が決定した前記座標変換行列と、前記移動量計算部が計算した前記移動量とに基づいて、前記推定位置を逐次計算することを特徴とする位置推定装置。
【請求項3】
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、
前記測定結果取得部が取得した観測データおよび前記地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定装置であって、
前記位置推定装置は移動体に搭載され、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、前記マッチング処理部は、前記複数の層に対して前記マッチング処理を行い、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)と、
前記観測データを前記座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する前記三次元地図データとの平均距離を、前記層別に算出する距離算出部(S133)とをさらに備え、
前記位置計算部は、前記距離算出部が計算した前記平均距離が最も短い層の前記座標変換行列と、前記移動量計算部が計算した前記移動量とに基づいて、前記推定位置を逐次計算することを特徴とする位置推定装置。
【請求項4】
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、
前記測定結果取得部が取得した観測データおよび前記地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定装置であって、
前記位置推定装置は移動体に搭載され、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)を備え、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、前記マッチング処理部は、前記複数の層に対して前記マッチング処理を行い、
前記位置計算部は、前記マッチング処理部が前記層別に算出した前記座標変換行列と前記移動量計算部が計算した前記移動量とに基づいて、前記層別に前記推定位置を算出し、層別に算出した推定位置を平均して、最終的な前記推定位置とすることを特徴とする位置推定装置。
【請求項5】
請求項において、
前記観測データを前記座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する前記三次元地図データとの平均距離を、前記層別に算出する距離算出部(S133)を備え、
前記位置計算部は、前記距離算出部が前記層別に算出した前記平均距離に基づいて定まる重みを用いて前記層別に算出した前記推定位置を加重平均して、最終的な前記推定位置を算出することを特徴とする位置推定装置。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項において、
前記三次元地図データは、点群により、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示しているデータであり、
前記観測データは、周囲に存在する物体上の点を三次元的に測定したデータであることを特徴とする位置推定装置。
【請求項7】
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得ステップ(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得ステップ(S3)と、
前記測定結果取得ステップで取得した観測データおよび前記地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理ステップ(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算ステップ(S14)と
前記測定部の姿勢を決定して、前記地図データ取得ステップで取得した前記三次元地図データを、前記測定部の姿勢に基づいて補正する地図補正ステップ(S10)とを備え、
前記マッチング処理ステップは、前記地図補正ステップで補正した後の三次元地図データを前記複数の層に分割することを特徴とする位置推定方法。
【請求項8】
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得ステップ(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得ステップ(S3)と、
前記測定結果取得ステップで取得した観測データおよび前記地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理ステップ(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算ステップ(S14)とを備えた位置推定方法であって、
前記位置推定方法は移動体で用いられ、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、前記マッチング処理ステップでは、前記複数の層に対して前記マッチング処理を行い、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算ステップ(S2)と、
前記観測データを前記座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する前記三次元地図データとの平均距離を、前記層別に算出する距離算出ステップ(S133)とをさらに備え、
前記位置計算ステップは、前記距離算出ステップで算出した前記平均距離が最も短い層の前記座標変換行列と、前記移動量計算ステップで計算した前記移動量とに基づいて、前記推定位置を逐次計算することを特徴とする位置推定方法。
【請求項9】
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得ステップ(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得ステップ(S3)と、
前記測定結果取得ステップで取得した観測データおよび前記地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理ステップ(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算ステップ(S14)とを備えた位置推定方法であって、
前記位置推定方法は移動体で用いられ、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算ステップ(S2)を備え、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、前記マッチング処理ステップは、前記複数の層に対して前記マッチング処理を行い、
前記位置計算ステップは、前記マッチング処理ステップで前記層別に算出した前記座標変換行列と前記移動量計算ステップで計算した前記移動量とに基づいて、前記層別に前記推定位置を算出し、層別に算出した推定位置を平均して、最終的な前記推定位置とすることを特徴とする位置推定方法。
【請求項10】
コンピュータを、
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、
前記測定結果取得部が取得した観測データおよび前記地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)と、
前記測定部の姿勢を決定して、前記地図データ取得部が取得した前記三次元地図データを、前記測定部の姿勢に基づいて補正する地図補正部(S10)とを備え、
前記マッチング処理部は、前記地図補正部が補正した後の三次元地図データを前記複数の層に分割するものとして機能させるための位置推定プログラム。
【請求項11】
コンピュータを、
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、
前記測定結果取得部が取得した観測データおよび前記地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定プログラムとして機能させ、
前記コンピュータは移動体で用いられ、
かつ、前記コンピュータを、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、前記マッチング処理部は、前記複数の層に対して前記マッチング処理を行い、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)と、
前記観測データを前記座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する前記三次元地図データとの平均距離を、前記層別に算出する距離算出部(S133)とをさらに備え、
前記位置計算部は、前記距離算出部が計算した前記平均距離が最も短い層の前記座標変換行列と、前記移動量計算部が計算した前記移動量とに基づいて、前記推定位置を逐次計算するものとして機能させるための位置推定プログラム。
【請求項12】
コンピュータを、
道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、
周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、
前記測定結果取得部が取得した観測データおよび前記地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、前記観測データと、前記三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、
前記マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定プログラムとして機能させ、
前記コンピュータは移動体で用いられ、
かつ、前記コンピュータを、
前記移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)を備え、
前記マッチング処理は、前記観測データを前記三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、前記マッチング処理部は、前記複数の層に対して前記マッチング処理を行い、
前記位置計算部は、前記マッチング処理部が前記層別に算出した前記座標変換行列と前記移動量計算部が計算した前記移動量とに基づいて、前記層別に前記推定位置を算出し、層別に算出した推定位置を平均して、最終的な前記推定位置とするものとして機能させるための位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在位置を推定する位置推定装置、位置推定方法、位置推定プログラムに関し、特に、高精度に現在位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
道路上の白線やレーンマーク、電柱などの特徴物の位置データを有する地図を記憶しておき、車両に搭載したセンサで特徴物を検出し、検出した特徴物の位置を、地図が有する特徴物の位置データとマッチングさせて現在位置を推定する装置が知られている。
【0003】
しかしながら、市街地の道路、高速道路、地方の道路など、様々な道路において、これらの特徴量が必ずしも存在するとは言えない。そこで、非特許文献1には、高精細な三次元点群(以下、三次元地図データ)を記憶しておき、三次元LIDAR(Light Detection and Ranging)センサを用いて測定した点群とマッチングさせることで現在位置を推定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】米陀佳祐(K. Yoneda), テヘラニ ホセイン(H. Tehrani), 小川高志(T. Ogawa), 福山尚久(N. Hukuyama) 、三田誠一(S. Mita)、 “Lidar scan feature for localization with highly precise 3-D map”, Proceedings of 2014 IEEE Intelligent Vehicles Symposium, p.1345-1350 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次元地図データは、測量車を走行させて作成する。測量車が走行したときと、現在位置を推定する車両が走行したときとで、物体の存否や物体の形状が変化していることもある。たとえば、測量車が走行したときには存在していた駐車車両が、現在位置を推定する車両が走行したときには、存在していない場合がその例である。また、測量車が走行したときと、現在位置を推定する車両が走行したときで、街路樹の形状が変化していることもある。そのため、非特許文献1の方法は、点群の誤対応が生じ、それにより現在位置の推定誤差が大きくなることがあった。
【0006】
また、三次元地図データおよび観測データが、点に加えて、あるいは点に代えて、線や面により物体の三次元位置を示すデータである場合も、点群の場合と同様に、誤対応が生じる恐れがある。
【0007】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、より精度よく現在位置を推定することができる位置推定装置、位置推定方法、位置推定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、発明の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
上記目的を達成するための位置推定装置に係る1つの発明は、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、周囲に存在する物体上の点を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、測定結果取得部が取得した観測データおよび地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備え、測定部の姿勢を決定して、地図データ取得部が取得した三次元地図データを、測定部の姿勢に基づいて補正する地図補正部(S10)とを備え、マッチング処理部は、地図補正部が補正した後の三次元地図データを複数の層に分割することを特徴とする位置推定装置である。
上記目的を達成するための位置推定装置に係る別の発明は、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、測定結果取得部が取得した観測データおよび地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定装置であって、位置推定装置は移動体に搭載され、マッチング処理は、観測データを三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、マッチング処理部は、複数の層に対してマッチング処理を行い、移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)と、観測データを座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する三次元地図データとの平均距離を、層別に算出する距離算出部(S133)とをさらに備え、位置計算部は、距離算出部が計算した平均距離が最も短い層の座標変換行列と、移動量計算部が計算した移動量とに基づいて、推定位置を逐次計算することを特徴とする。
上記目的を達成するための位置推定装置に係るさらに別の発明は、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、測定結果取得部が取得した観測データおよび地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定装置であって、位置推定装置は移動体に搭載され、移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)を備え、マッチング処理は、観測データを三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、マッチング処理部は、複数の層に対してマッチング処理を行い、位置計算部は、マッチング処理部が層別に算出した座標変換行列と移動量計算部が計算した移動量とに基づいて、層別に推定位置を算出し、層別に算出した推定位置を平均して、最終的な推定位置とすることを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するための位置推定方法に係る1つの発明は、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得ステップ(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得ステップ(S3)と、測定結果取得ステップで取得した観測データおよび地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理ステップ(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算ステップ(S14)と、測定部の姿勢を決定して、地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、測定部の姿勢に基づいて補正する地図補正ステップ(S10)とを備え、マッチング処理ステップは、地図補正ステップで補正した後の三次元地図データを複数の層に分割することを特徴とする位置推定方法である。
上記目的を達成するための位置推定方法に係る別の発明は、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得ステップ(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得ステップ(S3)と、測定結果取得ステップで取得した観測データおよび地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理ステップ(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算ステップ(S14)とを備えた位置推定方法であって、位置推定方法は移動体で用いられ、マッチング処理は、観測データを三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、マッチング処理ステップでは、複数の層に対してマッチング処理を行い、移動体の移動量を計算する移動量計算ステップ(S2)と、観測データを座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する三次元地図データとの平均距離を、層別に算出する距離算出ステップ(S133)とをさらに備え、位置計算ステップは、距離算出ステップで算出した平均距離が最も短い層の座標変換行列と、移動量計算ステップで計算した移動量とに基づいて、推定位置を逐次計算することを特徴とする。
上記目的を達成するための位置推定方法に係るさらに別の発明は、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得ステップ(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得ステップ(S3)と、測定結果取得ステップで取得した観測データおよび地図データ取得ステップで取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理ステップ(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算ステップ(S14)とを備えた位置推定方法であって、位置推定方法は移動体で用いられ、移動体の移動量を計算する移動量計算ステップ(S2)を備え、マッチング処理は、観測データを三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、マッチング処理ステップは、複数の層に対してマッチング処理を行い、位置計算ステップは、マッチング処理ステップで層別に算出した座標変換行列と移動量計算ステップで計算した移動量とに基づいて、層別に推定位置を算出し、層別に算出した推定位置を平均して、最終的な推定位置とすることを特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するための位置推定プログラムに係る1つの発明は、コンピュータを、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、測定結果取得部が取得した観測データおよび地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)と、測定部の姿勢を決定して、地図データ取得部が取得した三次元地図データを、測定部の姿勢に基づいて補正する地図補正部(S10)とを備え、マッチング処理部は、地図補正部が補正した後の三次元地図データを複数の層に分割するものとして機能させるための位置推定プログラムである。
上記目的を達成するための位置推定プログラムに係る別の発明は、コンピュータを、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、測定結果取得部が取得した観測データおよび地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定プログラムとして機能させ、コンピュータは移動体で用いられ、かつ、コンピュータを、マッチング処理は、観測データを三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、マッチング処理部は、複数の層に対してマッチング処理を行い、移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)と、観測データを座標変換行列により座標変換した後のデータと、座標変換後のデータに対応する三次元地図データとの平均距離を、層別に算出する距離算出部(S133)とをさらに備え、位置計算部は、距離算出部が計算した平均距離が最も短い層の座標変換行列と、移動量計算部が計算した移動量とに基づいて、推定位置を逐次計算するものとして機能させるための位置推定プログラムである。
上記目的を達成するための位置推定プログラムに係るさらに別の発明は、コンピュータを、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を示している三次元地図データを取得する地図データ取得部(S8)と、周囲に存在する物体の形状を三次元的に測定する測定部(11)から、測定結果である観測データを取得する測定結果取得部(S3)と、測定結果取得部が取得した観測データおよび地図データ取得部が取得した三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数の層に分割し、層別に、観測データと、三次元地図データとの対応を決定するマッチング処理を行うマッチング処理部(S5、S12)と、マッチング処理の結果に基づいて、現在位置を推定した推定位置を計算する位置計算部(S14)とを備えた位置推定プログラムとして機能させ、コンピュータは移動体で用いられ、かつ、コンピュータを、移動体の移動量を計算する移動量計算部(S2)を備え、マッチング処理は、観測データを三次元地図データにマッチングさせるための座標変換行列を決定する処理であり、マッチング処理部は、複数の層に対してマッチング処理を行い、位置計算部は、マッチング処理部が層別に算出した座標変換行列と移動量計算部が計算した移動量とに基づいて、層別に推定位置を算出し、層別に算出した推定位置を平均して、最終的な推定位置とするものとして機能させるための位置推定プログラムである。
【0012】
これらの発明によれば、観測データおよび三次元地図データを、それぞれ、高さに基づいて複数層に分割した上で、層別に、観測データと三次元地図データとの対応を決定する。これにより、観測データを、三次元地図データの他の層に含まれるデータと対応させてしまうことを抑制できる。よって、誤対応が減少するので、位置推定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の位置推定システム10の構成を示すブロック図である。
図2】環境地図点群の一例を示す図である。
図3図2に示した環境地図点群に対応する道路表面地図点群を示す図である。
図4図1の位置推定処理部16が実行する処理を示すフローチャートである。
図5図4に続いて位置推定処理部16が実行する処理を示すフローチャートである。
図6図4のステップS4で作成する観測地図点群の一例である。
図7図4のステップS5における分割例である。
図8図4のステップS10の詳細処理を示すフローチャートである。
図9図8のステップS102の処理を説明する図である。
図10図5のステップS12の詳細処理を示すフローチャートである。
図11】本実施形態の位置推定システム10の測位誤差を従来の車両位置推定システムと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す位置推定システム10は、車両1に搭載されており、周辺監視センサ11、11、無線通信部12、地図管理部13、衛星測位部14、車両状態センサ15、位置推定処理部16を備える。
【0015】
周辺監視センサ11は、車両1の周辺に存在する物体を検出するセンサであり、請求項の測定部に相当する。図1では、2つの周辺監視センサ11が車両1に搭載されており、一方の周辺監視センサ11が車両1の前方を向いており、他方の周辺監視センサ11が車両1の後方を向いている。
【0016】
これら2つの周辺監視センサ11、11による車両上下方向軸周りの物体検出範囲は車両1の周囲360度である。なお、1つのセンサでこの物体検出範囲に存在する物体を検出できる場合には周辺監視センサは1つでもよいし、また、3つ以上のセンサで、この物体検出範囲に存在する物体を検出するようにしてもよい。
【0017】
周辺監視センサ11は、以下では、三次元LIDARセンサとする。ただし、周辺監視センサ11として、マイクロ波、ミリ波など、光以外の送信波を放射するセンサを用いてもよい。周辺監視センサ11は、物体検出範囲に存在する物体上の点の座標を逐次検出する。以下では、周辺監視センサ11が座標を検出した点の集合を観測点群という。観測点群は観測データに相当する。
【0018】
無線通信部12は、図示しない基地局を介してサーバ20との間で無線通信を行い、サーバ20が備えている地図データベース21に格納されている地図データのうち、必要な部分をサーバ20から受信する。地図データは、具体的には、環境地図点群と、道路表面地図点群である。
【0019】
環境地図点群は、道路やその周辺の物体の位置を多数の点群により表した三次元地図データであり、道路表面地図点群は、環境地図点群のうち、道路表面部分のみを抽出した地図データである。図2に環境地図点群の一例を示し、図3に、図2に示した環境地図点群に対応する道路表面地図点群を示す。なお、これら環境地図点群、道路表面地図点群は、高精度GPSと複数のレーザスキャナを有する計測車両により予め測定された点群である。
【0020】
地図管理部13は、書き込み可能な記憶媒体を備えており、この記憶媒体に、無線通信部12を介してサーバ20から取得した環境地図点群と、道路表面地図点群を保存する。
【0021】
衛星測位部14は、測位用衛星30からの電波に基づいて自装置の位置を検出するGNSS(Global Navigation Satellite System)で用いられるGNSS受信機を備えている。このGNSS受信機が受信した信号に基づいて、現在位置を検出する。
【0022】
車両状態センサ15は、具体的には、車速センサとヨーレートセンサであり、車両状態として車速とヨーレートを逐次検出する。車両状態センサ15と位置推定処理部16とは、車内LAN18により接続されている。
【0023】
位置推定処理部16は、請求項の位置推定装置に相当しており、車両1の現在位置を逐次推定する。この位置推定処理部16が推定する現在位置は、衛星測位部14が検出する現在位置よりも高精度である。以下では、位置推定処理部16が推定した現在位置を、高精度推定位置という。位置推定処理部16は、本実施形態では、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータと、このコンピュータが位置推定処理部16として機能するための位置推定プログラムとを備えた構成である。位置推定プログラムは、ROMに記憶されていてもよいし、ROMとは別に、記憶媒体を備え、この記憶媒体に記憶されていてもよい。なお、位置推定処理部16を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0024】
位置推定処理部16は、周辺監視センサ11が検出した観測点群を示すデータ、地図管理部13が記憶している地図データ、衛星測位部14が検出した現在位置、車両状態センサ15が検出した車速、ヨーレートを用いて、高精度推定位置を逐次決定する。
【0025】
次に、位置推定処理部16が実行する処理を詳しく説明する。位置推定処理部16は、図4に示す処理を周期的に実行する。この図4に示す処理は、位置推定方法に相当する。
【0026】
ステップS1では、初期位置および初期ヨー角θを設定する。これら、初期位置および初期ヨー角θは、衛星測位部14から取得する。初期ヨー角θは、たとえば、衛星測位部14が逐次測位した位置の変化から決定される。なお、このステップS1は、後述するステップS13を実行して高精度推定位置Pを更新した後は実行しない。
【0027】
ステップS2では、車速v、ヨーレートを車両状態センサ15から取得し、これら車速、ヨーレートを用いてオドメトリを行い、座標変換行列ΔMを計算する。このステップS2の処理は、請求項の移動量計算部に相当する処理である。
【0028】
座標変換行列ΔMは同次座標変換行列であり、式(1)より計算する。式(1)において、Rはz軸周りの回転行列、Tはx軸方向の並進ベクトルであり、tは観測時刻、Δtは観測周期、Iは単位行列である。Iの場合、3行×3列の単位行列を意味する。また、x軸は車両1の前後方向、y軸は車両1の左右方向、z軸は車両1の上下方向である。
【0029】
式(1)の右辺で定義される座標変換行列ΔMは、時刻t−1から時刻tの間における車両1のオドメトリ移動量だけ、座標系を移動させることを意味する。換言すれば、座標変換行列ΔMは、時刻t−1から時刻tの間における車両1のオドメトリ移動量を意味するとも言える。
【数1】
【0030】
ステップS3では、周辺監視センサ11から観測点群の座標データを取得し、取得した座標データをRAMなどの所定の記憶部に記憶する。このステップS3の処理は、請求項の測定結果取得部、測定結果取得ステップに相当する処理である。
【0031】
ステップS4では、直近mフレームの観測点群を重ね合わせてローカル地図を作成する。ここでは、mを10とする。各フレームで取得した観測点群を重ね合わせる際には、ステップS2で逐次計算しているΔM、ΔMt−1、・・・ΔMt−mを用いて、過去に検出した観測点群の座標データを、時刻tにおける車両中心座標系(以下、ローカル座標系)に変換する。そして、時刻tにおけるローカル座標系に変換後の各フレームの観測点群を重ね合わせる。観測点群を重ねあわせて作成した点群を、以下、観測地図点群という。なお、ローカル座標系の原点は、たとえば、衛星測位部14が備えるアンテナの位置である。図6は、このステップS4で作成した観測地図点群の一例である。
【0032】
ステップS5では、ステップS4で作成した観測地図点群を、ローカル座標系のZ軸(以下、Z軸)方向に複数層に分割する。ここでは複数層は、図7に示すように3層とし、最下層は0.0≦Z<1.0、中間層は1.0≦Z<2.0、最上層は2.0≦Z<3.0とする。
【0033】
ステップS6では、ローカル座標をグローバル座標に変換する座標変換行列MLtoGを計算する。なお、グローバル座標とは、緯度経度を意味しており、またZ軸の0点は路面である。また、後に用いるピッチ座標は、グローバル座標をZ軸方向およびY軸周りに補正した座標であり、アース座標は、ピッチ座標をさらにマッチング処理した後の座標である。本明細書において、添字Lはローカル座標であることを表し、添字Gはグローバル座標であることを表し、添字Pはピッチ座標であることを表し、添字Eはアース座標であることを表す。
【0034】
座標変換行列MLtoGは式(2)より計算する。式(2)において、Mt−1PtoEはピッチ座標をアース座標へ変換する変換行列である。また、Mt−1GtoPは、グローバル座標を、ピッチ座標、すなわち、Z軸方向およびピッチ角補正した座標へ変換する座標変換行列である。
【0035】
座標変換行列MGtoPの前回値Mt−1GtoPは、後述するステップS10で計算している。また、座標変換行列MPtoEの前回値Mt−1PtoEは、後述するステップS12で計算している。なお、座標変換行列MLtoGの初期値MLtoGは式(3)で表される。そして、詳しくは後述するが、座標変換行列MGtoPは座標変換行列MLtoGから計算でき、座標変換行列MPtoEは座標変換行列MGtoPから計算できる。したがって、これら座標変換行列MGtoP、MPtoEの初期値は、座標変換行列MLtoGの初期値から計算できる。
【数2】
【数3】
【0036】
式(2)の意味を説明する。ΔMt−1は、時刻t−1における車両1の移動量をローカル座標系で表している。このΔMt−1にMt−1LtoGを乗じると、時刻t−1における車両1の移動量が、グローバル座標で表される。さらに、Mt−1GtoPを乗じると、グローバル座標からピッチ座標系に変換され、さらに、Mt−1GtoPを乗じると、ピッチ座標からアース座標に変換される。すなわち、(2)式は、t時刻において、その1フレーム前の時刻t−1における車両1のローカル座標系での移動量をアース座標で表していることになる。
【0037】
ここで、ローカル座標系での移動量は、移動後のローカル座標を意味する。したがって、ローカル座標系での移動量をアース座標に変換することは、移動後の座標をアース座標に変換することを意味する。そして、アース座標は、車両位置を高い精度で表したグローバル座標を意味する。そこで、式2の右辺の計算を、時刻tにおいて、ローカル座標をグローバル座標に変換する座標変換行列MLtoGとするのである。
【0038】
ステップS7では、時刻tにおける車両1のグローバル位置、すなわち、車両1の位置を表すグローバル座標を計算する。この計算は、ステップS6で計算した座標変換行列MLtoGと、ステップS2で計算したΔMtを用い、下記式(4)より計算する。
【数4】
【0039】
前述したように、ΔMは時刻tにおける車両のローカル座標を表しているので、式(4)より、時刻tにおける車両1のグローバル位置が計算できる。
【0040】
ステップS8では、地図管理部13に記憶されている環境地図点群から、ステップS7で計算したグローバル位置を基準として用いて、車両1の周辺の点群を抽出する。なお、環境地図点群は、グローバル座標で表されている。ステップS8の処理は、請求項の地図データ取得部、地図データ取得ステップに相当する処理である。
【0041】
ステップS9では、ステップS8で抽出した点群を、MLtoGの逆行列を用いてローカル座標に変換する。
【0042】
ステップS10では、道路表面に対する車両1の高度偏差Δzおよびピッチ角偏差Δφを補正する補正行列MΔZと、グローバル座標をピッチ座標に変換する座標変換行列MGtoPを計算する。ステップS10の処理は、請求項の地図補正部に相当する処理である。ステップS10の詳細は、図8に示す。
【0043】
まず、ステップS101では、地図管理部13に記憶している道路表面地図点群から、ステップS7で計算したグローバル位置を基準として用いて、車両1の周辺の半径r(m)の点群を抽出する。r(m)はたとえば10(m)である。環境地図点群と同様、道路表面地図点群もグローバル座標で表されている。
【0044】
ステップS102では、ステップS101で抽出した点群を、MLtoGの逆行列(MLtoG−1を用いてローカル座標に変換した後、X−Z平面上に投影する。これにより、図9に示すように、車両1の真横から道路表面地図点群を見た状態となる。なお、ステップS102において、ステップS9でローカル座標に変換した環境地図点群から、道路表面部分を抽出し、この抽出した道路表面部分をX−Z平面上に投影してもよい。
【0045】
ステップS103では、ロバスト推定において広く用いられているRANSAC(RANdom SAmple Consensus)により、ステップS102でX−Z平面上に投影した道路表面地図点群に相当する直線を算出する。これにより、図9に示す、現在位置を基準とした地面との高度偏差Δz、および、この地面と車両1のピッチ角偏差Δφが得られる。周辺監視センサ11は車両1に搭載されているので、ピッチ角偏差Δφは周辺監視センサ11の姿勢の一要素を表しているとも言える。
【0046】
ステップS104では、これら高度偏差Δz、ピッチ角偏差Δφを補正する、式(5)に示す補正行列MΔZを作成する。この式(5)において、Ry()はY軸周りの回転行列、Tz()はZ軸方向の並進ベクトルである。
【数5】
【0047】
ステップS105では、ステップS104で作成した補正行列MΔZを用い、グローバル座標をピッチ座標に変換する変換行列MGtoPを計算する。この変換行列MGtoPは式(6)により計算する。
【数6】
【0048】
式6は、グローバル座標を一旦、ローカル座標に変換し、補正行列MΔZにより、高度偏差Δz、ピッチ角偏差Δφを補正した後に、グローバル座標に変換することを意味する。
【0049】
ステップS105を終了したら、ステップS10を終了したことになる。ステップS10を終了したら、図5に示すステップS11を実行する。
【0050】
ステップS11では、ステップS8で抽出した環境地図点群を、ローカル座標系に変換する。この変換は、環境地図点群を構成する各点に、式(6)の右辺の左2項の逆行列、すなわち、(MLtoG Δz−1を乗じることで行う。この変換を行うことにより、ステップS8で抽出した環境地図点群を、車両1の高度偏差Δz、ピッチ角偏差Δφを補正した座標系にするのである。
【0051】
ステップS12では、ステップS11でローカル座標系に変換した環境地図点群を、図7と同様の3層に分割する。そして、分割した環境地図点群およびステップS5で分割した観測地図点群を、高さが同じ層同士、層ごとにマッチング処理を行う。このマッチング処理は、Iterative Closest Pointアルゴリズム(以下、ICPアルゴリズム)を用いて行う。このステップS12およびステップS5が請求項のマッチング処理部に相当する。
【0052】
ステップS12の詳細処理は図10に示す。なお、図10の説明において、観測地図点群を構成する点群のうちi層を構成する点群をA={a}(|A|=N)、ステップS11で分割した環境地図点群のうち観測地図点群のi層と同じ高さの層の点群をB={b}(|B|=N)とする。
【0053】
まず、ステップS121において、座標変換行列MをIとする。なお、座標変換行列Mは4行4列であるので、Iは具体的にはIである。ステップS122では、j=1とする。ステップS123では、MにMを代入する。ステップS124では、jがNになったか否かを判断する。ステップS124の判断がNOであればステップS125に進む。
【0054】
ステップS125では、環境地図点群BからMに対応する対応点mを決定する。この対応点の決定には、ユークリッド距離に基づく最近傍探索を行う。
【0055】
ステップS126では、対応点mと入力点Mとの距離が、dmax以下であるか否かを判断する。この判断がYESであればステップS127に進み、wを1とし、NOであればステップS128に進み、wを0とする。
【0056】
ステップS129ではjに1を加える。ステップS129を実行後はステップS124に戻る。ステップS124の判断がYESになった場合にはステップS130に進む。ステップS130では、w=1の対応点と入力点Mとの距離を最小化する変換行列を、最小二乗法を用いて計算する。
【0057】
続くステップS131では、終了条件を満たすか否かを判断する。終了条件は、最大繰り返し回数に到達したこと、あるいは、この処理を繰り返し実行したことによる入力点Mが収束したことのいずれかが成立したことである。終了条件を満たしていない場合には、ステップS122に戻る。ステップS122に戻ると、直近のステップS130で決定した座標変換行列Mで、入力点Mに対応する対応点mの探索が行われる。
【0058】
ステップS131の判断がYESであればステップS132に進む。ステップS132では、最新のMをMとする。
【0059】
続くステップS133では、観測地図点群を構成する点群1点あたりの対応点への平均距離eを式(7)から算出する。このステップS133の処理は、請求項の距離算出部に相当する処理である。
【数7】
【0060】
この図10に示す処理を観測地図点群を構成する各層について行う。したがって、各層iに対して、グローバル座標系において、観測地図点群を構成する点群を環境地図点群にマッチングさせる座標変換行列Mと、観測地図点群を構成する点群1点あたりの対応点への平均距離eが得られる。
【0061】
次に、ステップS13へ進む。ステップS13では、時刻tにおいてピッチ座標をアース座標に変換する座標変換行列MPtoEを計算する。この座標変換行列MPtoEは、ステップS12で得た座標変換行列Mに基づいて計算する。本実施形態では、3層それぞれについて計算した座標変換行列Mのうち、平均距離eが最も小さい座標変換行列MをMicpとし、下記式(8)により、MPtoEを算出する。
【数8】
【0062】
この式(8)は、ピッチ座標を、一旦、グローバル座標に変換し、ICPアルゴリズムによるマッチング処理をした後に、ピッチ座標に戻すことを意味する。アース座標は、ピッチ座標をICPアルゴリズムによるマッチング処理した座標であるが、ICP処理はグローバル座標で行うので、ピッチ座標を、一旦、グローバル座標に変換するのである。
【0063】
ステップS143では、式(9)により、高精度推定位置Pを更新する。このステップS14の処理は、請求項の位置計算部に相当する処理である。
【数9】
【0064】
式(9)において、ΔMはステップS2で計算しており、MLtoGはステップS6で計算しており、MGtoPはステップS10で計算しており、MPtoEはステップS13で計算している。この式(9)は、ローカル移動量を表す座標変換行列ΔMを、MLtoGによりローカル座標からグローバル座標に変換し、MGtoPによりグローバル座標からピッチ座標に変換し、MPtoEによりピッチ座標からアース座標に変換することを意味する。また、ローカル移動量は、ローカル座標系における移動後の車両位置を示している。よって、式(9)は、ローカル座標系における車両座標を、アース座標に変換することを意味している。
【0065】
(測位結果)
図11は、本実施形態の位置推定システム10が決定した高精度推定位置の誤差を、従来の車両位置推定システムによる推定位置の誤差と比較して示す図である。誤差を算出するための正解位置には、RTK−GPSにより測位を行う高精度GPSの測位値を用いた。また、ユークリッド距離は、正解位置と高精度推定位置、あるいは、従来システムによる推定位置との距離を意味する。
【0066】
図11から分かるように、本実施形態の位置推定システム10が決定した高精度推定位置は、従来の推定位置よりも高い精度で位置を推定できていることが分かる。
【0067】
(実施形態の効果)
以上、説明したように、本実施形態の位置推定システム10は、この位置推定システム10を搭載した車両1の周辺の点群を観測し、観測点群から作成した観測地図点群と、車両1の周辺の環境地図点群とをマッチングさせるマッチング処理を行う。
【0068】
このマッチング処理は、観測地図点群を高さ方向に複数層に分割して、層ごとに行う。これにより、観測地図点群を構成する点が、環境地図点群を構成する点群のうち、層が異なる点群に含まれる点と対応してしまうことを抑制できる。したがって、観測地図点群を構成する点と、環境地図点群を構成する点との誤対応が減少するので、図11に示したように、高精度推定位置は、真の現在位置を高い精度で推定できる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0070】
<変形例1、2>
たとえば、前述の実施形態では、3層それぞれについて計算した座標変換行列Mのうち、平均距離eが最も小さい座標変換行列MをMicpとして、高精度推定位置Pを計算していた(S13、S14)。
【0071】
しかしこれに限られず、3層それぞれについて計算した座標変換行列Mを、それぞれMicpとして用いて式(8)、式(9)を計算し、3つの推定位置を算出し、その3つの推定位置に基づいて、最終的な高精度推定位置Pを算出してもよい。
【0072】
これら3つの推定位置から最終的な高精度推定位置Pを算出する方法は、たとえば、それら3つの推定位置の単純平均である(変形例1)。また、加重平均でもよい(変形例2)。加重平均の際の重みは、たとえば、平均距離eの逆数とする。
【0073】
<変形例3>
前述の実施形態では、道路表面地図点群をローカル座標系のX−Z平面に投影することで、ピッチ角偏差Δφ、高度偏差Δzを算出していた。しかし、これらピッチ角偏差Δφ、高度偏差Δzを、ピッチ角、高度を検出するセンサの検出値に基づいて計算してもよい。
【0074】
<変形例4>
前述の実施形態では、地図管理部13に道路表面地図点群を記憶していた。しかし、道路表面地図点群は環境地図点群から高さ方向の点群を除去したものであるので、道路表面地図点群を記憶せず、環境地図点群から、都度、道路表面地図点群を作成してもよい。
【0075】
<変形例5−8>
周辺監視センサ11として、カメラを用いてもよい(変形例5)。位置推定システムを車両以外の移動体で搭載してもよい(変形例6)。観測地図点群を分割する層数は3以外の複数でもよい(変形例7)。観測地図点群を分割した各層の高さ方向長さが、互いに異なっていてもよい(変形例8)。
【0076】
<変形例9>
前述の実施形態では、三次元地図データは、道路およびその周囲に存在する物体の三次元位置を、点群により示しているデータであった。また、観測データとして観測点群を取得していた。
【0077】
しかし、三次元地図データ、観測データが点群でなくても、本発明は実施できる。したがって、三次元地図データとして、点に加えて、あるいは点に代えて、線や面により物体の三次元位置を示すデータを取得し、観測点群に代えて、周囲に存在する物体の形状を、点に加えて、あるいは点に代えて、線や面により物体の三次元位置を示す観測データを取得してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1:車両、 10:位置推定システム、 11:周辺監視センサ、 12:無線通信部、 13:地図管理部、 14:衛星測位部、 15:車両状態センサ、 16:位置推定処理部、 18:車内LAN、 20:サーバ、 21:地図データベース、 30:測位用衛星
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