(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料カーボンナノチューブ含有組成物を、濃度50質量%以上80質量%未満の硝酸中で加熱処理することにより湿式酸化処理することで波長532nmのラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)が30以上である一次処理カーボンナノチューブ集合体を得る第一の酸化処理工程、および、70質量%以上100質量%以下の濃度であって、かつ、前記第一の酸化処理工程における硝酸の濃度よりも高い濃度の硝酸を用いて硝酸中で加熱処理することにより湿式酸化処理を行う第二の酸化処理工程を含むカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、酸吸着量が0.6質量%以上12質量%以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明において用いられるカーボンナノチューブ集合体とは、複数のカーボンナノチューブが存在している総体を意味する。その存在形態は特に限定されず、それぞれが独立で、あるいは束状、絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数、直径のものが含まれていてもよい。また、カーボンナノチューブが、分散液や他の成分を配合した組成物中、あるいは他の成分と複合した透明導電性フィルムなどの複合体中に含まれる場合でも、複数のカーボンナノチューブが含まれていれば、これら複数のカーボンナノチューブについて、カーボンナノチューブ集合体が含まれていると解する。また、カーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブ製造プロセス由来の不純物(例えば触媒、アモルファスカーボンおよび粒子状のカーボン等)を含み得る。
【0016】
本発明のカーボンナノチューブ集合体における酸吸着量とは、カーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブに吸着された酸成分の量を、カーボンナノチューブ集合体全体に対する質量分率で表したものである。ここで、酸が吸着されたとは、カーボンナノチューブの内部あるいはカーボンナノチューブバンドル間などに酸成分が分子の形態あるいはイオンの形態で物理的または静電的に相互作用している状態を表しており、カーボンナノチューブ集合体中に単純に酸成分が共存しているだけの状態は含まれない。一例を挙げると、カーボンナノチューブ集合体を塩酸溶液に含浸させたとき、カーボンナノチューブ集合体に含まれる塩酸量は一時的に増加するが、これは本発明における酸の吸着とは見做さない。カーボンナノチューブ集合体を十分に水洗してもなお、カーボンナノチューブ集合体中に酸成分が残存した場合、その酸成分はカーボンナノチューブに酸が吸着されたと見做す。
【0017】
具体的には、カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量は、以下のようにして求める。対象となるカーボンナノチューブ集合体をイオン交換水中に懸濁させ、その懸濁液のpHが中性になるまで、水洗および吸引ろ過を繰り返し、吸着されていない酸成分を除去する。その後、水洗したカーボンナノチューブ集合体をイオン交換水中で超音波照射することにより、カーボンナノチューブに吸着していた酸成分を水中へ脱離させる。超音波照射後の懸濁液のpHから懸濁液中の水素イオン濃度を算出し、その水素イオン濃度からカーボンナノチューブ集合体中に含まれる酸成分の量を求める。
【0018】
本発明のカーボンナノチューブ集合体の酸吸着量は、0.6質量%以上12質量%以下である。カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量を0.6質量%以上とすることで、酸成分によるカーボンナノチューブへのドープ効果が十分に発揮され、導電性の向上といった効果が発揮される。酸成分によるカーボンナノチューブへのドープ効果がより十分に発揮され、導電性のさらなる向上といった効果が発揮される理由により、酸吸着量の下限は、1質量%以上が好ましい。また、カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量を12質量%以下とすることで、導電性の低下を防止することができる。カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量が12質量%を超えると導電性が低下する理由については定かではないが、カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量が12質量%を超えるまで酸成分溶液中で酸化処理を行った場合、カーボンナノチューブが損傷を受け、ドープ効果により得られる導電性の向上を上回る導電性の低下が起こるためと考えられる。酸成分溶液中での加熱処理によるカーボンナノチューブへの損傷を抑制することで、さらなる導電性の向上といった効果が発揮されるため、酸吸着量の上限は、6質量%以下が好ましく、特に好ましくは3質量%以下である。
【0019】
本発明のカーボンナノチューブ集合体において、カーボンナノチューブに吸着されている酸成分の好ましい例としては、硝酸、硫酸、塩酸、燐酸などの無機酸が挙げられる。また、2種類以上の酸成分を混合したものを用いることができる。操作の簡便化の観点から、酸成分としては、硝酸、硫酸、塩酸および燐酸より選ばれる1種類、または2種類以上の混合物が好ましい。さらには、カーボンナノチューブ合成後の触媒金属などの炭素不純物除去を効率的に行うことができるといった効果を併せ持つ硝酸が特に好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、一層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、その中で特に2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブの形態は、高分解能透過型電子顕微鏡で調べることができる。グラファイトの層は、透過型電子顕微鏡で真っ直ぐにはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層が乱れていても構わない。
【0021】
通常、カーボンナノチューブは層数が少ないほどグラファイト化度が高く、それによりカーボンナノチューブの導電性が高くなる傾向がある。すなわち単層および2層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブに比べ高い導電性を有する傾向にあるため、本発明の効果を発揮させるのにより好ましい。さらに、2層カーボンナノチューブは、耐久性が単層カーボンナノチューブに比べ高い。従って、カーボンナノチューブの製造工程において、カーボンナノチューブが損傷を受ける酸化処理等がなされることを考慮すると、2層カーボンナノチューブを多く含むことがより好ましい。
【0022】
カーボンナノチューブ集合体に含まれる全てのカーボンナノチューブに対する2層カーボンナノチューブの割合は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。ここでいうカーボンナノチューブの割合は、カーボンナノチューブ集合体を透過型電子顕微鏡で観察し、そのなかに含まれる任意に抽出したカーボンナノチューブの層数および本数を数えることによって確認できる。
【0023】
カーボンナノチューブの層数と本数の具体的数え方は、次のとおりである。すなわち、カーボンナノチューブ集合体1mgをエタノール1mLに入れて、15分間、超音波バスを用いて分散処理を行う。分散した試料をグリッド上に数滴滴下し、乾燥させる。このように試料が塗布されたグリッドを、倍率40万倍の透過型電子顕微鏡を用いて測定し、カーボンナノチューブ集合体を観察する。任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて層数を評価する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。このとき、カーボンナノチューブ1本とは視野中でカーボンナノチューブの一部でも見えていれば1本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。
【0024】
カーボンナノチューブの平均外径は、1nm以上3nm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブ集合体に含有されるカーボンナノチューブの平均外径が上記の範囲内にあるカーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブ内を流れる電子の軸方向への移動の直線性が増し、カーボンナノチューブの導電性が向上する。このカーボンナノチューブ一本あたりの平均外径は、上記と同様の方法で透過型電子顕微鏡を用いて、倍率40万倍で観察し、75nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブである視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて観察し、カーボンナノチューブの外径を測定したときの算術平均値である。
【0025】
カーボンナノチューブ集合体は、波長532nmのラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)が30以上であることが好ましい。G/D比が40以上200以下であることがより好ましく、G/D比が50以上150以下であることが特に好ましい。ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は532nmとする。ラマン分光分析法により得られるラマンスペクトルにおいて1,590cm
−1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1,350cm
−1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このGバンドおよびDバンドの高さ比、G/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高く、高品質であること、すなわち高結晶性であり高い導電性を有していることを示している。カーボンナノチューブ集合体のような固体のラマン分光分析法は、サンプリングによってばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所、別の場所をラマン分光分析し、その相加平均をとるものとする。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を含む導電層を基材上に形成することで、透明導電性フィルムを得ることが可能である。透明導電性フィルムを製造する際には、カーボンナノチューブ集合体を、必要により界面活性剤や各種高分子材料などの添加剤とともに分散媒に分散させて分散液とする。得られた分散液を基材に塗布することにより、導電層を形成する。本発明のカーボンナノチューブ集合体を含む導電層を基材上に形成することで、全光線透過率が90%以上、表面抵抗値が1000Ω/□以下である透明導電性フィルムを製造することが可能である。
【0027】
上記のような本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、原料となるカーボンナノチューブ含有組成物(以下、原料カーボンナノチューブ含有組成物と呼ぶ)に2段階の湿式酸化処理を施すことにより、得ることができる。すなわち、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の製造方法は、原料カーボンナノチューブ含有組成物を湿式酸化処理する第一の酸化処理工程であって、波長532nmのラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)が30以上であって2層カーボンナノチューブを50%以上含む一次処理カーボンナノチューブ集合体を得る工程、および、前記一次処理カーボンナノチューブ集合体を湿式酸化処理する第二の酸化処理工程を有し、前記第二の酸化処理工程は前記第一の酸化処理工程より強い酸化条件で酸化処理を行う。本発明の製造法に供する原料カーボンナノチューブ含有組成物は、例えば以下のように製造される。
【0028】
マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に該触媒が存在するように設置する。該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと上記触媒を500〜1200℃で接触させることにより、単層〜5層のカーボンナノチューブ含有組成物を製造する。このようにして製造され、必要に応じて触媒除去を行ったカーボンナノチューブ含有組成物を原料カーボンナノチューブ含有組成物と呼ぶ。この原料カーボンナノチューブ含有組成物が本発明の第一の酸化処理工程に供される。
【0029】
本発明の製造方法において、第一の酸化処理工程は液相中での湿式酸化である。液相中の酸化処理は、気相中の酸化処理と比較すると原料カーボンナノチューブ含有組成物のグラファイト構造の破壊や切断が少なく、また原料カーボンナノチューブ含有組成物全体が均一に処理されやすい。原料カーボンナノチューブ含有組成物に第一の酸化処理を施したカーボンナノチューブ集合体を一次処理カーボンナノチューブ集合体と呼ぶ。
【0030】
湿式酸化処理工程である第一の酸化処理工程に用いられる酸化剤としては、硝酸、硫酸、塩酸、燐酸などの無機酸、または過酸化水素などの水溶液にした場合に酸性を示す化合物などが挙げられ、これらを単独もしくは2種類以上混合して用いることができる。操作の簡便化の観点から、酸成分としては、硝酸、硫酸、塩酸、燐酸および過酸化水素より選ばれる1種類、または2種類以上の混合物が好ましく、硝酸、硫酸、過酸化水素もしくはこれらの2種類以上の混合物がより好ましい。特に好ましくは硝酸である。硝酸は、炭素不純物や欠陥を有するカーボンナノチューブを酸化除去できるが、高結晶性のカーボンナノチューブの表面に欠陥を導入するほどには酸化力が高くないからである。
【0031】
酸化剤として硝酸を用いる場合の好ましい硝酸濃度は、50質量%以上80質量%未満、より好ましくは55質量%以上70質量%未満、さらにより好ましくは60質量%以上65質量%以下である。硝酸濃度を50質量%以上とすることで炭素不純物を十分に除去することができ、硝酸濃度を80質量%未満とすることで高結晶性のカーボンナノチューブの表面に損傷が生じるのを抑制することができる。第一の酸化処理工程として80質量%以上の濃度の硝酸を用いてしまうと、炭素不純物と高結晶性カーボンナノチューブの酸化除去される速度の差が小さくなってしまい、炭素不純物と同時に高結晶性カーボンナノチューブ自身まで酸化除去されるおそれがある。そのため、高結晶性カーボンナノチューブの収量減少や高結晶性カーボンナノチューブの割合の低下、すなわちG/D比の低下につながってしまうために好ましくない。
【0032】
また、第一の酸化処理工程は、加熱条件化で行うことが好ましい。第一の酸化処理工程の温度は60℃以上、沸点以下が好ましく、特に好ましくは100℃から酸化剤溶液が還流した状態になる温度までの範囲にするのが好ましい。また、第一の酸化処理工程の時間は1時間以上100時間以下が好ましく、より好ましくは12時間以上48時間以下、より好ましくは18時間以上24時間以下である。処理時間を1時間以上とすることで原料カーボンナノチューブ含有組成物に含まれる炭素不純物が十分に除去され、全てのカーボンナノチューブに対する高結晶性のカーボンナノチューブの割合を高くすることができる。一方、処理時間を100時間以下とすることで、高結晶性カーボンナノチューブ表面に損傷が生じるのを抑制し、導電性が低下するのを防ぐことができる。
【0033】
第一の酸化処理工程においては、原料カーボンナノチューブ含有組成物を酸化剤溶液中で加熱する際の酸化剤の種類、濃度、加熱する時間、加熱する際の温度、またはそれらの条件を適宜組み合わせることにより、2層カーボンナノチューブを50%以上含み、かつG/D比が30以上となる一次処理カーボンナノチューブ集合体が得られる。上記の各条件およびそれらの条件の組み合わせは、2層カーボンナノチューブを50%以上含み、かつG/D比が30以上となるカーボンナノチューブ集合体となる限りにおいて限定はされない。
【0034】
第一の酸化処理工程によって原料カーボンナノチューブ含有組成物に含まれる炭素不純物や表面に欠陥を有する低品質カーボンナノチューブ、特に表面に欠陥を有する単層カーボンナノチューブが酸化除去されることにより、高結晶性であり、かつ2層カーボンナノチューブを50%以上含有する一次処理カーボンナノチューブ集合体を得ることができる。高結晶性であることは、波長532nmのラマン分光分析によるG/D比から判別することができ、本発明ではG/D比30以上であるときに高結晶性であるということができる。
【0035】
次に、上記のようにして得られた一次処理カーボンナノチューブ集合体に、第二の酸化処理工程を施す。一次処理カーボンナノチューブ集合体に第二の酸化処理を施したカーボンナノチューブ集合体を二次処理カーボンナノチューブ集合体と呼ぶ。
【0036】
第二の酸化処理工程は、第一の酸化処理工程よりも強い酸化条件で行う。第二の酸化処理工程で用いられる酸化剤としては、硝酸、硫酸、塩酸、燐酸などの無機酸もしくは、これらの中から選ばれる2種類以上の混合物が挙げられる。ここで、第二の酸化処理工程における酸化条件を第一の酸化処理工程よりも強くする手段としては、例えば以下の方法が例示できる。酸化剤として第一の酸化処理工程で用いたものと同じ種類の酸化剤を用いる場合は、酸化剤の濃度あるいは処理温度を高くすることで酸化処理条件を強くすることができる。酸化剤として第一の酸化処理工程で用いたものよりも酸化力の強い酸化剤を用いることで酸化処理条件を強くすることもできる。また、上記の手段を適宜組合せることで酸化処理条件を強くすることができる。
【0037】
第一の酸化処理工程に硝酸を用いた場合、第二の酸化処理工程で好ましく用いられる酸化剤は、第一酸化処理工程よりも高濃度の硝酸である。具体例としては、好ましくは70質量%以上100質量%以下の濃度であって、かつ第一の酸化処理工程における硝酸の濃度よりも高い濃度の硝酸が挙げられる。より好ましくは80質量%以上100質量%以下の濃度であって、かつ第一の酸化処理工程における硝酸の濃度よりも高い濃度の硝酸が挙げられる。
【0038】
第二の酸化処理工程は第一の酸化処理工程よりも酸化力が強い酸化剤を用いるため、その温度は第一の酸化処理工程よりも低いことが好ましく、20℃以上、100℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下が特に好ましい。一方、酸化処理時間については、特に制限はないが、操作性の観点から1時間以上100時間以下が好ましく、特に12時間以上24時間以下が好ましい。
【0039】
第二の酸化処理工程においても第一の酸化処理工程同様にカーボンナノチューブ集合体を酸化剤溶液中で加熱する際の酸化剤の種類、濃度、加熱する時間、加熱する際の温度、またはそれらの条件を適宜組み合わせることができる。また、上記の各条件およびそれらの条件の組み合わせは、前記第一の酸化処理工程よりも強い酸化条件となる限りにおいて限定はされない。
【0040】
このように第一の酸化処理工程を経た高純度・高結晶性のカーボンナノチューブに対して第二の酸化処理工程を行うことで、カーボンナノチューブの酸化よりも酸成分の吸着が優先して起こるのである。これによって、本発明の範囲を満たすカーボンナノチューブ集合体、すなわち、酸吸着量が0.6質量%以上12質量%以下であるカーボンナノチューブ集合体を得ることができる。一方、このような2段階の湿式酸化処理を行わず、原料カーボンナノチューブ含有組成物に対して、直接、本発明の第二の酸化処理工程のような強い酸化条件で湿式酸化処理を行うと、酸成分の吸着よりも、カーボンナノチューブの酸化が優先して起こり、カーボンナノチューブが劣化してしまうため好ましくない。
【0041】
酸成分が吸着される場所は定かではないが、カーボンナノチューブの内部あるいはカーボンナノチューブバンドル間に存在していると考えられる。その結果、カーボンナノチューブ自体の結晶性を保ったまま、カーボンナノチューブにより多くの酸成分を吸着させることができるのである。
【0042】
このようにして得られた第二の酸化処理工程後のカーボンナノチューブ集合体は、前記の特性を有していることが好ましい。すなわち、波長532nmのラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)が30以上であることが好ましく、40以上200以下であることがより好ましく、50以上150以下であることが特に好ましい。また、第二の酸化処理工程後のカーボンナノチューブ集合体に含有される全てのカーボンナノチューブに対する2層カーボンナノチューブの割合が、50%以上であることが好ましい。また、第二の酸化処理工程後のカーボンナノチューブ集合体に含まれるカーボンナノチューブの平均外径が1nm以上3nm以下であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の方法に従って原料カーボンナノチューブ含有組成物に対して液相中で第一の酸化処理および第二の酸化処理を行った後、乾燥させることなく分散媒および添加剤と混合して分散させることは、カーボンナノチューブの分散性が非常に良くなるため好ましい。カーボンナノチューブは一旦乾燥してしまうと、強固なバンドルを形成してしまい、分散させることが困難になる傾向がある。乾燥したカーボンナノチューブに添加剤および分散媒と混合して、例えば超音波ホモジナイザー等を利用してバンドルをほぐそうとしても多大なエネルギーと時間を要し、分散させている最中にカーボンナノチューブ自体も損傷を受けやすい。乾燥させることなく分散させる場合では、カーボンナノチューブは乾燥時ほど強固なバンドルを形成していないため、容易に分散可能であり、分散に要するエネルギー、時間も少なくてすむため、分散させている最中にカーボンナノチューブ自体が受ける損傷も少ない。したがって、高い導電性を有する材料形成のための分散液製造には、酸化処理したカーボンナノチューブを乾燥させることなく分散させると効果が大きい。
【0044】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、分散媒に分散させてなる分散液として好適に用いられる。分散液は、カーボンナノチューブ集合体および必要に応じて分散剤を、分散媒中で超音波分散処理することにより得ることができる。用いられる分散剤としては、界面活性剤、各種高分子材料(水溶性高分子材料等)等を用いることができる。分散剤は、カーボンナノチューブ集合体または微粒子の分散能や分散安定化能等を向上させるのに役立つ。界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤に分けられる。本発明ではいずれの界面活性剤を用いることも可能であるが、分散能が高い点からイオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤があげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤などがあげられる。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤およびカルボン酸系界面活性剤などがあげられる。中でも、分散能、分散安定能および高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0046】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤;ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。上記において、アルキルとは炭素数1−20から選択されるアルキルであって良い。中でも、分散能、分散安定能および高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0047】
各種高分子材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー;カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー等がある。またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体も使用できる。本発明においては水溶性高分子が好ましく、なかでも、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマーを使用することにより、カーボンナノチューブ集合体の導電特性を効率的に発揮することができ好ましい。さらにカルボキシメチルセルロースナトリウム塩等の水溶性アニオン性界面活性剤を水系溶液として使用する場合は、分散液のpHを6以上8以下にすることが好ましい。界面活性剤間の静電反発増大による分散能向上とカーボンナノチューブ集合体中の酸成分維持の観点から、特にpH7の中性が好ましい。pHの調整はアルカリ性溶液を添加することにより行うことができる。アルカリ性溶液としては、アンモニアや有機アミンの溶液を用いる。有機アミンとしては、エタノールアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピリジン、ピペリジン、ヒドロキシピペリジンなどの窒素を含む有機化合物が好ましい。これらアンモニア、有機アミンの中で最も好ましいのはアンモニアである。これら有機アミンやアンモニアを溶解する溶媒としては、水を用いることが好ましい。pHはpHメーター(東亜電波工業社製、HM−30S)により測定される。
【0048】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を分散させるときの分散媒は、水系溶媒でも良いし非水系溶媒でも良い。非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。これらのなかでも分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルおよびこれらから選ばれた複数を組み合わせた溶媒を含有する分散媒であることが好ましい。水系溶媒が必要である場合、および後述するバインダーを用いる場合であって、そのバインダーが無機ポリマー系バインダーの場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。また、バインダーとして常温で液状のものを用いる場合には、それ自体を分散媒として用いることもできる。
【0049】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を含む分散液において、添加される分散剤量については、カーボンナノチューブ集合体に対する分散剤の質量比率が10以下が好ましく、より好ましくは0.8〜6以下、さらに好ましくは0.8〜3以下、特に好ましくは0.8〜2.5である。カーボンナノチューブ集合体に対する分散剤の質量比率が上記の好ましい範囲である場合は、そのような分散液を用いて得られた透明導電性フィルム等において、導電性などの優れた特性を発揮させることができる。また、カーボンナノチューブ集合体を高度に分散させるためのより好ましい分散剤量は、分散剤の重量平均分子量によって異なり、分散剤が低分子量である場合には比較的多目に、高分子量である場合には少な目にすることが好ましい。たとえば、分散剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いた場合、重量平均分子量が30万超の分散剤では、好ましい質量比率は0.8〜2、より好ましくは1〜1.5、特に好ましくは1〜1.3である。一方、重量平均分子量が30万以下の分散剤では、質量比率は2〜6が好ましく、より好ましくは2〜3、特に好ましくは2.2〜2.8である。
【0050】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を超音波分散処理に供するに際し、分散液中においてカーボンナノチューブ集合体の濃度は0.01質量%から1質量%が好ましく、0.01質量%から0.8質量%がより好ましい。なお、上記カーボンナノチューブ集合体の濃度は、使用した各成分の使用量から求めることができるが、カーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ集合体の濃度を測定しようとする場合は、分散液の吸光度から求めることもできる。
【0051】
超音波分散処理における超音波の照射出力は、処理量や分散時間にもよるが、20〜1,000Wが好ましい。カーボンナノチューブ集合体のグラファイト構造を可能な限り破壊せずに高度に分散させるためには、超音波の照射出力、分散時間等を調整することが好ましい。例えば、分散処理量が20mL以下の場合であれば、超音波の照射出力は20〜50Wが好ましく、分散処理量が100〜500mLであれば、100W〜400Wが好ましい。超音波の出力が大きいときは分散時間を短くする、出力が小さいときは分散時間を長くする等の調整をすることで、カーボンナノチューブ集合体のグラファイト構造を可能な限り破壊せずに高度に分散させることが可能となり、カーボンナノチューブ集合体の特性低下を抑制することができる。具体的な超音波処理条件は、次式(1)
超音波照射量(kW・min/g)=照射出力(kW)×分散時間(min)/乾燥カーボンナノチューブ集合体質量(g)・・・(1)
から求められる超音波照射量が10kW・min/g以下が好ましく、より好ましくは0.1kW・min/g〜4kW・min/g、さらに好ましくは0.2kW・min/g〜3kW・min/gである。
【0052】
カーボンナノチューブ集合体を分散させる際の温度は、特に高出力の場合においては分散中に液温が上昇しないように、冷却しながら連続フロー式で分散を行うなどし、液温が上昇しないようにすることが好ましい。超音波照射中の液温は好ましくは、0℃〜50℃であり、より好ましくは、0℃〜30℃であり、さらに好ましくは、0℃〜20℃である。この範囲にあることで、カーボンナノチューブと分散剤が安定に相互作用し、高度に分散させることができる。周波数は20〜100kHzであることが好ましい。
【0053】
このようなカーボンナノチューブ集合体の分散液を調製後、基材上に塗布することで透明導電性フィルムを得ることができる。カーボンナノチューブ集合体の分散液を塗布する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
【0054】
また、塗布する際のカーボンナノチューブ集合体分散液中のカーボンナノチューブ集合体の濃度は、塗布方法によって適宜選択されるが、0.001質量%から10質量%が好ましい。
【0055】
分散液の塗布厚み(ウェット厚)は、塗布液の濃度にも依存するが、0.1μmから50μmであることが好ましい。さらに好ましくは1μmから20μmである。
【0056】
カーボンナノチューブ集合体の水系分散液を基材上に塗布するとき、分散液中に濡れ剤を添加しても良い。非親水性の基材に塗布する場合は、特に界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を分散液中に添加することで、基材に分散液がはじかれることなく塗布することができる。濡れ剤としてはアルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノールまたはエタノールが好ましい。メタノール、エタノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために、塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いても良い。
【0057】
このようにしてカーボンナノチューブ集合体の分散液を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な分散媒を除去することにより、カーボンナノチューブ集合体を含む導電層を得ることができる。それによりカーボンナノチューブ集合体は、3次元網目構造を形成し、基材に固定化される。その後、液中の成分である分散剤を適当な溶媒を用いて除去する。この操作により、電荷の分散が容易になり、導電層の導電性が向上する。
【0058】
上記分散剤を除去するための溶媒としては、分散剤を溶解するものであれば特に制限はなく、水性溶媒でも非水性溶媒でもよい。具体的には水性溶媒としては、水、アルコール類、アセトニトリルなどが挙げられ、非水性溶媒であれば、クロロホルム、トルエンなどがあげられる。
【0059】
上記のようにカーボンナノチューブ集合体を含む分散液を基材に塗布して導電層を形成後、この導電層を有機透明被膜または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらなる電荷の分散や、移動に効果的である。
【0060】
また、透明導電性フィルムは、カーボンナノチューブ集合体を含む分散液中に有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料を含有させ、基材に塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行っても得ることができる。その際の加熱条件は、バインダー種に応じて適当に設定する。バインダーが光硬化性または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
【0061】
上記バインダー材料としては、導電性塗料に使用されるものであれば特に制限はなく、各種の有機および無機バインダーが使用できる。有機バインダーとしては、透明な有機ポリマーまたはその前駆体(以下、「有機ポリマー系バインダー」ということがある)が使用できる。無機バインダーとしては、無機ポリマーまたはその前駆体(以下、「無機ポリマー系バインダー」ということがある)が使用できる。有機ポリマー系バインダーは、熱可塑性、熱硬化性、あるいは放射線硬化性のいずれであってもよい。
【0062】
適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6,10等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン樹脂、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなどの有機ポリマー、ならびにこれらのポリマーの前駆体(モノマーまたはオリゴマー)がある。これらは、単に溶剤を蒸発させることによって、または、熱硬化させること、もしくは光照射や放射線照射で硬化させることによって、透明被膜またはマトリックスを形成することができる。
【0063】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいものは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしては、スチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い被膜もしくはマトリックスを形成することができる。
【0064】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機金属化合物(有機リン化合物、有機ボロン化合物、有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物など)がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、金属アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸金属塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0065】
これらの無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜もしくはマトリックスを形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【0066】
バインダーの使用量は、オーバーコートをするのに十分な量、または、分散液中に配合する場合には塗布に適した粘性を得るのに十分な量であればよい。少なすぎると塗布がうまくいかず、多すぎても導電性を阻害する。
【0067】
分散液には、必要に応じて、カップリング剤、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調整剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。また、分散液には、本発明のカーボンナノチューブ集合体以外の導電性有機材料、導電性無機材料、あるいはこれらの材料の組合せをさらに含むことができる。
【0068】
導電性有機材料としては、カーボンブラック、フラーレン、多種カーボンナノチューブ、ならびにそれらを含む粒子や、スルホン酸等の有機酸、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、トリニトロフルオレノン(TNF)、クロラニル等のアクセプタ構造を分子内に有する有機化合物等を用いることができる。
【0069】
導電性無機材料としては、アルミニウム、アンチモン、ベリリウム、カドミウム、クロム、コバルト、銅、ドープ金属酸化物、鉄、金、鉛、マンガン、マグネシウム、水銀、金属酸化物、ニッケル、白金、銀、鋼、チタン、亜鉛、ならびにそれらを含む粒子があげられる。好ましくは、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、およびそれらの混合物があげられる。
【0070】
これらの導電性材料を含有させ、あるいはオーバーコーティングして得たフィルムは、電荷の分散、または移動に非常に有利である。また、カーボンナノチューブ集合体以外の導電性材料を含む層とカーボンナノチューブ集合体を含む層を積層させてもよい。
【0071】
透明導電性フィルムの基材の材料としては、特に限定されず、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスを組み合わせた基材、2種以上の樹脂を積層した基材などの複合基材であってもよい。樹脂フィルムにハードコートを設けたようなものであっても良い。また、これらフィルムをコロナ処理などの親水性化処理したフィルムでも良い。さらにこれらフィルム上にアンダーコート層を設けたフィルムでも良い。アンダーコート層の素材としては親水性の高い素材であることが好ましい。具体的には無機酸化物を用いることが好ましい。より好ましくは、チタニア、アルミナ、またはシリカである。これらの物質は、表面に親水基であるヒドロキシル基を有しており、高い親水性が得られるため好ましい。さらにアンダーコート層はこれらの無機酸化物と樹脂複合体でも良く、例えばシリカ微粒子とポリシリケートの複合物があげられる。
【0072】
上記のようにして得られる導電層は、基材と接着させたまま使用することもできるし、基材から剥離させ自立フィルムとして用いることもできる。自立フィルムを作製するには、例えば、導電層上にさらに有機ポリマー系バインダーを塗布した後、基材を剥離すればよい。また、作製時の基材を熱分解により焼失あるいは溶融させ、別の基材に導電層を転写して用いることもできる。その際は、作製時の基材の熱分解温度が転写基材の熱分解温度より低いことが好ましい。
【0073】
上記のようにして得られる導電層の厚さは、種々の範囲をとることができる。例えば、導電層は0.5nm〜1,000μmの間の厚さとしうる。好ましくは0.005〜1,000μm、より好ましくは0.05〜500μm、さらに好ましくは1.0〜200μm、特に好ましくは1.0〜50μmである。
【0074】
上記のようにして得られる透明導電性フィルムの全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることがより好ましい。また透明導電性フィルムの表面抵抗は、2000Ω/□未満であることがより好ましく、1000Ω/□未満であることがさらに好ましい。表面抵抗は、1Ω/□以上であることが好ましい。この範囲にあることで、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどの透明導電膜付き基材として好ましく用いることができる。すなわち、表面抵抗が1Ω/□以上であれば、上記の基材として透過率を高くかつ消費電力を少なくすることができる。表面抵抗が1000Ω/□以下であれば、タッチパネルの上記の座標読みとりにおける誤差の影響が小さくすることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0076】
(カーボンナノチューブ集合体評価)
[カーボンナノチューブ集合体の酸吸着量定量]
まず、イオン交換水中にカーボンナノチューブ集合体を懸濁させる。懸濁液が中性になるまで水洗および吸引ろ過を繰り返す。中性になった懸濁液をろ過して得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体(乾燥重量換算で15mg)を20mLの容器に量りとり、イオン交換水を加えて10gにし、超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)製、VCX−130)出力20Wで1.5分間、氷冷下で超音波照射した。超音波照射した後のカーボンナノチューブ集合体の懸濁液のpHを測定し、そのpHから下記式によりカーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量を求める。カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量(質量%)は、カーボンナノチューブ集合体の懸濁液中の酸成分の量(g)をカーボンナノチューブ集合体の量(g)および酸成分1分子中に含まれる水素の数で割り、それに100を乗じることで算出する。
算出式:カーボンナノチューブ集合体中の酸吸着量(質量%)=10
−X×0.01×M×100/0.015×Y
M:酸成分の分子量
X:カーボンナノチューブ懸濁液のpH
Y:酸成分1分子に含まれる水素の数
[カーボンナノチューブ集合体のG/D比の測定]
共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン社製 INF−300)に粉末試料を設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。G/D比の測定に際しては、サンプルの異なる3ヶ所について分析を行い、その相加平均を求めた。
【0077】
[カーボンナノチューブの外径分布および層数分布の観察]
カーボンナノチューブ集合体1mgをエタノール1mLに入れて、15分間超音波バスを用いて分散処理を行った。分散した試料をグリッド上に数滴滴下し、乾燥した。このように試料の塗布されたグリッドを透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM−2100)に設置し、測定を行った。カーボンナノチューブの外径分布および層数分布の観察は、倍率40万倍で行った。
【0078】
(基材にカーボンナノチューブ分散液を塗布した透明導電性フィルムの評価)
[透明導電性フィルムの作製]
まず以下の操作によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製(“ルミラー”(登録商標) U46)上に、ポリシリケートをバインダーとし、直径30nmのシリカ微粒子が表出する親水シリカアンダーコート層を作製した。
【0079】
30nmの親水シリカ微粒子とポリシリケートを固形分濃度で1質量%含むメガアクア(登録商標)親水DMコート((株)菱和製、DM−30−26G−N1)をアンダーコート作製用塗液として用いた。
【0080】
ワイヤーバー#4を用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製(“ルミラー”(登録商標) U46)上に前記アンダーコート作製用塗液を塗布した。塗布後、140℃の乾燥機内で1分間乾燥させた。
【0081】
後述のようにして、カーボンナノチューブの濃度が0.04質量%のカーボンナノチューブ集合体分散液を調製し、アンダーコート層を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(”ルミラー”(登録商標) U46)、光透過率91.3%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いてこの塗布液を塗布して風乾した後、120℃乾燥機内で1分間乾燥させ、カーボンナノチューブ含有組成物を固定化した。
【0082】
次に、ポリシリケートを固形分濃度で1質量%含むコルコート(登録商標)(コルコート(株)製、N−103X)をオーバーコート作製用塗液として用いた。この塗液をワイヤーバー#8を用いてカーボンナノチューブ層上に塗布後、175℃乾燥機内で1分間乾燥させた。
【0083】
[全光線透過率測定]
透明導電性フィルムの全光線透過率は、透明導電性フィルムをHaze Meter(日本電色工業(株)製、 NDH4000)に装填し、測定した。
【0084】
[表面抵抗測定]
透明導電性フィルムの表面抵抗値は、JIS K 7149(1994年12月制定)準処の4端子4探針法を用い、ロレスタ(登録商標)EP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて行った。高抵抗測定の際は、ハイレスター(登録商標)UP MCP−HT450((株)ダイアインスツルメンツ製、10V、10秒)を用いて測定した。
【0085】
(実施例1)
(触媒調製)
24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷社製MJ−30)を1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。容器を密閉した状態で160℃に加熱し、6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物を120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分を、篩い上で、乳鉢で細粒化しながら、10〜20メッシュの範囲の粒径の触媒体を回収した。左記の顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。得られた触媒体のかさ密度は0.32g/mLであった。また、前記の吸引濾過により濾別された濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ、鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは、全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.39wt%であった。
【0086】
(原料カーボンナノチューブ含有組成物製造)
上記の触媒を用い、原料カーボンナノチューブ含有組成物を合成した。上記の固体触媒132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入することで触媒層を形成した。反応器内の温度が860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように流通させ、反応させた。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却して、触媒付きカーボンナノチューブ集合体を得た。この触媒付きカーボンナノチューブ集合体129gを、4.8Nの塩酸水溶液2000mL中で1時間撹拌することで、触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液を濾過した後、濾取物を再度4.8Nの塩酸水溶液400mLに投入し、脱MgO処理をした後、濾取した。この操作を3回繰り返し、触媒が除去された原料カーボンナノチューブ含有組成物を得た。
【0087】
(第一の酸化処理工程)
上記の原料カーボンナノチューブ含有組成物を300倍の重量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay 60質量%)に添加した。その後、140℃のオイルバスで24時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で2倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗することにより、一次処理カーボンナノチューブ集合体を得た。一次処理カーボンナノチューブ集合体は、水を含んだウェット状態のまま保存した。
【0088】
(第二の酸化処理工程)
上記の第一酸化処理工程で得られた一次処理カーボンナノチューブ集合体を300倍の重量の発煙硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay 97質量%)に添加した。その後、60℃で6時間攪拌しながら加熱した。加熱後、カーボンナノチューブ集合体を含む硝酸溶液をイオン交換水で2倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗することにより、二次処理カーボンナノチューブ集合体を得た。二次処理カーボンナノチューブ集合体は、水を含んだウェット状態のまま保存した。このカーボンナノチューブ集合体の酸吸着量は0.9質量%であり、ラマンG/D比は54であった。また、この二次処理カーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの平均外径は1.7nmであった。また、2層カーボンナノチューブの割合は全体の82%であった。
【0089】
(透明導電性フィルムの特性評価)
20mLの容器に、上記で得られたウェット状態の二次処理カーボンナノチューブ集合体(乾燥重量換算で15mg)、および10質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量平均分子量:3.5万)水溶液0.38gを量りとり、イオン交換水を加えて全体量を10gにし、28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を用いてpHを7に調整した。この液を超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)製、VCX−130)を用いて、出力20W、1.5分間(2kW・min/g)、氷冷下分散処理した。
【0090】
得られた分散液に水を添加して、終濃度でカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.04質量%となるように調整してフィルム塗布液とした。前記のようにしてアンダーコート層を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(”ルミラー”(登録商標) U46)、光透過率91.3%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いてこの塗布液を塗布して風乾した後、140℃乾燥機内で1分間乾燥させ、カーボンナノチューブ含有組成物を固定化した。その後、カーボンナノチューブ層上に、前記のようにしてオーバーコート層を施して得られた導電性フィルムの表面抵抗値は200Ω/□、全光線透過率は90%であった。
【0091】
(比較例1)
第二の酸化処理工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にカーボンナノチューブ集合体を合成および酸化処理したところ、得られたカーボンナノチューブ集合体の酸吸着量は0.5質量%であり、ラマンG/D比は38であった。また、このカーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの平均外径は1.7nmであった。また、2層カーボンナノチューブの割合は全体の90%であった。
【0092】
その後、実施例1と同様に導電性フィルムの特性評価を行ったところ、表面抵抗値は260Ω/□、全光線透過率は90%であった。
【0093】
(実施例2)
第二の酸化処理工程において、酸化処理時間を24時間とした以外は、実施例1と同様にカーボンナノチューブ集合体を合成および酸化処理したところ、得られたカーボンナノチューブ集合体の酸吸着量は1.1質量%であり、ラマンG/D比は87であった。また、このカーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの平均外径は1.7nmであった。また、2層カーボンナノチューブの割合は全体の71%であった。
【0094】
その後、実施例1と同様に導電性フィルムの特性評価を行ったところ、表面抵抗値は185Ω/□、全光線透過率は90%であった。
【0095】
(比較例2)
第二の酸化処理工程を第一の酸化処理工程と同じ条件で行った以外は実施例1と同様にカーボンナノチューブ集合体を合成および酸化処理した。すなわち、第二の酸化処理工程において、60%硝酸を用い、140℃のオイルバスで24時間攪拌しながら加熱還流した。その結果、得られたカーボンナノチューブ集合体の酸吸着量は0.5質量%であり、ラマンG/D比は63であった。また、このカーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの平均外径は1.7nmであった。また、2層カーボンナノチューブの割合は全体の90%であった。
【0096】
実施例1と同様に導電性フィルムの特性評価を行ったところ、表面抵抗値は240Ω/□、全光線透過率は90%であった。
【0097】
上記実施例1、2および比較例1、2の第一の酸化処理工程の条件、第二の酸化処理工程の条件および得られたカーボンナノチューブ集合体、透明導電性フィルムの評価結果について表1に記載する。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例1、2および比較例1、2の対比により、第一の酸化処理工程よりも強い酸化条件で酸化処理を行う第二の酸化処理工程を設けることで、酸吸着量が増加していることがわかる。また、実施例1、2および比較例1、2の対比により、実施例1、2のカーボンナノチューブ集合体を用いて得た透明導電性フィルムは、高い全光線透過率を維持しつつも高い導電性を有していることもわかる。