特許第6354587号(P6354587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354587-フィルムと繊維シートからなる積層体 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354587
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】フィルムと繊維シートからなる積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20180702BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B32B27/00 A
   B32B27/12
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-547588(P2014-547588)
(86)(22)【出願日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2014068388
(87)【国際公開番号】WO2015012111
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-154332(P2013-154332)
(32)【優先日】2013年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-32634(P2014-32634)
(32)【優先日】2014年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】若原 葉子
(72)【発明者】
【氏名】東大路 卓司
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭8−197689(JP,A)
【文献】 特開平3−227624(JP,A)
【文献】 特開2011−173418(JP,A)
【文献】 特開2011−140151(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H02K 3/00− 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム層(B層)の少なくとも片面に芳香族系重合体からなる繊維シート(A層)が接着剤を介することなく接合された積層体であって、直交する二方向の引裂強度の平均値が、1〜6N/mmの範囲にあることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記繊維シートがポリフェニレンスルフィド樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム層(B層)が、X/Y/Xの3層積層構成あるいはX/Yの2層積層構成からなり、X層の融点Tm(X)とY層の融点Tm(Y)がTm(X)<[Tm(Y)−10]の関係にあって、フィルム層の全体厚みに占めるY層の厚みの割合が、40%以上、90%以下の範囲であること特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記直交する二方向の引裂強度の平均値が、2〜3.5N/mmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
積層体の全体厚みが40〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
積層体断面において積層体全体に占めるB層の割合が50〜90%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
絶縁破壊電圧が60〜350kV/mmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記積層体が、モーター用絶縁紙に用いられるものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
JIS−C2151に規定された方法に従って引張測定により得られた応力-ひずみ曲線において次の(1)、(2)をともに満たすような応力低下がみられないことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
(1)伸度が2%増加する間に応力が5MPa以上低下
(2)伸度が破断伸度よりも小さい段階で(1)の挙動がみられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムと芳香族系重合体からなる繊維シートを接合した積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の高機能化、高性能化、大容量化に伴い、絶縁システムの信頼性向上が期待されている。そのため、耐熱性、耐加水分解性、耐薬品性、電気特性、機械特性、取扱い性などの各特性をバランスよく兼ね備えた絶縁材料が要求されている。また、電気機器の小型化、軽量化に伴い、絶縁材料の薄膜化に対する要求も高まっており、例えば、次世代自動車と呼ばれるHEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)などで使用されるモーターには、これまで以上に薄膜化した際の信頼性の高さが要求されている。ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSということがある)フィルムは前記の各種特性をバランス良く兼ね備えることから、モーター用絶縁材料の主要素材として広く用いられてきた。PPSフィルムをモーター用絶縁材料として用いる場合、フィルム表面の保護のために繊維シートを貼り合わせて用いられるのが一般的であり、例えば芳香族ポリアミド紙をPPSフィルムの表層に積層した積層体(特許文献1)や、PPS繊維シートをPPSフィルムの表層に積層した積層体(特許文献2、3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−140151号公報
【特許文献2】特開昭63−237949号公報
【特許文献3】特開2011−173418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の積層体はPPSフィルムの特性により高い耐加水分解性、耐薬品性を有するものの、繊維シートとPPSフィルムの間の界面密着性が不十分なために、加工時の表面摩擦や引掻によって繊維シート層の剥離が生じ、傷が内層のフィルムにまで到達してしまって表面保護層としての繊維シートの役割が不十分となる場合があった。界面密着性を高める目的で接着面にプラズマ処理を施したり、硬化性樹脂からなる接着剤を塗布したりする方法が知られているが、プラズマ処理は界面密着性の改善効果が不十分であり、一方で接着剤の塗布は長期的な耐熱性、耐加水分解性を低下させ、いずれも信頼性が不十分となる場合があった。また、熱ラミネートによる貼り合わせを行う場合に界面密着性を高める目的で熱ラミネート時の加工温度を高くすると、フィルムが熱収縮してシワが発生したり、繊維シートがラミネート機の加圧ロールに粘着したりして、連続加工が困難であった他、ラミネート後の繊維シートの繊維が強く変形して潰れ、繊維シートとしての形状を保持しない場合があった。さらに、従来の積層体においては、積層体の厚みを薄膜化した場合の絶縁性の低下が著しく、高い信頼性が求められる高電圧用途に適さない場合があった。
本発明の目的は、耐キズ性に優れ、さらに、電気絶縁用途として重要な高い耐熱性や高い電気絶縁性(絶縁破壊電圧)、加工時の良好な挿入性を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の積層体は、上記課題を解決するために次のような構成を有する。
すなわち、以下の通りである。
(1)
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム層(B層)の少なくとも片面に芳香族系重合体からなる繊維シート(A層)が接着剤を介することなく接合された積層体であって、直交する二方向の引裂強度の平均値が、1〜6N/mmの範囲にあることを特徴とする積層体。
(2)
前記繊維シートがポリフェニレンスルフィド樹脂からなることを特徴とする(1)に記載の積層体。
(3)
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム層(B層)が、X/Y/Xの3層積層構成あるいはX/Yの2層積層構成からなり、X層の融点Tm(X)とY層の融点Tm(Y)がTm(X)<[Tm(Y)−10]の関係にあって、フィルム層の全体厚みに占めるY層の厚みの割合が、40%以上、90%以下の範囲であること特徴とする(1)または(2)に記載の積層体。
(4)
前記直交する二方向の引裂強度の平均値が、2〜3.5N/mmの範囲にあることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の積層体。
(5)
積層体の全体厚みが40〜150μmの範囲であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の積層体。
(6)
積層体断面において積層体全体に占めるB層の割合が50〜90%の範囲にあることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の積層体。
(7)
絶縁破壊電圧が60〜350kV/mmの範囲にあることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の積層体。
(8)
前記積層体が、モーター用絶縁紙に用いられるものであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の積層体。
(9)
JIS−C2151に規定された方法に従って引張測定により得られた応力-ひずみ曲線において次の(i)、(ii)をともに満たすような応力低下がみられないことを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の積層体。
(i)伸度が2%増加する間に応力が5MPa以上低下
(ii)伸度が破断伸度よりも小さい段階で(i)の挙動がみられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐傷性に優れた積層体を得ることができ、さらに、電気絶縁用途として重要な高い耐熱性や高い電気絶縁性(絶縁破壊電圧)、加工時の良好な挿入性を有する積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】スリット台の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について説明する。
本発明において、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム層(B層)とは、ポリフェニレンスルフィドを主成分とする樹脂組成物を、溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムのみからなる層である。
【0009】
本発明において、ポリフェニレンスルフィドを主成分とする樹脂組成物(以下、PPS樹脂組成物ということがある)とは、ポリフェニレンスルフィドを70質量%以上、好ましくは90質量%以上含む組成物をいう。PPSの含有量が70質量%未満では、PPS繊維やPPSフィルムの特長である耐熱性、寸法安定性、機械的特性等を損なう場合がある。
【0010】
本発明において、PPSとは、繰り返し単位の70モル%以上(好ましくは85モル%以上)が構成式(A)で示されるp−フェニレンスルフィド単位からなる重合体をいう。係る成分が70モル%未満ではポリマーの結晶性、熱転移温度等が低くなりPPSの特長である耐熱性、寸法安定性、機械的特性等を損なう場合がある。繰り返し単位の30モル%未満、好ましくは15モル%未満であれば共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。
【0011】
【化1】
【0012】
PPSの分子量は、重量平均分子量が7,500〜500,000の範囲であることが安定な紡糸・製膜を行う上で好ましく、10,000〜100,000がより好ましい。
【0013】
本発明において、PPS樹脂組成物は、30質量%未満であれば、無機フィラー、PPS以外の樹脂(異種ポリマー)、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤などの添加物を含有させることができる。無機フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、カオリン、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、酸化亜鉛、金属などがあげられる。これらの粒子は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されても良い。粒子の形状は特に制限されず、球状、直方体状、単分散状、凝集状などの粒子を用いることができる。異種ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン粒子、シリコーン粒子、架橋ポリスチレン粒子のような300℃まで溶融しない有機粒子の他、ポリメチルペンテン、環状シクロオレフィン、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、シンジオタクチックポリスチレンなどの300℃以上の高温で加工が可能なポリマーがあげられる。
【0014】
該組成物の溶融粘度としては、温度310℃、剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜2,000Pa・sの範囲であることが繊維やフィルムの成形性の観点から好ましく、さらに好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。
本発明において、芳香族系重合体からなる繊維シートとは、芳香族系重合体を主成分とする樹脂組成物を周知の方法で紡糸した繊維の集合体によって構成される薄葉体であって、通常、不織布、紙、織布、フェルトなどと呼ばれているものの総称である。
ここで芳香族系重合体とは、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリスルフィド、芳香族ポリスルホン、芳香族ポリスルホキシド、芳香族ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエーテル、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。中でも、芳香族ポリアミドや、芳香族ポリスルフィドが前記B層の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムとの界面密着性や長期耐熱性、耐加水分解性、加工性、電気絶縁性の観点から特に好ましい。
【0015】
本発明に用いられるPPSフィルムは、PPSフィルムの特長である高い電気絶縁性、強度、加工性、耐熱性、耐加水分解性などを十分に発揮するために、無延伸フィルムや一軸配向フィルムではなく、二軸配向フィルムであることが重要である。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に長手方向の垂直方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と長手方向の垂直方向を同時に延伸する方法)、またはそれらを組み合わせた方法を用いることができる。延伸倍率は、長手方向、長手方向の直交方向ともに2.5〜4.1倍であることが好ましく、より好ましくは3.0〜3.8倍である。延伸倍率が2.5倍未満の場合、延伸後に熱処理される際にフィルムの平面性が著しく悪化する場合がある。延伸倍率が4.1倍を超えると、フィルムの面内配向が高くなりすぎて、引裂強度が低下し、打ち抜きや折り曲げなどの加工時に割れや亀裂が発生する場合がある。
【0016】
本発明に用いられるPPSフィルム(B層)は、組成の異なる2種類のPPS樹脂組成物(それぞれの樹脂組成物をX,Yとする)を、X/Y/Xの3層構成あるいはX/Yの2層構成で積層することが好ましい。X層の融点Tm(X)(℃)とY層の融点Tm(Y)(℃)とがTm(X)<[Tm(Y)−10]の関係を満たすことが好ましく、より好ましくはTm(X)<[Tm(Y)−15]である。積層構成をかかる構成とすることで、該フィルムと繊維シートとを接着剤を介さずに熱ラミネートで接合する際(ただし、フィルムが3層積層構成の場合はフィルムの両面に繊維シートを接合し、フィルムが2層積層構成の場合は、X層側のみに繊維シートを接合するものとする)にフィルムと繊維シートの間の界面密着性を高めることができる。Tm(X)<[Tm(Y)−10]を達成するための方法としては、例えば、構成式(B)で示されるm−フェニレン骨格を共重合によって分子鎖中に導入したPPS(以下、メタ共重合PPSということがある)を含むPPS樹脂組成物からなる層をX層とし、p−フェニレン骨格のみを含むPPS樹脂組成物からなる層をY層とすることなどがあげられるが、無論、この例に限定されて解釈されるものではない。Tm(Y)の温度範囲は、PPS樹脂組成物の一般的な融点特性を考えると、実質的に240〜290℃の範囲であり、より好ましくは、250〜285℃である。
【0017】
【化2】
【0018】
上述の二軸配向PPSフィルムの各層を構成するPPS樹脂組成物の融点は、ミクロトームで切削した積層体の断面を走査型電子顕微鏡で観察してフィルム層と繊維シート層の界面位置を割り出し、収束イオンビーム切削によってフィルムの任意の部位について微量サンプルを切り出した後、高感度示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0019】
前記二軸配向PPSフィルムのX層とY層の積層比は、両表面のX層の厚みをそれぞれx、x’とし、中間層をなすY層の厚みをyとすると、全体厚みに占めるY層の厚みの割合(y/(x+x’+y)×100)が、40%以上、90%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは50%以上、80%以下である。Y層の厚みの割合が40%未満の場合、熱ラミネートによって繊維シートと熱接着する場合に、フィルムの熱収縮によってシワが発生する場合がある。Y層の厚みの割合が90%を超えると、X層が薄すぎるために、PPSフィルムと繊維シートとを熱ラミネートで接合する際のフィルムと繊維シートの間の界面密着性が不十分となり、耐キズ性を損ねる場合がある。両表面のX層の厚みの比x/x’は、0.5〜2の範囲であることが、熱ラミネート時の表裏の加工斑を低減するために好ましい。二軸配向PPSフィルムの積層比は、フィルムを既知の溶融押出法で製膜する際に、各層が合流する積層装置内の流路体積やエクストルーダの吐出量を変更することによって、適宜、調整することができる。ある層の厚みを増やしたい場合には、その層の流路体積や吐出量を大きくすればよい。
【0020】
本発明に用いられる二軸配向PPSフィルムの厚みは、20〜120μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは25〜90μmの範囲である。この範囲であれば安定した製膜が可能であることに加え、繊維シートと接合した後の積層体厚みを薄くでき、電気機器の小型化や軽量化に適した積層体を得ることができる。二軸配向PPSフィルムの厚みは、製膜する際のエクストルーダの吐出量や、延伸倍率を変化させることによって、調整することができる。吐出量が大きくなるほど、また、延伸倍率が大きくなるほど、フィルムの厚みは薄くなる。
【0021】
本発明に用いられる繊維シートは、PPSフィルムと接合される前の見かけ比重 [目付量(g/m)をシートの厚さ(μm)で割った値(g/cm)]が、0.2〜1.1g/cmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.9g/cmの範囲である。見かけ比重をこの範囲とすることによって、PPSフィルムと接合した後のフィルム層の保護効果(耐キズ性)を高めることができる。
【0022】
本発明に用いられる繊維シートは、該繊維シートを構成する芳香族系重合体が結晶性を有する場合、PPSフィルムと接合される前の段階で、構成する繊維の少なくとも一部に未延伸繊維を含むことが好ましい。未延伸繊維とは、エクストルーダ型紡糸機等で口金を通して溶融紡糸した後、分子鎖の配向を伴う延伸を全くもしくは概ね施すことなく得た繊維のことをいう。未延伸繊維を含むことにより、PPSフィルムと繊維シートとを熱接着させる際の積層界面の密着力を高め、耐キズ性を高めることができる。未延伸糸の繊維径を細くする目的で、未延伸糸を加熱したエチレングリコール等の熱媒中でドロー延伸して用いることもできる。
【0023】
本発明に用いられる繊維シートは、一般的な乾式法や湿式法を用いて作製することができるが、中でも、薄膜化が容易で厚み均一性の高い湿式不織布法が好ましい。湿式不織布法は、紡糸した樹脂組成物を短繊維へとカットした後、水中に分散させて抄紙スラリーを作製し、丸網式、長網式、傾斜網式などの抄紙機または手漉きの抄紙機を用いて抄紙し、それを乾燥させて繊維シートを得る方法である。抄紙の際、樹脂組成の異なる短繊維や延伸状態の異なる短繊維などを任意に混ぜ合わせることができるため、前記した未延伸繊維の短繊維を混ぜ合わせて抄紙することで、PPSフィルムと繊維シートとを熱接着させる際の積層界面の密着力をより高めることもできる。
【0024】
本発明に用いられる繊維シートは、PPSフィルムと接合される前の段階で、構成する繊維の繊度が、0.05dtex以上、5dtex以下が好ましい。0.05dtexよりも細いと繊維同士が絡み易くなり厚みの均一な繊維シートを作製するのが難しくなる。10dtexよりも太くなると繊維が太く、硬くなり、繊維同士の絡合力が弱くなるために破れ易い繊維シートになってしまう。全ての繊維が繊度0.05dtex以上、10dtex以下であることが好ましいが、本発明の効果を損なわない程度に当該範囲外のものを含んでいてもよい。
【0025】
本発明に用いられる繊維シートの厚みは、5〜40μmの範囲が好ましく、より好ましくは7〜30μmである。繊維シートの厚みが5μm未満であると耐キズ性が著しく低下する場合がある。また、繊維シートの厚みが40μmを超えると長期耐熱性が悪化する場合がある。
【0026】
本発明の積層体は、二軸配向PPSフィルムの少なくとも片面に繊維シートが接着剤を介することなく接合されていることが重要である。接着剤を介さないというのは、フィルムと繊維シートの界面に、実質的に二軸配向PPSフィルムを構成するPPS樹脂組成物および繊維シートを構成する芳香族系重合体のみが存在することを意味する。界面に接着剤などの耐熱性の低い層が存在しないことにより、高温高湿下で長期間使用した場合にも経時的な劣化が小さく、高い機械特性を保持することができる。積層体の界面にPPS樹脂組成物のみが存在することは、積層体の厚み方向の断面をエネルギー分散型X線分光器やフーリエ変換赤外分光光度計を用いて解析し、厚み方向にマッピングすることで判別することができる。
【0027】
PPSフィルムと繊維シートとを接着剤を介することなく接合する方法としては、熱ラミネートの手法を用いることが好ましい。熱ラミネートとは、PPSフィルムと繊維シートを重ね合わせた状態で加熱し、加圧ロールなどで挟んで加圧することによって接着する手法である。PPSフィルムと繊維シートとを熱ラミネートによって接合する工程は、加工の容易さからPPSフィルムを二軸延伸した後に行うのが好ましいが、未延伸のPPSフィルムの少なくとも片面に繊維シートを熱ラミネートし、フィルムと繊維シートを同時に二軸延伸しても良い。
【0028】
二軸延伸後のPPSフィルムに繊維シートを熱ラミネートする場合、一般的な熱ラミネート装置やカレンダー装置を用いることができるが、従来の手法では熱ラミネートのみで十分な界面密着性を与えることが困難であり、高い耐キズ性を有する積層体を得ることができなかった。その原因は、界面密着性を高めようとラミネートの温度や圧力を高くすると、繊維シートの繊維が強く潰れてフィルム化してしまい、本来の保護層としての役割を失ったり、ラミネート中に繊維シートが加圧ロールへ粘着したり、フィルムが高温で熱膨張して膨れが発生し、後に冷やされてシワになったりするためであった。本発明の好ましい態様では、PPSフィルムを積層構成にして表層と内層の樹脂が十分な融点差を有するようにし、加えて、積層比を熱ラミネートに好適な範囲に設定し、好適な厚みや繊度を有する繊維シートと組み合わせて熱ラミネートすることにより、従来にない高い界面密着力を付与でき、耐キズ性に優れた積層体となることを見出したものである。
【0029】
熱ラミネートの加工温度は220℃以上、265℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは225℃以上、260℃以下である。加工温度が220℃未満であると、フィルムと繊維シートの密着が不十分となって耐キズ性が低下し、加工温度が265℃を超えると、加圧ロールへの繊維シートの粘着や、シワが発生したり、繊維シートの繊維が強く潰れて保護層としての役割を失ったりする場合がある。加工圧力(線圧)は、加工温度が220℃以上、250℃以下の場合には50kgf/cm超、100kgf/cm未満となるようにし、加工温度が250℃超、265℃以下の場合には10kgf/cm以上、50kgf/cm以下の範囲とすることが、加圧ロールへの繊維シートの粘着や、シワの発生を抑制したり、繊維シートの繊維が強く潰れるのを抑制したりするために好ましい。熱ラミネートの加工速度は0.5〜15m/minの範囲が好ましく、より好ましくは1〜12m/minの範囲である。加工速度が0.5m/min未満では、ラミネートの速度制御が安定せず、ラミネートの加工斑が発生する場合がある。加工速度が15m/minを超えると、加圧時の伝熱が不十分となり、フィルムと繊維シートの密着が不十分となって耐キズ性が低下する場合がある。
【0030】
熱ラミネートを行う前に、PPSフィルムおよび繊維シートの積層面にコロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施しても良い。
【0031】
本発明の積層体は、繊維シートの最外層(フィルムとの接着界面の反対側)の断面を走査型電子顕微鏡で500倍の倍率で観察した場合に、繊維シートの最外層を形成する繊維の断面が独立した界面を有する円形もしくは楕円形の形状として少なくとも1個以上観察されることが好ましく、5個以上観察されることがより好ましい。観察されない場合、繊維シートの繊維間が熱融着してフィルム状になり、保護膜としての繊維シートの役割が失われ、耐キズ性が著しく悪化する場合がある。
【0032】
本発明の積層体の厚みは、40μm以上、150μm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは50μm以上、110μm以下である。積層体の厚みをかかる範囲内とすることで、小型化が要求されるモーター絶縁の用途において絶縁材としての取扱い性を低下させることなく絶縁材の省スペース化が実現でき、コイルの高占積率化によるモーターの高出力化に貢献することができる。積層体の厚みが40μm未満では、積層体の剛性が小さくなるため、モーターの間隙などに挿入する際にフィルムが容易に座屈する場合がある。積層体の厚みが150μmを超えると、絶縁材料の薄膜化により省スペース化するという目的が達成できなくなるだけでなく、剛性が高すぎて加工時に割れや亀裂が発生する場合がある。
【0033】
本発明の積層体は、PPSフィルムの両面に繊維シートを積層した場合、繊維シートとPPSフィルムとが繊維シート/二軸配向PPSフィルム/繊維シートの順で積層された構成からなるが、最外層をなす両表面の繊維シート層(A層)の厚みをそれぞれaμm、a’μmとし、中間層をなす二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みをbμmとすると、積層体の全体厚みに占める二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みの割合(b/(a+a’+b)×100)が、50%以上、90%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは55%以上、90%以下である。積層体の全体厚みに占める二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みの割合が50%未満の場合、高温下で長時間保持された後の機械強度の保持率が低下し、絶縁材料としての信頼性を損なう場合がある。積層体の全体厚みに占める二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みの割合が90%を超えると、積層体の剛性が高くなりすぎて、打ち抜きや折り曲げなどの加工時に割れや亀裂が発生したり、繊維シート層が薄くなりすぎてフィルム層を保護する効果が失われたりする場合がある。両表面のA層の厚みの比a/a’は、0.5〜2の範囲であることが、本発明の積層体の表裏の物性斑を低減したり、熱ラミネート加工時の表裏の加工斑を低減したりするために好ましい。PPSフィルムの片面のみに繊維シートが積層されている場合には、繊維シート層(A層)の厚みをaμm、二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みをbμmとすると、積層体の全体厚みに占める二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みの割合は(b/(a+b)×100)となり、前記と同様の理由により該割合が50%以上、90%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは55%以上、90%以下である。
【0034】
本発明の積層体は、直交する二方向の引裂強度の平均値が、1N/mm以上、6N/mm以下であることが重要であり、より好ましくは1.5N/mm以上、4.5N/mm以下、さらに好ましくは2N/mm以上、3.5N/mm以下である。引裂強度を6N/mm以下とすることで、繊維シートと二軸配向PPSフィルムの間の界面密着性が高まるため、耐キズ性が良好となる。また、引裂強度を1N/mm以上とすることで、靱性を与えることができるため、打ち抜きや折り曲げなどの加工時に発生するフィルムの割れや亀裂を抑制することができる。引裂強度が1N/mm未満の場合、絶縁体としての靱性が不足し、打ち抜きや折り曲げなどの加工時にフィルム破断や割れが発生する場合がある。また、引裂強度が6N/mmを超えると、繊維シートと二軸配向PPSフィルムの積層界面の密着性が不十分であるために、取扱い時の表面摩擦や引掻によって容易に界面剥離が発生する。引裂強度が6N/mmを超える積層体において界面剥離が起きやすくなるメカニズムは、繊維シートがフィルムに十分密着せずに浮いた状態となっていると、繊維シートとフィルムがそれぞれ単独で引き裂かれ、その結果、引裂強度が高くなるものと考えられる。
【0035】
本発明の積層体は、JIS−C2151に規定された方法に従って引張測定により得られた応力-ひずみ曲線において次の(1)、(2)をともに満たすような応力低下がみられないことが好ましい。
(1)伸度が2%増加する間に応力が5MPa以上低下
(2)伸度が破断伸度によりも小さい段階で(1)の挙動がみられる。
上記(1),(2)を共に満たすような応力低下がみられる場合には、繊維シートと二軸配向PPSフィルムの積層界面の密着性が不十分であるために、取扱い時の表面摩擦や引掻によって容易に界面剥離が発生する場合がある。
【0036】
本発明の積層体は、絶縁破壊電圧が60kV/mm以上、350kV/mm以下であることが好ましく、より好ましくは、110kV/mm以上、350kV/mm以下である。絶縁破壊電圧が60kV/mm未満であると、薄膜絶縁材料としての信頼性が低く、高電圧がかかる用途での使用に耐えない場合がある。絶縁破壊電圧の上限値は、電気絶縁層としての役割を担う二軸配向PPSフィルムの特性上、350kV/mm程度が限界である。絶縁破壊電圧を60kV/mm以上にするためには、積層体中を占めるB層(二軸配向PPSフィルム層)の厚みの割合を高くするほどよく、また、二軸配向PPSフィルムのY層の厚みの割合を高くするほどよい。
【0037】
本発明の好ましい態様では、PPSフィルムを積層構成にして表層と内層の樹脂が十分な融点差を有するようにし、繊維シートと組み合わせて熱ラミネートされる際にフィルム表層の樹脂が繊維シートの繊維間に含浸されることにより、従来にない高い界面密着力を付与できるものである。そのため、PPSフィルムの前記X層の厚みが、繊維シートの厚みよりも小さいことが好ましい。繊維シートの厚みがX層の厚み以上の場合、繊維シートの間隙に含浸されたX層の樹脂が熱ラミネートの際に繊維シートを貫通し、ラミネートロール側まで滲出して連続生産性が著しく悪化する場合がある。
本発明の積層体の製造方法について、繊維シートとしてPPS繊維シートを用いた場合を例にとって説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0038】
(1)ポリフェニレンスルフィドの重合方法
硫化ナトリウムとジクロロベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。アミド系極性溶媒を加えて30〜100℃の温度で攪拌処理して洗浄し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄し、酢酸カルシウムなどの金属塩水溶液で数回洗浄した後、乾燥してPPS粉末を得る。該粉粒体を250〜350℃に設定した単軸押出機にて溶融混練してストランド形状に押し出し、カッターで切断してペレット化する。原料のジクロロベンゼンはp−ジクロロベンゼンを70モル%以上含むことが好ましいが、ポリフェニレンスルフィドの融点を調整するために、30モル%未満、好ましくは15モル%未満であればm−ジクロロベンゼンなどのように共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。
【0039】
(2)二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造
上述のようにして得られたPPSペレットを減圧下で乾燥した後、押出機の溶融部を250〜350℃の温度、好ましくは270〜340℃に加熱された押出機に投入する。フィルムを3層の積層構成とする場合、口金上部にある積層装置によって融点がより低い側の樹脂が表層にくるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、20〜70℃の冷却ドラム上に静電荷を印加させながら密着急冷固化させ、未延伸3層積層シートを得る。3層積層シートはX/Y/Xの3層構成であり、X層とY層の積層比は、両表面のX層の厚みをそれぞれx、x’とし、中間層をなすY層の厚みをyとすると、全体厚みに占めるY層の厚みの割合(y/(x+x’+y)×100)が、40%以上、90%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは50%以上、80%以下である。
【0040】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に長手方向の垂直方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と長手方向の垂直方向を同時に延伸する方法)、またはそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に長手方向の垂直方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いた例で説明する。
【0041】
未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱した後、長手方向に2.5〜4.1倍、好ましくは3.0〜3.8倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する。延伸温度は70〜130℃が好ましく、より好ましくは80〜110℃である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0042】
長手方向の垂直方向の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。長手方向に延伸した後のフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、長手方向の垂直方向の延伸を行う。延伸温度は70〜130℃が好ましく、より好ましくは80〜110℃である。延伸倍率は2.5〜4.1倍、好ましくは3.0〜3.8倍の範囲である。
【0043】
次に、この二軸延伸フィルムを緊張下で熱処理する。熱処理温度は160〜280℃の範囲が好ましく、1段もしくは2段以上の多段で行う。この際、該熱処理温度でフィルム幅方向に0〜10%の範囲で弛緩処理することが熱的寸法安定性の点で好ましい。2段の熱処理を行う場合、1段目の熱処理温度を160〜220℃の範囲とし、2段目の熱処理温度を230〜280℃の範囲で1段目の温度よりも高い温度とすることが、フィルムの平面性向上や安定した製膜のために好ましい。熱処理後はフィルムを室温まで冷却する。
【0044】
(3)PPS繊維シートの製造
PPSペレットを、減圧下で乾燥した後、押出機の溶融部を250〜350℃の温度、好ましくは270〜340℃に加熱された単軸型の溶融紡糸押出機に投入する。押出後、引取速度200〜5000m/分で製糸し、1〜50mmの長さに切断して、未延伸PPS短繊維を製造する。未延伸糸の繊維径を細くする目的で、未延伸PPS糸を80〜150℃に加熱したエチレングリコール中で3〜6倍にドロー延伸して用いることもできる。同様に、製糸した未延伸糸を、切断前に80〜110℃の温度で延伸倍率2.5〜4.5倍で延伸し、1〜50mmの長さに切断して、延伸されたPPS短繊維を製造する。得られた未延伸PPS短繊維と、延伸されたPPS短繊維を、未延伸PPS短繊維比率が10〜90%、より好ましくは20〜80になるように混合し、水を分散液として30〜500メッシュの抄紙網を設置した抄紙機を用いて抄紙し、PPS繊維シートを得る。
【0045】
(4)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
加熱した金属ロールとシリコーンゴムロールとからなる熱ラミネート加工機を用い、二軸配向PPSフィルムの表面にPPS繊維シートが密着するように重ねて熱ラミネートすることでPPSフィルムとPPS繊維シートとを貼り合わせる。温度は220℃以上、265℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは225℃以上、260℃以下である。加工圧力(線圧)は、加工温度が220℃以上、250℃以下の場合には50kgf/cm超、100kgf/cm未満となるようにし、加工温度が250℃超、265℃以下の場合には10kgf/cm以上、50kgf/cm以下の範囲とすることが好ましい。熱ラミネートの加工速度は0.5〜15m/minの範囲が好ましく、より好ましくは1〜12m/minの範囲である。
【実施例】
【0046】
物性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0047】
(1)樹脂の融点
JIS K7121−1987に準じ、示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて測定した。試料3mgをアルミニウム製受皿上で室温から340℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融点(℃)とした。
【0048】
(2)積層体の厚み
先端が平坦なダイヤルゲージ厚み計(ミツトヨ社製)を用いて面内をまんべんなく20点測定し、平均値を求めた。
【0049】
(3)積層体の積層構成およびB層の割合
ミクロトームで切削した積層体の断面を走査型電子顕微鏡で倍率500倍で観察して断面の拡大画像を撮影し、イメージアナライザーを用いて各層の厚みを測定した。試験片を10個作製して同様の厚み測定を行い、その平均値から積層体の積層構成(μm)を求めた。PPSフィルム層(B層)の割合は、PPSフィルムの両面に繊維シートが積層されている場合には、最外層をなす両表面の繊維シート層(A層)の厚みをそれぞれaμm、a’μmとし、中間層をなす二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みをbμmとし、式(b/(a+a’+b)×100)によって算出した。PPSフィルムの片面のみに繊維シートが積層されている場合には、繊維シート層(A層)の厚みをaμm、二軸配向PPSフィルム層(B層)の厚みをbμmとし、式(b/(a+b)×100)によって算出した。
【0050】
(4)引裂強度
JIS K7128(およびJIS P8116)に準じ、軽荷重引裂試験機(東洋精機社製、Type−D)を用いて測定した。試料の直交する任意の2方向について、それぞれ20回ずつ測定して平均値を求め、その各方向の値を平均して求めた。試験片は長さ63.5mm、幅50mmの長方形として切り出し、短辺側の中央の端部に長辺と平行な長さ12.7mmの切り込みを入れて引裂の起点とした。
【0051】
(5)絶縁破壊電圧
JIS C2151に準じ、交流絶縁破壊試験器(春日電機株式会社製、AC30kV)を用いて測定した。試験片のサイズは25cm×25cmの正方形とし、23℃、65%RHの環境下で調湿したものを用い、周波数60Hz、昇圧速度1000V/secで測定した。用いた電極の形状は、台座となる下電極がφ75mm、高さ15mmの円柱形であり、上電極がφ25mm、高さ25mmの円柱形である。いずれの電極も、試験片を挟む側の面はR3mmで面取りされたものを用いた。
【0052】
(6)繊維形状保持
ミクロトームで切削した積層体の断面を走査型電子顕微鏡で500倍にて観察し、繊維シートの最外層(フィルムとの接着界面の反対側)を形成する繊維の断面が独立した界面を有する円形もしくは楕円形の形状として観察されるかどうかを目視で確認した。同様の操作を10個の試験片の断面について行い、下記の基準で判定した。
【0053】
繊維形状保持
A:繊維の断面が5個以上円形もしくは楕円形の形状として確認できた。
【0054】
B:繊維の断面が1個以上、5個未満、円形もしくは楕円形の形状として確認できた。
【0055】
C:繊維の断面が円形もしくは楕円形の形状として全く確認できなかった。
【0056】
(7)平面性
5m×1mサイズのサンプルを準備し、サンプルより大きな平らな板に四隅を固定して設置(四方に張力をかけ、全体が折れたり弛んだりしないよう設置)して暗室に運び、板の横方向から一定の照度及び照射角にて蛍光灯の光を照射した。サンプル面内に膨れや凹みがあると周囲に陰影ができるため、照射する方向を変えながら目視にて膨れや凹みの概形を見積もり、その形を縁取るようにペンでマーキングした。マーキングにより囲われた面積の総和から、膨れや凹みが面内を占める割合を算出し、下記の基準で平面性を判定した。
【0057】
平面性
A:陰影が確認できなかった。
【0058】
B:一部(全面積の1割以上、9割未満)に膨れや凹みが確認できた。
【0059】
C:全面(全面積の9割以上)に膨れや凹みが確認できた。
【0060】
(8)耐キズ性
JIS K5600−5−4の鉛筆硬度試験を参考にし、鉛筆の代わりに先端を半球状に加工したφ0.9mmのステンレス製針金を用いて試験片の表面引掻試験を行った。装置は表面性状測定機(新東科学株式会社製、HEIDON−14D)を用い、針金はピンバイスに挟んで固定した上で、鉛筆用の専用ホルダーにセットした。試験片は平滑なガラス板の上に固定して定位置にセットし、針金の球状先端が斜め45°の角度で積層体の表面に接地するように調整した。引掻処理は移動長10mm、移動速度300mm/minの条件で針金を5往復させて行い、発生した傷が繊維シートを貫通してフィルム層にまで到達しているかどうかを判別するため、傷と直交する方向の断面出しを行ったうえで、断面を走査型電子顕微鏡で観察した。同様の引掻処理を、針金の先端にかかる荷重を0g〜500gの範囲で変えながら行い、傷がフィルム層にまで到達する最低荷重を求め、その荷重をもとに下記基準にて耐キズ性を判定した。なお、測定は積層体の繊維シートが積層されている各面に対して10回ずつ行い、最低荷重がより小さかった方の面の値を判定に用いた。
【0061】
耐キズ性
AA:最低荷重が220g以上
A:最低荷重が200g以上、220g未満
B:最低荷重が150g以上、200g未満
C:最低荷重が150g未満。
【0062】
(9)取扱い性
スリット間隙の調節が可能なコの字型のスリット台(コの字の一辺が4mm、スリット深さは50mm、図1)を作製し、全てのスリット間隙が一律で積層体厚みの1.2倍の間隙となるように調整した後、コの字型に折り曲げ成型した積層体を約20mm挿入する際の状態から下記の通り取扱い性を判定した。スリット台の素材は珪素鋼であり、表面粗度(SRa)は2μmであった。コの字型の折り曲げ加工は、モーター加工機(小田原エンジニアリング社製)を用いて行い、具体的には、12mm×80mmの長方形に打ち抜いた後に、短辺側を4mm間隔で三つ折りした。打ち抜きから折り曲げまでの加工を連続で行って100個の試験片を作製し、以下の取り扱い性を評価した。
【0063】
取扱い性
AA:挿入性は全く問題なく、比較的容易に挿入できる。
A:挿入はできるが、挿入時に少し引っ掛かる、または腰が弱くて少し座屈する。
B:加工の段階で積層体に割れや亀裂が発生する場合がある。
C:挿入時に積層体が引っ掛かる、または腰が弱くて座屈しやすく、挿入が困難である。
【0064】
(10)長期耐熱性
幅10mm、長さ250mmの試験片を210℃の温度に設定した熱風オーブン中に入れて2000時間の加熱処理を行い、加熱処理前後での破断強度を測定し、下記の式から強度保持率を算出した。その結果について下記の判定基準で判定を行った。破断強度は、JIS−C2151に規定された方法に従って、テンシロン引張試験機を用いて、幅10mmのサンプル片をチャック間長さ100mmとなるようセットし、引張速度300mm/minで引張試験を行う。この条件で10回測定し、その平均値を求めた。
強度保持率(%)=Y/Y0×100
Y0:加熱処理前の破断強度(MPa)
Y:加熱処理後の破断強度(MPa)
長期耐熱性
A:強度保持率が85%以上
B:強度保持率が80%以上、85%未満
C:強度保持率が80%未満。
【0065】
(11)界面密着性(もみ試験)
スコット耐揉摩耗試験機(東洋精機製)を用いて、JIS−K−6328に従ったもみ試験を実施した。サンプルサイズは幅10mm、長さ200mm、荷重2.5kgで測定し、目視でフィルムと繊維シートの界面での劈開や破断が確認できるまでの回数を求める。以下の基準で界面密着性を判定した。
界面密着性(揉み試験)
AA:100 回以上
A:60 回以上100 回未満
B:30 回以上60 回未満
C:30回未満。
【0066】
(12)界面密着性(引張試験)
JIS−C2151に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用い下記条件にて測定した。
測定装置:オリエンテック( 株)製フイルム強伸度自動測定装置“ テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張速度:300mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH
測定によって得られた応力-ひずみ曲線(S−Sカーブ)を解析し、最終的な破断点に到達する以前(伸度が破断伸度よりも小さい時点)にて階段状の応力低下(伸度が2%増加する間に応力が5MPa以上低下するような変化)の区間がみられるかどうかを調べ、下記基準にて界面密着性を判定した。
界面密着性(引張試験)
A:階段状の応力低下がみられない
C:階段状の応力低下がみられる。
【0067】
(参考例1)PPS樹脂(PPS−1)の作製
オートクレーブに、47%水硫化ナトリウム9.44kg(80モル)、96%水酸化ナトリウム3.43kg(82.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13.0kg(131モル)、酢酸ナトリウム2.86kg(34.9モル)、及びイオン交換水12kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら235℃まで3時間かけて徐々に加熱し、水17.0kgおよびNMP0.3kg(3.23モル)を留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。次に、主要モノマーとしてp−ジクロロベンゼン(p−DCB)11.5kg(78.4モル)、副成分モノマーとして1,2,4−トリクロロベンゼン 0.007kg(0.04モル)、を加え、NMP22.2kg(223モル)を追添加して反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温した。270℃で30分経過後、水1.11kg(61.6モル)を10分かけて系内に注入し、270℃で更に反応を100分間継続した。その後、水1.60kg(88.8モル)を系内に再度注入し、240℃まで冷却した後、210℃まで0.4℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、32リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた粒子を再度38リットルのNMPにより85℃で洗浄した。その後67リットルの温水で5回洗浄、濾別し、0.05質量%酢酸カルシウム水溶液70,000gで5回洗浄、濾別した。得られた粒子を60℃で熱風乾燥し、120℃で20時間減圧乾燥することによって白色のポリフェニレンスルフィド樹脂の粉粒体を得た。該粉粒体を320℃に設定した単軸押出機にて溶融混練してストランド形状に押し出し、カッターで切断してペレット化した。得られたPPS樹脂のペレットは、融点が280℃であった。
【0068】
(参考例2)メタ共重合PPS(PPS−2)の作製
主要モノマーとして70.6モルのp−ジクロベンゼン、副成分モノマーとして7.8モルのm−ジクロロベンゼン、および0.04モルの1,2,4−トリクロルベンゼンを用いたこと以外は、上記参考例1と同様にしてメタ共重合PPS樹脂の粉粒体を作製した。該粉粒体を300℃に設定した単軸押出機にて溶融混練してストランド形状に押し出し、カッターで切断してペレット化した。得られたメタ共重合PPS樹脂のペレットは、融点が255℃であった。
【0069】
(参考例3)メタ共重合PPS(PPS−2)の作製
主要モノマーとして66.6モルのp−ジクロベンゼン、副成分モノマーとして11.8モルのm−ジクロロベンゼン、および0.04モルの1,2,4−トリクロルベンゼンを用いたこと以外は、上記参考例1と同様にしてメタ共重合PPS樹脂の粉粒体を作製した。該粉粒体を300℃に設定した単軸押出機にて溶融混練してストランド形状に押し出し、カッターで切断してペレット化した。得られたメタ共重合PPS樹脂のペレットは、融点が235℃であった。
【0070】
(実施例1)
(a)二軸配向PPSフィルムの製膜
参考例1および参考例2で作製したPPS−1およびPPS−2のペレットを、それぞれ180℃の温度で3時間、真空乾燥した後、2台のエクストルーダに別々に供給し、溶融状態で口金上部にある積層装置で3層(積層順はPPS−2/PPS−1/PPS−2、積層比は1:4:1)になるように導き、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させ、未延伸3層積層シートを得た。次いで、得られた積層シートを、表面温度95℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向に3.6倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と直交方向に100℃の温度で3.7倍に延伸し、続いて温度200℃で1段目熱処理行い、続いて265℃で2段目熱処理を行い、引き続き、260℃の弛緩処理ゾーンで横方向に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却し、ついでフィルムエッジを除去することで、厚み50μmのメタ共重合PPS/PPS/メタ共重合PPSの二軸配向3層積層フィルムを得た。
【0071】
(b)PPS繊維シートの作製
参考例1で作製したPPS−1のペレットを、165℃の温度で5時間、真空乾燥した後、単軸型の溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、長さ6mmに切断して、繊度3.0dtexの未延伸PPS短繊維を製造した。同様に、単軸型の溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、さらに温度95℃、延伸倍率3.2倍で延伸し、長さ6mmに切断した繊度1.0dtexの延伸されたPPS短繊維を製造した。得られた未延伸PPS短繊維と、延伸されたPPS短繊維を、未延伸PPS短繊維比率が40%になるように混合し、水を分散液として底に150メッシュの抄紙網を設置した手すき抄紙機(熊谷理機工業社製)を用いて抄紙し、目付17g/m、厚み25μmのPPS繊維シートを得た。
【0072】
(c)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
金属ロールとシリコーンゴムロールとからなる熱ラミネート加工機を用い、PPSフィルムの両面にPPS繊維シートが密着するように重ねて熱ラミネートすることでPPSフィルムとPPS繊維シートとを貼り合わせ、厚み90μmの積層体を得た。ラミネート条件は、温度245℃、圧力70kgf/cm、速度2m/minとした。
【0073】
(実施例2)
ラミネート温度を260℃にした以外は、実施例1と同様にして厚み90μmの積層体を得た。
【0074】
(実施例3)
ラミネート圧力を30kgf/cmにした以外は、実施例1と同様にして厚み90μmの積層体を得た。
【0075】
(実施例4)
(a)二軸配向PPSフィルムの製膜
エクストルーダの吐出量を調整し、フィルムの最終厚みが40μmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、厚み40μmのメタ共重合PPS/PPS/メタ共重合PPSの二軸配向3層積層フィルムを得た。
【0076】
(b)PPS繊維シートの作製
参考例1で作製したPPS−1のペレットを、165℃の温度で5時間、真空乾燥した後、溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、その後、115℃のエチレングリコール中で延伸倍率4倍でドロー延伸し、長さ6mmに切断して、繊度1.5dtexの未延伸PPS短繊維を製造した。同様に、溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、115℃のエチレングリコール中で延伸倍率4倍でドロー延伸し、さらに温度95℃、延伸倍率3.2倍で延伸した後、長さ6mmに切断することで、繊度0.6dtexの延伸されたPPS短繊維を製造した。得られた未延伸PPS短繊維と、延伸されたPPS短繊維を、未延伸PPS短繊維比率が40%になるように混合し、水を分散液として抄紙機を用いて抄紙し、目付10g/m、厚み13μmのPPS繊維シートを得た。
【0077】
(c)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
本実施例における(a)、(b)で作製したPPSフィルムとPPS繊維シートを用い、実施例1と同様にして、厚み60μmの積層体を得た。
【0078】
(実施例5)
(a)二軸配向PPSフィルムの製膜
3層積層の構成樹脂が、中間層はPPS−1単独、両表層はPPS−1が30質量%、PPS−2が70質量%の混合体となるように、2台のエクストルーダに原料を供給した以外は、実施例1と同様にして、厚み50μmの3層積層フィルムを得た。フィルムの融点は、中間層が280℃、両表層が266℃であった。
【0079】
(b)PPS繊維シートの作製
実施例1と同様にして厚み25μmのPPS繊維シートを作製した。
【0080】
(c)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
本実施例における(a)、(b)で作製したPPSフィルムとPPS繊維シートを用い、実施例1と同様にして、厚み90μmの積層体を得た。
【0081】
(実施例6)
二軸配向PPSフィルムの製膜の際、フィルムの最終厚みが100μmとなるように吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして、厚み140μmの積層体を得た。
【0082】
(実施例7)
(a)二軸配向PPSフィルムの製膜
PPS−2の代わりに、参考例3で作製したPPS−3を原料として用い、さらにフィルムの最終厚みが45μmとなるように吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして、厚み45μmの3層積層フィルムを得た。フィルムの融点は、中間層が280℃、両表層が235℃であった。
(b)PPS繊維シートの作製
実施例1と同様にして厚み25μmのPPS繊維シートを作製した。
(c)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
本実施例における(a)、(b)で作製したPPSフィルムとPPS繊維シートを用い、ラミネート温度を235℃とした以外は、実施例1と同様にして、厚み85μmの積層体を得た。
【0083】
(実施例8)
二軸配向PPSフィルムを製膜する際に、PPS−1とPPS−2の積層比が1:25:1になるように調整した以外は、実施例1と同様にして、厚み90μmの積層体を得た。
【0084】
(実施例9)
二軸配向PPSフィルムを製膜する際に、PPS−1とPPS−2の積層比が1:1:1になるように調整した以外は、実施例1と同様にして、厚み90μmの積層体を得た。
【0085】
(実施例10)
ラミネート条件を、温度270℃、圧力30kgf/cmにした以外は、実施例1と同様にして厚み90μmの積層体を得た。
【0086】
(実施例11)
二軸配向PPSフィルムを作製する際、延伸倍率を長手方向に3.9倍、長手方向と直交する方向に4.0倍とした以外は、実施例1と同様にして、厚み90μmの積層体を得た。
【0087】
(実施例12)
(a)二軸配向PPSフィルムの製膜
エクストルーダの吐出量を調整し、フィルムの最終厚みが135μmとなるようにし、さらにPPS−1とPPS−2の積層比が1:25:1になるように調整した以外は、実施例1と同様にして、厚み135μmのメタ共重合PPS/PPS/メタ共重合PPSの二軸配向3層積層フィルムを得た。
【0088】
(b)PPS繊維シートの作製
参考例1で作製したPPS−1のペレットを、165℃の温度で5時間、真空乾燥した後、溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、その後、115℃のエチレングリコール中で延伸倍率6倍でドロー延伸し、長さ6mmに切断して、繊度0.7dtexの未延伸PPS短繊維を製造した。同様に、溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、115℃のエチレングリコール中で延伸倍率6倍でドロー延伸し、さらに温度95℃、延伸倍率3.3倍で延伸した後、長さ6mmに切断することで、繊度0.4dtexの延伸されたPPS短繊維を製造した。得られた未延伸PPS短繊維と、延伸されたPPS短繊維を、未延伸PPS短繊維比率が40%になるように混合し、水を分散液として抄紙機を用いて抄紙し、目付6g/m、厚み7μmのPPS繊維シートを得た。
【0089】
(c)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
本実施例における(a)、(b)で作製したPPSフィルムとPPS繊維シートを用い、実施例1と同様にして、厚み147μmの積層体を得た。
【0090】
(実施例13)
芳香族ポリアミド繊維シートの代表例として、デュポン帝人アドバンスドペーパー社の「ノーメックス」(商標登録)のタイプ410の50μm厚みのものを準備し、それを繊維シートとして用いた以外は、実施例1と同様にして厚み150μmの積層体を得た。
【0091】
(実施例14)
実施例1で、PPS繊維シートの作製時に抄紙の目付量を変えて40g/mとし、厚み50μmのPPS繊維シートを得た。それを繊維シートとして用いた以外は、実施例1と同様にして厚み150μmの積層体を得た。
【0092】
(比較例1)
二軸配向PPSフィルムの作製の際、原料としてPPS−1のみを用いて単層の二軸配向PPSフィルムを作製した以外は、実施例1と同様にして厚み90μmの積層体を得た。
【0093】
(比較例2)
ラミネート条件を温度270℃、圧力70kgf/cmとした以外は、比較例1と同様にして、厚み40μmの積層体を得た。
【0094】
(比較例3)
熱ラミネートを行う前に、PPSフィルムとPPS繊維シートの接合される面にプラズマ処理(処理強度650w・min/m)を施した以外は、比較例1と同様して厚み90μmの積層体を得た。
【0095】
(比較例4)
二軸配向PPSフィルムを作製する際、原料としてPPS−1のみを用い、フィルムの最終厚みが10μmとなるように吐出量を調整し、さらに、PPSフィルムとPPS繊維シートを接合する際のラミネート条件を温度245℃、圧力を70kgf/cmとした以外は、実施例4と同様にして、厚み30μmの積層体を得た。
【0096】
(比較例5)
二軸配向3層積層PPSフィルムの構成樹脂が、中間層はPPS−1単独、両表層はPPS−1が80質量%、PPS−2が20質量%の混合体となるように、2台のエクストルーダに原料を供給し、さらにフィルムの最終厚みが120μmとなるように吐出量を調整した以外は、実施例6と同様にして、厚み160μmの積層体を得た。積層フィルムの融点は、中間層が280℃、両表層が275℃であった。
【0097】
(比較例6)
(a)未延伸および二軸延伸PPSフィルムの製膜
参考例1で作製したPPS−1のペレットを、180℃の温度で3時間、真空乾燥した後、エクストルーダに供給し、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着急冷固化させ、厚み25μmの未延伸単層PPSフィルムを得た。
また、上記と同様の方法で450μmの未延伸単層PPSフィルムを得た後、該フィルムをロール群からなる縦延伸装置によって、長手方向に延伸温度98℃で3.6倍に延伸し、続いてフィルムをテンターに供給し延伸温度98℃で幅方向に3.5倍に延伸し、265℃10秒間の条件で熱処理して厚さ50μmの二軸配向PPSフィルムを得た。該二軸配向PPSフィルムは、両面に6000J/mのコロナ放電処理を施した。
【0098】
(b)PPS繊維シートの作製
参考例1で作製したPPS−1のペレットを、165℃の温度で5時間、真空乾燥した後、単軸型の溶融紡糸設備を用いて押出温度320℃、引取速度1000m/分で製糸し、長さ6mmに切断して短繊維を製造した。続いて該短繊維を積層し、針深度5mm、針密度150/cmになる条件でニードルパンチ加工した後、温度240℃でカレンダー処理し、厚み50μmのPPS繊維シートを得た。
【0099】
(c)PPSフィルムとPPS繊維シートの接合
上記で得られた未延伸単層PPSフィルム、二軸配向PPSフィルム、PPS繊維シートを、PPS繊維シート/未延伸単層PPSフィルム/二軸配向PPSフィルム/未延伸単層PPSフィルム/PPS繊維シートの順で5層に重ね合せ、熱ラミネート加工機を用いて熱ラミネートすることでPPSフィルムとPPS繊維シートとを貼り合わせ、厚み190μmの積層体を得た。ラミネート条件は、温度240℃、圧力10kgf/cm、速度1m/minとした。なお、積層体の積層構成は未延伸単層PPSフィルム層および二軸配向PPSフィルム層を足し合わせたものをB層として割合を計算した。
【0100】
(比較例7)
芳香族ポリアミド繊維シートの代表例として、デュポン帝人アドバンスドペーパー社の「ノーメックス」(商標登録)のタイプ410の50μm厚みのものを準備し、それを繊維シートとして用いた以外は、比較例3と同様にして厚み150μmの積層体を得た。
【0101】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の積層体は、モーター、コンデンサー、変圧器、ケーブル、高電圧伝送トランス等に用いられる電気絶縁材紙として利用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 スリット間隙
2 4mm

図1