特許第6354760号(P6354760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354760金属銅分散液及びその製造方法並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354760
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】金属銅分散液及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20180702BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20180702BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20180702BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20180702BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20180702BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B22F1/02 B
   B22F9/00 B
   B22F9/20 E
   H01B1/22 A
   H01B1/00 E
   H01B13/00 Z
   H01B5/14 B
   H01B5/14 Z
   H01B13/00 503Z
   B22F1/00 L
【請求項の数】29
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-528335(P2015-528335)
(86)(22)【出願日】2014年7月24日
(86)【国際出願番号】JP2014069577
(87)【国際公開番号】WO2015012356
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-154054(P2013-154054)
(32)【優先日】2013年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井田 清信
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 満
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241213(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024385(WO,A1)
【文献】 特開2012−023014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液であって、
前記の高分子分散剤は、アミン価が10〜150mgKOH/gであり、
前記分散液中で、前記の金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nmであり、その累積90%粒径(D90)が10〜300nmである、金属銅分散液。
【請求項2】
前記の高分子分散剤は、ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)である、請求項1に記載の金属銅分散液。
【請求項3】
前記の高分子分散剤のガラス転移点が−70〜10℃の範囲である、請求項1又は2に記載の金属銅分散液。
【請求項4】
前記の高分子分散剤が、直鎖型アクリル系ポリマー又は直鎖型アクリル系共重合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項5】
前記の高分子分散剤が、1000〜100000g/モルの質量平均分子量を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項6】
前記の高分子分散剤は、アミン価が10〜90mgKOH/gであり、ガラス転移点が−70〜10℃の範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項7】
前記の金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が10〜120nmであり、その累積90%粒径(D90)が40〜250nmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項8】
前記の金属銅粒子の累積10%粒径(D10)、累積50%粒径(D50)、累積90%粒径(D90)の値から式1を用いて算出するSD値が0.6〜3.5である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
式1 SD値=(D90−D10)/D50
【請求項9】
前記の金属銅粒子の表面に有するゼラチンの質量平均分子量が、2000〜200000である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項10】
有機溶媒が、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステルから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項11】
前記の高分子分散剤の配合量が、金属銅粒子100質量部に対して0.1〜20質量部である請求項1〜10のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項12】
粘度が100mPa・s以下である請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項13】
金属銅粒子の濃度が15質量%以上であり、粘度が100mPa・s以下である請求項1〜12のいずれか一項に記載の金属銅分散液。
【請求項14】
ゼラチンの存在下、水系溶媒中で銅酸化物を還元した後、固液分離し、次いで、得られたゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子と高分子分散剤を有機溶媒に混合して分散させる金属銅分散液の製造方法であって、
アミン価が10〜150mgKOH/gである高分子分散剤を用い、
前記分散液中で、金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nmであり、その累積90%粒径(D90)が10〜300nmである、金属銅分散液の製造方法。
【請求項15】
ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)である高分子分散剤を用いる、請求項14に記載の金属銅分散液の製造方法。
【請求項16】
ガラス転移点が−70〜10℃の範囲である高分子分散剤を用いる、請求項14又は15に記載の金属銅分散液の製造方法。
【請求項17】
直鎖型アクリル系ポリマー又は直鎖型アクリル系共重合物である高分子分散剤を用いる、請求項14〜16のいずれか一項に記載の金属銅分散液の製造方法。
【請求項18】
1000〜100000g/モルの質量平均分子量を有する高分子分散剤を用いる、請求項14〜17のいずれか一項に記載の金属銅分散液の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属銅分散液を用いて形成される電極。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属銅分散液を用いて形成される配線パターン。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属銅分散液を用いて形成される塗膜。
【請求項22】
少なくとも基材の表面の一部に請求項21に記載の塗膜を形成した装飾物品。
【請求項23】
少なくとも基材の表面の一部に請求項21に記載の塗膜を形成した抗菌性物品。
【請求項24】
基材の表面に請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属銅分散液を付着させる工程(a)を含む金属銅含有膜の製造方法。
【請求項25】
前記の請求項24の記載の工程(a)で作製した金属銅含有膜を、還元性ガス雰囲気下で加熱する工程(b)を含む、金属銅含有膜の製造方法。
【請求項26】
前記の請求項24の記載の工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域に光を照射する工程(c)を含む、金属銅含有膜の製造方法。
【請求項27】
前記の請求項24の記載の工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域にプラズマを照射する工程(d)を含む、金属銅含有膜の製造方法。
【請求項28】
請求項26の工程(c)又は請求項27の(d)の後に照射を行わなかった領域の金属銅含有膜を除去する工程(e)を含む、金属銅含有膜の製造方法。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれか一項に記載の工程により基材上に作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域を、別の基材に転写する工程(f)を含む、金属銅含有膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属銅粒子を配合した金属銅分散液及びその製造方法、並びに、それを用いて形成した電極、配線パターン、塗膜、更にはその塗膜を形成した装飾物品、抗菌性物品及びそれらに用いられる金属銅含有膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅粒子を配合した分散液は、金属銅粒子を溶媒に分散し、必要に応じてバインダーや分散剤、粘度調整剤などの添加剤を更に配合した、一般にコーティング剤、塗料、ペースト、インキなどの組成物を含む総称である。このような分散液は、その金属銅粒子の性質を活用して、例えば電気的導通を確保するため、あるいは帯電防止、電磁波遮蔽又は金属光沢、抗菌性等を付与するためなどの種々の用途に用いられている。しかも、近年になって、配合する金属銅粒子として、平均粒子径が1〜200nm程度の金属銅粒子が用いられるようになり、その用途は多方面に拡大している。具体的には、金属銅粒子の高い導電性を活用して、ブラウン管、液晶ディスプレイ等の透明性部材の電磁波遮蔽に適用されている。また、ナノマテリアルである金属銅粒子を用いて、微細な電極、回路配線パターンを形成する技術が提案されている。これは、金属銅粒子を配合した分散液を、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の塗装手法で基板上に電極や回路配線のパターンを塗布した後、比較的低温で加熱して金属銅粒子を融着させるもので、特に、プリント配線基板の製造に応用されつつある。更に、金属銅粒子は穏やかな加熱条件下においても容易に粒子の融着が進行し金属光沢が発現するため、簡便な鏡面の作製技術が、意匠・装飾用途において注目されている。
【0003】
金属銅粒子や金属銅粒子を分散した分散液としては、例えば特許文献1は、錯化剤及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合し還元して、金属銅粒子を生成すること、得られた金属銅粒子を分散媒に分散して流動性組成物とすることを開示しており、分散媒としては水溶媒、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒等を用いることを記載している。また、特許文献2は、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液であって、前記のゼラチンは、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が0以下であり、前記の高分子分散剤は、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が0〜50であることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2006/019144号パンフレット
【特許文献2】国際公開2010/024385号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1に記載の金属銅粒子は、分散安定性に優れており、比較的低温で加熱溶融が可能であることから、電気的導通を確保したり、あるいは帯電防止、電磁波遮蔽又は金属光沢、抗菌性等を付与するなどの種々の用途に好適に用いられている。この金属銅粒子をインクジェット印刷、スプレー塗装等の印刷適性、塗装適性を改善し、長期間分散安定性に優れた分散液が望まれている。そのため、特許文献2では、保護コロイドとして特定のゼラチンを用い、そのゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子を有機溶媒に分散させる際に、分散剤として前記のゼラチンが有するアミン価と酸価の差を補償するような特定の高分子分散剤を用いている。この金属銅分散液は、印刷適性等に優れ、分散安定性に優れているものの、成膜する際により一層低温度で、しかもより一層短時間に成膜が可能な分散液とその手段が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアミン価を有する高分子分散剤を添加して金属銅粒子の凝集径(累積90%粒径)を小さくすることが重要であることを見出した。また、高分子分散剤の熱特性、具体的には比熱容量、ガラス転移温度等に着目した結果、ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)である高分子分散剤を配合することが好ましく、金属銅粒子の分散安定性がよく、しかも、分散剤の比熱容量が小さいためにより一層低温度での成膜、光照射、プラズマ照射等による成膜が可能であることを見出した。また、高分子分散剤のガラス転移点が−70〜10℃の範囲であるとより好ましいこと、金属銅分散液は、ゼラチンの存在下、水系溶媒中で銅酸化物を還元した後、固液分離し、次いで、得られたゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子と前記の高分子分散剤を有機溶媒に混合して製造することなどを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(1)少なくとも、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液であって、前記の高分子分散剤は、アミン価が10〜150mgKOH/gであり、前記の金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nmであり、その累積90%粒径(D90)が10〜300nmである、金属銅分散液、
(2)前記の高分子分散剤は、ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)である、前記の(1)に記載の金属銅分散液、
(3)ゼラチンの存在下、水系溶媒中で銅酸化物を還元した後、固液分離し、次いで、得られたゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子と高分子分散剤を有機溶媒に混合して分散させる金属銅分散液の製造方法であって、アミン価が10〜150mgKOH/gである高分子分散剤を用い、金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nmであり、その累積90%粒径(D90)が10〜300nmである、金属銅分散液の製造方法、(4)ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)である高分子分散剤を用いる、前記の(3)に記載の金属銅分散液、
(5)基材の表面に前記の金属銅分散液を付着させる工程(a)を含む、又は、前記の工程(a)で作製した金属銅含有膜を還元性ガス雰囲気下で加熱する工程(b)を含む、又は、前記の工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域に光を照射する工程(c)を含む、又は、前記の工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域にプラズマを照射する工程(d)を含む、金属銅含有膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属銅分散液は、特定の高分子分散剤を配合しているため、金属銅粒子の凝集径(D90)が小さく、分散安定性に優れるとともに、加熱温度をより一層低下させて成膜することができる。また、光照射、プラズマ照射等でも成膜が可能である。このため、本発明の金属銅分散液を基材の表面に塗布したり、塗布後に加熱又は光照射、プラズマ照射等を行うことにより、電気伝導性と金属色調に優れた金属銅含有膜を簡便に製造することができる。
このようなことから、本発明の金属銅分散液は、電気的導通を確保する材料、帯電防止、電磁波遮蔽、金属光沢、抗菌性等を付与する材料などに用いられ、特に、金属銅含有膜の導電性を活用したプリント配線基板等の微細電極及び回路配線パターンの形成、金属銅含有膜の金属色調を活用した意匠・装飾用途等に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、金属銅粒子を有機溶媒に分散した分散液であって、少なくとも、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含み、一般に分散体、コーティング剤、塗料、ペースト、インキ、インクなどと称される組成物を包含する。本発明で用いる金属銅粒子はその表面に後述のゼラチンが存在したものであって、金属銅粒子の粒子径、銅以外の構成成分等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。金属銅粒子の粒子径は、入手し易いことから1nm〜100nm程度の平均粒子径を有する金属銅粒子を適宜用いるのが好ましく、1nm〜70nm程度の平均粒子径の金属銅粒子がより好ましく、多方面の用途に用いることができることから1〜50nm程度の平均粒子径を有する金属銅粒子が更に好ましく、より微細な電極、回路配線パターンを得るためには、1〜30nmの範囲の平均粒子径を有する金属銅粒子を用いるのが更に好ましい。金属銅粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属等の不純物を含有していてもよく、あるいは、金属銅粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物や錯化剤等の有機化合物などが含まれていてもよい。
また、金属銅粒子は、成膜の加熱温度をより一層低下させたり、急激な酸化防止などのために、銅と異種金属との合金を形成してもよく、銅粒子の表面に異種金属を被覆したりあるいは銅と異種金属との合金を被覆したりしてもよい。このような銅合金粒子、金属又は合金を被覆した金属銅粒子あるいは金属銅合金粒子も本発明の金属銅粒子に含まれる。このような異種金属として、銀、金、ビスマス、スズ、ニッケル、亜鉛、鉛等の金属を用いることができ、含有量、被覆量は適宜設定することができる。
【0010】
分散体中の金属銅粒子の粒度分布は膜にする際に重要な因子であり、累積50%、累積90%での粒径を測定して、それらの粒径が小さいものが好ましく、特にD90で表す凝集径がより小さいものが好ましい。累積50%粒径、累積90%粒径が特定の範囲になるように高分子分散剤を適宜選択する。金属銅粒子の累積50%粒径(D50)は1〜130nmであるのが好ましく、10〜120nmがより好ましく、20〜100nmが更に好ましい。また、金属銅粒子の累積90%粒径(D90)は10〜300nmであるのが好ましく、40〜250nmがより好ましく、60〜200nmが更に好ましい。また、金属銅粒子の累積10%粒径(D10)は、0.5〜100nmが好ましく、1〜80nmがより好ましく、5〜70nmが更に好ましい。上記の累積50%粒径(D50、メジアン径、累積中位径ともいう)、累積90%粒径(D90)、累積10%粒径(D10)は、分散液に分散した金属銅粒子を動的光散乱法粒度分布測定装置で測定する。そして、これらの値からSD値を、式1を用いて算出すると、0.6〜3.5が好ましく、0.6〜3.0がより好ましく、0.7〜2.5が更に好ましく、1.0〜2.5が特に好ましい。

式1 SD値=(D90−D10)/D50
【0011】
金属銅粒子の表面にはゼラチンを存在させる。ゼラチンとは、抽出したままの状態のゼラチンのみでなく、これを加水分解して低分子量化したもの(以下、加水分解ゼラチンやコラーゲンペプチドという場合がある)、これらのゼラチンに対して化学修飾を施したもの(以下、修飾ゼラチンという場合がある)を含む。一般にゼラチンは、コラーゲンを親物質とする動物性タンパク質である。ゼラチンの製造工程において、牛骨、牛皮、豚皮等の原料から効率よく高品質のゼラチンを抽出するために、塩酸や硫酸などの無機酸もしくは石灰を用いて、原料の前処理を行うが、前者を酸処理ゼラチン、後者をアルカリ処理(もしくは石灰処理)ゼラチンと称する。ゼラチンの抽出工程中に、コラーゲン中の酸アマイドは加水分解され、アンモニアを遊離してカルボキシル基に変化するため、ゼラチンの等イオン点は低下する。特にアルカリ処理ゼラチンは、石灰漬工程で100%近く脱アミドされているため、等イオン点は酸性域にあり、ほぼpH5程度である。これに対し、酸処理ゼラチンでは、原料処理期間が短く、脱アミド率が低いので、アルカリ域の等イオン点をもち、コラーゲンに近いpH8〜9程度である。このようなことから、ゼラチンは塩基性基、水酸基をもつためアミン価を有し、酸性基をもつため酸価を有する。本発明において金属銅粒子の表面に存在するゼラチンは、好ましくはアルカリ処理ゼラチンであり、後述の方法で測定したアミン価と酸価の差、すなわち(アミン価−酸価)が0以下であるものが好ましく、より好ましくは−50〜0の範囲である。アルカリ処理ゼラチンは、酸処理ゼラチンに比べて、金属銅粒子の保護コロイドとしての効果に優れており、好ましいものである。
【0012】
また、コラーゲンペプチド(加水分解ゼラチン)は、動物の骨や皮に含まれるコラーゲン(コラーゲンタンパク質)を直接に、あるいはゼラチンを経て、酵素や酸、アルカリなどで加水分解して得られたものである。コラーゲンペプチド(加水分解ゼラチン)を得るための加水分解方法としては、従来公知の方法が採用でき、例えば、酵素を用いる方法、酸やアルカリで化学的に処理する方法などによって加水分解を行うことができる。前記酵素としては、ゼラチンのペプチド結合を切断する機能を有する酵素であればよい。通常、タンパク質分解酵素あるいはプロアテーゼと呼ばれる酵素である。具体的には、例えば、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼなどが挙げられ、これらを単独あるいは複数種類を組み合わせて使用することができる。前記チオールプロテアーゼとしては、例えば、植物由来のキモパパイン、パパイン、プロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼなどが挙げられる。前記セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンDなどが挙げられる。前記酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモシンなどが挙げられる。酵素を用いる場合、加水分解処理前のゼラチン100質量部に対して0.01〜5質量部用いることが好ましく、加水分解の温度条件としては30〜70℃、処理時間としては0.5〜24時間が好ましい。酵素により加水分解した場合には、処理後に酵素失活を行う。酵素失活は加熱により行うことができ、加熱温度としては、例えば、70〜100℃である。
【0013】
酸又はアルカリを用いる場合、ゼラチン溶液をpH3以下又はpH10以上とすることが好ましく、加水分解の温度条件としては50〜90℃、処理時間としては1〜8時間が好ましい。前記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。酸やアルカリにより加水分解した場合には、中和剤による中和やイオン交換樹脂などによる脱塩を行う。前記加水分解処理を終えた段階では、加水分解ゼラチンは加水分解処理液中に溶解あるいは分散した状態である。この溶液に、通常採用される各種の精製処理を施すことができる。前記精製処理としては、特に限定されないが、例えば、活性炭を添加することにより色調、風味の改良、不純物除去を行ったり、ろ過や遠心分離などの従来公知の固液分離処理を施して不純物除去を行ったりすることができる。
【0014】
修飾ゼラチンは、ゼラチンを化学修飾したもの、すなわち、ゼラチンが持つ各アミノ酸残基の側鎖や、末端アミノ基、末端カルボキシル基などが化学的に修飾されたものであってもよい。ゼラチンが持つアミノ酸残基の側鎖を化学修飾し、例えば、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトリル基、イソニトリル基、ジイミド基、シアノ基、イソシアネート基、ニトロ基などの窒素元素を含む官能基、チオール基、スルホン基、スルフィド基、ジスルフィド基などの硫黄元素を含む官能基、チオイソシアネート基、チオアミド基などの窒素元素と硫黄元素の両方を含む官能基を導入することで、その官能基の種類や量により、得られる金属銅粒子の平均粒子径を様々に制御できる。
【0015】
一般的な化学修飾の手法として、例えば、ゼラチン水溶液に水溶性カルボジイミドを添加して、ゼラチンが持つカルボキシル基を活性化し、そこに任意のアミノ化合物を反応させてアミド化する方法が採用できる。この方法によって、例えば、メチオニンなどの硫黄元素を含有するアミノ酸やリジンなどの窒素元素を含有するアミノ酸を簡易に導入することができる。前記水溶性カルボジイミドとしては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミド・p−トルエンスルホン酸塩(CMC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などが挙げられる。本発明に適用できるゼラチンとしては、加水分解処理がなされ、かつ、化学修飾がなされたものであってもよいが、この場合、加水分解した後に化学修飾したものであってもよいし、化学修飾した後に加水分解したものであってもよい。
【0016】
本発明では、ゼラチンの平均分子量の大小を選択することにより金属銅粒子の平均粒子径を制御することができるが、平均分子量の大小は、質量平均分子量や数平均分子量などの測定方法によらず、いずれを基準にしてもよい。具体的には、例えば、用いるゼラチンの質量平均分子量は2000〜200000であることが好ましい。また、ゼラチンの数平均分子量は200〜60000であることが好ましい。平均分子量が小さすぎると保護コロイドとしての機能が充分に果たせないおそれがあるという問題や、平均分子量が大きすぎると平均粒子径の制御が困難となるおそれや、また、保護コロイドの示す有機含有量が多くなりすぎるおそれがあるという問題を回避できるからである。ゼラチンの質量平均分子量は、より好ましくは150000以下であり、さらに好ましくは100000以下であり、特に好ましくは5000〜20000である。また、ゼラチンの数平均分子量は、より好ましくは50000以下であり、更に好ましくは30000以下であり、特に好ましくは500〜20000である。このように、加水分解により低分子量化された加水分解ゼラチンが好ましい理由は、このようなゼラチンを用いれば、得られる金属銅粒子の粒子径分布のばらつきが小さいものとなり、また、金属銅含有膜を作製する際により低温で焼結する可能性があるからである。
【0017】
(ゼラチンの分子量の測定)
本発明における「平均分子量」は、「パギイ法」によって測定される値である。ここで「パギイ法」とは、高速液体クロマトグラフィーを用いたゲル濾過法によって、試料溶液のクロマトグラムを求め、分子量分布を推定する方法である。具体的には、以下の方法により測定した。試料2.0gを100mL容メスフラスコに取り、0.1Mリン酸二水素カリウムと0.1Mリン酸水素二ナトリウムの等量混合液からなる溶離液を加えて1時間膨張させた後、40℃で60分間加熱して溶かし、室温に冷却後、溶離液を正確に10倍に希釈して、得られた溶液を検液とした。前記検液のクロマトグラムを以下のゲル濾過法により求めた。カラム:Shodex Asahipak GS 620 7Gを2本直列に装着したものを用いた。流速:1.0mL/分、カラム温度:50℃、測定波長:230nm、分子量既知のプルラン(P−82、昭和電工社製)で溶出時間を求めて検量線を作成した。その後、ゼラチンを分析し、検体の質量平均分子量と数平均分子量を下式から求めた。下式において、Siは各ポイントでの吸光度、Miは溶出時間Tiでの分子量である。
質量平均分子量=(ΣSi×Mi)/ΣSi
数平均分子量=ΣSi/(ΣSi/Mi)
【0018】
本発明では、金属銅粒子の表面にゼラチンが存在しているが、前記のゼラチンは酸価が高いため、それが存在した金属銅粒子は、溶媒中で解離して電気的に陰性となっており、有機溶媒中では凝集し易い。そのため、ゼラチンの酸価の原因となる酸点を中和するために、高分子分散剤を混合する。高分子分散剤もゼラチンと同様に水酸基、酸性基、塩基性基等を有することから、アミン価、酸価を有するが、アミン価が10〜150mgKOH/gであるものが好ましく、10〜130mgKOH/gがより好ましく、10〜90mgKOH/gが更に好ましく、15〜80mgKOH/gが特に好ましく、15〜50mgKOH/gが最も好ましい。アミン価が前記の範囲であれば、有機溶媒中での金属銅粒子の分散安定性に寄与することができるため好ましい。
また、高分子化合物のもつアミン価、酸価は、金属銅粒子の表面に存在するゼラチンが有するアミン価と酸価を補償(中和)する程度以上のアミン価(塩基点)、酸価(酸点)をもつのが好ましく、アミン価と酸価の差、すなわち(アミン価−酸価)が0〜50であることが好ましく、より好ましくは1〜30の範囲である。高分子分散剤は、その塩基点、酸点を介して、ゼラチンの酸点、塩基点と静電的に結合していてもよい。このようなことから、(高分子分散剤のもつアミン価×高分子分散剤の質量)−(ゼラチンのもつ酸価×ゼラチンの質量)が0以上であることが好ましいと考えられる。
【0019】
高分子分散剤は、ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)であると、高分子分散剤の蓄熱量が少なく温度1K上げるのに必要な熱量が少なくてすみ、分解のために加える熱量が少なくてすむため好ましく、1.2〜1.9J/(g・K)の範囲がより好ましく、1.3〜1.8J/(g・K)の範囲が更に好ましい。また、高分子分散剤のガラス転移点が−70〜10℃の範囲であると、低温度でガラス転移が起こり分解のために加える熱量が少なくてすむため好ましく、−70〜7℃の範囲がより好ましく、−70〜5℃の範囲が更に好ましく、−70〜0℃の範囲が更に好ましい。このようなことから、本発明では、より好ましい高分子分散剤は、アミン価が10〜90mgKOH/gであり、ガラス転移点が−70〜10℃の範囲であり、更に好ましい高分子分散剤は、アミン価が10〜90mgKOH/gであり、ガラス転移点が−70〜10℃の範囲であり、ガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)である。
(ガラス転移点における比熱容量の測定)
JIS K 7123−1987「プラスチックの比熱容量測定方法」に従い、TA Instruments社製DSC Q 100型を用いて、比熱容量を測定した。昇温パターンは、−90℃で5分間保持した後、40℃まで5℃/分で昇温し、40℃で5分間保持した。解析ソフトには、TA Instruments社製オプションソフトウェア“Thermal Specialty Library”を用いた。
(ガラス転移点の測定)
JIS K 7121−1987「プラスチックの転移温度測定方法」に従い、TA Instruments社製DSC Q 100型を用いて、測定した。昇温パターンは、−90℃で5分間保持した後、40℃まで5℃/分で昇温し、40℃で5分間保持した。
【0020】
高分子分散剤は、例えば、第3級アミノ基、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基等の塩基性基を有する高分子や共重合物であり、カルボキシル基等の酸性基を有していてもよく、そのため、高分子分散剤のもつアミン価と酸価が相殺されて(アミン価−酸価)は0であってもよい。高分子分散剤は、アミン価が酸価よりも高いものが好ましく、(アミン価−酸価)が0〜50の範囲が好ましく、1〜30の範囲がより好ましい。高分子分散剤の塩基性基又は酸性基は、ゼラチン被覆金属銅粒子に対して親和性のある官能基となるため、高分子の主鎖及び/又は側鎖に1個以上もつものが好ましく、数個もつものがより好ましい。塩基性基、酸性基は、高分子の主鎖の片末端及び/又は側鎖の片末端に有していてもよい。高分子分散剤は、A−Bブロック型高分子等の直鎖状の高分子、複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子等を用いることができる。
高分子分散剤の質量平均分子量には制限がないが、ゲル浸透クロマトグラフィー法で測定した質量平均分子量が2000〜1000000g/モルの範囲が好ましい。2000g/モル未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000g/モルを超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり易いという問題を回避できるからである。より好ましくは4000〜1000000g/モルの範囲であり、更に好ましくは10000〜1000000g/モルの範囲であり、より一層好ましくは1000〜100000g/モルである。また、高分子分散剤にはリン、ナトリウム、カリウムの元素が少ないものが好ましく、それらの元素が含まれていないものがより好ましい。高分子分散剤にリン、ナトリウム、カリウムの元素が含まれていると、加熱焼成して電極や配線パターン等を作製した際に、灰分として残存するという問題を回避できるからである。このような高分子分散剤の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0021】
高分子分散剤としては具体的には、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸等の高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられ、直鎖型アクリル系ポリマー又は直鎖型アクリル系共重合物が好ましい。このような高分子分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
【0022】
ゼラチン、高分子分散剤のアミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に対して等量の水酸化カリウムのmg数で表す。また、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表す。具体的には、アミン価、酸価は下記のJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。
(アミン価の測定方法)
ゼラチン又は高分子分散剤5g、ブロモクレゾールグリーンエタノール溶液数滴を300mLのエタノールと純水の混合溶媒に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1モルHClエタノール溶液を添加し、ブロモクレゾールグリーン指示薬の黄色が30秒続いた時の0.1モルHClエタノール溶液の滴定量からアミン価を算出する。
(酸価の測定方法)
ゼラチン又は高分子分散剤5g、フェノールフタレイン液数滴を300ミリリットルの純水に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1モルKOHエタノール溶液を添加する。フェノールフタレイン指示薬の薄紅色が30秒続いた時の0.1モルKOHエタノール溶液の滴定量から酸価を算出する。
【0023】
有機溶媒は適宜選択することができ、具体的にはトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン等の炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール、IPA(イソプロピルアルコール)、ノルマルプロピルアルコール、2−ブタノール、TBA(ターシャリーブタノール)、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、DAA(ジアセトンアルコール)等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル系容媒、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、MTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。有機溶媒は、金属銅分散液の低粘度化に適応するために、低粘度のものが好ましく、1〜20mPa・sの範囲のものが好ましい。このような有機溶剤としては、トルエン、ブチルカルビトール、ブタノール、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、ブチルセロソルブ、テトラデカン等が好適に用いられる。
【0024】
ゼラチンは金属銅粒子100質量部に対し、0.1〜15質量部程度の範囲で存在していれば、所望の効果が得られるので好ましく、更に好ましい範囲は0.1〜10質量部程度である。高分子分散剤は金属銅粒子100質量部に対し0.1〜20質量部の範囲であれば所望の効果が得られるので好ましい。この範囲より少なすぎると本発明の効果が得られ難いという問題や、多すぎると電極材料用途では導電性を阻害し、装飾用途では白濁などを生じ仕上り外観が低下する場合があるという問題を回避できるからである。より好ましい範囲は、0.1〜10質量部である。本発明の効果を阻害しない範囲で、一部のみコロイドにより被覆された粒子や、コロイドにより被覆されていない粒子が混じっていてもよい。分散液中の金属銅粒子の濃度は適宜調整することができ、具体的には金属銅粒子の濃度を10質量%以上に調整することができ、好ましくは10〜80質量%であり、20〜70質量%程度がより好ましい。
【0025】
本発明の金属銅分散液は、金属銅粒子が十分分散しているため高濃度であっても分散液の粘度を比較的低く調整することができ、例えば、分散液の粘度を好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは1〜30mPa・s、更に好ましくは1〜20mPa・sとすることができる。また、分散液中の金属銅粒子の濃度を高くすると粘度が高くなり易いが、本発明の分散液は金属銅粒子の濃度を15質量%以上としても前記の粘度を維持することができ、このように低粘度、高濃度であるためにインクジェット印刷、スプレー塗装等に好適に用いることができる。このようなことから、本発明の金属銅分散液の好ましい態様は、金属銅粒子の濃度が15質量%以上であり、金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nm、好ましくは10〜120nm、より好ましくは20〜100nm程度であって、累積90%粒径が10〜300nm、好ましくは40〜250nm、より好ましくは60〜200nm程度であって、分散液の粘度が100mPa・s以下である。
【0026】
本発明の金属銅分散液には、前記の金属銅粒子、有機溶媒、高分子分散剤の他に、硬化性樹脂、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、界面活性剤、非界面活性型分散剤、表面調整剤(レベリング剤)等を必要に応じて適宜配合することもできる。硬化性樹脂は、塗布物と基材との密着性を一層向上させることができる。硬化性樹脂としては、低極性非水溶媒に対する溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型等を制限なく用いることができる。また、硬化性樹脂の樹脂種としては、公知のタンパク質系高分子、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、セルロース等を制限無く用いることができる。硬化性樹脂成分の配合量は、金属銅粒子100質量部に対し10質量部以下が好ましく、より好ましい範囲は8質量部以下であり、5質量部以下であれば更に好ましい。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤が好ましく、水性溶媒中で解離して電気的に陽性を示す部分が、界面活性能を有する化合物である。例えば、(1)4級アンモニウム塩((a)脂肪族4級アンモニウム塩([RN(CH、[RR'N(CH、[RR'R''N(CH)]、[RR'R''R'''N]等:ここでR、R'、R''、R'''は同種又は異種のアルキル基を、XはCl、Br、I等のハロゲン原子を表す、以下同じ)、(b)芳香族4級アンモニウム塩([RN(CHAr)]、[RR'N(CHAr)等:ここでArはアリール基を表す)、(c)複素環4級アンモニウム塩(ピリジニウム塩([CN−R])、イミダゾリニウム塩([R−CN(CNR'R'')C)等)、(2)アルキルアミン塩(RHNY、RR'HNY、RR'R''NY等:ここでYは有機酸、無機酸等を表す)が挙げられ、これらを1種用いても2種以上用いてもよい。具体的には、脂肪族4級アンモニウム塩としては、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリステアリルメチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム等が挙げられる。芳香族4級アンモニウム塩としては、塩化デシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。複素環4級アンモニウム塩としては、塩化セチルピリジニウム、臭化アルキルイソキノリウム等が挙げられる。アルキルアミン塩としては、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ヤシ油アミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、トリオクチルアミン、トリステアリルアミン、ジオクチルメチルアミン等を塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や、酢酸等のカルボン酸等で中和した中和生成物が挙げられる。あるいは、金属銅粒子表面のメルカプトカルボン酸及び/又はその塩とアルキルアミンを反応させて得られる中和生成物を、アルキルアミン塩として用いてもよい。4級アンモニウム塩の中では、特に炭素数が8以上のアルキル基又はベンジル基を少なくとも1個有しているものが好ましく、そのような4級アンモニウム塩としては、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(アルキル基の炭素数:18)、塩化オクチルトリメチルアンモニウム(同:8)、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム(同:12)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(同:16)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(同:16)、臭化テトラオクチルアンモニウム(同:8)、塩化ジメチルテトラデシルベンジルアンモニウム(同:14)、塩化ジステアリルジメチルベンジルアンモニウム(同:18)、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム(同:18)、塩化ベンザルコニウム(同:12〜18)が挙げられる。また、アルキルアミン塩のアルキルアミンの中でも、炭素数が8以上のアルキル基を少なくとも1個有しているものが好ましく、そのようなアルキルアミンとしては、オクチルアミン(同:8)、ラウリルアミン(同:12)、ステアリルアミン(同:18)、ジオクチルアミン(同:8)、ジラウリルアミン(同:12)、ジステアリルアミン(同:18)、トリオクチルアミン(同:8)、トリラウリルアミン(同:12)が挙げられる。また、表面調整剤は有機溶剤分散体の表面張力をコントロールして、ハジキ、クレーター等の欠陥を防止するものであり、アクリル系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。界面活性剤、表面調整剤の添加量は適宜調整することができ、例えば金属銅粒子100質量部に対し2.0質量部以下が好ましく、0.2質量部以下がより好ましい。
【0027】
次に、本発明は、ゼラチンの存在下、水系溶媒中で銅酸化物を還元した後、固液分離し、次いで、得られたゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子と高分子分散剤を有機溶媒に混合して分散させる金属銅分散液の製造方法であって、アミン価が10〜150mgKOH/gである高分子分散剤を用い、金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nmであり、その累積90%粒径(D90)が10〜300nmである。
【0028】
まず、保護コロイドとしてゼラチンを用い、その存在下で、銅酸化物と還元剤とを水系溶媒中で混合し、還元すると、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子が生成する。ゼラチンを用いることにより、生成した金属銅粒子の表面にゼラチンが存在して、水系溶媒中では凝集粒子が少なく分散性のよいものを製造することができる。ゼラチンは、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が0以下のものが好ましく、−50〜0の範囲がより好ましい。ゼラチンの使用量は、銅酸化物100質量部に対し1〜100質量部の範囲にすると、生成した銅粒子が分散安定化し易いので好ましく、2〜50質量部の範囲がより好ましく、3〜15質量部が更に好ましい。銅酸化物としては2価の銅酸化物を用いることが好ましい。「2価の銅酸化物」は、銅の原子価が2価(Cu2+)であり、酸化第二銅、水酸化第二銅及びこれらの混合物を包含する。銅酸化物には、その他の金属、金属化合物や非金属化合物などの不純物を適宜含んでいてもよい。
【0029】
還元剤としては、還元反応中に1価の銅酸化物が生成及び/又は残存しないように、還元力が強いものを用いるのが好ましく、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いてもよい。特に、ヒドラジン系還元剤は還元力が強く好ましい。還元剤の使用量は、銅酸化物から銅粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、銅酸化物中に含まれる銅1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。還元剤が前記範囲より少ないと反応が進み難く、金属銅粒子が十分に生成せず、前記範囲より多いと反応が進みすぎ、所望の金属銅粒子が得られ難いという問題を回避できるからである。更に好ましい還元剤の使用量は、0.3〜2モルの範囲である。
【0030】
水系溶媒とは水が含まれている溶媒であり、例えば、水又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒が挙げられ、工業的には水媒液を用いるのが好ましい。反応温度は、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば反応が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば微細な金属銅粒子が得られるためより好ましく、60〜95℃の範囲が更に好ましく、80〜95℃の範囲が特に好ましい。反応液のpHを酸又はアルカリで3〜12の範囲に予め調整すると、銅酸化物の沈降を防ぎ、均一に反応させることができるので好ましい。反応時間は、還元剤等の原材料の添加時間などで制御して設定することができ、例えば、10分〜6時間程度が適当である。
【0031】
また、還元の際には、必要に応じて錯化剤を用いることもできる。必要に応じて用いる錯化剤は、銅酸化物から銅イオンが溶出するか、又は銅酸化物が還元されて金属銅が生成する過程で作用すると考えられ、これが有する配位子のドナー原子と銅イオン又は金属銅と結合して銅錯体化合物を形成し得る化合物を言い、ドナー原子としては、例えば、窒素、酸素、硫黄等が挙げられる。具体的には、
(1)窒素がドナー原子である錯化剤としては、(a)アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等の1級アミン類、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、及び、ピペリジン、ピロリジン等のイミン類等の2級アミン類、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の3級アミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンの1分子内に1〜3級アミンを2種以上有するもの等)、(b)窒素含有複素環式化合物(例えば、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン等)、(c)ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等)及びシアン化合物、(d)アンモニア及びアンモニウム化合物(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)、(e)オキシム類等が挙げられる。
(2)酸素がドナー原子である錯化剤としては、(a)カルボン酸類(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のオキシカルボン酸類、酢酸、ギ酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸類、安息香酸等の芳香族カルボン酸類等)、(b)ケトン類(例えば、アセトン等のモノケトン類、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のジケトン類等)、(c)アルデヒド類、(d)アルコール類(1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類等)、(e)キノン類、(f)エーテル類、(g)リン酸(正リン酸)及びリン酸系化合物(例えば、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等)、(h)スルホン酸又はスルホン酸系化合物等が挙げられる。
(3)硫黄がドナー原子である錯化剤としては、(a)脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタン等)、(b)脂環式チオール類(シクロヘキシルチオール等)、(c)芳香族チオール類(チオフェノール等)、(d)チオケトン類、(e)チオエーテル類、(f)ポリチオール類、(g)チオ炭酸類(トリチオ炭酸類)、(h)硫黄含有複素環式化合物(例えば、ジチオール、チオフェン、チオピラン等)、(i)チオシアナート類及びイソチオシアナート類、(j)無機硫黄化合物(例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素等)等が挙げられる。
(4)2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、(a)アミノ酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、グリシン、アラニン等の中性アミノ酸類、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸類、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類)、(b)アミノポリカルボン酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDA)等)、(c)アルカノールアミン類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(d)ニトロソ化合物及びニトロシル化合物(ドナー原子が窒素及び酸素)、(e)メルカプトカルボン酸類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸等)、(f)チオグリコール類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトエタノール、チオジエチレングリコール等)、(g)チオン酸類(ドナーが硫黄及び酸素)、(h)チオ炭酸類(ドナー原子が硫黄及び酸素:例えば、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、チオン炭酸)、(i)アミノチオール類(ドナーが硫黄及び窒素:アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミン等)、(j)チオアミド類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えば、チオホルムアミド等)、(k)チオ尿素類(ドナー原子が硫黄及び窒素)、(l)チアゾール類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えばチアゾール、ベンゾチアゾール等)、(m)含硫黄アミノ酸類(ドナーが硫黄、窒素及び酸素:システイン、メチオニン等)等が挙げられる。
(5)上記の化合物の塩や誘導体としては、例えば、クエン酸トリナトリウム、酒石酸ナトリウム・カリウム、次亜リン酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム等のそれらのアルカリ金属塩や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステル等が挙げられる。
このような錯化剤のうち、少なくとも1種を用いることができる。錯化剤の使用量は錯化剤の種類により最適量が異なるため、その種類に応じて適宜設定する。錯化剤の使用量を少なくすると、金属微粒子の一次粒子を小さくすることができ、使用量を多くすると、一次粒子を大きくすることができる。
【0032】
本発明では、窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含む錯化剤であれば、本発明の効果が得られ易いので好ましい。具体的には、アミン類、窒素含有複素環式化合物、ニトリル類及びシアン化合物、カルボン酸類、ケトン類、リン酸及びリン酸系化合物、アミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類、又はそれらの塩又は誘導体から選ばれる少なくとも1種であればより好ましく、カルボン酸類の中ではオキシカルボン酸類が、ケトン類の中ではジケトン類が、アミノ酸類の中では塩基性及び酸性アミノ酸類が好ましい。更に、錯化剤が、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、クエン酸又はそのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、次亜リン酸又はそのアルカリ金属塩、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミンテトラ酢酸又はそのアルカリ金属塩、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であれば好ましい。これらの酸素系又は窒素系の錯化剤の使用量は、前記のように銅酸化物1000質量部に対し0.01〜200質量部の範囲が好ましく、0.1〜200質量部の範囲がより好ましく、0.5〜150質量部の範囲が更に好ましい。
【0033】
また、本発明では、ドナー原子の少なくとも一つが硫黄である錯化剤を用い、この錯化剤を、銅酸化物1000質量部に対し0.01〜2質量部の範囲で用いると、一層微細な銅粒子の生成を制御し易くなる。硫黄を含む錯化剤としては、前記のメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類、脂肪族チオール類、脂環式チオール類、芳香族チオール類、チオケトン類、チオエーテル類、ポリチオール類、チオ炭酸類、硫黄含有複素環式化合物、チオシアナート類及びイソチオシアナート類、無機硫黄化合物、チオン酸類、アミノチオール類、チオアミド類、チオ尿素類、チアゾール類又はそれらの塩又は誘導体等が挙げられる。中でもメルカプトカルボン酸類、メルカプトエタノール等のチオグルコール類、含硫黄アミノ酸類が効果が高いので好ましく、分子量が200以下であるのがより好ましく、180以下であれば一層好ましい。そのようなメルカプトカルボン酸として、例えば、メルカプトプロピオン酸(分子量106)、メルカプト酢酸(同92)、チオジプロピオン酸(同178)、メルカプトコハク酸(同149)、ジメルカプトコハク酸(同180)、チオジグリコール酸(同150)、システイン(同121)等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。より好ましい使用量は、0.05〜1質量部の範囲であり、0.05質量部以上0.5質量部未満であれば更に好ましい。
【0034】
本発明では、銅酸化物と還元剤とを混合する際のそれぞれの原材料の添加順序には制限はなく、例えば、(1)ゼラチンを含む水系溶媒に、銅酸化物と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(2)ゼラチン、銅酸化物を含む水系溶媒に、還元剤を添加する方法等が挙げられる。また、還元の際に錯化剤を添加してもよく、その場合は例えば、(3)ゼラチン、銅酸化物を含む水系溶媒に、錯化剤と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(4)ゼラチン、銅酸化物を含む水系溶媒に、錯化剤と還元剤の混合液を添加する方法等が挙げられる。中でも(3)、(4)の方法が反応を制御し易いので好ましく、(4)の方法が特に好ましい。銅酸化物、還元剤、ゼラチン、錯化剤は還元反応に用いる前に予め水系溶媒に懸濁あるいは溶解して用いてもよい。尚、「同時並行的に添加」とは、反応期間中において銅酸化物と還元剤あるいは錯化剤と還元剤とをそれぞれ別々に同時期に添加する方法をいい、両者を反応期間中継続して添加する他に、一方あるいは両者を間欠的に添加することも含む。また、銅と異種金属との合金粒子を製造するには、銅酸化物を還元する際に異種金属化合物を混合し、還元すると銅合金粒子を製造することができる。更に、銅粒子の表面に異種金属を被覆したりあるいは銅と異種金属との合金を被覆したりするには、銅粒子あるいは銅合金粒子を製造した後に、異種金属化合物あるいは異種金属化合物と銅化合物とを混合し還元して製造することができる。
【0035】
前記の方法によりゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子を生成した後、金属銅粒子を固液分離し、洗浄して、金属銅粒子の固形物を得る。固液分離する手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。次いで、必要に応じて、金属銅粒子の固形物を通常の方法により乾燥してもよい。金属銅粒子は酸化され易いので、酸化を抑制するために、乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行ってもよい。
【0036】
次いで、金属銅粒子の固形物あるいは乾燥物を有機溶媒に混合して分散させる際に、アミン価が10〜150mgKOH/gである高分子分散剤を用いることが重要である。好ましい高分子分散剤は前記したとおりであり、そのガラス転移点における比熱容量が1.0〜2.0J/(g・K)が好ましく、ガラス転移点が−70〜10℃の範囲であることがより好ましく、直鎖型アクリル系ポリマー又は直鎖型アクリル系共重合物であることがより好ましい。また、高分子分散剤は、1000〜100000g/モルの質量平均分子量を有するものがより好ましい。有機溶媒は前記のものを用いることができ、混合方法としては湿式混合機を用い、例えば、撹拌機、らせん型混合機、リボン型混合機、流動化型混合機等の固定型混合機、円筒型混合機、双子円筒型混合機等の回転型混合機、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、サンドグラインダーミル等の湿式粉砕機、ペイントシェーカー等の振とう機、超音波分散機等の分散機などを用いることができる。これらの混合機等を適宜選定し、その混合条件、混合時間、使用する分散メディア量等を適宜設定して、前記の金属銅粒子の累積50%粒径(D50)が1〜130nmであり、その累積90%粒径(D90)が10〜300nmに調整する。このようにして、金属銅粒子を有機溶媒に分散した金属銅分散液が得られる。また、混合の前に必要に応じて、圧縮粉砕型、衝撃圧縮粉砕型、せん断粉砕型、摩擦粉砕型等の粉砕機を用いて、金属銅粒子を粉砕してもよく、また、粉砕の際に同時に混合してもよい。
【0037】
次に、本発明の金属銅分散液を用いた電極、配線パターン、意匠・装飾塗膜等の金属銅含有膜について説明する。金属銅含有膜は、基材上に金属銅が固定したものである。なお、分散液に硬化性樹脂を添加すると金属銅粒子がより強固に固定した金属銅含有膜とすることができる。また、塗布膜に熱を加えたり、光を照射したりプラズマを照射したりすると金属銅粒子が溶融接着してより一層強固に固定することができる。このような金属銅含有膜は、厚み、大きさ、形状等は制限がなく、薄膜、厚膜であってもよく、基材全面又は一部を覆っていてもよい。あるいは、基材の一部に形成された微細な線状、大きな幅の線状であってもよく、微細な点状であってもよい。具体的な用途としては、金属銅の導電性を利用して電極、配線パターンに用いることができ、金属銅の色調や抗菌作用を利用して装飾用途、抗菌用途にも用いることができる。
【0038】
本発明の装飾物品、抗菌性物品は、基材の表面の少なくとも一部に、前記の金属銅含有膜を形成したものであって、金属銅粒子の金属色調あるいは抗菌性を基材表面に付与したものである。基材表面の全面にわたって着色し金属色調や抗菌性を付与することができるほか、基材表面の一部分に意匠、標章、ロゴマークを形成したり、その他の文字、図形、記号を形成したりすることもできる。基材としては、金属、ガラス、セラミック、岩石、コンクリートなどの無機質材料、ゴム、プラスチック、紙、木、皮革、布、繊維などの有機質材料、無機質材料と有機質材料とを併用あるいは複合した材料を用いることができる。それらの材質の基材を使用物品に加工する前の原料基材に金属銅含有膜を形成して装飾を施し、抗菌性を付与することもでき、あるいは、基材を加工した後のあらゆる物品に装飾を施し、抗菌性を付与することもできる。また、それらの基材表面に予め塗装したものの表面に装飾を施し、抗菌性を付与することも含まれる。
装飾を施し、あるいは抗菌性を付与する物品の具体例としては、
(1)自動車、トラック、バスなどの輸送機器の外装、内装、バンパー、ドアノブ、サイドミラー、フロントグリル、ランプの反射板、表示機器等、
(2)テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、パーソナルコンピューター、携帯電話、カメラなどの電化製品の外装、リモートコントロール、タッチパネル、フロントパネル等、
(3)家屋、ビル、デパート、ストアー、ショッピングモール、パチンコ店、結婚式場、葬儀場、神社仏閣などの建築物の外装、窓ガラス、玄関、表札、門扉、ドア、ドアノブ、ショーウインド、内装等、
(4)照明器具、家具、調度品、トイレ機器、仏壇仏具、仏像などの家屋設備、
(5)金物、食器などの什器、
(6)飲料水、タバコなどの自動販売機、
(7)合成洗剤、スキンケア、清涼飲料水、酒類、菓子類、食品、たばこ、医薬品などの容器、
(8)表装紙、ダンボール箱などの梱包用具、
(9)衣服、靴、鞄、メガネ、人口爪、人口毛、宝飾品などの衣装・装飾品、
(10)野球のバット、ゴルフのクラブなどのスポーツ用品、つり具などの趣味用品、
(11)鉛筆、色紙、ノート、年賀はがきなどの事務用品、机、椅子などの事務機器、
(12)書籍類のカバーやオビ等、人形、ミニカーなどのおもちゃ、定期券などのカード類、CD、DVDなどの記録媒体、などが挙げられる。また、人間の爪、皮膚、眉毛、髪の毛などを基材とすることができる。
【0039】
次に、本発明は、前記の金属銅分散液を用いることを特徴とする金属銅含有膜の製造方法である。本発明の製造方法における工程(a)は、基材の表面に、前記の金属銅分散液を付着させる工程である。工程(b)は、前記の工程(a)で作製した金属銅含有膜を還元性ガス雰囲気下で加熱する工程(b)からなる工程である。工程(c)は、前記の工程(a)の後に、その金属銅含有膜の全領域又は一部領域に光を照射する工程である。また、工程(d)は、工程(a)の後に、その金属銅含有膜の全領域又は一部領域にプラズマを照射する工程である。また、工程(e)は、前記の工程(c)又は(d)の後に照射を行わなかった領域の金属銅含有膜を除去する工程である。更に、工程(f)は、前記の工程(a)〜(d)で得られた金属銅含有膜を別の基材に転写する工程である。前記の工程(a)でも金属銅含有膜を作製することができ、その後の工程(b)〜(f)は必要に応じて行う工程である。その工程(b)〜(e)のいずれかを行うことにより、強固な金属銅含有膜を作製することができ、また、工程(f)を行うことにより金属銅含有膜を直接形成することが困難なものにも簡便に金属銅含有膜を作製することができる。また、電極、配線パターンを製造する場合、前記の工程(a)以降は、工程(b)〜(f)のいずれの工程を組み合わせて実施することも可能であるが、工程(a)はインクジェット印刷で行うことがより好ましい。
【0040】
<工程(a)>
本発明の金属銅分散液を基材に付着させる(以下では代表して「塗布する」と記載する)。金属銅分散液の塗布には、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷又はオフセット印刷等の汎用の印刷方法や転写方法、スプレー、スリットコーター、カーテンコーター、バーコーター、刷毛、筆又はスピンコーター等を使用した汎用の塗装法を用いることができる。塗布層の厚みについては特に規制はなく、使用目的、用途に応じて適宜選択できるが、0.001〜100μmが好ましく、0.005〜70μmがより好ましい。このときの塗布パターンは、基材の全面に塗布することも、パターン状や模様状に塗布することもできる。塗布方法や使用目的、用途に応じて、金属銅粒子の粒径や高分子分散剤、有機溶媒及びその他配合物の種類を適宜選択できる。また、分散液の粘度や金属銅濃度についても同様に適宜選択できる。
【0041】
本発明の金属銅分散液は低粘度、高濃度という特徴を有しているため、特にインクジェット印刷、スプレー塗装等に好適に用いることができる。インクジェット印刷とは、分散液の液滴を微細な孔から吐出して基材に着弾させることで所定の形状のパターンを形成する方法である。この方法を用いると、インクジェットプリンタとパソコン等のコンピューターを接続することにより、コンピューターに入力された図形情報により、金属銅分散液の吐出口であるノズルと、基材との相対的な位置を変化させて任意の場所に分散液を吐出でき、それにより所望のパターンを基材上に描くことができる。また、ノズル径、分散液の吐出量、及びノズルと吐出物が形成される基材との移動速度の相対的な関係によって、形成する金属銅含有膜の厚みや幅を調整できる。このため、微細な金属銅含有膜を作製することができるし、一辺が1〜2mを超えるような大面積の基材上においても、所望の箇所に金属銅含有膜を精度よく吐出形成することができる。また、隣り合う膜パターンとの不整合が生じないため、歩留まりを向上させることができ、また、必要部分にのみ分散液を塗着することができるため、金属銅分散液のロスを減らすことができる。インクジェット印刷には金属銅分散液の吐出方式により各種のタイプがあり、例えば、圧電素子型、バブルジェット(登録商標)型、空気流型、静電誘導型、音響インクプリント型、電気粘性インク型、連続噴射型などがあるが、パターンの形状や厚さ、金属銅分散液の種類などにより適宜選択することができる。
【0042】
インクジェット印刷においては、金属銅分散液の粘度は100mPa・s以下が好ましく、1〜20mPa・sがより一層好適であるが、これは、前述の吐出口ノズルが目詰まりすることなく分散液を円滑に吐出できるようにするためである。金属銅粒子の粒径は、ノズルの径や所望のパターン形状などに依存するが、ノズルの目詰まり防止や高精細なパターン作製のため1〜200nmが好ましく、1〜100nmがより好ましい。
【0043】
基材としては、無アルカリガラス、石英ガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイアガラスなどのガラス類、Al、MgO、BeO、ZrO、Y、CaO、GGG(ガドリウム・ガリウム・ガーネット)等の無機材料、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の有機材料、その有機材料に直径数nmの無機粒子が分散された複合材料で形成される基板、シリコンウエハ、金属板等を用いることができる。用途に応じてこれらの材料から適宜選択して、フィルム状等の可撓性基材又は剛性のある基材とすることがきる。なお、その大きさには制限はなく、形状も円盤状、カード状、シート状などいずれの形状であってもよく、基材の表面も平面である必要はなく、凹凸又は曲面を有するものでもよい。
【0044】
前記基材上には、前記基材表面の平面性の改善、接着力の向上及び金属銅含有膜の変質防止などの目的で、下地層が設けられていてもよい。該下地層の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、N−メチロールアクリルアミド、スチレン・ビニルトルエン共重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の高分子物質、熱硬化性又は光・電子線硬化樹脂、カップリング剤などの表面改質剤等が挙げられる。前記下地層の材料としては、基材と金属銅含有膜の密着性に優れている材料が好ましく、具体的には、熱硬化性又は光・電子線硬化樹脂、及びカップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ゲルマニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤など)などの表面改質剤、コロイダルシリカ等が好ましい。
【0045】
前記下地層は、上記材料を適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調整し、該塗布液をスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコートなどの塗布方法を利用して基材表面に塗布することにより形成することができる。前記下地層の層厚(乾燥時)は、一般に0.001〜20μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
【0046】
必要に応じて、金属銅分散液塗布後の膜を適当な温度で加熱して金属銅含有膜中の有機溶媒(種類によってはその他低沸点配合物を含む)を蒸発除去(以降、「加熱乾燥」と記載する)してもよい。加熱乾燥温度は適宜設定することができるが、金属銅の酸化を抑制するため150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。加熱時間も適宜設定することができる。雰囲気も適宜設定することができ、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下、酸素ガス含有雰囲気下(大気中など)で実施することもできる。不活性ガスにはNガス、Arガス、Heガス等を用いることができる。なお、有機溶媒等の蒸発除去は、加熱乾燥に限定されるわけではなく、自然乾燥法や減圧乾燥法を用いてもよい。減圧乾燥の場合は大気圧よりも低い圧力下で行い、具体的には真空圧下、超真空圧下で行ってもよい。
【0047】
<工程(Pre-b):工程(b)の予備工程>
工程(a)の後、必要に応じて、金属銅含有膜を適当な温度で加熱するのが好ましい。加熱によりゼラチンや高分子分散剤等の金属銅含有膜に含まれる有機化合物を分解及び/又は気化させる(以降、「加熱酸化焼成」と記載する)ことができる。該加熱は、有機化合物の分解及び/又は気化促進のため酸素含有雰囲気下で行うことが好ましく、酸素含有ガス流中がより好ましい。雰囲気中の酸素濃度は10〜10000ppmであると金属銅粒子の酸化の進行がそれほど早くならないため好ましい。加熱酸化焼成温度は基材の種類などに応じて適宜設定できるが、100〜500℃が好ましく、120〜300℃がより好ましい。加熱時間も適宜設定でき、例えば、10分〜48時間程度が適当である。
【0048】
<工程(b)>
銅含有膜を還元性ガス雰囲気下で適当な温度で加熱する(以降「加熱還元焼成」と記載する)。なお、該雰囲気は、還元性ガス流中が望ましい。本工程では、工程(Pre-b)などの前工程で形成された銅酸化物の金属銅への還元反応と金属銅粒子同士の融着を起こさせる。これは、本発明のようなナノサイズの金属微粒子はサイズ効果によりバルクよりも融点が下がるため、比較的低温域でも溶融するためである。これにより短時間の工程で電気抵抗の著しい低減及び金属色調の向上も図ることができる。還元性ガスには例えばHガス、COガス等を用いることができ、安全性及び入手容易性から、Hガスを0.1〜5%程度含むNガスが好ましい。加熱温度は基材の種類などに応じて適宜設定できるが、100〜500℃が好ましく、120〜300℃がより好ましく、工程(Pre-b)の加熱温度〜300℃とすると更に好ましい。加熱時間も適宜設定でき、例えば、10分〜48時間程度が適当である。この加熱工程により、得られた金属銅含有膜の体積抵抗値を10−5Ω・cm以下のオーダーとすることができる。
【0049】
必要に応じて行う有機溶媒を蒸発除去する工程と、加熱酸化焼成工程(Pre-b)と、加熱還元焼成工程(b)は、個別に行っても、連続で行ってもよい。また、加熱乾燥工程後に加熱酸化焼成工程を行う場合に限定されることはなく、加熱乾燥せずに自然乾燥又は減圧乾燥した後に加熱酸化焼成工程を行うことや、加熱酸化焼成工程で加熱乾燥工程を兼ねて有機溶媒を蒸発除去させることもでき、これらの工程を明確に区別する必要はない。
【0050】
<工程(c)>
工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域に、光を照射する。光は、赤外線、可視光線、紫外線、X線(軟X線〜硬X線)、光を増幅して放射するレーザー光や、太陽光でもよい。光を金属銅含有膜に照射しながら、光源又は基材を移動させて基材上にパターンを描く。レーザー発振器で発振したレーザー光をレンズ集光し、照射径を適宜設定して金属銅含有膜にレーザー光を照射しながら、レーザー搭載部又は基材を移動させて基材上にパターンを描くこともできる。光は金属銅含有膜に吸収され、発生する熱でゼラチンや高分子分散剤等の有機化合物が分解及び/又は気化するとともに金属銅粒子の融着が起き、結果、金属銅含有膜の照射部の電気抵抗の低減や金属色調の向上を図ることができる。ナノサイズの微粒子はサイズ効果によりバルクと比較して融点が下がるため、比較的低いエネルギーで、かつ高速で描画することができる。
【0051】
光の波長は、使用するゼラチンや高分子分散剤、錯化剤などの種類や配合量等に応じ、金属銅含有膜による吸収が可能な範囲で任意に選択することができ、紫外域、可視光域、赤外域等の波長の光が使い易く好ましい。光源は白熱発光、放電発光、電界発光等を照射する光源を用いることができ、白熱灯や、赤外線ランプ、可視光ランプ、紫外線ランプ、水銀灯、キセノンランプ等の放電による発光を利用した光源や、LED等の電圧を加えた際に発光する半導体素子(発光ダイオード)等を光源として用いることができる。代表的なレーザーとしては、GaN、GaAsAl、InGaAsP系などの半導体レーザー、ArF、KrF、XeClなどのエキシマレーザー、ローダミンなどの色素レーザー、He−Ne、He−Cd、CO、Arイオンなどの気体レーザー、自由電子レーザー、ルビーレーザー、Nd:YAGレーザーなどの固体レーザーなどが挙げられる。また、これらのレーザーの第二高調波、第三高調波などの高次高調波を利用してもよく、紫外域、可視光域、赤外域のいずれの波長のレーザー光を用いることができる。さらに、連続波の照射でも、パルス波の照射でもよい。光の照射径、走査速度、出力等の印加エネルギーに係る各条件は、金属銅の酸化や金属銅含有膜のアブレーション、ピーニングが起こらない範囲で適宜設定することができる。照射径は描画するパターンや模様にあわせて適宜設定できるが、10μm〜5mmが好適である。走査速度も、その他のバラメータや必要精度、製造能力等に応じて適宜設定できる。
【0052】
光照射を行う雰囲気は、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、酸素ガス含有雰囲気(大気雰囲気)等、適宜設定することができる。本発明の金属銅分散液を用いると、ゼラチンの存在に起因すると推測されるが、酸素ガス含有雰囲気(大気雰囲気)下でも金属銅含有膜中の銅が酸化することなく、低抵抗かつ金属色調に優れた金属銅含有膜を形成することができる。具体的には、酸素ガス含有雰囲気(大気雰囲気)下において、赤外域の波長の連続波レーザー光を、1〜500mm/sの走査速度で、1〜140Wの出力範囲で照射することにより達成できる。このとき、レーザー光を照射した部分の金属銅含有膜のX線回折における金属銅(111)面のメインピーク強度を100としたときにCuO(111)面のメインピーク強度が20以下となるようレーザー照射条件を調整する。レーザー光の出力を10〜100Wとするとより好ましく、20〜50Wの範囲とするとより一層好ましい。一般的に半導体レーザーは赤外域波長の連続レーザー光の照射に適するため好ましい。
【0053】
<工程(d)>
前記の工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域にプラズマ照射を行い、金属銅含有膜を作製する。この工程で、ゼラチンや高分子分散剤等の金属銅含有膜に含まれる有機化合物を分解あるいは気化させるとともに、金属銅粒子同士の融着を起こさせる。プラズマ照射は公知の方法を適宜選択することができる。例えば、金属銅含有膜をプラズマ処理装置に入れ、ガスを導入し、エネルギーを加えると、ガスはイオン化され、プラズマ状態となる。ガスに供給される励起エネルギーは、放電、直流、無線周波数、マイクロ波又は電磁放射線等である。また、一般的には、2つの電極間に電圧を加えて電場を形成してもプラズマを発生することができる。プラズマ処理に好適なガスとしては、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、空気、亜酸化窒素、アンモニア、二酸化炭素、酸素等を挙げることができ、酸素ガス、水素ガス、酸素とヘリウム又はアルゴンの混合ガス、水素とヘリウム又はアルゴンの混合ガスがより好ましい。プラズマ処理は、大気条件で実施でき、あるいはプラズマを低圧又は真空条件に維持することのできる装置内で行ってもよい。圧力は、約10ミリトル〜760トル(約1.333〜101325Pa)の範囲内が好ましい。
【0054】
具体的には次のような例で行うことができる。まず、金属銅含有膜をプラズマ処理装置に入れ、必要に応じて基材を大気中で加熱する。加熱温度は、基材の材質に応じて設定することができるが、耐熱性の低いプラスチックを用いる場合180℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。下限値は20℃程度が実用的である。次に、低圧又は真空条件下にして加熱するのが好ましく、加熱温度は180℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。上記の加熱時間は適宜設定することができる。そして、引き続き加熱しながら、プラズマ処理装置内にガスを導入し、プラズマを発生させ、金属銅含有膜の全領域又は一部領域に照射する。周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給してマイクロ波表面波プラズマを発生させるのが好ましい。一部領域にプラズマを照射する場合、マスクパターンを金属銅含有膜の上に置き、プラズマが照射されないように保護することもできる。プラズマ照射時間は、適宜設定することができ、例えば、約0.01〜30分程度であり、0.01〜10分程度が適当である。プラズマ照射は二段階で行うことができ、一段目は酸素ガスの存在下でプラズマを照射してゼラチン等の有機化合物を分解し、その後、二段目に還元性ガスの存在下で照射して金属銅粒子を焼結させることもできる。
【0055】
<工程(e)>
さらに、必要に応じて、金属銅含有膜のうち不必要な部分、あるいは、前記工程(c)の光を照射していない部分又は工程(d)のプラズマ照射していない部分は適当な溶媒を用いるなどして除去してもよい。溶媒としては、アルコール系、グリコールエーテル系、芳香族系、など種々の溶媒を用いることができる。このような溶媒に基材を浸漬したり、溶媒を浸した布や紙で拭き取るなどして除去することができる。
【0056】
<工程(f)>
次に、工程(a)又は工程(b)又は工程(c)又は工程(d)又は工程(e)の後に、基材上に作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域を、別の基材に転写することもできる。
【0057】
なお、工程(a)の後の工程(b)〜(e)は任意に組み合わせて行うことができる。例えば、工程(a)の後に工程(b)を行い更に工程(c)を行うこともできるし、工程(a)の後に工程(c)、工程(d)又は工程(e)を行い更に工程(b)を行うこともできる。また、工程(b)のうち、工程(Pre-b)のみ又は、工程(b)のみを組み合わせて行うこともできる。例えば工程(a)の後に工程(c)を行い更に工程(b)を行うこともできる。
【0058】
本発明の(a)〜(f)のいずれかの方法で作製した金属銅含有膜は、全体が焼結していると抵抗値が低くなるため好ましく、そのために十分な時間、強さの加熱、光照射、プラズマ照射を行うのが好ましい。しかしながら、金属銅含有膜の表面部だけが焼結し、内部は焼結していなくてもよく、表面部の一部だけが焼結していても差し支えなく、使用に必要な抵抗値等の性能が得られるのであればよい。金属銅含有膜の体積抵抗値は、50μΩ・cm以下が好ましく、20μΩ・cm以下がより好ましく、10μΩ・cm以下が更に好ましい。このような金属銅含有膜は、厚み、大きさ、形状等は制限がなく、薄膜、厚膜であってもよく、基材全面又は一部を覆っていてもよい。あるいは、基材の一部に形成された微細な線状、大きな幅の線状であってもよく、微細な点状であってもよい。例えば、厚みは、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。具体的な用途としては、金属銅の導電性を利用して電極、配線パターンに用いることができ、金属銅の色調や抗菌作用を利用して装飾用途、抗菌用途にも用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0060】
実施例1〜10
工業用酸化第二銅(エヌシーテック社製N−120)24g、保護コロイドとしてゼラチン(アミン価23、酸価29、アミン価−酸価=−6、質量平均分子量190,000)2.8gを150ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%の3−メルカプトプロピオン酸溶液0.24gと、80%のヒドラジン一水和物10gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化銅と反応させ、ゼラチンで被覆した銅粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、ゼラチンで被覆した金属銅粒子を得た。
上記方法にて合成したゼラチンで被覆した平均粒子径50nmの金属銅粒子20gと高分子分散剤1.5gを溶解したトルエン20gを混合・懸濁し、ペイントシェーカーにて1時間分散させ、本発明の金属銅分散液(試料A〜J、金属銅粒子の濃度は50質量%)を得た。用いた高分子分散剤のアミン価、ガラス転移点、ガラス転移点における比熱容量を表1に示す。なお、分散液A、C〜Jで用いた各高分子分散剤は直鎖型アクリル系ポリマー又は直鎖型アクリル系共重合物であり、分散液Bで用いた高分子分散剤は櫛型アクリル系ポリマーであり、その質量平均分子量はいずれも5000〜10000g/モルの範囲であった。
得られた金属銅分散液における金属銅粒子の粒度分布を、動的光散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定したところ、本発明の金属銅分散液は配合した金属銅粒子の粒度分布は表1の通りであった。この動的光散乱法粒度分布測定には、レーザーの信号強度が0.1〜0.2になるように濃度調整した溶剤系スラリーを用いた。
【0061】
実施例11
実施例1において保護コロイドとして用いたゼラチンに代えて、牛由来の高品位コラーゲンペプチド((アミン価−酸価)は0以下、分子量約3000〜5000 商品名:ニッピペプタイド DV 株式会社ニッピ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コラーゲンペプチドで被覆した金属銅粒子(平均粒子径50nm)を得、次いで、実施例1と同様にして本発明の金属銅分散液(試料K、金属銅粒子の濃度は50質量%)を得た。
この試料Kの粒度分布を試料Aと同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
比較例1〜3
実施例1で用いたゼラチンで被覆した金属銅粒子(50nm)20gと、高分子分散剤1.5gを溶解したトルエン20gを混合・懸濁し、ペイントシェーカーにて1時間分散させ、金属銅分散液(試料L〜N、金属銅粒子の濃度は50質量%)を得た。用いた高分子分散剤のアミン価、ガラス転移点、ガラス転移点における比熱容量を表2に示す。なお、各高分子分散剤は直鎖型アクリル系ポリマー又は直鎖型アクリル系共重合物であり、その質量平均分子量は5000〜10000g/モルの範囲であった。
得られた金属銅分散液における金属銅粒子の粒度分布を、実施例と同様に動的光散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定したところ、金属銅粒子の粒度分布は表2の通りであった。
【0064】
【表2】

【0065】
加熱による金属銅含有膜の作製
次いで、上記実施例、比較例で作製した金属銅分散液を用いて金属銅含有膜の作製を試みた。
まず、上記実施例、比較例の金属銅分散液試料をポリイミド基板(東レデュポン株式会社製 カプトン(登録商標)フィルム 300Vタイプ 75μm厚)上に垂らし、バーコーター(#6)により金属銅分散液が均一厚み(約14μm)になるように基材上に広げた後、Nガス雰囲気中、80℃で1時間の加熱により、溶媒を蒸発させ、金属銅含有塗布膜を作製した。
次に、各試料について酸素濃度を10ppmに制御した雰囲気で200℃の予備加熱を行った後、3%水素雰囲気中で200℃の焼成を行い、導電膜を得た。得られた導電膜について体積抵抗値を測定するとともに、金属銅含有膜の状態を目視観察した。体積抵抗値の測定には、ロレスタ−GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いた。実施例の金属銅含有膜はいずれも低い比抵抗値を示し、外観はいずれも金属色調であった。
【0066】
【表3】

【0067】
プラズマ焼結による金属銅含有膜の作製
前記の金属銅分散液(分散体A)をポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製 カプトン(登録商標)フィルム 300Vタイプ 75μm厚)にバーコーター(#3)で塗布し、金属銅含有膜を作製した。その後、(株)ニッシン製 MicroLabo−PSを用いて、プラズマ処理を次のように行い、金属銅焼結膜を得た。
まず、金属銅含有膜をプラズマ装置内の100℃の所定温度に加熱したステージに置き、180秒の所定時間加熱した。その後、装置内を60秒減圧し、3%H−Heガスを装置内に30秒充填し、プラズマ照射を行った。プラズマ処理後、90秒、Nガスをパージすることで冷却し、金属銅焼結膜を得た。得られた金属銅含有膜は低い比抵抗値を示し、外観はいずれも金属色調であった。
【0068】
【表4】

【0069】
光焼結による金属銅含有膜の作製
前記の金属銅分散液(分散体A)をポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製 カプトン(登録商標)フィルム 300Vタイプ 75μm厚)にバーコーター(#3)で塗布し、金属銅含有膜を作製した。その後、XENON社製キセノンランプ照射装置Sinteron 2000を用いて、表5の条件(電圧、出力エネルギー、照射時間)にて光照射し、金属銅焼結膜を得た。得られた金属銅含有膜は低い比抵抗値を示し、外観はいずれも金属色調であった。
【0070】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の金属銅分散液は、有機溶媒中で金属銅粒子の分散安定性が長期間維持できるため、金属銅分散液を調製してから使用するまでの間分散安定性が維持されることから、塗装適性に優れており、インクジェット印刷、スプレー塗装等広範囲の塗装方法に適用できる。また、使用目的に応じて、樹脂成分等を配合して塗料、インキ、ペースト等の組成を任意に設計できる。
本発明の金属銅分散液を用いることで、比較的低温での加熱又は光照射によっても金属銅含有膜を製造することができ、電気的導通を確保する材料、帯電防止、電磁波遮蔽、金属色調、抗菌性等を付与する材料などに幅広く用いられ、特に、近年活発に開発が進められている電極、回路配線パターンの形成といったナノテクノロジーの新規用途にも適用でき、また、金属色調による意匠性、装飾性の付与、抗菌性の付与などのメッキ技術の代替用途にも適用できる。