(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヒートポンプ給湯機等で用いられる銅製の水配管に腐食傾向の高い水が継続的に流れると、水配管に腐食による穴が形成されて水漏れが生じる場合がある。このような腐食の抑制手段として、水配管内を流れる水にインヒビタ(防食剤)を含有させることが考えられる。しかしながら、給湯機の場合、ユーザーに供給される水にインヒビタを含有させることはできず、また、水が一過式でユーザーに供給されて使用されるので、インヒビタを使用すること自体がそもそも困難である。
【0005】
本発明の課題は
、配管を構成する銅管の内面に単純な方法で腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜を形成させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、銅管(11)に
、塩化物イオンの含有量が50mg/L以上300mg/L以下である塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填することにより銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を形成させる酸化皮膜形成工程を備えた配管(10)の製造方法である。このような方法によれば、配管(10)を構成する銅管(11)に
、塩化物イオンの含有量が50mg/L以上300mg/L以下である塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するという簡単な操作により、銅管(11)の内面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【0007】
ここで、入手及び取り扱いが容易であるという観点からは、塩化物イオン含有水溶液(L2)は塩化ナトリウム水溶液を含むことが好ましい。
【0008】
酸化皮膜形成工程では、銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を連続的に流通させてもよい。このようにすれば、銅管(11)の内面に接触する塩化物イオン含有水溶液(L2)が常時入れ替わるので、銅管(11)の内面に均一性及び安定性の高い酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【0009】
酸化皮膜形成工程では、銅管(11)への塩化物イオン含有水溶液(L2)の注入、塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入した銅管(11)の静置、及び銅管(11)からの塩化物イオン含有水溶液(L2)の排出を順に実施してもよい。このようにすれば、酸化銅皮膜(12)の形成時に塩化物イオン含有水溶液(L2)が流動しないので、塩化物イオン含有水溶液(L2)の流動により銅管(11)の内面に作用する剪断力が酸化銅皮膜(12)の形成を阻害することがなく、銅管(11)の内面に確実に酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【0010】
本発明は、酸化皮膜形成工程の前に、銅管(11)に酸性水溶液(L1)を注入して充填することにより銅管(11)の内面の表面付着物(30)を除去する前処理工程を更に備えてもよい。このようにすれば、酸化銅皮膜(12)の形成前の銅管(11)の内面が均質化されるので、酸化皮膜形成工程において銅管(11)の内面に均一性及び安定性の高い酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。この場合、入手及び取り扱いが容易であるという観点からは、酸性水溶液(L1)は希塩酸を含むことが好ましい。
【0011】
酸化皮膜形成工程では、銅管(11)に注入する前の塩化物イオン含有水溶液(L2)に酸素を溶解させてもよい。このようにすれば、溶存酸素濃度の高い塩化物イオン含有水溶液(L2)を銅管(11)に流通させることになるので、銅管(11)の内面に確実に酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【0012】
本発明は、銅管(11)に
、塩化物イオンの含有量が50mg/L以上300mg/L以下である塩化物イオン含有水溶液(L2)を充填するように注入することにより前記銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を形成させる銅管(11)の内面の酸化皮膜形成方法である。このような方法によれば、簡単な操作により、銅管(11)の内面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、配管(10)を構成する銅管(11)に
、塩化物イオンの含有量が50mg/L以上300mg/L以下である塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するという簡単な操作により、銅管(11)の内面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(実施形態1)
実施形態1に係る水配管(10)の製造方法は、水配管(10)を構成する銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を形成させるものであり、単体の銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を形成して水配管(10)を製造する場合の他、例えば水熱交換器に組み込まれた銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を形成して水配管(10)を製造する場合をも含む。
【0017】
ここで、水配管(10)を構成する銅管(11)としては、JIS H3300:2012に記載されたものが挙げられる。銅管(11)は、純度が99.9%以上の銅で形成されていてもよく、また、銅の含有量が50質量%を超える銅合金で形成されていてもよい。水配管(10)用の銅管(11)に用いられる銅合金としては、典型的には、合金番号:C1220、記号:C1220T、質別:O、1/2H、又はHのりん脱酸銅が挙げられる。
【0018】
実施形態1に係る水配管(10)の製造方法は、前処理工程と酸化皮膜形成工程とを備える。
【0019】
<前処理工程>
前処理工程では、
図1Aに示すように、銅管(11)に酸性水溶液(L1)を注入して充填することにより、
図1Bに示すように、銅管(11)の内面の表面付着物(30)を除去する。このように酸性水溶液(L1)により銅管(11)の内面の表面付着物(30)を除去する前処理を行うことにより、酸化銅皮膜(12)の形成前の銅管(11)の内面が均質化されるので、次の酸化皮膜形成工程において銅管(11)の内面に形成される酸化銅皮膜(12)の均一性及び安定性を高めることができる。
【0020】
酸性水溶液(L1)としては、例えば、希塩酸、希硫酸等が挙げられる。入手及び取り扱いが容易であるという観点からは、酸性水溶液(L1)は、これらのうちの希塩酸を含むことが好ましく、希塩酸を主成分として含むことがより好ましく、希塩酸のみで構成されることが更に好ましい。酸性水溶液(L1)は銅管(11)の内面を溶解させるが、その溶解を抑制しつつ効果的に表面付着物(30)を除去する観点からは、酸性水溶液(L1)のpHは1.5以上3.0以下であることが好ましい。水溶液のpHは、JIS Z8802:2011に基づいて測定されるものである(以下、同様)。
【0021】
この前処理は、銅管(11)の一端から他端に酸性水溶液(L1)を連続的に流通させる操作で行ってもよい。その場合、銅管(11)に酸性水溶液(L1)を循環させてもよく、また、銅管(11)に酸性水溶液(L1)をワンパスで流通させてもよい。
【0022】
この前処理は、銅管(11)への酸性水溶液(L1)の注入、酸性水溶液(L1)を注入した銅管(11)の保持、及び銅管(11)からの酸性水溶液(L1)の排出を順に実施してもよい。その場合、注入、保持、及び排出を順に実施する操作を複数回繰り返してもよい。その際、表面付着物(30)の除去効果を高める観点からは、同じ酸性水溶液(L1)を繰り返し用いるよりも、新しい酸性水溶液(L1)を用いることが好ましい。酸性水溶液(L1)を注入した銅管(11)の保持の際には、銅管(11)を静置してもよく、また、銅管(11)に振動等の運動を与えてもよい。
【0023】
酸性水溶液(L1)による銅管(11)の内面の溶解を抑制しつつ効果的に表面付着物(30)を除去する観点からは、前処理時間、つまり、酸性水溶液(L1)の銅管(11)の内面への接触時間は0.5時間以上3.0時間以下が好ましい。同様の観点から、前処理温度、つまり、酸性水溶液(L1)の温度は常温(例えば20℃以上35℃以下)であることが好ましい。
【0024】
除去対象の表面付着物(30)としては、例えば、銅管(11)が空気中の酸素と反応して形成された酸化銅等が挙げられる。
【0025】
この前処理の後には、銅管(11)に水を注入して洗浄することが好ましい。
【0026】
<酸化皮膜形成工程>
図2は、実施形態1における酸化皮膜形成工程で用いる酸化皮膜形成装置(20)を示す。
【0027】
この酸化皮膜形成装置(20)は、上方に開口した処理液貯槽(21)と、各々、処理液貯槽(21)の底部から延びた処理液供給管(221)及び処理液回収管(222)と、処理液供給管(221)に介設された送液ポンプ(23)とを有する。処理液供給管(221)及び処理液回収管(222)の先端部にはそれぞれ第1及び第2開閉弁(241,242)が設けられている。
【0028】
酸化皮膜形成工程では、この酸化皮膜形成装置(20)を用い、まず、処理液供給管(221)及び処理液回収管(222)の第1及び第2開閉弁(241,242)を閉じた状態で、処理液貯槽(21)に処理液として塩化物イオン含有水溶液(L2)を仕込み、処理液供給管(221)及び処理液回収管(222)の端に、前処理工程で内面の表面付着物(30)を除去した銅管(11)の一端及び他端をそれぞれ接続する。そして、第1及び第2開閉弁(241,242)を開いて送液ポンプ(23)を稼働させることにより、
図3Aに示すように、処理液貯槽(21)から処理液供給管(221)を介して銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填すると共に、銅管(11)から塩化物イオン含有水溶液(L2)を排出して処理液回収管(222)を介して処理液貯槽(21)に回収する。つまり、塩化物イオン含有水溶液(L2)を循環させることにより銅管(11)の一端から他端に塩化物イオン含有水溶液(L2)を連続的に流通させる。このとき、
図3Bに示すように、銅管(11)の内面の全面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)が形成される。なお、この酸化銅皮膜(12)は酸化銅(I)(Cu
2O)の皮膜である。
【0029】
この実施形態1に係る水配管(10)の製造方法によれば、水配管(10)を構成する銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するという簡単な操作により、銅管(11)の内面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。このようにして銅管(11)の内面に形成される酸化銅皮膜(12)は、自然形成される酸化銅と比較して均一性及び安定性の高いものとなる。また、銅管(11)の一端から他端に塩化物イオン含有水溶液(L2)を連続的に流通させることにより、銅管(11)の内面が接触する塩化物イオン含有水溶液(L2)が常時入れ替わるので、銅管(11)の内面により均一性及び安定性の高い酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。更に、銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するので、銅管(11)の外面が塩化物イオン含有水溶液(L2)に侵されるのを防止することができる。なお、この酸化銅皮膜(12)の形成メカニズムについては明確ではないが、塩化物イオン含有水溶液(L2)中の塩化物イオンが銅管(11)の内面に存在する銅を銅イオンとして溶出させ、それが銅管(11)の内面上乃至内面近傍において塩化物イオン含有水溶液(L2)中の溶存酸素と反応して酸化銅を形成し、それが銅管(11)の内面に付着して堆積するものであると推測される。
【0030】
ここで、塩化物イオン含有水溶液(L2)としては、例えば、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液等が挙げられる。塩化物イオン含有水溶液(L2)は、これらのうちの1種又は2種以上の混合液が好ましい。入手及び取り扱いが容易であるという観点からは、塩化物イオン含有水溶液(L2)は、これらのうちの塩化ナトリウム水溶液を含むことが好ましく、塩化ナトリウム水溶液を主成分として含むことがより好ましく、塩化ナトリウム水溶液のみで構成されることが更に好ましい。
【0031】
塩化物イオンは銅管(11)の内面を溶解させるが、その溶解を抑制しつつ銅管(11)の内面に確実に酸化銅皮膜(12)を形成させる観点からは、塩化物イオン含有水溶液(L2)における塩化物イオンの含有量は50mg/L以上300mg/L以下であることが好ましい。また、酸やアルカリにより阻害されることなく銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を形成させる観点からは、塩化物イオン含有水溶液(L2)のpHは5.8以上8.6以下であることが好ましい。なお、塩化物イオン含有水溶液(L2)のpH調整は、蒸留水による希釈等によって行うことができる。
【0032】
実施形態1に係る水配管(10)の製造方法では、処理液貯槽(21)が上方に開口して処理液貯槽(21)内の塩化物イオン含有水溶液(L2)が大気開放状態とされており、その気液界面で空気中の酸素を銅管(11)に注入する前の塩化物イオン含有水溶液(L2)に溶解させることができ、そして、その溶存酸素濃度の高い塩化物イオン含有水溶液(L2)を銅管(11)に流通させることになるので、銅管(11)の内面に確実に酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。また、塩化物イオン含有水溶液(L2)を循環させるので、銅管(11)の内部全体に塩化物イオン含有水溶液(L2)が行き渡り、銅管(11)の内面により均一性及び安定性の高い酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。その一方、塩化物イオン含有水溶液(L2)中の溶存酸素が銅の酸化で消費されるので、循環する塩化物イオン含有水溶液(L2)の溶存酸素濃度が経時的に低下することが懸念される。しかしながら、上記の通り、処理液貯槽(21)が上方に開口して処理液貯槽(21)内の塩化物イオン含有水溶液(L2)が大気開放状態とされているため、溶存酸素が消費されて溶存酸素濃度が低下した塩化物イオン含有水溶液(L2)が処理液貯槽(21)に戻っても、処理液貯槽(21)において、その気液界面で空気中の酸素を銅管(11)に注入する前の塩化物イオン含有水溶液(L2)に溶解させることができるので、塩化物イオン含有水溶液(L2)の溶存酸素濃度が高められて酸化銅皮膜(12)の形成能力の低下を抑制することができる。なお、銅管(11)の内面に確実に酸化銅皮膜(12)を形成させる観点からは、銅管(11)に注入する塩化物イオン含有水溶液(L2)中の溶存酸素濃度は5mg/L以上であることが好ましい。塩化物イオン含有水溶液(L2)中の溶存酸素濃度は、JIS K0101:1998に記載されたウインクラー法、ウインクラー・アジ化ナトリウム変法、ミラー変法、又は隔膜電極法に基づいて測定されるものである。
【0033】
塩化物イオン含有水溶液(L2)の酸化銅皮膜(12)の形成能力の低下を抑制する観点からは、処理液貯槽(21)内において、外的作用により塩化物イオン含有水溶液(L2)への酸素の溶解を促進させることが好ましい。例えば、次の第1乃至第3の変形例が挙げられる。
【0034】
図4Aは、第1の変形例の酸化皮膜形成装置(20)を示す。この第1の変形例の酸化皮膜形成装置(20)では、吸気ポンプ(251)が介設された空気供給管(252)が処理液貯槽(21)の底部に接続されている。第1の変形例の酸化皮膜形成装置(20)によれば、送液ポンプ(23)を稼働させて塩化物イオン含有水溶液(L2)を循環させると共に吸気ポンプ(251)を稼働させれば、処理液貯槽(21)において、空気供給管(252)から供給される空気が銅管(11)に注入する前の塩化物イオン含有水溶液(L2)にバブリングされ、それにより空気中の酸素を塩化物イオン含有水溶液(L2)に効率的に溶解させることができる。
【0035】
図4Bは、第2の変形例の酸化皮膜形成装置(20)を示す。この第2の変形例の酸化皮膜形成装置(20)では、開閉弁(261)が介設された酸素供給管(262)が酸素ボンベ(263)から延びて処理液貯槽(21)の底部に接続されている。第2の変形例の酸化皮膜形成装置(20)によれば、送液ポンプ(23)を稼働させて塩化物イオン含有水溶液(L2)を循環させると共に開閉弁(261)を開けば、処理液貯槽(21)において、酸素供給管(262)から供給される酸素が銅管(11)に注入する前の塩化物イオン含有水溶液(L2)にバブリングされ、それにより酸素を塩化物イオン含有水溶液(L2)に効率的に溶解させることができる。
【0036】
図4Cは、第3の変形例の酸化皮膜形成装置(20)を示す。この第3の変形例の酸化皮膜形成装置(20)では、処理液貯槽(21)に攪拌機(27)が付設されている。第3の変形例の酸化皮膜形成装置(20)によれば、送液ポンプ(23)を稼働させて塩化物イオン含有水溶液(L2)を循環させると共に攪拌機(27)を稼働させれば、処理液貯槽(21)において、銅管(11)に注入する前の塩化物イオン含有水溶液(L2)が撹拌翼(27a)により撹拌されて気液界面が拡大し、それにより空気中の酸素を塩化物イオン含有水溶液(L2)に効率的に溶解させることができる。
【0037】
実施形態1に係る水配管(10)の製造方法では、塩化物イオン含有水溶液(L2)を循環させることにより銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を連続的に流通させる。このとき、流動する塩化物イオン含有水溶液(L2)により銅管(11)の内面に作用する剪断力が酸化銅皮膜(12)の形成を阻害するのを抑制する観点からは、塩化物イオン含有水溶液(L2)の流速は0.5m/s以下であることが好ましい。なお、この流速は、塩化物イオン含有水溶液(L2)の単位時間当たりの流量を銅管(11)の流路断面積で除すことにより算出される(以下、同様)。
【0038】
塩化物イオンによる銅管(11)の内面の溶解を抑制しつつ銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を確実に形成させる観点からは、酸化皮膜形成時間、つまり、銅管(11)の内面への塩化物イオン含有水溶液(L2)の接触時間は1.0時間以上5.0時間以下が好ましい。同様の観点から、酸化皮膜形成温度、つまり、塩化物イオン含有水溶液(L2)の温度は常温(例えば20℃以上35℃以下)であることが好ましい。
【0039】
銅管(11)の内面の酸化銅皮膜(12)の形成完了は、塩化物イオン含有水溶液(L2)の溶存酸素濃度を経時的にモニタし、その変化が無くなったとき、或いは、その変化が所定値以下となったときと定義して検知してもよい。このように溶存酸素濃度のモニタにより酸化銅皮膜(12)の形成完了を検知すれば、酸化皮膜の形成確認を行うことができるのに加えて、過剰処理を省略することによる処理作業時間の適性化を図ることができる。
【0040】
この酸化皮膜形成工程後には、製造された水配管(10)に水を注入して洗浄することが好ましい。
【0041】
以上のようにして製造された水配管(10)には、例えば、遊離炭酸イオン濃度、塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度、電気伝導率等が高い水、或いは、pHの低い水といった腐食傾向が高い水が継続的に流れても、内面に形成された酸化銅皮膜(12)が保護皮膜として機能するので、その腐食を抑制することができる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態2に係る水配管(10)の製造方法は、実施形態1と同様、前処理工程と酸化皮膜形成工程とを備える。これらのうち前処理工程は実施形態1と同一であるので、以下では実施形態2の酸化皮膜形成工程について説明する。
【0043】
図5は、実施形態2における酸化皮膜形成工程で用いる酸化皮膜形成装置(20)を示す。なお、実施形態1と同一名称の部分は実施形態1と同一符号で示す。
【0044】
この酸化皮膜形成装置(20)は、上方に開口した処理液貯槽(21)と、処理液貯槽(21)の下方に設けられた上方に開口した回収処理液貯槽(21)と、処理液貯槽(21)の底部から延びた処理液供給管(221)と、回収処理液貯槽(21)の上部に延びた処理液回収管(222)とを有する。処理液供給管(221)には第1開閉弁(241)が介設されている。この酸化皮膜形成装置(20)では、実施形態1で用いたもののような送液ポンプ(23)を有さないので、装置コストを低く抑えることができる。
【0045】
実施形態2の酸化皮膜形成工程では、この酸化皮膜形成装置(20)を用い、まず、処理液供給管(221)の第1開閉弁(241)を閉じた状態で、処理液貯槽(21)に処理液として塩化物イオン含有水溶液(L2)を仕込み、処理液供給管(221)及び処理液回収管(222)の端に、前処理工程で内面の表面付着物(30)を除去した銅管(11)の一端及び他端をそれぞれ接続する。このとき、銅管(11)は処理液貯槽(21)の下方に位置付けられ、且つ銅管(11)の一端が他端の下方に位置付けられる。次いで、第1開閉弁(241)を開き、処理液貯槽(21)及び銅管(11)のヘッド差により、処理液貯槽(21)から処理液供給管(221)を介して銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填し、第1開閉弁(241)を閉じる。続いて、塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入した銅管(11)をその状態で所定時間静置する。このとき、銅管(11)の内面の全面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)が形成される。そして、所定時間の経過後、第1開閉弁(241)を開くことにより、銅管(11)から塩化物イオン含有水溶液(L2)を排出して処理液回収管(222)を介して処理液回収槽(28)に回収する。
【0046】
この実施形態2に係る水配管(10)の製造方法によれば、水配管(10)を構成する銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するという簡単な操作により、銅管(11)の内面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。このようにして銅管(11)の内面に形成される酸化銅皮膜(12)は、自然形成される酸化銅と比較して均一性及び安定性の高いものとなる。また、銅管(11)への塩化物イオン含有水溶液(L2)の注入、塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入した銅管(11)の静置、及び銅管(11)からの塩化物イオン含有水溶液(L2)の排出を順に実施し、酸化銅皮膜(12)の形成時に塩化物イオン含有水溶液(L2)が流動しないので、塩化物イオン含有水溶液(L2)の流動による銅管(11)の内面に作用する剪断力が酸化銅皮膜(12)の形成を阻害することがなく、銅管(11)の内面に確実に酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。更に、銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するので、銅管(11)の外面が塩化物イオン含有水溶液(L2)に侵されるのを防止することができる。
【0047】
ここで、塩化物イオン含有水溶液(L2)中の溶存酸素濃度の低下を補い、銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を確実に形成させる観点からは、この銅管(11)への塩化物イオン含有水溶液(L2)の注入、塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入した銅管(11)の静置、及び銅管(11)からの塩化物イオン含有水溶液(L2)の排出を順に実施する操作を複数回繰り返すことが好ましい。その場合、第1の方法として、処理液貯槽(21)に操作毎に1回処理分の塩化物イオン含有水溶液(L2)を仕込み、銅管(11)から塩化物イオン含有水溶液(L2)を一旦排出した後、処理液貯槽(21)に新たに仕込んだ塩化物イオン含有水溶液(L2)を銅管(11)に注入してもよい。その際、銅管(11)の内面に酸化銅皮膜(12)を確実に形成させる観点からは、同じ塩化物イオン含有水溶液(L2)を繰り返し用いるよりも、新しい塩化物イオン含有水溶液(L2)を用いることが好ましい。また、第2の方法として、処理液貯槽(21)に複数回処理分の塩化物イオン含有水溶液(L2)を仕込み、銅管(11)から塩化物イオン含有水溶液(L2)を排出すると同時に、処理液貯槽(21)に最初に仕込んでいた塩化物イオン含有水溶液(L2)を銅管(11)に注入してもよい。塩化物イオンによる銅管(11)の内面の溶解を抑制しつつ銅管(11)の内面に欠陥のない酸化銅皮膜(12)を確実に形成させる観点からは、この操作の繰り返し回数は3回以上5回以下が好ましい。
【0048】
塩化物イオンによる銅管(11)の内面の溶解を抑制しつつ銅管(11)の内面に欠陥のない酸化銅皮膜(12)を確実に形成させる観点からは、酸化皮膜形成時間、つまり、塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入した銅管(11)の静置時間は1.0時間以上5.0時間以下が好ましい。なお、注入、静置、及び排出を実施する操作を繰り返す場合、この静置時間は総静置時間を意味する。
【0049】
その他の構成及び作用効果は実施形態1と同一である。
【0050】
(実施形態3)
実施形態3に係る水配管(10)の製造方法も、実施形態1と同様、前処理工程と酸化皮膜形成工程とを備える。これらのうち前処理工程は実施形態1と同一であるので、以下では実施形態3の酸化皮膜形成工程について説明する。なお、実施形態3における酸化皮膜形成工程で用いる酸化皮膜形成装置(20)は、実施形態2で用いたものと同一構成であるので、説明は
図5を用いて行う。
【0051】
実施形態3の酸化皮膜形成工程では、
図5に示す酸化皮膜形成装置(20)を用い、まず、処理液供給管(221)の第1開閉弁(241)を閉じた状態で、処理液貯槽(21)に処理液として塩化物イオン含有水溶液(L2)を仕込み、処理液供給管(221)及び処理液回収管(222)の端に、前処理工程で内面の表面付着物(30)を除去した銅管(11)の一端及び他端をそれぞれ接続する。このとき、銅管(11)は処理液貯槽(21)の下方に位置付けられ、且つ銅管(11)の一端が他端の下方に位置付けられる。そして、第1開閉弁(241)を開き、処理液貯槽(21)及び銅管(11)のヘッド差により、処理液貯槽(21)から処理液供給管(221)を介して銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填すると共に、銅管(11)から塩化物イオン含有水溶液(L2)を排出して処理液回収管(222)を介して処理液回収槽(28)に回収する。つまり、銅管(11)の一端から他端に塩化物イオン含有水溶液(L2)を連続的にワンパスで流通させる。このとき、銅管(11)の内面の全面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)が形成される。
【0052】
実施形態3に係る水配管(10)の製造方法では、銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を連続的に流通させるが、流動する塩化物イオン含有水溶液(L2)により銅管(11)の内面に作用する剪断力が酸化銅皮膜(12)の形成を阻害するのを抑制する観点からは、塩化物イオン含有水溶液(L2)の流速は0.5m/s以下であることが好ましい。
【0053】
その他の構成及び作用効果は実施形態1と同一である。
【0054】
(実施形態4)
実施形態4に係る水配管(10)の補修方法は、内面の腐食が進行している水配管(10)やその周辺の腐食の進行が予想される水配管(10)に対し、実施形態1〜3に係る水配管(10)の製造方法における銅管(11)の内面の酸化皮膜形成方法を適用するものである。具体的には、水配管(10)を構成する銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を充填するように注入することによりその内面に酸化銅皮膜(12)を形成させる。
【0055】
この実施形態4に係る水配管(10)の補修方法によれば、水配管(10)を構成する銅管(11)に塩化物イオン含有水溶液(L2)を注入して充填するという簡単な操作により、銅管(11)の内面に腐食抑制のための保護皮膜となる酸化銅皮膜(12)を形成させることができる。
【0056】
実施形態4に係る水配管(10)の補修方法では、水配管(10)の内面が多少腐食している場合が多いことが予想されるので、銅管(11)の内面に均一性及び安定性の高い酸化銅皮膜(12)を形成させる観点から、銅管(11)に酸性水溶液(L1)を注入して充填することにより銅管(11)の内面の表面付着物(30)を除去する前処理を行うことが好ましい。また、給湯機等の設置現場における作業となる場合が多いことが予想されるので、
図2及び5に示す実施形態1〜3で用いたような携帯性が優れる簡易な構成の酸化皮膜形成装置(20)を用いることが好ましい。
【0057】
その他の構成及び作用効果は実施形態1〜3と同一である。
【0058】
(その他の実施形態)
上記実施形態1〜3では、酸化銅皮膜(12)を形成させる前に前処理を行ったが、特にこれに限定されるものではなく、新しい銅管(11)を使用する場合のように、その内面に表面付着物(30)が認められないときには前処理を省略してもよい。