特許第6354835号(P6354835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354835-1,4−ブタンジオールの製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354835
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】1,4−ブタンジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/80 20060101AFI20180702BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20180702BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C07C29/80
   C07C31/20 B
   C08G63/183
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-507074(P2016-507074)
(86)(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公表番号】特表2016-516096(P2016-516096A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】IB2014001279
(87)【国際公開番号】WO2014170759
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2017年4月3日
(31)【優先権主張番号】61/811,223
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2013-86802(P2013-86802)
(32)【優先日】2013年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 健司
(72)【発明者】
【氏名】守田 いずみ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
(72)【発明者】
【氏名】坂見 敏
(72)【発明者】
【氏名】牧野 正孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
(72)【発明者】
【氏名】マーク ジェイ. ブルク
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジャプス
(72)【発明者】
【氏名】ワーレン クラーク
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−528885(JP,A)
【文献】 特開2010−150248(JP,A)
【文献】 米国特許第06361983(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/80
C07C 31/20
C08G 63/183
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 微生物発酵由来の1,4−ブタンジオール含有水溶液に、アンモニア又はアミン以外のアルカリ性物質を添加する工程と、
(b) 工程(a)で得られた混合物を蒸留する工程と、
(c) 蒸気流から1,4−ブタンジオールを含む溶液を回収する工程と
を含む、1,4−ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ性物質の添加量が、1,4−ブタンジオールに対して20mol%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ性物質が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ性物質を添加する前に、微生物発酵由来の前記1,4−ブタンジオール含有水溶液を、ナノ濾過膜に通じて濾過して1,4−ブタンジオール含有水溶液を膜透過側から回収する工程;及び/又は前記1,4−ブタンジオール含有水溶液をイオン交換処理に供する工程、に供する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ性物質を添加する前に、微生物発酵由来の前記1,4−ブタンジオール含有水溶液を、逆浸透膜に通じて濾過して1,4−ブタンジオールの濃度を増加させる、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の製造方法により得られる1,4−ブタンジオールと、ジカルボン酸を反応させることを含む、ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
前記ジカルボン酸がテレフタル酸である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリエステル原料として好適な微生物発酵由来の1,4−ブタンジオールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオールとジカルボン酸を原料として重縮合反応により得られるポリエステルは、その優れた性質から、繊維用、フィルム用、ボトル用をはじめ広く種々の用途に用いられている。ジオール成分の一つである1,4−ブタンジオール(以下、1,4−BDOと称することがある)は、テレフタル酸との重合によりポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと称することがある)を、コハク酸との重合によりポリブチレンサクシネート(以下、PBSと称することがある)を製造する原料として利用されている。PBTは優れた成形性、耐熱性、機械的性質および耐薬品性などを有しているため、電気部品や自動車部品などの成形材料としてだけでなく、ソフト性やストレッチ性を有する繊維用途にも広く利用されている。また、PBSは比較的生分解速度が速い特徴を生かして、使用済み成形品の生分解やコンポスト化など、生分解性材料としても期待される材料である。
【0003】
PBTやPBSの構成成分である1,4−ブタンジオールは、工業的にはアセチレンとホルムアルデヒドを反応させた後、水素化する方法、マレイン酸やコハク酸無水物を水素化する方法、あるいはブタジエンをパラジウム触媒下で酢酸と反応させて1,4−ジアセトキシ化した後、還元、加水分解して製造する方法が公知である。さらに近年では、石油資源の高騰・枯渇を懸念し、バイオマス資源由来のモノマーを製造する方法が注目されている。バイオマス資源由来1,4−ブタンジオールは発酵で直接製造する方法の他、発酵法で得られたコハク酸を水素化還元して間接的に1,4−ブタンジオールを得る方法が開示されている。
【0004】
1,4−ブタンジオールの精製方法としては、蒸留が知られている。しかしながら、ポリエステル製造時のTHFの副生や重合時間の遅延といった課題自体は知られていない。また、米国特許第4154970号公報には、PBT重合時にエステル交換で発生するブタンジオールにアルカリ金属アルコレートなどの塩基を添加して蒸留する方法、米国特許第6387224号公報にはマレイン酸誘導体の水素化で得られる1,4−ブタンジオール混合物にアルカリ性物質を添加して蒸留することで、特定の不純物の含有量の少ない1,4−ブタンジオールを精製する方法が開示されている。しかしながら、これらの文献に記載の1,4−ブタンジオールは微生物発酵由来ではなく、ポリエステル製造時のTHF副生や重合時間の遅延といった課題についての記載もない。また、特開2013−32350号公報には、不純物として2−(ヒドロキシブトキシ)−テトラヒドロフランを含有する粗1,4−ブタンジオールをアミンの存在下で加熱して該不純物量を低下した精製1,4−ブタンジオールを得る方法が開示されているが、1)アミン以外のアルカリ性物質の添加に関する記載はなく、2)微生物発酵由来の1,4−ブタンジオールを原料とした場合のポリエステル製造時の重合時間の遅延や短縮についての記載もない。さらに、特開2010−150248号公報には、ジオール含有溶液(実際の発酵液ではない。)をナノ濾過膜で処理し、無機塩、糖、タンパク質などの不純物を除去することで、蒸留収率を向上させる手法について記載があるが、ポリエステル製造時のTHF副生や重合時間の遅延に関する記載はない。また、WO2010/141780号には1,4−ブタンジオール精製の他の方法について開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
我々は、微生物発酵由来1,4−ブタンジオールを原料としてポリエステルを製造する際に1,4−ブタンジオールのエステル化反応時にTHFが副生してしまうことや、石油由来1,4−ブタンジオールを原料とした場合と比較して重合時間が著しく遅延するという課題を見いだした。
【0006】
微生物発酵由来でありながら、1,4−ブタンジオールのエステル化反応時のTHF副生や、ポリエステル製造時の重合時間の遅延を抑制可能な、ポリエステル原料として好適な品質の1,4−ブタンジオールを製造する方法を提供することが役に立つであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、微生物発酵由来1,4−ブタンジオール蒸留時にアルカリ性物質を添加することで、得られた1,4−ブタンジオールのエステル化反応時のTHF副生およびポリエステル製造時の重合時間の遅延を抑制可能であり、ポリエステル原料として好適な1,4−ブタンジオールが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、我々は、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1) (a) 微生物発酵由来の1,4−ブタンジオール含有水溶液に、アンモニア又はアミン以外のアルカリ性物質を添加する工程と、
(b) 工程(a)で得られた混合物を蒸留する工程と、
(c) 蒸気流から1,4−ブタンジオールを含む溶液を回収する工程と
を含む、1,4−ブタンジオールの製造方法。
(2) 前記アルカリ性物質の添加量が、1,4−ブタンジオールに対して20mol%以下である、(1)に記載の方法。
(3) 前記アルカリ性物質が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1種である、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、(1)から(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 前記アルカリ性物質を添加する前に、微生物発酵由来の前記1,4−ブタンジオール含有水溶液を、ナノ濾過膜に通じて濾過して1,4−ブタンジオール含有水溶液を膜透過側から回収する工程;及び/又は前記1,4−ブタンジオール含有水溶液をイオン交換処理に供する工程、に供する、(1)から(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 前記アルカリ性物質を添加する前に、微生物発酵由来の前記1,4−ブタンジオール含有水溶液を、逆浸透膜に通じて濾過して1,4−ブタンジオールの濃度を増加させる、(1)から(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の製造方法により得られる1,4−ブタンジオールと、ジカルボン酸を反応させることを含む、ポリエステルの製造方法。
(8) 前記ジカルボン酸がテレフタル酸である、(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
高純度・無着色かつポリエステル原料として好適な1,4−ブタンジオールが製造可能であり、該1,4−ブタンジオールを用いることで、ポリエステル製造時のTHF副生およびポリエステル製造時の重合時間の遅延を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で用いた膜分離装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1,4−ブタンジオール含有水溶液は、微生物発酵由来であることを特徴とする。微生物発酵由来であれば、バイオマス資源を資化可能な微生物の培養により直接得られたものであってもよく、バイオマス資源を資化可能な微生物の培養によって得られたコハク酸などの微生物発酵由来の中間産物を化学反応により1,4−ブタンジオールに変換したものであってもよい。なお、微生物発酵由来の1,4−ブタンジオール含有水溶液であれば、発酵培養液そのものであっても、発酵培養液から1又は複数の精製工程を経たものであっても、1又は複数の化学変換反応を経たものであってもよい。
【0012】
バイオマス資源を資化可能な微生物の発酵により直接1,4−ブタンジオールを得る例としては、WO2008/115840号やWO2010/030711号、WO2010/141920号に1,4−ブタンジオールの製造方法が開示されており、これらに記載された主題は参照により本明細書に組み入れられたものとする。
【0013】
バイオマス資源由来の微生物発酵由来の中間産物を化学反応により1,4−ブタンジオールに変換する例としては、公知の微生物培養により得られたコハク酸、コハク酸無水物、コハク酸エステル、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン等から化学合成により1,4−ブタンジオールに変換する方法が挙げられるが、コハク酸を還元触媒により水添して1,4−ブタンジオールを得る方法が効率的で好ましい(例えば、特許第4380654号公報。)。
【0014】
発酵原料の炭素源としては例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースおよびスターチなどの糖類が挙げられる。さらに上記糖類は市販精製品であってもよいが、再生資源や草木由来のバイオマスなどの分解物であってもよく、セルロースやヘミセルロース、リグニン原料を化学的または生物学的処理によって分解したものも用いることができる。その場合、微生物の発酵生産を阻害する不純物は精製により低減されていることが好ましい。
【0015】
発酵原料の窒素源としては安価な無機窒素源であるアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩などの他、有機窒素源である油粕類や大豆加水分解物、カゼイン分解物、肉エキス、酵母エキス、ペプトン、アミノ酸類、ビタミン類などを用いるのがよい。
【0016】
その他、発酵原料として用いられる無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素(例えば、アミノ酸など)を必要とする場合には、その栄養物をそれ自体もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も所望に応じて使用してもよい。
【0017】
1,4−ブタンジオールを直接発酵により製造する際の培養条件としては、微生物によって条件を選択することができ、例えばWO2010/141920号および2007年8月10日に出願された米国出願公開第2009/0047719号公報に記載されており、これらに記載された主題は、参照することにより本明細書に組み入れられたものとする。発酵は、該米国出願公開公報に開示されているように、バッチ式、流加又は連続法で実施することができる。
【0018】
望まれる場合は、培地を望ましいpHに維持する必要に応じて、水酸化ナトリウム又は他の塩基などの塩基或いは酸を添加することによって培地のpHを所望のpH、特に7付近のpHなどの中性のpHに維持することができる。分光光度計(600nm)を使用して光学密度を測定することによって成長速度を測定し、経時的な炭素源消耗を監視することによってグルコース取込み速度を測定することができる。
【0019】
微生物発酵由来1,4−ブタンジオール含有水溶液にアルカリ性物質(ただし、アミンおよびアンモニアを除く。)を添加して蒸留することができる。本工程により高純度・無着色かつポリエステル用途に適した1,4−ブタンジオールを得ることができる。
【0020】
アルカリ性物質としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属塩が好ましく使用できる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩のほか、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩がよい。中でも好ましいものは、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩であり、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムが安価で処理効率が良く、好ましい。これらアルカリ性物質は固体のまま添加してもよいし、添加量の調節が容易な水溶液で添加してもよい。また、これらアルカリ性物質は1種類で用いても複数組み合わせて用いてもよい。
【0021】
アルカリ性物質の添加量に特に制限はないが、アルカリ性物質の添加量が多すぎると蒸留時に蒸留収率を低下させる要因となるため、好ましくは1,4−ブタンジオール量(モル数)に対し、20モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。添加量は回分蒸留の場合には1,4−ブタンジオールの濃度からモル数を算出して決定すればよい。なお、アルカリ性物質の添加量の下限量は所望の効果が奏する範囲においては特に制限はないが、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上である。
【0022】
連続蒸留においては、単位時間当たりの1,4−ブタンジオールモル流量[モル/h]からアルカリ性添加流量[モル/h]を算出して添加すればよい。連続的なアルカリ性物質の添加は1,4−ブタンジオール流路に対して行っても良いが、添加・混合槽を設ける方が均一に添加できるため好ましい。なお、米国特許6,361,983号公報やWO2004/099110号公報には、1,3−ブタンジオール溶液のpHがpH7以上になるようにアルカリ性物質を添加することで着色が抑制される技術が開示されているが、我々の方法においては、ポリエステル製造時のTHF副生量や重合時間に1,4−ブタンジオール蒸留時のpHが寄与しているのではないことが見出されており、pH7以下であっても所望の効果が得られる。
【0023】
アルカリ性物質の添加に際し、1,4−ブタンジオール溶液を十分攪拌することが好ましい。アルカリ性物質の作用は未だ解明されてはいないが、1,4−ブタンジオール溶液は粘性が高いため、反応が十分進行するように攪拌する方が良い。その際、粘性を下げる効果や反応を促進する効果があるため、熱をかけてもよいが、高温では不純物の発生が起こる場合もあるため、150℃以下が好ましい。
【0024】
なお、アルカリ性物質添加した1,4−ブタンジオール水溶液の蒸留法は特に限定されないが、一般的に適応される単蒸留や精密蒸留、常圧蒸留や減圧蒸留のいずれでもよく、薄膜蒸留装置や棚段式蒸留装置、充填式蒸留装置などから選択することができる。また、回分式であっても連続式であっても採用できる。中でも好ましくは、減圧蒸留であり、沸点を下げることができるため、不純物の発生を抑制することができる。具体的には、加熱温度が60℃以上150℃以下で行うのが好ましい。60℃未満の場合は減圧度を著しく下げる必要があるため、工業レベルでは蒸留装置の維持が困難となる。また、150℃より高くなる場合には、1,4−ブタンジオール水溶液中に残存する微生物発酵由来の不純物が分解し、着色性物質の副生が起こるため好ましくない。そのため、上記加熱温度範囲で1,4−ブタンジオールが留出するよう、減圧度を調節するのがよい。
【0025】
また、蒸留設備の負荷を下げるために、アルカリ性物質を添加する前に粗蒸留を行ってもよい。粗蒸留は、上記本蒸留前に行うものであり、その手法は問わないが、一般的には単蒸留が低コストで好ましい。これを行うことにより本蒸留設備の負荷削減および1,4−ブタンジオールの高純度化につながる。そのため、粗蒸留を行った後に、アルカリ性物質を添加して上記本蒸留を行ってもよい。
【0026】
微生物発酵由来1,4−ブタンジオール含有水溶液にアルカリ性物質を添加して蒸留する工程に先立って、微生物発酵由来1,4−ブタンジオール含有水溶液をナノ濾過膜処理工程、逆浸透膜濃縮工程、およびイオン交換処理工程に供することで、さらに高純度の1,4−ブタンジオールを低コストに得ることができる。すなわち、微生物発酵由来1,4−ブタンジオール含有水溶液をナノ濾過膜処理工程およびイオン交換処理工程によって1,4−ブタンジオールと不純物を分離することで後段の蒸留工程での蒸留残渣の発生を抑制し、蒸留収率を向上するとともに精製物の品質を高めることができ、逆浸透膜濃縮によって低エネルギーで微生物発酵由来1,4−ブタンジオール含有水溶液を濃縮することができる。
【0027】
特開2010−150248号公報では1,4−ブタンジオール含有水溶液(実際の発酵液ではない)をナノ濾過膜に通じて濾過することによって、透過液側に1,4−ブタンジオール、非透過液側に無機塩、糖類および着色成分を低エネルギーかつ効率的に分離している。高度に純粋な1,4−ブタンジオールは、好ましくは、ナノ濾過処理及びその後のアルカリ性物質を添加した蒸溜により得られる。
【0028】
公知のナノ濾過膜の素材としては、ピペラジンポリアミドやポリアミド、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエステルなどのポリマー系素材のほか、セラミックスなどの無機材料が用いられている。また、ナノ濾過膜は一般にスパイラル型の膜エレメントの他、平膜や中空糸膜として使用されるが、ナノ濾過膜は、スパイラル型の膜エレメントが好ましく使用される。
【0029】
ナノ濾過膜エレメントの好ましい具体例としては、例えば、酢酸セルロース系のナノ濾過膜であるGE Osmonics社製ナノ濾過膜の“GEsepa”、ポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜のNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜のNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、あるいは東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が挙げられ、中でも好ましくはポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜のNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜のNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜モジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610である。
【0030】
ナノ濾過膜による濾過は、圧力をかけてもよく、その濾過圧は、0.1MPa以上8MPa以下で好ましく用いられる。濾過圧が0.1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるおそれがある。また、濾過圧が0.5MPa以上7MPa以下で用いれば、膜透過流束が高いことから、1,4−ブタンジオール含有水溶液を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、1MPa以上6MPa以下で用いることが特に好ましい。
【0031】
上記のナノ濾過膜に通じて濾過する1,4−ブタンジオールの濃度は特に限定されないが、高濃度であれば、透過液中に含まれる1,4−ブタンジオール濃度も高いため、濃縮する際のエネルギー削減ができ、コスト削減にも好適である。ナノ濾過膜に通じて濾過する1,4−ブタンジオールの濃度の具体例としては0.5〜30重量%であり、好ましくは2〜20重量%である。
【0032】
イオン交換処理とは、イオン交換体を用いて1,4−ブタンジオール溶液中のイオン成分を除去する方法である。イオン交換体としては、イオン交換樹脂イオン交換膜、イオン交換繊維、イオン交換紙、ゲルイオン交換体、液状イオン交換体、ゼオライト、炭質イオン交換体、モンモリロン石が用いられる。なお、イオン交換樹脂を用いた処理も好ましく採用される。
【0033】
イオン交換樹脂にはその官能基の違いにより、強アニオン交換樹脂、弱アニオン交換樹脂、強カチオン交換樹脂、弱カチオン交換樹脂、キレート交換樹脂などがある。例えば、強アニオン交換樹脂は、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”IRA410J、IRA411、IRA910CTや三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”SA10A、SA12A、SA11A、NSA100、SA20A、SA21A、UBK510L、UBK530、UBK550、UBK535、UBK555などから選定される。また、弱アニオン交換樹脂は、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583や三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”WA10、WA20、WA21J、WA30などがある。一方、強カチオン交換樹脂は、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”IR120B、IR124、200CT、252の他、三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”SK104、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212、PK216、PK218,PK220、PK228などがあり、弱カチオン交換樹脂としては、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”FPC3500、IRC76や三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”WK10、WK11、WK100、WK40Lなどから選定することができる。
【0034】
1又は複数のアニオン交換樹脂、および1又は複数のカチオン交換樹脂の両方を用いて脱塩する方法が好ましく、中でも、多様イオンを除去することができる1又は複数の強アニオン樹脂、および1又は複数の強カチオン樹脂を用いる方法がより好ましい。また、アニオン交換樹脂は水酸化ナトリウムなどの希アルカリ性水溶液により再生し、OH型として用いる。カチオン交換樹脂の場合は、塩酸などの希酸性水溶液により再生し、H型として用いるのがよい。1又は複数のイオン交換樹脂による脱塩方法はバッチ法でもカラム法でもよく、効率的に脱塩できる方法であれば特に制限はないが、繰り返し利用が容易なカラム法が好ましく採用される。イオン交換樹脂への通液速度は通常、SV(空間速度)で制御され、SV=2〜50が好ましく、より高度に精製できるSV=2〜10で通液することがより好ましい。イオン交換樹脂はゲル型でもポーラス型、ハイポーラス型、MR型などの種類が市販されており、これらイオン交換樹脂の形状はいずれでもよく、溶液の品質に合わせて好ましい形状を選択すればよい。
【0035】
ナノ濾過膜処理とイオン交換処理の順序に特に制限はないが、1,4−ブタンジオール含有水溶液をナノ濾過膜処理して透過液側から得られる無機塩が低減した1,4−ブタンジオール溶液をイオン交換処理することが好ましい。これにより、ナノ濾過膜を一部通過する無機塩や有機酸をイオン交換工程で除去することで、無機塩などのイオン性不純物成分の除去率を上げることができる。
【0036】
また、アルカリ性物質を添加して蒸留する際、その効果が高くなるようあらかじめ1,4−ブタンジオール含有水溶液を濃縮しておくことが好ましい。濃縮後の1,4−ブタンジオールの濃度は限定されないが、蒸留の負荷が小さくなるよう50重量%以上が好ましい。また、アルカリ性物質の溶解性が良くなるように少量の水を含んでいた方がよいため、99重量%未満が好ましい。
【0037】
1,4−ブタンジオール含有水溶液の濃縮方法としては公知の一般的な方法でよく、逆浸透膜を用いる方法や、エバポレーターによる加熱濃縮、蒸発法などが挙げられるが、逆浸透膜を用いる方法が好ましく適用される。
【0038】
逆浸透膜を用いる方法は、1,4−ブタンジオール含有水溶液を逆浸透膜に通じて濾過することで透過液側に水を透過させ、1,4−ブタンジオールを膜の非透過液側に保持することで濃縮する方法である。好ましく使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
【0039】
逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製ポリアミド系逆浸透膜モジュールであるSU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720P、並びに逆浸透膜としてのUTC70を含む高圧型モジュールであるSU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA;同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、GE製“GESepa”、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040などが挙げられる。
【0040】
逆浸透膜による濃縮は、圧力をかけて行うが、その濾過圧は、1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、1MPa以上8MPa以下であることが好ましい。また、濾過圧が1MPa以上7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、1,4−ブタンジオール含有水溶液を効率的に濃縮することができる。膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことから最も好ましくは、2MPa以上6MPa以下の範囲である。低濃度の1,4−ブタンジオール含有水溶液においては、逆浸透膜を用いる方法が低コストであるため好ましい。
【0041】
本発明で得られる1,4−ブタンジオールとともにポリエステルの原料となるジカルボン酸は、石油化学法(有機合成法)により合成されたものであっても、発酵法によって微生物より生産されたものであっても、石油化学法と発酵法の組み合わせにより生産されたものであってもよい。
【0042】
ジカルボン酸の具体例としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂環族ジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸とは、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としてはシュウ酸やコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸、脂環族ジカルボン酸としては例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などを挙げることができる。さらに、上記ジカルボン酸はバイオマスからの発酵法によって得られるジカルボン酸でもよい。例えば、好気性コリネ型細菌であるブレビバクテリウム・フラバム(Brebibacterium fulavum)の遺伝子組み換え菌を増殖後、嫌気的に炭酸ガス含有液中で有機原料に作用させて得られるコハク酸(特開平11−196888号公報)が挙げられる。また、バイオマスや微生物発酵生産物を前駆体として、化学反応や酵素反応と組み合わせて得られるジカルボン酸であってもよい。例えば、オキサミドの酵素反応によって得られるシュウ酸(特開平5−38291号公報)や、組み換え大腸菌によるムコン酸の水添反応によって得られるアジピン酸(Journal of American Chemical Society No.116 (1994) 399−400)、ひまし油から得られるセバシン酸などが挙げられる。これら上記ジカルボン酸はいずれも好ましく適用できるが、好ましくは芳香族ジカルボン酸であり、より好ましくはテレフタル酸である。
【0043】
得られる1,4−ブタンジオールとジカルボン酸を原料とするポリエステルの製造方法は、公知の方法をそのまま用いることができ、例えば、1,4−ブタンジオールとジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体からなるジカルボン酸成分とのエステル化反応またはエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応を行うことにより製造することができる。溶媒を用いる溶液反応や加熱溶融させる溶融反応などのいずれでもよいが、効率的に品質のよいポリエステルを得ることができる点で、溶融反応が好ましい。反応に用いる触媒や溶媒は1,4−ブタンジオールおよびジカルボン酸成分に合わせて制御されてよい。具体的には、ポリエステルの製造方法としてエステル交換法や直接重合法が知られており、例えば、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルと我々の方法における1,4−ブタンジオールとを用いるエステル交換法であっても、芳香族ジカルボン酸と我々の方法における1,4−ブタンジオールとのエステル体を合成した後に重縮合反応を行う方法であっても、脂肪族ジカルボン酸と我々の方法における1,4−ブタンジオールとの直接重合反応であってもよい。また、エステル化反応またはエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応は、回分法または連続法のいずれも適用することができる。また、各々の反応において、反応槽は特に限定されるものではなく、例えば、撹拌槽型反応槽、ミキサー型反応槽、塔型反応槽および押出機型反応槽などを用いることができ、これらの反応槽は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0044】
我々は、不純物が十分に除去されていない微生物発酵由来の1,4−ブタンジオールとジカルボン酸をエステル化反応する際、副生成物としてテトラヒドロフラン(THF)の発生量が多いことを見出した。THFは1,4−ブタンジオールの分子内脱水反応により生成するが、微生物発酵由来の不純物がこの副反応を促進していると予想される。THFの副生量の増大は、原料である1,4−ブタンジオールとジカルボン酸のモルバランスが崩れることを意味し、1,4−ブタンジオール投入量の増大や反応時間の延長などが必要となるため、コスト増加の要因となる。得られる1,4−ブタンジオールを使用することで、エステル化反応時のTHF副生を顕著に抑制することが可能となる。また、我々は、微生物発酵由来の1,4−ブタンジオールを用いてエステル化反応後に重縮合反応を実施した場合、重合時間が遅延することを見出した。重合時間の遅延は加熱温度、加熱時間などの運転条件の変更、触媒添加量の増加など、生産性、経済性に影響を与える要因となる。得られる1,4−ブタンジオールを使用することで、重合時間の遅延を抑制することが可能であるため、ポリエステル原料として好適に利用できる。
【0045】
また、エステル化反応またはエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応においては、触媒を用いて反応を促進させても良い。触媒となる具体的な化合物としては、チタン化合物、スズ化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、リチウム化合物、マグネシウム化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、亜鉛化合物などが、反応活性高く、得られるポリエステルの反応率や収率を上げることができるため好ましい。また、エステル交換触媒としてはアルカリ金属アセテート、重合触媒としては、酸化ゲルマニウムやビスマスなどの混入の少ない酸化アンチモンのほか、コバルトなどの遷移金属化合物やアルコキシチタネートなどが挙げられる。なかでも、反応時間を短縮でき効率的に製造できる点で、チタン化合物、スズ化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物が好ましく、結晶化特性を制御しやすく、また、熱安定性、耐加水分解性や熱伝導性などの品質に優れるポリエステルを得ることができる点で、チタン化合物および/またはスズ化合物がより好ましく、環境への負荷が少ない点で、チタン化合物がさらに好ましい。チタン化合物としては、チタン酸エステルとして、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステルおよびトリルエステルまたはこれらの混合エステルなどが挙げられ、なかでも、ポリエステル樹脂を効率的に製造できる点で、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネートおよびテトライソプロピルチタネートが好ましく、特にテトラ−n−ブチルチタネートなどが好ましく用いられる。スズ化合物としては、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズオキサイド、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸およびブチルスタンノン酸などが挙げられ、なかでも、ポリエステルを効率的に製造できる点で、特にモノアルキルスズ化合物が好ましく用いられる。これらの触媒となる化合物は、エステル化反応またはエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応において、単独で用いても併用して用いてもよい。また、添加時期は、原料添加直後に添加する方法や、原料と同伴させて添加する方法、反応の途中から添加する方法のいずれも用いることができる。触媒となる化合物の添加量は、チタン化合物の場合、生成するポリエステル100重量部に対して、0.01〜0.3重量部の範囲が好ましく、ポリマーの熱安定性や色相および反応性の点で、0.02〜0.2重量部の範囲がより好ましく、0.03〜0.15重量部の範囲がさらに好ましい。
【0046】
ポリエステルを製造するに際して、耐熱性、色相、耐候性または耐久性などの改良を目的に、所望の効果を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、染料および顔料を含む着色剤などの1種または2種以上を配合することができる。
【0047】
得られるポリエステルは、前記1,4−ブタンジオールとジカルボン酸を原料として得られ、具体例として、コハク酸とのポリエステル、アジピン酸とのポリエステル、コハク酸とアジピン酸とのポリエステル(ポリブチレンサクシネートアジペート)、シュウ酸とのポリエステル、セバシン酸とのポリエステル、テレフタル酸とのポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)、コハク酸とテレフタル酸とのポリエステル(ポリブチレンサクシネートテレフタレート)、ナフタレンジカルボン酸とのポリエステル(ポリブチレンナフタレート)が例示される。
【0048】
また、第3成分又はそれ以上の共重合成分を加えた共重合ポリエステルの製造方法も、ポリエステルの製造方法に含まれる。共重合成分の具体的な例としては、2官能のオキシカルボン酸や、架橋構造を形成するために3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸及び/又はその無水物並びに3官能以上のオキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の多官能化合物が挙げられる。これらの共重合成分の中では、鎖延長剤を使用することなく、極少量で容易に高重合度のポリエステルを製造できるので特に3官能以上のオキシカルボン酸が好適に使用される。共重合ポリエステルの具体例としては、乳酸を第3成分とするポリエステル(例えば、ポリブチレンサクシネートラクテート)、ビスフェノールAを第3成分とするポリエステル(例えば、ポリブチレンサクシネートカーボネート)が挙げられる。
【0049】
得られるポリエステルに適宜汎用の1又は複数の熱可塑性樹脂を配合することによって、樹脂組成物として各種用途に使用してもよい。汎用の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等の含ハロゲン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−イソプレン共重合ゴム等のエラストマー、ナイロン6,6、ナイロン6等のポリアミド系樹脂の他、ポリ酢酸ビニル、メタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン等が挙げられる。また各種相溶化剤を併用して、諸特性を調整することもできる。
【0050】
また、得られるポリエステルに従来公知の各種添加剤を配合することによって、組成物として各種用途に使用してもよい。添加剤としては、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、耐光剤、可塑剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料、滑剤、分散助剤や各種界面活性剤などの樹脂用添加剤が挙げられる。
【0051】
また、得られるポリエステルに従来公知の各種フィラーを配合することによって、組成物として各種用途に使用してもよい。
【0052】
無機系フィラーとしては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス繊維、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。
【0053】
有機系フィラーとしては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、木材粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフや藁等の粉末などが挙げられる。
【0054】
前記組成物の調製は、従来公知の混合/混練技術を全て適用できる。混合機としては、水平円筒型、V字型、二重円錐型混合機やリボンブレンダー、スーパーミキサーのようなブレンダー、また各種連続式混合機等を使用できる。また混錬機としては、ロールやインターナルミキサーのようなバッチ式混錬機、一段型、二段型連続式混錬機、二軸スクリュー押し出し機、単軸スクリュー押し出し機等を使用できる。混練の方法としては、加熱溶融させたところに各種添加剤、フィラー、熱可塑性樹脂を添加して配合する方法などが挙げられる。また、前記の各種添加剤を均一に分散させる目的でブレンド用オイル等を使用することもできる。
【0055】
得られるポリエステルを汎用プラスチックに適用される公知の成形法に供することにより成形品を得ることができる。例えば、圧縮成形(圧縮成形、積層成形、スタンパブル成形)、射出成形、押し出し成形や共押し出し成形(インフレ法やTダイ法によるフィルム成形、ラミネート成形、シート成形、パイプ成形、電線/ケーブル成形、異形材の成形)、中空成形(各種ブロー成形)、カレンダー成形、発泡成形(溶融発泡成形、固相発泡成形)、固体成形(一軸延伸成形、二軸延伸成形、ロール圧延成形、延伸配向不織布成形、熱成形[真空成形、圧空成形]、塑性加工)、粉末成形(回転成形)、各種不織布成形(乾式法、接着法、絡合法、スパンボンド法、等)等が挙げられる。
【0056】
前記成形法により、単層フィルム、多層フィルム、延伸フィルム、収縮フィルム、ラミネートフィルム、単層シート、多層シート、延伸シート、パイプ、電線/ケーブル、モノフィラメント、マルチフィラメント、各種不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、延伸テープやバンド、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体などの各種成形品が得られる。また得られる成形品は、ショッピングバッグ、ゴミ袋、農業用フィルム等の各種フィルム、化粧品容器、洗剤容器、食品容器、漂白剤容器等の各種容器類、衣料、釣り糸、漁網、ロープ、結束材、手術糸、衛生用カバーストック材、保冷箱、緩衝材、医療材料、電気機器材料、家電筐体、自動車材料、土木・建築資材、文具などの用途への使用が期待される。
【実施例】
【0057】
以下、我々の方法を実施例により説明する。なお、実施例は、例示のためのみに記載する者であり、いかなる意味においても限定的に解釈されるべきではない。
【0058】
本実施例における1,4−ブタンジオール(以下、1,4−BDOとも表記する。)の特性値およびエステル化反応時のTHF副生量は、以下の測定法によって求めた。
A.1,4−ブタンジオールの純度
【0059】
蒸留後の1,4−ブタンジオールをガスクロマトグラフィー(GC、株式会社島津製作所製)を用いて分析し、全検出ピーク面積中の1,4−ブタンジオールピーク面積の比率から、式1によって算出した。
GC純度(%)=100×(1,4−BDOピーク面積)/(全検出ピーク面積)(1)。
ガスクロマトグラフィーの分析条件を以下に示す。
カラム:RT−BDEXM(0.25mm×30m、Restek社製)
カラム温度:75℃
気化室、検出器温度:230℃
キャリアガス:He
線速度:35cm/sec
検出:水素炎イオン化検出器(FID)。
B.着色度(APHA)
【0060】
蒸留後の1,4−ブタンジオールを比色計(日本電色工業株式会社製)を用いてAPHA単位色数として分析した。
C.総イオン濃度
【0061】
イオン濃度はイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)を用いて測定し、Na、NH4、K、Cl、PO4、SO4イオン濃度の総和を総イオン濃度とした。
陰イオン濃度測定
カラム:AS4A−SC(DIONEX製)
カラム温度:35℃
溶離液:1.8mM 炭酸ナトリウム/1.7mM 炭酸水素ナトリウム
検出:電気伝導度。
陽イオン濃度測定
カラム:CS12A(DIONEX製)
カラム温度:35℃
溶離液:20mM メタンスルホン酸
検出:電気伝導度。
D.エステル化反応時のTHF副生量
【0062】
THF副生量(g/kgPBT)は、エステル化反応時の留出液量と留出液密度の測定結果をもとに、以下の式2〜4により算出した。
THF副生量(g/kgPBT)=1000×{エステル化反応時のTHF発生量(g)}/{ポリマー量(g)} (2)
エステル化反応時のTHF副生量(g)={留出液量(g)/留出液密度(g/ml)}×0.889×{1−留出液密度(g/ml)}/(1−0.889) (3)
ポリマー量(g)=(ジカルボン酸投入mol数)×{(ジカルボン酸分子量)+(1,4−ブタンジオール分子量)−(水の分子量×2)}/{1−触媒量(対ポリマーwt%)/100} (4)。
実施例1〜4および比較例1 モデル発酵液のアルカリ添加蒸留および得られた1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応評価

1,4−ブタンジオールモデル発酵液の調製
【0063】
超純水に1,4−ブタンジオール、γ−ブチロラクトン、酢酸、グルコース、フルクトース、スクロース、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素カリウム、塩酸を添加し、表1に示す組成の1,4−ブタンジオール水溶液を調製し、モデル発酵液とした。
【0064】
【表1】
モデル発酵液のアルカリ添加蒸留
【0065】
上述のモデル発酵液を、薄膜濃縮装置 MF−10(東京理化器械株式会社製)を用いて、減圧度30hPa、加熱温度60℃で水を蒸発させ、50重量%の1,4−ブタンジオール水溶液を得た。濃縮した1,4−ブタンジオール溶液500gに水酸化ナトリウム1.33g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して1.2mol%、実施例1)、2.33g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して2.1mol%、実施例2)、2.45g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して2.2mol%、実施例3)、4.23g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して3.8mol%、実施例4)を添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまで、十分に攪拌を行った。これを110℃で減圧蒸留(5mmHg)し、精製1,4−ブタンジオールを得た。得られた1,4−ブタンジオールのGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析結果を表2に示す。また、比較例1として水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った結果も併せて示す。
蒸留した1,4−ブタンジオールとジカルボン酸のエステル化反応
【0066】
エステル化反応を行うため、蒸留後の1,4−ブタンジオール122.7gにテレフタル酸(和光純薬工業株式会社製)113.2gを混合し、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.08gおよびモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.07gを添加した。これらを精留塔のついた反応器にて、190℃、79.9kPaの条件で反応を開始し、段階的に昇温して270分間反応し、エステル化反応物を得た。エステル化反応過程で留出した留出液を密度測定して留出液中のTHFの含有量を分析し、THFの副生量(g/kgPBT)を式2〜4により算出した。また、比較例1として、水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った1,4−ブタンジオールについても同様の手順でエステル化反応を行った。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示したように、アルカリ添加量の増大に伴って、蒸留後の1,4−ブタンジオール純度が向上し、また、着色度も低減することが明らかとなった。また、アルカリ添加蒸留で得られた1,4−ブタンジオールを原料にエステル化反応を行うことで、反応時のTHF副生量を低減できることが示された。なお、比較例1では、エステル化反応を所定時間実施しても、反応溶液中に未反応のテレフタル酸が残存して懸濁状態であり、エステル化反応が未完了であった。
実施例5、6および比較例2 1,4−ブタンジオール発酵液のナノ濾過膜処理、逆浸透膜濃縮、イオン交換処理、アルカリ添加蒸留精製および得られた1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応評価
1,4−ブタンジオール発酵液の調製
【0069】
微生物発酵による1,4−ブタンジオール発酵液を得た(WO2008/115840号参照。)。発酵液27Lをナノ濾過膜処理に供した。
1,4−ブタンジオール発酵液のナノ濾過膜処理
【0070】
上述の発酵液を図1に示す膜分離装置によって精製した。図1において、参照番号1は供給タンク;参照番号2は内部にナノ濾過膜又は逆浸透膜を設置した容器;参照番号3は高圧ポンプ;参照番号4は膜透過液流;参照番号5は濃縮液流;参照番号6は高圧ポンプにより駆動される1,4−ブタンジオール水溶液流を示す。ナノ濾過膜2にはスパイラル型膜エレメントの“SU−610”(東レ株式会社製)を用い、供給タンク1に上述の1,4−ブタンジオール発酵液を注入し、供給流量18L/min、供給水圧5MPa、供給水温18℃に設定して運転し、ナノ濾過膜精製を行った。得られた透過液4は着色成分が除去され、清澄な1,4−ブタンジオール溶液であった。
ナノ濾過膜処理した1,4−ブタンジオール水溶液の逆浸透膜濃縮
【0071】
図1の符号2に逆浸透膜として、スパイラル型膜エレメント“TM−810”(東レ株式会社製)を用い、供給タンク1に上述のナノ濾過膜透過液を注入し、供給水圧5MPa、供給水温18℃に設定して運転し、膜透過側4に水を除去することで1,4−ブタンジオールの逆浸透膜濃縮を行った。運転終了後、1,4−ブタンジオール濃縮液をタンク1から回収した。
逆浸透膜濃縮した1,4−ブタンジオール水溶液のイオン交換処理
【0072】
上述の逆浸透膜濃縮により得られた1,4−ブタンジオール濃縮液について、イオン交換処理による残留イオンの除去を行った。強カチオン交換樹脂“IR410J”(株式会社オルガノ製)および強アニオン交換樹脂“IR120”(株式会社オルガノ製)を用い、それぞれ1N水酸化ナトリウムおよび1N塩酸によってOH型およびH型に再生して使用した。樹脂量は各種無機塩と有機酸との総量とイオン交換樹脂の交換容量が等量になるように算出した。前述のイオン交換樹脂をカラムに充填し、アニオン交換、カチオン交換の順に通液速度SV=10で通液した。
イオン交換処理した1,4−ブタンジオール水溶液のアルカリ添加蒸留
【0073】
イオン交換処理した1,4−ブタンジオール水溶液を薄膜濃縮装置 MF−10(東京理化器械株式会社製)を用いて、減圧度30hPa、加熱温度60℃で水を蒸発させ、50重量%の1,4−ブタンジオール水溶液を得た。濃縮した1,4−ブタンジオール溶液500gに水酸化ナトリウム3.00g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して2.7mol%、実施例5)、7.00g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して6.3mol%、実施例6)を添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまで、十分に攪拌を行った。これを110℃で減圧蒸留(5mmHg)し、精製1,4−ブタンジオールを得た。得られた1,4−ブタンジオールのGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析結果を表3に示す。また、比較例2として水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った結果も併せて示す。
蒸留した1,4−ブタンジオールとジカルボン酸のエステル化反応
【0074】
上記の蒸留後1,4−ブタンジオールを用いて、実施例1〜4と同様の手法でエステル化反応を行い、エステル化反応物を得た。エステル化反応時のTHFの副生量(g/kgPBT)は実施例1〜4と同様の方法で算出した。また、比較例2として、水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った1,4−ブタンジオールについても同様の手順でエステル化反応を行った。結果を表3に示す。
石油由来1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応評価
【0075】
市販の石油由来1,4−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製)について、実施例5、6と同様の手順でGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析、およびエステル化反応を行い、エステル化反応時のTHFの副生量(g/kgPBT)を算出した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示したように、1,4−ブタンジオール発酵液をナノ濾過膜処理、逆浸透膜処理、イオン交換処理後にアルカリ性物質を添加して蒸留することで、得られる1,4−ブタンジオールの純度、着色度が向上することが示された。また、アルカリ性物質を添加して蒸留した1,4−ブタンジオールを原料にエステル化反応を行うことで、石油由来1,4−ブタンジオール(参考例1)と同程度まで反応時のTHF副生量を低減できることが示された。なお、比較例2では、エステル化反応を所定時間実施しても、反応溶液中に未反応のテレフタル酸が残存して懸濁状態であり、エステル化反応が未完了であった。
実施例7および比較例3、4
1,4−ブタンジオール発酵液のナノ濾過膜処理、逆浸透膜による濃縮、イオン交換処理及びアルカリ添加蒸留精製並びに得られた1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応の評価
微生物発酵由来1,4−ブタンジオールの調製
【0078】
微生物発酵により1,4−ブタンジオール発酵液を得た(WO2008/115840号参照。)。また、得られた発酵液から粗精製1,4−ブタンジオールを得た(WO2010/141780号参照。)。
粗精製1,4−ブタンジオールのアルカリ添加蒸留
【0079】
上記粗精製1,4−ブタンジオールに水を添加し、80重量%の1,4−ブタンジオール水溶液を得た。該1,4−ブタンジオール水溶液500gに水酸化ナトリウム6.01g(1,4−ブタンジオール量(モル数)に対して3.4mol%、実施例7)を添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまで、十分に攪拌を行った。これを110℃で減圧蒸留(5mmHg)し、精製1,4−ブタンジオールを得た。得られた1,4−ブタンジオールのGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析結果を表4に示す。また、比較例3として粗精製1,4−ブタンジオール、比較例4として水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った結果も併せて示す。
蒸留した1,4−ブタンジオールとジカルボン酸のエステル化反応
【0080】
エステル化反応を行うため、蒸留後の1,4−ブタンジオール54.2gにテレフタル酸(和光純薬工業株式会社製)113.2gを混合し、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.08gおよびモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.07gを添加した。これらを精留塔のついた反応器にて、190℃、79.9kPaの条件で反応を開始し、段階的に昇温するとともに1,4−ブタンジオール19.5g(モル終濃度:1,4−ブタンジオール/テレフタル酸=1.2/1)を徐々に添加し、エステル化反応物を得た。エステル化反応時のTHFの副生量(g/kgPBT)は実施例1〜4と同様の方法で算出した。また、比較例3として粗精製1,4−ブタンジオール、比較例4として水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った1,4−ブタンジオールについても同様の手順でエステル化反応を行った。結果を表4に示す。
エステル化反応物の重合試験
【0081】
上述のエステル化反応物125gに、重縮合触媒としてのテトラ−n−ブチルチタネート0.08gと、リン酸0.01gとを添加し、250℃、67Paの条件で重縮合反応を行った。攪拌機に接続したトルクメーターのトルク値の増大により反応の進行を確認し、トルク値が4kgf・cmに到達するのに要した時間を反応時間とした。重合時間を表4に示す。
参考例2 石油由来1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応、重合評価
【0082】
市販の石油由来1,4−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製)について、実施例7と同様の手順でGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析、エステル化反応、エステル化反応時のTHFの副生量(g/kgPBT)の算出、および重合試験を実施した。結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示したように、粗精製1,4−ブタンジオール(比較例3)ではエステル化反応が完了しなかった。また、粗精製1,4−ブタンジオールをさらに蒸留したサンプル(比較例4)では、エステル化反応は完了したが、アルカリ性物質を添加して蒸留したサンプル(実施例7)と比較して、長い重合時間を要することが示された。また、アルカリ性物質を添加して蒸留した1,4−ブタンジオール(実施例7)は、石油由来1,4−ブタンジオール(参考例2)とほぼ同等まで重合時間を短縮できることが示された。
実施例8および比較例5
モデル発酵液のアルカリ添加蒸留および1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応の評価
1,4−ブタンジオールモデル発酵液の調製
【0085】
超純水に、1,4−ブタンジオール、γ−ブチロラクトン、酢酸、グルコース、フラクトース、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素カリウム及び塩酸を加えて、表5に示す組成を有する1,4−ブタンジオール水溶液を調製し、これをモデル発酵液として用いた。
【0086】
【表5】
モデル発酵液のアルカリ添加蒸留
【0087】
上記モデル発酵液(表5)を、薄膜濃縮装置MF−10(東京理化器械株式会社製)を用いて、減圧度30hPa、加熱温度60℃で濃縮して50重量%1,4−ブタンジオール水溶液を得た。この濃縮1,4−ブタンジオール溶液200gに、0.75g(1,4−ブタンジオールの量(モル数)に対して1.7mol%、実施例8)の水酸化ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまでよく撹拌した。得られた溶液を、減圧下(1.3mmHg)、130℃で蒸留し、精製1,4−ブタンジオールを得た。1,4−ブタンジオールのGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析結果を表6に示す。水酸化ナトリウムを添加しないこと以外は同じ操作を行って得られた結果も比較例5として示す。
1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応の評価
【0088】
エステル化反応を行うため、蒸留後の1,4−ブタンジオール62.7gにテレフタル酸(和光純薬工業株式会社製)52.6gを混合し、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.04gおよびモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.03gを添加した。これらを精留塔のついた反応器にて、190℃、79.9kPaの条件で反応を開始した。段階的に昇温しながら反応を270分間行い、エステル化反応物を得た。エステル化反応過程で留出した留出液を密度測定して留出液中のTHFの含有量を分析し、THFの副生量(g/kgPBT)を式2〜4により算出した。また、比較例5として、水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った1,4−ブタンジオールについても同様の手順でエステル化反応を行った。結果を表6に示す。
実施例9
1,4−ブタンジオールモデル発酵液のナノ濾過膜処理及びアルカリ添加蒸留精製並びに得られた1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応の評価
1,4−ブタンジオールモデル発酵液のナノ濾過膜処理
【0089】
表5に示すモデル発酵液を、図1に示す膜分離装置によって精製した。ナノ濾過膜2にはスパイラル型膜エレメントの“SU−610”(東レ株式会社製)を用いた。供給タンク1に上述の1,4−ブタンジオール発酵液を注入し、供給水圧2MPa、供給水温18℃に設定して運転し、ナノ濾過膜精製を行った。
ナノ濾過膜処理後の1,4−ブタンジオール水溶液の蒸留
【0090】
ナノ濾過膜処理後の1,4−ブタンジオール水溶液を、薄膜濃縮装置MF−10(東京理化器械株式会社製)を用いて、減圧度30hPa、加熱温度60℃で濃縮して50重量%1,4−ブタンジオール水溶液を得た。この濃縮1,4−ブタンジオール溶液200gに、0.75g(1,4−ブタンジオールの量(モル数)に対して1.7mol%、実施例8)の水酸化ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまでよく撹拌した。得られた溶液を、減圧下(1.3mmHg)、130℃で蒸留し、精製1,4−ブタンジオールを得た。得られた1,4−ブタンジオールのGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析結果を表6に示す。
1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応の評価
【0091】
ナノ濾過処理及びアルカリ添加蒸留後の1,4−ブタンジオールを用い、実施例8と同様にエステル化反応を行い、エステル化反応物を得た。THFの副生量(g/kgPBT)を実施例8と同様に算出した。結果を表6に示す。
実施例10
1,4−ブタンジオールモデル発酵液のイオン交換処理及びアルカリ添加蒸留による精製並びに得られた1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応
1,4−ブタンジオールモデル発酵液のイオン交換処理
【0092】
表5に示すモデル発酵液について、イオン交換処理による残留イオンの除去を行った。強カチオン交換樹脂“IR410J”(株式会社オルガノ製)および強アニオン交換樹脂“IR120”(株式会社オルガノ製)を用いた。これらのイオン交換樹脂は、それぞれ1N水酸化ナトリウムおよび1N塩酸によってOH型およびH型に再生して使用した。樹脂量は各種無機塩と有機酸との総量とイオン交換樹脂の交換容量が等量になるように算出した。前述の各イオン交換樹脂をカラムに充填し、アニオン交換、カチオン交換の順に通液速度SV=10で通液した。
イオン交換処理した1,4−ブタンジオール水溶液のアルカリ添加蒸留
【0093】
イオン交換処理後の1,4−ブタンジオール水溶液を濃縮し、実施例9と同様にアルカリ添加蒸留を行い、精製1,4−ブタンジオール水溶液を得た。得られた1,4−ブタンジオールのGC純度、着色度(APHA)、総イオン濃度の分析結果を表6に示す。
蒸留した1,4−ブタンジオールとジカルボン酸とのエステル化反応
【0094】
イオン交換処理及びアルカリ添加蒸留後の1,4−ブタンジオールを用い、実施例8と同様にしてエステル化反応を行い、エステル化反応物を得た。THFの副生量(g/kgPBT)を実施例8と同様に算出した。結果を表6に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
表6に示したように、アルカリ添加蒸留前にナノ濾過膜処理又はイオン交換処理を行うことで、1,4−ブタンジオールの品質(GC純度、着色度及び総イオン濃度)が向上することが示された。また、アルカリ性物質を添加して蒸留を行った場合には、エステル化反応が完了したことが示された。さらに、ナノ濾過膜処理及びアルカリ添加蒸留により得られた1,4−ブタンジオールを用いた場合には、THFの副生量(g/kgPBT)が顕著に減少した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明により得られる1,4−ブタンジオールは高純度、低着色である。また、我々の工程により得られる1,4−ブタンジオールを原料としてポリエステルを製造する場合、1,4−ブタンジオールのエステル化反応時のTHF副生が抑制され、さらには重合時間の遅延を防ぐことができる。
図1