(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記連続鋳造鋳型の外壁面における位置と時刻とにより定まる点であって、前記連続鋳造鋳型のx軸方向およびy軸方向の位置と時刻とにより定まる3次元座標上の点と、前記前記温度測定手段が埋設される位置と時刻とにより定まる点であって、前記連続鋳造鋳型のx軸方向およびy軸方向の位置と時刻とにより定まる3次元座標上の点をそれぞれ情報量の定義点とし、
前記熱流束導出手段は、前記非定常熱伝導方程式と、前記非定常熱伝導方程式における境界条件と、熱電対温度関数u(x*,y*,t)と、前記内外挿温度関数u^(x,y,t)とを満足するように、前記非定常熱伝導方程式における境界条件と前記内外挿温度関数u^(x,y,t)との連立方程式に前記情報量の定義点の情報を代入して当該連立方程式を解くことにより、前記重みベクトルλjを導出し、当該重みベクトルλjを用いて、前記連続鋳造鋳型の内壁面における熱流束ベクトルの前記y軸方向成分の値qyを導出し、
前記非定常熱伝導方程式における境界条件は、前記連続鋳造鋳型の外壁面における前記x軸方向の温度勾配と、前記連続鋳造鋳型を構成する材料の熱伝導率とに基づく熱流束と、前記連続鋳造鋳型の外壁面における温度と水温との差と、前記連続鋳造鋳型を構成する材料と水との間の熱伝達係数とに基づく熱流束と、が等しいことを示す式であり、
前記複数の温度測定手段は、前記連続鋳造鋳型の外壁面と異なる位置に、前記鋳造方向に沿って当該連続鋳造鋳型内に埋設され、
前記熱電対温度関数u(x*,y*,t)は、前記連続鋳造鋳型のx軸方向における前記温度測定手段の位置x*、前記連続鋳造鋳型のy軸方向における前記温度測定手段の位置y*、および時刻tにおいて前記温度測定手段により測定される温度を表す関数であることを特徴とする請求項3または4に記載の連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出システム)
図1は、連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出システムの構成の一例を示す図である。
図1は、連続鋳造機を、その高さ方向(y軸方向)に沿って切った断面を示す。
図1において、連続鋳造機は、タンディッシュ11と、浸漬ノズル12と、鋳型(モールド)13と、ピンチロール14a〜14dと、を有する。尚、連続鋳造機は、公知の技術で実現できる。したがって、ここでは、連続鋳造機の詳細な説明を省略する。
【0015】
タンディッシュ11は、取鍋から供給された溶鋼(金属溶湯)Mを一時的に貯留する。
鋳型13は、タンディッシュ11と間隔を有して、タンディッシュ11の下方に配置される。鋳型13は、例えば、2つの短辺部13a、13bと、2つの長辺部と、を有する。2つの短辺部13a、13bは、幅方向(x軸方向)において相互に対向するように間隔を有して配置される。2つの長辺部は、奥行き方向(x軸およびy軸と垂直な方向)において相互に対向するように間隔を有して配置される。2つの長辺部と2つの短辺部13a、13bにより囲まれる領域は、中空の直方体形状の領域になる。この領域が、鋳型13の内部の領域になる。また、鋳型13の外壁面には、溝が形成される。この溝に冷却水を流すことにより、鋳型13は水冷される。尚、
図1では、表記の都合上、長辺部と短辺部のうち、短辺部のみを示す。
【0016】
浸漬ノズル12は、タンディッシュ11に貯留されている溶鋼Mを鋳型13の内部に注入する。浸漬ノズル12は、その基端がタンディッシュ11の底面に位置するとともに、先端側の所定の領域が鋳型13の内部に位置するように配置される。また、浸漬ノズル12の内部とタンディッシュ11の内部は連通している。尚、タンディッシュ11から浸漬ノズル12に供給される溶鋼Mの供給量は、スライディングノズルまたはストッパーにより調節される。
【0017】
鋳型13から下方に引き出された鋼の搬送経路に沿うように、複数対のピンチロール14a〜14dが配置される。尚、
図1では、二対のピンチロール14a〜14dのみを示す。しかしながら、実際には、搬送経路の長さに応じて、より多くのピンチロールが配置される。ピンチロール14a〜14dの外側には、複数の冷却スプレーが配置される。複数の冷却スプレーは、鋳型13から下方に引き出された鋼を冷却するための冷却水を当該鋼に対して噴射する。
【0018】
このように、鋳型13の内部の注入された溶鋼は、鋳型13で冷却され、その表面から凝固殻15a、15bが形成されて凝固する。表面は凝固殻15a、15bとなっているが内部は凝固していない鋼が、ピンチロール14a〜14dによって挟まれながら鋳型13の下端部から連続的に引き出される。このようにして鋳型13から引き出される過程で、冷却スプレーから噴射される冷却水によって鋼の冷却を進めることで、内部まで鋼を凝固させる。このようにして凝固した鋼は、連続鋳造機の下流側で所定の大きさに切断され、スラブ、ブルーム、ビレッド等、断面の形状が異なる鋳片が製造される。
【0019】
以上のようにして連続鋳造機で鋳片を製造する際に、鋳型13の内部の溶鋼にパウダー17を随時添加する。パウダー17の薄膜は、鋳型13の内部の溶鋼の表面に加え、鋳型13の内壁面と凝固殻15a、15bとの間にも存在する。このようにしてパウダー17を添加することにより、溶鋼の保温と、溶鋼の酸化の防止と、溶鋼中の介在物の吸収と、凝固殻15a、15bの潤滑性の確保と、溶鋼の熱の抜熱の調整とを行う。このようにして鋳型13内のメニスカス近傍での凝固殻15a、15bを均一に生成することにより、凝固殻15a、15bの表面割れを防止するとともに、鋳型13と凝固殻15a、15bの焼き付きを防止する。
【0020】
鋳型13には、鋳造方向(y軸方向)に沿って複数の熱電対18が埋設される。複数の熱電対18の数は3以上であるのが好ましい。後述する熱流束の計算精度に応じて、複数の熱電対18の数と、相互に隣接する2つの熱電対18の間隔を決定することができる。また、
図1に示す例では、複数の熱電対18は、鋳型13の内壁面と外壁面のうち相対的に内壁面に近い領域に埋設される。ただし、複数の熱電対18は、鋳型13の内部に埋設されていれば、必ずしも、このような領域に埋設されていなくてもよい。
図1に示すように、本実施形態では、短辺部13aに複数の熱電対18が埋設される場合を例に挙げて説明する。しかしながら、短辺部13aに加えてまたは替えて短辺部13bおよび2つの長辺部の少なくとも何れか1つに複数の熱電対が埋設されていてもよい。鋳型13の内壁面を稼働面、外壁面を水冷面という。鋳型13の各面のうち、溶鋼に接する面が稼働面である。ただし、
図1に示すようにパウダー17を添加する場合には、鋳型13の各面のうち、パウダー17と接する面が稼働面である。
【0021】
(連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出装置200)
図2は、連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出装置200の機能的な構成の一例を示す図である。連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出装置を必要に応じて湯面レベル検出装置と略称する。
湯面レベル検出装置200は、複数の熱電対18により測定された温度を用いて、非定常伝熱逆問題解析を行う。ここで、非定常伝熱逆問題とは、計算領域を支配する非定常熱伝導方程式を基にして、領域内部の温度情報を既知として領域境界での温度や熱流束などの境界条件または初期条件を推定する問題を指す。これに対して、非定常伝熱順問題は、既知である境界条件を基にして、領域内部の温度情報を推定する問題を指す。
【0022】
湯面レベル検出装置200は、非定常伝熱逆問題解析を行うことで得られた内外挿温度関数を用いて、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向(鋳型13の鋳造方向)成分の値を計算する。後述するように、内外挿温度関数は、位置(x,y)および時刻tにおける鋳型13の温度を示す関数である。
【0023】
湯面レベル検出装置200は、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値に基づいて湯面レベルを検出する。湯面レベルは、鋳型13内の溶鋼の表面の高さ位置(y軸方向の位置)である。
【0024】
鋳型13の役割は、溶鋼の冷却および凝固である。このため、非定常伝熱逆問題解析を行うことにより湯面レベルを検出することを検討する際には、x軸方向(鋳型13の抜熱方向)における熱流束の振る舞いが着目され、y軸方向(鋳型13の鋳造方向)の熱流束の振る舞いは着目されていなかった。また、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値は、x軸方向成分の値よりも小さい。このため、特許文献2に記載の技術のように離散的な値をとる熱流束を導出する手法では、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値を用いると誤差が大きくなり、熱流束の計算精度がさらに低下する要因になる。以上のことから、これまで、非定常伝熱逆問題解析を行うことにより湯面レベルを検出する場合を含め、非定常伝熱逆問題解析を行って鋳型13の熱流束を導出する場合には、熱流束ベクトルのx軸方向成分の値が用いられていた。
【0025】
これに対し、本発明者らは、鋳型13内の湯面上にはパウダー17が供給されることから、「鋳型13内の湯面上では、パウダー17による抜熱の影響で、熱流束ベクトルのy軸方向成分のベクトルのうち、鋳造方向とは逆向きとなる(すなわち、湯面の法線方向を向く)ベクトルの大きさは、鋳型13の他の部位と比べて大きくなる」という推論に基づき、湯面レベルを検出することに想到した。このような着想の下、本実施形態の湯面レベル検出装置200を実現するに至った。以下、本実施形態の湯面レベル検出装置200の具体的な構成の一例を説明する。
【0026】
湯面レベル検出装置200は、温度取得部201と、熱流束導出部202と
、湯面レベル導出部203と
、出力部204とを有する。
<温度取得部201>
温度取得部201は、複数の熱電対18で測定された温度[K]を入力し、複数の熱電対18で同じ時刻に測定された温度を出力する。温度取得部201は、このような温度の出力を所定のサンプリング時間ごとに行う。例えば、温度取得部201は、サンプリング時間が経過する度に、複数の熱電対18で測定された温度を入力して出力する。
【0027】
<熱流束導出部202>
鋳型13の温度を推定するための内外挿温度関数u^(x,y,t)を、温度取得部201から出力された温度に基づいて、鋳型13の鋳造方向(y軸方向)−抜熱方向(x軸方向)の2次元断面の温度分布の時間変化を予測する数式とする。
【0028】
図3Aは、非定常伝熱逆問題の座標系の一例を示す図である。
図3Aでは、y軸方向の或る位置における空間x−時刻tの2次元断面上の情報量の定義点を示す。
図3Bも、非定常伝熱逆問題の座標系の一例を示す図である。
図3Bでは、或る時刻tにおける空間x−空間yの2次元断面上の情報量の定義点を示す。
図3Aと
図3Bは、同一の3次元座標(空間x−空間y−時刻tの座標)の2次元断面を表したものである。
【0029】
図3Aおよび
図3Bにおいて、x軸は、鋳型13の内壁面をx=0とする軸であり、鋳型13の抜熱方向の位置を示す。y軸は、鋳型13の上端をy=0とする軸であり、鋳型13の鋳造方向の位置を示す。x軸とy軸は、空間軸である。t軸は、時間軸である。
【0030】
図3Aおよび
図3Bにおいて、黒丸で示すプロットは、それぞれ、情報量の定義点である。この情報量の定義点は、熱電対18の位置と当該熱電対18で温度が測定された時刻とを示す。この定義点における情報量は、熱電対18で測定された温度を含む。
【0031】
破線で示すプロットも、それぞれ、情報量の定義点である。この情報量の定義点は、鋳型13の外壁面における位置と当該外壁面における熱流束を推定する時刻とを示す。本実施形態では、鋳型13の外壁面に、熱電対等の温度測定手段がない場合を例に挙げて説明する。そこで、この定義点の情報量を、鋳型13を構成する材料と水との間の熱伝達係数γと水温u
wとを既知として定まる熱流束とする。
【0032】
以上の黒丸で示すプロットと破線で示すプロットを情報量の定義点とする。すなわち、
図3Aに示す黒丸で示すプロットと破線で示すプロットと、
図3Bに示す黒丸で示すプロットと破線で示すプロットとにより示される、x軸−y軸−t軸の3次元座標上の点のそれぞれが情報量の定義点となる。
【0033】
図3Aにおいて、タイミングt
Nは、複数の熱電対18で最新の温度が測定されたタイミングである。
図3Aでは、複数の熱電対18で測定された温度が取得されるたびに、新しいものから順に7個の温度測定タイミング(タイミングt
O〜t
Nの7つのタイミング)を、情報量の定義点を定める時刻tとして採用する場合を例に挙げて説明する。すなわち、熱流束導出部202は、新たに複数の熱電対18で測定された温度が取得されると、7個の温度測定タイミングのうち、最も古い温度測定タイミングを含む情報量の定義点を7個の情報量の定義点から除外する。そして、熱流束導出部202は、最新の温度測定タイミングを含む情報量の定義点を7個の情報量の定義点に加える。尚、情報量の定義点を定める時刻tの数は、7つに限定されない。
【0034】
また、
図3Bでは、複数の熱電対18が、y軸方向に沿って等間隔で7個配置される場合を例に挙げて示す。しかしながら、相互に隣接する2つの熱電対の間隔は等間隔でなくてもよい。また、複数の熱電対18の数は7個に限定されない。
【0035】
熱流束導出部202は、以上の情報量の定義点における情報量に基づいて、内外挿温度関数u^(x,y,t)に含まれる重みベクトルλ
jを導出する。
ここで、内外挿温度関数u^(x,y,t)の一例について説明する。
まず、2次元非定常熱伝導方程式は、以下の(1)式で表される。
【0037】
(1)式において、aは、鋳型を構成する材料の熱拡散係数[m
2/s]の平方根である。また、0<x<1および0<y<1は、x軸およびy軸の座標(x,y)を、[0,1]で規格化していることを示す。すなわち、鋳型13の内壁面におけるx軸の座標が「0」、外壁面におけるx軸の座標が「1」になるように、x軸のそれぞれの座標を定める。また、鋳型13の上端におけるy軸の座標が「0」、下端におけるy軸の座標が「1」になるように、y軸のそれぞれの座標を定める。
鋳型13の外壁面(冷却面)における境界条件は、以下の(2)式で表される。
【0039】
(2)式において、g(t)は、水温u
w[K]と、鋳型13を構成する材料と水との間の熱伝達係数γ[W/m
2K]との積(g(t)=u
w×γ)である。βは、鋳型13を構成する材料の熱伝導率[W/mk]である。水温u
wと、鋳型13を構成する材料と水との熱伝達係数
γと、鋳型13を構成する材料の熱伝導率βは、何れも予め設定される値である。水温u
wとしては、例えば、所定時間の平均値を用いることができる。
【0040】
(2)式は、鋳型13の外壁面における熱流束のつり合いを示す式である。すなわち、(2)式は、以下の第1の熱流束と第2の熱流束とが等しいことを示す式である。第1の熱流束は、鋳型13の外壁面における鋳型13の抜熱方向の温度勾配と、鋳型13を構成する材料の熱伝導率βとに基づく熱流束である。第2の熱流束は、鋳型13の外壁面における温度u(1,y,t)と水温u
wとの差と、鋳型13を構成する材料と水との間の熱伝達係数γとに基づく熱流束である。
本実施形態では、熱電対温度関数u(x
*,y
*,t)を以下の(3)式で表す。
【0041】
【数3】
(3)式において、x
*は、熱電対18の位置のx軸の座標である。y
*は、熱電対18の位置のy軸の座標である。熱電対温度関数u(x
*,y
*,t)は、熱電対18で測定される温度を示す関数であって、熱電対18の位置(x,y)および時刻tの関数である。h(t)は、熱電対18により測定された時刻tにおける温度である。また、
x*∈[0,1]およびy
*∈[0,1]は,熱電対18のx軸およびy軸の座標(x
*,y
*)を、[0,1]で規格化していることを示す。すなわち、鋳型13の内壁面におけるx軸の座標が「0」、外壁面におけるx軸の座標が「1」になるように、熱電対18のx軸の座標を定める。また、鋳型13の上端におけるy軸の座標が「0」、下端におけるy軸の座標が「1」になるように、熱電対18のy軸の座標を定める。
本実施形態では、内外挿温度関数u^(x,y,t)を以下の(4)式で表す。
【0043】
(4)式において、内外挿温度関数u^(x,y,t)は、(1)式で示す2次元非定常熱伝導方程式を満たす温度であり、温度uの近似解である。
【0044】
x
j、y
jは、任意の基準位置ベクトル(x
j,y
j)の要素(x軸の座標、y軸の座標)である。t
jは、任意の基準時刻である。基準位置ベクトル(x
j,y
j)および基準時刻t
jで定まる3次元座標上の点は、中心点と呼ばれる。通常は、基準位置ベクトル(x
j,y
j)および基準時刻t
jを、前述した情報量の定義点と一致させるので、本実施形態でもこのようにする。ただし、基準位置ベクトル(x
j,y
j)および基準時刻t
jを、前述した情報量の定義点と一致させなくてもよい。
【0045】
jは、前述した中心点(基準位置ベクトル(x
j,y
j)と任意の基準時刻t
jとにより定まる3次元座標上の点)を識別する変数であり、1からm+lの範囲の整数である。
【0046】
mは、n
p1×n
tで表され、lは、n
p2×n
tで表される。
n
p1は、鋳型13の外壁面における中心点jの数である。鋳型13の外壁面における中心点jは、内外挿温度関数u^(x,y,t)が(2)式を満足するように設定される、n
p2は、熱電対18の位置である。熱電対18の位置は、内外挿温度関数u^(x,y,t)が(3)式を満足するように設定される。n
tは、時刻の数である。この時刻は、内外挿温度関数u^(x,y,t)が(2)式および(3)式を満足するように設定される。以上のように、mは、鋳型13の外壁面における位置と時刻とにより定まる中心点jの数である。また、lは、熱電対18の位置と時刻とにより定まる中心点jの数である。
【0047】
本実施形態では、中心点jを情報量の定義点と一致させている。したがって、
図3Aおよび
図3Bに示す例では、jの最大値m+lは、黒丸で示すプロットと破線で示すプロットの合計になる。具体的に、鋳型13の外壁面における位置と時刻とにより定まる中心点jの数は、49(=7×7)であり、熱電対18の位置と時刻とにより定まる中心点jの数lは、49(=7×7)である。
【0048】
φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)は、以下の(5)式および(6)式で定まる基底関数である。
【0050】
(6)式において、H(t)は、ヘビサイド関数である。(6)式は、(1)式に示す2次元非定常熱伝導方程式を満たす基本解の形で表現された式である。尚、基本解とは、温度uの初期条件がδ関数で表される場合の2次元非定常熱伝導方程式の解(温度u)である。(5)式において、Tは、2次元非定常熱伝導方程式の基本解の拡散プロフィールを調整するパラメータであり、予め設定される。Tは0を上回る値である。
【0051】
以上のように、基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)は、中心点j(基準
位置ベクトル(x
j,y
j)および基準時刻t
j)を基準とした場合の、2次元非定常熱伝導方程式を満たす基本解の形で表現された関数である。
【0052】
λ
jは、基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)の内外挿温度関数u^(x,y,t)に対する重みを表す重みベクトルである。重みベクトルλ
jは、基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)の内外挿温度関数u^(x,y,t)に対する影響と、当該基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)と異なる他の基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)の内外挿温度関数u^(x,y,t)に対する影響とのバランスで定まる。基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)は中心点jごとに存在し、重みベクトルλ
jも中心点jごとに存在する。
【0053】
以上のように、内外挿温度関数u^(x,y,t)は、基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)および重みベクトルλ
jの積の、中心点jのそれぞれにおける値の総和で表される。
重みベクトルλ
jは、以下の(7)式〜(10)式で表される。
【0055】
(8)式、(10)式において、kは、情報量の定義点を識別する変数であり、1からmまでの整数である(k=1,・・・,m)。sは、情報量の定義点を識別する変数であり、m+1からm+lまでの整数である(s=m+1,・・・,m+l)。jは、1からm+lまでの整数である(j=1,・・・,m+l)。
行列Aは、(m+l)×(m+l)行列である。bおよびλは、(m+l)次元列ベクトルである。前述したように、(m+l)は、中心点jの数である。
【0056】
(8)式において、A=[]の[]内の「β∂φ/∂x(x
k−x
j,y
k−y
j,t
k−t
j)+γφ(x
k−x
j,y
k−y
j,t
k−t
j)は、行列Aのk行j列成分を表し、「φ(x
s−x
j,y
s−y
j,t
s−t
j)」は、行列Aのs行j列成分を表す。
【0057】
b=[]の[]内のg
kには、(2)式に示すg(t)が与えられる。この[]内のg
kは、行列bのk行成分を表す。また、b=[]の[]内のh
s−mには、(3)式に示すh(t)が与えられる。この[]内のh
s−mは、行列bのs行成分を表す。
【0058】
前述したように、kは、情報量の定義点を識別する変数であり、1からmまでの整数である(k=1,・・・,m)。mは、n
p1×n
tで表される。n
p1は、鋳型13の外壁面における中心点jの数である。鋳型13の内壁面におけるx軸の座標が「0」、外壁面におけるx軸の座標が「1」になるように、x軸の座標を定める。したがって、(8)式において、x
kは「1」になる。
【0059】
(7)式〜(10)式は、(1)式の2次元非定常熱伝導方程式、(2)式の鋳型13の外壁面における境界条件、(3)式の熱電対温度関数(各位置(x
*,y
*)・各時刻tにおいて、鋳型13の内部の熱電対により計測される温度)、および(4)式の内外挿温度関数を満足するよう、情報量の定義点の情報を、(2)式および(4)式の連立方程式に代入して当該連立方程式を解くことにより、重みベクトルλ
jを導出するための式である。連立方程式に代入する前記情報量の定義点の情報には、情報量の定義点の位置、熱電対18の温度、熱電対18の温度の測定タイミング、水温u
w、鋳型13を構成する材料の熱伝導率β、鋳型13を構成する材料と水の熱伝達係数γ、および鋳型13を構成する材料の熱拡散係数aが含まれる。水温u
w、鋳型13を構成する材料の熱伝導率β、鋳型13を構成する材料と水の熱伝達係数γ、および鋳型13を構成する材料の熱拡散係数aについては、情報量の定義点により異ならせてもよいし、同じにしてもよい。また、(2)式および(4)式の連立方程式を解く際には、中心点jの位置も当該連立方程式に代入する。
【0060】
熱流束導出部202は、以上のようにして(7)式〜(10)式により、重みベクトルλ
jを導出する。
熱流束導出部202は、温度取得部201から温度を取得する度に、以上の処理を行う。
本実施形態では、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yは、以下の(11)式で表される。
【0062】
したがって、熱流束導出部202は、鋳型13を構成する材料の熱伝導率βと、鋳型13を構成する材料の熱拡散係数aと、基準時刻t
jと、中心点jの数m+lと、以上のようにして導出した重みベクトルλ
jとを(11)式に代入することにより、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yを導出する。
【0063】
<湯面レベル導出部203>
湯面レベル導出部203は、熱流束導出部202で導出された熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yから、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yとy軸方向の位置との関係を導出する。湯面レベル導出部203は、この関係から、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yが負の値を有し且つ絶対値が最大(すなわち最小)となる位置を、湯面レベルとして導出する。本実施形態では、
図1に示すようにy軸を定義する。したがって、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yが最小(負の値のうち絶対値が最大)となる位置が湯面レベルになる。尚、
図1に示す向きとは逆向きにy軸を定義した場合、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yが最大となる位置が湯面レベルになる。このように、湯面レベル導出部203は、y軸成分ベクトルが鋳造方向とは逆向きとなる(すなわち、湯面の法線方向を向く)熱流束ベクトルの、y軸方向成分の値q
yの絶対値が最大となる位置を湯面レベルとして導出する。
【0064】
<出力部204>
出力部204は、湯面レベル導出部203により導出された湯面レベルの情報を出力する。湯面レベルの情報の出力形態としては、コンピュータディスプレイへの表示、湯面レベル検出装置200の内部の記憶媒体や可搬型記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうち、少なくとも1つを採用することができる。
【0065】
(フローチャート)
次に、
図4のフローチャートを参照しながら、本実施形態の湯面レベル検出装置200の動作の一例を説明する。
ステップS401において、温度取得部201は、複数の熱電対18で測定された温度を取得する。
【0066】
次に、ステップS402において、熱流束導出部202は、重みベクトルλ
jの導出に必要な数の温度が取得されたか否かを判定する。具体的に、熱流束導出部202は、熱電対18に対する情報量の定義点の数としてl個の温度が取得されるまで待機する。
図3Aおよび
図3Bに示す例では、熱流束導出部202は、y軸方向に7個の情報量の定義点があり、t軸方向に7個の情報量の定義点があるので、49個の温度が取得されるまで待機する。尚、既に49個の温度が取得されている場合に、同一の時刻において、y軸方向の7個の情報量の定義点に対応する温度が取得されると、熱流束導出部202は、同一の時刻における、y軸方向の7個の情報量の定義点に対応する温度のうち、最も古い時刻における温度を削除し、今回取得した温度を追加する。
【0067】
この判定の結果、重みベクトルλ
jの導出に必要な数の温度が取得されていない場合には、ステップS401に戻る。そして、重みベクトルλ
jの導出に必要な数の温度が取得されるまで、ステップS401、S402の処理を繰り返し行う。そして、重みベクトルλ
jの導出に必要な数の温度が取得されると、ステップS403に進む。
【0068】
ステップS403に進むと、熱流束導出部202は、(7)式〜(10)式により、重みベクトルλ
jを導出する。
次に、ステップS404において、熱流束導出部202は、(11)式により、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yを導出する。
【0069】
次に、ステップS405において、湯面レベル導出部203は、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yとy軸方向の位置との関係を導出する。湯面レベル導出部203は、導出した関係から、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yが負の値を有し且つ絶対値が最大(すなわち最小)となる位置を、湯面レベルとして導出する。
【0070】
次に、ステップS406において、出力部204は、湯面レベル導出部203により導出された湯面レベルの情報を出力する。
次に、ステップS407において、湯面レベル検出装置200は、湯面レベルの導出を終了するか否かを判定する。この判定は、例えば、湯面レベル検出装置200に対するオペレータによる操作に基づいて行われる。
【0071】
この判定の結果、湯面レベルの導出を終了しない場合には、ステップS401に戻る。そして、ステップS401で新たに温度が取得される度に、ステップS402〜S407の処理を繰り返し行う。
一方、湯面レベルの導出を終了する場合には、
図4のフローチャートによる処理を終了する。
【0072】
(連続鋳造鋳型内の湯面レベル検出装置200のハードウェア)
図5は、湯面レベル検出装置200のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5に示すように、湯面レベル検出装置200は、CPU(Central Processing Unit)501と、ROM(Read Only Memory)502と、RAM(Random Access Memory)503と、PD(Pointing Device)504と、HD(Hard Disk)505と、表示装置506と、スピーカ507と、I/F(Interface)508と、システムバス509とを有する。
【0073】
CPU501は、湯面レベル検出装置200における動作を統括的に制御する。CPU501は、システムバス509を介して、湯面レベル検出装置200の各構成部(502〜508)を制御する。
ROM502は、CPU501の制御プログラムであるBIOS(Basic Input/Output System)やオペレーティングシステムプログラム(OS)、CPU501が、前述した
図4に示すフローチャートによる処理を実行するために必要なプログラム等を記憶する。
【0074】
RAM503は、CPU501の主メモリ、ワークエリア等として機能する。CPU501は、処理の実行に際して、ROM502やHD505から必要なコンピュータプログラムや情報等をRAM503にロードし、当該コンピュータプログラムや当該情報等に対する処理を実行することで各種の動作を実現する。前述した
図4のフローチャートの処理を実行するコンピュータプログラムをHD505に記憶してもよい。
PD504は、例えば、マウスやキーボード等からなり、操作者が必要に応じて、湯面レベル検出装置200に対して操作入力を行うための操作入力手段を構成する。
HD505は、各種の情報やデータ、ファイル等を記憶する記憶手段を構成する。
表示装置506は、CPU501の制御に基づいて、各種の情報や画像を表示する表示手段を構成する。
スピーカ507は、CPU501の制御に基づいて、各種の情報に係る音声を出力する音声出力手段を構成する。
【0075】
I/F508は、CPU501の制御に基づいて、外部装置と各種の情報等の通信を行う。熱電対18で測定された温度は、I/F508を介して湯面レベル検出装置200に入力される。
システムバス509は、CPU501、ROM502、RAM503、PD504、HD505、表示装置506、スピーカ507およびI/F508を相互に通信可能に接続するためのバスである。
【0076】
(実施例)
本実施形態の手法で検出した湯面レベルと、既存の手法で検出した湯面レベルと、実測の湯面レベルとを比較した。
図6に示すように、複数の熱電対18は、鋳型13の短辺部13aに埋設される。
図6に示すように、正確にy軸方向に沿って複数の熱電対18を鋳型13に埋設する必要はない。ただし、各熱電対18のx軸の座標を同じ値として、前述した重みベクトルλ
jを導出する。すなわち、重みベクトルλ
jの精度に影響がない範囲であれば、各熱電対18のx軸方向の位置は、厳密に同じでなくてもよい。また、鋳型13の入り側(上側)の水温と鋳型13の出側(下側)の水温を測定してその平均値を計算して冷却水の温度とした。
【0077】
本実施形態の手法では、前述したように、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yを導出する。そして、y軸成分ベクトルが鋳造方向とは逆向きとなる熱流束ベクトルの、y軸方向成分の値q
yの絶対値が最大となる位置を湯面レベルLと判定する。
図7Aに、本実施形態の手法で得られる、鋳型13の内壁面における熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yとy軸方向の位置との関係の一例を概念的に示す。
【0078】
一方、既存の手法では、鋳型13内の温度分布を計算し、経験則に基づいて、最高温度(T
max)×0.65となる位置を湯面レベルLと判定する。
図7Bに、既存の手法で得られる、鋳型13内の温度とy軸方向の位置との関係の一例を概念的に示す。
【0079】
図8に示す装置を用いて、湯面レベルを実測した。鋳型内の溶鋼の湯面にフロート801を浮かべ、フロート801にロッド802を配置する。また、オッシレーション測定治具803を配置する。そして、ロッド802の先端の動きと、オッシレーション測定治具803の先端の動きをビデオカメラ804で撮影する。ビデオカメラ804で撮影された画像に対して画像処理を行うことにより、湯面のy軸方向の変位をデジタル化して記録する。この湯面のy軸方向の変位から、湯面レベルを求めた。
【0080】
図9に、本実施形態の手法で検出した湯面レベルと、既存の手法で検出した湯面レベルと、実測の湯面レベルとを示す。横軸は時刻を、縦軸は湯面レベルを示す。
既存の手法では、実測の湯面レベルが高くなると検出精度が極端に低下し、実測値に追従できなくなっている。
それに対して、本実施形態の手法では、広範囲に亘り実測値を追従できているのが分かる。湯面レベルの実測精度が5〜10mm程度のバラツキがあることを勘案すると、本実施形態の手法により検出した湯面レベルは実測の湯面レベルと良い対応関係にあるといえる。
【0081】
以上述べたように本実施形態では、パウダー17による抜熱という、鋳型13内の溶鋼の湯面位置における熱移動の影響を捉えて湯面レベルを検出する。すなわち、y軸成分ベクトルが鋳造方向とは逆向きとなる熱流束ベクトルの、y軸方向成分の値q
yの絶対値が最大となる位置を油面レベルとして導出する。したがって、湯面レベルの検出精度を高めることができる。これにより、湯面レベルを安定に制御することが可能となり、溶鋼のオーバーフローや浮遊物の巻き込み等を防止し、鋳片の内部品質の向上を図ることができる。さらに、浸漬ノズル12の局部の溶損による孔あきトラブルや、浸漬ノズル12の先端の脱落の防止や、鋳型13内の溶鋼の偏流の検知精度の向上等、操業安定化、品質向上に寄与する。
【0082】
また、本実施形態では、連続的に値をとる内外挿
温度関数u^(x,y,t)をyで偏微分した値に、鋳型13を構成する材料の熱伝導率βを掛けた値を、熱流束ベクトルのy軸方向成分の値q
yとして導出する。したがって、離散的な値として熱流束を導出する場合に比べ、熱流束の計算精度を高めることができる。
【0083】
また、本実施形態では、内外挿
温度関数u^(x,y,t)を基底関数φ(x−x
j,y−y
j,t−t
j)と重みベクトルλ
jとの積の総和で表現する。このようにして表現される内外挿
温度関数u^(x,y,t)と、2次元非定常熱伝導方程式の鋳型13の外壁面における熱流束のつり合いを表す境界条件とを連立方程式として、重みベクトルλ
jを導出する。したがって、使用する熱電対を、y軸方向に沿って一列に配置される複数の熱電対のみにすることができる。すなわち、x軸の方向において複数列の熱電対を配置する必要がなくなる。