(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
切削インサートに焼結される切削インサート用圧粉体であって、上記切削インサートにおけるインサート中心線方向を向く上下面と、これら上下面の周りに配置される側面とを有し、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが部分的に異なる切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法において、
上記切削インサート用圧粉体の上記下面を成形する下面成形面を上端面に有する下パンチを、上記切削インサート用圧粉体の上記側面を成形する側面成形面を内周面に有するダイの孔部に下方から挿入した状態で、上記下面成形面と上記側面成形面とにより形成される成形空間に上記切削インサート用圧粉体の原料粉末を充填し、
次いで、上記切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向きの予備成形面を下端面に有する予備成形用上パンチを、その下端部を上記ダイの孔部に嵌め入れるように上記成形空間に上方から挿入して上記原料粉末を予備成形し、
この予備成形された原料粉末の上にさらに原料粉末を再充填することにより、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚い部分に、この厚さが薄い部分よりも、予備成形前の状態に対して多くの上記原料粉末が充填されるようにした上で、
上記切削インサート用圧粉体の上面を成形する上面成形面を下端面に有する最終成形用上パンチを上記成形空間に上方から挿入して、予備成形された上記原料粉末と再充填された上記原料粉末とを上記切削インサート用圧粉体に粉末成形プレスすることを特徴とする切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法。
切削インサートに焼結される切削インサート用圧粉体であって、上記切削インサートにおけるインサート中心線方向を向く上下面と、これら上下面の周りに配置される側面とを有し、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが部分的に異なる切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス装置において、
上記切削インサート用圧粉体の上記下面を成形する下面成形面を上端面に有する下パンチと、
上記切削インサート用圧粉体の上記側面を成形する側面成形面を内周面に有して上記下パンチが下方から挿入される孔部を備えたダイと、
上記切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向きの予備成形面を下端面に有して、その下端部が上記ダイの孔部に嵌め入れられるように上記下面成形面と上記側面成形面とにより形成される成形空間に上方から挿入され、上記成形空間に充填された上記切削インサート用圧粉体の原料粉末を予備成形する予備成形用上パンチと、
上記切削インサート用圧粉体の上面を成形する上面成形面を下端面に有して上記成形空間に上方から挿入され、予備成形された上記原料粉末と、この原料粉末の上に再充填された原料粉末とを上記切削インサート用圧粉体に粉末成形プレスする最終成形用上パンチとを備えたことを特徴とする切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この特許文献1に記載された切削インサートは多角形平板状のものであってその上下面も略平面状であり、従って粉末成形プレスされた切削インサート用圧粉体の上下面も略平面状となる。ところが、近年では、例えば特許第5715688号公報に記載されているように、上下面が平面状ではなくて大きく凹凸している切削インサートが製造されるようになってきており、このような切削インサートに焼結される切削インサート用圧粉体も、同じく上下面が大きく凹凸することになって上下面間の厚さが部分的に異なる形状となる。
【0005】
そして、そのような切削インサート用圧粉体を、上述のようにダイと、切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転させた形状の下端面を有する上パンチおよび下面を面対称に反転させた形状の上端面を有する下パンチによって粉末成形プレスすると、切削インサート用圧粉体の上下面間の厚さが薄い部分では切削インサート用圧粉体における原料粉末の密度が密となり、厚い部分では疎になって、原料粉末の密度にばらつきが生じてしまう。従って、そのような切削インサート用圧粉体を焼結すると、この原料粉末の密度のばらつきに起因して切削インサートに歪みや変形が生じる結果となる。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上下面が大きく凹凸して上下面間の厚さが部分的に異なる切削インサートに焼結される切削インサート用圧粉体を粉末成形プレスする際に、原料粉末の密度のばらつきが生じるのを抑制して、切削インサートに焼結しても歪みや変形が生じることのない切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法および粉末成形プレス装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法は、切削インサートに焼結される切削インサート用圧粉体であって、上記切削インサートにおけるインサート中心線方向を向く上下面と、これら上下面の周りに配置される側面とを有し、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが部分的に異なる切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法において、上記切削インサート用圧粉体の上記下面を成形する下面成形面を上端面に有する下パンチを、上記切削インサート用圧粉体の上記側面を成形する側面成形面を内周面に有するダイの孔部に下方から挿入した状態で、上記下面成形面と上記側面成形面とにより形成される成形空間に上記切削インサート用圧粉体の原料粉末を充填し、次いで、上記切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向きの予備成形面を下端面に有する予備成形用上パンチを
、その下端部を上記ダイの孔部に嵌め入れるように上記成形空間に上方から挿入して上記原料粉末を予備成形し、この予備成形された原料粉末の上にさらに原料粉末を再充填することにより、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚い部分に、この厚さが薄い部分よりも、予備成形前の状態に対して多くの上記原料粉末が充填されるようにした上で、上記切削インサート用圧粉体の上面を成形する上面成形面を下端面に有する最終成形用上パンチを上記成形空間に上方から挿入して、予備成形された上記原料粉末と再充填された上記原料粉末とを上記切削インサート用圧粉体に粉末成形プレスすることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス装置は、切削インサートに焼結される切削インサート用圧粉体であって、上記切削インサートにおけるインサート中心線方向を向く上下面と、これら上下面の周りに配置される側面とを有し、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが部分的に異なる切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス装置において、上記切削インサート用圧粉体の上記下面を成形する下面成形面を上端面に有する下パンチと、上記切削インサート用圧粉体の上記側面を成形する側面成形面を内周面に有して上記下パンチが下方から挿入される孔部を備えたダイと、上記切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向きの予備成形面を下端面に有して
、その下端部が上記ダイの孔部に嵌め入れられるように上記下面成形面と上記側面成形面とにより形成される成形空間に上方から挿入され、上記成形空間に充填された上記切削インサート用圧粉体の原料粉末を予備成形する予備成形用上パンチと、上記切削インサート用圧粉体の上面を成形する上面成形面を下端面に有して上記成形空間に上方から挿入され、予備成形された上記原料粉末と、この原料粉末の上に再充填された原料粉末とを上記切削インサート用圧粉体に粉末成形プレスする最終成形用上パンチとを備えたことを特徴とする。
【0009】
このような切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法および粉末成形プレス装置では、切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転させた形状でこの上面を成形する上面成形面を下端面に有する最終成形用上パンチが上記成形空間に挿入される前に、この上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向き、すなわち最終成形用上パンチの上面成形面とも凹凸の方向が逆向きの予備成形面を有する予備成形用上パンチが成形空間に挿入されて、原料粉末が予備成形される。
【0010】
従って、この予備成形により、成形空間内の原料粉末の上面の深さは、切削インサート用圧粉体において上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚い部分が薄い部分よりも深くなる。そして、こうして予備成形された原料粉末の上に、さらに原料粉末が再充填されることにより、原料粉末の上面が深い部分すなわち切削インサート用圧粉体の上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚い部分に、この厚さが薄い部分よりも、予備成形前の状態に対して多くの原料粉末が再充填される。
【0011】
このため、そのように予備成形された原料粉末と再充填された原料粉末とを最終成形用上パンチと下パンチによって所定の寸法、形状の切削インサート用圧粉体に粉末成形プレスする際には、このように上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚い部分に多くの原料粉末が充填され、またこの上下面間のインサート中心線方向の厚さが薄い部分には、厚い部分よりも少ない原料粉末が充填されているので、最終的に粉末成形プレスされた切削インサート用圧粉体では原料粉末の密度の均一化を図ることができる。従って、そのような切削インサート用圧粉体を焼結して製造した切削インサートにおいては、歪みや変形が生じるのを抑制することが可能となる。
【0012】
ここで、
上記切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向きである予備成形用上パンチの予備成形面に、上記切削インサート用圧粉体における上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが薄い部分から厚い部分に向かうに従い下方に突出する傾斜面を形成し、この傾斜面によって先に充填された原料粉末を圧縮して、上記上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚い部分に、この厚さが薄い部分よりも、予備成形前の状態に対して多くの原料粉末が再充填されるように予備成形すれば、予備成形された原料粉末の上面に、切削インサート用圧粉体において上下面間のインサート中心線方向の厚さが厚くなる部分から薄くなる部分に向けて段差が生じるのを防ぐことができ、原料粉末が再充填されて最終成形用上パンチにより粉末成形プレスされる切削インサート用圧粉体において原料粉末の密度を一層均一化することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、上下面に大きな凹凸があってインサート中心線方向の厚さが部分的に異なる切削インサートを焼結して製造する場合でも、切削インサート用圧粉体におけるインサート中心線方向の原料粉末の密度は均一にして、歪みや変形が生じるのを抑制することができ、高精度で高品質の切削インサートを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし
図3は、本発明の切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法および粉末成形プレス装置の一実施形態によって粉末成形プレスされた切削インサート用圧粉体を焼結することにより製造される切削インサートを示すものであり、
図4ないし
図13は、この一実施形態の切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス装置を示すものであり、この
図4ないし
図13を用いて本実施形態の粉末成形プレス方法についても説明する。
【0016】
本実施形態により粉末成形プレスされた切削インサート用圧粉体を焼結した切削インサートは、そのインサート本体1が超硬合金やサーメット、セラミックス等の硬質材料によって
図1および
図2に示すように偏六角形の板状に形成され、偏六角形状をなす上下面2、3と、これら上下面2、3の周りに配置される6つの側面4とを備えている。上下面2、3の中央には、インサート本体1を貫通する断面円形の取付孔5が開口しており、この取付孔5の中心線が上記切削インサートにおけるインサート中心線Oとなる。
【0017】
インサート本体1は、このインサート中心線O回りに120°ずつ回転対称形状であるとともに、上下面2、3に関して表裏反転対称形状である。ここで、上下面2、3において取付孔5の開口部の周りはインサート中心線Oに垂直な円環状の平面部とされており、この平面部が取付孔5内を除くインサート本体1の上下面2、3においてインサート中心線O方向において最も凹んだ部分とされている。
【0018】
上下面2、3の各6つのコーナ部は、周方向に交互に第1のコーナ部C1と第2のコーナ部C2とされており、上下面2、3同士では互いに、上面2の第1のコーナ部C1のインサート中心線O方向反対側に下面3の第1のコーナ部C1が位置し、上面2の第2のコーナ部C2のインサート中心線O方向反対側に下面3の第2のコーナ部C2が位置している。
【0019】
このうち、第1のコーナ部C1には、インサート中心線O方向から見て凸円弧等の凸曲線状をなすコーナ刃6が形成されるとともに、このコーナ刃6から上下面2、3の周方向において第1のコーナ部C1の一方の側(
図2において反時計回り方向側)に隣接する第2のコーナ部C2にかけては主切刃7が形成されている。また、上記コーナ刃6から上下面2、3の周方向において主切刃7が延びる側とは反対の他方の側(
図2において時計回り方向側)に隣接する第2のコーナ部C2にかけては副切刃8が形成されている。
【0020】
このような切削インサートは、上下面2、3のうち一方がすくい面とされるとともに、他方は図示されない刃先交換式切削工具のインサート取付座の底面への着差面とされる。そして、この着座面をインサート取付座の底面に密着させた状態で、すくい面側から取付孔5に挿通されたクランプネジが底面に形成されたネジ孔にねじ込まれることにより、刃先交換式切削工具に着脱可能に取り付けられる。
【0021】
さらに、こうして刃先交換式切削工具に取り付けられた切削インサートは、すくい面とされた上下面2、3のうちの一方における連続する1組のコーナ刃6、主切刃7、および副切刃8によって被削材の切削加工を行う。なお、上記側面4はインサート中心線Oに平行とされていて、これらコーナ刃6、主切刃7、および副切刃8の逃げ面とされ、すなわち
図1ないし
図3に示す切削インサートはネガティブタイプの切削インサートとされている。
【0022】
また、主切刃7と副切刃8は、第1のコーナ部C1に位置するコーナ刃6からそれぞれ周方向に隣接する第2のコーナ部C2に向かうに従いインサート中心線O方向に凹むように傾斜しており、インサート本体1において第1のコーナ部C1がインサート中心線O方向において最も突出した部分となるとともに、上下面2、3の外周縁においては、第2のコーナ部C2がインサート中心線O方向に最も凹んだ部分となる。さらに、上下面2、3はそれぞれ、この外周縁から取付孔5の開口部の周りの上記平面部に向かうに従いインサート中心線O方向に漸次凹むように傾斜している。
【0023】
なお、
図3に示すように、上下面2、3それぞれの第1のコーナ部C1と第2のコーナ部C2とのインサート中心線O方向の間隔をhとするとともに、上下面2、3の第1のコーナ部C1同士のインサート中心線O方向の間隔をHとしたとき、その比h/Hは例えば0.21よりも大きく設定される。
【0024】
このような切削インサートに焼結されて製造される切削インサート用圧粉体Pは、
図12および
図13に示すようにインサート本体1と略相似形で、インサート本体1よりも一回り大きな寸法を有しており、焼結されることによってインサート本体1の寸法に収縮する。ここで、
図6ないし
図13では、切削インサート用圧粉体Pにおいて焼結後の切削インサートに相当する部分には
図1ないし
図3と同じ符号の最初に符号Pをつけてあり、この切削インサートに相当する部分については同じ名称を用いて説明する。
【0025】
この切削インサート用圧粉体Pを粉末成形プレスする本実施形態の粉末成形プレス装置は、
図4ないし
図13に示すようなダイ11、下パンチ12、およびピン13と、
図6および
図7に示すような予備成形用上パンチ14と、
図9ないし
図11に示すような最終成形用上パンチ15とを備えている。なお、
図6ないし
図9においては、ダイ11および下パンチ12の下部と、予備成形用上パンチ14、および最終成形用上パンチ15の上部は図示が略されている。
【0026】
ダイ11には、切削インサート用圧粉体Pのインサート中心線POに垂直な断面における断面と等しい寸法、形状の偏六角形状の断面を有する孔部11Aが上下に貫通するように形成されており、従って孔部11Aの中心線はインサート中心線POと同軸とされる。この孔部11Aの内周面はインサート中心線POに平行とされ、切削インサート用圧粉体Pの側面P4を成形する側面成形面11Bとされる。また、ダイ11の上面11Cは、インサート中心線POに垂直な平面状である。
【0027】
下パンチ12は、その上端部が孔部11Aに嵌め込み可能な寸法、形状に形成されていて、インサート中心線PO方向に所定のストロークで上下動可能とされており、この上端部が孔部11Aに下方から嵌め込まれつつ挿入される。なお、下パンチ12を固定しておいてダイ11を上下動させることにより下パンチ12が相対的に孔部11Aに下方から挿入された状態としてもよく、ダイ11と下パンチ12の双方を上下動可能としてもよい。この下パンチ12の上端面は、その中央部を除いて、切削インサート用圧粉体Pにおける下面P3の形状と、下面P3側の取付孔P5におけるインサート中心線PC方向の深さの1/2までの形状との凹凸をインサート中心線PCに垂直な平面に関して面対称に反転した形状とされており、この上端面に切削インサート用圧粉体Pの下面P3を成形する下面成形面12Aが形成される。
【0028】
さらに、下パンチ12には、インサート中心線POに沿って下パンチ12を上下に貫通するようにインサート中心線POを中心とする一定内径の断面円形の貫通孔12Bが形成されて下面成形面12Aの中央部に開口しており、この貫通孔12Bに一定外径の断面円形をなす円柱状の上記ピン13が、やはり下方から嵌め込まれつつ挿入されて、インサート中心線PO方向に所定のストロークで上下動可能とされている。ピン13の上端面13Aは、インサート中心線POに垂直な平面状とされている。
【0029】
次に、最終成形用上パンチ15について説明すると、この最終成形用上パンチ15は、その下端部が孔部11Aに嵌め込み可能な寸法、形状に形成されていて、やはりインサート中心線PO方向に所定のストロークで上下動可能とされており、この下端部が孔部11Aに上方から嵌め込まれつつ挿入される。この最終成形用上パンチ15の下端面は、切削インサート用圧粉体Pにおける上面P2の形状と、上面P2側の取付孔P5におけるインサート中心線PC方向の深さの1/2までの形状との凹凸をインサート中心線PCに垂直な平面に関して面対称に反転した形状とされており、この下端面に切削インサート用圧粉体Pの上面P2を成形する上面成形面15Aが形成されている。
【0030】
従って、この上面成形面15Aは、上面P2においてインサート中心線PO方向に最も凹む取付孔P5の開口部周辺を成形する中央部が最も下方に突出し、切削インサート用圧粉体Pにおいてインサート中心線PO方向に最も突出する上面P2の第1のコーナ部PC1の部分が上方に最も凹むことになる。なお、最も下方に突出する上面成形面15Aの中央部には、インサート中心線PCに垂直でピン13の上端面13Aに当接可能な円形面15Bが形成されている。また、切削インサート用圧粉体Pにおけるコーナ刃P6、主切刃P7、および副切刃P8部分を成形する最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aの外周縁から円形面15Bに向けて、上面成形面15Aは漸次下方に突出するように傾斜している。
【0031】
さらに、上記予備成形用上パンチ14も、その下端部が孔部11Aに嵌め込み可能な寸法、形状に形成されていて、インサート中心線PO方向に所定のストロークで上下動可能とされている。なお、この予備成形用上パンチ14には、インサート中心線POに沿ってインサート中心線POを中心とする断面円形の収容孔14Aが形成され、この収容孔14Aはピン13の上端部が嵌め込まれて収容可能な内径とされている。
【0032】
そして、この予備成形用上パンチ14の下端面には、予備成形面14Bが形成されていて、この予備成形面14Bは、切削インサート用圧粉体Pの上面P2を面対称に反転した形状とは異なる形状とされており、従って上記最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aとも異なる形状とされている。本実施形態において、この予備成形面14Bは、切削インサート用圧粉体Pの上面P2を面対称に反転した形状、すなわち最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aの形状に対して、その凹凸の方向が逆向きとなるような形状とされている。
【0033】
ここで、本実施形態では、切削インサート用圧粉体Pにおいて上下面P2、P3の第1のコーナ部PC1同士の間隔Hが最も大きくて、この部分でインサート中心線PO方向の厚さが最も厚くなり、また上下面P2、P3の取付孔P5開口部周辺がインサート中心線PO方向に最も凹んでいて、この部分でインサート中心線PO方向の厚さが最も薄くなる。従って、本実施形態の予備成形用上パンチ14の予備成形面14Bは、切削インサート用圧粉体Pの上面P2における第1のコーナ部PC1に相当する部分を予備成形する部分が、上面P2中央部の取付孔P5開口部周辺に相当する部分を予備成形する予備成形面14Bの中央部よりも下方に突出するように形成されている。
【0034】
なお、この予備成形面14Bは、最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aをインサート中心線PCに垂直な平面に関して面対称に反転した形状とされて凹凸の方向が逆向きとされていてもよいが、本実施形態では、上面P2の第1のコーナ部PC1周辺に相当する部分を予備成形する部分が、インサート中心線POに略垂直または第1のコーナ部C1側に向かうに従い緩やかに下方に向かう第1のコーナ部C1を中心とした扇形の平面状とされていて、第2のコーナ部PC2に相当する部分を予備成形する部分と予備成形面14Bの中央部とを結ぶ部分よりも下方に突出している。
【0035】
また、予備成形面14Bにおいて、この上面P2の第2のコーナ部PC2に相当する部分を予備成形する部分と予備成形面14Bの中央部とを結ぶ部分、すなわち切削インサート用圧粉体Pにおける上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが薄い部分から、上面P2の第1のコーナ部PC1周辺に相当する部分を予備成形する上記扇形平面状の部分、すなわち切削インサート用圧粉体Pにおける上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚い部分の間には、この厚さが厚い部分に向かうに従い下方に突出する円錐面状の傾斜面14Cが形成されている。
【0036】
このような粉末成形プレス装置を用いた本発明の切削インサート用圧粉体Pの粉末成形プレス方法の一実施形態では、まず
図4および
図5に示すように下面成形面12Aがダイ11の上面11Cから所定の深さに位置するように下パンチ12を降下させるとともに、ピン13は、その上端面13Aがダイ11の上面11Cとインサート中心線PO方向に等しい位置となるように下パンチ12から突出させ、ダイ11の側面成形面11Bと下パンチ12の下面成形面12Aと、さらにピン13の外周面とにより、切削インサート用圧粉体Pの成形空間Qを形成する。
【0037】
次に、この成形空間Qに、インサート本体1を形成する超硬合金やサーメット、セラミックス等の硬質材料の原料粉末Rを充填する。ここで、この原料粉末Rの充填は、図示されないフィーダーをダイ11の上面11Cに摺接させるように水平に前進させて上面11Cにおける孔部11Aの開口部に位置させ、このフィーダーから孔部11Aに成形空間Qの内容積よりも多くの原料粉末Rを供給し、次いでフィーダーを同じくダイ11の上面11Cに摺接させるように水平に後退させることによって行われる。
【0038】
なお、このフィーダーの後退の際には、成形空間Qの内容積よりも多く供給されてダイ11の上面11Cから盛り上がった原料粉末Rがフィーダーによって擦り切られることにより、
図6に示すように充填された原料粉末Qの上面はダイ11の上面11Cおよびピン13の上端面13Aと面一となる。すなわち、本実施形態の粉末成形プレス装置の原料粉末Rを供給するフィーダー(供給手段)は、原料粉末Rをダイ11の上面11Cに沿って擦り切った状態とする擦り切り手段を備えている。これによって、成形空間Qには一定量の原料粉末Rが充填される。こうして原料粉末Rの上面が擦り切られて成形空間Qに一定量の原料粉末Rが充填された状態が、本実施形態における予備成形前の状態である。
【0039】
こうして成形空間Qに原料粉末Rが充填されたなら、
図6に示すように予備成形用上パンチ14を成形空間Q上に配置して、その下端部を上方からダイ11の孔部11Aに嵌め入れるように挿入し、その予備成形面14Bにより
図7および
図8に示すように原料粉末Rを予備成形する。なお、この予備成形用上パンチ14の挿入の前に、下パンチ12を降下させて原料粉末Rの上面をダイ11の上面11Cよりも低い位置に後退させておけば、上面11Cにおける孔部11Aの開口部から挿入の際に原料粉末Rが溢れ出るのを防ぐことができる。
【0040】
従って、この予備成形用上パンチ14による予備成形により、
図8に示すように成形空間Qに充填された原料粉末Rは、切削インサート用圧粉体Pにおいて上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚くなる部分において、インサート中心線PO方向の厚さが薄くなる部分よりも深く押し込まれるように圧縮され、原料粉末Rの上面の深さは、この上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚くなる部分が深くなる。
【0041】
そこで、こうして原料粉末Rが予備成形されたなら、予備成形用上パンチ14を上昇させて孔部11Aから引き抜いた上で成形空間Q上から撤去し、続いて最初に充填した原料粉末Rと同種、または場合によっては別種の原料粉末Rを再充填する。再充填の方法は、最初の充填の際と同様で、再充填された原料粉末Rの上面はダイ11の上面11Cと面一に擦り切られる。従って、
図9に示すように最初に充填されて予備成形された原料粉末Rの上面が深くなった切削インサート用圧粉体Pにおいて上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚くなる部分には、予備成形前の状態に対して多くの原料粉末Rが再充填される。
【0042】
このように原料粉末Rが再充填されたなら、
図9に示したように最終成形用上パンチ15を成形空間Q上に配置して、その下端部を孔部11Aに嵌め込むように挿入して降下させ、
図10および
図11に示すように下パンチ12の下面成形面12Aと最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aとの間で、最初に充填された原料粉末Rと再充填された原料粉末Rとを圧縮して粉末成形プレスすることにより、切削インサート用圧粉体Pに最終成形する。
【0043】
なお、この最終成形用上パンチ15の降下の前にも、下パンチ12を降下させて再充填された原料粉末Rの上面をダイ11の上面11Cより低い位置に後退させておけば、原料粉末Rが孔部11Aから溢れ出るのを防ぐことができる。また、この最終成形用上パンチ15の降下の途中で上面成形面15Aの上記円形面15Bはピン13の上端面13Aと当接し、それ以降は
図11に示したようにピン13が最終成形用上パンチ15とともに降下しながら粉末成形プレスが行われる。
【0044】
さらに、このようにして切削インサート用圧粉体Pが最終成形されたなら、最終成形用上パンチ15を上昇させてダイ11の孔部11Aから引き抜き、次いで
図12および
図13に示すように下パンチ12を上昇させて下面成形面12Aをダイ11の上面11Cから突出させた上で、最終成形された切削インサート用圧粉体Pを取り出す。こうして最終成形された切削インサート用圧粉体Pは焼結されて、
図1ないし
図3に示したような切削インサートが製造される。
【0045】
このように、上記構成の切削インサート用圧粉体Pの粉末成形プレス方法および粉末成形プレス装置においては、下パンチ12の下面成形面12Aと最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aとの間で原料粉末Rを粉末成形プレスして切削インサート用圧粉体Pに最終成形する前に、この最終成形される切削インサート用圧粉体Pの上面P2を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向き、すなわち最終成形用上パンチ15の上面成形面15Aとも凹凸の方向が逆向きの予備成形面14Bを有する予備成形用上パンチ14が成形空間Qに挿入されて、最初に充填された原料粉末Rが予備成形される。
【0046】
この予備成形により、成形空間Q内の原料粉末Rの上面の深さは、上述したように切削インサート用圧粉体Pにおいて上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚い部分が薄い部分よりも深くなる。そこで、このように予備成形された原料粉末Rの上に、さらに原料粉末Rを再充填することにより、最初に充填されて予備成形された原料粉末Rの上面が深い部分すなわち切削インサート用圧粉体Pの上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚い部分に、この厚さが薄い部分よりも、予備成形前の状態に対して多くの原料粉末Rが再充填される。
【0047】
従って、こうして予備成形された原料粉末Rと再充填された原料粉末Rとを最終成形用上パンチ15と下パンチ12によって所定の寸法、形状の切削インサート用圧粉体Pに粉末成形プレスする際には、上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚い部分に多くの原料粉末Rが充填され、またこの厚さが薄い部分には厚い部分よりも少ない原料粉末Rが充填されているので、最終的に粉末成形プレスされた切削インサート用圧粉体Pでは原料粉末Rの密度の均一化を図ることができる。
【0048】
このため、そのように粉末成形プレスされた切削インサート用圧粉体Pを焼結して製造した切削インサートにおいては、インサート本体1に歪みや変形が生じるのを抑制することができるので、たとえインサート本体1の上下面2、3が大きく凹凸していて上下面2、3間の厚さが部分的に異なっていても、精度の高い切削インサートを製造することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、予備成形用上パンチ14の予備成形面14Bに、切削インサート用圧粉体Pにおける上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが薄い部分を予備成形する部分から厚い部分を予備成形する部分に向かうに従い下方に突出する傾斜面14Cがこれらの部分の間に形成されており、これらの部分の間では、この傾斜面14Cによって先に充填された原料粉末Rが圧縮されて予備成形される。
【0050】
このため、この傾斜面14Cによって予備成形された原料粉末Rの上面では、切削インサート用圧粉体Pにおいて上下面P2、P3間のインサート中心線PO方向の厚さが厚くなる部分から薄くなる部分に向けて段差等が生じるのを防ぐことができ、確実に密度が均一な切削インサート用圧粉体Pを成形することが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態では、上記傾斜面14Cは略円錐面状とされて、インサート中心線POに沿った断面が直線状をなすように形成されているが、例えばこの傾斜面14Cをインサート中心線POに沿った断面が凸曲線状または凹曲線状をなすように形成して、予備成形するようにしてもよい。また、上記実施形態のような円錐面とこのような断面凸曲線状または凹曲線状の面とを組み合わせて傾斜面14Cとしてもよい。
【0052】
さらに、本実施形態では、
図1ないし
図3に示したような偏六角形の板状のインサート本体1を有するネガティブタイプの切削インサートに製造される切削インサート用圧粉体Pを粉末成形プレスする場合について説明したが、インサート本体1や切削インサート用圧粉体Pの形状が限定されることはなく、またポジティブタイプの切削インサートに製造される切削インサート用圧粉体Pを粉末成形プレスする場合にも適用可能である。さらにまた、予備成形は複数回行ってもよく、これら複数回の予備成形の間にも原料粉末Rを再充填してもよい。
【解決手段】上下面間のインサート中心線PO方向の厚さが部分的に異なる切削インサート用圧粉体の粉末成形プレス方法において、下パンチ12をダイ11の孔部11Aに下方から挿入した状態で、成形空間Qに原料粉末Rを充填し、切削インサート用圧粉体の上面を面対称に反転した形状とは凹凸の方向が逆向きの予備成形面14Bを有する予備成形用上パンチ14を成形空間Qに上方から挿入し、さらに原料粉末Rを再充填して上下面間のインサート中心線PO方向の厚さが厚い部分に薄い部分よりも、予備成形前の状態に対して多くの原料粉末Rを充填し、最終成形用上パンチを成形空間Qに上方から挿入して原料粉末Rを粉末成形プレスする。