特許第6354946号(P6354946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354946-太陽光発電システムの異常診断方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354946
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】太陽光発電システムの異常診断方法
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/00 20140101AFI20180702BHJP
【FI】
   H02S50/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-148327(P2014-148327)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-25753(P2016-25753A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】天野 哲也
【審査官】 嵯峨根 多美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−324207(JP,A)
【文献】 特開2003−133569(JP,A)
【文献】 特開2013−113739(JP,A)
【文献】 特開2012−169531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0314118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/02−31/078
H01L31/18−31/20
H01L51/42−51/48
H02S10/00−10/40
H02S30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電システムにおいて、異常を診断する設備単位の実際のI-V特性を実測することなく、当該設備単位の異常診断を行う方法であって、
異常を診断する設備単位がパワーコンディショナ単位であり、
異常を診断する設備単位で、実際の発電出力から開放電圧Voc、短絡電流Isc及び最大出力電力Pmax(ここで、最大出力電力Pmaxが得られる最大出力動作電流をImpとする)を計測するステップと、
等価回路から導かれる方程式を用いた計算により、開放電圧Voc’及び短絡電流Isc’が、それぞれ開放電圧Voc及び短絡電流Iscと一致するI-V曲線Ci(ここで、I-V曲線Ci上の最大出力電力をPmax’、この最大出力電力Pmax’が得られる最大出力動作電流をImp’とする)を求めるステップと、
最大出力電力Pmax又は/及び最大出力動作電流Impと、最大出力電力Pmax’又は/及び最大出力動作電流Imp’を比較することで、対象とする設備単位の異常診断を行うステップを有し、
該異常診断を行うステップでは、最大出力電力Pmaxと最大出力電力Pmax’との比率[Pmax/Pmax’]又は/及び最大出力動作電流Impと最大出力動作電流Imp’との比率[Imp/Imp’]が許容値を下回った時に異常と判断することを特徴とする太陽光発電システムの異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、太陽光発電システムの異常診断方法、特に多数の太陽電池モジュールで構成される太陽光発電システムに好適な異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電システムが実用化されている。1つのメガソーラーは、通常、数千枚〜数万枚の太陽電池モジュールを備えている。
太陽電池モジュールは可動部品がないため故障しにくいが、初期不良はもちろん、屋外に長期間設置されるため、一部に故障が起こる場合がある。
太陽電池モジュールの異常(故障)を検出する方法として、目視による検査、サーモメーターによる発熱の検査、テスターによる電気的特性の検査が行われている。これらの検査は、太陽電池モジュール1つ1つに対して行われるので、メガソーラーなどの大規模な太陽光発電システムでは、検査のために膨大な作業が必要となる。
【0003】
従来、太陽光発電システムの異常を効率的に診断又は検知することを目的とし、以下のような技術が提案されている。
(1)日射量と温度の情報から発電量を予想し、その予想値と実際の発電量とを比較することにより異常を検出する方法(特許文献1、2)
(2)太陽電池の電流電圧特性(I-V特性)を計測し、あらかじめ準備しておいたI-V特性と比較することにより異常を診断する方法(特許文献3)
(3)太陽光発電アレイの出力電流から電流電圧特性(I-V特性)を求め、そのI-V特性曲線の微分曲線から異常を検出する方法(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−55132号公報
【特許文献2】特開2013−93430号公報
【特許文献3】特開2007−311487号公報
【特許文献4】特開2013−239629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの従来技術のうち(1)、(2)の方法は、日射量又は温度若しくはその両方を測定する必要があるため、そのための計測器を設置する必要がある上に、これら計測器のメンテナンスを行う必要がある。このため設備コストが高く、またメンテナンスにも手間や費用がかかる。
また、(3)の方法では、I-V特性を取得するために単純な電流計や電圧計でなく、電気的なインピーダンスが可変である計測装置等が必要である。したがって、この方法も設備コストが高く、またメンテナンスにも手間や費用がかかる。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、特別な計測装置を設置することなく、太陽光発電システムの異常を簡易且つ効率的に診断することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]異常を診断する設備単位で、実際の発電出力から開放電圧Voc、短絡電流Isc及び最大出力電力Pmax(ここで、最大出力電力Pmaxが得られる最大出力動作電流をImpとする)を計測するステップと、等価回路から導かれる方程式を用いた計算により、開放電圧Voc’及び短絡電流Isc’が、それぞれ開放電圧Voc及び短絡電流Iscと一致するI-V曲線Ci(ここで、I-V曲線Ci上の最大出力電力をPmax’、この最大出力電力Pmax’が得られる最大出力動作電流をImp’とする)を求めるステップと、最大出力電力Pmax又は/及び最大出力動作電流Impと、最大出力電力Pmax’又は/及び最大出力動作電流Imp’を比較することで、対象とする設備単位の異常診断を行うステップを有することを特徴とする太陽光発電システムの異常診断方法。
【0008】
[2]上記[1]の異常診断方法において、異常診断を行うステップでは、最大出力電力Pmaxと最大出力電力Pmax’との比率[Pmax/Pmax’]又は/及び最大出力動作電流Impと最大出力動作電流Imp’との比率[Imp/Imp’]が許容値を下回った時に異常と判断することを特徴とする太陽光発電システムの異常診断方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特別な計測装置を設置することなく、太陽光発電システムの異常を簡易且つ効率的に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】太陽光発電システムにおける特定の設備単位(例えば、パワーコンディショナ単位、ストリング単位など)での電流電圧特性(I-V特性)を示す図面
図2】太陽電池の等価回路を示す図面
図3】実施例におけるパワーコンディショナ単位での電流電圧特性(I-V特性)を示す図面
【発明を実施するための形態】
【0011】
太陽電池や太陽電池を用いた太陽光発電システムの動作状態を評価するものの1つに電流電圧特性(I-V特性)がある。実際の太陽光発電システムのI-V特性を得るには、実測するという方法があるが、このI-V特性を計測するためにはインピーダンスを変化させながら測定する必要があるため、複雑な計測器が必要となる。I-V特性を得る別の手法としては、特許文献1に開示されているように、日射量や温度を実測し、それらを利用して計算により求める方法があるが、この方法では電力とは関係ない計測器が必要となる。
【0012】
これに対して本発明では、実際の太陽光発電システムのI-V特性を実測することなく(したがって、上記のような特別な計測器を用いることなく)、以下のような手法でシステムの異常を診断するものである。すなわち本発明では、(i)異常を診断する設備単位(例えば、パワーコンディショナ単位、ストリング単位など)での実際の発電出力から開放電圧Voc、短絡電流Isc及び最大出力電力Pmaxを計測する、(ii)モデル式(等価回路から導かれる方程式)を用いた計算により、開放電圧Voc’、短絡電流Isc’がそれぞれ開放電圧Voc、短絡電流Iscと一致するI-V特性(理想状態のI-V曲線)を求める、(iii)このI-V特性より最大出力電力Pmax’、最大出力動作電流Imp’を求め、それらと実際に発電出力から求めた最大出力電力Pmax、最大出力動作電流Impを比較して異常を検出する、ものであり、理想状態と実際の出力に一定以上の差がある場合に異常と判断することができる。
【0013】
以下、太陽光発電システムにおける特定の設備単位(例えば、パワーコンディショナ単位、ストリング単位など)での電流電圧特性(I-V特性)を示す図1に基づいて、本発明法の詳細を説明する。
太陽電池の発電出力は、放射照度や太陽電池の温度などの影響を受けて変動するが、本発明法では、まず、異常を診断する設備単位において、実際の発電出力から開放電圧Voc、短絡電流Isc及び最大出力電力Pmaxを計測する(第1ステップ)。ここで、最大出力電力Pmaxが得られる最大出力動作電流をImp、同じく最大出力動作電圧をVmpとする(図1)。
【0014】
一般に太陽光発電システムでは、セルと呼ばれる太陽電池の単体を複数接続(通常、直列に接続)して太陽電池モジュールを構成し、この太陽電池モジュールを複数接続(通常、直列に接続)して太陽電池ストリングを構成し、この太陽電池ストリングを複数接続(通常、並列に接続)して太陽電池アレイを構成し、また、複数の太陽電池アレイで発電した電力を系統に接続するためにパワーコンディショナ(PCS)が用いられている。このPCSは、複数の太陽電池アレイの出力をひとまとめにする機能、太陽電池出力の定電圧化と後述するようなMPPT制御を行う機能、直流を交流に変換する機能などを備えている。本発明において異常を診断する設備単位とは、以上のような太陽電池ストリング単位、太陽電池アレイ単位、パワーコンディショナ単位を指し、本発明では、これら設備単位のうちのいずれかを診断対象とする。
【0015】
太陽光発電システムのPCSでは、上述したように、直流を交流に変換する機能などのほか、電力が最大になるようなMPPT(Maximum Power Point Tracking)と呼ばれる制御が行われるので、最大出力電力Pmaxは容易に得ることができる。一方、開放電圧Vocは系統を一瞬遮断することで、また、短絡電流Iscは系統を一瞬短絡させることで、それぞれ測定することが可能である。また、例えば、ストリング単位、アレイ単位などのようにPCSを使用していない設備単位の場合には、最大出力電力Pmax、開放電圧Voc、短絡電流Iscを測定する装置が別途必要であるが、I-V特性を計測するためのインピーダンスを可変できるような複雑な装置は必要ない。
【0016】
次に、等価回路から導かれる方程式を用いた計算により、その開放電圧Voc’及び短絡電流Isc’が、それぞれ前記開放電圧Voc及び短絡電流Iscと一致するI-V曲線Ciを求める(第2ステップ)。すなわち、下記(2)式(等価回路から導かれる方程式)を用い、開放電圧Voc’及び短絡電流Isc’が、それぞれ開放電圧Voc及び短絡電流Iscと一致するまでパラメータを調整(通常、T、Wを調整)して繰り返し計算することで、理想状態のI-V曲線Ciを得る。ここで、I-V曲線Ci上の最大出力電力をPmax’、この最大出力電力Pmax’が得られる最大出力動作電流をImp’、同じく最大出力動作電圧をVmp’とする(図1)。
【0017】
太陽電池の等価回路は図2で表され、この等価回路に流れる電流Iは下記(1)式で表される。
【数1】
【0018】
上記(1)式中の各電流は、それぞれ下式で表現される。
【数2】
【0019】
したがって、等価回路に流れる電流Iは下記(2)式で表される。
【数3】
【0020】
次いで、第1ステップで実際の発電出力から計測された最大出力電力Pmax又は/及び最大出力動作電流Impと、第2ステップで理想状態として計算された最大出力電力Pmax’又は/及び最大出力動作電流Imp’を比較することにより、対象とする設備単位の異常診断を行う(第3ステップ)。すなわち、理想状態と実際の出力に一定以上の差がある場合に異常と判断できる。
【0021】
具体的には、例えば、最大出力電力Pmaxと最大出力電力Pmax’との比率[Pmax/Pmax’]又は最大出力動作電流Impと最大出力動作電流Imp’との比率[Imp/Imp’]を求め、これが許容値を下回った時に異常と判断することができ、例えば、比率[Pmax/Pmax’]では許容値を0.85以上とし、[Pmax/Pmax’]<0.85の場合に異常ありとする。つまり、太陽光発電システムの実際の最大出力が、モデル式で求めた理想I-V特性での最大出力の85%未満の場合に異常と診断する。また、例えば、比率[Imp/Imp’]では許容値を0.80以上とし、[Imp/Imp’]<0.80の場合に異常ありとする。或いは、比率[Pmax/Pmax’]と比率[Imp/Imp’]の両方を用い、[Pmax/Pmax’]<0.85、且つ[Imp/Imp’]<0.80の場合に異常ありとしてもよい。
【実施例】
【0022】
太陽電池モジュール(パネル)を96枚備えた太陽光発電所において、PCS単位を対象に異常診断を行った。本実施例では、比率[Pmax/Pmax’]の許容値を0.85以上に設定し、比率[Pmax/Pmax’]<0.85の場合に異常ありと判定した。実施例の結果を図3に示す。図3の横軸は開放電圧Vocを、縦軸は短絡電流Iscをそれぞれ“1”として相対値でグラフ化している。図3中の○はPmax’が得られる最大出力動作点(理想I-V特性の最大出力動作点)、●はPmaxが得られる最大出力動作点(太陽光発電システムで測定された最大出力動作点)を示している。
【0023】
太陽光発電所のなかで、ある1つのPCS単位を診断対象とした図3(a)の場合には、その発電出力から開放電圧Voc:290V、短絡電流Isc:45A、最大出力電力Pmax:8.5kWが計測された。上述した(2)式を用いた計算により、開放電圧Voc’及び短絡電流Isc’が、それぞれ開放電圧Voc及び短絡電流Iscと一致するI-V曲線Ciを求めた。このI-V曲線Ci上の最大出力電力Pmax’は9.8kWであった。したがって、比率[Pmax/Pmax’]=0.87であり、異常なしと判定された。
【0024】
太陽光発電所のなかで、他の1つのPCS単位を診断対象とした図3(b)の場合には、その発電出力から開放電圧Voc:280V、短絡電流Isc:42A、最大出力電力Pmax:7.1kWが計測された。上述した(2)式を用いた計算により、開放電圧Voc’及び短絡電流Isc’が、それぞれ開放電圧Voc及び短絡電流Iscと一致するI-V曲線Ciを求めた。このI-V曲線Ci上の最大出力電力Pmax’は9.5kWであった。したがって、比率[Pmax/Pmax’]=0.75であり、異常ありと判定された。この判定に基づき、当該PCS単位内の各パネル(モジュール)の出力を調べたところ、一部のパネルで出力が3割程度低下しているものが確認された。
図1
図2
図3