特許第6354964号(P6354964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354964-非水電解質二次電池 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354964
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20180702BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180702BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180702BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20180702BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0567
【請求項の数】3
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-212562(P2016-212562)
(22)【出願日】2016年10月31日
(62)【分割の表示】特願2012-237426(P2012-237426)の分割
【原出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-22142(P2017-22142A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】村井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】水谷 俊介
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−089800(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053644(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/122449(WO,A1)
【文献】 特開2011−187440(JP,A)
【文献】 特開2006−344390(JP,A)
【文献】 特開2005−011762(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/032657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物において遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1より大きく、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.44〜0.85であり、且つ、前記非水電解質は、下記一般式(1)で表される環状スルホン酸化合物を非水電解質の総質量の5質量%未満含有していることを特徴とする非水電解質二次電池。
【化5】
〔一般式(1)において、R及びRは、式(2)で表される互いに結合した基を示すか、又は、いずれか一方が一般式(3)、式(4)又は式(5)で表される基(*の部分がR又はRのいずれか一方に結合)且つ他方が水素原子を示す。Rは、ハロゲンを含んでも良い炭素数1〜3のアルキル基である。〕
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物において遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1より大きく、1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記非水電解質は、前記環状スルホン酸化合物を非水電解質の総質量の0.01質量%以上含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池、特に、正極と非水電解質に特徴を有する水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池、特にリチウム二次電池は、携帯用端末等に広く搭載されている。これらの非水電解質二次電池には、正極活物質として主にLiCoOが用いられている。しかし、LiCoOの放電容量は120〜130mAh/g程度である。
【0003】
また、非水電解質二次電池用正極活物質材料として、LiCoOと他の化合物との固溶体が知られている。α−NaFeO型結晶構造を有し、LiCoO、LiNiO及びLiMnOの3つの成分の固溶体であるLi[Co1−2xNiMn]O(0<x≦1/2)」が、2001年に発表された。前記固溶体の一例である、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150〜180mAh/gの放電容量を有しており、充放電サイクル性能の点でも優れる。
【0004】
上記のようないわゆる「LiMeO型」活物質に対し、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるいわゆる「リチウム過剰型」活物質が知られている。このような正極活物質は、Li1+αMe1−α(α>0)と表記することができる。ここで、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meをβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。この正極活物質を使用することにより放電容量が大きいリチウム二次電池が得られる。
【0005】
一方、リチウム二次電池の特性を改善するために、非水電解質に種々の添加剤を添加することが行われており、その添加剤として環状硫酸エステル化合物が公知である(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
特許文献1には、「下記一般式(1)で表される環状硫酸エステル化合物を含有する非水電解液。
【化1】
」(請求項1)
の発明が記載され、この発明によれば、「電池の容量維持性能を改善しながら、かつ、電池の充電保存時における開放電圧の低下を著しく抑制できる非水電解液、および、該非水電解液を用いたリチウム二次電池を提供することができる」(段落[0037])ことが記載されている。
【0007】
また、特許文献1には、「前記正極を構成する正極活物質としては、MoS、TiS、MnO、Vなどの遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiNiCo(1−x)〔0<x<1〕、LiFePOなどのリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物・・・等が挙げられる。」(段落[0118])と記載され、実施例においては、正極活物質としてLiCoO又はLiMnOを用い(段落[0141]、[0170])、非水電解液に、請求項1に記載された環状硫酸エステル化合物(一般式(I)のRを、一般式(II)で表される基とし、Rを、Me、Et、又は式(IV)で表される基としたもの、一般式(I)のRを、式(III)で表される基とし、RをHとしたもの)を用いて、試験をした結果が示され、初回効率を維持し、高温保存試験後の容量維持率を改善しながら、開放電圧の低下が抑制されたことが示されている(段落[0056]〜[0058]、[0166]、[0168]、[0176]、[0178][0186]、[0188]、[0203]、[0205])。
【0008】
特許文献2には、「リチウムを活物質とする負極、正極、溶質および有機溶媒からなる非水系電解液、セパレータおよび外缶を備えた非水系電解液電池において、前記有機溶媒として、式(1)で表される化合物を少なくとも一種類含み、前記正極に用いた集電体の材質および前記外缶の正極側における電解液との接液部分の材質が弁金属またはその合金であることを特徴とする非水系電解液電池。
R1−A−R2 (1)
(式中、R1 およびR2 は各々独立して、アリール基またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、もしくはアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基を表すか、R1 とR2 は互いに結合して−A−とともに不飽和結合を含んでいてもよい環状構造を形成し、Aは式(2)〜(5)のいずれかで表される構造を有する)
【化2】
」(請求項1)
の発明が記載され、この発明によれば、「二次電池の場合にはサイクル特性に優れた非水系電解液電池を提供することができる」(段落[0046])ことが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、「Aが式(5)で表される構造を有する化合物の具体例として、・・・等の鎖状硫酸エステル;エチレングリコール硫酸エステル、1,2−プロパンジオール硫酸エステル、1,3−プロパンジオール硫酸エステル、1,2−ブタンジオール硫酸エステル、1,3−ブタンジオール硫酸エステル、2,3−ブタンジオール硫酸エステル、フェニルエチレングリコール硫酸エステル、メチルフェニルエチレングリコール硫酸エステル、エチルフェニルエチレングリコール硫酸エステル等の環状硫酸エステル;および上記鎖状硫酸エステルや環状硫酸エステルのハロゲン化物を挙げることができる。」(段落[0019])、「本発明の非水系電解液電池を構成する正極には、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物材料;二酸化マンガン等の遷移金属酸化物材料;フッ化黒鉛等の炭素質材料などのリチウムを吸蔵・放出可能な材料を使用することができる。具体的には、LiFeO2 、LiCoO2 、LiNiO2 、LiMn2 4 およびこれらの非定比化合物、MnO2 、TiS2 、FeS2 、Nb3 4 、Mo3 4 、CoS2 、V2 5 、P2 5 、CrO3 、V3 3 、TeO2 、GeO2 等を用いることができる。」(段落[0032])と記載されている。
【0010】
特許文献3には、「リチウムを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、下記化学式(I)で表される環状硫酸エステルを含む非水電解液とを電池ケースに入れた後に充電を行い、前記充電により前記電池ケース内にガスを発生させ、前記ガスを前記電池ケースの外に放出させ、その後に前記電池ケースを密閉することを特徴とする非水電解液二次電池の製造方法。
【化3】
」(請求項1)
の発明が記載され、この発明により、「高いサイクル特性と電池の膨れを防止した非水電解液二次電池を提供できる」(段落[0011])ことが記載されている。
【0011】
また、特許文献3には、「上記正極に用いる正極活物質としては、リチウムを吸蔵・放出可能な化合物である、組成式LixMO2、又はLiy24(但し、Mは遷移金属であり、x、yは0≦x≦1、0≦y≦2の数字を表す。)で表される複合酸化物、スピネル構造の酸化物、層状構造の金属カルコゲン化物などを用いることができる。その具体例としては、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、LiMn24などのリチウムマンガン複合酸化物、LiNiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン・ニッケル複合酸化物、リチウムマンガン・ニッケル・コバルト複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物、又は二酸化マンガン、五酸化バナジウム、クロム酸化物などの金属酸化物、又は二硫化チタン、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが用いられる。また、これらを混合して用いてもよい。」(段落[0030])と記載され、実施例においては、正極活物質としてLiCoO2を用いること(段落[0040])が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2012/053644
【特許文献2】特開平11−162511号公報
【特許文献3】特開2006−120460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1には、ジグリコールサルフェートを含有する非水電解液をリチウム二次電池に用いることにより、電池の容量維持性能を改善しながら、かつ、電池の充電保存時における開放電圧の低下を著しく抑制できることが記載されているが、リチウム二次電池の充放電サイクル性能を向上させることは記載されていない。また、正極活物質として、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物である「リチウム過剰型」正極活物質を用いることは記載されていない。
また、特許文献2及び3には、特定の環状硫酸エステル化合物を含有する非水電解液を用いることにより、非水電解液二次電池のサイクル特性を改善することが記載されているが、正極活物質として、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物である「リチウム過剰型」正極活物質を用いることについては具体的な記載がなく、環状硫酸エステル化合物として、ジグリコールサルフェートを用いることも記載されていない。
【0014】
本発明は、上記従来技術には示されていない、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物である「リチウム過剰型」正極活物質を用いた非水電解質二次電池の充放電サイクル性能を、特定の環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質より改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
正極、負極及び非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物において遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1より大きく、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.44〜0.85であり、且つ、前記非水電解質は、下記一般式(1)で表される環状スルホン酸化合物を非水電解質の総質量の5質量%未満含有していることを特徴とする非水電解質二次電池である。
【化4】
〔一般式(1)において、R及びRは、式(2)で表される互いに結合した基を示すか、又は、いずれか一方が一般式(3)、式(4)又は式(5)で表される基(*の部分がR又はRのいずれか一方に結合)且つ他方が水素原子を示す。Rは、ハロゲンを含んでも良い炭素数1〜3のアルキル基である。〕
【0016】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1より大きく、1.5以下であることが好ましい。
【0017】
前記非水電解質は、前記環状スルホン酸化合物を非水電解質の総質量の5質量%未満含有していることが好ましく、また、0.01質量%以上含有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物である「リチウム過剰型」正極活物質を用いた非水電解質二次電池に、上記の環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を用いることにより、充放電サイクル性能が顕著に向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例に用いた角形リチウム二次電池の概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る非水電解質二次電池に用いる正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、典型的には、α−NaFeO型結晶構造を有し、Mn並びにCo及び/又はNiを含む遷移金属元素Me、並びに、Liを含有し、Li1+αMe1−α(1.0<(1+α)/(1−α)≦1.6)と表記することができるものである。このリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池に、上記一般式(1)で表される環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を用いることにより、充放電サイクル性能が向上するという効果を奏する。
一方、α−NaFeO構造を有さないリチウム遷移金属酸化物、例えば、スピネル構造を有するLiMn等を正極活物質として用いた非水電解質電池では、本発明の効果を奏さないので好ましくない。
【0021】
本発明においては、組成式Li1+αMe1−αにおいて(1+α)/(1−α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、1(α=0)より大きく(リチウム過剰型)及び1.5以下とすることで、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができるので、1<(1+α)/(1−α)≦1.5とすることが好ましい。なかでも、放電容量が特に大きく、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという観点から、1.25≦(1+α)/(1−α)≦1.5とすることがより好ましく、1.25≦(1+α)/(1−α)≦1.45とすることが特に好ましい。
「Li過剰型」正極活物質は、充放電サイクル性能が劣るが、上記一般式(1)で表される環状スルホン酸化合物を含有した非水電解質を用いることにより、充放電サイクル性能が顕著に向上する。
【0022】
また、本発明においては、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.05〜0.40とすることが好ましく、0.10〜0.30とすることがより好ましい。
【0023】
同様に、放電容量が大きく、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.44〜0.85が好ましく、0.48〜0.75がより好ましい。
【0024】
本発明に係る非水電解質二次電池に正極活物質として用いるリチウム遷移金属複合酸化物は、放電容量を向上させるために、Naを1000ppm以上含ませることが好ましい。Naの含有量は、2000〜10000ppmがより好ましい。
【0025】
Naを含有させるために、後述する水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体を作製する工程において、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を中和剤として使用し、洗浄工程でNaを残存させるか、及び、その後の焼成工程において炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を添加する方法を採用することができる。
【0026】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、Na以外のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0027】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、空間群P312あるいはR3−mに帰属される。このうち、空間群P312に帰属されるものには、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも充電を行い、結晶中のLiが脱離すると結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P312は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0028】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折パターンを元に空間群R3−mを結晶構造モデルに用いたときに(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.204°〜0.303°の範囲であるか、又は、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.266°〜0.424°の範囲であることが好ましい。こうすることにより、正極活物質の放電容量を大きくし、高率放電性能を向上させることが可能となる。なお、CuKα管球を用いたときに現れる2θ=18.6°±1°の回折ピークは、空間群P312及びR3−mではミラー指数hklにおける(003)面に、2θ=44.1°±1°の回折ピークは、空間群P312では(114)面、空間群R3−mでは(104)面にそれぞれ指数付けされる。
【0029】
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電中に構造変化しないことが好ましい。これは、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上空間群R3−mに帰属される単一相として観察されることにより確認できる。これにより、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0030】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、放電容量を向上させるために、2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50を、水酸化物前駆体から作製する場合、1〜8μmとすることが好ましく、炭酸塩前駆体から作製する場合、5〜18μmとすることが好ましい。
また、D50を5μm以上とすることが、正極場における環状スルホン酸化合物の不要な分解を抑制することができ、より充放電サイクル性能が向上することから好ましい。
【0031】
本発明に係る正極活物質のBET比表面積は、初期効率、高率放電性能が優れた非水電解質二次電池を得るために、1m/g以上が好ましく、2〜5m/gがより好ましい。
また、タップ密度は、高率放電性能が優れた非水電解質二次電池を得るために、1.25g/cc以上が好ましく、1.7g/cc以上がより好ましい。
【0032】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、炭酸塩前駆体から作製する場合、窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めた微分細孔容積が最大値を示す細孔径が30〜40nmの範囲であり、ピーク微分細孔容積が0.85mm/(g・nm)以上であることが好ましい。ピーク微分細孔容積が0.85mm/(g・nm)以上であることにより、初期効率が優れた非水電解質二次電池を得ることができる。また、ピーク微分細孔容積を1.75mm/(g・nm)以下とすることにより、初期効率に加え、放電容量が特に優れた非水電解質二次電池を得ることができるから、ピーク微分細孔容積は0.85〜1.75mm/(g・nm)であることが好ましい。
【0033】
本発明においては、上記のようなリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池に、上記一般式(1)で表される環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を用いることにより、充放電サイクル性能が向上するという効果を奏する。
一般式(1)において、R及びRのいずれか一方が式(4)で表される基且つ他方が水素原子である環状スルホン酸化合物は、ジグリコールサルフェート(DGLST)に相当し、特許文献1において、4,4’−ビス(2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオラン)として示され、1,2:3,4−ジ−O−スルファニル−メゾ−エリスリトール、1,2:3,4−ジ−O−スルファニル−D,L−スレイトールの2種類のジアステレオマーが存在すると記載されているものである。
及びRが、式(2)で表される互いに結合した基を示す環状スルホン酸化合物は、エリスリトール(エリトリトール)と同様の4価のアルコールを原料とし、スルホン酸と化合した2個の環を有するから、DGLSTと同様の化合物である。R及びRのいずれか一方が、式(5)で表される基且つ他方が水素原子である環状スルホン酸化合物も、スルホン酸と化合した2個の環を有するから、DGLSTと同様の化合物である。
及びRのいずれか一方が一般式(3)で表される基且つ他方が水素原子である環状スルホン酸化合物は、3価のアルコールを原料とし、環は1個であるが、2個のスルホン酸と化合した化合物であり、ジグリコールサルフェートと同様の効果を奏するものである。Rがメチル基の場合は、4−メチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオランであり、Rがエチル基の場合は、4−エチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオランである。
これらの中でも、非水電解質への含有量が少なくて済むことから、分子量の小さいジグリコールサルフェートが好ましい。
【0034】
上記環状スルホン酸化合物の作用機構はかならずししも明確ではない。以下に、ジグリコールサルフェート(DGLST)を含有する非水電解質を用いた場合の充放電サイクル性能改善の推定メカニズムを記載する。
α−NaFeO型結晶構造を有し、Mnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含む正極は、充放電に伴い、正極からMnが電解液中に溶出し、そのMnが負極に到達して、負極上でMnを含む被膜が形成される。このMnを含む被膜が、サイクル特性等の電池の寿命を低下させる原因になっていると考えられる。
DGLSTの還元分解電位は約1.1V(vs.Li/Li)であり、他の一般的な溶媒よりも比較的高いため、非水電解質二次電池の初回充電時に他の溶媒に先駆けて、負極上にDGLST由来の被膜が形成される。その還元分解時に、スルホン酸を含む部位が分離し、この部位が、正極からの溶解等により発生するMnを補足することにより、負極上にMnを含む被膜が形成されることを防ぐと推測される。よって、DGLSTを非水電解質に含有させることにより、サイクル特性等の非水電解質二次電池の寿命が改善するものと考えられる。
特に、Li/Me比が1.25以上のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解質二次電池では、正極からのMn溶出量が多くなりやすい傾向があるため、DGLSTがサイクル特性の改善に大きく寄与するものと考えられる。
【0035】
環状スルホン酸化合物の含有量としては、非水電解質二次電池中の非水電解質から環状スルホン酸化合物が検出される程度含まれていることが好ましい。このように、非水電解質二次電池中の非水電解質から検出される程度に環状スルホン酸化合物が含まれている場合、充放電サイクル性能を改善することが可能となる。また、非水電解質二次電池が初期活性化後(使用前、出荷時)の状態にあるときに、非水電解質から環状スルホン酸化合物が検出される程度含まれている場合、電池の使用時において、サイクル特性を十分に改善することが可能となるため、特に好ましい。
非水電解質二次電池中の非水電解質から検出される環状スルホン酸化合物の量は、0.01質量%以上、5質量%未満であることが好ましい。検出される環状スルホン酸化合物が0.01質量%以上であれば、サイクル特性を十分に改善することが可能となるため好ましい。また、検出される環状スルホン酸化合物を5質量%未満とすることで、本発明の効果を維持しつつ、非水電解質二次電池のコストを抑制することができるため好ましい。特に好ましくは、0.05質量%以上、4質量%以下である。
非水電解質に含まれる環状スルホン酸化合物の検出(定性及び定量)は、GC−MS測定やLC−MS測定により行うことが可能である。
【0036】
環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を調製するに当たり、非水電解質を構成する電解質塩、非水溶媒及び環状スルホン酸化合物の混合順序は任意である。後述の実施例においては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたのち、環状スルホン酸化合物を添加する手順により環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を調製しているが、この手順以外で調整した環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を用いたとしても、本発明の効果は発現する。また、環状スルホン酸化合物以外の化合物が非水電解質に含まれる場合も同様に混合順序は任意である。
【0037】
次に、本発明の非水電解質二次電池用正極活物質を製造する方法について説明する。
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とする活物質(酸化物)の組成通りに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1−xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0038】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが特に重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。なかでも、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0039】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10〜14とすることができ、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0040】
前記共沈前駆体は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。本発明においては、放電容量が大きい非水電解質二次電池用活物質を得るために、共沈前駆体を炭酸塩とすることが好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0041】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0042】
本発明においては、アルカリ性を保った反応槽に前記共沈前駆体の原料水溶液を連続的に滴下供給して共沈前駆体を得る反応晶析法を採用する。ここで、中和剤として、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等を使用することができるが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムと水酸化リチウム、又は、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物を使用することが好ましく、また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製する場合には、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムと炭酸リチウム、又は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物を使用することが好ましい。Naを1000ppm以上残存させるために、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸リチウム(水酸化リチウム)のモル比であるNa/Li、又は、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸カリウム(水酸化カリウム)のモル比であるNa/Kは、1/1[M]以上とすることが好ましい。Na/Li又はNa/Kを1/1[M]以上とすることにより、引き続く洗浄工程でNaが除去されすぎて1000ppm未満となってしまう虞を低減できる。
【0043】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0044】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0045】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30h以下が好ましく、25h以下がより好ましく、20h以下が最も好ましい。
【0046】
また、共沈水酸化物前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を1〜8μmとするための好ましい攪拌継続時間、共沈炭酸塩前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を5〜18μmとするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えば、共沈水酸化物前駆体については、pHを10〜12に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜10hが好ましく、pHを12〜14に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを7.5〜8.2に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜15hが好ましく、pHを8.3〜9.4に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。
【0047】
共沈前駆体の粒子を、中和剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去するが、本発明においては、Naが1000ppm以上残存するような条件で洗浄除去することが好ましい。例えば、作製した共沈前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水200mlによる洗浄回数を5回とするような条件を採用することができる。
炭酸塩前駆体は、80℃〜100℃で、空気雰囲気中、常圧下で乾燥させることが好ましい。
【0048】
本発明の非水電解質二次電池用活物質は、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0049】
本発明においては、リチウム遷移金属複合酸化物中のNaの含有量を1000ppm以上とするために、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体に含まれるNaが1000ppm以下であっても、焼成工程においてLi化合物と共にNa化合物を、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体と混合することで活物質中に含まれるNa量を1000ppm以上とすることができる。Na化合物としては炭酸ナトリウムが好ましい。
【0050】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0051】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明において、共沈水酸化物を前駆体として用いたときには焼成温度は少なくとも700℃以上とすることが好ましい。また、共沈炭酸塩を前駆体として用いたときには焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが好ましい。特に、前駆体が共沈炭酸塩である場合の最適な焼成温度は、前駆体に含まれるCo量が多いほど、より低い温度となる傾向がある。このように1次粒子を構成する結晶子を十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
本発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することにより、前駆体が共沈水酸化物である場合においては、焼成温度が650℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、650℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができること、及び、前駆体が共沈炭酸塩である場合においては、焼成温度が750℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、750℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。
【0052】
上記のように、焼成温度は、活物質の酸素放出温度に関係するが、活物質から酸素が放出される焼成温度に至らずとも、900℃以上において1次粒子が大きく成長することによる結晶化現象が見られる。これは、焼成後の活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。900℃を超えた合成温度を経て合成した活物質は1次粒子が0.5μm以上に成長しており、充放電反応中における活物質中のLi移動に不利な状態となり、充放電サイクル性能、高率放電性能が低下する。1次粒子の大きさは0.5μm未満であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
したがって、放電容量、充放電サイクル性能、高率放電性能を向上させるために、1≦モル比Li/Me≦1.6の本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とする場合、焼成温度は700〜1000℃とすることが好ましい。「リチウム過剰型」正極活物質の場合は、750〜900℃で焼成することがより好ましく、「LiMeO型」正極活物質の場合は、850〜1000℃で焼成することがより好ましい。
【0053】
本発明に係る正極活物質が、高い放電容量を備えたものとするためには、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素が層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分に存在する割合が小さいものであることが好ましい。これは、焼成工程に供する前駆体において、前駆体コア粒子のCo,Ni,Mnといった遷移金属元素が十分に均一に分布していること、及び、活物質試料の結晶化を促すための適切な焼成工程の条件を選択することによって達成できる。焼成工程に供する前駆体コア粒子中の遷移金属の分布が均一でない場合、十分な放電容量が得られないものとなる。この理由については必ずしも明らかではないが、焼成工程に供する前駆体コア粒子中の遷移金属の分布が均一でない場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分、即ちリチウムサイトに遷移金属元素の一部が存在するものとなる、いわゆるカチオンミキシングが起こることに由来するものと本発明者らは推察している。同様の推察は焼成工程における結晶化過程においても適用でき、活物質試料の結晶化が不十分であると層状岩塩型結晶構造におけるカチオンミキシングが起こりやすくなる。前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、X線回折測定結果を空間群R3−mに帰属した場合の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。本発明において、X線回折測定による前記(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、放電末において1.0以上、充電末において1.75以上であることが好ましい。前駆体の合成条件や合成手順が不適切である場合、前記ピーク強度比はより小さい値となり、しばしば1未満の値となる。
【0054】
負極活物質としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
但し、本発明においては、環状スルホン酸化合物を還元分解させる必要がある。よって、可逆電位が1V(vs.Li/Li)より高いチタン酸リチウム(LiTi12)等の活物質を使用する場合は、一度1V(vs.Li/Li)以下まで負極電位を下げることが好ましい。
【0055】
正極活物質の粉体および負極活物質の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0056】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0057】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0058】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0059】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0060】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0061】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li210Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,(CH34NBF4,(CH34NBr,(C254NClO4,(C254NI,(C374NBr,(n−C494NClO4,(n−C494NI,(C254N−maleate,(C254N−benzoate,(C254N−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0064】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C25SO22のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0065】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0066】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0067】
非水電解質二次電池の性能の向上等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲において、環状スルホン酸化合物とそれ以外の化合物を非水電解質に共存させても良い。環状スルホン酸化合物以外の化合物としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,3−プロペンスルトン、プロパンスルトン、リン酸、リン酸の化合物、等が挙げられる。これらの中でも、ビニレンカーボネートは、非水電解質二次電池の電池膨れを抑制できることから好適である。ビニレンカーボネートの添加量としては、効果的に電池膨れ抑制するために5質量%以下が好ましい。また、1,3−プロペンスルトン、プロパンスルトン、リン酸、およびリン酸の化合物の添加量は、2質量%以下が好ましい。
【0068】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0069】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0070】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0071】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0072】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0073】
本発明の非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0074】
従来の正極活物質も、本発明の活物質も、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られる非水電解質二次電池が求められる場合がある。本発明の活物質を用いると、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li)以下や4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
本願明細書に記載した合成条件及び合成手順を採用することにより、上記のような高性能の正極活物質を得ることができる。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
(「リチウム過剰型」正極活物質の作製)
硫酸コバルト7水和物14.31g、硫酸ニッケル6水和物20.96g及び硫酸マンガン5水和物65.12gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co:Ni:Mnのモル比が12.5:19.9:67.4となる2.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2Lの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、COガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCOを溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、2.0Mの炭酸ナトリウム及び0.4Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に7.9(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、100℃にて乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
【0076】
前記共沈炭酸塩前駆体2.278gに、炭酸リチウム1.000gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が134:100である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から800℃まで10時間かけて昇温し、800℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例1において用いるリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
これを、実施例1において用いる「リチウム過剰型」正極活物質とした。
【0077】
(正極の作製)
上記正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、質量比90:5:5の割合で混合した。この混合物を、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、PVdFについては、固形分が溶解分散された液を用いることによって、固形質量換算した。該塗布液を厚さ15μmのアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥した。正極塗布質量は10.5mg/cmであった。次に、ロールプレスすることによって正極板を作製した。
【0078】
(負極の作製)
一方、イオン交換水を分散媒とし、負極活物質としてのグラファイト、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)が質量比97:1:2の割合で混練分散されている負極ペーストを作製した。該負極ペーストを厚さ10μmの銅箔集電体の両方の面に塗布、乾燥した。負極塗布質量は14.0mg/cmであった。次に、ロールプレスすることによって負極板を作製した。
【0079】
(非水電解質の作製)
非水電解質としては、EC/EMC/DECの体積比が3:2:5である混合溶媒に、電解質塩であるLiPFを、その濃度が1mol/lとなるように溶解させ、この非水電解質の質量に対して0.01質量%となるようにジグリコールサルフェート(DGLST)を溶解させたものを用いた。これを実施例1において用いる非水電解質とした。
【0080】
(角形非水電解質二次電池の作製)
図1は、本実施例に用いた角形リチウム二次電池の概略断面図である。この角形リチウム二次電池1は、アルミ箔集電体に正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極板3と、銅箔集電体に負極活物質を含有する負極合剤層を有する負極板4とがセパレータ5を介して巻回された扁平巻状電極群2と、電解質塩を含有した非水電解質とを備える発電要素を幅34mm高さ50mm厚み5.2mmの電池ケース6に収納してなるものである。上記電池ケース6には、安全弁8を設けた電池蓋7がレーザー溶接によって取り付けられ、負極板4は負極リード11を介して負極端子9と接続され、正極板3は正極リード10を介して電池蓋と接続されている。
セパレータ5には、厚さ20μmのポリエチレン微多孔膜(旭化成製H6022)を用いた。
上記のようにして実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0081】
(実施例2〜9)
実施例1で用いた非水電解質において、ジグリコールサルフェート(DGLST)の添加量(質量%)を、0.05%、0.10%、0.20%、0.50%、1.00%、2.00%、3.00%、4.00%とした他は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2〜9に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0082】
(比較例1)
実施例1で用いた非水電解質において、ジグリコールサルフェート(DGLST)を添加しない他は、実施例1と同様にして、比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0083】
(比較例2)
実施例1で用いた非水電解質において、ジグリコールサルフェート(DGLST)の代わりにビニレンカーボネート(VC)を0.50質量%添加した他は、実施例1と同様にして、比較例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0084】
(比較例3)
実施例1で用いた非水電解質において、ジグリコールサルフェート(DGLST)の代わりにペンチルグリコールサルフェート(PEGLST)を0.50質量%添加した他は、実施例1と同様にして、比較例3に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0085】
(比較例4)
実施例1で用いた非水電解質において、ジグリコールサルフェート(DGLST)の代わりに1,3−プロペンスルトン(PRS)を0.50質量%添加した他は、実施例1と同様にして、比較例4に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0086】
(参考例)
(「LiMeO型」正極活物質の作製)
硫酸マンガン5水和物と硫酸ニッケル6水和物と硫酸コバルト7水和物をCo、Ni及びMnの各元素が1:1:1の比率となるようイオン交換水に溶解させ混合水溶液を作製した。その際に、その合計濃度を0.667M、体積を180mlとなるようにした。次に、1リットルのビーカーに600mlのイオン交換水を準備し、湯浴を用いて50℃に保ち、8NのNaOHを滴下することでpHを11.5に調整した。その状態でArガスを30minバブリングさせ、溶液内の溶存酸素を十分取り除いた。ビーカー内を700rpmで攪拌させ、先程の硫酸塩の混合水溶液を3ml/minのスピードで滴下した。その間温度を湯浴にて一定に保ち、pHは8N NaOHを断続的に滴下することで一定に保った。同時に還元剤として2.0Mヒドラジン水溶液50mlを0.83ml/minのスピードで滴下した。両方の滴下終了後、攪拌を止めた状態で12h以上静止することで共沈水酸化物を十分粒子成長させた。
次に、吸引ろ過により共沈生成物を取り出し、空気雰囲気中、常圧下、オーブンで100℃にて乾燥させた。乾燥後、粒径を揃えるように、直径約120mmφの乳鉢で数分間粉砕し、前駆体乾燥粉末を得た。
【0087】
得られた前駆体乾燥粉末と水酸化リチウム一水塩粉末(LiOH・H2O)を、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が1:1である混合粉体を調製した。
次に、混合粉体を6MPaの圧力でペレット成型した。ペレット成型に供した前駆体粉末の量は、合成後の生成物としての質量が3gとなるように換算して決定した。その結果、成型後のペレットは、直径25mmφ、厚さ約10−12mmであった。前記ペレットを全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉に入れ空気雰囲気中、常圧下1000℃で12h焼成した。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、乳鉢を用いて粒径を揃える程度に粉砕した。このようにして、参考例において用いるリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
これを、参考例において用いる「LiMeO型」正極活物質とした。
【0088】
(角形非水電解質二次電池の作製)
「リチウム過剰型」正極活物質の代わりに、上記の「LiMeO型」正極活物質を用いた他は、実施例6と同様にして、参考例に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0089】
(比較例5)
参考例で用いた非水電解質において、ジグリコールサルフェート(DGLST)を添加しない他は、参考例と同様にして、比較例5に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0090】
(粒子径の測定)
上記実施例1〜9及び比較例1〜4において用いたリチウム遷移金属複合酸化物は、次の条件及び手順に沿って粒度分布の測定を行った。測定装置には日機装社製Microtrac(型番:MT3000)を用いた。前記測定装置は、光学台、試料供給部及び制御ソフトを搭載したコンピューターを備えており、光学台にはレーザー光透過窓を有する湿式セルが設置される。測定原理は、測定対象試料が分散溶媒中に分散している分散液が循環している湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料からの散乱光分布を粒度分布に変換する方式である。前記分散液は試料供給部に蓄えられ、ポンプによって湿式セルに循環供給される。前記試料供給部は、常に超音波振動が加えられている。今回の測定では、分散溶媒として水を用いた。又、測定制御ソフトにはMicrotrac DHS for Win98(MT3000)を使用した。前記測定装置に設定入力する「物質情報」については、溶媒の「屈折率」として1.33を設定し、「透明度」として「透過(TRANSPARENT)」を選択し、「球形粒子」として「非球形」を選択した。試料の測定に先立ち、「Set Zero」操作を行う。「Set zero」操作は、粒子からの散乱光以外の外乱要素(ガラス、ガラス壁面の汚れ、ガラス凹凸など)が後の測定に与える影響を差し引くための操作であり、試料供給部に分散溶媒である水のみを入れ、湿式セルに分散溶媒である水のみが循環している状態でバックグラウンド操作を行い、バックグラウンドデータをコンピューターに記憶させる。続いて「Sample LD (Sample Loading)」操作を行う。Sample LD操作は、測定時に湿式セルに循環供給される分散液中の試料濃度を最適化するための操作であり、測定制御ソフトの指示に従って試料供給部に測定対象試料を手動で最適量に達するまで投入する操作である。続いて、「測定」ボタンを押すことで測定操作が行われる。前記測定操作を2回繰り返し、その平均値として測定結果がコンピューターから出力される。測定結果は、粒度分布ヒストグラム、並びに、D10、D50及びD90の各値(D10、D50及びD90は、二次粒子の粒度分布における累積体積がそれぞれ10%、50%及び90%となる粒度)として取得される。
得られたD50の値は、18μmであった。
【0091】
(比表面積の測定)
実施例1〜9及び比較例1〜4において用いたリチウム遷移金属複合酸化物は、ユアサアイオニクス社製比表面積測定装置(商品名:MONOSORB)を用いて、一点法により、活物質に対する窒素吸着量[m]を求めた。得られた吸着量(m)を活物質質量(g)で除した値をBET比表面積とした。測定に当たって、液体窒素を用いた冷却によるガス吸着を行った。また、冷却前に120℃15minの予備加熱を行った。また、測定試料の投入量は、0.5g±0.01gとした。
得られた比表面積の値は、BET比表面積が5.6m/gであった。
【0092】
(初期活性化工程)
作製した角形非水電解質二次電池を25℃に設定した恒温槽に移し、1サイクルの初期充放電工程を実施した。充放電条件は以下の通りである。
<「リチウム過剰型」正極活物質を用いた電池>実施例1〜9、比較例1〜4
充電は、電流0.2CmA、電圧4.5V、充電時間8時間の定電流定電圧充電とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
<「LiMeO型」正極活物質を用いた電池>参考例、比較例5
充電は、電流0.2CmA、電圧4.2V、充電時間8時間の定電流定電圧充電とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
【0093】
(容量確認試験)
初期活性化工程の後、引き続き、容量確認試験を実施した。充放電条件を以下に記す。
<「リチウム過剰型」正極活物質を用いた電池>実施例1〜9、比較例1〜4
充電は、電流0.2CmA、電圧4.2V、充電時間8時間の定電流定電圧充電とした。放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。また、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
<「LiMeO型」正極活物質を用いた電池>参考例、比較例5
充電は、電流0.2CmA、電圧4.2V、充電時間8時間の定電流定電圧充電とした。放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。また、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
上記放電工程において得られた各電池の放電容量を「1C放電容量」として表1に示す。
さらに、各電池の放電終了後の電池厚みを計測した結果についても、同じく表1に示す。
【0094】
(電池厚み測定)
容量確認試験後の各電池について、電池厚みの測定を行った。
容量確認試験終了後24時間経過後に、電池の長側面の中心部を当該長側面に対して略垂直な方向から(短側面の面方向に略水平な方向に)ノギスで挟み、電池厚みを測定した。この値を「サイクル前電池厚み(mm)」として表1に示す。
【0095】
(内部抵抗測定)
容量確認試験終了後24時間経過後の1kHz内部抵抗を、日置電機(株)製のHIOKI3560 AC HITESTERを用いて測定した。この値を「サイクル前内部抵抗(mΩ)」として表1に示す。
【0096】
(45℃サイクル試験)
角形非水電解質二次電池を45℃設定した恒温槽に移し、100サイクルの充放電サイクル試験を実施した。各電池における充放電条件を以下に記す。
<「リチウム過剰型」正極活物質を用いた電池>実施例1〜9、比較例1〜4
充電は、電流1.0CmA、電圧4.2V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とした。放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。全ての充電及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
<「LiMeO型」正極活物質を用いた電池>参考例、比較例5
充電は、電流1.0CmA、電圧4.2V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とした。放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。また、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
本サイクル試験の1サイクル目に得られた放電容量に対する100サイクル目に得られた放電容量の比率(「100サイクル目放電容量」/「1サイクル目放電容量」)を「サイクル容量維持率(%)」とし、表1に示す。
【0097】
サイクル試験終了後の各電池を25℃の恒温槽に移し、24時間経過後に上記と同様の方法により電池厚み測定を行った。この電池厚みを「サイクル後電池厚み(mm)」とし、表1に示す。また、「サイクル前電池厚み」に対する「サイクル後電池厚み」の比(「サイクル後電池厚み」/「サイクル前電池厚み」)を「電池厚み増加率(%)」とし、同じく表1に示す。
【0098】
電池厚み測定後、さらに、各電池の1kHz内部抵抗を測定した。得られた値を「サイクル後内部抵抗(mΩ)」として記録するとともに、「サイクル前内部抵抗」に対する比率(「サイクル後内部抵抗」/「サイクル前内部抵抗」)を算出し、「サイクル時内部抵抗増加率(%)」として表1に示す。
【0099】
(45℃放置試験)
新たに、実施例1〜9、参考例及び比較例1〜5に係る電池の組み立てを行い、前記初期活性化工程を行うことで電池を作製した。作製した電池について、容量確認試験を行い、さらに容量確認試験終了後24時間経過後、1kHz内部抵抗測定した。
次に、電流1.0CmA、電圧4.2V、充電時間3時間の定電流定電圧充電を実施した後、45℃に設定した恒温槽に移し、60日間放置した。
放置後の電池を25℃に設定した恒温槽に移し、実施例1〜9及び比較例1〜4の電池については、電流1.0CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電、参考例及び比較例5の電池については、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電を行った。
放電後24時間経過後の1kHz内部抵抗を測定した。
放置前後の内部抵抗について、以下の式により「放置時内部抵抗増加率」を算出した。結果を表2に示す。
「放置時内部抵抗増加率(%)」=「放置後内部抵抗値」/「放置前内部抵抗値」×100
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1及び表2より、遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが1より大きく、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.44〜0.85であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む「Li過剰型」正極活物質に、ジグリコールサルフェート(DGLST)を含有する非水電解質を用いた実施例1〜実施例9の電池は、DGLSTを含まない非水電解質を用いた比較例1の電池と比較して、サイクル容量維持率(充放電サイクル性能)が向上し、サイクル後内部抵抗、放置時内部抵抗が減少することがわかる。DGLSTの含有量は、0.01%〜4.00%で効果があり、0.05%〜4.00%がより好ましく、0.50%〜4.00%が特に好ましい。
これに対して、ビニレンカーボネート(VC)を含有する非水電解質を用いた比較例2の電池は、添加しない場合と比較して、電池厚み増加率は改善されるが、サイクル容量維持率は低下し、内部抵抗は高くなる。ペンチルグリコールサルフェート(PEGLST)を含有する非水電解質を用いた比較例3の電池は、含有しない場合と比較して、いずれの特性も悪くなる。1,3−プロペンスルトン(PRS)を含有する非水電解質を用いた比較例4の電池は、含有しない場合と比較して、内部抵抗は改善されるが、サイクル容量維持率は低下し、電池厚みは増加する。
「LiMeO型」正極活物質を用いた電池は、「Li過剰型」正極活物質を用いた電池より、サイクル容量維持率は高いが、DGLSTを含有する非水電解質を採用した場合(参考例)、DGLSTを含有しない非水電解質を採用した比較例5と比較してサイクル容量維持率はさらに向上し、内部抵抗はやや高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のMn、Ni及びCoを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を用い、且つ、これを特定の環状スルホン酸化合物を含有した非水電解質と組み合わせることにより、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池を提供することができるので、この非水電解質二次電池は、ハイブリッド自動車用、電気自動車用の非水電解質二次電池として有用である。
図1