特許第6354990号(P6354990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354990-汚染水の処理方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354990
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】汚染水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20180702BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   G21F9/12 501J
   G21F9/12 501C
   G21F9/12 501F
   G21F9/12 501K
   G21F9/06 511A
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-256380(P2014-256380)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-118407(P2016-118407A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176876
【弁理士】
【氏名又は名称】各務 幸樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】山下 岳史
(72)【発明者】
【氏名】田中 良明
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 雅光
(72)【発明者】
【氏名】中井 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 献
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬司
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−001952(JP,A)
【文献】 特開昭61−195400(JP,A)
【文献】 特開平08−105998(JP,A)
【文献】 特開2014−126543(JP,A)
【文献】 特開2014−016210(JP,A)
【文献】 特開平05−164896(JP,A)
【文献】 特開平07−328306(JP,A)
【文献】 米国特許第5298166(US,A)
【文献】 福島第一原子力発電所の汚染水の状況と対策について,[online],日本,東京電力株式会社,2014年12月 2日,p.1-62,[検索日 平成29年4月18日],URL,http://www.tepco.co.jp/news/2014/images/141202b.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/06
C02F 1/28
C02F 1/58−1/64
B01D 15/00−15/42
B01J 20/00−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性ストロンチウムに加えて放射性イットリウムのラジオコロイドを含む汚染水の処理方法であって、
汚染水に含まれる放射性イットリウムのラジオコロイドを活性炭により吸着処理する工程と、
上記活性炭吸着処理工程後に汚染水に含まれる放射性ストロンチウムをストロンチウム用吸着剤により吸着処理する工程と
を備えることを特徴とする汚染水の処理方法。
【請求項2】
上記活性炭吸着処理工程後に上記ストロンチウム用吸着剤吸着処理工程を行う請求項1に記載の汚染水の処理方法。
【請求項3】
上記活性炭吸着処理工程及びストロンチウム用吸着剤吸着処理工程前に、汚染水をフィルターで浄化処理する工程をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の汚染水の処理方法。
【請求項4】
上記活性炭がやし殻活性炭である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の汚染水の処理方法。
【請求項5】
上記活性炭のBET比表面積が900m/g以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の汚染水の処理方法。
【請求項6】
上記ストロンチウム用吸着剤がゼオライトである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の汚染水の処理方法。
【請求項7】
上記放射性イットリウムのラジオコロイドを吸着する活性炭を充填した活性炭吸着塔と、上記放射性ストロンチウムを吸着するストロンチウム用吸着剤を充填したストロンチウム吸着塔とを備える汚染水処理装置によって汚染水を処理する請求項1から請求項6に記載の汚染水の処理方法。
【請求項8】
上記汚染水処理装置が、上記活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔を搭載する移動可能な架台をさらに備える請求項7に記載の汚染水の処理方法
【請求項9】
上記汚染水処理装置が、複数の上記活性炭吸着塔を備え、上記複数の活性炭吸着塔が汚染水を流通可能に直列に接続され、最上流の活性炭吸着塔を除外及び交換後に交換後の新しい活性炭吸着塔を最下流に接続可能である請求項7又は請求項8に記載の汚染水の処理方法
【請求項10】
上記汚染水処理装置が、複数の上記ストロンチウム吸着塔を備え、上記複数のストロンチウム吸着塔が汚染水を流通可能に直列に接続され、最上流のストロンチウム吸着塔を除外及び交換後に交換後の新しいストロンチウム吸着塔を最下流に接続可能である請求項7、請求項8又は請求項9に記載の汚染水の処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚染水の処理方法及び汚染水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の放射性物質を含有する汚染水(廃水、事故原発炉心冷却用循環水等を含む)は、環境破壊を防止するために放射性元素を除去しなければ排出することが許されない。
【0003】
放射性物質含有汚染水の従来の処理方法は、SARRY(単純型汚染水処理システム:Simplified Active Water Retrieve and Recovery System)等によって放射性セシウム及び非放射性同位体を除去する工程と、鉄共沈処理によって有機物及びα核種(アルファ崩壊する核物質)を除去する工程と、炭酸塩沈殿処理によりカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属を除去する工程と、吸着剤を充填した吸着塔を使用する吸着処理により放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性アンチモン等の残留する放射性元素を除去する工程とを備える。
【0004】
ところで、放射性元素の中でもストロンチウムは、アルカリ土類金属に分類され、カルシウム等のストロンチウム以外のアルカリ土類金属とよく似た性質を有する。このため、炭酸塩沈殿処理ではストロンチウムもストロンチウム以外のアルカリ土類金属と共に沈殿するので、分離した沈殿物には放射性ストロンチウムも含まれる。従って、鉄共沈処理により分離される水酸化鉄スラリー及び炭酸塩沈殿処理により分離される炭酸塩スラリーは、いずれも放射性元素を含んでいるため、所定の容器に封入して放射性廃棄物として最終処分する必要がある。この結果、従来の放射性物質含有汚染水の処理方法では、多量の放射性廃棄物が排出される。
【0005】
ここで、上記のようなスラリー状の放射性廃棄物を低減するために、炭酸塩沈殿処理を行うことなく、ストロンチウム(非放射性同位体を含む)を選択的に吸着するストロンチウム用吸着剤を使用して放射性ストロンチウムを除去することも提案されている(特許第5073111号公報参照)。
【0006】
また、他にも、汚染水中の放射性ストロンチウム等を吸着剤により吸着除去する方法が提案されている(特開2002−267795号公報参照)。しかしながら、事故原発において、タンクに貯留されている汚染水から吸着剤としてゼオライトを用いて放射性ストロンチウムの除去を試みたところ、吸着剤がその吸着能力を十分に発揮できないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5073111号公報
【特許文献2】特開2002−267795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記不都合に鑑みて、本発明は、放射性ストロンチウムを含む汚染水から放射性物質を効率よく除去できる汚染水の処理方法及び汚染水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、汚染水を詳細に分析した結果、タンクに貯留されている汚染水中にはラジオコロイドが発生しており、このラジオコロイドをストロンチウム用吸着剤によって十分に吸着除去できないことを見出した。そこで、本発明者らは、ラジオコロイドを含む汚染水の処理方法及びその汚染水の処理方法を行い得る汚染水処理装置について鋭意研究を重ね、以下の本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、放射性ストロンチウムを含む汚染水の処理方法であって、汚染水を活性炭により吸着処理する工程と、汚染水をストロンチウム用吸着剤により吸着処理する工程とを備えることを特徴とする汚染水の処理方法である。
【0011】
当該汚染水の処理方法は、汚染水を活性炭により吸着処理するので、ストロンチウム用吸着剤で吸着処理できないストロンチウム以外の放射性物質、例えばラジオコロイド等を吸着除去することができる。従って、当該汚染水の処理方法は、放射性ストロンチウムを含む汚染水から放射性物質をより効率よく除去できる。
【0012】
上記活性炭吸着処理工程後に上記ストロンチウム用吸着剤吸着処理工程を行うとよい。このように、ストロンチウム用吸着剤吸着処理工程の前に活性炭吸着処理工程を行うことによって、ストロンチウム用吸着剤を閉塞させ得る例えばラジオコロイド等の付着性物質を予め除去することができ、ストロンチウム用吸着剤の能力をより確実に引き出すことができる。
【0013】
上記活性炭吸着処理工程及びストロンチウム用吸着剤吸着処理工程前に、汚染水をフィルターで浄化処理する工程をさらに備えるとよい。このように、活性炭吸着処理工程及びストロンチウム用吸着剤吸着処理工程前にフィルター浄化処理工程を備えることによって、活性炭及びストロンチウム用吸着剤の目詰まりを生じさせ得る浮遊物質を除去することができ、活性炭及びストロンチウム用吸着剤の能力をより引き出すことができる。
【0014】
上記活性炭がやし殻活性炭であるとよい。このように、やし殻活性炭を使用することによって、比較的安価に優れた処理能力が得られる。
【0015】
上記活性炭のBET比表面積としては、900m/g以上が好ましい。このように、活性炭のBET比表面積を上記下限以上とすることによって、効率よくラジオコロイド等を除去することができる。
【0016】
汚染水中でストロンチウム用吸着剤によるストロンチウム吸着を阻害し得るラジオコロイドを形成する放射性物質の主成分はイットリウム(Y−90)であると考えられる。従って、上記汚染水が放射性イットリウムのラジオコロイドを含む場合には、当該汚染水の処理方法を適用することによる処理効率の向上が顕著となる。
【0017】
上記ストロンチウム用吸着剤がゼオライトであるとよい。このように、ストロンチウム用吸着剤としてゼオライトを用いることによって、比較的安価で効率よくストロンチウムを除去できる。
【0018】
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、放射性ストロンチウムを含む汚染水を浄化する汚染水処理装置であって、活性炭を充填した活性炭吸着塔と、ストロンチウム用吸着剤を充填したストロンチウム吸着塔とを備えることを特徴とする汚染水処理装置である。
【0019】
当該汚染水処理装置は、ストロンチウム吸着塔において放射性ストロンチウムを除去すると共に、活性炭吸着塔でストロンチウム以外の放射性物質を除去することができる。このため、当該汚染水処理装置は、放射性ストロンチウムを含む汚染水から放射性物質をより効率よく除去できる。
【0020】
上記活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔を搭載する移動可能な架台をさらに備えるとよい。このように、活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔を搭載する移動可能な架台を備えることによって、汚染水を貯留するタンクの近傍に当該汚染水処理装置を容易に移動することができ、配管経路における汚染水の漏れのリスクを低減できる。
【0021】
複数の上記活性炭吸着塔を備え、上記複数の活性炭吸着塔が汚染水を流通可能に直列に接続され、最上流の活性炭吸着塔を除外及び交換後に交換後の新しい活性炭吸着塔を最下流に接続可能であるとよい。このように、複数の活性炭吸着塔を上流側から逐次交換しつつ直列に接続可能とすることで、汚染水の処理ダウンタイムを短縮することができる。
【0022】
複数の上記ストロンチウム吸着塔を備え、上記複数のストロンチウム吸着塔が汚染水を流通可能に直列に接続され、最上流のストロンチウム吸着塔を除外及び交換後に交換後の新しいストロンチウム吸着塔を最下流に接続可能であるとよい。このように、複数のストロンチウム吸着塔を上流側から逐次交換しつつ直列に接続可能とすることで、汚染水の処理ダウンタイムを短縮することができる。
【0023】
なお、「BET比表面積」とは、JIS−Z8830(2013)に準拠して測定される値である。また、「架台」とは、その上に吸着塔が配設される基台を意味し、高さの小さい板状又はフレーム状のものを含む。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、本発明の汚染水の処理方法及び汚染水処理装置は、放射性ストロンチウムを含む汚染水から放射性物質を効率よく除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態の汚染水処理装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0027】
[汚染水処理装置]
図1の汚染水処理装置は、放射性ストロンチウムを含む汚染水を処理するために使用される。当該汚染水処理装置は、2つのフィルターユニット1a,1bと、活性炭を充填した3つの活性炭吸着塔2a,2b,2cと、ストロンチウム用吸着剤を充填した3つのストロンチウム吸着塔3a,3b,3cと、これらのフィルターユニット1a,1b、活性炭吸着塔2a,2b,2c及びストロンチウム吸着塔3a,3b,3cを搭載する移動可能な架台4とを備える。
【0028】
<汚染水>
当該汚染水処理装置は、放射性ストロンチウムに加えてラジオコロイドを含む汚染水、特に放射性イットリウムのラジオコロイドを含む汚染水の処理に好適に使用される。
【0029】
<フィルターユニット>
フィルターユニット1a,1bは、活性炭吸着塔2a,2b,2c及びストロンチウム吸着塔3a,3b,3cにおける吸着処理の前に、汚染水中の粒子状物質を濾し取るために配設される。このようなフィルターユニット1a,1bとしては、例えば平均開口径0.2μm程度のメンブレンフィルター等を用いるものが好適に使用される。
【0030】
これらのフィルターユニット1a,1bは、フィルター入口三方弁5及びフィルター出口三方弁6によっていずれか1つに汚染水を流通可能なよう並列に接続される。
【0031】
<活性炭吸着塔>
活性炭吸着塔2a,2b,2cとしては、容器中に吸着剤が充填される公知の構成の吸着塔を用いることができ、吸着剤としては活性炭が使用される。
【0032】
(活性炭)
活性炭吸着塔2a,2b,2cに充填される活性炭としては、例えばやし殻、木材、おが屑等を原料とする木質系活性炭、石油、石炭等を原料とする鉱物系活性炭などが挙げられ、中でも安価で吸着力に優れるやし殻活性炭が好適に用いられる。
【0033】
上記活性炭のBET比表面積の下限としては、900m/gが好ましく、1400m/gがより好ましい。一方、上記活性炭のBET比表面積の上限としては、2200m/gが好ましく、2000m/gがより好ましい。活性炭のBET比表面積が上記下限に満たない場合、吸着能力が不足し、汚染物質を十分に除去できないおそれがある。逆に、活性炭のBET比表面積が上記上限を超える場合、活性炭が不必要に高価となるおそれがある。
【0034】
このような活性炭が充填される活性炭吸着塔2a,2b,2cは、活性炭吸着入口三方弁7a,7b,7c及び活性炭吸着出口三方弁8a,8b,8cを介して直列に接続され、順番に汚染水を流通することができるよう配設される。これらの活性炭吸着塔2a,2b,2cは、活性炭吸着入口三方弁7a,7b,7c及び活性炭吸着出口三方弁8a,8b,8cの操作により、最上流の1つを流路から除外して他の活性炭吸着塔に汚染水を流通しながら、流路から除外した活性炭吸着塔を新しいものと交換し、交換後の新しい活性炭吸着塔を流路の最下流に挿入することができるよう配管により接続される。
【0035】
具体的に説明すると、各活性炭吸着入口三方弁7a,7b,7cの1つのポートには、フィルターユニット1a,1bを通過した汚染水が供給される1次供給流路9が接続される。また、各活性炭吸着出口三方弁8a,8b,8cの1つのポートは、2次供給流路10を介してストロンチウム吸着塔3a,3b,3cに接続される。一方、第1の活性炭吸着塔2aの活性炭吸着出口三方弁8aのもう1つのポートは、第1の活性炭中間流路11aを介して第2の活性炭吸着塔2bの活性炭吸着入口三方弁7bのもう1つのポートに接続される。また、第2の活性炭吸着塔2bの活性炭吸着出口三方弁8bのもう1つのポートは、第2の活性炭中間流路11bを介して第3の活性炭吸着塔2cの活性炭吸着入口三方弁7cのもう1つのポートに接続される。また、第3の活性炭吸着塔2cの活性炭吸着出口三方弁8cのもう1つのポートは、第3の活性炭中間流路11cを介して第1の活性炭吸着塔2aの活性炭吸着入口三方弁7aのもう1つのポートに接続される。
【0036】
活性炭吸着塔2a,2b,2cがこの順に直列に接続されている場合、各活性炭吸着塔2a,2b,2cの内部の活性炭が汚染物質を吸着し、この活性炭が上流側から徐々に飽和する。最上流に接続されている活性炭吸着塔2aの活性炭の吸着能力が完全に飽和したとき、下流側の活性炭吸着塔2b,2cの活性炭は、飽和しておらず汚染物質の吸着能力に余力を残している。
【0037】
そこで、最上流に接続されている活性炭吸着塔2aの活性炭吸着入口三方弁7a及び活性炭吸着出口三方弁8aを遮断し、2番目の活性炭吸着塔2bの活性炭吸着入口三方弁7bの1次供給流路9側のポートを開いて、汚染水が1番目以外の2つの活性炭吸着塔2b,2cのみを通過するように流路構成を変更する。そして、この状態で、流路から除外されている飽和した活性炭吸着塔2aを新しい吸着塔に交換する。そして、新しく取り付けた活性炭吸着塔2aが最下流に追加されるようなバルブパターンを選択することにより、活性炭吸着塔2a,2b,2cは、下流側程飽和度が低く、吸着能力の余力が大きくなるような順番で改めて接続される。
【0038】
この後、最上流に接続されている活性炭吸着塔が飽和する度に、順次、最上流に接続されている活性炭吸着塔を流路から除外して新しい活性炭吸着塔を最下流に追加する。このようにして、当該汚染水処理装置は、汚染水の処理を継続しながら、活性炭吸着塔2a,2b,2cのうちの1つを交換することができる。
【0039】
<ストロンチウム吸着塔>
ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cとしては、容器中に吸着剤が充填される公知の構成の吸着塔を用いることができ、吸着剤としてはストロンチウムを吸着できる吸着剤、好ましくはストロンチウムを選択的に吸着できる吸着剤が使用される。
【0040】
(ストロンチウム用吸着剤)
ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cに充填されるストロンチウムを選択的に吸着できる吸着剤としては、カルシウム及びマグネシウムの共存下でもストロンチウムに対して高い吸着性能を有する材料、例えばA型ゼオライト、X型ゼオライト等が挙げられる。
【0041】
上記ストロンチウム用吸着剤が充填されるストロンチウム吸着塔3a,3b,3cは、ストロンチウム吸着入口三方弁12a,12b,12c及びストロンチウム吸着出口三方弁13a,13b,13cを介して直列に接続され、順番に汚染水を流通することができるよう配設される。これらのストロンチウム吸着塔3a,3b,3cは、上記活性炭吸着塔2a,2b,2cと同様に、ストロンチウム吸着入口三方弁12a,12b,12c及びストロンチウム吸着出口三方弁13a,13b,13cの操作により、最上流の1つを流路から除外して残りのストロンチウム吸着塔に汚染水を流通しながら、除外したストロンチウム吸着塔を新しいものと交換し、交換後の新しいストロンチウム吸着塔を流路の最下流に接続することができるよう配管される。
【0042】
具体的には、各ストロンチウム吸着入口三方弁12a,12b,12cの1つのポートには、活性炭吸着塔2a,2b,2cを通過した汚染水が供給される2次供給流路10が接続される。また、ストロンチウム吸着出口三方弁13a,13b,13cの1つのポートは、当該汚染水処理装置から処理済水を排出する排出流路14に接続される。一方、第1のストロンチウム吸着塔3aのストロンチウム吸着出口三方弁13aのもう1つのポートは、第1のストロンチウム中間流路15aを介して第2のストロンチウム吸着塔3bのストロンチウム吸着入口三方弁12bのもう1つのポートに接続される。また、第2のストロンチウム吸着塔3bのストロンチウム吸着出口三方弁13bのもう1つのポートは、第2のストロンチウム中間流路15bを介して第3のストロンチウム吸着塔3cのストロンチウム吸着入口三方弁12cのもう1つのポートに接続される。また、第3のストロンチウム吸着塔3cのストロンチウム吸着出口三方弁13cのもう1つのポートは、第3のストロンチウム中間流路15cを介して第1のストロンチウム吸着塔3aのストロンチウム吸着入口三方弁12aのもう1つのポートに接続される。
【0043】
ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのいずれかの除外、交換及び再接続の具体的な手順については、活性炭吸着塔2a,2b,2cのいずれかの除外、交換及び再接続の手順と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0044】
<架台>
架台4は、車輪を有し移動可能に構成され、トラック等の自走可能な車輛であることが好ましいが、トラクターにより牽引可能なトレーラー又は人力で移動できる荷車であってもよい。
【0045】
<汚染水処理方法>
本発明に係る放射性ストロンチウムを含む汚染水の処理方法は、図1の汚染水処理装置を使用して行うことができる。
【0046】
当該汚染水処理装置への汚染水の供給は、例えば汚染水を貯留するタンク内に浸漬される水中ポンプ、汚染水を貯留するタンクから汚染水を吸引するポンプ、汚染水の水頭等を利用することができる。また、汚染水を吸引するポンプを使用する場合、ポンプを当該汚染水処理装置の架台4上に配設してもよい。
【0047】
当該汚染水の処理方法は、汚染水をフィルターで浄化処理する工程と、フィルター浄化処理した汚染水を活性炭により吸着処理する工程と、活性炭吸着処理した汚染水をストロンチウム用吸着剤により吸着処理する工程とを備える。
【0048】
(フィルター浄化処理工程)
上記フィルター浄化処理工程は、図1の汚染水処理装置のフィルターユニット1a,1bを用いて行うことができる。
【0049】
このフィルター浄化処理工程を後述する活性炭吸着処理工程及びストロンチウム用吸着剤吸着処理工程の前に行うことにより、活性炭吸着塔2a,2b,2cの活性炭及びストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのストロンチウム用吸着剤の吸着能力を引き出すことが可能となる。具体的には、活性炭吸着塔2a,2b,2cの活性炭による放射性物質の吸着及びストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのストロンチウム用吸着剤を目詰まりさせて放射性ストロンチウムの吸着を阻害する粒子状物質等をフィルターユニット1a,1bによって予め除去することで、活性炭吸着塔2a,2b,2c及びストロンチウム吸着塔3a,3b,3cの寿命を長くできる。
【0050】
従って、このフィルター浄化処理工程により、活性炭吸着塔2a,2b,2c及びストロンチウム吸着塔3a,3b,3cの粒子状物質による目詰まりに起因する放射性物質の除去率の低下を防止することや、放射性廃棄物として処理される使用済み活性炭及び使用済み放射性ストロンチウム用吸着剤の排出量を抑制することができる。
【0051】
(活性炭吸着処理工程)
上記活性炭吸着処理工程は、図1の汚染水処理装置の活性炭吸着塔2a,2b,2cを用いて行うことができる。
【0052】
この活性炭吸着処理工程を後述するストロンチウム用吸着剤吸着処理工程の前に行うことにより、ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのストロンチウム用吸着剤を目詰まりさせて放射性ストロンチウムの吸着を阻害する他の放射性物質等、特にラジオコロイドを除去することで、ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのストロンチウム用吸着剤の吸着能力をさらに引き出すことが可能となる。具体的には、活性炭によってストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのストロンチウム用吸着剤による放射性ストロンチウムの吸着を阻害するラジオコロイド等を吸着除去することにより、ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cの寿命を長くできる。
【0053】
なお、上記ラジオコロイドとしては、放射性ストロンチウムのβ崩壊により生成される放射性イットリウムのラジオコロイドが考えられる。本発明者らの分析により、事故原発等において長期間貯留されている放射性ストロンチウム含有汚染水中には、放射性イットリウムのラジオコロイドが生成され、この放射性イットリウムのラジオコロイドがストロンチウム用吸着剤による放射性ストロンチウムの吸着を阻害することが確認された。
【0054】
さらに、本発明者らの研究では、活性炭を使用することによって、放射性イットリウムのラジオコロイドを効率よく吸着除去できることが確認された。
【0055】
従って、この活性炭吸着処理工程により、ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cのラジオコロイド等による目詰まりに起因する放射性物質の除去率の低下を防止することや、放射性廃棄物として処理される使用済み放射性ストロンチウム用吸着剤の排出量を抑制することができる。
【0056】
(ストロンチウム用吸着剤吸着処理工程)
上記ストロンチウム用吸着剤吸着処理工程は、図1の汚染水処理装置のストロンチウム吸着塔3a,3b,3cを用いて行うことができる。
【0057】
このストロンチウム用吸着剤吸着処理工程を上記活性炭吸着処理工程及び活性炭吸着処理工程の後に行うことによって、ストロンチウム用吸着剤による放射性ストロンチウムの吸着を効率よく行うことができる。
【0058】
<利点>
当該汚染水処理装置及び当該汚染水の処理方法は、活性炭吸着塔2a,2b,2cを用いて活性炭吸着処理を行うので、ストロンチウム吸着塔3a,3b,3cに充填されるストロンチウム用吸着剤の吸着能力を引き出すことができる。このため、当該汚染水処理装置及び当該汚染水の処理方法は、従来の放射性ストロンチウム吸着処理に比べて、特にラジオコロイドを含む汚染水の放射性物質を効果的に除去することができる。
【0059】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0060】
当該汚染水処理装置において、活性炭が充填される活性炭吸着塔の上流側にストロンチウム用吸着剤が充填されるストロンチウム吸着塔が配置されてもよい。このように構成した場合、活性炭吸着処理によるストロンチウム用吸着剤の延命効果は得られないが、ストロンチウム吸着塔のストロンチウム用吸着剤によって吸着除去できないラジオコロイドを活性炭吸着塔の活性炭により吸着除去することで、汚染水の放射性物質含有率をさらに低下させることができる。従って、当該汚染水の処理方法において、ストロンチウム用吸着剤吸着処理工程を活性炭吸着処理工程より先に行ってもよい。
【0061】
また、当該汚染水処理装置において、フィルターユニットは必須ではない。つまり、当該汚染水の処理方法では、フィルター浄化処理工程を省略することができる。また、フィルターユニットの数及び接続方法も自由に変更できる。例として、3以上のフィルターユニットを上記実施形態の活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔と同様に直列に接続、かつ最上流の活性炭吸着塔を除外及び交換後に交換後の新しいフィルターユニットを最下流に接続可能としてもよい。
【0062】
また、当該汚染水処理装置において、活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔の数は自由に変更でき、活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔がそれぞれ1つずつ設けられてもよい。また、活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔の接続も上記実施形態に限定されず、複数の活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔をそれぞれ並列に接続してもよい。
【0063】
また、当該汚染水処理装置において、架台は必須ではない。また、当該汚染水処理装置において、フィルターユニット、活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔の一部だけが架台に搭載されてもよく、一部又はそれぞれが異なる架台に搭載されてもよい。また、当該汚染水処理装置において、フィルターユニット、活性炭吸着塔及びストロンチウム吸着塔は、ユニック車やフォークリフト等を用いて移動可能な車輪を有しない架台の上に搭載されてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0065】
本発明の効果を確認するために、放射性物質を含む汚染水を吸着剤として各種活性炭又はゼオライトを用いて吸着処理する実験1〜8を行った。
【0066】
(汚染水)
汚染水としては、ストロンチウム90が19,400Bq/mLの濃度で含まれ、イットリウム90が20,500Bq/mLの濃度で含まれ、かつこのイットリウム90がラジオコロイドを形成していると思われる放射性汚染水を用いた。
【0067】
(吸着剤)
吸着剤としては、実験1ではやし殻活性炭1、実験2ではやし殻活性炭2、実験3ではやし殻活性炭3、実験4ではやし殻活性炭4、実験5ではやし殻活性炭5、実験6では石炭活性炭1、実験7では石炭活性炭2、実験8ではゼオライトをそれぞれ使用した。また、予め、これらの吸着剤のBET比表面積及び細孔容積を測定した。
【0068】
(BET比表面積)
BET比表面積は、JIS−Z8830(2013)に準拠して測定した。
【0069】
(細孔容積)
細孔容積は、JIS−Z8831−3(2010)に準拠して測定した。
【0070】
(実験方法)
具体的な実験方法には、吸着剤を充填した内径9mm、高さ150mmのカラムに、流量2mL/min、空間速度12h−1の条件で放射性汚染水を流通させ、出口から回収した処理水中のストロンチウム90及びイットリウム90の濃度を測定し、それぞれの除去率を算出した。
【0071】
この実験1〜8の吸着剤の上記測定結果及び汚染水吸着処理実験の結果について、まとめて表1に示す。なお表中の「−」は測定していないことを意味する。
【0072】
【表1】
【0073】
このように、実験1〜7の活性炭を用いた場合にはイットリウムを効果的に除去することができたが、実験8のゼオライトを用いた場合には、イットリウムを効果的に除去することができなかった。また、これらの実験により、BET比表面積が大きいほどイットリウム除去率が高くなる傾向があることが確認された。特に、これらの試験結果からは、BET比表面積が900m/g以上であれば比較的高いイットリウム除去率が得られ、さらにBET比表面積が1400m/g以上であれば十分なイットリウム除去率が得られると予想される。一方、細孔容積とイットリウム除去率との間に明確な相関関係は確認することができなかった。
【0074】
また、実験1〜7の吸着剤は一般にストロンチウム吸着能力を有すると認められているものであるが、実験1〜7では、いずれもストロンチウムを殆ど除去することができなかった。これは、イットリウムのラジオコロイドが吸着剤の表面を覆い、ストロンチウムの吸着を阻害することによると考えられる。従って、活性炭吸着処理の後にストロンチウム吸着剤吸着処理を行うことにより、ストロンチウムを効果的に吸着除去できると考えられる。
【0075】
なお、ストロンチウムの除去率については、実験に使用した汚染水はイットリウムの濃度が高いものであるため、汚染水中のイットリウムの濃度が低い場合には、異なる結果となると予想される。つまり、ストロンチウム吸着剤吸着処理の後に、残留するイットリウム等の放射性物質を活性炭吸着処理によって吸着除去することが有効となる場合もあると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の汚染水の処理方法及び汚染水処理装置は、放射性ストロンチウムを含む汚染水に広く利用できるが、特に、放射性イットリウムのラジオコロイドを含み得る汚染水の処理に好適に利用される。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b フィルターユニット
2a,2b,2c 活性炭吸着塔
3a,3b,3c ストロンチウム吸着塔
4 架台
5 フィルター入口三方弁
6 フィルター出口三方弁
7a,7b,7c 活性炭吸着入口三方弁
8a,8b,8c 活性炭吸着出口三方弁
9 1次供給流路
10 2次供給流路
11a,11b,11c 活性炭中間流路
12a,12b,12c ストロンチウム吸着入口三方弁
13a,13b,13c ストロンチウム吸着出口三方弁
14 排出流路
15a,15b,15c ストロンチウム中間流路
図1