【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために講じた本発明の手段は次のとおりである。
(1)本発明は、尺骨の肘頭側を骨折した場合に、尺骨内に挿入して各骨片を固定し整復する際に使用する髄内釘を有する骨接合具であって、前記髄内釘は、基端面に形成されたネジ孔と、周面に形成され、孔の両開口部が同口径であり、固定ピンまたはスクリューを挿通しうる長孔と、周面に形成され、固定ピンまたはスクリューを挿通しうる、少なくとも二以上の円孔と、を有し、前記長孔は、髄内釘の長さ方向の中央ないし基端までのいずれかの箇所に設けられ、孔の長径が髄内釘の長さ方向と同方向であり、当該長孔に挿入される固定ピンまたはスクリューの挿入角度が、髄内釘の長さ方向と直交、髄内釘の先部方向から基部方向への傾斜方向、または髄内釘の基端方向から先部方向への傾斜方向、のいずれかから任意選択しうるよう構成されており、前記円孔は、髄内釘の長さ方向の先端ないし基端までのいずれかの箇所に設けられ、当該円孔の形成方向は、髄内釘の長さ方向に対して、直交したもの、または、傾斜したもの、のいずれか、またはこれらの組み合わせであり、髄内釘の直径方向に対して、それぞれの孔が同一に重なり合っているか、または、孔の一部あるいは全部が任意の角度で交差しているもの、のいずれかである、骨接合具である。
【0013】
当該(1)の発明は、1又は2以上の箇所を骨折(完全骨折のみならず、不全骨折、複雑骨折等も含む。以下同じ。)している尺骨の整復手術において用いられる。施術者は、肘頭の皮膚切開及び当該箇所の骨を開孔し、当該開孔部から前記髄内釘を骨髄内へ挿入(以下「尺骨内へ挿入」と省略する)する。
【0014】
そして、施術者は、挿入された髄内釘の円孔又は長孔のうち、自らの施術方法に適した部位に位置する孔を通じて固定ピン又はスクリューを刺すことにより、髄内釘を尺骨へ固定し、骨折箇所(複雑骨折等の場合にあっては、尺骨から分離、剥離又は遊離した骨片であって、刺した固定ピン又はスクリューの延長線上にあるものを含む。以下同じ。)を固定する。
【0015】
更に、長孔については、施術者は、その長径方向へ任意の角度で(例えば、孔の長径方向に斜めに)固定ピン又はスクリューを刺すことができる。つまり、施術者は自らの施術方法に適した方向に固定ピン又はスクリューを刺して、尺骨へ髄内釘を固定し、骨片を固定する。
【0016】
なお、本明細書及び本特許請求の範囲において、固定ピン又はスクリューを「刺す」とは、単に突き通して刺すことと、固定ピン又はスクリューを回転させながら刺すこと、のいずれをも含む。
【0017】
(2)前記発明は、尺骨肘側外面に取着するエンドプレートと、当該エンドプレートを髄内釘基端面のネジ孔へ螺着するネジと、を有しており、前記エンドプレートは、厚さ方向に形成された一以上の貫通孔を有する基板と、当該基板から尺骨側に向けて突出し尺骨の肘頭側の外面に当接する複数の突起部と、を有し、当該基板の尺骨の反対側となる面には、突出部が無いか、または、平滑となるように形成され、当該エンドプレートの基板あるいは突起部のいずれかの一または双方が可撓性または弾性を有し、当該基板または突起部の弾力によってエンドプレートが肘頭を尺骨先部側へ押圧するように構成されており、前記ネジは、エンドプレートに形成された貫通孔のいずれかの一に挿入して使用されるものであってもよい。
【0018】
当該(2)の発明によれば、髄内釘と共にエンドプレートの使用を選択した施術者が、エンドプレートの各突起部を尺骨肘側外面に当接させ、ネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着させると、当該エンドプレートはその有する弾力によって尺骨の肘頭を尺骨先部側へ押圧する(エンドプレートが尺骨内の髄内釘の方向へ引き寄せられるとも換言できる。以下同じ。)。なお、ネジが用いられたことにより、取着の際にエンドプレートが尺骨の肘頭を押圧する力の調整又は骨折部位に間隔(隙間)を開ける場合の調整が行いやすい。
【0019】
取着されたエンドプレートは、その基板表面(尺骨の反対側となる面。以下同じ。)に突出部が無いか又は平滑であるので、術後に患者が当該箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響が軽減される。
【0020】
(3)本発明は、尺骨に挿入する髄内釘と、前記髄内釘の基端から髄内釘の長さ方向に沿って螺着するネジと、挿入後の前記髄内釘を尺骨に固定する固定ピンまたはスクリューと、を備え、尺骨の肘頭側を骨折した場合に各骨片を固定し整復するために使用する骨接合具であって、前記髄内釘は、基端面に形成されたネジ孔と、長さ方向において先端部から1/3の長さの範囲の周面に設けられた少なくとも1以上の孔である先部側孔と、長さ方向において中央部から基端部の範囲の周面に設けられた少なくとも2以上の固定ピンまたはスクリューを挿通する孔である基部側孔と、を有し、尺骨の亀裂部位もしくは骨折部位に対して、複数の基部側孔が当該亀裂部位もしくは骨折部位を介して位置するか、または、基部側孔と先部側孔が亀裂部位もしくは骨折部位を挟んで位置するように設けられており、基部側孔および先部側孔が前記固定ピンまたはスクリューの挿入角度を、髄内釘の長さ方向に対して、直交したもの、傾斜したもの、基端部から先端部を俯瞰した際に、それぞれの孔が、同一に重なり合っている又は任意の角度をもって交差しているもの、の中から任意の選択によって組み合わされた、それぞれの孔の位置関係を形成している、骨接合具である。
【0021】
当該(3)の発明に係る髄内釘を、前記(1)の発明と同様の手順で尺骨内へ挿入する。そして、施術者は、挿入された髄内釘の基部側孔と先部側孔のうち、自らの施術方法に適した部位に位置する孔を通じて固定ピン又はスクリューを刺すことにより、髄内釘を尺骨へ固定し、骨折箇所を固定する。
【0022】
(4)前記発明は、骨接合具において、更に尺骨肘側外面に取着するエンドプレートを有し、当該エンドプレートは髄内釘の基端から髄内釘の長さ方向に沿って挿入、螺着するネジが挿通する貫通孔を有し、当該ネジが当該エンドプレートに通して挿入、螺着されるものであってもよい。
【0023】
当該(4)の発明によれば、髄内釘と共に前記エンドプレートの使用を選択した施術者が、エンドプレートを尺骨肘側外面に当接させ、前記貫通孔を挿通させたネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着させる。
【0024】
(5)前記発明は、エンドプレートが、当該エンドプレートの基板の厚さ方向に形成された1つ以上の貫通孔を更に有し、かつ、当該基板から尺骨側に向けて突出し尺骨の肘頭側の外面に当接する複数の突起部と、を有し、当該付加された貫通孔が、突起部とともに、肘近傍における髄内釘の固定に用いる、固定ピンまたはスクリューを挿通する孔であるものであってもよい。
【0025】
当該(5)の発明によれば、施術者が、エンドプレートの各突起部を尺骨肘側外面に当接させ、ネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着させる。更に施術者は、必要に応じて、前記付加された貫通孔を通じて固定ピン又はスクリューを挿入及び通過させ、当該固定ピン又はスクリューを尺骨の肘頭又はその周辺部位へ刺して、肘近傍の骨折箇所の固定を強固にする。
【0026】
(6)前記(2)の発明は、エンドプレートが基板の厚さ方向に形成された1つ以上の貫通孔を更に有しており、当該付加された貫通孔が、肘近傍における髄内釘の固定に用いられる固定ピンまたはスクリューを挿通する孔であるものであってもよい。
【0027】
当該(6)の発明によれば、施術者が、必要に応じて、前記付加された貫通孔を通じて固定ピン又はスクリューを挿入及び通過させ、当該固定ピン又はスクリューを尺骨の肘頭又はその周辺部位へ刺して、肘近傍の骨折箇所の固定を強固にする。
【0028】
(7)前記(5)の発明は、エンドプレートの基板あるいは突起部のいずれかの一または双方が可撓性または弾性を有し、前記基板または突起部の弾力によってエンドプレートが肘頭を尺骨先部側へ押圧するように構成されており、当該基板の尺骨の反対側となる面は、突出部が無いか、または、平滑となるように形成されたものであってもよい。
【0029】
当該(7)の発明によれば、施術者が、エンドプレートの各突起部を尺骨肘側外面に当接させ、ネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着させると、当該エンドプレートはその有する弾力によって尺骨の肘頭を尺骨先部側へ押圧する。ネジが用いられたことにより、取着の際にエンドプレートが尺骨の肘頭を押圧する力の調整又は骨折部位に間隔(隙間)を開ける場合の調整が行いやすい。取着されたエンドプレートは、その基板表面に突出部が無いか又は平滑であるので、術後に患者が当該箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響が軽減される。
【0030】
(8)前記発明は、エンドプレートは、基板に形成された貫通孔の全部または一部の周縁部が基板表面よりも窪んでおり、装着されたネジ、固定ピンまたはスクリューの頭部が、同周縁部の窪み内に収まって基板表面よりも上に頭部頂面が出ないか、または、基板表面と頭部が面一となるように構成されているものであってもよい。
【0031】
当該(8)の発明によれば、エンドプレートの基板表面に固定ピン又はスクリューの頭部頂面が出ないか、または、基板表面と頭部が面一となり、エンドプレートの基板表面に突出部が無いか又は平滑となるため、術後に患者が当該箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響が軽減される。
【0032】
(9)前記発明は、髄内釘の基端面の形状が、彎曲形状を含む肘頭形状に沿う形状、もしくは、斜めにカットされた平面ないし彎曲形状に形成されているものであってもよい。
【0033】
当該(9)の発明によれば、前記髄内釘の基端面が肘頭部形状に沿う形状等であるので、施術者が髄内釘単体での施術方法(エンドプレートを使用しない)を選択した場合においても、挿入した髄内釘が尺骨の肘頭側から出っ張らないか又は出っ張りが生じにくい。
【0034】
(10)前記(9)の発明は、髄内釘の基端面の形状を斜めにカットする際に、5°ないし30°の角度範囲でカットされた平面形状であるものであってもよい。
【0035】
当該(10)の発明によれば、挿入した髄内釘が尺骨の肘頭側からより出っ張らないか又は出っ張りがより生じにくい。
【0036】
(11)前記(3)又は(4)発明は、基部側孔のうちの少なくとも2つの孔が尺骨の鈎状突起近傍に位置しており、当該鈎状突起近傍に位置する孔のうち、基端部に近い孔は、当該孔が鈎状突起の先端方向に向くように髄内釘の基端方向から先端方向に向かって傾斜し、先端部に近い孔は、当該孔が鈎状突起の先端方向に向くように髄内釘の先端方向から基端方向に傾斜しているものであってもよい。
【0037】
当該(11)の発明によれば、尺骨の鈎状突起近傍に位置する各基部側孔が前記方向に傾斜しているので、当該孔を通して刺した固定ピン又はスクリューの先部が鈎状突起の先端方向へ向かい誘導される。
【0038】
(12)前記発明は、基部側孔のうち、少なくとも1以上の孔が髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径であるものであってもよい。
【0039】
当該(12)の発明によれば、施術者は、挿入された髄内釘の前記孔のうち、自らの施術方法に適した部位に位置する孔を通じて固定ピン又はスクリューを刺し、更に、その長径方向へ任意の角度で(例えば、孔の長径方向に斜めに)固定ピン又はスクリューを刺すことができる。つまり、施術者は自らの施術方法に適した方向に固定ピン又はスクリューを刺して、尺骨へ髄内釘を固定し、骨片を固定する。
【0040】
(13)前記発明は、髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔の少なくとも1つが、骨折もしくは亀裂部位よりも、基端側に位置するものであってもよい。
【0041】
当該(13)の発明によれば、当該孔を通して基端側から先端側に向けて刺した固定ピン又はスクリューにより、骨折もしくは亀裂部位が固定される。
【0042】
(14)前記発明は、鈎状突起近傍に位置する2つの孔が髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径であるものであってもよい。
【0043】
当該(14)の発明によれば、当該孔に用いる固定ピン又はスクリューは、髄内釘の長さ方向であるその長径方向へ任意の角度で(例えば、孔の長径方向に斜めに)固定ピン又はスクリューを刺すことができる。つまり、施術者は自らの施術方法に適した方向に固定ピン又はスクリューを刺して、尺骨(特に鈎状突起)へ髄内釘を固定し、骨片を固定する。
【0044】
(15)前記発明は、鈎状突起近傍に位置する固定ピンまたはスクリューを挿通する孔に用いる固定ピンまたはスクリューが、当該孔を通して尺骨の鈎状突起の基端ないし先端部位へ到達し、分離しているかまたは亀裂が生じている各骨片を繋止しうる軸長を有するものであってもよい。
【0045】
当該(15)の発明によれば、鈎状突起近傍に位置する孔(長孔を含む)を通して刺した固定ピンまたはスクリューが、鈎状突起の基端ないし先端部位へ到達し、更に、分離しているかまたは亀裂が生じている各骨片を繋止しうるため、骨折部位の固定を強固にし、施術方法の選択の幅が拡がる。
【0046】
(16)前記発明は、髄内釘が、基端から先端まで至る直線状の孔を有する筒状体であるか、または、髄内釘基端から先部側に位置する長孔内あるいは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔内に至る直線状の挿通孔を有するものであってもよい。
【0047】
当該(16)の発明によれば、施術者は、髄内釘に設けられた長孔或いは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔へ固定ピン又はスクリューを刺して髄内釘を尺骨へ固定し、髄内釘基端から前記孔又は挿通孔内へ棒状物を挿入して、固定後の前記固定ピン又はスクリューを同孔の長径方向にスライドさせ、固定した尺骨を動かして、骨折部位の間隔を調節する施術方法を選択することができる。
【0048】
(17)前記発明は、髄内釘に形成された固定ピンまたはスクリューを挿通する孔の内周面、または、エンドプレートに形成された固定ピンまたはスクリューを挿通する孔の内周面、に雌ネジが設けられているものであってもよい。
【0049】
当該(17)の発明によれば、スクリューを用いて施術を行った場合、施術後のスクリューが髄内釘の各円孔の孔壁の雌ネジと螺合するので、自然に抜けるようなことはほぼ無い。
【0050】
(18)前記発明は、固定ピンまたはスクリューの頭部または基端が、尺骨周面における差し入れ部位よりも出っ張らないように形成されているものであってもよい。
【0051】
当該(18)の発明によれば、刺した固定ピン又はスクリューの基端部が尺骨周面よりも突出しないか又は大きく突出しないので、患者が当該刺し込まれた箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響が軽減される。
【0052】
(19)前記発明は、少なくとも最も遠位に位置する円孔、または、先部側孔は、髄内釘直径の鉛直方向を0°とした際の当該円孔の形成角度が10°乃至35°の範囲内であるものであってもよい。
【0053】
当該(19)の発明によれば、前記形成角度の範囲内の円孔又は先部側孔は、施術に適した複数方向から固定ピン又はスクリューを刺す作業が行いやすく、また、固定部位の安定性も向上する。
【0054】
(20)前記の発明に係るいずれかの骨接合具を用い、髄内釘のみを使用して骨折箇所の整復を行う施術、あるいは髄内釘及びエンドプレートを組み合わせて使用し骨折箇所の整復を行う施術、のいずれかを選択することができ、いずれの施術を選択した場合においても、髄内釘に設けた複数方向且つ異なる角度の円孔を用いて、自らの施術方法に適した部位へ固定ピン又はスクリューを刺すステップと、髄内釘に設けられた長孔或いは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔を用いてその長径方向へ任意の角度で固定ピン又はスクリューを刺すステップと、を含み、髄内釘のみを使用して骨折箇所の整復を行う施術を選択した場合は、更に、尺骨内へ挿入した髄内釘基端を肘頭部形状に沿う向きとなるように取り付けるステップと、を含んで、尺骨と又は尺骨及び遊離した骨片とを髄内釘に固定することで骨折箇所の固定を行う、施術方法である。
【0055】
(21)髄内釘に設けられた長孔あるいは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔を有し、かつ、髄内釘が、基端から先端まで至る直線状の孔を有する筒状体であるか、または、髄内釘基端から先部側に位置する長孔内あるいは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔内に至る直線状の挿通孔を有する、前記の発明に係る骨接合具を用い、髄内釘に設けられた長孔あるいは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔を通し、骨折もしくは亀裂部位よりも基端側に位置する尺骨の骨片に対して固定ピンまたはスクリューを髄内釘と直交する角度で刺して髄内釘を尺骨へ固定し、髄内釘基端側から直線状の孔または挿通孔内へ棒状物を挿入して押し込むことで固定後の当該固定ピンまたはスクリューを同孔の長径方向にスライドさせることで、当該固定ピンまたはスクリューにより固定した側の尺骨を動かして骨折部位の間隔を調節する、施術方法である。
【0056】
本明細書及び本願の特許請求の範囲において、骨接合具の各構成要素を形成する素材は、人体内で使用する医療機器という観点から、人体に対しての安全性を確保でき、使用に耐えうる強度を有する素材であればいかなる素材も採用することが可能である。具体的に例示すれば、生体適合性を有する材質が推奨され、かつ優れた機械的性質(軽量かつ高強度)及び耐蝕性を有するチタン(独:Titan, 英:Titanium)、チタン合金を使用するのが好ましいが、これに限定するものではなく、高強度セラミックス、ステンレス鋼等、他の金属材料又はプラスチックを採用することもできる。
【0057】
また、素材にプラスチックを用いる場合は、一定期間経過後に体内に吸収されて完治後の摘出手術が不要となることから、生体吸収性を有するものが好ましく、例えば、生体吸収性ポリマーであるポリ−L−乳酸(PLLA:poly-L-lactic acid)等のポリ乳酸が挙げられるが、これに限定するものではなく、ポリグリコール酸等の公知の生体吸収性素材を使用してもよい。
【0058】
本明細書及び本願の特許請求の範囲にいう「固定ピンまたはスクリュー」は、例えば、固定ピン又はスクリューのいずれか一種のみを選択して使用してもよいし、固定ピン又はスクリューのいずれも使用してもよい。なお、スクリューとは、例えばタッピングネジ等の軸部にねじ山を有するものが挙げられ、固定ピンとは、釘等の軸部にねじ山が無いものが挙げられ、当該固定ピン又はスクリューのほか、ネジ頭の有無を問わず同様の作用効果を有する他の公知部材であってもよい。
【0059】
固定ピンまたはスクリューの軸長は、治療部位の骨の太さに応じて適宜設定又は選択しうるが、例えば、肘頭部位の複雑骨折において鈎状突起近傍に長孔を有する髄内釘を使用して施術する場合は、鈎状突起の先端部位へ到達する軸長を有する固定ピン又はスクリューの使用が好ましい。
【0060】
また、「固定ピンまたはスクリューの頭部または基端が、尺骨周面よりも出っ張らないように形成されているもの」とは、例えば、その基端部に形成された頭部が、施術時に基端側まで刺し入れた状態において取着箇所における尺骨周面よりも出っ張らない形状であるもの、尺骨周面と面一となる形状のもの、または、その基端側に頭部を有しない構造のものが挙げられ、これらのうち1種類を用いて施術してもよいし、骨折箇所の状況に応じて複数種類を組み合わせて施術してもよい。なお、固定ピンまたはスクリューがその基端側に頭部を有しない構造のものである場合は、基端面に+又は−の溝、六角レンチ用孔若しくはヘクスローブのように星型の孔等が形成されているもの(いわゆるイモネジ、ヘッドレススクリュー)であることが好ましい。
【0061】
本明細書及び本願の特許請求の範囲における髄内釘の各部表現は、尺骨内に挿入した状態を基準としており、尺骨内に挿入した状態において肘頭側に位置する箇所が「基端」であり、基端側に位置する髄内釘の端面を「基端面」と、髄内釘の基端近傍について「基端部」又は「基部」と、それぞれ表現している。他方、尺骨内に挿入した状態において手首側に位置する箇所が「先端」であり、髄内釘の先端近傍について「先端部」又は「先部」と、それぞれ表現している。
【0062】
本明細書及び本願の特許請求の範囲における「長孔」が設けられる箇所は、前記の通り「髄内釘の長さ方向の中央ないし基端までのいずれかの箇所」であれば特に限定するものではないが、当該箇所のうち尺骨の鈎状突起近傍に位置しているものであれば、当該長孔を通じて尺骨の鈎状突起へ固定ピン又はスクリューを刺す施術にも対応しやすくなるため、より好ましい。
加えて、設けられた長孔の少なくとも一つが、骨折若しくは亀裂部位よりも基端側に位置しているものであれば、前記長孔に刺した固定ピン又はスクリューにより固定した側の尺骨を動かして骨折部位の間隔を調節する施術方法に対応しやすくなるため、より好ましい。
【発明の効果】
【0063】
本発明の骨接合具は、髄内釘に設けた複数方向且つ異なる角度の円孔、基部側孔又は先部側孔を有するので、一の器具でありながら固定ピン又はスクリューの挿入位置又は挿入方向の選択肢が増え、施術者による骨折部の状況に応じた様々な態様の施術に対応することができ、また、骨折部を固定する際の確実性が向上する。
【0064】
長孔又は孔が髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径であるものを有する前記骨接合具は、当該孔が挿入角度を任意で設定しうるので、一の器具でありながら固定ピン又はスクリューの挿入位置又は挿入角度の自由度が高く、施術者による骨折部の状況に応じた様々な態様の施術に対応することができ、また、骨折部を固定する際の確実性が向上する。
【0065】
更に尺骨肘側外面に取着するエンドプレートを有し、当該エンドプレートは髄内釘の基端から髄内釘の長さ方向に沿って挿入、螺着するネジが挿通する貫通孔を有し、当該ネジが当該エンドプレートに通して挿入、螺着される前記骨接合具は、髄内釘と共に前記エンドプレートの使用を選択した施術者が、エンドプレートを尺骨肘側外面に当接させ、前記貫通孔を挿通させたネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着できる。
【0066】
尺骨肘側外面に取着するエンドプレートと、当該エンドプレートを髄内釘基端面のネジ孔へ螺着するネジと、を有し、前記エンドプレートは、厚さ方向に形成された一以上の貫通孔を有する基板と、当該基板から尺骨側に向けて突出し尺骨の肘頭側の外面に当接する複数の突起部と、を有し、当該基板の尺骨の反対側となる面には突出部が無いか又は平滑となるように形成され、当該エンドプレートの基板あるいは突起部のいずれかの一または双方が可撓性又は弾性を有し、当該基板又は突起部の弾力によってエンドプレートが肘頭を尺骨先部側へ押圧するように構成され、前記ネジがエンドプレートに形成された貫通孔のいずれかの一に挿入して使用される前記骨接合具は、髄内釘と共にエンドプレートの使用を選択した施術者が、エンドプレートの各突起部を尺骨肘側外面に当接させ、ネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着させると、当該エンドプレートはその有する弾力によって尺骨の肘頭を尺骨先部側へ押圧する。なお、ネジが用いられたことにより、取着の際にエンドプレートが尺骨の肘頭を押圧する力の調整又は骨折部位に間隔(隙間)を開ける場合の調整が行いやすい。また、取着後のエンドプレートが基板表面に突出部が無いか又は平滑であるので、術後に患者が当該箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響が軽減される。
【0067】
髄内釘の基端面の形状が、彎曲形状を含む肘頭形状に沿う形状若しくは斜めにカットされた平面ないし彎曲形状に形成されている前記骨接合具は、施術者が髄内釘単体での施術方法を選択した場合においても、挿入した髄内釘の基端が尺骨の肘頭側から出っ張らないか又は出っ張りが生じにくい。更に、髄内釘の基端面の形状を斜めにカットする際に5°ないし30°の角度範囲でカットされた平面形状である前記骨接合具は、挿入した髄内釘の基端が尺骨の肘頭側からより出っ張らないか又は出っ張りがより生じにくい。
【0068】
基部側孔のうちの少なくとも2つの孔が尺骨の鈎状突起近傍に位置し、当該鈎状突起近傍に位置する孔のうち基端部に近い孔が鈎状突起の先端方向に向くように髄内釘の基端方向から先端方向に向かって傾斜し、先端部に近い孔が鈎状突起の先端方向に向くように髄内釘の先端方向から基端方向に傾斜している前記骨接合具は、前記の方向に傾斜した各基部側孔を通して刺した固定ピン又はスクリューの先部が鈎状突起の先端方向へ向かい誘導されるため、施術者による骨折部の状況に応じた様々な態様の施術に対応することができ、また、骨折部を固定する際の確実性が向上する。
【0069】
髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔の少なくとも1つが、骨折もしくは亀裂部位よりも、基端側に位置する前記骨接合具は、当該孔を通して基端側から先端側に向けて刺した固定ピン又はスクリューによって骨折若しくは亀裂部位が固定される。
【0070】
鈎状突起近傍に位置する2つの孔が髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径である前記骨接合具は、当該孔に用いる固定ピン又はスクリューは、髄内釘の長さ方向であるその長径方向へ任意の角度で固定ピン又はスクリューを刺すことができ、特に尺骨の鈎状突起へ固定ピン又はスクリューを刺す際に好適に使用される。
【0071】
鈎状突起近傍に位置する固定ピン又はスクリューを挿通する孔に用いる固定ピン又はスクリューが、当該孔を通して尺骨の鈎状突起の基端ないし先端部位へ到達し、分離しているかまたは亀裂が生じている各骨片を繋止しうる軸長を有する前記骨接合具は、長孔を含む鈎状突起近傍に位置する孔を通して刺した固定ピン又はスクリューが、鈎状突起の基端ないし先端部位へ到達し、更に、分離しているか又は亀裂が生じている各骨片を繋止して骨折部位の固定を強固にし、施術方法の選択の幅が拡がる。
【0072】
髄内釘が、基端から先端まで至る直線状の孔を有する筒状体であるか、または、髄内釘基端から先部側に位置する長孔内或いは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔内に至る直線状の挿通孔を有する前記骨接合具は、施術者は、髄内釘の長孔或いは髄内釘の長さ方向と同一方向に長く開口した長径とした孔へ固定ピン又はスクリューを刺して髄内釘を尺骨へ固定し、髄内釘基端から当該孔又は挿通孔内へ棒状物を挿入して、固定後の前記固定ピン又はスクリューを同孔の長径方向にスライドさせ、固定した尺骨を動かして、骨折部位の間隔を調節する施術方法の選択が可能となる。
【0073】
髄内釘に形成された固定ピン又はスクリューを挿通する孔の内周面、または、エンドプレートに形成された固定ピン又はスクリューを挿通する孔の内周面、に雌ネジが設けられている前記骨接合具は、スクリューを用いて施術を行った場合、施術後のスクリューが髄内釘の各円孔の孔壁の雌ネジと螺合するので、自然に抜けるようなことはほぼ無い。
【0074】
固定ピンまたはスクリューの頭部または基端が、尺骨周面における差し入れ部位よりも出っ張らないように形成されている前記骨接合具は、刺した固定ピン又はスクリューの基端部が尺骨周面よりも突出しないか又は大きく突出しないので、患者が当該刺し込まれた箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響が軽減される。
【0075】
少なくとも最も遠位に位置する円孔又は先部側孔が、髄内釘直径の鉛直方向を0°とした際の当該円孔の形成角度が10°乃至35°の範囲内である前記骨接合具は、当該円孔又は先部側孔の形成角度が前記範囲内であるため、施術に適した複数方向から固定ピン又はスクリューを刺す作業が行いやすく、また、固定部位の安定性も向上する。
【0076】
エンドプレートが、当該エンドプレートの基板の厚さ方向に形成された1つ以上の貫通孔を更に有し、かつ、当該基板から尺骨側に向けて突出し尺骨の肘頭側の外面に当接する複数の突起部と、を有し、当該付加された貫通孔が、突起部とともに、肘近傍における髄内釘の固定に用いる、固定ピンまたはスクリューを挿通する孔である前記骨接合具は、施術者が、エンドプレートの各突起部を尺骨肘側外面に当接させ、ネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着できる。更に施術者は、必要に応じて、前記付加された貫通孔を通じて固定ピン又はスクリューを挿入及び通過させ、当該固定ピン又はスクリューを尺骨の肘頭又はその周辺部位へ刺して、肘近傍の骨折箇所の固定を強固にできる。
【0077】
エンドプレートが基板の厚さ方向に形成された1つ以上の貫通孔を更に有しており、当該付加された貫通孔が、肘近傍における髄内釘の固定に用いられる固定ピンまたはスクリューを挿通する孔である前記骨接合具は、施術者が必要に応じて、前記付加された貫通孔を通じて固定ピン又はスクリューを挿入及び通過させ、当該固定ピン又はスクリューを尺骨の肘頭又はその周辺部位へ刺して、肘近傍の骨折箇所の固定を強固にできる。
【0078】
エンドプレートの基板又は突起部のいずれかの一または双方が可撓性又は弾性を有し、前記基板又は突起部の弾力によってエンドプレートが肘頭を尺骨先部側へ押圧するように構成されており、当該基板の尺骨の反対側となる面には、突出部が無いか又は平滑となるように形成された前記骨接合具は、施術者が、エンドプレートの各突起部を尺骨肘側外面に当接させ、ネジにより当該エンドプレートを髄内釘へ螺着させると、当該エンドプレートはその有する弾力によって尺骨の肘頭を尺骨先部側へ押圧する。ネジが用いられたことにより、取着の際にエンドプレートが尺骨の肘頭を押圧する力の調整又は骨折部位に間隔(隙間)を開ける場合の調整が行いやすい。取着されたエンドプレートは、その基板表面に突出部が無いか又は平滑であるので、術後に患者が当該箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響を軽減する。
【0079】
エンドプレートが基板に形成された貫通孔の全部または一部の周縁部が基板表面よりも窪んでおり、装着されたネジ、固定ピンまたはスクリューの頭部が、同周縁部の窪み内に収まって基板表面よりも上に頭部頂面が出ないか、または、基板表面と頭部が面一となるように構成されている前記骨接合具は、エンドプレートの基板表面に固定ピン又はスクリューの頭部頂面が出ないか、または、基板表面と頭部が面一となり、エンドプレートの基板表面に突出部が無いか又は平滑となるため、術後に患者が当該箇所に感じる違和感や、褥瘡の発生可能性、周辺の腱等への影響を軽減する。
【0080】
髄内釘の基端面の形状が、彎曲形状を含む肘頭形状に沿う形状、もしくは、斜めにカットされた平面ないし彎曲形状に形成されている前記骨接合具は、施術者が髄内釘単体での施術方法(エンドプレートを使用しない)を選択した場合においても、前記形状等により挿入した髄内釘基端が尺骨の肘頭側から出っ張らないか又は出っ張りが生じにくい。