(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の複数の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0027】
<水洗大便器装置の全体構成>
本発明の実施形態に係る水洗大便器装置について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1は、水洗大便器装置FTの断面図であって、水洗大便器装置FTをその左右方向に垂直な面で切断した場合の断面を示している。
図2は、水洗大便器装置FTの上面図である。
図2では、後に説明するタンク20の内部構造を示すため、タンク20の上蓋201を取り外した状態を描いている。
【0028】
図1及び
図2に示したように、水洗大便器装置FTは、大便器本体10と、大便器本体10の後方側(
図1では右側、
図2では上側)において大便器本体10の上面101に設置されたタンク20と、を備えている。水洗大便器装置FTは、大便器本体10によって汚物を受け止めて、当該汚物を、タンク20から供給される水(洗浄水)によって排水管SWに排出する装置である。
【0029】
尚、以下の説明においては、特に断らない限り、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て右側(
図2では左側)のことを「右側」と称し、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て左側のことを「左側」(
図2では右側)と称することとする。また、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て前方側(
図1では左側、
図2では下側)のことを「前側」又は「前方側」と称し、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て後方側(
図1では右側、
図2では上側)のことを「後側」又は「後方側」と称することとする。
【0030】
大便器本体10は、ボウル部110と、リム部120と、導水路130と、排水トラップ管路140と、を有している。ボウル部110は、上方から落下する汚物を一時的に受け止める部分である。リム部120は、ボウル部110の上縁部に形成されており、
図1に示したように、ボウル部110の内側面の一部を外周側に向けて後退させたような形状となっている。後に説明するように、リム部120は、ボウル部110に向けて供給された水が旋回して流れる流路となっている。リム部120は、ボウル部110の上縁に沿って一周するような略円形(上面視)の流路として形成されている。
【0031】
導水路130は、タンク20から供給された水をボウル部110に導くために、大便器本体10の内部に形成された流路である。導水路130は、その一端が大便器本体10の上面101に開口しており、タンク20から供給される水の入口131となっている。入口131が形成されている位置は、大便器本体10の上面101のうち後方側の部分であり、且つ左右方向における中央の部分である。
【0032】
導水路130は、その下流側において二つの流路(第一導水路132、第二導水路134)に分岐している。一方の流路である第一導水路132は、その下流側の端部がリム部120のうち右側の部分において開口しており、当該開口が水の出口(吐水部133)となっている。タンク20から入口131に水が供給されると、その一部は第一導水路132の内部を通り、吐水部133から噴出してリム部120に供給される。
【0033】
他方の流路である第二導水路134は、その下流側の端部がリム部120のうち左側且つ後方寄りの部分において開口しており、当該開口が水の出口(吐水部135)となっている。タンク20から入口131に水が供給されると、その一部は第二導水路134の内部を通り、吐水部135から噴出してリム部120に供給される。
【0034】
吐水部133から水が噴出する方向は、略円形の流路として形成されたリム部120の円周に沿う方向であり、且つ上面視において反時計回りの方向となっている。吐水部135から水が噴出する方向も、略円形の流路として形成されたリム部120の円周に沿う方向であり、且つ上面視において反時計回りの方向となっている。
図2において矢印で示したように、吐水部133及び吐水部135からリム部120に噴出した水は、いずれもリム部120に沿って反時計回りに旋回して流れながら、リム部120の全体からボウル部110に向けて流下する。
【0035】
排水トラップ管路140は、ボウル部110の下端と排水管SWとを接続する流路である。排水トラップ管路140は、ボウル部110の下端から下流に向かう方向に沿って上り勾配となるように形成されている上昇流路141と、上昇流路141の上端から下流に向かう方向に沿って下り勾配となるように形成されている下降流路142とを有している。このような構成により、ボウル部110の下部から上昇流路141の下部に亘る部分には水を貯留することが可能となっており、貯留した水によって封水WTが形成されている。下降流路142の下端には排水管SWが接続されている。排水管SWは建物の内部に配置された配管であって、その下流側の端部が不図示の下水管に接続されている。
【0036】
タンク20からボウル部110に向けて水が供給されると、上記のように、当該水はリム部120を旋回して流れながら、リム部120の全体からボウル部110に向けて流下する。水はボウル部110に対して上方から追加され、ボウル部110の下端部から上昇流路141及び下降流路142を通って排出される。その結果、ボウル部110に貯留されている水(封水WT)には下向きの流れが生じることとなる。
【0037】
ボウル部110において一時的に受け止められていた汚物は、上方のリム部120から供給される水によって下方に向けて押し込まれ、ボウル部110の下端に向かって移動する。その後、汚物は水流によって上昇流路141を通り下降流路142に到達して、水と共に排水管SWに向けて落下する。
【0038】
タンク20は内部に水が貯留された容器であって、当該水を導水路130の入口131に供給するためのものである。タンク20は、第一タンク部210と、第一タンク部210の底壁211の一部を下方に伸ばすように形成された第二タンク部220とを有している。第一タンク部210と第二タンク部220はいずれも略直方体の容器であって、両者の内部空間が互いに連通している。第二タンク部220は、第一タンク部210の底壁211のうち後方側の部分に接続されている。
【0039】
第一タンク部210の底壁211(第二タンク部220よりも前方側の部分)は、大便器本体10の上面101のうち後方側の部分に対して上方から近接した状態となっている。具体的には、大便器本体10の上面101のうち後方側の部分には入口131が形成されているが、第一タンク部210の底壁211は、入口131の周囲を上方から覆うように、大便器本体10の上面101に対して上方から近接した状態となっている。また、底壁211には入口131と略同一形状の開口212が形成されており、開口212と入口131とが上面視で重なっている。このため、タンク20の内部に貯留されている水は、開口212及び入口131を通って導水路130の内部に流入し、ボウル部110に向かって流れることが可能となっている。
【0040】
第一タンク部210を上記のように配置した結果、第二タンク部220は大便器本体10よりも後方に位置している。すなわち、大便器本体10の後方側端部よりも更に後方側に位置した状態となっている。また、第二タンク部220の底壁221は、大便器本体10の上面101よりも低い位置に配置されている。
【0041】
上記のようにタンク20が配置されることにより、タンク20の前端部が、大便器本体10の後端部よりも前方側に位置している。また、タンク20の下端部が、大便器本体10の上面101よりも下方側に位置している。その結果、水洗大便器装置FT全体の前後方向における寸法と、上下方向における寸法とが、いずれも小さくなっており、水洗大便器装置FTのデザイン性が向上している。
【0042】
<タンク20の内部構成>
次に、タンク20の内部の構成について説明する。
図3は、水洗大便器装置FTを後方側から見た場合における、タンク20の内部を示す斜視図である。
【0043】
図3に示したように、タンク20の内部には、給水管231と、主弁233と、パイロット弁234と、ジェットポンプユニット300とが配置されている。
【0044】
給水管231は、主弁233に向けて水を供給するための管であって、第二タンク部220の底壁221から鉛直上方に向かって伸びるように配置されている。給水管231の下端は、タンク20の外部において不図示の水道管に接続されている。また、給水管231の上端は、タンク20の内部において主弁233に下方から接続されている。給水管231は、タンク20の内部のうち左右方向における中央よりも左側となる位置に配置されている。
【0045】
給水管231の途中(水道管と主弁233との間)には、
図3では図示しない定流量弁232が配置されている。主弁233が開いた状態において主弁233に流入する水の流量は定流量弁232によって一定となり、水道管内の水圧によって変動することがない。
【0046】
主弁233は開閉弁であって、給水管231からジェットポンプユニット300に向かう水の流路の開閉を行うものである。主弁233とジェットポンプユニット300との間にはバキュームブレーカー235が備えられており、バキュームブレーカー235の上流側が負圧となって水が逆流してしまうことが防止されている。尚、上記のように給水管231が上方に向かって伸びており、主弁233とバキュームブレーカー235とはタンク20内の高い位置に配置されている。このため、タンク20の水位が満水位となった状態においても、バキュームブレーカー235が水没してしまうことはない。
【0047】
主弁233にはパイロット弁234が備えられており、パイロット弁234の動作によって主弁233の開閉が切り替えられる構成となっている。パイロット弁234には、タンク20の外側に配置された手動レバー236が、タンク20の内部に配置された伝達機構237を介して接続されている。また、パイロット弁234には、タンク20の内部に配置されたフロート238が更に接続されている。
【0048】
水洗大便器装置FTの使用者によって手動レバー236が操作されると、当該操作が伝達機構237を介してパイロット弁234に伝達され、パイロット弁234が開かれる。これにより主弁233が開かれた状態となり、給水管231からジェットポンプユニット300に向かって水が流れる。後に説明するように、ジェットポンプユニット300に向かって流れた水は、タンク20の内部に貯留されていた水と共に洗浄水として導水路130に供給される。このため、タンク20の内部における水位は次第に低下していく。
【0049】
ボウル部110の洗浄が終了した後も、主弁233は閉じられず、給水管231からジェットポンプユニット300に向かって引き続き水が流れる。ジェットポンプユニット300に向かって流れた水はタンク20の内部に供給されて、次回の洗浄のために貯留される。タンク20の内部に向けた水の供給(タンク20への注水)が行われると、タンク20の内部における水位は次第に上昇して行く。タンク20の内部においてパイロット弁234に接続されているフロート238は、水位の上昇に伴って上昇し、これによりパイロット弁234が閉じられる。
【0050】
このように、タンク20の内部における水位が上昇すると、フロート238が受ける浮力の変化によってパイロット弁234が閉じられる。パイロット弁234が閉じられると、主弁233が閉じられた状態となり、給水管231からジェットポンプユニット300への水の供給が停止される。この時点においてタンク20の内部に貯留されている水の量が、次回の洗浄のために必要な量となるように(所定の満水位となるように)、フロート238の配置が調整されている。
【0051】
ジェットポンプユニット300は、給水管231から供給された水によりジェットポンプ作用を誘発させ、これにより導水路130に向けた水の供給を行うためのものである。ジェットポンプユニット300は、ノズル310と、スロート管320とを有している。
【0052】
ノズル310は、一端が接続管339を介してバキュームブレーカー235に接続されており、他端には噴射口311が形成されている管である。ノズル310は、第二タンク部220の底壁221の近傍に配置されている。主弁233が開かれると、給水管231から供給された水は接続管339を流れてノズル310に到達し、噴射口311から高速の水流として噴射される。ノズル310は、第二タンク部220のうち後方側且つ右側の隅(上面視における隅)に配置されている。
図3に示したように、ノズル310はU字形状となっており、その下流側が上記隅から折り返されている。噴射口311は、その噴射方向がスロート管320の内部に向けられている。
【0053】
スロート管320は断面が円形の管であって、底壁211に形成された開口212を一部が貫通した状態で、タンク20の内部に配置されている。スロート管320の一端は導水路130の入口131に接続されており、他端には開口である吸引口321が形成されている。スロート管320は、導水路130の入口131側の部分が鉛直方向に沿っており、吸引口321側の部分が水平面に対して傾斜している。このため、その全体が逆U字形状となっている。
図2に示したように、スロート管320は、上面視において前後方向に対して傾斜した状態で、タンク20の内部に配置されている。
【0054】
スロート管320の具体的な形状について更に詳しく説明する。スロート管320は、吸引口321から斜め上方に向けて伸びる上昇部322と、上昇部322の下流側(上側)に配置された屈曲部323と、屈曲部323の下流側(下側)に配置され、屈曲部323から下方に向かって伸びる下降部324と、を有している。
【0055】
上昇部322は、その管径が全体において均一な円筒形状の管であって、水平面に対して傾斜した状態で配置されている。吸引口321は上昇部322の下端に形成されている。吸引口321は、その縁の全体が水平面に沿うように(水平面と平行になるように)形成されている。
【0056】
下降部324は、その管径が全体において均一な円筒形状の管であって、鉛直方向に沿って配置されている。下降部324の管径は、上昇部322の管径よりも大きい。屈曲部323のうち上昇部322側の管径は、上昇部322の管径に等しい。また、屈曲部323のうち下降部324側の管径は、下降部324の管径に等しい。このため、管径が互いに異なる上昇部322と下降部324とが、屈曲部323によって滑らかに繋がれているということができる。
【0057】
上昇部322のうち、その流路方向に沿って略中央となる位置には、空気導入管330が接続されている。空気導入管330は、鉛直方向に沿って配置された円筒形状の管である。空気導入管330の下端は上昇部322の上面側に接続されており、空気導入管330の内部空間と上昇部322の内部空間とが連通している。
【0058】
空気導入管330の一部には導入口331が開口形成されており、
図3では不図示の後述する調整機構(
図11参照。)により開口面積が調整された導入口331から流入した空気又は水が、空気導入管330を通って上昇部322の内部空間に流入し得る構成となっている。導入口331の位置(高さ)は、タンク20の水位が満水位であるときには水没するような位置となっている。また、吸引口321よりも高い位置となっている。
【0059】
図4を参照しながら、ジェットポンプユニット300の構成及び動作について更に説明する。
図4(A)は、タンク20内の水位が吸引口321よりも高い(例えば満水位)ときにおいてノズル310から水が噴射され、これによりジェットポンプ作用が誘発されている状態を模式的に示したものである。
【0060】
主弁233が開かれて、ノズル310の噴射口311から水が噴射されると、噴射された高速の水が上昇部322の内部に向かって流れる。上昇部322のうち下側の部分及びノズル310は、タンク20内に貯留されている水の内部に水没している。このため、タンク20内に貯留されている水は、噴射口311から噴射された高速の水流によって上昇部322の内部に引き込まれて、導水路130に向かって流れる。このようなジェットポンプ作用が誘発される結果、スロート管320の内部では、ノズル310の噴射口311から噴射された水だけでなく、吸引口321の周囲から引き込まれた水も流れる。これらが導水路130を流れて、洗浄水として吐水部133、135からリム部120に供給される。
【0061】
このように、水洗大便器装置FTにおいては、ノズル310の噴射口311から噴射される水の流量よりも、リム部120に供給される水の流量の方が大きくなっている。換言すれば、ノズル310の噴射口311から噴射される水の流量が小さくても、洗浄水として十分な流量の水がリム部120に供給される。このため、水道管の水圧が小さい低い環境に水洗大便器装置FTが設置された場合であっても、十分な洗浄性能を発揮することができる。
【0062】
また、洗浄水としてリム部120(及びボウル部110)に供給される水の総量は、タンク20の内部に予め貯留されていた水の量に、ノズル310の噴射口311から噴射された水の量を加えたものとなる。全ての洗浄水をタンク20の内部に貯留しておく必要がないため、タンク20は小型化されており、そのデザイン性が向上している。
【0063】
ところで、タンク20に貯留されている水のうち、吸引口321よりも下の部分に存在する水は、吸引口321からスロート管320の内部に供給されない。その結果、タンク20の内部に残水として残ってしまう。しかし、
図3等に示したように、ノズル310及び吸引口321はいずれも(狭い)第二タンク部220の内部に配置されている。このため、吸引口321よりも下の部分で残ってしまう残水の量は、比較的少なくなっている。
【0064】
このような構成により、水洗大便器装置FTでは、リム部120対する水の供給が終了した時点における残水の量を少なくしている。その結果、タンク20の内部空間のうち殆どの部分を、リム部120対して供給される水(残水とならない水)を貯留するための空間として利用することが可能となっており、タンク20の大型化が抑制されている。
【0065】
上昇部322の下端近傍、すなわち吸引口321の近傍には、流路切り換え部材350が取り付けられている。流路切り換え部材350は棒状の部材であって、その長手方向に沿った一端にはフロート351を有しており、他端には切り換え板352を有している。尚、流路切り換え部材350は、先に参照した
図3等においては図示を省略していたものである。
【0066】
流路切り換え部材350は、フロート351と切り換え板352との間の部分が、上昇部322の下端近傍に対して回転自在な状態で取り付けられている。
図4(A)に示したように、タンク20内の水位が吸引口321よりも高いときにおいては、フロート351に加わる浮力によって流路切り換え部材350が回転する。具体的には、フロート351が上方に移動し、切り換え板352が下方に移動して、それぞれ
図4(A)に示した位置で停止する。
【0067】
図4(A)の状態においては、ノズル310から噴射された水は、切り換え板352には直接当たることなく上昇部の内部に流入する。その結果、既に説明したようなジェットポンプ作用が誘発され、洗浄水としての水がリム部120に供給される。
【0068】
その後、タンク20内の水がリム部120に供給されることにより、タンク20内の水位は次第に低下していく。
【0069】
図4(B)は、タンク20内の水位が吸引口321の近傍まで低下し、リム部120への水の供給が停止した状態を模式的に示したものである。タンク20内の水位が吸引口321の近傍まで低下すると、フロート351に加わる浮力は小さくなる。このため、
図4(B)に示したように、フロート351が下方に移動するように流路切り換え部材350が回転する。切り換え板352は上方に移動して、ノズル310から噴射された水が切り換え板352に直接当たるようになる。
【0070】
切り換え板352のうち噴射口311に対向する面は、凹状に湾曲した形状となっている。ノズル310から噴射された水が当該面に当たると、水は当該面に沿って流れて、その進行方向を略90度変化させる。その結果、ノズル310から噴射された水は上昇部322の内部には流入せず、次回の洗浄のための水としてタンク20に貯留される。このように、流路切り換え部材350は、ノズル310から噴射された水の供給先を、リム部120(大便器本体10)からタンク20へと切り替えるためのものである。
【0071】
図5は、タンク20の内部における構成を模式的に示している。既に説明したように、タンク20の内部には、給水管231と、主弁233と、ジェットポンプユニット300とが配置されている。
【0072】
ボウル部110の洗浄が行われていない状態(待機状態)においては、タンク20の水位は満水位となっている。水洗大便器装置FTの使用者によって手動レバー236が操作されると、既に説明したように主弁233が開かれた状態となり、ノズル310の噴射口311から水が噴射される(
図5の矢印AR1)。タンク20の内部に貯留されていた水は、スロート管320の内部に引き込まれて(
図5の矢印AR2)、洗浄水としてリム部120に供給される(
図5の矢印AR3)。
【0073】
リム部120への水の供給が終了すると、ノズル310からの水の供給先が流路切り換え部材350によって切り替えられて、タンク20への注水が開始される(
図5の矢印AR4)。タンク20内の水位は次第に上昇して行き、満水位となった時点でフロート238によりパイロット弁234が閉じられる。これと同時に主弁233が閉じられることによりタンク20への注水が終了し、待機状態に戻る。
【0074】
タンク20の内部におけるその他の構成について、再び
図3を参照しながら説明する。
図3に示したように、タンク20の内部にはスロート管320の下降部324を囲むような隔壁240が配置されている。隔壁240は、底壁211から上方に向かって伸びるように形成されている。隔壁240、タンク20の前側壁面213、左側壁面214、及び第一タンク部210の底壁211によって、タンク20の内部空間の一部が区画され、小タンク260が構成されている。小タンク260は、その上部がタンク20の内部に開放された容器であって、第一タンク部210のうち前方側且つ左側の隅に配置されている。スロート管320は、下降部324の下端部分が小タンク260の内側に配置されている。また、吸引口321が小タンク260の外側に配置されている。
【0075】
隔壁240のうち下端部近傍には開閉窓241が設けられている。開閉窓241は通常は開かれた状態となっており、開閉窓241を通じて小タンク260の内部と外部(隔壁240よりも後方側の空間)とが連通している。このため、ボウル部110の洗浄が行われていない状態(待機状態)においては、タンク20内に貯留された水の水位と、小タンク260内に貯留された水の水位は等しくなっている。
【0076】
手動レバー236は二つの方向(大方向、小方向)に操作することが可能となっている。手動レバー236が大方向に操作された場合には、開閉窓241が開かれた状態のまま、パイロット弁234及び主弁233が開かれる。小タンク260に貯留されていた水は、開閉窓241を通過して第二タンク部220に流出し、吸引口321に到達する。このため、タンク20の内部に貯留されていた水は、小タンク260に貯留されていた分を含む殆どが、スロート管320の内部に引き込まれてリム部120に供給される。
【0077】
一方、手動レバー236が小方向に操作された場合には、開閉窓241が閉じられると同時にパイロット弁234及び主弁233が開かれる。このため、タンク20の内部に貯留されていた水のうち小タンク260に貯留されていた水は、開閉窓241を通過することができずに小タンク260の内部に残留したままとなる。その結果、洗浄水としてリム部120に供給される水の量は少量となる。
【0078】
尚、以下の説明において「タンク20に貯留されている水の水位」又は「タンク20内の水位」等というときには、小タンク260の外部における水位を示すものとする。すなわち、隔壁240によって二つに分けられた空間のうち、吸引口321が配置されている方の空間に貯留されている水の水位を示すものとする。小タンク260に貯留されている水の水位については、以下の説明では考慮しない。
【0079】
<水の流量について>
続いて、リム部120へ洗浄水として供給される水の流量(吐水部133、135に供給される水の流量といってもよい)について、
図6乃至8を参照しながら説明する。
図6は、水洗大便器装置FTの、洗浄時における動作の流れを説明するためのフローチャートである。
図7は、リム部120に供給される水の流量が変化することを説明するための図であって、ジェットポンプユニット300の流路状態が切り替わる様子を模式的に示している。
図8は、リム部120に供給される水の流量の変化を示すグラフである。なお、
図7では、便宜上、導入口331を空気導入管330の上端に記載している。
【0080】
まず、水洗大便器装置FTの使用者によって手動レバー236が操作されると(ステップS01)、ノズル310から水が噴射され、既に説明したようにジェットポンプ作用によってリム部120に水が供給される(ステップS02)。
【0081】
図7(A)は、リム部120に水が供給され始めた直後における、ジェットポンプユニット300の流路状態を模式的に示している。タンク20内の水位は満水位から低下し始めているが、空気導入管330の導入口331よりも高い。すなわち、導入口331は水没した状態となっている。
【0082】
上昇部322の内部においては、吸引口321から流入した水が屈曲部323に向かって流れている。この水流によって、空気導入管330の内部に存在する水には負圧が働き、当該水が上昇部322の内部に引き込まれる。その結果、上昇部322の内部においては、吸引口321から流入した水だけではなく、導入口331から流入した水も流れるため、ジェットポンプ作用による大流量の水がリム部120へ洗浄水として供給される。
【0083】
ノズル310からの水の噴射が開始されてから、タンク20内の水位が低下して導入口331の位置(このときの水位を、以下では「第一水位」とも称する)となるまでの期間においては、上記のように大流量の水がリム部120に供給される。当該期間においてジェットポンプユニット300から大流量の水が供給される工程を、以下では「第一工程」とも称する(ステップS03)。
【0084】
タンク20内の水位が第一水位まで低下すると、上記の第一工程は終了する(ステップS04)。このとき、上昇部322の内部(空気導入管330の下端部近傍)においては依然として水流による負圧が生じているが、導入口331が水面上に現れている(水没していない)ため、導入口331からは水ではなく空気が流入するようになる。
【0085】
図7(B)は、このときにおけるジェットポンプユニット300の流路状態を模式的に示している。ノズル310からは継続して水が噴射されており、スロート管320の内部ではジェットポンプ作用による水流が生じてはいるが、当該水流には空気導入管330からの空気が混入している。
【0086】
その結果、
図7(A)に示した状態と比較すると、スロート管320の内部に混入した空気がジェットポンプ作用を抑制するため、
図7(B)においてはスロート管320の内部を流れる水の流量が低下している。すなわち、
図7(B)においてはジェットポンプ作用による流量の増加率が低くなっているため、リム部120に供給される水の流量が第一工程における流量よりも低下している。このように、第一工程が終了した後、(ジェットポンプ作用が抑制されて)低下した流量の水が洗浄水としてリム部120に供給される工程を、以下では「第二工程」とも称する(ステップS05)。第二工程は、タンク20内の水位が更に低下して、流路切り換え部材350が
図4(B)に示した状態となるまで継続される(ステップS06、S07)。
【0087】
尚、流路切り換え部材350のフロート351に加わる浮力が小さくなり、流路切り換え部材350が回転して
図4(B)に示した状態となる際におけるタンク20内の水位を、以下では「第二水位」とも称する。すなわち、第二水位とは、リム部120に対する洗浄水の供給が停止される際における、タンク20内の水位である。
【0088】
第二工程が終了すると、既に説明したようにノズル310からは水が継続して噴射され、タンク20内への水の貯留が行われる(ステップS08)。タンク20内の水位が上昇して、満水位となると、ノズル310からの水の噴射が停止され、タンク20内への水の貯留が停止される(ステップS09、S10)。
【0089】
尚、ボウル部110の洗浄が行われた後において、封水WTを形成するための水(リフィル水)をジェットポンプユニット300からリム部120に追加供給する構成としてもよい。このようなリフィル水の供給は、第二工程が終了した時点(ステップS07の直後)、又はタンク20内への水の貯留が停止した時点(ステップS10の直後)のいずれかのタイミングにおいて、開始することが望ましい。第二工程が終了した時点でリフィル水の供給を開始する場合には、タンク20内への水の貯留と、リム部120へのリフィル水の追加とが同時に行われることとなる。
【0090】
図8は、第一工程の開始時点(時刻t0)から第二工程の終了時点(t200)までの期間における、リム部120に供給される水の流量の変化を示している。すなわち、ボウル部110の洗浄が行われている期間において、リム部120に供給される洗浄水の流量の変化を示している。同図においては、第一工程から第二工程に切り替わる時刻、すなわち、タンク20内の水位が第一水位となる時刻を時刻t100としている。また、ノズル310から噴射される水の流量をQjetと表記し、ジェットポンプ作用によって吸引口321に引き込まれる水(タンク20内からスロート管320の内部に引き込まれる水)の流量をQtankと表記している。
【0091】
既に説明したように、時刻t0から時刻t100までの第一工程においては、ジェットポンプ作用による大流量の水がリム部120に供給される。
図8に示したように、リム部120に到達する水の流量は、流量Qjetと流量Qtankとの和となっている。換言すれば、流量Qjetがジェットポンプ作用によって増幅された流量となっている。
【0092】
時刻t100から時刻t200までの第二工程においては、第一工程と同様に、ジェットポンプ作用によって増幅された流量の水がリム部120に到達する。しかし、第二工程においては、スロート管320の内部に気泡が混入することによってジェットポンプ作用が抑制された状態となっている。つまり、ノズル310から噴射される水の流量Qjetは、第二工程に切り替わった後も変わらず一定のままであるが、吸引口321に引き込まれる水の流量Qtankは、第二工程に切り替わると同時に小さくなっている。その結果、ジェットポンプユニット300からリム部120に供給される水の流量(流量Qjetと流量Qtankとの和)は、時刻t100を境に急激に小さくなっている(流量Q1から流量Q2へと変化している)。
【0093】
ボウル部110の洗浄が行われている期間の途中で、リム部120に供給される水の流量を上記のように小さくする理由について説明する。
図8において一点鎖線で示した線OLは、第一工程においてリム部120に供給される流量と、(当該流量を保ったまま第一工程を継続した場合において)リム部120から水が溢れてしまう時刻との関係を示している。
【0094】
吐水部133、135から水が噴出し、リム部120に水が供給され始めた当初においては、リム部120を旋回して流れている水、すなわち、リム部120に滞留している水の量は比較的少ない。このため、リム部120には新たに供給される水を受け入れる余地があり、リム部120から水が溢れてしまうことはない。
【0095】
しかしながら、引き続きリム部120に供給される水の流量が略一定のままであっても、リム部120に滞留している水の量は次第に増加して行き、新たに供給される水を受け入れる余地が少なくなっていく。その結果、リム部120に滞留している水の量が一定量(以下、「限界量」とも称する)を超えた時点以降においては、リム部120に対して新たに供給された水が溢れてしまうことがある。
【0096】
第一工程において、リム部120に供給される水の流量が比較的大きい場合には、リム部120に滞留している水の量は素早く増加するため、早期に限界量に達する。逆に、リム部120に供給される水の流量が比較的小さい場合には、リム部120に滞留している水の量はゆっくりと増加するため、限界量に達するまでには長時間を要する。従って、リム部120に供給される水の流量と、リム部120に滞留している水の量が限界量を超える時刻との関係は、
図8の線OLで示したように右肩下がりの曲線となる。
【0097】
図8に示した点線VLは、仮に、時刻t100において第二工程への切り替えが行われず、第一工程が継続されることとした場合において、リム部120に供給される水の流量を示す線である。このように第一工程を継続した場合には、点線VLは時刻t100を超えた直後の時刻t120において、線OLと重なることとなる。つまり、仮に第二工程への切り替えが行われない場合には、時刻t120においてリム部120から水が溢れてしまうこととなる。
【0098】
そこで、本実施形態においては、リム部120から水が溢れてしまうよりも前の時点(時刻t120よりも早い時刻t100)で、リム部120に供給される水の流量を急激に減少させることにより、リム部120から水が溢れてしまうことを防止している。具体的には、ジェットポンプ作用による水流に対して空気を混入させ、ジェットポンプユニット300の流路状態を変化させることによってジェットポンプ作用を抑制する構成となっている。換言すれば、リム部120から水が溢れてしまう直前のタイミングにおいて導入口331から空気が導入されるように(ジェットポンプ作用が抑制されるように)、空気導入管330の長さが調整されている。
【0099】
時刻t0から時刻t100までの第一工程においては、タンク20内で導入口331が水没している。このため、ジェットポンプ作用は抑制されず、リム部120(吐水部133、135)には大流量且つ略一定の水がジェットポンプユニット300から供給される。ボウル部110に付着した汚物は短時間のうちに除去されるため、吐水部133、135から水を吐出する時間を短縮し、節水化を図ることが可能となっている。
【0100】
また、時刻t100から時刻t200までの第二工程においては、タンク20内で導入口331が水没していない。このため、空気導入管330から混入する気泡によってジェットポンプ作用が抑制され、リム部120に供給される水の流量が減少する(流量Q1から流量Q2に変化する)。これにより、リム部120に滞留している水の量が増加してリム部120から水が溢れてしまう前に、リム部120に供給される水の流量を減少させる構成となっている。このように、空気導入管330は、ジェットポンプ作用を抑制するようにジェットポンプユニット300の流路状態を切り換える「流路状態切り換え手段」として機能する。
【0101】
尚、導入口331の位置(高さ)は、第一工程から第二工程へと移行するタイミングを考慮して決定される。また、空気導入管330の下端の位置は、ジェットポンプを適切に抑制することを考慮して決定される。このように決定されたそれぞれの位置は互いに異なるのが一般的であるが、一致する場合には、空気導入管330の長さを0としてもよい。すなわち、スロート管320の壁面に貫通孔を形成し、当該貫通孔から空気が導入される構成としてもよい。この場合、当該貫通孔の位置が導入口331の位置であり、且つ、スロート管320内の水流に空気が混入される位置でもある。
【0102】
以上のように、本実施形態に係る水洗大便器装置FTでは、リム部120に水を供給している期間(時刻t0から時刻t200まで)の全体において、リム部120から水が溢れてしまうことを確実に防止しながら、可能な限り大流量の水をリム部120(吐水部133、135)に供給することが可能となっている。その結果、高い洗浄性能と節水性能とが確保されている。
【0103】
尚、スロート管320の内部に気泡を混入させる箇所としては、本実施形態のように上昇部322とする態様の他、下降部324とすることも考えられる。しかしながら、下降部324において空気を混入させる構成としてしまうと、タンク20内を満水位とすることができなくなってしまう。タンク20内が満水位のときにおいては導入口331が水没しており、導入口331から下降部324内に流入した水が、重力によってそのままリム部120に供給されてしまうからである。
【0104】
そこで、水洗大便器装置FTでは、下降部324よりも上流側の箇所において空気を混入させるように構成されている。このような構成により、洗浄時ではないにも拘らずタンク20内の水が導入口331からスロート管320に流入し、そのまま大便器本体10側に流出してしまうようなことが防止されている。
【0105】
また、スロート管320の内部に気泡を混入させる箇所としては、例えば
図9に示したように、吸引口321よりも上流側とする態様も考えられる。この場合、空気導入管330の下端は、ノズル310と吸引口321との間となる位置に配置されることとなる。しかしながら、このような構成とした場合には、空気導入管330の下端が、吸引口321からスロート管320の内部に流入する水の流れを妨げてしまい、ジェットポンプ作用が妨げられてしまうおそれがある。その結果、(特に第一工程において)リム部120に供給される水の流量が低下してしまうおそれがある。
【0106】
そこで、水洗大便器装置FTでは、空気導入管330の導入口331から導入された空気が、吸引口321よりも下流側となる位置において、ジェットポンプ作用によって生じている水流に混入される構成となっている。このような構成により、吸引口321からスロート管320の内部に流入する水の流れを空気導入管330が妨げてしまうことが防止される。その結果、第一工程におけるジェットポンプ作用が妨げられることがなく、大流量の水がリム部120に供給されるため、高い洗浄性能を確保することが可能となっている。
【0107】
ところで、流路状態切り換え手段としては、ジェットポンプユニット300のうち吸引口321よりも上流側の流路状態を変更し、これにより第二工程におけるジェットポンプ作用を抑制するような態様のものが考えられる。例えば、ノズル310から噴射される水の流量Qjetを減少させることにより、第二工程におけるジェットポンプ作用を抑制するような態様とすることも考えられる。その他、ノズル310と吸引口321との間の部分における流路抵抗を増加させることにより、第二工程におけるジェットポンプ作用を抑制するような態様とすることも考えられる。
【0108】
しかしながら、スロート管320の内部を流れる水の流量は、ノズル310から噴射された水の流量Qjetをジェットポンプ作用によって増大(増幅)させたものである。従って、ノズル310から噴射される水の流量Qjetを僅かに減少させただけで、スロート管320の内部を流れる水の流量は大きく減少してしまう。同様に、ノズル310と吸引口321との間の部分における流路抵抗を僅かに増加させただけでも、スロート管320の内部を流れる水の流量は大きく減少してしまう。
【0109】
このように、吸引口321よりも上流側の流路状態を変更して、これにより流量Q1から適切な流量Q2(
図8参照)に変化させることは容易ではない。このような態様とした場合には、第二工程においてリム部120に供給される水の流量が小さくなり過ぎて、必要な洗浄性能を確保できない場合が生じ得る。
【0110】
そこで、水洗大便器装置FTにおいては、流路状態切り換え手段は、ジェットポンプユニット300のうちノズル310や吸引口321よりも下流側(本実施形態では上昇部322の内部)の流路状態を切り換えるものとして構成されている。このような構成により、スロート管320の内部を流れる水の流量を適切に調整することが容易となっている。その結果、第二工程においてリム部120に供給される水の流量が小さくなりすぎてしまうことを抑制している。
【0111】
また、流路状態切り換え手段としては、ジェットポンプユニット300のうち下降部324の流路状態を変更し、これにより第二工程におけるジェットポンプ作用を抑制するような態様のものも考えられる。しかしながら、下降部324の内部を流れる水の流速は比較的遅い(ノズル310から噴射される高速の水と、これにより搬送されるタンク20内の水とが十分に混ざり合っており、流速が流路断面内で平均化される結果、ノズル310から噴射される水の流速よりは遅くなっている)ため、例えば下降部324の流路抵抗を多少増加させた程度では、流量は殆ど減少しない。このように、下降部324の流路状態を変更し、これにより第二工程におけるジェットポンプ作用を抑制することは困難である。
【0112】
そこで、水洗大便器装置FTでは、流路状態切り換え手段は、ジェットポンプユニット300のうち、下降部324よりも上流側(本実施形態では上昇部322の内部)の流路状態を切り換えるものとして構成されている。このような構成により、流路状態切り換え手段によって流路状態を切り換えて、スロート管320の内部を流れる水の流量を適切に調整することが更に容易なものとなっている。
【0113】
続いて、
図10を参照しながら、ノズル310から噴射される水の流量がばらつくことの影響について説明する。
図10のグラフGJ1は、ノズル310から噴射される水の流量の時間変化を示している。既に説明したように、ノズル310からは一定の流量Qjetで水が噴射される。グラフGT1は、ジェットポンプ作用によってリム部120に供給される水の流量を示している。第一工程では、流量Qjetがジェットポンプ作用によって増幅される結果、リム部120に対して流量Q1の水が供給される。尚、
図10では、時刻t100以降(第二工程)においてリム部120に供給される水の流量を示すグラフは描かれていない。
【0114】
ところで、ジェットポンプユニット300によってリム部120に供給される水の流量は、例えばノズル310の上流側に配置された定流量弁232の機差等によって厳密には設計値(Qjet)通りとはならず、製品ごとにばらついてしまうことがある。
図10のグラフGJ2は、ノズル310から噴射される水の流量が設計値通りとはならず、流量Qjetよりも僅かに大きい流量Qjet2となってしまった場合における、当該流量の時間変化を示している。このとき、大便器本体10に供給される水の流量は、グラフGT12で示したように流量Q1よりも大きい流量Q12となる。
【0115】
図10から明らかなように、もしこのような場合においても第一工程が時刻t100まで継続されると、グラフGT12と線OLとが交わることとなる。すなわち、時刻t100よりも前の時点において、リム部120から水が溢れてしまうこととなる。
【0116】
しかしながら、本実施形態においては、タンク20内の水位が第一水位(導入口331)まで低下した時点で第一工程が終了し、第二工程への切り替えが行われるように構成されている。このため、リム部120に供給される水の流量が流量Q1から流量Q12に増加した場合には、時刻t100よりも早い時点(時刻t90)で第一工程が終了する。その結果、
図10に示したようにグラフGT12と線OLとは交わっておらず、リム部120から水が溢れる前において第二工程への切り替えが行われることとなる。
【0117】
図10のグラフGJ3は、ノズル310から噴射される水の流量が設計値通りとはならず、流量Qjetよりも僅かに小さい流量Qjet3となってしまった場合における、当該流量の時間変化を示している。このとき、リム部120に供給される水の流量は、グラフGT13で示したように流量Q1よりも小さい流量Q13となる。
【0118】
図10から明らかなように、もしこのような場合においても第一工程を時刻t100で終了してしまうと、リム部120から水が溢れ始めるよりも遙かに前の時点で、第一工程から第二工程への切り替えが行われることとなる。すなわち、新たに供給される水を受け入れる余地がリム部120には十分あるにも拘わらず、リム部120へ供給される水の流量が減少してしまうこととなる。この場合には、第一工程における洗浄性能が十分に得られないため、ボウル部110の洗浄性能を確保し得ないこととなってしまう。
【0119】
しかしながら、本実施形態においては、タンク20内の水位が第一水位(導入口331)に低下するまでの間は、第一工程が継続されるように構成されている。このため、大便器本体10に供給される水の流量が流量Q1から流量Q13に減少した場合には、時刻t100よりも遅い時点(時刻t110)まで第一工程が継続される。その結果、第一工程におけるボウル部110の洗浄性能が十分に確保される。
【0120】
このように、本実施形態においては、第一工程においてリム部120に供給される水の流量が大きい程、第一工程から第二工程に移行するタイミングが早くなるように構成されている。すなわち、第一工程から第二工程に移行するタイミング(第一工程の期間の長さ)を固定するのではなく、第一工程においてリム部120に供給される水の流量に応じて変化させるように構成されている。このような構成により、第一工程においてリム部120に供給される水の流量が変動した場合であっても、当該変動に応じて、第一工程から第二工程に移行するタイミングが適切となるように調整される。
【0121】
また、タンク20内の水位が第一水位(導入口331)まで低下した時点で、第一工程から第二工程への移行が行われる構成とすることにより、上記のようなタイミングの調整が自動的に行われるようになっている。従って、第一工程においてリム部120に供給される水の流量を直接測定することなく、第一工程から第二工程に移行するタイミングが適切且つ自動的に調整される。すなわち、流量計等の装置を必要とせず、簡易な構成によって、第二工程に移行するタイミングが適切に且つ自動的に調整される。
【0122】
<調整機構の構成>
続いて、
図11及び
図12を参照しながら、導入口331の開口面積を調整する調整機構400について説明する。
【0123】
図11は、
図3に示すスロート管320の拡大斜視図である。
【0124】
空気導入管330の周面には、上述した導入口331として、例えば第1導入口331Aと、第2導入口331Bと、が周方向に沿って形成されている。なお、第1導入口331Aと第2導入口331Bは、空気導入管330の上端に接続された円筒管に形成されてもよいが、本実施形態では円筒管も含めて空気導入管330と称す。
【0125】
この空気導入管330には、内部に導入する空気の流量を調整するために調整機構400が取り付けられている。
【0126】
図12は、
図11において調整機構400のみの拡大図である。
【0127】
図12に示すように、調整機構400は、取手402と、調整弁としての弁体404と、を有している。
【0128】
取手402は、使用者が把持して操作する部分であって、弁体404の上端に固定されている。取手402と弁体404とは一体となっている。使用者は取手402を把持して弁体404の中心軸周りに回転させることにより、空気導入管330に対して弁体404を回転させることができる。
【0129】
弁体404は、その下端が開口している円筒形状の管である。弁体404の上端は閉塞されている。弁体404は、その中心軸を空気導入管330の中心軸と一致させた状態で配置されている。また、弁体404の外径と空気導入管330の内径は略一致している。その結果、弁体404は、その中心軸周りに回転可能な状態で空気導入管330の内部に収納されている。
【0130】
弁体404の周面404Aには、例えば側面視が円形状の第1吸気口406が形成されている。第1吸気口406は、周面404Aを厚み方向に貫通して、内部と連通している。第1吸気口406の大きさは、特に限定されないが、例えば直径6mmである。吸気口406の周囲は、当該周囲と空気導入管330との間をシールするシール部として、凸部408が形成されている。この凸部408は、先端面が空気導入管330の内周面と当接することでシールする。また、凸部408の先端隅部は、面取りされていることが好ましい。
【0131】
また、周面404Aにおいて、第1吸気口406の対向する位置には、例えば第1吸気口406より大きく側面視が四角形状の第1凹部410が形成されている。さらに、周面404Aの下端部全周には、第2凹部412が形成されている。
【0132】
図13は、スロート管320と調整機構400を垂直面に沿って切断した場合の断面を示す図である。
図14は、スロート管320と調整機構400を水平面斜めに沿って切断した場合の断面を示す図である。なお、
図13及び
図14では、断面を示すハッチングを省略している。
【0133】
図13に示すように、第2凹部412内には、弁体404と空気導入管330との間をシールするOリング414が設けられている。
【0134】
また、
図13及び
図14に示すように、第1凹部410内には、例えば側面視が円形状の第2吸気口416が形成されている。第2吸気口416は、周面404Aを厚み方向に貫通して、内部と連通している。第2吸気口416の大きさは、第1吸気口406と互いに大きさが異なり、本実施形態では第1吸気口406よりも小さい。第2吸気口416の直径は、特に限定されないが、例えば第1吸気口406の直径の約1/2の3mmである。
【0135】
第1吸気口406及び第2吸気口416は、上面視において、弁体404の中心から第1吸気口406に向かう方向を第一方向とし、弁体404の中心から第2吸気口416に向かう方向を第二方向とすると、第一方向と第二方向とのなす角度は概ね180度となっている。
【0136】
一方で、
図14に示すように、空気導入管330に形成されている第1導入口331Aと第2導入口331Bは、上面視において、空気導入管330の中心から第1導入口331Aに向かう方向を第三方向とし、空気導入管330の中心から第2導入口331Bに向かう方向を第四方向とすると、第三方向と第四方向とのなす角度は概ね90度となっている。
【0137】
なお、第1導入口331Aの大きさと第2導入口331Bの大きさとは概ね等しい。ただし、第2導入口331Bは鉛直方向に沿って延びる二本の柱によって3つに仕切られており、それぞれ縦長の狭い開口331C、331D、331Eに分かれている。
【0138】
また、第1導入口331Aと第2導入口331Bの何れか1つは、弁体404がどの回転位置でも、第1吸気口406及び第2吸気口416のうち何れか1つと連通するように、第1導入口331Aと第2導入口331Bの周方向の大きさが設計されていることが好ましい。無論、第1吸気口406及び第2吸気口416の周方向の大きさについて、上記連通が実現できるように設計されてもよい。
【0139】
<作用>
次に、本発明の実施形態に係る水洗大便器装置FTの作用について説明する。
【0140】
図15(A)及び
図15(B)は、スロート管320と調整機構400を水平面斜めに沿って切断した場合の断面を示す図である。
図15(A)は、開度が最大となっており多量の空気が空気導入管330からスロート管320内に流入するように弁体404が調整された状態における断面を示している。
図15(B)は、開度が最小となっており少量の空気しか空気導入管330からスロート管320内に流入しないように弁体404が調整された状態における断面を示している。なお、
図15(A)及び
図15(B)では、凸部408の記載を省略している。
【0141】
図15(A)に示した状態においては、空気導入管330に対して弁体404を回転させた結果、側面視において第1吸気口406の全体と第1導入口331Aとが重なり合っている。一方、第2吸気口416は空気導入管330によって塞がれている。調整機構400の周囲の空気は、第1導入口331A及び第1吸気口406を通って弁体404の内部空間404Bに流入した後、空気導入管330を通ってスロート管320の内部に流入する。つまり、空気導入管330に対して空気が流入する入口の断面積は、第1吸気口406の面積ということになる。第1吸気口406の断面積は比較的大きいため、第1吸気口406がゴミ等の異物により塞がれてしまうことはない。
【0142】
これに対し、
図15(B)に示した状態においては、空気導入管330に対して弁体404を回転させた結果、側面視において第2吸気口416の全体と第2導入口331Bとが重なり合っている。一方、第1吸気口406は空気導入管330によって塞がれている。調整機構400の周囲の空気は、第2導入口331B及び第2吸気口416を通って弁体404の内部空間404Bに流入した後、空気導入管330を通ってスロート管320の内部に流入する。調整機構400に対して空気が流入する入口の断面積は、第2吸気口416の面積ということになる。
【0143】
ここで、第2吸気口416の断面積は比較的小さいため、第2吸気口416がゴミ等の異物により塞がれてしまい、空気導入管330への空気の流入が妨げられてしまうことが考えられる。しかしながら、調整機構400の周囲から第2吸気口416に向かって接近する異物は、第2吸気口416に到達する前に開口331C、331D、331Eを通過することができ難い。つまり、当該異物は第2導入口331Bを仕切る柱に引っ掛かり、開口331C、331D、331Eのいずれかの一部のみを塞ぐことになる。
【0144】
既に述べたように、開口331C、331D、331Eはいずれも縦長の開口であるから、異物によって一部が塞がれたとしても、これらを通って第2吸気口416に到達する空気の量が大きく減少することはない。このように、調整機構400では、空気が流入する入口の断面積が小さくなるように調整された場合であっても、当該入口の大部分が異物によって塞がれてしまうことはなく、空気の流入量が大きく減少してしまうことはない。
【0145】
以上、本発明の実施形態に係る水洗大便器装置FTによれば、弁体404を回転して第1導入口331A及び第2導入口331B並びに第1吸気口406及び第2吸気口416の連通量を調整することで、第1導入口331A及び第2導入口331Bからスロート管320内に空気が導入される空気導入量を調整することができる。
【0146】
また、水洗大便器装置FTでは、弁体404の外径と空気導入管330の内径は略一致しているものの、例えば0.1mmから0.3mmの隙間が形成される虞がある。しかしながら、弁体404と空気導入管330との間に隙間ができても、凸部408が複数の吸気口406、416のうち最も大きい第1吸気口406の周囲をシールしているので、最も大きい第1吸気口406が第1導入口331A及び第2導入口331Bと非連通(閉塞)で且つ第2吸気口416が第2導入口331Bと連通しているとき(
図15(B)参照。)、隙間を通って最も大きい第1吸気口406に空気が入ることが抑制され、第2吸気口416からスロート管420内に空気が導入される空気導入量を略一定に保つことができ、洗浄水量を安定させることができる。
【0147】
また、調整弁がどの回転位置でも、第1導入口331A及び第2導入口331Bの何れか1つと第1吸気口406及び第2吸気口416のうち何れか1つとが連通するので、サイフォンの発生を抑制することができる。
【0148】
<変形例>
以上、本願の開示する技術の実施形態について説明したが、本願の開示する技術は、上記に限定されるものではない。
【0149】
例えば、実施形態では、第1導入口331Aの周囲と空気導入管330との間をシールするシール部として、弁体404に凸部408を設ける場合を説明したが、表面粗さが弁体404の周面404Aの他の部分より粗くされた部分(不図示)であってもよい。この構成にすると、第1吸気口406の閉塞時において、シール部表面の抵抗が大きく、水がトラップされて、第1吸気口406に空気が入るのを抑制することができる。
【0150】
また、シール部として、弁体404の周面404Aに設けられた溝部(不図示)であってもよい。この場合、弁体404の外径を空気導入管330の内径にできるだけ一致させ、溝部に水をトラップしていることが好ましい。この構成にすると、大便器本体10の洗浄中は、溝部にトラップされた水が第1吸気口406から吸われることで、第1吸気口406の閉塞時において第1吸気口406に空気が入るのを抑制することができる。また、この溝部は、凸部408に設けてもよい。
【0151】
また、シール部として、調整弁の表面に設けられたリブ(不図示)であってもよい。なお、このリブは、凸部408と異なり、第1吸気口406の周囲の一部に設けられている。例えば、リブは、第1吸気口406を挟んだ両側に上下に延びる。この構成にすると、第1吸気口406の閉塞時に空気導入管330と弁体404の間がリブによりシールされ、第1吸気口406に空気が入るのを抑制することができる。
【0152】
また、シール部は、第1導入口331Aの周囲と空気導入管330との間をシールする場合を説明したが、これに加えて、第2導入口331Bの周囲と空気導入管330との間もシールするようにしてもよい。
【0153】
また、導入口331は、2つある場合を説明したが、1つのみあってもよいし、3つ以上あってもよい。また、吸気口は、第1吸気口406及び第2吸気口416の2つある場合を説明したが、3つ以上あってもよい。
【0154】
前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。