特許第6355079号(P6355079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6355079血清タンパク質を用いたキラル金ナノロッド組織体の創製
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355079
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】血清タンパク質を用いたキラル金ナノロッド組織体の創製
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/19 20060101AFI20180702BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180702BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20180702BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180702BHJP
【FI】
   G01N21/19
   B82Y40/00
   B82Y5/00
   B82Y30/00
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-30436(P2014-30436)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155824(P2015-155824A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年1月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1−A.発行者名:公益社団法人 日本生物工学会、刊行物名:第65回日本生物工学会大会講演要旨集、発行年月日:平成25年8月25日 1−B.集会名:第65回日本生物工学会大会、開催日:平成25年9月19日 2−A.発行者名:公益社団法人 高分子学会、刊行物名:高分子学会予稿集、巻数、号数:62巻2号、発行年月日:平成25年8月28日 2−B.集会名:第62回高分子討論会、開催日:平成25年9月13日 3−A.発行者名:生体機能関連化学部会、バイオテクノロジー部会、生体機能関連化学・バイオテクノロジーディビジョン、フロンティア生命化学研究会、ホスト−ゲスト超分子研究会、刊行物名:第7回バイオ関連化学シンポジウム 講演予稿集、発行年月日:平成25年9月27日 3−B.集会名:第7回バイオ関連化学シンポジウム、開催日:平成25年9月28日 4−A.発行者名:公益社団法人 日本化学会、刊行物名:第3回CSJ化学フェスタ2013 プログラム・講演予稿集、発行年月日:平成25年10月1日 4−B.集会名:第3回CSJ化学フェスタ2013、開催日:平成25年10月22日 5−A.発行者名:山梨大学、刊行物名:平成25年度山梨大学大学院医学工学総合教育部生命工学専攻修士論文発表会要旨集、発行年月日:平成26年2月12日 5−B.集会名:平成25年度生命工学専攻修士論文発表会、開催日:平成26年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】新森 英之
(72)【発明者】
【氏名】望月 ちひろ
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0071882(US,A1)
【文献】 特開2009−210495(JP,A)
【文献】 Rong-Yao Wang, et al.,Chiral assembly of gold nanorods with collective plasmonic circular dichroism response,Soft Matter,2011年,7,8370-8375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/19
B82Y 5/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金ナノロッドで構成されるキラル金ナノロッド組織体であって、
前記組織体は、円偏光二色性を有し
前記キラル金ナノロッド組織体は、金ナノロッドと、前記金ナノロッドのキラル配列体を生成させるタンパク質と、を含む水溶液中で構成されている、
組織体。
【請求項2】
請求項1に記載の組織体において、
前記金ナノロッドのアスペクト比は、1.5〜10である、
組織体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組織体において、
前記タンパク質は、血清タンパク質である
組織体。
【請求項4】
請求項3に記載の組織体において、
前記血清タンパク質は、哺乳類または鳥類の血清中のアルブミンまたはグロブリンである、
組織体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の組織体において、
前記水溶液中の前記金ナノロッドの濃度は、0.010nM〜0.500nMであり、
前記水溶液中の前記タンパク質の濃度は、2.5μM〜50μMである、
組織体。
【請求項6】
請求項3または4記載の組織体において、
前記金ナノロッドは、陽イオン界面活性剤で表面を被覆されている、
組織体。
【請求項7】
請求項6に記載の組織体において、
前記陽イオン界面活性剤は、臭化セチルトリメチルアンモニウムである、
組織体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の組織体において、
前記水溶液は、非プロトン性極性溶媒を含む水溶液である、
組織体。
【請求項9】
請求項8に記載の組織体において、
前記非プロトン性極性溶媒は、アセトニトリルである、
組織体。
【請求項10】
請求項9に記載の組織体において、
前記水溶液中における前記アセトニトリルの濃度は、12容量%〜25容量%の範囲である、
組織体。
【請求項11】
複数の金ナノロッドで構成されるキラル金ナノロッド組織体の生産方法であって、
金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液を調製する工程を含む、
生産方法。
【請求項12】
血清タンパク質濃度の測定方法であって、
a)金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液を注入したセルを準備する工程と、
b)前記セルに光を照射する工程と、
c)前記セルを透過した光の円偏光二色性スペクトルを検出する工程と、
d)前記被験血清タンパク質の種類毎にあらかじめ設けらている検量基準と、工程c)により得られた検出結果と、を対比する工程と、
e)工程d)により得られた対比結果から前記被検血清タンパク質濃度を算出する工程と、
を含む、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清タンパク質を利用したキラル金ナノロッド組織体の生産方法、その生産方法で得られるキラル金ナノロッド組織体、そのキラル金ナノロッド組織体を用いた血清タンパク質濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清タンパク質は生体内において体液の浸透圧調整、血液凝固能、生理活性物質の結合と輸送など生命維持に重要な役割を担っている。また様々な疾患に関連して、これらは量的、あるいは質的に特徴的な変化を示す。従って、血清タンパク質の選択的検出は病態を正しく把握する上で極めて重要である。
【0003】
一方、ナノサイズのビルディングブロックにより構成された超構造組織体は様々な機能性デバイス等の素材として重要である。近年、このビルディングブロックとして注目されているもののひとつに金属ナノ粒子がある。金属ナノ粒子はナノオーダーの金属をコアに有する微粒子であり、その形状は球状、棒状、正八面体型等があり多種多様である。中でも、棒状の金属ナノロッドは異なる長さの長軸と短軸が存在するために異方性を有し、その超構造組織体は非常に興味深い。これまでに非共有結合を利用して長軸方向や短軸方向へ組織化させた金属ナノロッド配列体は報告されている。また、実際にセンサや光デバイス、医療分野での応用が期待され研究が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、カチオン性界面活性剤、該界面活性剤の助剤としての硝酸銀および還元剤を含む金イオンまたは金錯体溶液に、周波数15kHz〜10MHz、出力0.001〜1000W/cmの超音波を照射して、金ナノロッドを得る技術が記載されている。また、特許文献2には、検物質を異なる抗体が固定化されたアスペクト比が異なる金ナノロッドが形成されたセルに供給し、そのセルに複数の波長を含む光を照射し、そのセルを透過、散乱、反射した光を分光し、分光された光を検出し、そのセルにて発生したそれぞれのアスペクト比の金ナノロッドの局在型表面プラズモン共鳴波長シフト量を算出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−270128号公報
【特許文献2】特開2010−185738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1に記載の技術は、金ナノロッドを製造する技術に過ぎず、金ナノロッドにより構築される超構造体を製造しているわけではない。そのため、この技術だけでは、金ナノロッドにより構築される超構造体の光学活性を利用することはできない。
【0007】
第二に、特許文献2に記載の技術は、異なる抗体が固定化されたアスペクト比が異なる金ナノロッドが形成されたセルを製造しなければならないために、検物質の濃度を測定するための準備が煩雑である。また、局在型表面プラズモン共鳴センサは、センサの構造が複雑であり、センサの価格も高いという問題がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、様々な機能性デバイス等の素材として活用可能な、円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、複数の金ナノロッドにより構築される組織体を用いて、簡便かつ安価に血清タンパク質の濃度を測定できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複数の金ナノロッドで構成されるキラル金ナノロッド組織体が提供される。その組織体は、円偏光二色性を有する。
【0010】
この組織体は、円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体であるため、様々な機能性デバイス等の素材として活用可能である。
【0011】
また、本発明によれば、複数の金ナノロッドで構成されるキラル金ナノロッド組織体の生産方法が提供される。この生産方法は、金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液を調製する工程を含む。
【0012】
この方法によれば、金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液中で金ナノロッドがside−by−sideの超構造体を形成し、円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体が得られる。こうして得られたキラル金ナノロッド組織体は、様々な機能性デバイス等の素材として活用可能である。
【0013】
本発明によれば、血清タンパク質濃度の測定方法が提供される。この測定方法は、a)金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液を注入したセルを準備する工程と、b)そのセルに光を照射する工程と、c)そのセルを透過した光の円偏光二色性スペクトルを検出する工程と、d)その被験血清タンパク質の種類毎にあらかじめ設けらている検量基準と、工程c)により得られた検出結果と、を対比する工程と、e)工程d)により得られた対比結果からその被検血清タンパク質濃度を算出する工程と、を含む。
【0014】
この方法によれば、金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液中で金ナノロッドがside−by−sideの超構造体を形成し、金ナノロッド吸収域である約500−1000nmにCDシグナルが確認されることになる。そのため、この金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液の円偏光二色性スペクトルを測定して、あらかじめ設けられている検量基準と対比すれば、この水溶液中に含まれる血清タンパク質の濃度を簡便かつ安価に測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体が得られる。この円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体は、様々な機能性デバイス等の素材として活用可能である。また、このキラル金ナノロッド組織体を利用すれば、血清タンパク質の濃度を簡便かつ安価に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で金ナノロッドがside−by−sideの組織体を形成する仕組みを説明するための概念図である。
図2】金ナノロッドを製造するための方法を説明するための概念図である。
図3】水溶液中での血清タンパク質の濃度が金ナノロッドの組織体に与える影響を説明するための概念図である。
図4】水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体に与える影響を説明するための概念図である。
図5】水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの表面を被覆する陽イオン界面活性剤およびゼータ電位に与える影響を説明するための概念図である。
図6】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(BSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図7】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(BSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図8】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(BSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性の強度に与える影響を示す実験データである。
図9】水溶液中でのタンパク質(BSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図10】水溶液中でのタンパク質(BSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図11】水溶液中でのタンパク質(BSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性の強度に与える影響を示す実験データである。
図12】タンパク質(BSA)存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図13】タンパク質(BSA)存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図14】タンパク質非存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図15】タンパク質非存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図16】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(HSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図17】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(HSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図18】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(HSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性の強度に与える影響を示す実験データである。
図19】タンパク質(HSA)存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図20】タンパク質(HSA)存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図21】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(グロブリンフリーBSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図22】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(グロブリンフリーBSA)の濃度が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図23】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質の種類が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図24】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(HSA)の濃度減少が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図25】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中でのタンパク質(HSA)の濃度減少が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図26】タンパク質(HSA)存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の存在が金ナノロッドの組織体の吸収スペクトルに与える影響を示す実験データである。
図27】タンパク質(HSA)存在下において水溶液中での非プロトン性極性溶媒の存在が金ナノロッドの組織体の円偏光二色性に与える影響を示す実験データである。
図28】水溶液中におけるタンパク質(HSA)存在下の金ナノロッドの組織体の電子顕微鏡写真を示す実験データである。
図29】非プロトン性極性溶媒含有水溶液中におけるタンパク質(HSA)存在下の金ナノロッドの組織体の電子顕微鏡写真を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、本明細書において「A〜B」とは、A以上B以下を意味するものとする。
【0018】
<実施形態1:キラル金ナノロッド組織体>
図1は、金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で金ナノロッドがside−by−sideの組織体を形成する仕組みを説明するための概念図である。本実施形態のキラル金ナノロッド組織体は、図1に示すように、複数の金ナノロッドで構成される円偏光二色性を有する組織体である。この組織体では、後述する実施例で撮影した電子顕微鏡写真で示すように、層状金ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向となっている。本実施形態で用いる金ナノロッドの形状は、棒状の異方性粒子であればよく、円柱状、三角柱状、四角柱状、ドッグボーン状等の形状のいずれであってもよい。
【0019】
図2は、金ナノロッドを製造するための方法を説明するための概念図である。本実施形態で用いる金ナノロッドの製造方法は特に限定されないが、例えば、Tapan K. Sau and Catherine J. Murphy. Langmiur2004、 20、 6414に記載されている高収率の金ナノロッド合成法−CTAB保護金ナノ粒子を核とした金ナノロッドの合成方法を用いて、図2に示すように製造することができる。
【0020】
本実施形態で用いる金ナノロッドのアスペクト比は、1.5〜10であることが好ましく2.0〜5.0であることがより好ましい。このアスペクト比がこれらの範囲内であれば、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を形成できるためである。なお、このアスペクト比は、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0のうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0021】
本実施形態で用いる金ナノロッドの体積平均短軸径は、2nm〜200nmであることが好ましく、17nm〜27nmであることがより好ましい。この体積平均短軸径がこれらの範囲内であれば、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を形成できるためである。なお、この体積平均短軸径は、2nm、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、200nmのうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0022】
本実施形態で用いる金ナノロッドの体積平均長軸径は、5nm〜500nmであることが好ましく、46nm〜66nmであることがより好ましい。この体積平均長軸径が、この範囲内であれば、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を形成できるためである。なお、この体積平均長軸径は、5nm、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nmのうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0023】
本実施形態のキラル金ナノロッド組織体は、複数の金ナノロッドが長軸同士でお互いに接した形で並列していることが好ましい。そして、隣接した金ナノロッド同士は、お互いにねじれた状態で配置されていることが好ましい。この場合、隣接した金ナノロッド同士はお互いの重心同士を結ぶ直線の近傍を回転軸として互いに1°〜10°の範囲内の角度でねじれていることが好ましい。なお、この角度は、1°、2°、3°、4°、5°、6°、7°、8°、9°、10°のうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。また、本実施形態のキラル金ナノロッド組織体を構成する複数の金ナノロッドは、ずれも同じ方向に同じくらいの角度でねじれていることが好ましい。なお、本実施形態のキラル金ナノロッド組織体が実際にこのような形で並列しうることは、後述する実施例で実証されている。
【0024】
本実施形態のキラル金ナノロッド組織体は、2個以上の金ナノロッドを含んでいる。後述する実施例の電子顕微鏡で観察されている金ナノロッドの個数は8個であるが、特に8個に限定するものではなく、金ナノロッドの個数が2個以上であれば良好な円偏光二色性を示す。電子顕微鏡による確認によれば、分布上は8個の金ナノロッドを含むキラル金ナノロッド組織体が最も多いと示唆される。なお、この個数は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20のうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0025】
本実施形態のキラル金ナノロッド組織体は、金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で構成されていることが好ましい。このように、金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中に存在することによって、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を安定的に維持できるためである。もっとも、一旦キラル金ナノロッド組織体が形成されてしまえば、周囲の水溶液、タンパク質および他の有機物質などは除去してしまってキラル金ナノロッド組織体だけにしてしまっても構わない。後述する実施例で撮影した電子顕微鏡写真で示すように、自然乾燥させても、層状金ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向となっている構造が維持されたままであることを確認している。
【0026】
本実施形態のキラル金ナノロッド組織体が金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で構成されている場合、この血清タンパク質は、哺乳類または鳥類の血清中のアルブミンまたはグロブリンであることが好ましい。後述する実施例で示すように、各種タンパク質を用いて実験を行ったところ、哺乳類または鳥類の血清中のアルブミンまたはグロブリンであるBSA(Bovine Serum Albumin:ウシ血清アルブミン)、HSA(Human Serum Albumin:ヒト血清アルブミン)、及びγ−グロブリン(γ−Globulin)利用時に、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を形成できることが実証されているためである。この他にも、本実施形態で用いることができる哺乳類または鳥類の血清中のアルブミンまたはグロブリンとしては、オボアルブミン、ラクトアルブミン、鶏卵アルブミンなどが挙げられる。
【0027】
本実施形態のキラル金ナノロッド組織体が金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で構成されている場合、この水溶液中の金ナノロッドの濃度は、0.10nM〜5.00nMであることが好ましく、0.50nM〜1.00nMであることがより好ましい。この範囲の濃度であれば、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を安定的に維持できるためである。なお、この濃度は、0.10nM、0.20nM、0.30nM、0.40nM、0.50nM、0.60nM、0.70nM、0.80nM、0.90nM、1.00nM、2.00nM、3.00nM、4.00nM、5.00nMのうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0028】
図3は、水溶液中での血清タンパク質の濃度が金ナノロッドの組織体に与える影響を説明するための概念図である。本実施形態のキラル金ナノロッド組織体が金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で構成されている場合、この水溶液中の血清タンパク質の濃度は、2.5μM〜50μMであることが好ましく、5μM〜25μMであることがより好ましい。なお、この濃度は、2.5μM、5.0μM、7.5μM、10.0μM、15.0μM、20.0μM、25.0μM、30.0μM、35.0μM、40.0μM、45.0μM、50.0μMのうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0029】
再掲になるが、図2は、金ナノロッドを製造するための方法を説明するための概念図である。本実施形態で用いる金ナノロッドを、Tapan K. Sau and Catherine J. Murphy. Langmiur2004、 20、 6414に記載されている高収率の金ナノロッド合成法−CTAB還元金ナノ粒子を核とした金ナノロッドの合成方法を用いて、図2に示すように製造した場合には、金ナノロッドは、陽イオン界面活性剤で表面を被覆されていてもよい。この陽イオン界面活性剤としては、例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)以外にも、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ミリスチルトリメチルアンモニウム、臭化オクタデシルトリメチルアンモニウムなどを好適に用いることができる。
【0030】
図4は、水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの組織体に与える影響を説明するための概念図である。本実施形態のキラル金ナノロッド組織体が金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液中で構成されている場合、水溶液中におけるアセトニトリルの濃度は、12〜25容量%の範囲であることが好ましい。この範囲の濃度であれば、図4に示すように、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を安定的に維持できるためである。なお、この濃度は、12容量%、13容量%、14容量%、15容量%、16容量%、17容量%、18容量%、19容量%、20容量%、21容量%、22容量%、23容量%、24容量%、25容量%のうち任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0031】
図5は、水溶液中での非プロトン性極性溶媒の濃度が金ナノロッドの表面を被覆する陽イオン界面活性剤およびゼータ電位に与える影響を説明するための概念図である。本実施形態の金ナノロッドが陽イオン界面活性剤で表面を被覆されている場合、本実施形態で用いる水溶液は、非プロトン性極性溶媒を含む水溶液であることが好ましい。このように、非プロトン性極性溶媒を含む水溶液に存在することによって、図5に示すように、金ナノロッドの表面を被覆する陽イオン界面活性剤が剥がれて、金ナノロッドの表面のゼータ電位が低くなり、水溶液中の血清タンパク質と相互作用が可能になる結果、良好な円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体を安定的に維持できるためである。この非プロトン性極性溶媒としては、例えば、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランなどを好適に用いることができる。
【0032】
<実施形態2:キラル金ナノロッド組織体の生産方法>
本実施形態のキラル金ナノロッド組織体の生産方法は、複数の金ナノロッドで構成されるキラル金ナノロッド組織体の生産方法である。この生産方法は、金ナノロッドおよび血清タンパク質を含む水溶液を調製する工程を含む。この生産方法においては、各種材料、各種濃度、各種条件を適宜調整可能であるが、これらについては、すでに上記の実施形態1で説明したので繰り返さない。
【0033】
この方法によれば、後述する実施例で示すように、金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液中で金ナノロッドがside−by−sideの超構造体を形成し、円偏光二色性を有するキラル金ナノロッド組織体が得られる。こうして得られたキラル金ナノロッド組織体は、様々な機能性デバイス等の素材として活用可能である。
【0034】
なお、一旦キラル金ナノロッド組織体が形成されてしまえば、周囲の水溶液、タンパク質および他の有機物質などは除去してしまってキラル金ナノロッド組織体だけにしてしまっても構わない。後述する実施例で撮影した電子顕微鏡写真で示すように、自然乾燥させても、層状金ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向となっている構造が維持されたままであることを確認している。
【0035】
<実施形態3:血清タンパク質濃度の測定方法>
本実施形態の血清タンパク質濃度の測定方法は、a)金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液を注入したセルを準備する工程と、b)そのセルに光を照射する工程と、c)そのセルを透過した光の円偏光二色性スペクトルを検出する工程と、d)その被験血清タンパク質の種類毎にあらかじめ設けらている検量基準と、工程c)により得られた検出結果と、を対比する工程と、e)工程d)により得られた対比結果からその被検血清タンパク質濃度を算出する工程と、を含む。
【0036】
この方法によれば、金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液中で金ナノロッドがside−by−sideの超構造体を形成し、金ナノロッド吸収域である約500−1000nmにCDシグナルが確認されることになる。そのため、この金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液の円偏光二色性スペクトルを測定して、あらかじめ設けられている検量基準と対比すれば、この水溶液中に含まれる血清タンパク質の濃度を簡便かつ安価に測定することができる。
【0037】
a)工程
本実施形態の測定方法の工程a)では、金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液を注入したセルを準備する際に、各種材料、各種濃度、各種条件を適宜調整可能であるが、これらについては、すでに上記の実施形態1で説明したので繰り返さない。ここでは、上記の実施形態1では説明していないセルについて説明する。
【0038】
本実施形態で用いる測定セルは、一般的に円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)の測定に用いられる公知のセルを用いることができるが、例えば、測定に用いるCDスペクトル測定装置に付属する石英セルを用いればよい。また、この測定セルのサイズも特に限定されないが、一般的には検出セル長(光路長)1mmのものを使用することが多い。
【0039】
本実施形態の測定方法の工程b)では、上記のセルに光を照射する。この際に用いる光源としては、一般的に円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)の測定に用いられる公知の光源を用いることができるが、例えば、測定に用いるCDスペクトル測定装置に付属する光波長190nm〜1100nmの紫外域〜可視・近赤外域までの波長をカバーできる光源を好適に用いることができる。なぜなら、本実施形態の工程a)で金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液を調製することによって、後述する実施例で示すように、金ナノロッド吸収域である約500〜1000nmにCDシグナルが確認できるからである。
【0040】
本実施形態の測定方法の工程c)では、上記のセルを透過した光の円偏光二色性スペクトルを検出する。この際に用いる円偏光二色性スペクトルの検出器としては、例えば、測定に用いるCDスペクトル測定装置に付属する光電子増倍管またはシリコンフォトダイオードなどを用いればよい。この検出器の検出可能な波長としては、波長300nm〜1100nmの紫外域〜可視・近赤外域までの波長をカバーできることが好ましい。なぜなら、本実施形態の工程a)で金ナノロッドおよび被検血清タンパク質を含む水溶液を調製することによって、後述する実施例で示すように、金ナノロッド吸収域である約500〜1000nmにCDシグナルが確認できるからである。
【0041】
本実施形態の測定方法の工程d)では、上記の被験血清タンパク質の種類毎にあらかじめ設けらている検量基準と、工程c)により得られた検出結果と、を対比する。この際に上記の被験血清タンパク質の種類毎に濃度を所定の範囲(例えば、0μM〜100μMの間(より具体的には、0.0μM、1.0μM、2.5μM、5.0μM、10.0μM、25.0μM、50.0μM、100.0μM))で振ったサンプルを調製して、あらかじめ上記のa)工程〜c)工程を行っておき、上記の被験血清タンパク質の種類毎に検量基準を作成しておくことが好ましい。その結果、例えば、哺乳類または鳥類の血清中のアルブミンまたはグロブリンであるBSA(Bovine Serum Albumin:ウシ血清アルブミン)、HSA(Human Serum Albumin:ヒト血清アルブミン)、γ−グロブリン(γ−Globulin)、オボアルブミン(Ovalbumin)、ラクトアルブミン(Lactalbumin)、及び鶏卵アルブミン(Albumin,from chicken egg)についてそれぞれ検量基準を作成しておくことができる。
【0042】
本実施形態の測定方法の工程e)では、工程d)により得られた対比結果から被検血清タンパク質濃度を算出する。この際に上記のBSA、HSA、及びγ−グロブリンの検量基準を用いれば、それにあてはめることによって、BSA、HSA、γ−グロブリン(γ−Globulin)、オボアルブミン(Ovalbumin)、ラクトアルブミン(Lactalbumin)、及び鶏卵アルブミン(Albumin,from chicken egg)の濃度を算出することができる。
【0043】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0044】
例えば、上記実施の形態では、CDスペクトル測定装置の部品としてセルおよび検出器について説明したが、他にも一般的なCDスペクトル測定装置には、セルを格納するためのセルホルダを備える試料室が設けられている。
【0045】
また、一般的なCDスペクトル測定装置には、分光器も含まれる。分光器の分散素子としては、プリズム、回折格子などが用いられることが多い。分光器の分散素子として回折格子を用いる場合には、分光器は、例えば、入口スリット、出口スリット、回折格子及びそれらに付随するミラー等から構成される。
【0046】
また、一般的なCDスペクトル測定装置には、分光器で単色光に分光された光を直線偏光にする偏光子も含まれる。この偏光子としては、吸収型偏光子、結晶形偏光子、反射式偏光子などが用いられる。さらに、一般的なCDスペクトル測定装置には、偏光子で直線偏光にされた光を円偏光にする位相変調子も含まれる。この位相変調子としては例えば、石英などの透明かつ高品質な光学結晶とピエゾアクチュエーターで構成される光弾性変調器(PEM)などを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
<試料の調製>
(1)金ナノロッド(AuNR)溶液[0.32nM]の作製方法
(1−1)核溶液の調製(at 25℃)
14mL容サンプル瓶に0.01M 塩化金酸水溶液(0.25mL,2.5 μmol)と0.1M CTAB水溶液(7.5mL,0.75mmol)を入れ室温にて激しく撹拌しながら氷冷した0.01 M 水素化ホウ素ナトリウム水溶液(0.6mL,6μmol)を一気に加え,2min激しく撹拌し(これを0hとする)3hの経時変化を測定した。25℃の恒温槽で使用するまで保温した。なお、この核溶液の調製条件の終濃度を以下に示す。
【0049】
終濃度
[塩化金酸]=0.3mM
[CTAB]=0.09M
[水素化ホウ素ナトリウム]=0.72mM
【0050】
(1−2)金ナノロッド(AuNR)溶液[0.32nM]の調製(at 25℃)
0.1M CTAB水溶液(4.75mL,0.475mmol)が入ったサンプル瓶に0.01M 塩基金酸水溶液(0.2mL,2μmol),0.01 M 硝酸銀水溶液(0.03mL,0.3μmol)を加えゆっくり混ぜた.色は明るい茶黄色であった.0.1 mM アスコルビン酸水溶液(0.032mL,3.2μmol)を加えてそっと混ぜると無色になった.ここに核溶液(作製後3h経過したもの)を20μL加えるとそれぞれ色が変化した.核溶液を加えてから10秒撹拌し3h清置した後,4倍希釈して吸収スペクトル測定を行った.これを0hとして60h後までの経時変化を測定した.なお、この金ナノロッド溶液の調製条件の終濃度および参考にした文献情報を以下に示す。
【0051】
終濃度
[塩化金酸]=0.4mM
[CTAB]=0.09M
[硝酸銀]=0.06mM
[アスコルビン酸]=0.64mM
*Tapan K. Sau and Catherine J. Murphy*. Langmiur2004, 20, 6414
高収率の金ナノロッド合成法−CTAB還元金ナノ粒子を核とした金ナノロッドの合成方法に基づいて調製した。
【0052】
(1−3)金ナノロッド(AuNR)濃縮溶液[1.6nM]の作製方法
*AuNR−CTABの精製
0.32nM AuNR−0.1M CTAB sol. 60mLを12000rpm,30min遠心分離し上清を取り除きD.W.で30mLに再分散した.さらに12000rpm,30min遠心分離し上清を18mL取り除き再分散した(5倍濃縮,1.6nM).これを冷蔵庫(2℃)で2h静置グラスフィルター3でろ過することで過剰なCTABを取り除いた.
【0053】
(2)本実験で用いたタンパク質
以下の表1に示すタンパク質を用意して、以下の実験に用いた。
【0054】
【表1】
【0055】
<実験条件>
上記のとおり用意した各サンプルを用いて、以下の表2に示す条件で金ナノロッドおよびタンパク質を含む水溶液を調製して、実験を行った。
【0056】
【表2】
【0057】
<各実験の条件と結果>
(実験1)試料番号1−8AuNR−BSA[0〜100 μM]相互作用(20%MeCNaq.)
AuNR濃縮原液(AuNR=1.6nM)0.64mLにMeCN 0.32mLと0.01M CTABaq. 0.64mLを混ぜ合わせたものを加えAuNR=0.64nM (20%MeCNaq.)1.6mLを調製した.
【0058】
この調製溶液200μLにBSA 10μL(0〜100μM)添加後、石英セル(光路長1mm)を用いて以下の条件で吸収スペクトルを測定,CDスペクトル測定を行った.この測定結果を図6図8に示す。
【0059】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CDスペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0060】
(実験2)試料番号9−16AuNR−BSA[0〜100μM]相互作用(0%MeCNaq.)
AuNR濃縮原液(AuMR=1.6nM)0.64mLに0.01M CTABaq. 0.96mLを混ぜ合わせたものを加えAuNR=0.64nM(0%MeCNaq.)1.6mLを調製した.
【0061】
この調製溶液200μLにBSA 10μL(0〜100μM)添加後、石英セル(光路長1mm)を用いて吸収スペクトルを測定し,CDスペクトル測定を行った.この測定結果を図9図11に示す。
【0062】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CDスペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0063】
(実験3)試料番号17−20AuNR−BSA相互作用溶媒効果
下記の表3に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図12図13に示す。
【0064】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0065】
【表3】
【0066】
(実験4)試料番号21−24AuNR溶媒効果
下記の表4に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図14図15に示す。
【0067】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0068】
【表4】
【0069】
(実験5)試料番号25−32 AuNR−HSA[0〜100μM]相互作用(20%MeCN)
下記の表5に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図16図18に示す。
【0070】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0071】
【表5】
なお、上記のHSA濃度の単位はμMである。
【0072】
(実験6)試料番号33−41 AuNR−HSA相互作用 溶媒効果
下記の表6に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図19図20に示す。
【0073】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0074】
【表6】
【0075】
(実験6)試料番号42−45 AuNR−BSA(−G)[1〜10μM]相互作用(20%MeCN)
下記の表7に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図21図22に示す。
【0076】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0077】
【表7】
なお、上記BSA(-G)欄は濃度で、単位はμMである。
【0078】
(実験7)試料番号46−54 AuNR−タンパク質[10μM]相互作用(20%MeCN)
下記の表8に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図23に示す。
【0079】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0080】
【表8】
【0081】
(実験8)100μMHSA−AuNR→10μMHSA−AuNR
AuNR濃縮原液(AuMR=1.6nM)80μLに0.01M CTABaq. 80μL、MeCN 40μLを加え撹拌した。ここに2.1mM HSAaq.を10μLを加え100μMHSA−AuNRを調製し石英セル(光路長1 mm)を用いて吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図24図25に示す。
【0082】
この100μMHSA−AuNR溶液を30 μLを1.6 nM AuNRsol. 100μLに0.01M CTABaq. 115μL、MeCN 55μLを加え撹拌したところに加え10μMHSA−AuNRとした。石英セル(光路長1 mm)を用いて吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図24図25に示す。
【0083】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CDスペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0084】
(実験9)AuNR−HSA相互作用 溶媒効果
下記の表9に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を図26図27に示す。
【0085】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0086】
これらのSEMサンプルを作製しFE−SEM(日本電子製JSM−6500F)で観察した。この観察結果を図28図29に示す。
【0087】
SEMサンプル作製方法
サンプル台にカーボンテープを貼り、この上にアルミニウム箔を置いた。この上に各試料を2μL載せ自然乾燥した。
【0088】
【表9】
【0089】
<結果の考察>
上記の実験例1〜9の実験結果から、以下のことがわかる。
本実施例では、金属ナノロッドの界面構造を人工的に制御することで血清タンパク質との相互作用に由来する光学特性変化が可能な検出系の構築(金ナノロッドの異方性を利用したバイオセンサーの開発)を目的とした。そこで今回は金属ナノロッドのコア金属種として、金を採用した。本実施例では、金ナノロッドの高収率合成法として知られているseed成長法を用いて臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を保護層に有する金ナノロッド(アスペクト比2.6)(金ナノロッド表面は臭化セチルトリメチルアンモニウムの二重膜で保護されている)を調製した。さらに、この金ナノロッドのコロイド分散溶液の外部環境を変化させることで界面構造を制御した。
【0090】
得られた金ナノロッドコロイド分散液を用いて一定条件下で吸収スペクトルを測定した結果、血清タンパク質(アルブミン類(BSA、HSA)、γ−グロブリン)を添加することで金ナノロッド吸収帯が756nmから709nmに短波長シフトした。金ナノロッドがside−by−sideの超構造体を形成していることが示唆された。この円二色性(CD)スペクトルを測定したところ、金ナノロッドに由来する吸収領域(約500〜1000nm)においてCD活性となり、負のキラリティーが現れ、金ナノロッド超構造体は光学活性があることが確認できた。この際、上記のとおり吸収スペクトルが短波長シフトしていたことから、層状ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向していることが示された。種々のタンパク質との相互作用実験を行ったところ、この光学活性な超構造体の形成は血清タンパク質に対して特異的であることから、選択的タンパク質のセンサとしての応用が期待される。
【0091】
一方、同一条件で他の数種類のタンパク質(ペプシン、トリプシン、リゾチーム、グルタチオン(GSH)))を添加して、吸収スペクトル及び円二色性(CD)スペクトルを測定したが、他の数種類のタンパク質(ペプシン、トリプシン、リゾチーム、グルタチオン(GSH)))の場合はスペクトル変化が殆ど無かったのに対して、BSAやHSA、γ−グロブリン、ラクトアルブミン、OVAを添加した際は長波長側の吸収帯の明らかな短波長シフトが観測された。また、他の数種類のタンパク質(ペプシン、トリプシン、リゾチーム、グルタチオン(GSH)))では、CD不活性であった。このことは血清タンパク質が金ナノロッドのキラル配列体を生成させることを意味しており、金ナノロッドの異方性を利用することで血清タンパク質の選択的検出が可能となることが明らかとなった。
【0092】
また、一度[AuNR]=0.64nM,[HSA]=100μMでサンプルを調製して測定し、その後にAuNR溶液で薄めることで、[AuNR]=0.64nM,[HSA]=10μMとなるように調製して測定した場合には、CD強度が上がっているため、AuNR(金ナノロッド)と血清タンパク質(HSA)の相対的な濃度比がキラル組織体を形成するのに重要であることがわかる。
【0093】
さらに、電子顕微鏡の観察結果からは、一旦キラル金ナノロッド組織体が形成されてしまえば、周囲の水溶液、タンパク質および他の有機物質などは除去してしまってキラル金ナノロッド組織体だけ自然乾燥させても、層状金ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向となっている構造が維持されたままであることがわかる。
【0094】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29