【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
<試料の調製>
(1)金ナノロッド(AuNR)溶液[0.32nM]の作製方法
(1−1)核溶液の調製(at 25℃)
14mL容サンプル瓶に0.01M 塩化金酸水溶液(0.25mL,2.5 μmol)と0.1M CTAB水溶液(7.5mL,0.75mmol)を入れ室温にて激しく撹拌しながら氷冷した0.01 M 水素化ホウ素ナトリウム水溶液(0.6mL,6μmol)を一気に加え,2min激しく撹拌し(これを0hとする)3hの経時変化を測定した。25℃の恒温槽で使用するまで保温した。なお、この核溶液の調製条件の終濃度を以下に示す。
【0049】
終濃度
[塩化金酸]=0.3mM
[CTAB]=0.09M
[水素化ホウ素ナトリウム]=0.72mM
【0050】
(1−2)金ナノロッド(AuNR)溶液[0.32nM]の調製(at 25℃)
0.1M CTAB水溶液(4.75mL,0.475mmol)が入ったサンプル瓶に0.01M 塩基金酸水溶液(0.2mL,2μmol),0.01 M 硝酸銀水溶液(0.03mL,0.3μmol)を加えゆっくり混ぜた.色は明るい茶黄色であった.0.1 mM アスコルビン酸水溶液(0.032mL,3.2μmol)を加えてそっと混ぜると無色になった.ここに核溶液(作製後3h経過したもの)を20μL加えるとそれぞれ色が変化した.核溶液を加えてから10秒撹拌し3h清置した後,4倍希釈して吸収スペクトル測定を行った.これを0hとして60h後までの経時変化を測定した.なお、この金ナノロッド溶液の調製条件の終濃度および参考にした文献情報を以下に示す。
【0051】
終濃度
[塩化金酸]=0.4mM
[CTAB]=0.09M
[硝酸銀]=0.06mM
[アスコルビン酸]=0.64mM
*Tapan K. Sau and Catherine J. Murphy*. Langmiur2004, 20, 6414
高収率の金ナノロッド合成法−CTAB還元金ナノ粒子を核とした金ナノロッドの合成方法に基づいて調製した。
【0052】
(1−3)金ナノロッド(AuNR)濃縮溶液[1.6nM]の作製方法
*AuNR−CTABの精製
0.32nM AuNR−0.1M CTAB sol. 60mLを12000rpm,30min遠心分離し上清を取り除きD.W.で30mLに再分散した.さらに12000rpm,30min遠心分離し上清を18mL取り除き再分散した(5倍濃縮,1.6nM).これを冷蔵庫(2℃)で2h静置グラスフィルター3でろ過することで過剰なCTABを取り除いた.
【0053】
(2)本実験で用いたタンパク質
以下の表1に示すタンパク質を用意して、以下の実験に用いた。
【0054】
【表1】
【0055】
<実験条件>
上記のとおり用意した各サンプルを用いて、以下の表2に示す条件で金ナノロッドおよびタンパク質を含む水溶液を調製して、実験を行った。
【0056】
【表2】
【0057】
<各実験の条件と結果>
(実験1)試料番号1−8AuNR−BSA[0〜100 μM]相互作用(20%MeCNaq.)
AuNR濃縮原液(AuNR=1.6nM)0.64mLにMeCN 0.32mLと0.01M CTABaq. 0.64mLを混ぜ合わせたものを加えAuNR=0.64nM (20%MeCNaq.)1.6mLを調製した.
【0058】
この調製溶液200μLにBSA 10μL(0〜100μM)添加後、石英セル(光路長1mm)を用いて以下の条件で吸収スペクトルを測定,CDスペクトル測定を行った.この測定結果を
図6〜
図8に示す。
【0059】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CDスペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0060】
(実験2)試料番号9−16AuNR−BSA[0〜100μM]相互作用(0%MeCNaq.)
AuNR濃縮原液(AuMR=1.6nM)0.64mLに0.01M CTABaq. 0.96mLを混ぜ合わせたものを加えAuNR=0.64nM(0%MeCNaq.)1.6mLを調製した.
【0061】
この調製溶液200μLにBSA 10μL(0〜100μM)添加後、石英セル(光路長1mm)を用いて吸収スペクトルを測定し,CDスペクトル測定を行った.この測定結果を
図9〜
図11に示す。
【0062】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CDスペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0063】
(実験3)試料番号17−20AuNR−BSA相互作用溶媒効果
下記の表3に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図12〜
図13に示す。
【0064】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0065】
【表3】
【0066】
(実験4)試料番号21−24AuNR溶媒効果
下記の表4に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図14〜
図15に示す。
【0067】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0068】
【表4】
【0069】
(実験5)試料番号25−32 AuNR−HSA[0〜100μM]相互作用(20%MeCN)
下記の表5に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図16〜
図18に示す。
【0070】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0071】
【表5】
なお、上記のHSA濃度の単位はμMである。
【0072】
(実験6)試料番号33−41 AuNR−HSA相互作用 溶媒効果
下記の表6に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図19〜
図20に示す。
【0073】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0074】
【表6】
【0075】
(実験6)試料番号42−45 AuNR−BSA(−G)[1〜10μM]相互作用(20%MeCN)
下記の表7に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図21〜
図22に示す。
【0076】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0077】
【表7】
なお、上記BSA(-G)欄は濃度で、単位はμMである。
【0078】
(実験7)試料番号46−54 AuNR−タンパク質[10μM]相互作用(20%MeCN)
下記の表8に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図23に示す。
【0079】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0080】
【表8】
【0081】
(実験8)100μMHSA−AuNR→10μMHSA−AuNR
AuNR濃縮原液(AuMR=1.6nM)80μLに0.01M CTABaq. 80μL、MeCN 40μLを加え撹拌した。ここに2.1mM HSAaq.を10μLを加え100μMHSA−AuNRを調製し石英セル(光路長1 mm)を用いて吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図24〜
図25に示す。
【0082】
この100μMHSA−AuNR溶液を30 μLを1.6 nM AuNRsol. 100μLに0.01M CTABaq. 115μL、MeCN 55μLを加え撹拌したところに加え10μMHSA−AuNRとした。石英セル(光路長1 mm)を用いて吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図24〜
図25に示す。
【0083】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CDスペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0084】
(実験9)AuNR−HSA相互作用 溶媒効果
下記の表9に従って試料を作製し、石英セル(光路長1mm)を用いてそれぞれの吸収スペクトル、CDスペクトルを測定した。この測定結果を
図26〜
図27に示す。
【0085】
吸収スペクトル測定条件:波長300nm〜1100nm
CD スペクトル測定条件:スリット幅 300μm
レスポンス 0.125sec
感度 standard
データ取込間隔1nm
走査速度 500nm/min
積算回数 10
測定温度 25℃
【0086】
これらのSEMサンプルを作製しFE−SEM(日本電子製JSM−6500F)で観察した。この観察結果を
図28〜
図29に示す。
【0087】
SEMサンプル作製方法
サンプル台にカーボンテープを貼り、この上にアルミニウム箔を置いた。この上に各試料を2μL載せ自然乾燥した。
【0088】
【表9】
【0089】
<結果の考察>
上記の実験例1〜9の実験結果から、以下のことがわかる。
本実施例では、金属ナノロッドの界面構造を人工的に制御することで血清タンパク質との相互作用に由来する光学特性変化が可能な検出系の構築(金ナノロッドの異方性を利用したバイオセンサーの開発)を目的とした。そこで今回は金属ナノロッドのコア金属種として、金を採用した。本実施例では、金ナノロッドの高収率合成法として知られているseed成長法を用いて臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を保護層に有する金ナノロッド(アスペクト比2.6)(金ナノロッド表面は臭化セチルトリメチルアンモニウムの二重膜で保護されている)を調製した。さらに、この金ナノロッドのコロイド分散溶液の外部環境を変化させることで界面構造を制御した。
【0090】
得られた金ナノロッドコロイド分散液を用いて一定条件下で吸収スペクトルを測定した結果、血清タンパク質(アルブミン類(BSA、HSA)、γ−グロブリン)を添加することで金ナノロッド吸収帯が756nmから709nmに短波長シフトした。金ナノロッドがside−by−sideの超構造体を形成していることが示唆された。この円二色性(CD)スペクトルを測定したところ、金ナノロッドに由来する吸収領域(約500〜1000nm)においてCD活性となり、負のキラリティーが現れ、金ナノロッド超構造体は光学活性があることが確認できた。この際、上記のとおり吸収スペクトルが短波長シフトしていたことから、層状ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向していることが示された。種々のタンパク質との相互作用実験を行ったところ、この光学活性な超構造体の形成は血清タンパク質に対して特異的であることから、選択的タンパク質のセンサとしての応用が期待される。
【0091】
一方、同一条件で他の数種類のタンパク質(ペプシン、トリプシン、リゾチーム、グルタチオン(GSH)))を添加して、吸収スペクトル及び円二色性(CD)スペクトルを測定したが、他の数種類のタンパク質(ペプシン、トリプシン、リゾチーム、グルタチオン(GSH)))の場合はスペクトル変化が殆ど無かったのに対して、BSAやHSA、γ−グロブリン、ラクトアルブミン、OVAを添加した際は長波長側の吸収帯の明らかな短波長シフトが観測された。また、他の数種類のタンパク質(ペプシン、トリプシン、リゾチーム、グルタチオン(GSH)))では、CD不活性であった。このことは血清タンパク質が金ナノロッドのキラル配列体を生成させることを意味しており、金ナノロッドの異方性を利用することで血清タンパク質の選択的検出が可能となることが明らかとなった。
【0092】
また、一度[AuNR]=0.64nM,[HSA]=100μMでサンプルを調製して測定し、その後にAuNR溶液で薄めることで、[AuNR]=0.64nM,[HSA]=10μMとなるように調製して測定した場合には、CD強度が上がっているため、AuNR(金ナノロッド)と血清タンパク質(HSA)の相対的な濃度比がキラル組織体を形成するのに重要であることがわかる。
【0093】
さらに、電子顕微鏡の観察結果からは、一旦キラル金ナノロッド組織体が形成されてしまえば、周囲の水溶液、タンパク質および他の有機物質などは除去してしまってキラル金ナノロッド組織体だけ自然乾燥させても、層状金ナノロッド配列体が形成され、かつ血清タンパク質によりキラル配向となっている構造が維持されたままであることがわかる。
【0094】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。