【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度〜平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構生活支援ロボット実用化プロジェクト(安全技術を導入した搭乗型生活支援ロボットの開発、安全要素部品群と安全設計に基づく搭乗型移動ロボットの開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0011】
一人乗りの搭乗型移動ロボットであって、
該搭乗型移動ロボットの移動方向と移動速度の双方を指示するために搭乗者によって操作される単一の被操作部材と、
前記搭乗型移動ロボットを移動させるための移動部材と、
前記搭乗者によって前記被操作部材に入力される入力情報に基づいて前記移動部材を制御するコントローラーと、を有する搭乗型移動ロボットにおいて、
前記搭乗型移動ロボットの周囲における障害物情報を取得するセンサーをさらに備え、
前記コントローラーは、
前記入力情報に基づいて前記搭乗型移動ロボットの予測進路を予測し、前記予測進路に障害物が位置するか否かを前記障害物情報に基づいて判定し、
前記障害物が位置すると判定した際には、前記移動部材に対する制御を変えることを特徴とする搭乗型移動ロボット。
【0012】
かかる場合には、搭乗者のリスクを低減することが可能な搭乗型移動ロボットを実現することが可能となる。
【0013】
また、前記コントローラーは、前記搭乗型移動ロボットを中心とした二次元極座標のグリッド単位で前記予測進路を予測し、かつ、前記グリッド単位で前記障害物が位置するか否かを特定することとしてもよい。
【0014】
かかる場合には、搭乗型移動ロボットからの距離に応じた適切な判定手法を実現することが可能となる。
【0015】
また、前記コントローラーは、
前記障害物が位置すると判定した際には、前記搭乗型移動ロボットの移動速度及び移動加速度の少なくともどちらか一方が所定値を超えないように前記制御を行うこととしてもよい。
【0016】
かかる場合には、搭乗型移動ロボットが例え障害物に衝突したとしても、移動速度や移動加速度が大きい状態で衝突することが回避されるため、搭乗者のリスクが適切に低減される。
【0017】
また、前記コントローラーは、
前記予測進路に位置する前記障害物までの最短距離を前記障害物情報に基づいて特定し、
前記最短距離に応じて、前記所定値を変化させることとしてもよい。
【0018】
かかる場合には、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0019】
また、前記コントローラーは、
前記予測進路に位置する前記障害物までの最短距離を互いに異なる2時点でそれぞれ前記障害物情報に基づいて特定し、
2つの前記最短距離に基づいて求められる速度に応じて、前記所定値を変化させることとしてもよい。
【0020】
かかる場合には、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0021】
また、前記コントローラーは、
前記予測進路に位置する前記障害物までの最短距離を互いに異なる3時点でそれぞれ前記障害物情報に基づいて特定し、
3つの前記最短距離に基づいて求められる加速度に応じて、前記所定値を変化させることとしてもよい。
【0022】
かかる場合には、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0023】
また、前記コントローラーは、
前記予測進路に位置する前記障害物までの最短距離を互いに異なる2時点又は3時点でそれぞれ前記障害物情報に基づいて特定し、
1つの前記最短距離と、2つの前記最短距離に基づいて求められる速度と、3つの前記最短距離に基づいて求められる加速度のうちの少なくとも二つの変数にそれぞれ重み付けした重み付け関数に応じて、前記所定値を変化させることとしてもよい。
【0024】
かかる場合には、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0025】
また、前記コントローラーは、
前記障害物が位置すると判定した際には、前記搭乗型移動ロボットの移動速度及び移動加速度の少なくともどちらか一方が所定値を超えないように前記制御を行う速度・加速度制限処理を実行し、
前記速度・加速度制限処理が行われている間に、前記障害物が位置しないと判定した場合には、前記速度・加速度制限処理を所定時間維持した後に前記速度・加速度制限処理を解除することとしてもよい。
【0026】
かかる場合には、十分な時間の経過により安全確保が確認できてから、速度制限や加速度制限を解除することが可能となる。
【0027】
また、前記コントローラーは、
前記速度・加速度制限処理を所定時間維持する際に、前記所定値を増加させることとしてもよい。
【0028】
かかる場合には、安全確保の可能性が高まるにつれて速度制限や加速度制限を緩めることが可能となる。
【0029】
また、前記コントローラーは、
前記入力情報が入力されてから所定時間後までの、線状の推定移動軌跡を、前記入力情報に基づいて求め、
前記推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと前記軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを、前記予測進路とすることとしてもよい。
【0030】
かかる場合には、搭乗型移動ロボットの横幅を考慮して、予測進路に障害物が位置するか否かを判断することが可能となる。
【0031】
また、前記コントローラーは、前記推定移動軌跡の長さに応じて、前記両側グリッドのグリッド数を変化させることとしてもよい。
【0032】
かかる場合には、搭乗型移動ロボットの旋回のし易さが適切に考慮された予測進路の設定が可能となる。
【0033】
また、前記センサーは第一センサーであり、該第一センサーとは異なる第二センサーを有し、
前記コントローラーは、
前記第二センサーから前記搭乗型移動ロボットの実際の移動速度を取得可能であり、
取得された前記実際の移動速度に基づいて前記推定移動軌跡を再設定し、再設定された該推定移動軌跡の長さに応じて、前記両側グリッドのグリッド数を変化させることとしてもよい。
【0034】
かかる場合には、実際の移動速度が適切に考慮された予測進路の設定が可能となる。
【0035】
また、前記コントローラーは、前記推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと前記全ての軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを、前記予測進路とし、
前記両側グリッドのグリッド数は、どの軌跡含有グリッドに対しても同じであることとしてもよい。
【0036】
かかる場合には、センサーの障害物検知精度が搭乗型移動ロボットから遠い位置において悪くなるような場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0037】
また、第一軌跡含有グリッドの前記周方向における両側に位置する第一両側グリッドのグリッド数が、
径方向において前記搭乗型移動ロボットから見て前記第一軌跡含有グリッドよりも遠い位置に位置する第二軌跡含有グリッドの、前記周方向における両側に位置する第二両側グリッドのグリッド数よりも少なくなるように、
前記予測進路が設定されていることとしてもよい。
【0038】
かかる場合には、センサーの障害物検知精度が搭乗型移動ロボットから遠い位置においてより一層悪くなるような場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0039】
また、第一軌跡含有グリッドの前記周方向における両側に位置する第一両側グリッドのグリッド数が、
径方向において前記搭乗型移動ロボットから見て前記第一軌跡含有グリッドよりも遠い位置に位置する第二軌跡含有グリッドの、前記周方向における両側に位置する第二両側グリッドのグリッド数よりも多くなるように、
前記予測進路が設定されていることとしてもよい。
【0040】
かかる場合には、搭乗型移動ロボットから近い位置に障害物がある場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0041】
また、前記コントローラーは、
三次元位置情報を持つ点群として前記障害物情報を前記センサーから受け取り、
前記点群を前記二次元極座標に投影したときの前記グリッドに含まれる前記点群の数が閾値を超えるときに、当該グリッドを前記障害物が位置するグリッドとし、
前記閾値を、前記グリッドの径方向における位置に応じて変化させることとしてもよい。
【0042】
かかる場合には、センサーの障害物検知精度が搭乗型移動ロボットから遠い位置において悪くなるような場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0043】
また、前記コントローラーは、
三次元位置情報を持つ点群として前記障害物情報を前記センサーから受け取り、
前記点群の各点に、前記点の高さ方向における位置に応じた重み数を設定し、
前記点群を前記二次元極座標に投影したときの前記グリッドに含まれる前記点群の前記重み数の合計が閾値を超えるときに、当該グリッドを前記障害物が位置するグリッドとすることとしてもよい。
【0044】
かかる場合には、点群の各点の重要性(重み)を考慮することにより、より適切な障害物に係る判断が可能となる。
【0045】
また、前記予測進路、及び、前記予測進路に位置する前記障害物を、表示する表示部を有することとしてもよい。
【0046】
かかる場合には、搭乗者が予測進路や予測進路に位置する障害物を適切に把握することができるため、搭乗者のリスクをより一層低減することが可能となる。
【0047】
また、前記制御が変わったことを報知する報知部を有することとしてもよい。
【0048】
かかる場合には、搭乗者に注意喚起が成されるため、搭乗者のリスクをより一層低減することが可能となる。
【0049】
また、前記搭乗型移動ロボットは、車いすであることとしてもよい。
【0050】
かかる場合には、搭乗者のリスクを低減することが可能な車いすを実現することが可能となる。
【0051】
===車いす10の構成例について===
次に、本実施の形態に係る車いす10の構成例について
図1乃至
図4を用いて説明する。
【0052】
図1は、車いす10の外観構成を示した模式図である。
図2は、車いす10の内部構成を示したブロック図である。
図3及び
図4については、後述する。
【0053】
一人乗りの搭乗型移動ロボットの一例としての電動車いす(単に、車いす10と呼ぶ)は、車体20と、移動部材30と、被操作部材の一例としてのジョイスティック40と、センサー(第一センサー)の一例としての3Dレーザーレンジファインダー50(レーザーセンサー)と、コントローラー60と、を有している。
【0054】
車体20は、車いす10のボディであり、座席20a等を有する。また、車体20には、移動部材30、ジョイスティック40、3Dレーザーレンジファインダー50、コントローラー60等が取り付けられている。
【0055】
移動部材30は、車いす10を移動させるためのものである。この移動部材30は、車輪32と、モーター36と、を備えている。
【0056】
車輪32は、回転軸回りに回転可能となるように構成されており、当該車輪32が回転することにより車いす10が移動(走行)する。本実施の形態に係る車いす10には、2つの(左右の)駆動輪33と、当該駆動輪33よりも小さい径を有する2つの(左右の)非駆動輪34と、が備えられている。
【0057】
モーター36は、車輪32(具体的には、駆動輪33)を回転させるためのものである。なお、モーター36は、2つの(左右の)駆動輪33の各々に対して1つずつ(合計2つ)設けられている。
【0058】
ジョイスティック40は、車いす10の移動方向と移動速度の双方を指示するために搭乗者によって操作される単一の部材である。
【0059】
ジョイスティック40は、操作されない状態において、z方向(
図3においては、紙面を貫く方向)と平行な状態で起立している。つまり、ジョイスティック40の位置は、z軸と一致している(なお、z軸方向は、車いす10において鉛直方向と略平行となっている)。
【0060】
そして、搭乗者が、ジョイスティック40を操作する(具体的には、倒す)と、
図3に示すように、ジョイスティック40は傾く。なお、
図3は、傾いたジョイスティック40をxy平面に投影した様子を示す模式図である。本実施の形態に係るジョイスティック40は、ジョイスティック40に入力される入力情報として、
図3に示した座標(xjs、yjs)を出力する。つまり、本実施の形態に係る当該入力情報は、ジョイスティック40の先端のx座標とy座標の値であり、これらの値が出力されることとなる。
【0061】
3Dレーザーレンジファインダー50は、車いす10の周囲における障害物情報を取得するためのものである。この3Dレーザーレンジファインダー50については、後に詳述する。
【0062】
コントローラー60は、搭乗者によってジョイスティック40に入力される入力情報に基づいて移動部材30を制御するためのものである。
【0063】
すなわち、本実施の形態に係るコントローラー60は、前述したxjsとyjsを受け取り、これらをそれぞれ指令直進速度v(つまり、車いす10が向いている方向における速度。換言すれば、正面方向の速度)と指令回転速度w(その場で、地面の法線方向(面外方向)を中心に回転する(旋回する)角速度)に、
図4に示した変換ルールに基づいて変換する。
【0064】
図4は、(xjs、yjs)を(v、w)に変換する変換ルールを示した模式図である。
図4に示すように、xjsは、指令直進速度vに、3箇所の不感帯(xjsが変化しているにもかかわらず、vが変化していない部分を当該不感帯と呼んでいる)を除いて、比例的に変換される(なお、本実施の形態においては、比例的(線形)としたが、これに限定されるものではなく、非線形であってもよい)。同様に、yjsは、指令回転速度wに、3箇所の不感帯(yjsが変化しているにもかかわらず、wが変化していない部分を当該不感帯と呼んでいる)を除いて、比例的に変換される(なお、本実施の形態においては、比例的(線形)としたが、これに限定されるものではなく、非線形であってもよい)。
【0065】
次に、コントローラー60は、車いす10の直進速度がxjsから変換された指令直進速度vになるように、かつ、車いす10の回転速度がyjsから変換された指令回転速度wになるように、前述した移動部材30を制御する。具体的には、先ず、公知の方法により、指令直進速度v及び指令回転速度wの組を、左側の駆動輪33の左駆動輪回転速度lvと右側の駆動輪33の右駆動輪回転速度rvの組に変換する。つまり、指令直進速度v及び指令回転速度wを実現するためには、左右の駆動輪33をどれだけの速度で回せばよいかを算出する(なお、本実施の形態に係る車いす10の回転は、左右の駆動輪33に速度差を設けることにより実現できる。指令回転速度wが大きいほど、左右の駆動輪33の回転速度差を大きくする必要がある)。
【0066】
そして、コントローラー60は、左側の駆動輪33(右側の駆動輪33)が左駆動輪回転速度lv(右駆動輪回転速度rv)となるようにモーター36に指令を与える(つまり、モーター36の電流や電圧を制御する)。
【0067】
なお、モーター36の電流(圧)値や駆動輪33の回転速度をモニターして、電流(圧)や駆動輪回転速度の指令値との差分をとり、当該差分をフィードバックするフィードバック制御を行ってもよい。
【0068】
===リスク低減制御について===
上述したとおり、このような車いす10においては、操作が搭乗者に委ねられる。そのため、搭乗者の操作によって搭乗者の安全性が害される状況が生じた場合には、搭乗者のリスクを低減することが要請される。
【0069】
そして、本実施の形態に係る車いす10においては、かかる要請に応えるため、当該リスクを低減するための制御(リスク低減制御と呼ぶ)が行われる。かかるリスク低減制御は、主として、コントローラー60により実現され、具体的には、コントローラー60が、前述した入力情報に基づいて車いす10の予測進路を予測し、前記予測進路に障害物が位置するか否かを3Dレーザーレンジファインダー50によって取得される障害物情報に基づいて判定し、障害物が位置すると判定した際には、前記移動部材30に対する制御を変える(安全サイドに変更する)。
【0070】
以下、
図5乃至
図7を参照しつつ、より具体的に説明する。
図5は、リスク低減制御のフロー図である。
図6は、予測進路に障害物が位置するか否かを判定する判定方法を説明するための説明図である。
図7は、制限値設定ルールを示した模式図である。
【0071】
なお、
図6には、二次元極座標のグリッド(非矩形のマス目)が表されているが、以下では、当該グリッドの位置を、便宜上、<r,θ>のように表す。ここで、rは、距離ではなく、径方向において車いす10から何番目に遠いグリッドであるかを示す数(自然数)である。また、θは、角度ではなく、周方向において何番目に右へ(左へ)逸れたグリッドであるかを示す数(整数)である(例えば、符号Lで表した中央線から一番目に右に逸れたグリッドについてはθ=1、一番目に左に逸れたグリッドについてはθ=−1である)。例えば、
図6において、符号Aで示されたグリッドの位置は<21,−5>である。また、符号Bで示されたグリッドの位置は<29,−3>である。
【0072】
搭乗者によりジョイスティック40が操作され入力情報が入力されると(ステップS1)、コントローラー60は、先ず、当該入力情報に基づいて車いす10の予測進路を予測する(ステップS3)。
【0073】
予測進路を予測する手順は以下の通りである。すなわち、当該入力情報が入力されると、コントローラー60は、当該入力情報が入力されてから所定時間後までの、線状の推定移動軌跡を、当該入力情報に基づいて求める。つまり、当該推定移動軌跡は、入力情報(xjs、yjs)が前記所定時間の間入力され続けたときに(換言すれば、xjsから変換された指令直進速度vとyjsから変換された指令回転速度wが前記所定時間の間指令され続けたときに)、車いす10が辿る道筋であり、公知の方法により求めることができる。推定移動軌跡の一例を
図6に矢印で示す。
【0074】
次に、求められた推定移動軌跡に基づいて予測進路を求めるが、本実施の形態において、コントローラー60は、車いす10を中心とした二次元極座標(つまり、円座標)のグリッド単位で予測進路を求める(予測する)ので、
図6に示すように、推定移動軌跡を二次元極座標上に置く。そして、推定移動軌跡が含まれる全てのグリッド(軌跡含有グリッドと呼ぶ)と当該軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドを、予測進路(
図6において、塗りつぶされ部分が該当)とする。なお、このように、軌跡含有グリッドだけでなく、両側グリッドも予測進路としたのは、車いす10の横幅を考慮して、予測進路に障害物が位置するか否かを判断することができるようにするためである。
【0075】
また、本実施の形態においては、推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと全ての軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを予測進路とし、両側グリッドのグリッド数(本実施の形態では、2つとしているが、例えば、前記横幅に応じて4つ以上にしてもよい)はどの軌跡含有グリッドに対しても同じであることとしている。つまり、どの軌跡含有グリッドに対しても、右側の隣接グリッドと左側の隣接グリッドを両側グリッドとしている。したがって、径方向におけるどの位置においても、周方向に3つ並んだグリッドが、予測進路を構成していることとなる。
【0076】
なお、本実施の形態においては、1つのグリッドの径方向の長さを25cmとし、周方向の角度を5度としているが、これに限定されるものではなく、適宜別の値に設定可能である。
【0077】
また、コントローラー60は、当該予測進路の予測と並行して、3Dレーザーレンジファインダー50によって取得される障害物情報に基づいて障害物の位置を特定する(ステップS5)。
【0078】
ここで、3Dレーザーレンジファインダー50について説明する。3Dレーザーレンジファインダー50は、車いす10の周囲における障害物情報を取得するためのものである。具体的には、レーザーを放射状に(三次元的に)発射し、レーザーが物体(障害物)に当たって返ってくる時間を元に物体(障害物)までの距離を取得する。また、物体(障害物)までの距離がわかるため、物体(障害物)の三次元座標(三次元位置情報)を知る(取得する)ことができる。
【0079】
この3Dレーザーレンジファインダー50は、所定のサンプリング間隔で、障害物情報を取得する。そして、コントローラー60は、予測進路の予測を行うタイミングと同様のタイミング(ここで、「同様のタイミング」とは、時間差が全くないことを意味するものではなく、若干の時間差が存在することを含む概念である)で、三次元位置情報を持つ点群として障害物情報を3Dレーザーレンジファインダー50から受け取る。
【0080】
そして、本実施の形態において、コントローラー60は、前述した二次元極座標のグリッド単位で障害物が位置するか否かを特定する。そのため、三次元座標における前記点群を二次元極座標に投影し、投影したときのグリッドに含まれる点群の数が閾値(例えば、10個)を超えるときに当該グリッドを障害物が位置するグリッド(以下、便宜上、障害物グリッドと呼ぶ)とする。
【0081】
次に、コントローラー60は、予測進路に障害物が位置するか否かを判定する(ステップS7)。具体的には、軌跡含有グリッドと両側グリッドで構成される予測進路(グリッド群)の中に、障害物グリッドが存在するか否かを判定する。
【0082】
また、コントローラー60は、予測進路に障害物が位置すると判定した場合に、合わせて、予測進路に位置する障害物までの最短距離を特定する(ステップS9)。
【0083】
ここで、最短距離の特定は、二次元極座標に投影された点群毎に行っても良いが、本実施の形態においては、演算処理の簡素化というメリットを享受するため、グリッド単位で行う。
【0084】
一例を挙げて
図6を参照しつつ説明する。例えば、ステップS5で、
図6におけるグリッドAとグリッドBが障害物グリッドであると特定されたとする。この場合、前述したとおり、グリッドAとグリッドBの位置は、それぞれ、<21,−5>、<29,−3>であるから、グリッドAの距離は21に対し、グリッドBの距離は29となる。したがって、前記最短距離はグリッドAの方の距離21となる。
【0085】
そして、コントローラー60は、障害物が位置すると判定した際には(ステップS7のYES)、移動部材30に対する制御を変える(一方、障害物が位置しないと判定した場合(ステップS7のNO)、すなわち、予測進路(グリッド群)の中に障害物グリッドが存在しなかった場合には、当該制御を変えることはしない)。具体的には、車いす10の移動速度及び移動加速度のうちの少なくともどちらか一方(本実施の形態においては、双方であるが、どちらか一方であってもよい)が所定値を超えないように前記制御を行う(ステップS11)。そして、当該所定値を、ステップS9で特定した最短距離に応じて変化させる。
【0086】
すなわち、コントローラー60は、障害物が位置すると判定した場合には、速度制限値と加速度制限値を設定する。そして、速度が速度制限値を超えないように、また、加速度が加速度制限値を超えないように、移動部材30に対する制御を行う(制御を変える)。例えば、ジョイスティック40のx座標であるxjsから変換された指令直進速度vが、速度制限値を超えるようであれば、指令直進速度vを速度制限値に置き換えて上述した移動部材30に対する制御を行う。また、指令直進速度v
nとそのサンプリング時間t前の指令直進速度v
n-1とから演算した加速度(v
n−v
n-1)/tが加速度制限値を超えるようであれば、加速度制限値を超えない値へ指令直進速度v
nを置き換えて、上述した移動部材30に対する制御を行う。
【0087】
また、速度制限値や加速度制限値は、例えば、
図7に示した制限値設定ルールのいずれかに基づいて設定される。
図7においては、4つの図が示されているが、いずれの横軸も縦軸も同じである。すなわち、横軸は、危険度(本実施の形態においては、距離。距離が小さいほど危険度が高い)を表し、縦軸は、速度制限値又は加速度制限値を表している。
【0088】
また、4つの図のいずれにおいても、危険度が高い(距離が小さい)と速度制限値(加速度制限値)が小さくなるように制限値設定ルールが規定されている。
【0089】
===本実施の形態に係る車いす10の有効性について===
上述したとおり、本実施の形態に係る車いす10のコントローラー60は、前記入力情報に基づいて車いす10の予測進路を予測し、予測進路に障害物が位置するか否かを障害物情報に基づいて判定し、障害物が位置すると判定した際には、移動部材30に対する制御を変えることとした。
【0090】
そのため、前述したとおり、搭乗者のリスクを低減することが可能となる。
【0091】
また、本実施の形態において、コントローラー60は、車いす10を中心とした二次元極座標のグリッド単位で予測進路を予測し、かつ、グリッド単位で障害物が位置するか否かを特定することとした。
【0092】
そして、かかる場合には、
図6に示したように、グリッドの大きさが、車いす10から近いグリッドについて小さく、遠いグリッドについて大きくなる。換言すれば、車いす10から遠い位置よりも近い位置の方が単位面積あたりのグリッドの数が多くなる(グリッドの密度が高くなる)。
【0093】
したがって、細かく判定を行いたい当該近い位置においてはグリッドの密度が高くなり、一方で、大ざっぱな判定でもよい(むしろ、演算処理を簡素化することを重視したい)当該遠い位置においてはグリッドの密度が低くなる。このように、車いす10からの距離に応じた適切な判定手法を実現することができる。
【0094】
また、センサーとして3Dレーザーレンジファインダー50を用いた場合には、レーザーを放射状に(三次元的に)発射するため、車いす10から遠い位置よりも近い位置の方が単位面積あたり(投影前は単位体積当たり)に取得できるデータの数が多くなる(データの密度が高くなる)。そして、前述したとおり、グリッドの密度も、車いす10から遠い位置よりも近い位置の方が高くなるので、グリッド当たりのデータ数を当該遠い位置と近い位置との間で揃えることが可能となる。
【0095】
また、本実施の形態において、コントローラー60は、障害物が位置すると判定した際には、車いす10の移動速度及び移動加速度の少なくともどちらか一方が所定値を超えないように前記制御を行うこととした。すなわち、コントローラー60は、速度制限値や加速度制限値を設けることとした。
【0096】
そのため、車いす10が例え障害物に衝突したとしても、移動速度や移動加速度が大きい状態で衝突することが回避されるため、搭乗者のリスク(換言すれば、被害)が適切に低減されることとなる。
【0097】
また、本実施の形態において、コントローラー60は、予測進路に位置する障害物までの最短距離を障害物情報に基づいて特定し、当該最短距離に応じて、前記所定値を変化させることとした。すなわち、コントローラー60は、速度制限値や加速度制限値を当該最短距離に応じて変化させることとした。
【0098】
そのため、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0099】
また、本実施の形態において、コントローラー60は、前記入力情報が入力されてから所定時間後までの、線状の推定移動軌跡を、入力情報に基づいて求め、推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを予測進路とすることとした。
【0100】
そのため、前述したとおり、車いす10の横幅を考慮して、予測進路に障害物が位置するか否かを判断することが可能となる。
【0101】
また、本実施の形態において、コントローラー60は、推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと前記全ての軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを、予測進路とし、両側グリッドのグリッド数は、どの軌跡含有グリッドに対しても同じであることとした。
【0102】
そのため、
図6に示すように、予測進路の周方向における幅(以下、便宜上、周方向幅と呼ぶ)は、車いす10から遠い位置ほど広くなる。つまり、車いす10から遠い位置ほど、予測進路の周方向幅を広げて障害物有無の判断を行うこととなる。したがって、車いす10から遠い位置ほど、安全サイドに立って当該判断を行っていることとなる。
【0103】
そして、このような判断手法は、センサー(3Dレーザーレンジファインダー50やこの代わりに用いる他の種類のセンサー)の障害物検知精度が車いす10から遠い位置において悪くなるようなケースで有効に働く。つまり、センサーの障害物検知精度が車いす10から遠い位置において悪くなるような場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0104】
===上記実施の形態の変形例について===
次に、上記実施の形態の変形例について説明する。
【0105】
<<<予測進路の設定に関する変形例>>>
上記実施の形態においては、推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと全ての軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを予測進路とし、両側グリッドのグリッド数はどの軌跡含有グリッドに対しても同じであることとした。
【0106】
しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと一部の軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを予測進路としてもよい。また、両側グリッドのグリッド数が軌跡含有グリッドによって異なる場合があってもよい。
【0107】
以下に、
図8乃至
図12を参照しつつ、具体例を示す。
図8は、第一変形例に係る予測進路のグリッド構成を示した図である。
図9は、第二変形例に係る予測進路のグリッド構成を示した図である。
図10は、第三変形例に係る予測進路のグリッド構成を示した図である。
図11は、第四変形例に係る予測進路のグリッド構成を示した図である。
図12は、第五変形例及び第六変形例に係る予測進路のグリッド構成を示した図である。
【0108】
<第一変形例及び第二変形例>
第一変形例は、推定移動軌跡が含まれる全ての軌跡含有グリッドと全ての軌跡含有グリッドの周方向における両側に位置する両側グリッドとを予測進路とする点で上記実施の形態と同様であるが、両側グリッドのグリッド数が軌跡含有グリッドによって異なる点で上記実施の形態と相違している。すなわち、
図8に示すように、径方向において車いす10により近いグリッド(すなわち、r座標がN(自然数)よりも小さいグリッド)については、両側グリッドのグリッド数を2(左右で1つずつ)とし、車いす10からより遠いグリッド(すなわち、r座標がN以上のグリッド)については、両側グリッドのグリッド数を4(左右で2つずつ)としている。
【0109】
すなわち、第一軌跡含有グリッド(つまり、r座標がNよりも小さいグリッド)の周方向における両側に位置する第一両側グリッドのグリッド数(具体的には2)が、径方向において車いす10から見て第一軌跡含有グリッドよりも遠い位置に位置する第二軌跡含有グリッド(つまり、r座標がN以上のグリッド)の周方向における両側に位置する第二両側グリッドのグリッド数(具体的には4)よりも少なくなるように、予測進路が設定されている。
【0110】
そして、かかる場合には、予測進路の周方向幅が、
図6に示したケースよりも、車いす10から遠い位置でより一層広くなる。したがって、センサー(3Dレーザーレンジファインダー50やこの代わりに用いる他の種類のセンサー)の障害物検知精度が車いす10から遠い位置においてより一層悪くなるようなケースにおいては、かかる第一変形例を用いた方がよい。つまり、第一変形例によれば、センサーの障害物検知精度が車いす10から遠い位置においてより一層悪くなるような場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0111】
なお、車いす10の横幅が小さい場合や車いす10以外の横幅が小さい搭乗型移動ロボットである場合には、第一変形例の場合よりも、予測進路の周方向幅を全体的に狭めてもよい。
【0112】
第二変形例は、かかる事項を想定した例であり、
図9に示すように、径方向において車いす10により近いグリッド(すなわち、r座標がNよりも小さいグリッド)については、両側グリッドのグリッド数を0とし(つまり、両側グリッドを設けず)、車いす10からより遠いグリッド(すなわち、r座標がN以上のグリッド)については、両側グリッドのグリッド数を2(左右で1つずつ)としている。
【0113】
なお、上記から容易に理解されるように、両側グリッドの「グリッド数」は、0,2,4,・・・であり、したがって、「グリッド数」とは、両側グリッドが無いケース(グリッド数が0のとき)においても定義される概念(用いることができる用語)である。
【0114】
そして、かかる第二変形例においても、第一軌跡含有グリッド(つまり、r座標がNよりも小さいグリッド)の周方向における両側の第一両側グリッドのグリッド数(具体的には0)が、径方向において車いす10から見て第一軌跡含有グリッドよりも遠い位置に位置する第二軌跡含有グリッド(つまり、r座標がN以上のグリッド)の周方向における両側の第二両側グリッドのグリッド数(具体的には2)よりも少なくなるように、予測進路が設定されているので、第一変形例と同様の効果が奏されることとなる。
【0115】
<第三変形例及び第四変形例>
センサーの障害物検知精度が車いす10から遠い位置においても比較的良好な場合等には、予測進路の周方向幅を車いす10から遠い位置で広くするのではなく、当該周方向幅を車いす10から近い位置で広くした方がよい場合がある。すなわち、車いす10から近い位置に障害物がある場合には障害物を回避するための時間的余裕が少ないため、車いす10から近い位置ほど、安全サイドに立って障害物有無の判断を行った方がよい場合もある。
【0116】
第三変形例は、かかる事項を想定した例であり、
図10に示すように、径方向において車いす10により近いグリッド(すなわち、r座標がNよりも小さいグリッド)については、両側グリッドのグリッド数を8(左右で4つずつ)とし、車いす10からより遠いグリッド(すなわち、r座標がN以上のグリッド)については、両側グリッドのグリッド数を2(左右で1つずつ)としている。
【0117】
すなわち、第一軌跡含有グリッド(つまり、r座標がNよりも小さいグリッド)の周方向における両側に位置する第一両側グリッドのグリッド数(具体的には8)が、径方向において車いす10から見て第一軌跡含有グリッドよりも遠い位置に位置する第二軌跡含有グリッド(つまり、r座標がN以上のグリッド)の周方向における両側に位置する第二両側グリッドのグリッド数(具体的には2)よりも多くなるように、予測進路が設定されている。
【0118】
そして、かかる場合には、前述したとおり、車いす10から近い位置に障害物がある場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。なお、Nの値については、特に制限はないが、できるだけ車いす10の近傍(例えば、N=5)とするのが望ましい
なお、第二変形例と同様、車いす10の横幅が小さい場合や車いす10以外の横幅が小さい搭乗型移動ロボットである場合を想定した例として、第四変形例を
図11に示す。
【0119】
<第五変形例>
前述したとおり、入力情報が入力されると、コントローラー60は、当該入力情報が入力されてから所定時間後までの推定移動軌跡を、当該入力情報に基づいて求める。そして、当該推定移動軌跡は、入力情報(xjs、yjs)が前記所定時間の間入力され続けたときに(換言すれば、xjsから変換された指令直進速度vとyjsから変換された指令回転速度wが前記所定時間の間指令され続けたときに)、車いす10が辿る道筋である。したがって、入力情報xjs(換言すれば、指令直進速度v)が大きいほど、推定移動軌跡の長さは長くなる。
【0120】
一方で、車いす10の移動速度が大きい場合には、小さい場合と比べて、車いす10の急旋回が困難である。
【0121】
以上のことから、第五変形例においては、コントローラー60が、推定移動軌跡の長さに応じて、両側グリッドのグリッド数を変化させる。つまり、コントローラー60は、推定移動軌跡が長い場合には、移動速度が大きく急旋回し難いことを意味するため、両側グリッドの数を減少させ、推定移動軌跡が短い場合には、移動速度が小さく急旋回し易いことを意味するため、両側グリッドの数を増加させる。
【0122】
例えば、
図12に示すように、推定移動軌跡の長さlがL以上の場合には、
図6に示した場合と同様、両側グリッドのグリッド数を、一律(径方向のグリッドの位置に関わらず)、2とする。そして、推定移動軌跡の長さlがLより小さくなると、コントローラー60は、両側グリッドのグリッド数を、一律、2増加させて4とする。
【0123】
そして、かかる場合には、前述したとおり、車いす10の旋回のし易さが適切に考慮された予測進路の設定が可能となる。
【0124】
なお、具体的な制御としては、推定移動軌跡の長さを特定してこれを閾値と比較してグリッド数を変化させてもいいが、当該長さの代わりに、入力情報xjsや指令直進速度vを閾値と比較してグリッド数を変化させてもよい。これらの場合も、推定移動軌跡の長さに応じて両側グリッドのグリッド数を変化させる処理の範疇である。
【0125】
<第六変形例>
第五変形例においては、推定移動軌跡の長さ、換言すれば、指令直進速度vに応じて、両側グリッドのグリッド数を変化させる例を示したが、実際の移動速度が当該指令直進速度vと大きく異なる場合がある。例えば、下り坂を車いす10が移動する場合には、実際の移動速度が当該指令直進速度vよりも速くなる場合がある。
【0126】
そこで、第六変形例においては、車いす10に3Dレーザーレンジファインダー50(第一センサー)とは異なる第二センサーを設けて、当該第二センサーから車いす10の実際の移動速度を取得する。そして、取得された当該実際の移動速度に基づいて推定移動軌跡を再設定し、再設定された該推定移動軌跡の長さに応じて、前記両側グリッドのグリッド数を変化させる。
【0127】
第二センサーは、実際の移動速度を直接的に検知するセンサーであっても、間接的に検知するセンサー(例えば、モーター36の電流値や電圧値をモニターするセンサー)であってもよい。そして、例えば、コントローラー60は、実際の移動速度と指令直進速度vとの差が閾値を超えた際に、(指令直進速度vではなく)当該実際の移動速度に基づいて、推定移動軌跡を再設定する。したがって、例えば、下り坂を車いす10が移動する場合には、当該再設定処理により、推定移動軌跡の長さは長くなる。
【0128】
また、第五変形例(
図12)と同様の方法で、再設定された該推定移動軌跡の長さに応じて、両側グリッドのグリッド数を変化させる。したがって、例えば、下り坂を車いす10が移動する場合には、グリッド数は減少する。
【0129】
そして、かかる場合には、前述したとおり、実際の移動速度が適切に考慮された予測進路の設定が可能となる。
【0130】
<<<制限値設定ルールに関する変形例>>>
上記実施の形態においては、前記所定値(つまり、速度制限値や加速度制限値)を、予測進路に位置する障害物までの最短距離に応じて変化させることとした(これを、便宜上、本件例と呼ぶ)。しかしながら、これに限定されるものではなく、他のパラメーターに応じて変化させることとしてもよい。
【0131】
以下に、
図13乃至
図15を参照しつつ、具体例を示す。
図13は、第七変形例に係る制限値設定ルールを示した模式図である。
図14は、第八変形例に係る制限値設定ルールを示した模式図である。
図15は、第九変形例に係る制限値設定ルールを示した模式図である。
【0132】
<第七変形例>
第七変形例において、コントローラー60は、予測進路に位置する障害物までの最短距離を互いに異なる2時点でそれぞれ障害物情報に基づいて特定し、2つの最短距離に基づいて求められる速度に応じて、前記所定値(速度制限値や加速度制限値)を変化させる。
【0133】
例えば、コントローラー60は、予測進路に位置する障害物までの最短距離d
nと、そのサンプリング時間t前の最短距離d
n-1とから、障害物の速度(d
n-1−d
n)/tを求める(なお、本変形例においては、演算処理簡素化の目的で、最短距離d
nに係る障害物が最短距離d
n-1に係る障害物と同一であるか否かの判別は行わない。つまり、最短距離d
nと最短距離d
n-1は、それぞれ全く独立に特定される。これは、第八変形例や第九変形例についても同様である)。そして、この速度(d
n-1−d
n)/tを
図13に示した制限値設定ルールのいずれかに適用することによって、速度制限値や加速度制限値が設定される。
【0134】
図13においては、4つの図が示されているが、いずれの横軸も縦軸も同じである。すなわち、横軸は、危険度(第七変形例においては、障害物の速度。障害物の速度が大きいほど危険度が高い)を表し、縦軸は、速度制限値又は加速度制限値を表している。
【0135】
また、4つの図のいずれにおいても、危険度が高いと(速度が大きいと)速度制限値(加速度制限値)が小さくなるように制限値設定ルールが規定されている。
【0136】
そして、かかる場合にも、本件例と同様、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0137】
<第八変形例>
第八変形例において、コントローラー60は、予測進路に位置する障害物までの最短距離を互いに異なる3時点でそれぞれ障害物情報に基づいて特定し、3つの最短距離に基づいて求められる加速度に応じて、前記所定値(速度制限値や加速度制限値)を変化させる。
【0138】
例えば、コントローラー60は、予測進路に位置する障害物までの最短距離d
nと、そのサンプリング時間t前の最短距離d
n-1と、そのサンプリング時間t前の最短距離d
n-2から、障害物の速度(d
n-1−d
n)/t、(d
n-2−d
n-1)/tとを求める。さらに、この2つの速度から、障害物の加速度((d
n-2−d
n-1)/t−(d
n-1−d
n)/t)/tを求める。
【0139】
そして、この加速度((d
n-2−d
n-1)/t−(d
n-1−d
n)/t)/tを
図14に示した制限値設定ルールのいずれかに適用することによって、速度制限値や加速度制限値が設定される。
【0140】
図14においては、4つの図が示されているが、いずれの横軸も縦軸も同じである。すなわち、横軸は、危険度(第八変形例においては、障害物の加速度。障害物の加速度が大きいほど危険度が高い)を表し、縦軸は、速度制限値又は加速度制限値を表している。
【0141】
また、4つの図のいずれにおいても、危険度が高いと(加速度が大きいと)速度制限値(加速度制限値)が小さくなるように制限値設定ルールが規定されている。
【0142】
そして、かかる場合にも、本件例と同様、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0143】
<第九変形例>
第九変形例において、コントローラー60は、予測進路に位置する障害物までの最短距離を互いに異なる2時点又は3時点(ここでは、3時点とする)でそれぞれ障害物情報に基づいて特定し、1つの最短距離と、2つの最短距離に基づいて求められる速度と、3つの最短距離に基づいて求められる加速度のうちの少なくとも二つの変数(ここでは、三つ(全て)の変数とする)にそれぞれ重み付けした重み付け関数に応じて、前記所定値(速度制限値や加速度制限値)を変化させる。
【0144】
例えば、コントローラー60は、前述した最短距離d
n(ここでは、最短距離Dとする)と、速度(d
n-1−d
n)/t(ここでは、速度Vとする)と、加速度((d
n-2−d
n-1)/t−(d
n-1−d
n)/t)/t(ここでは、加速度Aとする)とを特定し(求め)、これらの加重平均(重み付け関数の一例として加重平均を挙げたが、これに限定されない)を生成する。加重平均は、(w
d・(Dmax−D)+w
v・V+w
a・A)/(w
d+w
v+w
a)である。ここで、Dmaxは、定数であり、例えば、3Dレーザーレンジファインダー50で検出可能な最大距離である。また、Dにのみマイナスが付いているのは、最短距離は、速度や加速度とは異なり、小さければ小さいほど危険度が高くなるからである。
【0145】
そして、この加重平均は、危険度を表した指標となり得るため、この加重平均を
図15に示した制限値設定ルールのいずれかに適用することによって、速度制限値や加速度制限値が設定される。
【0146】
図15においては、4つの図が示されているが、いずれの横軸も縦軸も同じである。すなわち、横軸は、危険度(第九変形例においては、加重平均。加重平均が大きいほど危険度が高い)を表し、縦軸は、速度制限値又は加速度制限値を表している。
【0147】
また、4つの図のいずれにおいても、危険度が高いと(加重平均が大きいと)速度制限値(加速度制限値)が小さくなるように制限値設定ルールが規定されている。
【0148】
そして、かかる場合にも、本件例と同様、危険度に応じて適切な速度制限値や加速度制限値を設定することが可能となり、効果的に搭乗者のリスクを低減させることが可能となる。
【0149】
<変形例等の組み合わせについて>
なお、上述した本件例と第七変形例と第八変形例と第九変形例に係る制限値設定ルールは、組み合わせて使用することができる。つまり、これらの例のうちの2以上を同時に使用することができる。
【0150】
例えば、本件例に係る制限値設定ルールと第七変形例に係る制限値設定ルールを同時に使用した場合には、最短距離に応じた速度制限値(加速度制限値)と速度に応じた速度制限値(加速度制限値)が得られる。そして、この場合には、より小さい(厳しい)速度制限値(加速度制限値)を採用するようにすればよい。
【0151】
===その他の実施の形態===
上記の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0152】
上記実施の形態においては、搭乗型移動ロボットの移動方向と移動速度の双方を指示するために搭乗者によって操作される単一の被操作部材としてジョイスティック40を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ゲームコントローラーやマウスやトラックボールやタッチパネルであってもよい。また、「単一の被操作部材」とは、複数の独立した被操作部材を用いて移動方向と移動速度を搭乗者が指示する場合が除外されることを意味するものである。したがって、通常の自動車における複数の独立した被操作部材(つまり、ハンドルとアクセル)での指示は、本発明の範疇ではない。
【0153】
なお、「単一の被操作部材」とは、被操作部材が2以上のパーツに分かれていることを禁じたものではない。例えば、ジョイスティック40は、棒状の把持部と把持部を移動可能に支持する支持部の2パーツで構成されているが、「単一の被操作部材」に含まれる。
【0154】
また、上記実施の形態においては、移動部材として車輪32及び車輪32を回転させるモーター36を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、車輪32の代わりに、歩行用の足(脚)であってもよい。
【0155】
このように、上記実施の形態においては、搭乗型移動ロボットとして車いす10を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、歩行ロボットであってもよい。なお、上述したとおり、所謂自動車は、搭乗型移動ロボットの範疇ではない。
【0156】
また、上記実施の形態においては、センサー(第一センサー)として3Dレーザーレンジファインダー50を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、カメラやレーダーであってもよい。
【0157】
また、前述した予測進路、及び、予測進路に位置する障害物を、表示する表示部(以下、表示装置70と呼ぶ)を有することとしてもよい。
【0158】
例えば、
図6に示したようなイメージが、液晶ディスプレイ等の表示装置70にリアルタイムで表示されるようにしてもよい。このようにすれば、搭乗者が予測進路や予測進路に位置する障害物を適切に把握することができるため、搭乗者のリスクをより一層低減することが可能となる。
【0159】
なお、
図6のイメージにおいては線状の推定移動軌跡が表されているが、当該推定移動軌跡は、表示装置70において表示されないこととしてもよい。また、
図6のイメージにおいて符号A、Bで示される障害物グリッドは、予測進路を構成する他のグリッドと色分けされているとより望ましい。また、径方向において障害物グリッドよりも奥側のグリッド(換言すれば、θ座標が障害物グリッドと同じでr座標が障害物グリッドよりも大きい全てのグリッド)は、搭乗者から見えない死角領域なので、当該死角領域として他のグリッドと色分けされているとより望ましい。
【0160】
また、当該表示装置70をタッチパネルとし、前述した被操作部材の機能を当該表示装置70に持たせることとしてもよい。また、表示装置70は、搭乗型移動ロボット前方の景色にオーバーレイするようにフロントガラス等に設けることとしてもよい。
【0161】
また、コントローラー60は、障害物が位置すると判定した際には、移動部材30に対する制御を変えるが、当該制御が変わったことを報知する報知部を車いす10が有することとしてもよい。
【0162】
例えば、報知部としてスピーカー80を設けて、前述した制限速度や制限加速度が設定された場合に、その旨やその具体的数値がスピーカー80から発せられるようにしてもよい。また、障害物の最短距離、速度、加速度がスピーカー80から発せられるようにしてもよい。
【0163】
また、制限速度や制限加速度が設定された場合に、その旨やその具体的数値が報知部である表示装置70に表示されるようにしてもよい。また、障害物の最短距離、速度、加速度が表示装置70に表示されるようにしてもよい。
【0164】
また、報知部として車いす10(例えば、車いす本体やジョイスティック40)を振動させる振動機構を設け、制限速度や制限加速度が設定された場合に、その旨が振動で通知されるようにしてもよい。また、制限速度、制限加速度、障害物の最短距離、速度、加速度がどの程度であるかを、振動の強さで通知するようにしてもよい。
【0165】
このような場合には、搭乗者に注意喚起が成されるため、搭乗者のリスクをより一層低減することが可能となる。
【0166】
なお、このような表示機能と報知機能を有する車いす10の一例を、
図2と同様のブロック図で
図16に示す。
【0167】
また、前述したとおり、コントローラー60は、予測進路に障害物が位置すると判定した際には、車いす10の移動速度及び移動加速度の少なくともどちらか一方が所定値を超えないように制御を行うが(このような制御を行うことを、便宜上、速度・加速度制限処理と呼ぶ。
図5のステップS7のYES参照)、かかる速度・加速度制限処理が行われている間に、予測進路に障害物が位置しないと判定した場合には、当該速度・加速度制限処理を所定時間維持した後に当該速度・加速度制限処理を解除することとしてもよい。
【0168】
具体的には、
図17に示すように、速度制限値(加速度制限値)が設定されている状態で、コントローラー60が予測進路に障害物が位置しないと判定した場合には(
図17におけるt=0で当該判定がされたとする)、直ちに速度制限(加速度制限)を解除するのではなく、所定時間(
図17において、期間Tで表す)経過後に速度制限(加速度制限)を解除する。そして、この期間Tの間は予測進路に障害物がなくても速度制限値(加速度制限値)が維持される。
【0169】
そして、このようにすることにより、以下のメリットが生ずる。すなわち、搭乗者が、ジョイスティック40を操作している最中に、搭乗者の意志とは無関係にジョイスティック40を別の方向に一瞬だけ傾けてしまう場合がある(例えば、地面の凹凸により車いす10が揺れてしまったときにこのようなことが起こり得る)。この場合に、予測進路に障害物が位置する状態から位置しない状態へ移行する可能性があるが、搭乗者が直ちに立て直して所望の操作を行えば、すぐに予測進路に障害物が位置する状態へ戻ることとなる。
【0170】
そして、所定時間経過後に速度制限(加速度制限)を解除するようにすれば、このようなケースにおいて速度制限(加速度制限)を解除しないようにすることができる。つまり、十分な時間の経過により安全確保が確認できてから、速度制限や加速度制限を解除することが可能となる。
【0171】
また、前記速度・加速度制限処理を所定時間維持する際に、前記所定値(速度制限値や加速度制限値)を増加させることとしてもよい。
【0172】
具体的には、
図18に示すように、速度制限値(加速度制限値)が設定されている状態で、コントローラー60が予測進路に障害物が位置しないと判定した場合には(
図18におけるt=0で当該判定がされたとする)、直ちに速度制限(加速度制限)を解除するのではなく、速度制限値(加速度制限値)を徐々に増加させる(換言すれば、速度制限(加速度制限)を徐々に緩める)。そして、所定時間(
図18において、期間Tで表す)経過後に速度制限(加速度制限)を最終的に解除する。
【0173】
このようにすれば、(t=0からt=Tまでの)時間経過により安全確保の可能性が高まることから、安全確保の可能性が高まるにつれて速度制限(加速度制限)を緩めることができる。
【0174】
なお、
図17や
図18の例においては、当然のことながら、期間Tの間に、コントローラー60が再度予測進路に障害物が位置すると判定した場合には、新たな速度制限値(加速度制限値)が設定される。
【0175】
また、前述したとおり、上記実施の形態に係るコントローラー60は、三次元位置情報を持つ点群として障害物情報を3Dレーザーレンジファインダー50から受け取り、点群を二次元極座標に投影したときのグリッドに含まれる点群の数が閾値を超えるときに、当該グリッドを障害物が位置するグリッドとしたが、この閾値をグリッドの径方向における位置に応じて変化させることとしてもよい。
【0176】
例えば、
図19に示すように、径方向において車いす10により近いグリッド(すなわち、r座標がN(自然数)よりも小さいグリッド)については、閾値を10とし、車いす10からより遠いグリッド(すなわち、r座標がN以上のグリッド)については、閾値を5とする。
【0177】
換言すれば、第一グリッド(つまり、r座標がNよりも小さいグリッド)の閾値(具体的には10)が、径方向において車いす10から見て第一グリッドよりも遠い位置に位置する第二グリッド(つまり、r座標がN以上のグリッド)の閾値(具体的には5)よりも大きくなるように、閾値を設定する。
【0178】
そして、このような設定手法は、センサー(3Dレーザーレンジファインダー50やこの代わりに用いる他の種類のセンサー)の障害物検知精度が車いす10から遠い位置において悪くなるようなケースで有効に働く。つまり、閾値を上述したように変化させれば、当該遠い位置においては、近い位置よりも、障害物グリッドの判定がされ易くなるため、安全サイドに立って障害物有無の判断を行っていることになる。そのため、センサーの障害物検知精度が車いす10から遠い位置において悪くなるような場合であっても、搭乗者のリスクを適切に低減することが可能となる。
【0179】
なお、閾値をグリッドの径方向における位置に応じて変化させることを、以下のように行ってもよい。すなわち、前記グリッドに含まれる点群の数に乗じる係数を設定し、当該点群の数と係数との積を閾値と比較する。そして、閾値ではなく(閾値は変化させないで)、係数の方をグリッドの径方向における位置に応じて変化させる。当然のことながら、この手法は、実質的には、閾値を変化させていることと何ら変わりは無いので、閾値をグリッドの径方向における位置に応じて変化させる本発明の範疇である。
【0180】
また、前述したとおり、上記実施の形態に係るコントローラー60は、三次元位置情報を持つ点群として障害物情報を3Dレーザーレンジファインダー50から受け取るが、点群の各点に、前記点の高さ方向における位置に応じた重み数を設定し、点群を前記二次元極座標に投影したときの前記グリッドに含まれる前記点群の前記重み数の合計が閾値を超えるときに、当該グリッドを前記障害物が位置するグリッドとすることとしてもよい。
【0181】
例えば、
図20に示すように、点群の各点に、点の高さ方向における位置(正確には、xyz座標で規定される三次元位置情報を持つ点群を二次元極座標に投影する場合のz軸方向における位置)に応じた点数(便宜上、重み数と呼ぶ)を設定する。点群の点の高さh(換言すれば、z座標)がNより小さい場合には、車いす10にどのような人が乗っていてもどのような姿勢で乗っていても、障害物に衝突することが想定される点を考慮し、重み数を1とする。一方で、点群の点の高さh(換言すれば、z座標)がN以上である場合には、障害物に衝突しないケースも考え得るため(例えば、座高の低い子供の場合など)、重み数を0.5とする。
【0182】
そして、点群を二次元極座標に投影したときのグリッドに含まれる点群の重み数の合計、つまり、(グリッドに含まれ、hがNより小さい点群の数)×1+(グリッドに含まれ、hがN以上の点群の数)×0.5が、閾値を超えるときに、当該グリッドを障害物が位置するグリッドとする。
【0183】
かかる場合には、点群の各点の重要性(重み)を考慮することにより、より適切な障害物に係る判断が可能となる。