(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6355093
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】波動伝播時間の推定方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/30 20060101AFI20180702BHJP
G01N 29/07 20060101ALI20180702BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
G01V1/30
G01N29/07
G01N29/44
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-161615(P2017-161615)
(22)【出願日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年8月25日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593100330
【氏名又は名称】株式会社システムアンドデータリサーチ
(72)【発明者】
【氏名】中村 豊
【審査官】
北川 創
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6024012(JP,B2)
【文献】
長岡洋介,振動と波,日本,裳華房,1998年 9月20日,p.130-136
【文献】
Kawakami, H. and Haddadi, H. R.,Modeling wave propagation by using normalized input-output minimization (NIOM),Soil Dynamics and Earthquake Engineering,1998年,Vol.17,p.117-126
【文献】
大町達夫、田原徹也,直下型地震の観測記録に基づくロックフィルダムの非線形地震応答特性,第54回地盤工学シンポジウム論文集,2009年11月19日,p.243-250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 − 1/52
G01H 5/00
G01H 17/00
G01N 29/00 − 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動伝播時間の推定方法において、
少なくとも一つの反射面と少なくとも一つの自由境界面を持つ媒質で、
該反射面のうちインピーダンスのコントラストが高い該媒質の反射面と、該媒質の自由境界面との間で、
波動が該媒質の該自由境界面に向かう方向に伝播し、
該波動が該自由境界面において反射する場合に、
該媒質の該自由境界面と該媒質内の該反射面との間の該反射面を含まない一点を観測点とし、
該波動を該観測点における時系列の振動波形として計測し、
計測された時系列の該振動波形のある時点における振動波形に対して、
該時点から一定測定サンプリング時間経過した時点の振動波形と、
該時点から一定測定サンプリング時間さかのぼった時点の振動波形と、
を加算して半分にした振動波形を、
該一定測定サンプリング時間を変動させて複数算出し、
複数算出された該振動波形が最小となる場合を、
観測サンプリング時間ごとにリアルタイムに算出し、
算出された該一定測定サンプリング時間を、
該媒質の該自由境界面と、該媒質内の該反射面と、の間の波動伝播時間とすることを特徴とする、
波動伝播時間の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動を伝播する媒質の波動伝播時間の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波動の伝播時間を推定する方法としては、媒質中の二点で波動を観測し、他方の波動からもう一点で観測した波動を推定し、その差が最小になるサンプリング時間を波動の伝播時間とする方法(例えば特許文献1)や、地震波の伝播時間を推定するNIOM法(例えば非特許文献1)、ダムの波動伝播時間の推定方法(例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【0003】
まず特許文献1による方法であるが、この方法では媒質内に観測点を設ける必要があり、例えば地盤などに適用する場合にはボーリングなど大規模な工事が必要となる。
【0004】
また、NIOM法は波動を2点で観測し、それらの観測データに対して一定の時間間隔を取出しフーリエ変換を行い、その結果からその2点間の伝達関数を求める。パルス状の入力波形と出力波形の関係をこの伝達関数から求めることで、波動の伝播時間を求めるものである。
【0005】
しかし、この方法によると一定の測定区間を用いてフーリエ変換を行うためデータ処理に遅れが生じ、また処理そのものも複雑になる。さらに、パルス状の波形を印可するため誤差が大きくなることも考えられる。
【0006】
さらに、大町ほかによるダムの波動伝播速度の算出方法は、波動に含まれるある振動数が2点間を伝播する場合に位相が遅れることに着目したもので、フーリエ位相スペクトルを用いて振動数と位相差の関係を求めて、そこから伝播速度を算出する。
しかし、この方法の場合でも一定の測定区間を用いてフーリエ変換を行うためデータ処理に遅れが生じ、また処理そのものも複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6024012号特許公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kawakami, H. and Haddadi, H. R.: Modeling wave propagation by using Normalized Input-Output Minimization (NIOM), Soil Dyn. Earthq. Engng., 17, pp.117-126, 1998.
【0009】
【非特許文献2】大町達夫他:直下地震の観測記録に基づくロックフィルダムの非線形地震応答特性,第54回地盤工学シンポジウム 平成21年度論文集,pp.243-250,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本件発明が解決しようとする課題は、構造物などの劣化を評価するために波動伝播時間を求めようとする際に、リアルタイム処理ができないことである。また従来の方法による場合は、媒質内の二点で測定をしなければならないことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
自由境界面と内部に反射面を持つ媒質を考える。なお、複数の自由境界面や反射面がある場合には、インピーダンスのコントラストの高い反射面と自由境界面の組み合わせについて考える。
【0012】
この媒質内を、波動が自由境界面へ向かう方向に伝播して自由境界面において反射した場合に、その波動を、組み合わせた反射面と自由境界面の間で、自由境界面を含み反射面を含まない媒質内の一点の観測点において時系列の振動波形として測定する。
この測定した時系列の波形をfw(t)とする。fw(t)について、ある測定時点tにおいて、サンプリング時間をΔtさかのぼった振動波形と、Δt経過した振動波形を加算して、さらに半分にしたものを、Δtを連続的に変動させて算出しておく。
すなわち、fw’(t)=(fw(t−Δt)+fw(t+Δt))/2を、Δtを変動させて複数算出する。
【0013】
fw’(t)は媒質の自由境界面上からの伝播時間がΔtの地点における波動と考えることができるので、fw’(t)が最小となる場合はこの波動の反射面における波動と考えることができる。すなわち、Δtが自由境界面と反射面の間の伝播時間となる。
なお、この操作は波動の観測サンプリングごとに逐次行うことができるため、リアルタイム処理が可能である。
【0014】
また、時系列の振動波形において、連続するサンプリングデータを補間することで、サンプリング間隔よりも短い時間差の波動伝播時間を推定することができる。なお、補間の方法は、たとえば直線的に二つのサンプリングデータ間を補間するなど、その方法に限定はない。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、自由境界面と反射面を持つ媒質に伝わる波動を、この媒質内の一点で測定することで、その媒質の自由境界面と反射面の間の波動伝播時間をリアルタイムに推定することができる。このため、従来の方法では二点で観測を行い限られたデータ長の波形を用いて複雑な処理を行う必要があったものを、非常に長いデータ長の観測波形であっても観測された波動を逐次処理し、連続的に波動伝播時間を算出することができる。
【0016】
また、この媒質の自由境界面と反射面の間における卓越振動数F、距離H、波動伝播速度Vを考えると、F=V/4Hの関係がある。これを変形すると、4H/V=1/Fとなり、ここでH/Vはこの媒質の自由境界面と反射面の間における波動伝播時間であり、これを4倍したものがこの媒質の自由境界面と反射面の間における卓越振動数の逆数あるいは固有周期となる。
【0017】
すなわち、本発明では連続的、すなわちリアルタイムに波動伝播時間を算出することができるので、この求められた波動伝播時間を4倍することで、リアルタイムにこの媒質の自由境界面と反射面の間における卓越振動数の逆数あるいは固有周期を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例で用いた媒質の構成と、媒質内の測点の位置を表す。
【
図2】実施例で用いた媒質内の各測点において観測された地震波形を示す。
【
図3】本発明の手法を媒質内の深さ0地点(自由境界面)で観測した地震波形に適用した場合の実施例を示す。
【
図4】本発明の手法を媒質内の深さ30地点で観測した地震波形に適用した場合の実施例を示す。
【
図5】本発明の手法を媒質内の深さ70地点で観測した地震波形に適用した場合の実施例を示す。
【
図6】媒質内の自由境界面(深さ0地点)と反射面(深さ100地点)のそれぞれで観測した地震波形を用いた特許文献1の方法による波動伝播時間の変動を示す。
【
図7】本発明の手法を媒質内の深さ0地点(自由境界面)、深さ30地点、深さ70地点のそれぞれで観測した地震波形に適用した場合の実施例と、媒質内の自由境界面と反射面のそれぞれで観測した地震波形を用いた特許文献1の方法による波動伝播時間の変動を重ねて示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を示す。
【実施例】
【0020】
本発明の手法を、自由境界面と反射面を持つ媒質における振動波形として、実際に観測した地震波形に適用した実施例を示す。
【0021】
図1は、本実施例で用いる媒質の構成と、媒質内に配置した観測点の位置を示している、また、
図2は、
図1に示したそれぞれの観測点において、媒質内に伝播する振動波動として観測された、水平方向成分の時系列の地震波形を示している。なお、これらの図で深さは自由境界面から反射面の間を100として基準化している。
【0022】
本発明の手法では、媒質内の自由境界面を含み反射面を含まない任意の一点における振動波形を用いて、媒質の波動伝播時間を推定するものである。このため、本実施例でも媒質の自由境界面上と媒質内の2点で観測した地震波形を使い、それぞれについて検討を行った。
図2に示した3つの観測点で得られた地震波形を本発明の手法に適用して波動伝播時間を推定した結果を、それぞれ
図3、
図4、
図5に示す。
【0023】
また、前述の特許文献1の手法により、
図1に示した媒質内の自由境界面(深さ0地点)と反射面(深さ100地点)の2点において観測した地震波形から波動伝播時間を求め、これと比較することで本発明の妥当性を確認した。特許文献1の手法により求められた波動伝播時間を
図6に示す。
【0024】
この
図3、
図4、
図5では観測点にかかわらずほぼ同一の推定結果が得られており、波動の伝播時間が地震波形により推定できることが分かる。また各観測点の推定結果ともに、大きな地震動により伝播時間が変化し、地震のコーダ部で元の値に近づいていくことが確認できる。これは大きな水平動により媒質に非線形化の影響が表れていることを示している。
【0025】
また比較しやすいように、3つの観測波形で得られた波動伝播時間と、特許文献1の手法により求められた波動伝播時間を重ねて描いたものを
図7に示す。この図からも、媒質内の観測位置が異なっていても、特許文献1の手法により求められた波動伝播時間とほぼ等しい結果が得られることがわかる。
【0026】
この実施例では、波動として観測された地震波形の水平方向成分を用いた例を示しているが、この振動波形に限るものではなく、地震波形の上下方向成分のみならず、対象とする媒質に伝播し観測することができる波動であれば本発明の手法を適用することができる。さらに、本発明の手法を適用する媒質も地盤や構造物など、波動が伝播しそれを観測することができる場合であれば広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
媒質における自由境界面と反射面との間の波動伝播時間をリアルタイムに推定することができるので、例えば媒質の物性の変化や構造物の地震時の被害状況を、一点のみの波動の観測をすることで、リアルタイムに把握することなどに資することができる。
【0028】
また算出された波動伝播時間からこの媒質の自由境界面と反射面との間の卓越振動数あるいは固有周期の変動をリアルタイムに把握することができるため、この媒質の振動特性の変化をリアルタイムに把握することに資することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 実施例で用いた媒質
2 媒質の自由境界面
3 媒質の反射面
11 媒質の深さを示す軸(自由境界面と反射面の間を100で基準化)
12 時間軸(単位:秒)
13 媒質の自由境界面と反射面の間の波動伝播時間(単位:秒)
21 媒質内の深さ0地点(自由境界面)の観測点
22 媒質内の深さ30地点の観測点
23 媒質内の深さ70地点の観測点
31 媒質内の深さ0地点(自由境界面)で観測された水平方向成分の地震波形
32 媒質内の深さ30地点で観測された水平方向成分の地震波形
33 媒質内の深さ70地点で観測された水平方向成分の地震波形
101 媒質内の深さ0地点(自由境界面)で観測された地震波形を用いて算出した波動伝播時間推定値
102 媒質内の深さ30地点で観測された地震波形を用いて算出した波動伝播時間推定値
103 媒質内の深さ70地点で観測された地震波形を用いて算出した波動伝播時間推定値
110 媒質内の自由境界面(深さ0地点)と反射面(深さ100地点)のそれぞれで観測された地震波形を用いて特許文献1の方法で算出した波動伝播時間推定値
120 媒質内の深さ0地点(自由境界面)、深さ30地点、深さ70地点で観測された地震波形を用いて算出した波動伝播時間推定値の変動を重ねて示した波形
【要約】
【課題】
本件発明が解決しようとする課題は、構造物などの劣化を評価するために波動伝播時間を求めようとする際に、リアルタイム処理ができないことである。また媒質内の二点で測定をしなければならないことである。
【解決方法】
自由境界面と内部に反射面を持つ媒質を考える。この媒質内を、波動が自由境界面へ向って伝播し反射する場合に、それを自由境界面を含む媒質内の観測点で測定する。つぎに、測定した波形fw(t)に対して、fw’(t)=(fw(t−Δt)+fw(t+Δt))/2を、Δtを連続的に変動させて算出する。
fw’(t)は波動を測定した媒質の自由境界面上からの伝播時間がΔtの地点における波動と考えることができるので、fw’(t)が最小となる場合のΔtが自由境界面と反射面の間の伝播時間となる。
【選択図】
図7