【文献】
梅垣 俊仁 他,波長800nmおよび400nmのパルスレーザー光励起による3接合タンデム太陽電池から放射されるテラヘルツ波分析 Analysis of Terahertz Radiation from Triple Junction Solar Cells excited by Laser Pulses with 800 and 400 nm-wavelengths,<第61回>応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,日本,2014年 3月 3日,14-268
【文献】
KHANDOKER ABU SALEK et al.,Laser terahertz emission microscopy studies of a polysilicon solar cell under the illumination of continuous laser light,Optical Engineering,SPIE,2013年11月 5日,Vol.53(3),031204-1 - 031204-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0027】
<1. 第1実施形態>
<1.1. 検査装置の構成および機能>
図1は、第1実施形態に係る検査装置100の概略構成図である。また、
図2は、検査装置100が備える励起光照射部12および検出部13の概略構成図である。
【0028】
検査装置100は、フォトデバイスである検査対象物である多接合型太陽電池90に対して、パルス光を照射し、該パルス光の照射に応じて多接合型太陽電池90から放射される電磁波(例えば、周波数が0.1THz〜30THzのテラヘルツ波)を検出することによって、検査対象物の検査を行う。
【0029】
図1および
図2に示されるように、検査装置100は、ステージ11、励起光照射部12、検出部13、遅延素子14、ステージ移動機構15、制御部16、モニター17、操作入力部18および連続光照射部19を備えている。
【0030】
ステージ11は、図示を省略する固定手段によって、多接合型太陽電池90をステージ11上に固定する。固定手段としては、基板を挟持する挟持具を利用する構成、多接合型太陽電池90の裏面及びステージ11表面の双方に接着する粘着性シート、または、ステージ11の表面に形成された吸着孔などを介して吸着する構成が想定される。ただし、多接合型太陽電池90を固定できるのであれば、これら以外の固定手段が採用されてもよい。本実施形態では、ステージ11は、多接合型太陽電池90の受光面(表面90S)側に励起光照射部12および検出部13が配置されるように、多接合型太陽電池90を保持する。このため、検査装置100は、照射面と同じ側に放射される電磁波を検出する反射型の検査装置となっている。
【0031】
図2に示されるように、励起光照射部12は、フェムト秒レーザ121を備えている。フェムト秒レーザ121は、例えば、360nm(ナノメートル)以上1.5μm(マイクロメートル)以下の可視光領域を含む波長のパルス光(パルス光LP10)を放射する。具体例としては、周期が数kHz〜数百MHz、パルス幅が10〜150フェムト秒程度の直線偏光のパルス光L10が、フェムト秒レーザ121から放射される。
【0032】
フェムト秒レーザ121から出射されたパルス光LP10は、ビームスプリッタなどによってパルス光LP11,LP13,LP15,LP17,LP19に分割される。パルス光LP11は、直接的に多接合型太陽電池90へ導かれる。パルス光LP13は、波長二倍変換器31に導かれる。パルス光LP15は、波長三倍変換器33に導かれる。パルス光LP17は、光パラメトリック発振器38へ導かれる。パルス光LP19は、遅延素子14を介して、電磁波パルスを検出する検出部13の検出器131へと導かれる。
【0033】
波長二倍変換器31は、非線形光学結晶などで構成される、第二高調波発生デバイスである。具体的には、波長二倍変換器31は、バリウムボーレート(BBO)結晶、砒素酸チタニルカリウム(KTA)結晶、燐酸二水素カリウム(KDP)結晶などで構成され、波長λであるパルス光LP13から、波長λ/2のパルス光LP21を発生させる。発生したパルス光LP21は、二つに分割されて、一方が遅延素子35へ導かれ、他方が波長三倍変換器33へ導かれる。遅延素子35を通過したパルス光LP21は、多接合型太陽電池90へ導かれる。
【0034】
図3は、遅延素子35の概略構成図である。遅延素子35は、遅延ステージ351および遅延ステージ移動機構353を備えている。遅延ステージ351は、入射方向にパルス光LP21を反射するミラー10Mを備えている。遅延ステージ移動機構353は、ミラー10Mをパルス光LP21の入射方向に沿って移動させる。
【0035】
遅延ステージ移動機構353は、制御部16によって制御される。遅延素子35は、遅延ステージ351を移動させることによって、パルス光LP21の光路長を連続的に変更する。パルス光LP21の光路長が変更されると、多接合型太陽電池90に到達するパルス光LP11の位相に対して、多接合型太陽電池90に到達するパルス光LP21の位相がずれる。これによって、パルス光LP11が多接合型太陽電池90に到達するタイミングに対して、パルス光LP21が多接合型太陽電池90に到達するタイミングを遅延させることができる。以下の説明では、この遅延させる時間をΔtと表記する場合がある。
【0036】
なお、遅延素子35を、遅延ステージ351とは異なる構成としてもよい。具体的には、電気光学効果を利用することが考えられる。すなわち、印加する電圧を変化させることで屈折率が変化する電気光学素子を、遅延素子35として用いてもよい。例えば、特許文献である特開2009−175127号公報に開示された電気光学素子を利用することができる。
【0037】
波長三倍変換器33は、非線形光学結晶などで構成される、第三高調波発生デバイスである。具体的に、波長三倍変換器33は、例えばセシウムリチウムボレート(CLBO)結晶などで構成され、パルス光LP15とパルス光LP21とを合成する和周波発生技術によって、波長λ/3のパルス光LP31を発生させる。発生したパルス光LP31は、遅延素子37へ導かれる。そして、遅延素子37を通過したパルス光LP31は、多接合型太陽電池90へ導かれる。
【0038】
遅延素子37は、
図3に示される遅延素子35とほぼ同様の構成を備えている。遅延素子37は、パルス光LP11,LP21が多接合型太陽電池90に到達するタイミングに対して、パルス光LP31が多接合型太陽電池90に到達するタイミングを遅延させる。
【0039】
光パラメトリック発振器(OPO:Optical Parametric Oscillator)38は、高周波数のフォトンを2つの低周波数のフォトン(信号波およびアイドラー波)に分割する。詳細な図示は省略するが、光パラメトリック発振器38は、内部に設けられた結晶の傾き角度を変更することによって、所定範囲内の任意波長の信号波とアイドラー波を発生させる。つまり、光パラメトリック発振器38は、光源から出射されたパルス光LP17を、広い帯域で波長を変更させることが可能である。この結晶の傾き角度は、制御部16によって制御される。またこの結晶は、BBO結晶、KTP結晶、LBO結晶またはLiNb0
3結晶などで構成される。光パラメトリック発振器38によって発生した信号波またはアイドラー波であるパルス光LP41は、遅延素子39へ導かれる。そして遅延素子39を通過したパルス光LP41は、多接合型太陽電池90へ導かれる。
【0040】
遅延素子39は、
図3に示される遅延素子35とほぼ同様の構成を備えている。遅延素子39は、パルス光LP41が多接合型太陽電池90に到達するタイミングを、パルス光LP11,LP21,LP31が多接合型太陽電池90に到達するタイミングに対して、遅延させる。
【0041】
なお、本実施形態では、パルス光LP11〜LP41を、相互に時間をずらして多接合型太陽電池90に照射するため、遅延素子35,37,39によって、パルス光LP21,LP31,LP41の光路長を変更している。しかしながら、パルス光LP11,LP21,LP31,LP41(以下、「パルス光LP11〜LP41」と表記する。)のうち、いずれか3つ以上のパルス光の光路長を変更すればよい。
【0042】
多接合型太陽電池90に導かれるパルス光LP11〜LP41は、不図示の光チョッパによって数kHzの変調がかけられる。変調素子として、AOM(Acousto-Optic Modulator)などを用いることができる。このようにして変調されたパルス光LP11〜LP41が、多接合型太陽電池90に照射される。
【0043】
図1に示されるように、励起光照射部12は、パルス光LP11〜L41の照射を、多接合型太陽電池90の受光面である表面90Sの側から行う。また、励起光照射部12は、パルス光LP11の光軸が、多接合型太陽電池90の受光面に対して斜めに入射するように、パルス光LP11〜L41を多接合型太陽電池90に対して照射する。本実施形態では、入射角度が45度となるように照射角度が設定されている。ただし、入射角度はこのような角度に限定されるものではなく、0度から90度の範囲内で適宜変更することができる。
【0044】
図4は、多接合型太陽電池90の概略断面図である。多接合型太陽電池90は、深さ方向において吸収波長領域が異なる材料を上下に積層することによって構成されている。より詳細には、多接合型太陽電池90は、吸収波長領域の異なる複数のサブセルである3つの単位的な太陽電池9A,9B,9C(以下、「太陽電池9A〜9C」と表記する。)を、下からこの順に積層することによって構成されている。太陽電池9Aおよび9B間、太陽電池9Bおよび9C間は、トンネル接合95A,95Bによって、相互に電気的に接続されている。
【0045】
ここで、吸収波長領域とは、単位的な太陽電池9A〜9Cの各々で主に吸収される波長領域をいい、利用波長領域と称することができる。吸収波長領域は、複数の太陽電池9A〜9C間で完全に相違していなくてもよく、一部が重複していてもよい。
【0046】
太陽電池9A〜9Cは、p型半導体層93A,93B,93Cと、n型半導体層94A,94B,94Cとがそれぞれ接合されることによって、pn接合部97A,97B,97Cを形成している。そして、多接合型太陽電池90の裏面を構成する太陽電池9Aの下面には、アルミニウムなどで構成された板状の裏面電極92が取り付けられている。
【0047】
また、多接合型太陽電池90の受光面(表面90S)を構成する太陽電池9Cの上面には、アルミニウムなどで構成された受光面電極96が取り付けられている。受光面電極96は、光が通過しやすいように、例えば櫛状または格子状に設けられている。なお、受光面電極96は、透明電極で構成されていてもよい。
【0048】
多接合型太陽電池90における両側の主面のうち、受光面電極96が設けられている側の主面が、受光面となっている。つまり、多接合型太陽電池90は、受光面側から光を受けることで好適に発電するように設計されている。
【0049】
多接合型太陽電池90の内部電界が存在する部位に、禁制帯幅を超えるエネルギーを持つパルス光LP11〜LP41が照射されると、光キャリア(自由電子および正孔)が発生し、内部電界によって加速される。なお、加速された光キャリアのうち、正孔は裏面電極92へ移動し、自由電子は受光面電極96へ移動する。これによって、パルス状の電流が発生することとなり、それに応じたパルス状の電磁波が発生することとなる。なお、内部電界は、例えばpn接合部やショットキー接合部などに発生していることが知られている。
【0050】
図5は、多接合型太陽電池90のスペクトル感度を示す図である。同図中、横軸は波長を示しており、縦軸は量子効率を示している。同図においては、ボトムセルである太陽電池9AがGe太陽電池(バンドギャップ:0.8eV)、ミドルセルである太陽電池9BがGaAs太陽電池(バンドギャップ:1.4eV)、トップセルである太陽電池9CがInGaP太陽電池(バンドギャップ1.85eV)とした場合のスペクトル感度を示している。そして、同図中、グラフG9A,G9B,G9Cは、それぞれ、太陽電池9A〜9Cのスペクトル感度を示している。
【0051】
グラフG9Aが示すように、太陽電池9Aの量子効率は、約850nm〜約1800nmで高いことから、この波長領域が吸収波長領域(利用波長領域)となる。同様に、グラフG9Bが示すように、太陽電池9Bの吸収波長領域は、約700nm〜約850nmである。さらに、グラフG9Cから、太陽電池9Cの吸収波長領域は、約350nm〜約700nmである。したがって、各太陽電池9A〜9Cにパルス光を照射して電磁波パルスを放射させる場合、これら吸収波長領域に含まれる波長のパルス光をそれぞれに照射すればよいこととなる。
【0052】
すなわち、
図4に示すように、多接合型太陽電池90に波長が約350〜約700nmのパルス光LPcを照射すれば、トップセルである太陽電池9Cから電磁波パルスLTcを放射させることができる。また、約700〜850nmのパルス光LPbを多接合型太陽電池90に照射すれば、ミドルセルである太陽電池9Bから電磁波パルスLTbを放射させることができる。さらに、約850nm〜約1800nmのパルス光LPcを多接合型太陽電池90に照射すれば、ボトムセルである太陽電池9Cから電磁波パルスTLcを放射させることができる。
【0053】
このように、各吸収波長領域に応じたパルス光LPa,LPb,LPcを照射することによって、各太陽電池9A〜9Cから選択的に電磁波パルスLTa,LTb,LTcを放射させることができる。したがって、各太陽電池9A〜9Cから放射される電磁波パルスLTa,LTb,LTcを検出することによって、各太陽電池9A〜9Cを個々に検査できる。
【0054】
図2に戻って、波長が相違するパルス光LP11〜LP41が多接合型太陽電池90に照射されることによって、電磁波パルスLT11,LT21,LT31,LT41(以下、「電磁波パルスLT11〜LT41」と表記する。)が発生する。電磁波パルスLT11〜LT41は、検出部13が備える検出器131へ導かれる。
【0055】
検出器131は、パルス光LP11が入射する光伝導スイッチ(光伝導アンテナ)で構成されている。光伝導スイッチとしては、ダイポール型、ボウタイ型およびスパイラル型などが知られている。電磁波パルスLT11〜LT41が検出器131に入射する状態で、パルス光LP19が検出器131に照射されると、光伝導スイッチに瞬間的に電磁波パルスLT11〜LT41の電界強度に応じた電流が発生する。この電界強度に応じた電流は、不図示のロックインアンプ、I/V変換回路、A/D変換回路などを介してデジタル量に変換される。このように、検出部13は、パルス光LP19照射に応じて多接合型太陽電池90から放射された電磁波パルスLT11〜LT41の電界強度を検出する。
【0056】
なお、検出器131に、その他の素子、例えばショットキーバリアダイオードを用いてもよい。ショットキーバリアダイオードは、偏光依存性が小さいという特性をもつ。また、検出器131として、非線形光学結晶を用いることも考えられる。
【0057】
検出器131に到達するまでのパルス光LP19の光路上には、遅延素子14(遅延部)が設けられている。遅延素子14は、パルス光LP19の光路長を変更することによって、パルス光LP19が検出器131に到達するタイミングを変更する。遅延素子14の基本的構成は、
図3に示される遅延素子35と同様である。
【0058】
遅延素子14は、検出器131に到達するパルス光LP19の位相を、検出器131に到達する電磁波パルスLT11〜LT41の位相に対して相対的にずらす。すなわち、パルス光LP19が検出器131に到達するタイミングを、電磁波パルスLT11〜LT41が検出器131に到達するタイミングに対して遅延させる。遅延素子14でパルス光LP19の光路長を変えることによって、検出器131において電磁波パルスLT11〜LT41の電界強度が検出されるタイミング(検出タイミングまたはサンプリングタイミング)が遅延される。
【0059】
なお、パルス光LP19ではなく、パルス光LP11〜LP41の光路長、もしくは、多接合型太陽電池90から放射された電磁波パルスLT11〜LT41の光路長を変更するようにしてもよい。この場合においても、電磁波パルスLT11〜LT41が検出器131に到達するタイミングを、パルス光LP17が検出器131に到達するタイミングに対して、相対的にずらすことができる。つまり、検出器131における電磁波パルスLT11〜LT41の電界強度の検出タイミングを遅延させることができる。
【0060】
図示を省略するが、検査時に、多接合型太陽電池90に対して逆バイアス電圧を印加してもよい。具体的には、多接合型太陽電池90の受光面電極96および裏面電極92に、電圧印加回路が接続され、逆バイアス電圧が印加される。この電圧印加回路が多接合型太陽電池90に印加する電圧の大きさは、制御部16からの制御に基づいて、可変としてもよい。
【0061】
逆バイアス電圧が印加されることによって、多接合型太陽電池90におけるpn接合部の空乏層を拡大できる。これによって、検出器131において検出される電磁波パルスLT11〜LT41の電界強度を高めることができる。
【0062】
なお、逆バイアス電圧を印可するのではなく、受光面電極96−裏面電極92間を電線などで接続して多接合型太陽電池90を短絡してもよい。短絡状態の多接合型太陽電池90では、各p型半導体層93A,93B,93Cとn型半導体層94A,94B,94Cとで同電位となり、フェルミレベルが同じレベルとなる。そして、短絡状態の多接合型太陽電池90のpn接合部97A,97B,97Cにおいて、光照射によって発生した自由電子は、n型半導体層94A,94B,94C側のマイナス電極に流れ、光照射によって発生した正孔は、p型半導体層93A,93B,93C側のプラス電極に流れる。そして、それぞれの荷電は、短絡回路を伝って、他方の半導体に注入される。そして、再結合によって失われることとなる。
【0063】
つまり、短絡状態では、開放状態時に起こる荷電の蓄積が抑制されるため、光キャリアのドリフト移動が起こりやすくなっている。このため、多接合型太陽電池90を短絡状態とすることによって、パルス光LP11〜LP41の照射に応じて放射される電磁波パルスLT11〜LT41の強度を相対的に高められる。
【0064】
図1に戻り、検査装置100の構成を説明する。ステージ移動機構15は、ステージ11を二次元平面内で移動させる装置であり、例えばX−Yテーブルなどで構成されている。ステージ移動機構15は、ステージ11に保持された多接合型太陽電池90を、励起光照射部12に対して相対的に移動させる。検査装置100は、ステージ移動機構15によって、多接合型太陽電池90を2次元平面内で任意の位置に移動させることができる。
【0065】
本実施形態では、ステージ移動機構15によってステージ11をXY方向に移動させることによって、多接合型太陽電池90上の所要の検査範囲をパルス光LP11〜LP41で走査可能とされている。つまり、ステージ移動機構15は、走査機構を構成している。
【0066】
なお、ステージ移動機構15によって、ステージ11を移動させる代わりに、パルス光LP11〜LP41の光路を変更することによって、検査範囲の走査を実現することも考えられる。具体的には、ガルバノミラーを往復揺動することによって、多接合型太陽電池90の表面90Sに平行であって、かつ、互いに直交する二方向に、パルス光LP11を走査することが考えられる。また、ガルバノミラーの代わりに、ポリゴンミラー、ピエゾミラーまたは音響光学素子などが、光路を変更する素子として採用されてもよい。
【0067】
制御部16は、図示を省略するCPU、ROMおよびRAMなどを備えた一般的なコンピュータによって構成されている。制御部16は、励起光照射部12、検出器131、遅延素子35,37、遅延素子14およびステージ移動機構15、連続光照射部19に接続されており、これらの各要素の動作を制御したり、あるいは、これらの各要素からデータを受け取ったりする。
【0068】
また、制御部16は、
図1に示されるように、画像生成部21、時間波形復元部23、スペクトル解析部25および設定部27を備えている。画像生成部21、時間波形復元部23、スペクトル解析部25および設定部27は、制御部16が備えるCPUがプログラムにしたがって動作することにより実現される機能とされてもよいし、専用回路によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0069】
画像生成部21は、多接合型太陽電池90の検査対象範囲(多接合型太陽電池90の一部または全部)において、パルス光LP11〜LP41の照射によって放射される電磁波パルスの電界強度の分布を視覚化した電界強度分布画像を生成する。電界強度分布画像においては、電界強度の相違が、複数の色、特定色の濃淡または複数の模様などを用いて視覚的に表現される。
【0070】
時間波形復元部23は、検出器131において検出される電界強度に基づいて、多接合型太陽電池90から放射される電磁波パルスの時間波形を復元する。具体的には、遅延素子14を駆動することによって、パルス光LP19が検出器131に到達するタイミングを変更し、各位相で検出された電磁波パルスの電界強度が取得される。そして、この取得された電界強度を、時間波形復元部23が時間軸上にプロットすることによって、電磁波パルスの時間波形を復元する。
【0071】
スペクトル解析部25は、復元された電磁波パルスの時間波形に基づき、多接合型太陽電池90のスペクトル分析を行う。詳細には、スペクトル解析部25は、時間波形情報をフーリエ変換することで、周波数に関する振幅強度スペクトルを取得する。
【0072】
設定部27は、励起光照射部12が多接合型太陽電池90に照射するパルス光の波長を設定する。より具体的には、設定部27は、後述する操作入力部18を介した入力情報に基づいて、3つの波長が相違するパルス光LP11〜LP41のうちから、多接合型太陽電池90に照射するパルス光を設定する。励起光照射部12は、設定部27によって設定された波長のパルス光を、多接合型太陽電池90に照射する。パルス光LP11〜LP41のうち、設定部27によって照射しないこととなったパルス光については、例えば、遮蔽板によって遮断されることなどによって、照射が抑制される。
【0073】
なお、フェムト秒レーザ121が波長可変レーザである場合、設定部27によってフェムト秒レーザ121から出射するパルス光LP10の波長を設定できるようにしてもよい。
【0074】
また、設定部27は、後述する連続光照射部19が多接合型太陽電池90に向けて照射する連続光CWの波長を設定する。
【0075】
制御部16には、モニター17および操作入力部18が接続されている。モニター17は、液晶ディスプレイなどの表示装置であり、オペレータに対して各種画像情報を表示する。モニター17には、例えば、可視光カメラで撮影された多接合型太陽電池90の表面90Sの画像、画像生成部21が生成した電界強度分布画像、時間波形復元部23によって復元された電磁波パルスLT11〜LT41の時間波形、または、スペクトル解析部25が取得したスペクトル情報などが表示される。また、モニター17には、検査の条件(検査範囲など)を設定するために必要なGUI(Graphical User Interface)画面などが表示されてもよい。
【0076】
操作入力部18は、マウスおよびキーボードなどの各種入力デバイスで構成されている。オペレータは操作入力部18を介して所定の操作入力を行うことができる。なお、モニター17がタッチパネルとして構成されることにより、モニター17が操作入力部18として機能するようにしてもよい。
【0077】
また、制御部16には、各種データが格納される記憶部が接続されている。記憶部は、ハードディスクなどの固定ディスクの他、可搬メディア(例えば磁気メディア、光ディスクメディアまたは半導体メモリなど)で構成されていてもよい。また、制御部16と記憶部とは、ネットワーク回線を介して接続されていてもよい。
【0078】
連続光照射部19は、互いに相違する複数の波長の連続光CWを、多接合型太陽電池90に向けて照射可能に構成されている。
【0079】
連続光照射部19は、検査に用いられる光の波長に合わせて構成されている。具体的に、連続光照射部19は、例えば、半導体レーザ、LED、ハロゲンランプ、キセノンランプ、またはこれらを組み合わせたもので構成される。また、連続光照射部19として、波長可変レーザが用いられてもよい。波長可変レーザとしては、例えば温度制御によって、出射するレーザ光の波長をほぼ連続的(例えば、2nm毎)に変更可能とされる分布帰還型(DFB)レーザなどを利用することができる。
【0080】
連続光照射部19が出射する連続光CWの波長は、検査目的に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、ここでは、サブセルである太陽電池9A〜9Cの各吸収波長領域に含まれる波長の連続光CWを、連続光照射部19が選択的に出射する構成を備えているものとする。連続光照射部19によって、多接合型太陽電池90に向けて特定波長の連続光CWを照射することによって、太陽電池9A〜9Cのうちいずれかを選択的に発電状態にすることができる。したがって、パルス光LP11〜LP41の波長と、連続光CWの波長とを適当に組み合わせることによって、発電状態の各太陽電池9A〜9Cを個別に検査できる。
【0081】
また、連続光CWとして、太陽光または太陽光を模した疑似太陽光、白熱灯のように波長分布が比較的広い光、LED照明や蛍光灯などの主にRGB3原色に対応した波長(400nm、600nmおよび800nmなど)を持つ光など、複数の波長を含む光としてもよい。
【0082】
検査装置100においては、パルス光LP11〜LP41の照射位置に、連続光CWが照射されることによって、連続光CWが照射された状態(つまり、起電力が発生した状態)で、電磁波パルスLT11〜LT41を発生させる。例えば、多接合型太陽電池90に対し、疑似太陽光が照射された場合、室外などで太陽光に曝された状態を再現できる。この状態で発生する電磁波パルスLT11〜LT41を解析することによって、多接合型太陽電池90の使用時に問題となりうる構造上の欠陥の検出、または、多接合型太陽電池90の性能を評価することできる。また、連続光CWを特定の波長に限定して照射することで、波長に依存した多接合型太陽電池90の特性を検査することもできる。
【0083】
連続光照射部19が射出する連続光CWの波長は、設定部27が、オペレータの操作入力に基づいて設定する。また、連続光照射部19が照射する波長は、オペレータが直接指定するようにしてもよいし、あるいは、励起光照射部12が多接合型太陽電池90に照射するパルス光の波長に応じて、自動的に設定されるようにしてもよい。後者の場合、予め記憶部に、パルス光の波長と連続光の波長との組み合わせを示す組み合わせデータを保存しておき、照射するパルス光の波長が決定された時点で、設定部27が当該組み合わせデータが読み出されて、ペアとなる連続光の波長が設定されるようにしてもよい。
【0084】
連続光照射部19は、照射条件変更部191を備えている。照射条件変更部191は、同時に多接合型太陽電池90に対して照射される連続光CWのスポット径を変更する。照射条件変更部191により一度に連続光CWが照射される範囲を変更することによって、起電力が発生する領域の範囲を任意の変更することができる。
【0085】
例えば、パルス光LP11〜LP41のビーム径(照射径)を50μmとした場合、連続光CWのビーム径(照射径)を50μm以上とすれば、パルス光LP11〜LP41が照射される領域の周辺部についても、起電力が発生した状態とすることができる。ここで、パルス光LP11〜LP41の照射によって発生した光励起キャリアは、上記周辺部の影響を受ける可能性が高い。したがって、多接合型太陽電池90を使用状態で検査するために、その周辺部についても連続光CWが照射してもよい。また、連続光CWは、必ずしも局所的にスポット状に照射しなければならないものではなく、例えば、多接合型太陽電池90全体に同時に照射されるようにしてもよい。
【0086】
また、照射条件変更部191は、連続光CWの光強度を変更する。多接合型太陽電池90に照射される連続光CWの光強度を変更することで、発生する起電力の大きさを任意に変更することができる。これにより、発電状態に応じた多接合型太陽電池90の検査を実現することができる。なお、連続光CWの強度を変更する手段としては、例えば遮光性のフィルタなどを用いることが考えられるが、これに限定されるものではない。もちろん、連続光照射部19から出力される連続光CWの光強度が直接変更されるようにしてもよい。
【0087】
<1.2 検査>
<1.2.1 検査例1>
図6は、検査例1の流れを示す図である。この検査例1では、多接合型太陽電池90における特定の位置(検査対象箇所)で発生する電磁波パルスを復元することによって、その位置における多接合型太陽電池90の特性等が評価される。なお、以下に説明する各動作は、特に断らない限り制御部16の制御に基づいて、検査装置100が実行するものとする。
【0088】
検査例1では、まず、多接合型太陽電池90の各層の吸収波長領域に基づいて、照射するパルス光の波長が設定される(ステップS11、設定工程)。ここでは、3つの波長λ、λ/2およびλ/3のパルス光LP11,LP21,LP31(以下、「パルス光LP11〜LP31」と表記する。)を多接合型太陽電池90に照射するように設定されたものとする。この場合において、例えば波長λは、多接合型太陽電池90における下層の太陽電池9Cに吸収される波長(350nm〜700nm)とし、波長λ/2を、中間層の太陽電池9Bに吸収される波長(700nm〜850nm)とし、波長λ/3を太陽電池9Aに吸収される波長(850nm〜1800nm)とする。
【0089】
もちろん、パルス光LP11〜31の他にも、光パラメトリック発振器38で発生させた特定波長のパルス光LP41を用いて検査を行ってもよい。
【0090】
次に、検査装置100は、多接合型太陽電池90に各パルス光LP11(第1パルス光)パルス光LP21(第2パルス光)、パルス光LP31(第3パルス光)をそれぞれ単独で照射する。そして、それらのパルス光LP11〜LP31によって放射される電磁波パルスLT11(第1電磁波パルス)、電磁波パルスLT21(第2電磁波パルス)、電磁波パルスLT31(第3電磁波パルス)を計測する(ステップS12)。
【0091】
このステップS12では、遅延素子14の遅延ステージを走査することによって、電磁波パルスの電界強度の検出タイミング(位相)が変更され、電磁波パルスの時間波形を復元するためのデータが取得される。このとき、多接合型太陽電池90における電磁波パルスの計測位置は、特に限定されない。しかしながら、受光面電極96の近辺など、比較的高強度の電磁波パルスが発生し易い箇所で計測が行われることが望ましい。
【0092】
次に、各パルス光LP11〜LP31の照射を相互にずらす時間Δtが決定される(ステップS13)。具体的には、ステップS12において計測された電磁波パルスLT11,LT21,LT31(以下、「電磁波パルスLT11〜LT31」と表記する。)の時間波形に基づき、各電磁波パルスLT11〜LT31の1パルス分の発生時間が取得される。電磁波パルスの発生時間とは、電界強度が変化し始める時から、その変化が完結する時までをいう。この発生時間に基づき、時間Δtが決定される。
【0093】
図7は、多接合型太陽電池90に照射されるパルス光のパルス列(上)、および、多接合型太陽電池90から放射される電磁波パルスのパルス列(下)を示す概念図である。なお、
図7において、2つの横軸は時間軸を示している。
【0094】
検査例1では、
図7に示されるように、多接合型太陽電池90に対して1パルス分のパルス光LP11が照射された後、時間Δt11遅れて、1パルス分のパルス光LP21が照射される。さらにその後、時間Δt21遅れて、1パルス分のパルス光LP31が照射される。その後、時間Δt31遅れて、再び1パルス分のパルス光LP11が照射される。
【0095】
以上の要領で、パルス光LP11〜LP31の照射サイクルが、繰り返し行われる。すると、多接合型太陽電池90では、電磁波パルスLT11が発生した後、時間Δt11経過後に電磁波パルスLT21が発生することとなる。また、さらに時間Δt21経過後に電磁波パルスLT31が発生し、さらに時間Δt31経過後に電磁波パルスLT11が発生することとなる。
【0096】
ここで、時間Δt11を電磁波パルスLT11の発生時間T11よりも大きくすれば、電磁波パルスLT11および電磁波パルスLT21の電界強度成分が、検出器131において同時に検出されることを抑制できる。つまり、電磁波パルスLT21を電磁波パルスLT11から分離して検出できる。同様に、時間Δt21,Δt31のそれぞれを、電磁波パルスLT21,LT31の発生時間T21,T31よりも大きくすればよい。これによって、電磁波パルスLT31,LT11を、先に発生する電磁波パルスLT21,LT31から分離して検出できる。
【0097】
時間Δt11,Δt21,Δt31(以下、「時間Δt11〜Δt31」と表記する。)は、互いに一致していてもよいし、異なっていてもよい。電磁波パルスLT11〜LT31の発生時間T11,T21,T31(以下、「発生時間T11〜T31」と表記する。)が相違する場合も想定されるため、発生時間T11〜T31に応じて時間Δt11〜Δt31が適宜決定されればよい。
【0098】
図6に戻って、時間Δt(時間Δt11〜Δt31)が決定されると、連続光CWの照射条件が決定される(ステップS14)。このステップS14では、上述したように、励起光であるパルス光LP11〜LP31の波長に応じて、連続光照射部19が照射する連続光CWの波長が、設定部27によって設定される。また、連続光CWの光強度、照射範囲なども適宜決定される。なお、ステップS14は、必ずしもステップS13の後に実行しなくてもよく、ステップS11と並行して、もしくは、ステップS11の後に実行されてもよい。
【0099】
ステップS14では、連続光CWの波長として、多接合型太陽電池90の3つの層(太陽電池9A〜9C)のそれぞれに吸収される波長に設定することが考えられる。つまり、上層の太陽電池9Cに吸収される波長(350nm〜700nm)、中間層の太陽電池9Bに吸収される波長(700〜850nm)、下層の太陽電池9Aに吸収される波長(例えば、850nm〜1800nm)のそれぞれを、連続光CWとして照射することが考えられる。
【0100】
この場合、パルス光LP11〜LP31をそれぞれ照射するとともに、3種の連続光CWをそれぞれ照射することになるため、合計9組のパルス光および連続光CWの組み合わせで電磁波計測を行うこととなる。もちろん、3種の連続光CWのうち、2種以上の連続光CWを同時に照射するよう条件設定を行って、電磁波計測を行うようにしてよい。
【0101】
次に、パルス光LP11〜LP31を、ステップS12で決定した時間Δt(時間Δt11〜Δt31)の分相互に遅延させながら、予め設定された多接合型太陽電池90における検査対象箇所に順次に照射して、一度に電磁波パルスLT11〜LT31を計測する(ステップS15)。
【0102】
ステップS15では、多接合型太陽電池90の検査対象箇所に、遅延素子14の遅延ステージを所定箇所に固定して、パルス光LP11〜LP31のそれぞれを順次照射し、電磁波パルスLT11〜LT31を計測する。これが完了すると、遅延ステージを所定距離分動かして、別タイミングで電磁波パルスLT11〜LT31を計測する。このような単位的な計測が、遅延素子14の遅延ステージを1回走査する間に繰り返し実行される。これによって、電磁波パルスLT11〜LT31の各時間波形を復元するためのデータが収集される。
【0103】
なお、検査対象箇所が複数設定されていた場合には、ステップS16において、各検査対象箇所における電磁波パルスLT11〜LT31の電界強度の取得が実行される。
【0104】
さらに次のステップS16では、ステップS15で計測を行った検査対象箇所に対して、ステップS14で決定された照射条件で連続光CWを照射しつつ、パルス光LP11〜LP31を順次に照射し、一度に電磁波パルスLT11〜LT31を計測する(ステップS16)。なお、異なる波長の連続光CWを個別に照射して、電磁波計測を行う場合、各波長の連続光CWでの電磁波計測を個別に行えばよい。
【0105】
なお、ステップS15,S16における電磁波計測時に、多接合型太陽電池90に逆バイアス電圧を印可したり、もしくは短絡するなどして、放射される電磁波パルスの強度を高めてもよい。これは、ステップS12における電磁波計測時においても同様である。
【0106】
ステップS15,S16における電界強度の取得が完了すると、時間波形復元部23によって復元された時間波形がモニター17によって表示される(ステップS17)。
【0107】
図8は、電磁波パルスLT11の時間波形41,42の一例を示す図である。時間波形41は、連続光CWが照射された場合の時間波形を示すものである。また、時間波形42は、連続光CWの照射が無い場合の時間波形を示している。
図8に示す例では、時間波形41は、時間波形42に比べて、電磁波パルスLT11の振幅が相対的に小さくなっている。これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、連続光CWが照射されることによって、連続光CWによって励起された光励起キャリアが伝導帯に充満した状態となる。すると、パルス光LP11によって発生する光励起キャリアの電流変化が、相対的に弱められ、これによって、発生する電磁波パルスLT11の電界強度が弱められるためと考えられる。
【0108】
図9は、電磁波パルスLT11のスペクトル分布43の一例を示す図である。
図9中、縦軸はスペクトル強度を示し、横軸は周波数を示している。スペクトル解析部25が、時間領域を周波数空間に変換するフーリエ変換を実行することによって、
図8に示される時間波形41から、
図9に示されるスペクトル分布43を取得することができる。スペクトル分布43を取得することによって、検査対象箇所における物性情報をさらに詳細に分析することが可能となる。このようなスペクトル解析が、ステップS17またはステップS18の後に実行されてもよい。
【0109】
以上のように、本検査例1によると、連続光CWの波長を適切に選択することによって、パルス光LP11〜LP31が励起するサブセル(太陽電池9A〜9Cのいずれかの)と同一かもしくは異なるサブセルに、連続光CWを吸収させることができる。
【0110】
すなわち、照射するパルス光の波長および連続光の波長が、同一のサブセルの吸収波長領域に含まれる場合、発電状態の当該サブセルにおけるキャリアダイナミクスを解析できる。また、照射するパルス光の波長及び連続光の波長が、それぞれ異なるサブセルの吸収波長領域に含まれる場合、特定のサブセルにおける空乏層が、発電状態の他のサブセルから受ける影響(相互作用)を詳細に解析できる。
【0111】
また、連続光CWの波長が、3つのサブセルのうち、2つのサブセルの吸収波長領域の双方に含まれる場合、当該2つのサブセルを発電状態とすることができる。ここで、残余の発電状態でないサブセルに吸収されるパルス光を照射し、発生する電磁波パルスを計測することによって、当該サブセルが、発電状態の他の2つのサブセルから受ける影響(相互作用)を解析できる。もちろん、発電状態の2つのサブセルのうちいずれか一方に吸収されるパルス光を照射して電磁波パルスの計測を行い、発電状態におけるキャリアダイナミクスを解析してもよい。さらに、3つのサブセルに吸収される連続光CWを照射して、特定のサブセルについての電磁波計測を行うことも考えられる。
【0112】
図10は、多接合型太陽電池90において、特定波長の連続光CWの強度と、電磁波強度の相関を示す図である。
図10において、横軸は連続光CWの強度を示しており、縦軸は電界強度の相対的な大きさを示している。
図10に示すグラフ61〜64は、多接合型太陽電池90の特定の地点において、互いに相違する波長の連続光CWをそれぞれ照射しつつ、800nmの波長のパルス光を照射して電磁波測定を行ったものである。800nmの波長のパルス光は、3層のサブセルのうち、中間層のサブセル(太陽電池9B)に吸収される。
【0113】
また、グラフ61は、3層のサブセルのうち、上層(太陽電池9C)に吸収される波長の連続光CW(波長405nm)を照射したものに相当する。さらに、グラフ62は、3層のサブセルのうち上層および中間層(太陽電池9C,9B)に吸収される波長の連続光CW(波長650nm)を照射したものに相当する。また、グラフ63は、3層のサブセルのうち中間層(太陽電池9B)に吸収される波長の連続光CW(波長808nm)を照射したものに相当する。さらに、グラフ64は、3層のサブセルのうち下層(太陽電池9A)に吸収される波長の連続光CW(波長980nm)を照射したものに相当する。
【0114】
図10に示される計測結果によると、連続光CWの波長によって、放射される電磁波パルスの強度が異なることが分かる。具体的には、グラフ61が示すように、上層を発電状態とすると、中層で発生する電磁波パルスの強度が高められることが分かる。また、グラフ63が示すように、パルス光と連続光CWとが、同一の中間層に吸収される場合、電磁波パルスの強度が大きく低下することが分かる。さらに、グラフ64が示すように連続光CWによって下層が発電状態とされると、グラフ61が示すほどではないものの、中間層で発生する電磁波パルスの強度が増大することが分かる。また、グラフ62が示すように、連続光CWによって上層及び中層が発電状態とした場合、連続光CWの強度が低い場合は、電磁波パルスの強度が若干上昇するが、連続光CWの強度が高まるに連れて、電磁波パルスの強度が低下することが分かる。
【0115】
以上のように、パルス光の条件を固定した場合であっても、連続光CWの照射条件(波長または強度)を変更することによって、発生する電磁波パルスの強度が変化する。このため、連続光CWの照射条件を振ることによって、多接合型太陽電池90の多角的な検査を行うことができる。
【0116】
<1.2.2. 検査例2>
図11は、検査例2の流れを示す図である。この検査例2は、多接合型太陽電池90の前部又は一部の領域から放射される電磁波パルスを計測し、電磁波パルス強度の分布を画像化するものである。この検査例2によると、広い範囲を一度に検査するため、部分毎の特性の比較や、不良箇所の検出などを容易に行うことが可能である。
【0117】
具体的には、まず、多接合型太陽電池90の各層の吸収波長領域に基づいて、照射するパルス光の波長が設定される(ステップS21)。このステップS21は、
図6に示されるステップS11と同様である。ここでは、3つの波長λ、λ/2およびλ/3のパルス光LP11〜LP31を多接合型太陽電池90に照射するように設定されたものとする。
【0118】
次に、多接合型太陽電池90の各層(太陽電池9A〜9C)に照射する連続光CWの条件が決定される(ステップS22)。このステップS22では、
図6に示されるステップS14と同様である。例えば、連続光CWの波長として、多接合型太陽電池90の各層のうち、特定層に吸収される3種の波長が選択される。また、連続光CWの強度および照射範囲も、ステップS22において適宜設定される。
【0119】
次に、検査用の検出タイミングの決定が行われる(ステップS23)。具体的には、ステップS21において設定された複数の波長のうち特定波長のパルス光(ここでは、パルス光LP11とする。)が多接合型太陽電池90に照射され、多接合型太陽電池90から放射される電磁波パルスLT11の時間波形が復元される。そして、この時間波形において電界強度のピーク、すなわち電界強度が最大となるときのタイミングが、検査用の検出タイミングとされる。検出タイミングが決定されれば、そのタイミングに対応する位置に遅延素子14の遅延ステージが固定される。
【0120】
なお、ステップS22において決定される検査用の検出タイミングは、必ずしも、最大電界強度が検出される検出タイミングでなくてもよい。しかしながら、このような検出タイミングに固定することによって、多接合型太陽電池90の各部分から放射される電磁波パルスを検出しやすくなる。
【0121】
次に、パルス光LP11を多接合型太陽電池90の検査対象範囲に照射して、放射される電磁波パルスLT11の計測が行われる(ステップS24)。具体的には、遅延素子14の遅延ステージが、ステップS22で決定された検査用の検出タイミングに対応する位置に固定される。この状態で、多接合型太陽電池90の検査対象範囲を、パルス光LP11で走査する。ここではまず、連続光CWを照射せずに電磁波計測が行われる。
【0122】
次に、ステップS21において全ての電磁波パルスの計測が完了したかどうかが判定される(ステップS25)。完了していると判定された場合には、検査が完了するが、未完了の場合は、ステップS22に戻る。この時点では、他のパルス光LP21およびLP31の照射が完了していないため、ステップS22に戻ることとなる。これによって、パルス光LP21の照射による電磁波パルスLT21の計測、および、パルス光LP31の照射による電磁波パルスLT31の計測が行われる。
【0123】
ステップS25において、電磁波計測が全て完了したと判定された場合、連続光CWを照射する条件での電磁波計測が行われる(ステップS26)。詳細には、多接合型太陽電池90における検査対象範囲を、特定波長の連続光CWを照射しつつ、パルス光LP11で二次元走査する。そして次のステップS27において、全ての電磁波計測が完了したかどうか判定される。この時点では、他のパルス光LP21,LP31の照射が完了していないため、ステップS26に戻って、これらパルス光LP21またはパルス光LP31での二次元走査が行われる。また、照射する連続光CWの波長を変更して、各パルス光LP11〜LP31を照射する電磁波計測も順次行われる。
【0124】
全ての電磁波計測が完了すると、各条件下における電界強度分布画像の生成および表示が実行される(ステップS28)。
【0125】
図12は、電界強度分布画像i1の一例を示す模式図である。この電界強度分布画像i1によると、多接合型太陽電池90における電界強度分布を容易に把握することができる。この電界強度分布に基づいて、例えば、多接合型太陽電池90の不良箇所の特定を容易に行うことができる。
【0126】
また、例えば、ステップS25において得られた複数の電界強度分布画像を1つの画像に合成して、モニター17に表示してもよい。例えば、電界強度分布画像が3つある場合、そのそれぞれを、赤(R)、緑(G)、青(B)などの各色に色付けし、1つの画像に合成してもよい。これによって、1つの合成画像において、3つの電界強度分布を個別的に把握することが可能となる。
【0127】
なお、パルス光LP11〜LP31で走査する検査対象範囲は、例えば、事前に行われる目視検査、エレクトロルミネッセンス(EL)検査、フォトルミネッセンス(PL)検査に基づき、設定するとよい。これらの検査によって、検査対象範囲を絞り込むことで、電磁波計測に基づく検査にかかる時間を短縮できる。
【0128】
<1.3 効果>
以上のように、本実施形態によると、深さ方向に吸収波長領域が異なる多接合型太陽電池90において、目的の深さ位置にある層の太陽電池に対応した波長の光を照射し、それらによって放射される各電磁波パルスを計測できる。さらに、各層に対応した連続光CWを照射することによって、各層を発電状態(起電力が発生した状態)とすることができる。これらを組み合わせることによって、発電状態におけるキャリアダイナミクスや、特定層が発電状態の他の層から受ける影響(相互作用)を解析できる。
【0129】
なお、本発明の検査対象物は、多接合型太陽電池90に限定されるものではない。例えば、裏面側から受光面側にかけて、ドットサイズが徐々に小さくなるように量子ドットを積層してなる量子ドット太陽電池が知られている。このような量子ドット太陽電池では、ドットサイズが異なるために、深さ方向において吸収波長が異なっている。検査装置100は、波長が相違する複数のパルス光LP11〜LP41および複数の波長の連続光CWで検査を行える。このため、検査装置100は、量子ドット太陽電池を検査するのにも好適である。
【0130】
また、一般的には、長波長の光は深い部分まで侵入するが、短波長の光は浅い部分までしか侵入できないことが知られている。したがって、単接合の太陽電池においも、波長が相違する複数のパルス光LP11〜LP41及び波長が相違する複数の連続光CWを組み合わせて照射することによって、太陽電池の深さ方向の各部分を多角的に検査できる。
【0131】
さらに、イメージセンサの分野においては、例えば、Foveon X3(登録商標)など吸収波長領域が相違する複数のシリコン層を積層してなるイメージセンサが知られている。このようなイメージセンサを検査する場合、各層に対応した波長のパルス光を照射することで、各層の検査を行うことができる。
【0132】
また、LEDを検査対象とする場合においても、ある半導体層の発振波長よりも短い波長の光を照射すれば、光が吸収されて電磁波パルスを放射させることができる。したがって、LEDに対しては、発振波長よりも短い波長の光(すなわち、エネルギーギャップよりも高エネルギーの光)を照射すれば、良好に検査することができる。
【0133】
フォトデバイスに照射されるパルス光の波長は、以下のように決定してもよい。例えば検査対象のフォトデバイスが、第1層、及び、前記第1層とは吸収波長領域が異なり、かつ、第1層よりも下側に配されている第2層を有するものとする。この場合、第1層のエネルギーギャップよりも高エネルギーの第1光、および、第2層のエネルギーギャップよりも高エネルギーであって、第1層のエネルギーギャップよりも低エネルギーの第2光を照射すればよい。この場合、第1光の照射によって、第1層から選択的に電磁波パルスを放射させることができ、また、第2光の照射によって、第2層から選択的に電磁波パルスを放射させることができる。
【0134】
<2. 第2実施形態>
図13は、第2実施形態に係る検査装置100Aの概略構成図である。なお、以下の説明において、第1実施形態と同様の機能を有する要素については、同じ符号またはアルファベットを追加した符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
【0135】
検査装置100Aは、励起光照射部12Aの光源として、白色フェムト秒レーザ121Aを備えている。白色フェムト秒レーザ121Aから放射される白色パルス光LP50が分割されて、長波長フィルター51、中波長フィルター53および短波長フィルター55を通過する。これによって、波長が相違する複数のパルス光LP51、LP53およびLP55が生成され、多接合型太陽電池90に照射される。また、本実施形態においても、遅延素子35および遅延素子37によって、パルス光LP51、LP53およびLP55を、時間的に相互にずらして、多接合型太陽電池90に照射可能とされている。パルス光LP51、LP53およびLP55のそれぞれが、多接合型太陽電池90に照射されることによって、多接合型太陽電池90から電磁波パルスLT51、LT52およびLT53が放射される。
【0136】
また、本実施形態では、白色パルス光LP50が、長波長フィルター57を通過した後、検出器131に入射する。これによって、検出器131が、多接合型太陽電池90から放射される電磁波パルスを検出する。なお、必ずしも長波長フィルター57である必要はなく、検出器131の素材に応じて、波長フィルターを適宜選択すればよい。また、検出器131に入射するパルス光の光路長は、遅延素子14によって変更可能とされている。このため、検出器131における電磁波パルスの検出タイミングが変更可能とされている。
【0137】
また、検査装置100Aにおいても、多接合型太陽電池90に連続光CWを照射する連続光照射部19が設けられている。このため、連続光照射部19によって、適当な波長の連続光CWを多接合型太陽電池90に照射することによって、多接合型太陽電池90の特定層を発電状態にすることができる。したがって、検査装置100Aにおいても、検査装置100と同様に、発電状態の特定層におけるキャリアダイナミクスを解析したり、あるいは、特定層が他の発電状態の層から受ける影響(相互作用)を詳細に解析できる。
【0138】
<3. 第3実施形態>
図14は、第3実施形態に係る検査装置100Bの概略図である。検査装置100Bは、励起光照射部12が出射したパルス光が、透明導電膜基板(ITO)990を透過して、多接合型太陽電池90の表面90Sに対して垂直に入射する。そして、パルス光の照射に応じて発生した電磁波パルスのうち、表面90Sの側に出射された電磁波パルスが、透明導電性基板990を反射し、レンズなどの光学系を介して検出器131に入射する。すなわち、検査装置100Bは、照射用のパルス光と放射された電磁波パルスとが同軸となる、同軸反射型の装置として構成されている。このような検査装置100Bによっても、検査装置100と同様に、多接合型太陽電池90から放射される電磁波パルスを検出できる。
【0139】
<4. 第4実施形態>
図15は、第4実施形態に係る検査装置100Cの概略図である。検査装置100Cは、励起光照射部12が出射したパルス光が、多接合型太陽電池90の表面90Sに対して垂直に入射する。そして、多接合型太陽電池90の裏面側に出射される(すなわち、透過する)電磁波パルスが、検出部13にて検出される。すなわち、検査装置100Cは、透過型の検査装置として構成されている。このような検査装置100Cによっても、検査装置100と同様に、多接合型太陽電池90から放射される電磁波パルスを検出できる。
【0140】
<5.変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0141】
例えば、第1実施形態では、フェムト秒レーザ121からパルス光を出射させて、多接合型太陽電池90からパルス状の電磁波を放射させている。しかしながら、フェムト秒レーザ121の代わりに、発振周波数がわずかに相違する2つの連続光を出射する2つの光源を利用することも可能である。具体的には、2つの連続光を、光導波路である光ファイバなどで形成されたカプラによって重ね合わせることで、差周波に対応する光ビート信号を生成する。そして、この光ビート信号を、多接合型太陽電池90に照射することによって、その光ビート信号の周波数に応じた電磁波(テラヘルツ波)を放射させることができる。なお、光源としては、例えば温度制御によって、出射するレーザ光の波長をほぼ連続的(例えば、2nm毎)に変更可能とされる分布帰還型(DFB)レーザなどを利用することができる。
【0142】
この技術を利用する場合において、例えば、波長が相違する3つの光(光ビート信号)を照射するのであれば、6つの光源を用いればよい。また、波長が相違する複数の光ビート信号を切り替えて多接合型太陽電池90に照射することが望ましいが、これらを同時に照射してもよい。なぜなら、光ビート信号の照射によって放射される電磁波の周波数分布は、非常に狭い。このため、周波数フィルターを用いることによって、各電磁波の成分を容易に分離できる。
【0143】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。また、上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。