(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)
(機械式時計)
次に、
図1〜
図11に基づいて、この発明の第1実施形態を説明する。
図1は、機械式時計1のムーブメント表側の平面図である。
同図に示すように、機械式時計1は、ムーブメント10と、このムーブメント10を収納する図示しないケーシングと、により構成されている。
【0033】
ムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。この地板11の裏側には図示しない文字板が配されている。なお、ムーブメント10の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント10の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。この巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15および裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。また、巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
【0034】
このような構成のもと、巻真12が、回転軸方向に沿ってムーブメント10の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真12を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車17が回転する。そして、このきち車17が回転することにより、これと噛合う丸穴車20が回転する。そして、この丸穴車20が回転することにより、これと噛合う角穴車21が回転する。さらに、この角穴車21が回転することにより、香箱車22に収容された図示しない主ぜんまいを巻き上げる。
【0035】
ムーブメント10の表輪列は、上述した香箱車22の他に、二番車25、三番車26、四番車27、および五番車28により構成されており、香箱車22の回転力を伝達する機能を果している。また、ムーブメント10の表側には、表輪列の回転を制御するための定力装置付トゥールビヨン30が配置されている。
二番車25は、香箱車22に噛合う歯車とされている。三番車26は、二番車25に噛合う歯車とされている。四番車27は、三番車26に噛合う歯車とされている。五番車28は、四番車27に噛合う歯車とされている。そして、五番車28に、定力装置付トゥールビヨン30が噛合されている。
【0036】
(定力装置付トゥールビヨン)
図2は、定力装置付トゥールビヨン30の斜視図、
図3は、
図2のA−A線に沿う断面図である。
図2、
図3に示すように、定力装置付トゥールビヨン30は、上述した表輪列の回転を制御する機構である。また、定力装置付トゥールビヨン30は、後述のてんぷ101の向きによる重力の影響を低減し、てんぷ101の動作の乱れを抑制する、いわゆるトゥールビヨン機構を有している。また、定力装置付トゥールビヨン30は、後述のがんぎ車111に伝えられる回転トルクの変動を抑制するため定力装置3を備えている。
【0037】
以下に、定力装置付トゥールビヨン30について詳述する。
定力装置付トゥールビヨン30は、地板11の表側に取り付けられた固定車受29における地板11側に固定されている固定車31と、地板11の裏側に取り付けられ、固定車受29(
図3参照)と対向配置されたキャリッジ受32との間に回転自在に支持されている外キャリッジ(入力部)33と、この外キャリッジ33の内側に、外キャリッジ33に対して回転自在に支持されている内キャリッジ(出力部)34と、を備えている。
【0038】
固定車31は、略円板状の歯車本体31aを有しており、この歯車本体31aの径方向略中央に、外キャリッジ33を回転自在に支持するための穴石31bが設けられている。また、歯車本体31aの穴石31bの周囲に、固定車31を固定車受29に締結固定するためのねじ挿通孔31cが形成されている。このねじ挿通孔31cに、図示しないねじが挿入される。さらに、歯車本体31aの外周部に、歯部31dが形成されている。
【0039】
(外キャリッジ)
図4は、外キャリッジ33を固定車受29側からみた斜視図、
図5は、外キャリッジ33をキャリッジ受32側からみた斜視図である。
図2〜
図5に示すように、外キャリッジ33は、固定車受29側に配置された略円板状の第1外キャリッジ軸受部35と、キャリッジ受32側に配置された略円板状の第2外キャリッジ軸受部36と、を有している。これら第1外キャリッジ軸受部35および第2外キャリッジ軸受部36は、固定車31と同軸上に配置されている。
【0040】
また、第1外キャリッジ軸受部35には、固定車31の穴石31bと同軸上に、穴石35aが設けられている。この穴石35aは、内キャリッジ34を回転自在に支持するために用いられる。さらに、第1外キャリッジ軸受部35の固定車受29側の面には、第1外回転体37が設けられている。
第1外回転体37は、第1外キャリッジ軸受部35の形状に対応するように、略円板状に形成されたベース部37aと、ベース部37aの径方向略中央から固定車受29側に向かって突出するほぞ部37bとが一体成形されたものである。そして、第1外キャリッジ軸受部35にベース部37aがねじ38によって締結固定されている。また、固定車31の穴石31bにほぞ部37bが挿通されることにより、固定車31に第1外回転体37が回転自在に支持される。
【0041】
一方、第2外キャリッジ軸受部36には、第1外キャリッジ軸受部35の穴石35aと同軸上に穴石36aが設けられている。この穴石36aも、第1外キャリッジ軸受部35の穴石35aと協働して内キャリッジ34を回転自在に支持するために用いられる。また、第2外キャリッジ軸受部36のキャリッジ受32側の面には、第2外回転体39が設けられている。
第2外回転体39は、第2外キャリッジ軸受部36の形状に対応するように、略円板状に形成されたベース部39aと、ベース部39aの径方向略中央からキャリッジ受32側に向かって突出するほぞ部39bとが一体成形されたものである。このほぞ部39bが、キャリッジ受32の穴石32aに回転自在に支持されている。また、第2外キャリッジ軸受部36に、ベース部39aがねじ40によって締結固定されている。
【0042】
さらに、第1外キャリッジ軸受部35よりも径方向外側には、リング状の外歯歯車部41が設けられている。この外歯歯車部41が、五番車28に噛合されている。
また、外歯歯車部41と第1外キャリッジ軸受部35は、互いに3つの第1アーム部42により連結されている。3つの第1アーム部42は径方向に沿って延び、周方向に等間隔に配置されている。
一方、第2外キャリッジ軸受部36の外周部には、径方向外側に向かって延出する3つの第2アーム部43が一体成形されている。これら第2アーム部43は、第1外キャリッジ軸受部35側の第1アーム部42に対応するように、周方向に等間隔に配置されている。
【0043】
第1アーム部42と外歯歯車部41との接続部、および第2アーム部43の先端には、それぞれ略円板状のシャフト取付座44,45が一体成形されている。そして、これらシャフト取付座44,45の間に、軸方向に沿って延びるシャフト46がそれぞれ設けられている。シャフト46の両端は、シャフト取付座44,45の上から螺入されるねじ47によって、シャフト取付座44,45に締結固定されている。
【0044】
また、第1外キャリッジ軸受部35と外歯歯車部41との間には、第1外キャリッジ軸受部35の周囲を取り囲むようにリング状に形成された支持バー48が設けられている。支持バー48の内径は、固定車31の歯部31dの外径とほぼ同一に設定されている。
また、支持バー48は、第1アーム部42と連結するように一体成形されている。支持バー48には、ストップ車軸受ユニット50、およびこのストップ車軸受ユニット50に回転自在に支持されるストップ車70が設けられている。
ここで、ストップ車軸受ユニット50およびストップ車70は定力装置3を構成するものである。定力装置3は、ストップ車軸受ユニット50およびストップ車70の他に、後述の定力ばね68およびストッパ96を有している。
【0045】
ストップ車軸受ユニット50は、支持バー48上に一体成形されたリング状の軸体挿入部51と、支持バー48の固定車受29側に取り付けられている第1ストップ車軸受部52と、支持バー48のキャリッジ受32側に取り付けられている第2ストップ車軸受部53と、により構成されている。
【0046】
第1ストップ車軸受部52は、支持バー48の軸体挿入部51に対応する位置から固定車受29側に向かって延出する壁部54を有している。壁部54は、径方向内側が開口するように断面略C字状に形成されている。壁部54の先端の内周面側には、略円板状の軸受座55が壁部54と直交するように一体成形されている。そして、軸受座55の径方向略中央には、厚さ方向に貫通する貫通孔55aが形成されている。この貫通孔55aに、ストップ車70を回転自在に支持するための穴石56が設けられている。
【0047】
また、壁部54の基端側には、この壁部54を挟んで両側に延出する一対の取付ステー57が一体成形されている。一対の取付ステー57の先端には、それぞれ略円板状のねじ座57aが一体成形されている。このねじ座57aが、ねじ58によって支持バー48に締結固定されている。
【0048】
一方、第2ストップ車軸受部53は、支持バー48に形成されている軸体挿入部51に対応する位置に配置されている略円板状の軸受座61を有している。そして、軸受座61の径方向略中央には、厚さ方向に貫通する貫通孔61aが形成されている。この貫通孔61aに、ストップ車70を回転自在に支持するための穴石62が設けられている。
【0049】
また、軸受座61の外周部には、穴石62を挟んで両側に、一対の取付ステー63が一体成形されている。一対の取付ステー63の先端には、それぞれ略円板状のねじ座63aが一体成形されている。このねじ座63aが、ねじ64によって支持バー48に締結固定されている。
ここで、ねじ座63aおよび取付ステー63の先端部には、それぞれ嵩上部63bが形成されており、軸受座61および取付ステー63と、支持バー48との間に、隙間S1が形成されるようになっている。この隙間S1に、ストップ車70を構成するストップ歯車72が介在される。
【0050】
ストップ車70は、ストップ歯車72の他に、支持バー48に形成されている軸体挿入部51に挿入されるストップ車軸体71を有している。ストップ車軸体71の両端には、それぞれほぞ部71a,71bが一体成形されている。固定車受29側のほぞ部71aは、第1ストップ車軸受部52の穴石56に回転自在に支持されている。一方、キャリッジ受32側のほぞ部71bは、第2ストップ車軸受部53の穴石62に回転自在に支持されている。
【0051】
また、ストップ車軸体71には、軸方向略中央から固定車受29側のほぞ部71aの手前に至る間に、ストップかな部が71cが一体成形されている。ここで、ストップ車軸受ユニット50が設けられている支持バー48の内径は、固定車31の歯部31dの外径とほぼ同一に設定されているので、この歯部31dにストップかな部71cが噛合されるようになっている。一方、ストップ車軸体71におけるキャリッジ受32側のほぞ部71bの根元部近傍に、ストップ歯車72が外嵌固定されており、ストップ車軸体71とストップ歯車72とが相対回転不能に一体化されている。
【0052】
図6は、ストップ歯車72の平面図である。
同図に示すように、ストップ歯車72は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成された部材あって、電鋳加工や、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセス、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)、MIM(Metal Injection Molding)等により形成されている。
【0053】
ストップ歯車72は、ストップ車軸体71に外嵌固定される中央のハブ部73と、ハブ部73の径方向外側に配置され、ハブ部73の周囲を取り囲むようにリング状に形成されたリム部74と、これらハブ部73とリム部74と、を連結するスポーク部75とが一体成形されたものである。
【0054】
リム部74の外周部には、複数(この実施形態では5つ)の鉤部76が径方向外側に向かって突出形成されている。より具体的には、鉤部76は、軸方向平面視で略三角形状に形成されており、中央の大部分に略三角形状の開口部76aが形成されている。また、鉤部76は、その頂点P1がストップ歯車72の回転方向(
図6における時計回り方向)Y1に向かうように形成されており、回転方向Y1の前側の側辺76bが回転方向Y1の後側の側辺76cよりも短く設定されている。換言すれば、前側の側辺76bは、スポーク部75と連なるように形成されている一方、後側の側辺76cは、リム部74と連なるように形成されている。なお、ストップ歯車72の回転動作の詳細については、後述する。
【0055】
ここで、スポーク部75および前側の側辺76bは、円弧状に形成されている。そして、この円弧の中心は、固定車31の軸心C1、つまり、外キャリッジ33の回転中心と同軸上に位置している。
このような構成のもと、鉤部76の前側の側辺76bには、内キャリッジ34に設けられた後述のストッパ96が係合・解除されるようになっている。
【0056】
この他に、
図4、
図5に示すように、支持バー48には、第1外キャリッジ軸受部35における軸体挿入部51とは径方向反対側に、リング状の軸受ユニット挿入部65が一体成形されている。この軸受ユニット挿入部65には、後述の脱進機構軸受ユニット130の軸受部133が挿通される。また、軸受ユニット挿入部65の外周部には、3つの第1アーム部42のうちの1つが突出されている。
【0057】
さらに、支持バー48には、軸受ユニット挿入部65に隣接する位置に、ひげ持受66が一体成形されている。このひげ持受66には、ひげ持67が圧入されている。ひげ持67には、定力ばね68の外端部が固定されている。
定力ばね68は、外キャリッジ33に対して内キャリッジ34に回転力を付与するためのものであって、渦巻状に形成されている。定力ばね68の内端部は、ひげ玉69を介して内キャリッジ34に固定されている。
【0058】
(内キャリッジ)
図7は、内キャリッジ34を固定車受29側からみた斜視図、
図8は、内キャリッジ34をキャリッジ受32側からみた斜視図である。
図2、
図3、
図7、
図8に示すように、内キャリッジ34は、固定車受29側に配置された略円板状の第1内キャリッジ軸受部81と、キャリッジ受32側に配置された略円板状の第2内キャリッジ軸受部82と、を有している。これら第1内キャリッジ軸受部81および第2内キャリッジ軸受部82は、外キャリッジ33の第1外キャリッジ軸受部35および第2外キャリッジ軸受部36と同軸上に配置されている。
【0059】
また、第1内キャリッジ軸受部81の第1外キャリッジ軸受部35側の面には、第1内回転体83が設けられている。第1内回転体83は、第1内キャリッジ軸受部81の形状に対応するように、略円板状に形成されたベース部83aと、ベース部83aの径方向略中央から第1外キャリッジ軸受部35側に向かって突出する軸部83bと、軸部83bの先端から突出するほぞ部83cとが一体成形されたものである。
【0060】
そして、第1内キャリッジ軸受部81にベース部83aがねじ84によって締結固定されている。また、第1外キャリッジ軸受部35の穴石35aにほぞ部83cが挿通されることにより、外キャリッジ33に対して内キャリッジ34が回転自在に支持される。
また、軸部83bに、定力ばね68のひげ玉69が固定される。これにより、外キャリッジ33に対して内キャリッジ34に定力ばね68の付勢力が作用する。すなわち、外キャリッジ33に対し、定力ばね68によって内キャリッジ34に回転力が付与される。
【0061】
一方、第2内キャリッジ軸受部82の第2外キャリッジ軸受部36側の面には、第2内回転体85が設けられている。第2内回転体85は、第2内キャリッジ軸受部82の形状に対応するように、略円板状に形成されたベース部85aと、ベース部85aの径方向略中央から第2外キャリッジ軸受部36側に向かって突出するほぞ部85bとが一体成形されたものである。このほぞ部85bが、第2外キャリッジ軸受部36の穴石36aに回転自在に支持されている。また、第2内キャリッジ軸受部82に、ベース部85aがねじ86によって締結固定されている。
【0062】
さらに、第1内キャリッジ軸受部81および第2内キャリッジ軸受部82には、それぞれ耐震軸受87a,87bが設けられている。耐震軸受87a,87bは、第1外キャリッジ軸受部35の穴石35aおよび第2外キャリッジ軸受部36の穴石36aと同軸上に配置されている。耐震軸受87a,87bは、後述のてんぷ101を回転自在に支持するためのものである。
【0063】
また、第1内キャリッジ軸受部81の外周部には、径方向外側に向かって延出する3つの第1アーム部88が一体成形されている。さらに、第2内キャリッジ軸受部82の外周部には、径方向外側に向かって延出する3つの第2アーム部89が一体成形されている。これら第1アーム部88および第2アーム部89は、それぞれ周方向に等間隔に配置されており、さらに、軸方向で対向するように配置されている。また、各第1アーム部88は、それぞれ外キャリッジ33に形成されている3つの第1アーム部42の間に位置するように配置されている。さらに、各第2アーム部89は、それぞれ外キャリッジ33に形成されている3つの第2アーム部43の間に位置するように配置されている。
【0064】
また、各アーム部88,89の先端には、それぞれ略円板状のシャフト取付座91,92が一体成形されている。そして、これらシャフト取付座91,92の間に、軸方向に沿って延びるシャフト93がそれぞれ設けられている。シャフト93の両端は、シャフト取付座91,92の上から螺入されるねじ94によって、シャフト取付座91,92に締結固定されている。
【0065】
さらに、第1内キャリッジ軸受部81の径方向外側には、この第1内キャリッジ軸受部81の周囲を取り囲むようにリング状に形成された支持バー95が設けられている。支持バー95の内径は、固定車31の歯部31dの外径とほぼ同一に設定されている。また、支持バー95は、第1アーム部88と連結するように一体成形されている。
支持バー95には、ストッパ96が設けられている。ストッパ96は、内キャリッジ34や外キャリッジ33に設けられたストップ車70の回転運動に伴って、ストップ車70の鉤部76に対して係合・解除するものである(詳細は後述する)。
【0066】
ストッパ96は、ストップ車70の鉤部76と接触するつめ部98と、つめ部98を支持する支持部99とにより構成されている。支持部99は、断面略Z状に形成されており、固定車受29側に、ストップ車70側が開口するようにスリット99aが形成されている。このスリット99aにつめ部98が収納されて固定されている。また、支持部99のつめ部98が固定されている側とは反対側が、ねじ97によって支持バー95に締結固定されている。
【0067】
さらに、支持バー95には、脱進機構軸受ユニット130が設けられている。脱進機構軸受ユニット130は、後述の脱進機構102を支持するものである。
【0068】
図9は、脱進機構軸受ユニット130の斜視図である。
図7〜
図9に示すように、脱進機構軸受ユニット130は、支持バー95上に一体成形されたリング状の軸体挿入部131、および略円板状の軸受座132と、支持バー95の固定車受29側に取り付けられている軸受部133と、支持バー95のキャリッジ受32側に取り付けられている脱進機構押え134と、により構成されている。
【0069】
軸体挿入部131は、外キャリッジ33の軸体挿入部51とは第1内回転体83を挟んで径方向反対側に配置されている。また、軸受座132は、軸体挿入部131に隣接し、かつ支持バー95と第1アーム部88とが接続する位置に配置されている。軸受座132の径方向略中央には厚さ方向に貫通する貫通孔132aが形成されており、ここに穴石132bが設けられている。
【0070】
また、軸受部133は、支持バー95の軸体挿入部131に対応する位置から固定車受29側に向かって延出する壁部135を有している。この壁部135は、外キャリッジ33に形成されている軸受ユニット挿入部65に挿通され、固定車31に至るまで延出形成されている。また、壁部135は、径方向内側が開口するように断面略C字状に形成されている。壁部135の先端の内周面側には、略円板状の軸受座136が壁部135と直交するように一体成形されている。そして、軸受座136の径方向略中央には厚さ方向に貫通する貫通孔136aが形成されており、ここに穴石137が設けられている。
【0071】
また、壁部135の基端側には、この壁部135を挟んで両側に延出する一対の取付ステー138が一体成形されている。一対の取付ステー138の先端には、それぞれ略円板状のねじ座138aが一体成形されている。このねじ座138aが、ねじ139によって支持バー95に締結固定されている。
【0072】
一方、脱進機構押え134は、支持バー95に形成されている軸体挿入部131および軸受座132に対応する位置にそれぞれ配置されている略円板状の2つの軸受座141,142を有している。これら軸受座141,142の径方向略中央には、厚さ方向に貫通する貫通孔141a,142aが形成されている。これら貫通孔141a,142aに、それぞれ穴石143,144が設けられている。
【0073】
また、脱進機構押え134は、各軸受座141,142を連結する取付ステー145を有している。取付ステー145は、支持バー95の形状に対応するように、軸方向平面視で略円弧状となるように形成されている。取付ステー145の両端には、それぞれ略円板状のねじ座145aが一体成形されている。ねじ座145aは、スペーサ146を介して支持バー95に取り付けられている。そして、ねじ座145aは、ねじ147によって支持バー95に締結固定されている。
【0074】
ここで、脱進機構押え134は、スペーサ146を介して支持バー95に固定されるので、この支持バー95と脱進機構押え134との間に、隙間S2が形成される。この隙間S2に脱進機構102が設けられている。また、上述のように構成された内キャリッジ34の耐震軸受87a,87b間に、てんぷ101が設けられている。
【0075】
(てんぷ)
図3、
図8に示すように、てんぷ101は、第1内キャリッジ軸受部81の耐震軸受87aおよび第2内キャリッジ軸受部82の耐震軸受87bに回転自在に支持されるてん真103と、てん真103に取り付けられたてん輪104と、ひげぜんまい105と、を備え、ひげぜんまい105から伝えられた動力によって、一定の振動周期で正逆回転するようになっている。
【0076】
てん真103は、軸方向略中央から軸方向両端に向かうに従って段差により漸次縮径するように形成された軸体である。てん真103の両端には、それぞれほぞ部103a,103bが軸方向外側に向かって突出形成されている。各ほぞ部103a,103bが、それぞれ耐震軸受87a,87bに回転自在に支持されている。また、軸方向略中央の軸径が最も大きい大径部103cにてん輪104が外嵌固定されており、てん真103と相対回転不能に一体化されている。大径部103cには、てん輪104の第1内キャリッジ軸受部81側に外フランジ部103c1が形成されている。この外フランジ部103c1によって、てん輪104の軸方向の位置が決定する。
【0077】
さらに、外フランジ部103c1のてん輪104とは反対側には、筒状の振り座106が外嵌固定されている。この振り座106の大径部103c側端に、径方向外側に向かって突出された環状の鍔部106aが一体成形されている。この鍔部106aに、振り石107(
図3参照)が設けられている。振り石107は、脱進機構102を構成する後述のアンクル112を揺動させるためのものである。
【0078】
ひげぜんまい105は、例えば一平面内で渦巻状に巻かれた平ひげであって、ひげ玉108を介し、その内端部がてん真103の大径部103cよりも第2内キャリッジ軸受部82側に固定されている。一方、ひげぜんまい105の外端部には、ひげ持109が取り付けられている。ひげ持109は、第2内キャリッジ軸受部82に設けられているひげ持受110に固定されている。そして、ひげぜんまい105は、脱進機構102から振り座106に伝えられた動力を蓄え、この動力をてん真103およびてん輪104に伝える役割を果たしている。
【0079】
(脱進機構)
図10は、脱進機構102の平面図である。
図3、
図10に示すように、脱進機構102は、がんぎ車111と、このがんぎ車111を脱進させて規則正しく回転させるアンクル112と、を備えている。
がんぎ車111は、軸体113と、軸体113に外嵌固定されているがんぎ歯車部114と、を備えている。
【0080】
軸体113の両端には、それぞれ段差により縮径された第1ほぞ部113aと第2ほぞ部113bとが一体成形されている。軸体113は、支持バー95の軸体挿入部131に挿入され、脱進機構押え134の穴石143に第1ほぞ部113aが回転自在に支持される一方、軸受部133の穴石137に第2ほぞ部113bが回転自在に支持される。
【0081】
また、軸体113における軸受部133の軸受座136側には、がんぎかな部115が一体成形されている。ここで、脱進機構軸受ユニット130が設けられている支持バー95の内径は、固定車31の歯部31dの外径とほぼ同一に設定されているので、この歯部31dにがんぎかな部115が噛合されるようになっている。
【0082】
図10に詳示するように、がんぎ歯車部114は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成された部材あって、電鋳加工や、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセス、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)、MIM(Metal Injection Molding)等により形成されている。
がんぎ歯車部114は、軸体113に圧入される略円環状のハブ部116を有している。このハブ部116に形成されている貫通孔116aに、軸体113が圧入される。そして、支持バー95と脱進機構押え134との間の隙間S2に、ハブ部116が介在した状態になる。
【0083】
ハブ部116の径方向外側には、このハブ部116を取り囲むようにリング状に形成されたリム部117が設けられている。このリム部117とハブ部116は、複数(この実施形態では4つ)のスポーク部118によって連結されている。スポーク部118は、径方向に沿って延出され、周方向に等間隔で配置されている。
また、リム部117の外周縁には、特殊な鉤型状に形成された複数(この実施形態では20個)の歯部119が径方向外側に向けて突出形成されている。これら歯部119の先端に、後述のアンクル112のつめ石125a,125bが係合・解除される。
【0084】
図8〜
図10に示すように、アンクル112は、アンクル真121と、アンクル真121に外嵌固定されるアンクル体122およびアンクルさお126と、を備えたものである。
アンクル真121は、支持バー95に設けられている穴石132bと、脱進機押え134に設けられている穴石144とにより回転自在に支持されている軸体である。
【0085】
アンクル体122は、例えば電鋳加工により形成された2つのアンクルビーム123a,123bが接続されて成るものであって、2つのアンクルビーム123a,123bの接続部123cに、アンクル真121を挿通可能な挿通孔122aが形成されている。そして、2つのアンクルビーム123a,123bは、接続部123cからそれぞれ反対側に向かって延出した状態になっている。
なお、アンクル体122を形成する電鋳金属としては、例えば、硬度が高いクロム、ニッケル、鉄、およびこれらを含む合金で構成することができる。
【0086】
2つのアンクルビーム123a,123bの先端には、それぞれがんぎ車111側が開口するようにスリット124a,124bが形成されている。これらスリット124a,124bに、それぞれつめ石125a,125bが接着剤等により接着固定されている。つめ石125は、略四角柱状に形成されたルビーであって、各アンクルビーム123a,123bの先端からがんぎ歯車部114の歯部119に向かって突出した状態になっている。
【0087】
一方、アンクルさお126も例えば電鋳加工により形成されており、その基端にアンクル真121を挿通可能な挿通孔126aが形成されている。そして、アンクル真121に、アンクル体122の脱進機構押え134側から挿入されて固定されるようになっている。アンクルさお126は、アンクル真121からてん真103側に向かって延出するように形成されている。
アンクルさお126の先端には、一対のクワガタ127と、一対のクワガタ127の間に配置された剣先128とが設けられている。そして、一対のクワガタ127の内側に、てんぷ101の振り石107が係脱されるアンクルハコ129が形成される。
【0088】
(定力装置付トゥールビヨンの動作)
次に、定力装置付トゥールビヨン30の動作について説明する。
まず、
図8〜
図10に基づいて、内キャリッジ34に搭載されているてんぷ101および脱進機構102の動作について説明する。てんぷ101は、振り石107を介してがんぎ車111の回転力を受け、この回転力とひげぜんまい105のばね力とにより自由振動する。てんぷ101が自由振動することにより、振り石107と係脱可能になっているアンクルハコ129を形成するアンクルさお126が、アンクル真121を中心にして左右に揺動する。
【0089】
そして、アンクル真121に固定されているアンクル体122も、アンクルさお126と一体となって揺動する。アンクル体122が揺動することにより、がんぎ歯車部114の歯部119に、2つのつめ石125a,125bが交互に繰り返し接触する。これにより、がんぎ車111が常に一定速度で回転する。
【0090】
続いて、
図11に基づいて、外キャリッジ33と内キャリッジ34の動作について説明する。
図11(a)〜
図11(d)は、外キャリッジ33に設けられているストップ車70と、内キャリッジ34に設けられているストッパ96およびがんぎ車111の動作説明図である。
【0091】
まず、外キャリッジ33が受ける回転力と、この回転力を受けたストップ車70の動作について説明する。
外キャリッジ33は、外歯歯車部41が五番車28に噛合されているので、香箱車22の回転力が表輪列を介して外キャリッジ33に伝達される。また、ストップ車70は、ストップかな部71cが固定車31の歯部31dに噛合されている。このため、外キャリッジ33が回転すると、ストップ車70は、ストップかな部71cの軸心回りに自転しつつ(
図11(a)における時計回り方向、矢印Y2参照)、固定車31の周囲を公転する(
図11(a)における時計回り方向、矢印Y3参照)。
【0092】
次に、内キャリッジ34が受ける回転力と、この回転力を受けたがんぎ車111の動作について説明する。
内キャリッジ34は、外キャリッジ33に対して回転自在に支持されていると共に、定力ばね68を介して外キャリッジ33に連結されている。このため、外キャリッジ33に対し、内キャリッジ34が定力ばね68の付勢力を受けて回転する。また、がんぎ車111は、がんぎかな部115が固定車31の歯部31dに噛合されている。このため、内キャリッジ34が回転すると、がんぎ車111は、がんぎ車111の軸心回りに自転しつつ(
図11(a)における時計回り方向、矢印Y4参照)、固定車31の周囲を公転する(
図11(a)における時計回り方向、矢印Y5参照)。
【0093】
ここで、がんぎ車111は、脱進機構102を構成するものであり、アンクル112やてんぷ101によって常に一定速度で回転するようになっている。すなわち、がんぎ車111が一定速度で回転することにより、このがんぎ車111を回転自在に支持している内キャリッジ34が一定速度で回転する。具体的には、がんぎ車111は、内キャリッジ34が1分間に1回転するように一定速度で回転する。換言すれば、内キャリッジ34は、1秒で6度回転する。なお、内キャリッジ34が1分間に1回転することにより、二番車25が1時間に1回転する。
【0094】
ここで、ストップ車70の鉤部76とストッパ96のつめ部98は、係合・解除を繰り返す。
図11(a)に示すように、ストップ車70の鉤部76とストッパ96のつめ部98とが係合した初期状態(以下、この初期状態を0s地点とする)では、鉤部76のうち、外キャリッジ33および内キャリッジ34の回転軸を中心にして6度分に相当する範囲と、つめ部98とが係合している。より具体的には、鉤部76の側辺76b(
図6参照)につめ部98の先端が当接した状態で、鉤部76とつめ部98とが係合されている。
なお、6度分とは、内キャリッジ34が1秒間で回転する角度分ということである。
【0095】
このような0s地点では、ストップ車70の回転がストッパ96によって規制されるので、外キャリッジ33は停止した状態になっている。そして、定力ばね68の付勢力によって、内キャリッジ34のみが回転する。内キャリッジ34が回転することにより、がんぎ車111が回転し続ける。
【0096】
続いて、
図11(b)に示すように、0s地点から0.5秒経過すると、内キャリッジ34が3度回転することになる。そして、内キャリッジ34に固定されているストッパ96も内キャリッジ34と一体となって移動する(
図11(b)における時計回り方向、矢印Y6参照)。このため、鉤部76の前側の側辺76b上を、ストッパ96のつめ部98が解除方向に向かってスライド移動する。そして、鉤部76のうち、外キャリッジ33および内キャリッジ34の回転軸を中心にして3度分に相当する範囲と、つめ部98とが係合した状態になる。
【0097】
続いて、
図11(c)に示すように、0s地点から1秒経過直前になると、つまり、約0.99秒経過すると、鉤部76の前側の側辺76b上を、つめ部98がさらにスライド移動し、鉤部76とつめ部98との係合状態が解除される直前の状態になる。そして、次の瞬間、つまり、1秒経過すると、鉤部76とつめ部98との係合状態が解除される。
【0098】
すると、
図11(d)に示すように、外キャリッジ33が回転し、これに伴ってストップ車70がストップかな部71cの軸心回りに自転しつつ、固定車31の周囲を公転する。換言すれば、ストップ車70がストッパ96に向かって移動しながら自転する。そして、ストップ車70は、0s地点でつめ部98と係合していた鉤部76(76A)の次の鉤部76(76B)がつめ部98と係合し、再び停止する。
【0099】
なお、鉤部76とつめ部98との係合状態が解除されてストップ車70が回転し、再びストップ車70が停止するまでに外キャリッジ33が回転する角度は、6度である。
ここで、外キャリッジ33が回転することにより、この外キャリッジ33に固定されているひげ持ち67も外キャリッジ33と一体となって移動する(
図11(d)における時計回り方向、矢印Y7参照)。ひげ持ち67が移動することにより、定力ばね68が巻き上げられる。具体的には、外キャリッジ33が6度回転した分だけ定力ばね68が巻き上げられる。
そして、定力ばね68が巻き上げられた状態で外キャリッジ33(ストップ車70)が停止し、定力ばね68の付勢力によって内キャリッジ34が回転する。これを繰り返すことにより、内キャリッジ34およびがんぎ車111が一定速度で回転し続ける。
【0100】
このように、上述の第1実施形態では、固定車31に対して回転自在に支持され、かつ相対回転可能な外キャリッジ33および内キャリッジ34を設け、外キャリッジ33にストップ車70を設ける一方、内キャリッジ34に、ストップ車70の回転を阻止または解放するためのストッパ96を設けた。そして、ストップ車70は、外キャリッジ33の回転に伴って、ストップかな部71cの軸心回りに自転しつつ、固定車31の周囲を公転するように構成されている。一方、ストッパ96は、内キャリッジ34と一体となって移動するように構成されている。つまり、ストップ車70は固定車31の回りを遊星運動(自転しながら公転)するように構成されている。
【0101】
したがって、上述の第1実施形態によれば、ストッパ96を内キャリッジ34と一体となって回転させ、さらに、ストップ車70を外キャリッジ33と一体となって回転させながら、ストップ車70の回転を阻止または解放するようにできる。このため、ストップ車70の回転を制御するために、従来のように揺動させるような部材が不必要になり、この分、動力損失を低減できる。換言すれば、ストップ車70と内キャリッジ34とが接近するので、内キャリッジ34がストップ車70から受ける損失を低減できる。また、ストッパ96の動きが、ストップ車70と同様の回転運動になり、動力損失を低減でき、ストップ車70と内キャリッジ34との伝達経路が簡素化できる。よって、内キャリッジの回転トルクをより安定して確保することができる。これにより、てんぷの振幅が安定し、より高い精度を確保することができる。
【0102】
また、定力装置付トゥールビヨン30は、ストップ車70を自転させつつ、固定車31の周囲を公転させるために、ストップ車70にストップかな部71cを設け、このストップかな部71cを、固定車31の歯部31dに噛合させるように構成されている。このため、簡素な構造で、ストップ車70とストッパ96とを係合させたり解除させたりすることができる。よって、定力装置付トゥールビヨン30の軽量・小型化、低コスト化を図ることが可能になる。また、簡素な構造でストップ車70の回転進度を調整することができるようになり、外キャリッジ33とストップ車70周囲の空間を有効に利用することができる。そして、定力装置付トゥールビヨン30の効率的なレイアウトが可能となる。
【0103】
さらに、ストップ歯車72の鉤部76における前側の側辺76bを円弧状に形成し、その円弧の中心を、外キャリッジ33の回転中心と同軸上に設定している。つまり、前側の側辺76bの形状は、この側辺76b上をスライド移動するストッパ96のつめ部98の移動軌跡と同一になっている。このため、側辺76b上をつめ部98がスライド移動する際、摩擦損失が抑制され、ストッパ96に余計な負荷がかからない。
【0104】
すなわち、例えば、鉤部76が上述の第1実施形態よりも、さらに外キャリッジ33の回転方向Y1(
図6参照)の前方に向かって突出していると、つめ部98を解除方向に向かってスライド移動させる際に、ストップ歯車72を逆転方向に押し戻す力が必要になってしまう。
したがって、鉤部76の前側の側辺76bを円弧状に形成し、その円弧の中心を外キャリッジ33の回転中心と同軸上に設定することにより、ストップ歯車72に余計な負荷がかからず、定力装置付トゥールビヨン30の動作効率を向上させることができる。
【0105】
なお、つめ部98における鉤部76の側辺76bと接触する面を、側辺76bと同様に円弧状に形成してもよい。このように構成することで、鉤部76とつめ部98とが面当りし、鉤部76およびつめ部98に、局所的に高い圧力がかかるのを防止できる。このため、ストップ歯車72やつめ部98を延命化できる。
【0106】
また、上述の第1実施形態によれば、内キャリッジ34にてんぷ101が設けられているので、内キャリッジ34と共に、てんぷ101を回転させることができる。このため、例えば、使用者が機械式時計1の向きを変えることによる重力の影響、つまり、てんぷ101の向きによる重力の影響を低減できる。よって、重力の方向によるてんぷ101の振動周期が変化してしまうことを抑制できる。
また、外キャリッジ33を回転自在に支持する第1外回転体37のほぞ部37bおよび第2外回転体39のほぞ部39bと、内キャリッジ34を回転自在に支持する第1内回転体83のほぞ部83cおよび第2内回転体85のほぞ部85bとが全て同軸上に配置されている。このため、ストップ車70と内キャリッジ34との伝達距離が効果的に低減され、さらに動力損失を低減できる。
【0107】
ところで、従来の定力装置では、がんぎ車と引張りリングとの間の位相のずれ(本実施形態の外キャリッジ33と内キャリッジ34との位相のずれに相当)が大きくなると、仮に香箱車を再巻き上げした場合であっても、がんぎ車と引張りリングとの間に設けられた予備引張り螺旋形スプリング(本実施形態の定力ばねに相当)が所定の巻き上げ量(イニシャル巻き上げ量)に達する前に、ストップ車と第2アンカーのパレットとが係合してしまう。このため、従来の定力装置では、がんぎ車と引張りリングとの間の位相のずれが大きくなってしまうと、予備引張り螺旋形スプリングを所定量だけ巻き上げることが困難になってしまう。よって、従来の定力装置では、がんぎ車と引張りリングとの間の位相のずれが所定以上に大きくなるのを防止するための位相ずれ規制機構が必須構成となる。
【0108】
しかしながら、本実施形態によれば、内キャリッジ34にストッパ96が固定され、このストッパ96が内キャリッジ34の回転軸を中心にして回転移動するので、外キャリッジ33と内キャリッジ34との位相のずれが大きくなった場合であっても、定力ばね68が所定の巻き上げ量に達するまでにストップ歯車72とストッパ96とが係合してしまうことがない。このため、位相ずれ規制機構160を設けない場合であっても、常に定力ばね68の巻き上げ量を一定に保つことができる。
【0109】
(第1実施形態の第1変形例)
次に、
図12、
図13に基づいて、第1実施形態の第1変形例について説明する。
図12は、第1実施形態の第1変形例における内キャリッジ34の一部および外キャリッジ33に設けられているストップ車70を、固定車受29側からみた斜視図、
図13は、第1実施形態の第1変形例におけるストッパ196の斜視図である。なお、前述の第1実施形態と同一態様については、同一符号を付して説明を省略する(以下の第1実施形態の各変形例、第2実施形態、および第2実施形態の変形例についても同様)。
【0110】
図12、
図13に示すように、第1実施形態と、この第1実施形態の第1変形例との相違点は、第1実施形態のストッパ96と、第1実施形態の第1変形例のストッパ196の形状が異なる点にある。
より具体的には、ストッパ196は、ストップ車70の鉤部76と接触するつめ部98と、つめ部98を支持する支持部150とにより構成されている。支持部199は、つめ部98を保持する略直方体状のつめホルダ151と、つめホルダ151の一側に一体成形されたリング状の固定部152とにより構成されている。
【0111】
つめホルダ151には、ストップ車70側が開口するようにつめ収納凹部151aが形成されており、ここにつめ部98が収納されている。
そして、ストッパ196は、固定部152が第1内キャリッジ軸受部81と第1内回転体83とにより挟持されて固定される。より具体的には、ストッパ196は、第1内キャリッジ軸受部81と第1内回転体83との間に固定部152を配置されている。そして、ねじ84によって、第1内キャリッジ軸受部81に第1内回転体83を締め付けることにより固定される。
【0112】
ここで、固定部152の外径E1は、第1内キャリッジ軸受部81の外径とほぼ同一となるように設定されている。また、固定部152の内径E2は、内周縁がねじ84の配置位置よりも径方向外側に位置するように設定されている。これにより、固定部152とねじ84とが干渉しないようになっている。
さらに、固定部152には、スリット152aが形成されており、ばね性を有している。
また、第1内回転体83のベース部83aには、固定部152に対応する位置に、この固定部152を受け入れる段差部83dが形成されている。段差部83dの段差深さは、固定部152の肉厚よりも若干大きくなる程度に設定されている。
【0113】
このような構成もと、ねじ84により、第1内キャリッジ軸受部81に第1内回転体83を締結固定した状態では、第1内回転体83の段差部83d内に、固定部152が若干広がるように弾性変形した状態で収納される。そして、固定部152は、ばね力により生じる固定部152と第1内キャリッジ軸受部81および第1内回転体83との間の摩擦抵抗により保持される。この状態では、固定部152は、所定の負荷を掛けることにより、回転可能になっている。このため、つめホルダ151の周方向の位置を微調整し、つめホルダ151を所定の位置に合わせ、その位置でつめホルダ151を保持しておくことができる。
【0114】
このように構成することで、前述の第1実施形態と同様の効果に加え、ストップ車70のストップ歯車72とストッパ196のつめ部98とが係合される径方向の位置を変化させることなく、ストップ歯車72とストッパ196のつめ部98との係合状態が解除される瞬間の外キャリッジ33と内キャリッジ34との相対位置(位相)を調整することができる。
【0115】
(第1実施形態の第2変形例)
次に、
図14〜
図16に基づいて、第1実施形態の第2変形例について説明する。
図14は、第1実施形態の第2変形例における外キャリッジ33の一部、および内キャリッジ34の一部を、固定車受29側からみた斜視図である。
同図に示すように、第1実施形態と、この第1実施形態の第2変形例との相違点は、この第2変形例のみに、外キャリッジ33と内キャリッジ34の位相ずれを所定角度以内に抑える位相ずれ規制機構160が設けられている点にある。
【0116】
位相ずれ規制機構160は、外キャリッジ33の支持バー48に一体成形された規制リング161と、内キャリッジ34の支持バー95に設けられ、規制リング161に挿通される偏心ピン162と、を備えている。
規制リング161は、支持バー48上の軸受ユニット挿入部65と軸体挿入部51との間に配置されている。一方、内キャリッジ34の支持バー95には、規制リング161と軸方向で対向する位置に、円板状のピン固定部163一体形成されている。このピン固定部163に、偏心ピン162が規制リング161に向かって突出するように固定されている。
【0117】
図15は、偏心ピン162の斜視図、
図16は、位相ずれ規制機構160の平面図である。
図15に示すように、偏心ピン162は、ピン本体162aと、このピン本体162aの基端に一体成形された固定ピン162bとにより構成されている。そして、内キャリッジ34のピン固定部163に固定ピン162bを圧入することにより、内キャリッジ34に偏心ピン162を固定するようになっている。なお、ここでいう圧入は、いわゆる軽圧入であって、固定ピン162bの軸心回りに偏心ピン162を回転させることが可能な程度に圧入されている。
【0118】
ここで、ピン本体162aの軸心C2と固定ピン162bの軸心C3は、△dだけずれている。また、ピン本体162aの先端には、径方向に沿って凹部164が形成されており、例えば、マイナスドライバーを用いて偏心ピン162を回転させることができるようになっている。
【0119】
一方、
図16に示すように、規制リング161の内周面は、周方向両側が2方取りされた形になっている。2方取りの幅W1は、外キャリッジ33に対して内キャリッジ34が回転し、規制リング161の内周面に偏心ピン162が当接した際、外キャリッジ33に対する内キャリッジ34の回転角度が、所定角度に収まるように設定されている。
なお、この所定角度とは、例えば、約6度であることが望ましい。6度は、ストップ車70のストップ歯車72とストッパ96のつめ部98との係合が解除される角度(時間にして1秒)であり、外キャリッジ33に対する内キャリッジ34の回転角度が6度であれば十分だからである。また、約6度としたのは、実際には、各部品に製造誤差が生じるので、この製造誤差を吸収するためのクリアランスを加えた角度になるからである。
【0120】
ここで、偏心ピン162を回転させることによってピン本体162aの軸心C2と固定ピン162bの軸心C3との周方向のずれ量を調整できる。このため、例え規制リング161に製造誤差が生じた場合であっても、偏心ピン162を回転させることによって外キャリッジ33に対する内キャリッジ34の回転規制位置、つまり、内キャリッジ34の回転を規制できる位置を高精度に調整することができる。
さらに、外キャリッジ33に対する内キャリッジ34の位置を調整すべく、ストッパ96の位置を調整した場合であっても、それに対応した位置で内キャリッジ34の回転を規制できるように偏心ピン162の位置を調整できる。
【0121】
したがって、上述の第1実施形態の第2変形例によれば、上述の第1実施形態と同様の効果に加え、例えば、機械式時計1を落下させてしまったりして外乱が加わった場合であっても、内キャリッジ34が逆転し、ストッパ96のつめ部98がストップ歯車72の側辺76cなどに激突して破損してしまったり、ストップ歯車72の鉤部76の頂点P1がストッパ96に激突して破損してしまったりすることを防止できる。また、分針や時針(何れも不図示)等の針合わせなどで輪列を停止させた際、内キャリッジ34が必要以上に先に進んでしまうことを防ぐことができる。よって、定力装置付トゥールビヨン30の動作を確実に安定させることができる。
【0122】
また、内キャリッジ34に対する外キャリッジ33の位相遅れを防止できるので、例えば、外キャリッジ33に秒針を設けた場合であっても、この秒針の大幅な表示ずれを防止できる。
より具体的に説明すると、香箱車22に収容された図示しない主ぜんまいが緩むと、外キャリッジ33に伝達される回転力が不足し、定力ばね68の力(定力ばね68が緩む方向の力)に負けて内キャリッジ34に対する外キャリッジ33の位相が大きくずれていく。つまり、内キャリッジ34に対して外キャリッジ33の位相が大きく遅れていく(以下、この位相の遅れを単に位相遅れという)。しかしながら、位相ずれ規制機構160を設けることにより、内キャリッジ34に対する外キャリッジ33の位相遅れが、例えば6度以内に規制できるので、秒針の時刻表示のずれを1秒以内に抑制することができる。
【0123】
また、香箱車22の主ぜんまいが緩んだ状態から再び香箱車22の主ぜんまいを巻き上げた際、急激に外キャリッジ33に回転力が付与され、勢いよく外キャリッジ33が回転することになる。そして、ストッパ96に向かってストップ歯車72が衝突することになる。
このとき、内キャリッジ34に対する外キャリッジ33の位相遅れが大きいと、この分、ストッパ96とストップ歯車72にかかる衝撃も大きくなる。しかしながら、位相ずれ規制機構160を設けることにより、内キャリッジ34に対する外キャリッジ33の位相遅れを小さくできる。このため、ストッパ96やストップ歯車72の衝撃による損傷を防止できる。
【0124】
このように、位相ずれ規制機構160を構成する規制リング161の2方取りされた2つの面は、偏心ピン162の移動方向によって大きく役割が異なっている。
すなわち、規制リング161の2方取りされた2つの面のうち、内キャリッジ34に対して外キャリッジ33の位相が遅れる方向への回転移動(外キャリッジ33における定力ばね68の巻解け方向への回転移動)を規制する面(
図16におけるX部参照)は、時刻表示のずれを抑制する役割を有している。また、香箱車22を巻き上げる際のストッパ96やストップ歯車72の衝撃による損傷を防止する役割を有している。
【0125】
一方、規制リング161の2方取りされた2つの面のうち、内キャリッジ34に対して外キャリッジ33の位相が早まる方向への回転移動(外キャリッジ33における定力ばね68の巻き上げ方向への回転移動)を規制する面(
図16におけるY部参照)は、落下衝撃等によって内キャリッジ34が逆回転した場合に、ストップ車72にストッパ96が衝突し、これらストップ車72およびストッパ96が損傷してしまうことを防止する役割を有している。
【0126】
なお、上述の第1実施形態の第2変形例では、規制リング161は、支持バー48上の軸受ユニット挿入部65と軸体挿入部51との間に配置されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、規制リング161の位置は、支持バー48上の任意の位置に設定することが可能である。また、偏心ピン162の位置も、規制リング161の位置に応じて任意に設定することが可能である。
【0127】
さらに、外キャリッジ33の外キャリッジ軸受部35,36、および外回転体37,39に、偏心ピン162を設け、内キャリッジ34の内キャリッジ軸受部81,82、および内回転体83,85に、偏心ピン162を挿入可能な長円形状の孔(長孔)を形成し、この孔を規制リング161として機能させてもよい。また、内キャリッジ軸受部81,82、および内回転体83,85に、偏心ピン162を設け、外キャリッジ軸受部35,36、および外回転体37,39に、偏心ピン162を挿入可能な長円形状の孔を形成してもよい。
【0128】
また、上述の第1実施形態の第2変形例では、位相ずれ規制機構160を、規制リング161と、規制リング161に挿通される偏心ピン162とにより構成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、外キャリッジ33と内キャリッジ34との位相のずれを規制できる構成であればよい。例えば、規制リング161の2方取りされた2つの面に対応する位置に、それぞれ偏心ピン162とは別にピンを設け、このピンにより偏心ピン162の移動を規制するように構成してもよい。
【0129】
また、上述の第1実施形態の第2変形例では、規制リング161は、内キャリッジ34に対する外キャリッジ33の位相ずれを、例えば6度以内に規制できるように構成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、規制リング161の役割に応じて、その形状を任意に変更することが可能である。
【0130】
すなわち、例えば、規制リング161によって、内キャリッジ34に対して外キャリッジ33の位相が遅れる方向への回転移動のみを精度よく規制した場合、規制リング161の2方取りされた2つの面のうち、その位相遅れの回転移動を規制する面(
図16におけるA部参照)の位置のみを精度よく形成すればよい。
一方、規制リング161によって、内キャリッジ34に対して外キャリッジ33の位相が早まる方向への回転移動のみを精度よく規制した場合、規制リング161の2方取りされた2つの面のうち、その位相が早まる方向への回転移動を規制する面(
図16におけるB部参照)の位置のみを精度よく形成すればよい。
【0131】
(第1実施形態の第3変形例)
次に、
図17に基づいて、第1実施形態の第3変形例について説明する。
図17は、第1実施形態の第3変形例におけるストップ歯車372(ストップ車370)とストッパ96との係合状態を示す一部拡大平面図である。
同図に示すように、第1実施形態と、この第1実施形態の第3変形例との相違点は、ストップ歯車372の鉤部376とストッパ96のつめ部98との係合状態が異なる点にある。
【0132】
より具体的には、第1実施形態では、鉤部76の側辺76b(
図6参照)につめ部98の先端が当接した状態で、鉤部76とつめ部98とが係合している。一方、第1実施形態の第3変形例では、つめ部98の側辺98aに鉤部376の頂点P1が当接した状態で、鉤部376とつめ部98とが係合している。
鉤部376は、側辺376bよりも先に頂点P1がつめ部98に当接するように、頂点P1が第1実施形態の鉤部76と比較して徐々に前傾するように形成されている。
【0133】
ここで、つめ部98は、通常ルビーにより形成される。このため、前述の第1実施形態のように、鉤部76の側辺76b(
図6参照)につめ部98の先端を当接させるよりも、第1実施形態の第3変形例のように、つめ部98の側辺98aに鉤部376の頂点P1を当接させるように構成することで、ストップ歯車372が損傷しにくくなる。
【0134】
より具体的には、例えば、爪部98を形成するルビーのビッカース硬度(HV)は約2000程度である。これに対し、ストップ歯車372は、通常ニッケル等の金属により形成される。ニッケル等の金属のビッカース硬度は、約500〜700程度である。ここで、部品は、硬いものほど衝撃に対して脆いため、ルビーの尖った先端部が衝突するよりもニッケルの尖った先端部が衝突する方が損傷しづらい。このため、ストップ歯車372が損傷しにくくなる。よって、ストップ歯車372の延命化を図ることが可能になる。
【0135】
なお、上述の第3変形例では、鉤部376の形状を変更することにより、つめ部98の側辺98aに鉤部376の頂点P1を当接させる場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、つめ部98の取り付け角度を変更することにより、つめ部98の側辺98aに鉤部376の頂点P1を当接させるように構成してもよい。但し、このように構成する場合、設計上つめ部98の角度が大きく変わると力の向き(ベクトル)がストップ歯車372の回転中心を通らなくなってしまう。このような場合、定力の性能が損なわれてしまうので、設計上の注意が必要である。
【0136】
(第1実施形態の第4変形例)
次に、
図18に基づいて、第1実施形態の第3変形例について説明する。
図18は、第1実施形態の第4変形例におけるストップ歯車472(ストップ車470)とストッパ496のつめ部498との係合状態を示す平面図である。
同図に示すように、第1実施形態の第3変形例と、この第1実施形態の第4変形例との相違点は、つめ部498の形状が異なる点にある。
【0137】
より具体的には、爪部498における外周側の側辺498aは、円弧状に形成されている。この円弧の中心は、固定車31の軸心C1、つまり、外キャリッジ33の回転中心および内キャリッジ34の回転中心と同軸上に位置している。このため、ストップ歯車472がストッパ496に加える力のベクトルが、常に外キャリッジ33の回転中心および内キャリッジ34の回転中心を通ることになる。よって、ストップ車470とストッパ496とが係合している際の荷重が、外キャリッジ33や内キャリッジ34に与える影響を、極力小さくすることができる。
【0138】
なお、この影響についてより詳しく説明すると、ストップ車470がストッパ496に加える力のベクトルが回転中心を通らない場合、外キャリッジ33は内キャリッジ34に正転または逆転のトルクを与えてしまう。このため、内キャリッジ34の回転トルクは定力ばね68により生じるトルクに、外キャリッジ33からのトルクを加えるか、または引いたものになる。外キャリッジ33のトルクは香箱車22のトルクと比例して変動するため、結果として内キャリッジ34の回転トルクが一定ではなくなってしまう。
【0139】
ところで、上述の第4変形例においては、実際に内キャリッジ34が回転し、ストップ歯車472の鉤部476からつめ部498が解除する方向(
図18に時計回り方向)に向かって移動する際、鉤部476とつめ部498との間に摩擦力が作用する。この摩擦力により、ストップ歯車472がストッパ496に加える力のベクトルが軸心C1からずれてしまう。このため、鉤部476(76,376)の形状を以下のように形成することが望ましい。
【0140】
(第1実施形態の第5変形例)
図19は、第1実施形態の第5変形例におけるストップ歯車572の平面図であって、前述の第1実施形態の
図6に対応している。
同図に示すように、ストップ歯車572の鉤部576における側辺576bは、つめ部98が当接している箇所の法線方向のベクトルB1と、爪部98にかかる摩擦力のベクトルB2との合力ベクトルB3が固定車31の軸心C1(外キャリッジ33および内キャリッジ34の回転中心)を通るように形成されている。
このように構成することで、ストップ歯車572と爪部98とが係合している際の荷重が、外キャリッジ33や内キャリッジ34に与える影響を、より確実に小さくすることができる。
【0141】
(第2実施形態)
次に、
図20、
図21に基づいて、第2実施形態について説明する。
図20は、第2実施形態における定力装置230の平面図であって、四番車227を二点鎖線で示している。
図21は、
図20のB−B線に沿う断面図である。
図20、
図21に示すように、第1実施形態と第2実施形態との相違点は、第1実施形態の定力装置付トゥールビヨン30は、いわゆるトゥールビヨン機構を有しているのに対し、第2実施形態の定力装置230は、トゥールビヨン機構を有していない点にある。また、定力装置230は、四番車227が一部(出力部)の構成を兼ねており、第2実施形態には、第1実施形態と異なり五番車28が設けられていない。
【0142】
より詳しくは、定力装置230は、地板11(
図20、
図21においては不図示)に固定されている固定車31と、この固定車31の穴石31bと不図示の輪列受に設けられている穴石とにより回転自在に支持された軸体231と、軸体231に取り付けられたキャリッジ232および四番車227と、キャリッジ232に設けられたストップ車70と、四番車227と噛合される脱進機構102と、を備えている。
【0143】
図21に詳示するように、軸体231は、軸方向略中央よりもやや固定車31側が、軸径の最も大きい大径部231aとされている。そして、この大径部231aから軸方向両端に向かうに従って段差により漸次縮径するように形成されている。
より具体的には、軸体231は、大径部231aの輪列受側(
図21における上側)に、大径部231aよりも縮径形成された第1軸部231bが一体成形されている。さらに、第1軸部231bの先端に、この第1軸部231bよりも縮径形成された第2軸部231cが一体成形されている。そして、第2軸部231cの先端、および大径部231aの固定車31側端に、それぞれほぞ部231d,231eが軸方向外側に向かって突出形成されている。
【0144】
このように構成された軸体231は、固定車31の穴石31bに一方のほぞ部231dが挿通されると共に、不図示の輪列受の穴石に他方のほぞ部231eが挿通されている。これにより、軸体231が回転自在に支持される。
また、軸体231の第1軸部231bに、キャリッジ232が外嵌固定されていると共に、軸体231の第2軸部231cに四番車227が回転自在に支持されている。すなわち、キャリッジ232は、軸体231と一体となって回転する一方、四番車227は、キャリッジ232と相対回転可能に支持された状態になっている。
【0145】
キャリッジ232は、軸体231に圧入または挿入される略円環状のハブ部233を有している。このハブ部233に形成されている貫通孔233aに、軸体231が圧入または挿入される。なお、貫通孔233aに軸体231を挿入する場合、接着剤等により軸体231にキャリッジ232を接着固定する。
また、ハブ部233の径方向外側には、このハブ部233を取り囲むようにリング状に形成された外歯歯車部234が設けられている。この外歯歯車部234は、不図示の三番車に噛合される。
【0146】
また、ハブ部233と外歯歯車部234は、互いに3つのスポーク部235により連結されている。3つのスポーク部235は、径方向に沿って延び、周方向に等間隔に配置されている。
さらに、外歯歯車部234には、3つのスポーク部235のうち、2つのスポーク部235の間に、ストップ車70を回転自在に支持するためのストップ車軸受ユニット250が設けられている。
【0147】
ストップ車軸受ユニット250は、外歯歯車部234に形成された軸体挿通孔251と、外歯歯車部234の地板11側(
図21における下側)に取り付けられている第1ストップ車軸受部52と、外歯歯車部234の輪列受側(
図21における上側)に取り付けられている第2ストップ車軸受部53と、により構成されている。
軸体挿通孔251は、ストップ車70を構成するストップ車軸体71を挿通可能に形成されている。
【0148】
なお、第1ストップ車軸受部52、第2ストップ車軸受部53、およびストップ車70の構成は、前述の第1実施形態と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。すなわち、ストップ車70の鉤部76は、前側の側辺76bが円弧状に形成され、その円弧の中心が軸体231と同軸上に設定されている点も、前述の第1実施形態と同様である。また、ストップ車70を構成するストップかな部71cが固定車31の歯部31dに噛合されている点も、前述の第1実施形態と同様である。
【0149】
さらに、外歯歯車部234の内周側には、ストップ車軸受ユニット250が設けられている箇所とは軸体231を挟んでほぼ反対側に、ひげ持受266が一体形成されている。このひげ持受266に、ひげ持67が圧入されている。ひげ持67には、定力ばね68の外端部が固定されている。一方、定力ばね68の内端部は、ひげ玉69を介して四番車227に固定されている。
【0150】
四番車227の径方向略中央には、キャリッジ232側に向かって突出する筒状の軸受ハウジング236が一体成形されている。この軸受ハウジング236に、ひげ玉69が外嵌固定されている。
また、軸受ハウジング236には、筒状の軸受237が圧入されており、この軸受237を介して、軸体231の第2軸部231cに四番車227が回転自在に支持される。なお、軸受237は、例えばルビーにより形成されている。
【0151】
さらに、第2軸部231cの先端側(他方のほぞ部231e側)には、C型止め輪238が取り付けられている。このC型止め輪238と、第2軸部231cと第1軸部231bとの間の段差部239により、四番車227の軸方向への移動が規制されている。
また、四番車227には、ストップ車70の鉤部76に対して係合・解除されるストッパ96が設けられている。なお、ストッパ96の構成も前述の第1実施形態と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0152】
このように構成された四番車227には、がんぎ車240のがんぎかな部241が噛合されている。がんぎ車240は、軸体242と、軸体242に外嵌固定されているがんぎ歯車部114と、を備えている。
軸体242の両端には、それぞれ段差により縮径された第1ほぞ部242aと第2ほぞ部242bとが一体成形されている。第1ほぞ部242aは、不図示の輪列受に回転自在に支持されている。一方、第2ほぞ部242bは、地板11に回転自在に支持されている。また、軸体242の軸方向略中央から第1ほぞ部242aに至る間にがんぎかな部241が一体形成されている。
【0153】
このように構成されたがんぎ車240は、脱進機構を構成するものである。この第2実施形態の脱進機構も前述の第1実施形態の脱進機構102と基本的構成が同一であるので、説明を省略する。また、第2実施形態も第1実施形態と同様にてんぷを備えているが、このてんぷも第1実施形態と同様に構成されているので、第2実施形態では、てんぷの図示と説明を省略する。
【0154】
(定力装置の動作)
次に、定力装置230の動作について説明する。
まず、キャリッジ232が受ける回転力と、この回転力を受けたストップ車70の動作について説明する。
キャリッジ232は、外歯歯車部234が不図示の三番車に噛合されているので、不図示の香箱車の回転力が表輪列を介して伝達される。また、ストップ車70は、ストップかな部71cが固定車31の歯部31dに噛合されている。このため、キャリッジ232が回転すると、ストップ車70は、ストップかな部71cの軸心回りに自転しつつ、固定車31の周囲を公転する。
【0155】
一方、四番車227は、キャリッジ232に対して回転自在に支持されていると共に、定力ばね68を介してキャリッジ232に連結されている。このため、キャリッジ232に対し、四番車227が定力ばね68の付勢力を受けて回転する。
また、四番車227には、がんぎ車240のがんぎかな部241が噛合されているので、四番車227は、常に一定速度で回転するようになっている。具体的には、四番車227は、1分間で1回転するように制御されている。
【0156】
ここで、ストップ車70の鉤部76とストッパ96のつめ部98は、係合・解除を繰り返す。ストップ車70の鉤部76とストッパ96のつめ部98とが係合されており、ストップ車70の回転が停止している際は、キャリッジ232の回転も停止している。一方、四番車227は、定力ばね68の付勢力によって、回転し続ける。
【0157】
そして、四番車227の回転に伴ってストッパ96が移動し、このストッパ96のつめ部98とストップ車70の鉤部76との係合が解除されると、キャリッジ232が回転する。このとき、ストップ車70は、ストップかな部71cの軸心回りに自転しつつ、固定車31の周囲を公転する。換言すれば、ストップ車70がストッパ96に向かって移動しながら自転する。そして、再びストップ車70の鉤部76とストッパ96のつめ部98とが係合され、ストップ車70の回転が停止する。
【0158】
なお、ストップ車70の鉤部76とストッパ96のつめ部98との最大噛合い量は、前述の第1実施形態と同様に、鉤部76のうち、軸体231を中心にして6度分に相当する範囲の量である。また、鉤部76とつめ部98との係合状態が解除されてストップ車70が回転し、再びストップ車70が停止するまでにキャリッジ232が回転する角度も、前述の第1実施形態と同様に6度である。
【0159】
ここで、キャリッジ232が回転することにより、このキャリッジ232に固定されているひげ持ち67もキャリッジ232と一体となって移動する。ひげ持ち67が移動することにより、定力ばね68が巻き上げられる。具体的には、キャリッジ232が6度回転した分だけ定力ばね68が巻き上げられる。
そして、定力ばね68が巻き上げられた状態でキャリッジ232(ストップ車70)が停止し、定力ばね68の付勢力によって四番車227が回転する。これを繰り返すことにより、四番車227が一定速度で回転し続ける。
【0160】
したがって、上述の第2実施形態によれば、ストッパ96を四番車227と一体となって回転させ、さらに、ストップ車70をキャリッジ232と一体となって回転させながら、ストップ車70の回転を阻止または解放するようにできる。このため、ストップ車70の回転を制御するために、従来のように揺動させるような部材が不必要になり、この分、動力損失を低減できる。換言すれば、ストップ車70と四番車227とが接近するので、四番車227がストップ車70から受ける損失を低減できる。
【0161】
また、ストップ車70を自転させつつ、固定車31の周囲を公転させるために、ストップ車70にストップかな部71cを設け、このストップかな部71cを、固定車31の歯部31dに噛合させるように構成している。このため、簡素な構造で、ストップ車70とストッパ96とを係合させたり解除させたりすることができる。よって、定力装置230の軽量・小型化、低コスト化を図ることが可能になる。
さらに、定力装置230の一部の構成を四番車227が兼ねているので、定力装置230の配置スペースを省スペース化できると共に、定力装置230の部品点数を削減できる。
【0162】
(第2実施形態の変形例)
次に、
図22に基づいて、第2実施形態の変形例について説明する。
図22は、第2実施形態の変形例における定力装置330の断面図である。
同図に示すように、第2実施形態の定力装置230と、第2実施形態の変形例における定力装置330との相違点は、第2実施形態の固定車31の形状と、第2実施形態の変形例における固定車331の形状とが異なる点にある。
【0163】
より具体的には、第2実施形態の変形例における固定車331は、リング状に形成されており、内周縁に歯部331dが形成されている。そして、固定車331の歯部331dのピッチ円径は、歯部331dとストップ車軸体71のストップかな部71cとが噛合可能な大きさに設定されている。
また、ストップ車70は、第1ストップ車軸受部52を有しておらず、ストップ車軸体71の各ほぞ部71a,71bは、第2ストップ車軸受部53の穴石62と、キャリッジ232に設けられた穴石362とにより回転自在に支持されている。
【0164】
このような構成のもと、固定車331は、前述の第2実施形態のように地板11に設けられておらず、第2ストップ車軸受部53とキャリッジ232との間に配置されている。
したがって、上述の第2実施形態の変形例によれば、キャリッジ232と地板11との間に、固定車331を配置するスペースを確保する必要がなくなるので、この分、定力装置330を薄型化できる。
【0165】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、ストップ車70の鉤部76の前側の側辺76bを円弧状に形成し、その円弧の中心を第1実施形態では外キャリッジ33の回転中心と、第2実施形態では、軸体231と同軸上に設定する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ストッパ96のつめ部98と係合・解除可能な形状に形成されていればよい。
【0166】
また、上述の第1実施形態では、内キャリッジ34の軸部83bに、定力ばね68の内端部が、ひげ玉69を介して固定されている場合について説明した。さらに、上述の第2実施形態では、四番車227の軸受ハウジング236に、定力ばね68の内端部が、ひげ玉69を介して外嵌固定されている場合について説明した。しかしながら、これらに限られるものではなく、内キャリッジ34の軸部83b、および四番車227の軸受ハウジング236に、それぞれひげ玉69を軽圧入させるように構成してもよい。
【0167】
このように構成することで、内キャリッジ34の軸部83b、および四番車227の軸受ハウジング236に対し、軸心回りにひげ玉69を回転させることにより、定力ばね68の所定の巻き上げ量(イニシャル巻き上げ量)を調整することができる。これにより、定力ばね68の出力トルクを調整でき、てんぷ(例えば、
図2、
図3におけるてんぷ101)の振り角を調整することが可能になる。
【0168】
また、上述の第1実施形態では、外キャリッジ33に定力ばね68の外端部が固定されていると共に、内キャリッジ34に定力ばね68の内端部が固定されている場合について説明した。さらに、上述の第2実施形態では、外歯歯車部234に定力ばね68の外端部が固定されていると共に、四番車227に定力ばね68の内端部が固定されている場合について説明した。しかしながら、これらに限られるものではなく、外キャリッジ33および外歯歯車部234に、それぞれ定力ばね68の内端部を固定すると共に、内キャリッジ34および四番車227に、それぞれ定力ばね68の外端部を固定してもよい。
【0169】
ここで、定力ばね68は、外端部よりも内端部の方が入力側(外キャリッジ33および四番車227)のステップ運動(上述の第1実施形態、および第2実施形態では、外キャリッジ33および四番車227が6度刻みで回転する運動)の影響を受けにくい。このため、上記のように構成することで、定力ばね68を安定動作させることが可能になる。
【0170】
また、上述の第2実施形態では、定力装置230の一部(出力部)の構成を四番車227が兼ねている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、がんぎ歯車部114、四番車227、三番車26、および二番車25の何れか1つを定力装置230の一部(出力部)として構成することが可能である。
【0171】
さらに、上述の第2実施形態の変形例において、リング状に形成された固定車331を採用した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、前述の第1実施形態、および第1実施形態の各変形例にもリング状に形成された固定車331を採用することができる。これにより、定力装置付トゥールビヨン30の薄型化を図ることが可能である。