(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6355149
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】尿検査装置および尿検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/493 20060101AFI20180702BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20180702BHJP
G01N 33/82 20060101ALI20180702BHJP
G01N 33/84 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
G01N33/493 B
G01N1/10 V
G01N33/82
G01N33/84
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-516868(P2018-516868)
(86)(22)【出願日】2017年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2017045614
【審査請求日】2018年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2016-245880(P2016-245880)
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515029156
【氏名又は名称】株式会社ユカシカド
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】美濃部 慎也
【審査官】
大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−196909(JP,A)
【文献】
特開平7−294519(JP,A)
【文献】
特表2003−505479(JP,A)
【文献】
特開2000−241424(JP,A)
【文献】
国際公開第98/029745(WO,A1)
【文献】
特開平6−213885(JP,A)
【文献】
特開平10−282095(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0157328(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
G01N 1/00 − 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿の安定化剤として、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を乾燥または凍結乾燥した剤を、採尿の収納容器内に収容したことを特徴とする尿検査装置。
【請求項2】
尿の安定化剤として、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液が、採尿の収納容器内壁に塗布されたことを特徴とする尿検査装置。
【請求項3】
尿の安定化剤として、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を充填した容器と、採尿の収納容器とを備えたことを特徴とする尿検査装置。
【請求項4】
尿の安定化剤として、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を含浸した媒体と、採尿の収納容器とを備えたことを特徴とする尿検査装置。
【請求項5】
上記安定化剤と尿との混合液におけるクエン酸の濃度は、0.005〜0.24mol/Lであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の尿検査装置。
【請求項6】
上記安定化剤と尿との混合液におけるクエン酸の濃度は、0.01〜0.1mol/Lであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の尿検査装置。
【請求項7】
採取した尿に、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後7日間の尿中ビタミン濃度、尿中ミネラル濃度、又は、尿中たんぱく質濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項8】
前記ビタミンは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸およびビオチンであり、
前記ミネラルは、ナトリウム、カルシウム、カリウム、リンおよびマグネシウムである、
ことを特徴とする請求項7に記載の尿検査方法。
【請求項9】
前記安定化剤を加えることにより、37℃の条件下で、少なくとも採尿後7日間の尿中ビタミン濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする請求項7又は8に記載の尿検査方法。
【請求項10】
採取した尿に、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後7日間の尿中グルコース濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項11】
採取した尿に、クエン酸、酒石酸およびアスコルビン酸の群から選択される何れかとシュウ酸の組み合わせの水溶液、或は、シュウ酸を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後3日間の尿中ビタミンC濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項12】
請求項1〜6の何れかの尿検査装置を用いて尿を採尿し、
少なくとも採尿後7日間の尿中ビタミン濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項13】
請求項1〜6の何れかの尿検査装置を用いて尿を採尿し、
少なくとも採尿後7日間の尿中ミネラル濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項14】
請求項1〜6の何れかの尿検査装置を用いて尿を採尿し、
少なくとも採尿後7日間の尿中たんぱく質濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項15】
請求項1〜6の何れかの尿検査装置を用いて尿を採尿し、
少なくとも採尿後3日間の尿中ビタミンC濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【請求項16】
請求項1〜6の何れかの尿検査装置を用いて尿を採尿し、
少なくとも採尿後7日間の尿中グルコース濃度を安定化させた尿を検査することを特徴とする尿検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット尿を用いた尿検査装置および尿検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、病院や検査センターにおいては、多くの尿検査が実施されているが、そのほとんどが24時間尿である。しかしながら、24時間尿を蓄尿するためには、時間やコストがかかり、煩雑であるという問題がある。
そこで、採取された複数回のスポット尿の尿中成分から1日の尿中に含まれる成分の総量である尿中成分1日排泄量を算出する測定方法が知られている(特許文献1を参照)。
上記特許文献1に開示された測定方法によれば、24時間尿を蓄尿することなく、手軽に採尿し、尿中成分を測定することが可能であるとされている。しかしながら、尿中成分を測定するためには、尿成分の安定化を図るために、尿を酸性にする必要があるところ、上記特許文献1に開示された測定方法を用いたとしてもかかる問題は解決されない。
【0003】
これまで、24時間尿を検体として使用する場合、尿成分の安定化を図るために、尿を酸性にするための添加剤として、一般的に塩酸が用いられてきた。しかしながら、塩酸は劇物に該当し、安全性や管理のし易さの点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−230618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況に鑑みて、本発明は、尿中ビタミンや尿中グルコースを数日間安定させることができ、検査の正確性と被験者の採尿検査の利便性を向上させる尿検査装置および尿検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記状況に鑑みて、本発明の尿検査装置は、尿の安定化剤として、
クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を乾燥または凍結乾燥した剤を、採尿の収納容器内に収容したことを特徴とする。
本発明の尿検査装置によれば、尿中ビタミンを数日間安定させることができ、被験者の採尿検査の利便性を向上させる。尿中ビタミンは、具体的には、B群のビタミンであり、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸およびビオチンの6種類である。B群のビタミンは、動物のエネルギーをつくるのに欠かせない栄養素であり、炭水化物、脂肪、タンパク質の代謝に働き、互いに協力関係をもちながら、様々な物質代謝に関わっていることが知られている。そのため、B群のビタミンの尿中濃度を検査することにより、被験者の体内の不足している栄養素を明らかにできる。
収容される安定化剤は、安定化剤として用いられる水溶液が乾燥されたもの、又は、凍結乾燥されたものを用い、取扱いの利便性を図る。
また、本発明の尿検査装置を用いた尿検査の検査項目としては、B群のビタミンに限られず、ビタミンC、ミネラルやタンパク質等についても検査することが可能である。安定化剤として、シュウ酸を含ませることにより、ビタミンCを安定させることが可能である。
【0007】
また、本発明の尿検査装置は、採尿の収納容器内に、尿の安定化剤として、
クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液が、採尿の収納容器内壁に塗布されたことを特徴とする。
同様に、尿中ビタミンを数日間安定させることができ、被験者の採尿検査の利便性を向上させ、特に、B群のビタミンの尿中濃度を検査することにより、被験者の体内の不足している栄養素を明らかにできる。
【0008】
本発明の尿検査装置は、尿の安定化剤として、
クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を充填した容器と、採尿の収納容器とを備えたことを特徴とする。
安定化剤を、採尿の収納容器とは別の容器に設けてキット化することで、検査の利便性・効率性を高めることができる。
【0009】
本発明の尿検査装置は、尿の安定化剤として、
クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を含浸した媒体と、採尿の収納容器とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の尿検査装置において、安定化剤と尿との混合液におけるクエン酸の濃度は、0.005〜0.24mol/Lであることが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.1mol/Lである。かかる範囲とされることで、安定化剤の効果を充分に発揮することができる。
また、安定化剤は、例えば1mL程度を用いる。
【0012】
次に、本発明の尿検査方法について説明する。
本発明の尿検査方法は、採取した尿に、
クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後7日間の尿中ビタミン濃度、ミネラル濃度、又は、たんぱく質濃度を安定化させた尿を検査するものである。尿中ビタミンを数日間安定させることにより、被験者の採尿検査の利便性を向上させると共に、特に、B群のビタミンの尿中濃度を安定させることにより、被験者の体内の不足している栄養素を正確に検査できる。
ここで、ビタミンは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸およびビオチンのB群ビタミンである。また、ミネラルは、ナトリウム、カルシウム、カリウム、リンおよびマグネシウムである。また、安定化剤として、シュウ酸を含ませることにより、ビタミンCを安定させることが可能である。
ここで、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合割合としては、3:7〜7:3の範囲内の割合にするのが好ましい。より好ましくは、4:6〜6:4の範囲内の割合にする。
【0013】
本発明の尿検査方法では、上記の安定化剤を加えることにより、37℃の条件下で、少なくとも採尿後7日間の尿中ビタミン濃度を安定化させることができる。
【0014】
本発明の尿検査方法は、採取した尿に、
クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合液を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後7日間の尿中グルコース濃度を安定化させた尿を検査するものである。通常、尿糖(グルコース:Glu)は、常温では陰性化すると言われているが、本発明の尿検査方法を用いることにより、尿中グルコース濃度を安定化させることができるのである。
ここで、クエン酸水溶液とシュウ酸水溶液の混合割合としては、3:7〜7:3の範囲内の割合にするのが好ましい。より好ましくは、4:6〜6:4の範囲内の割合にする。
【0015】
本発明の尿検査方法は、採取した尿に、シュウ酸、又は、クエン酸、酒石酸およびアスコルビン酸の群から選択される何れかとシュウ酸の組み合わせの水溶液を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後3日間の尿中ビタミンC濃度を安定化させた尿を検査するものである。
すなわち、前述したビタミンに含まれないビタミンCについても、シュウ酸や、シュウ酸とクエン酸、酒石酸およびアスコルビン酸の群から選択される何れかとの組み合わせの水溶液を用いることで、採尿後3日間濃度を安定化させることが可能である。これにより、尿検査を効率的に行うことができる。
【0016】
本発明の尿検査方法は、上述した本発明の尿検査装置を用いて尿を採尿し、少なくとも採尿後7日間の尿中ビタミン濃度を安定化させた尿を検査するものである。また、本発明の尿検査方法は、上述した本発明の尿検査装置を用いて尿を採尿し、少なくとも採尿後7日間の尿中ミネラル濃度を安定化させた尿を検査するものである。また、本発明の尿検査方法は、上述した本発明の尿検査装置を用いて尿を採尿し、少なくとも採尿後7日間の尿中たんぱく質濃度を安定化させた尿を検査するものである。また、本発明の尿検査方法は、上述した本発明の尿検査装置を用いて尿を採尿し、少なくとも採尿後3日間の尿中ビタミンC濃度を安定化させた尿を検査するものである。本発明の尿検査装置を用いて尿を採尿することにより、被験者の採尿検査の利便性を向上させると共に、特に、B群のビタミンの尿中濃度を安定にすることにより、被験者の体内の不足している栄養素を正確に検査できる。また、本発明の尿検査方法は、上述した本発明の尿検査装置を用いて尿を採尿し、少なくとも採尿後7日間の尿中グルコース濃度を安定化させた尿を検査するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の尿検査装置および尿検査方法によれば、尿中ビタミン、尿中ミネラル、尿中たんぱく質、又は、尿中グルコースを数日間安定させることができ、検査の正確性と被験者の採尿検査の利便性を向上させるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】尿中B群ビタミンの安定化を示すグラフ(実施例1)
【
図4】尿中B群ビタミンの安定化を示すグラフ(実施例2)
【
図8】尿中水溶性ビタミンの安定化を示すグラフ1(実施例4)
【
図9】尿中水溶性ビタミンの安定化を示すグラフ2(実施例4)
【
図10】尿中水溶性ビタミンの安定化を示すグラフ3(実施例4)
【
図11】尿中水溶性ビタミンの安定化を示すグラフ1(実施例5)
【
図12】尿中水溶性ビタミンの安定化を示すグラフ2(実施例5)
【
図13】尿中水溶性ビタミンの安定化を示すグラフ3(実施例5)
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0020】
本発明の尿検査方法を用いて行う検査は、例えば以下のような方式で行われる。
図1は、尿検査フロー図を示している。
図1に示すように、まず、採取した尿に安定化剤(クエン酸水溶液等)を加える(S01)。採尿後、7日間のビタミン濃度を安定化させる(S02)。7日以内に尿検査を実施する(S03)。
したがって、尿検査を実施する際には、尿中のビタミン濃度が、数日間安定に保存される必要がある。そこで、安定化剤として有効な物質の種類・濃度等について検証を行った結果を、以下の実施例において説明する。
【実施例1】
【0021】
クエン酸水溶液が尿中B群ビタミンの安定性に及ぼす影響について、
図2、3を参照しながら説明する。
尿中B群ビタミンは、塩酸酸性で保存すると安定であるが、塩酸に代わる安定化剤として、クエン酸水溶液と採取した尿を混合して、1〜7日間保存した後のB群ビタミン濃度の変化を、
図2、3に示す。
図2(1)〜(6)は、それぞれ、ビタミンB
1、ビタミンB
2、ビタミンB
6、ナイアシン、パントテン酸、ビオチンの濃度変化を示している。また、
図3は葉酸の濃度変化を示している。
【0022】
まず、健康な若年成人3名よりスポット尿を採取した。これらのスポット尿9mlと、1mlの濃度1mol/Lのクエン酸水溶液とを混合し、22℃で0、1、3、7日間保存した。保存後の尿中のB群ビタミンに関して、ビタミン濃度を測定した。具体的には、ビタミンB
1についてはチアミンを高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)により、ビタミンB
2についてはリボフラビンをHPLC法により、ビタミンB
6についてはビタミンB6代謝産物4−ピリドキシン酸をHPLC法により各ビタミン濃度を測定した。また、ナイアシンについては、ナイアシン代謝産物であるN1−メチルニコチンアミド、N1−メチル−2−ピリドン−5−カルボキサミド、N1−メチル−4−ピリドン−3−カルボキサミドをHPLC法で測定し、その合量を測定結果とした。さらに、パントテン酸、ビオチン、葉酸については各ビタミン濃度を微生物学的定量法で測定した。
なお、比較用として、スポット尿9mlと濃度1mol/Lの塩酸とを混合し、22℃で0、1、3、7日間保存した後の尿中のB群ビタミンを測定した。
【0023】
図2、3の濃度変化のグラフは、採尿直後に塩酸と混合(以下、塩酸処理という)した尿中のB群ビタミン濃度を基準とし、クエン酸水溶液と混合(以下、クエン酸処理という)した尿中B群ビタミン濃度の相対値を示したものである。
図2(1)〜(6)のグラフに示すように、ビタミンB
1(VB1)、ビタミンB
2(VB2)、ビタミンB
6(VB6)、ナイアシン(Niacin)、パントテン酸(Pantothenic acid)、ビオチン(Biotin)では、塩酸処理およびクエン酸処理のいずれにおいても1〜7日間保存による有意な変化は認められなかった。一方、
図3のグラフに示すように、葉酸(Falate)では、塩酸処理およびクエン酸処理のいずれにおいても7日間保存によって尿中の葉酸濃度は約60%に減少した。
以上の結果から、尿をクエン酸処理することによって、尿中B群ビタミンは7日間安定に保存することが可能であり、塩酸に替わる安定化剤として利用できることがわかる。
【実施例2】
【0024】
クエン酸粉末が尿中B群ビタミンの安定性に及ぼす影響ついて、
図4、5を参照しながら説明する。
液体の入ったチューブを一般人が扱うと、液体をこぼす恐れがある。チューブ内のクエン酸水溶液を凍結乾燥させ、このチューブを用いても尿中B群ビタミンを安定に保存することができるか明らかにするため、クエン酸粉末と採取した尿を混合して、3日間保存した後のB群ビタミン濃度を、
図4、5に示す。
図4(1)〜(6)は、それぞれ尿と、塩酸、クエン酸水溶液又はクエン酸粉末が混合された場合の、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸又はビオチンの濃度を示している。また、
図5は尿と、塩酸、クエン酸水溶液又はクエン酸粉末が混合された場合の葉酸の濃度を示している。
【0025】
まず、10ml用プラスチックチューブに1mlの1mol/Lクエン酸水溶液を入れ、チューブ内のクエン酸水溶液を凍結乾燥させた。健康な若年成人3名よりスポット尿を採取し、このスポット尿9mlをチューブに入れ、22℃で3日間保存した。
保存後の尿中のB群ビタミンに関して、ビタミン濃度を測定した。具体的には、ビタミンB1についてはチアミンをHPLC法により、ビタミンB2についてはリボフラビンをHPLC法により、ビタミンB6についてはビタミンB6代謝産物4−ピリドキシン酸をHPLC法により各ビタミン濃度を測定した。また、ナイアシンについては、ナイアシン代謝産物であるN1−メチルニコチンアミド、N1−メチル−2−ピリドン−5−カルボキサミド、N1−メチル−4−ピリドン−3−カルボキサミドをHPLC法で測定し、その合量を測定結果とした。さらに、パントテン酸、ビオチン、葉酸については各ビタミン濃度を微生物学的定量法で測定した。
なお、比較用として、スポット尿9mlと濃度1mol/Lのクエン酸水溶液又は塩酸とを混合し、22℃で3日間保存した後の尿中のB群ビタミンを測定した。
【0026】
図4、5のグラフは、塩酸処理後、3日間保存した各人の尿中B群ビタミン濃度を基準とし、クエン酸水溶液又は凍結乾燥したクエン酸で処理した尿中B群ビタミン濃度の相対値を示したものである。
図4(1)〜(6)及び
図5のグラフに示すように、ビタミンB1(VB1)、ビタミンB2(VB2)、ビタミンB6(VB6)、ナイアシン(Niacin)、パントテン酸(Pantothenic acid)、ビオチン(Biotin)又は葉酸(Falate)の全ての場合で、クエン酸水溶液又は凍結乾燥したクエン酸での処理のいずれの処理おいても塩酸処理と同じ値を示した。
以上の結果から、クエン酸水溶液を凍結乾燥させたチューブを用いて、尿中B群ビタミンを3日間安定に保存することが可能であることがわかる。
【実施例3】
【0027】
24時間尿中B群ビタミン排泄量の基準値に対応するスポット尿における尿中B群ビタミン排泄量の基準値の設定について、
図6、7を参照しながら説明する。
【0028】
図6、7は各尿中B群ビタミン排泄量における受信者動作特性曲線(ROC曲線)を示している。
測定方法としては、24時間尿とスポット尿における尿中水溶性ビタミン排泄量を測定した女子学生86名のデータを用いた。
図6、7に示すROC曲線を用いて、24時間尿中の各ビタミンの基準値をクリアできるスポット尿中排泄量のカットオフ値を決定した。
以上より、24時間尿中水溶性ビタミン排泄量の基準値をクリアできるスポット尿中水溶性ビタミン排泄量のカットオフ値を決定した結果を下記表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
上記表1に示すように、それぞれのカットオフ値を用いると、感度については、葉酸以外のB群ビタミンにおいて、24時間尿中排泄量が基準値以上を示す対象者のうち65〜84%を検出することができた。また、特異度は下記式1で求められることから、基準値以下を示す対象者を検出してしまう偽陽性率は10〜33%であった。
【0031】
(数1)
特異度 = 1− 偽陽性率 ・・・ (式1)
【0032】
上記表1に示すように、ROC曲線下面積(AUC)は0.8程度であり、0.7〜0.9に分類される中程度の精度を得ることができた。しかし、葉酸においては、24時間尿中排泄量が基準値以下を示す対象者が86名中7名と少なかったため、感度が0.44と他のB群ビタミンと比べて低く、AUCも0.58と0.5〜0.7に分類される低精度の結果となった。
以上から、本実施例で決定したスポット尿の基準値は、葉酸を除く6種類のB群ビタミンの栄養状態を簡便に評価するうえで有効であることがわかる。
【実施例4】
【0033】
クエン酸の濃度の違いが尿中水溶性ビタミンの安定性に及ぼす影響について、
図8を参照しながら説明する。
尿中水溶性ビタミンは、100mmol/Lクエン酸で保存すると安定である。クエン酸の安定化作用を発揮する濃度を明らかにするため、クエン酸の終濃度1〜1000mmol/Lとなるようにクエン酸水溶液と尿を混合し、0,3,7日間保存後のビタミンの濃度変化を調べた。結果を、
図8〜10に示す。なお、0日間放置とは、混合後、直ちに凍結乾燥したことを示している。
図8は、(1)及び(2)はビタミンB1、(3)はビタミンB2、(4)はビタミンB6の濃度変化を示している。また、
図9は、(1)はナイアシン、(2)はパントテン酸、(3)及び(4)は葉酸、
図10は、(1)はビオチン、(2)はビタミンCの濃度変化を示している。
ここで、
図8(1)と(2)、
図9(3)と(4)は、それぞれ縦軸のスケールを変えたものを示している。
【0034】
まず、健康な若年成人3名よりスポット尿を採取した。これらのスポット尿9mlと、1mlの濃度10mmol/L〜10mol/Lのクエン酸水溶液とを混合し、37℃で0、3、7日間放置してから凍結した。クエン酸の終濃度は、1、10、100、250、500、1000mmol/Lとした。かかる条件下で、凍結後の尿中の水溶性ビタミンに関して、ビタミン濃度を測定した。具体的には、ビタミンB1についてはHPLC法により、ビタミンB2についてはリボフラビンをHPLC法により、ビタミンB6についてはビタミンB6代謝産物4−ピリドキシン酸をHPLC法により各ビタミン濃度を測定した。また、ナイアシンについては、ナイアシン代謝産物であるN1−メチルニコチンアミド、N1−メチル−2−ピリドン−5−カルボキサミドをHPLC法で測定し、その合量を測定結果とした。さらに、パントテン酸、ビオチン、葉酸については各ビタミン濃度を微生物学的定量法で測定した。ビタミンCについては、アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、2,3−ジケトグロン酸の合量をHPLC法で測定した。
【0035】
図8〜10の濃度変化のグラフは、採尿直後に塩酸処理した尿中の水溶性ビタミン濃度を基準とし、各濃度のクエン酸水溶液で処理した尿中水溶性ビタミン濃度の相対値を示したものである。なお、グラフ中の値は採尿直後の塩酸処理サンプルに対する相対値の平均±標準偏差(n=3、但しビタミンCではn=2)として示したものである。
【0036】
図8(1)(2)のグラフに示すように、ビタミンB1については、10〜250mmol/Lでは、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。1mmol/L処理後、3日間以上の保存によって尿中チアミン濃度は2倍以上に増加した。また、500mmol/L以上の濃度で尿中チアミン濃度は約50%に低下した。
図8(3)のグラフに示すように、ビタミンB2については、10〜1000mmol/Lでは、3日目までの保存では大きな変動は認められなかったが、7日間の保存によって尿中リボフラビン濃度は約1.5倍に増加した。1mmol/Lでは、水処理後、尿中リボフラビン濃度は1.8倍に増加した。
図8(4)のグラフに示すように、ビタミンB6については、いずれの濃度でも、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
【0037】
図9(1)のグラフに示すように、ナイアシンについては、500mmol/L以下の濃度では、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。1000mmol/Lでは尿中ニコチンアミド代謝産物濃度は60〜70%に低下した。
【0038】
図9(2)のグラフに示すように、パントテン酸については、100mmol/L以下であれば、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。250mmol/L以上では、濃度依存的に尿中パントテン酸濃度は低下した。
図9(3)(4)のグラフに示すように、葉酸については、10mmol/Lでは、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。100mmol/Lでは、3日間以上の保存によって尿中葉酸濃度は約60%に低下した。250mmol/L以上では約50%に低下した。1000mmol/Lでは、測定時に微生物の増殖が認められず、測定不能であった。
【0039】
図10(1)のグラフに示すように、ビオチンについては、いずれの濃度でも、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
図10(2)のグラフに示すように、ビタミンCについては、いずれの濃度においても、3日間の保存によって尿中総アスコルビン酸濃度は30%以下に、7日間の保存によってほぼ0%に低下した。
【0040】
クエン酸水溶液の濃度の違いが尿中水溶性ビタミン濃度に及ぼす影響のまとめを、下記表2に示す。表2は、塩酸処理0日の値を基準として、相対値の平均が75〜150%の範囲にあれば〇、50〜75%若しくは150〜200%の範囲にあれば△、50%未満もしくは200%以上であれば×としたものである。
【0041】
【表2】
【0042】
以上より、ビタミンCを除く7種類の水溶性ビタミンについて、塩酸と同等の安定性を発揮した酸におけるクエン酸の濃度は終濃度10〜100mmol/Lであることが分かった。250mmol/Lでは葉酸の安定化が劣り、500mmol/L以上では、ビタミンB1、パントテン酸、葉酸の安定化が劣ることが分かった。
【実施例5】
【0043】
各種酸性溶液が尿中水溶性ビタミンの安定性に及ぼす影響について、
図11〜13を参照しながら説明する。
尿中水溶性ビタミンは塩酸酸性で保存すると安定である。実施例1〜4では、クエン酸水溶液について実験を行ったが、本実施例では、クエン酸以外で塩酸に代わる安定化剤候補が考えられないか実験を行った。塩酸に代わる安定化剤候補として各種酸性溶液と尿を混合し、0,3,7日間保存後のビタミンの濃度変化を調べた。結果を、
図11〜13に示す。なお、比較のため、塩酸及びクエン酸についてのデータも示している。
図11は、(1)及び(2)はビタミンB1、(3)はビタミンB2、(4)はビタミンB6の濃度変化を示している。また、
図12は、(1)はナイアシン、(2)はパントテン酸、(3)及び(4)は葉酸、
図13は、(1)はビオチン、(2)はビタミンCの濃度変化を示している。
ここで、
図11(1)と(2)、
図12(3)と(4)は、それぞれ縦軸のスケールを変えたものを示している。
【0044】
まず、健康な若年成人3名よりスポット尿を採取した。これらのスポット尿9mlと、1mlの濃度1mol/Lの各種酸性溶液とを混合し、37℃で0、3、7日間放置してから凍結した。ただし、メタリン酸については10%溶液1mLを尿と混合した。混合する溶液には、水、塩酸、アスコルビン酸、シュウ酸、スルホサリチル酸、酒石酸、酢酸、メタリン酸、クエン酸を用いた。かかる条件下で、凍結後の尿中の水溶性ビタミンに関して、ビタミン濃度を測定した。具体的には、ビタミンB1についてはHPLC法により、ビタミンB2についてはリボフラビンをHPLC法により、ビタミンB6についてはビタミンB6代謝産物4−ピリドキシン酸をHPLC法により各ビタミン濃度を測定した。また、ナイアシンについては、ナイアシン代謝産物であるN1−メチルニコチンアミド、N1−メチル−2−ピリドン−5−カルボキサミドをHPLC法で測定し、その合量を測定結果とした。さらに、パントテン酸、葉酸、ビオチンについては各ビタミン濃度を微生物学的定量法で測定した。ビタミンCについては、アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、2,3−ジケトグロン酸の合量をHPLC法で測定した。
【0045】
図11〜13の濃度変化のグラフは、採尿直後に塩酸処理した尿中の水溶性ビタミン濃度を基準とし、各種酸性溶液で処理した尿中水溶性ビタミン濃度の相対値を示したものである。なお、グラフ中の値は採尿直後の塩酸処理サンプルに対する相対値の平均±標準偏差(n=3、但しビタミンCではn=2)として示したものである。
【0046】
図11(1)(2)のグラフに示すように、ビタミンB1については、水および酢酸処理後、3日間以上の保存によって尿中チアミン濃度は2倍以上に増加した。それ以外の処理では、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
図11(3)のグラフに示すように、ビタミンB2については、水処理後、7日間の保存によって尿中リボフラビン濃度は56%に低下した。一方、塩酸、シュウ酸、スルホサリチル酸処理後、7日間の保存によって尿中リボフラビン濃度は約1.8倍に増加した。それ以外の処理では、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
図11(4)のグラフに示すように、ビタミンB6については、いずれの処理についても、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
【0047】
図12(1)のグラフに示すように、ナイアシンについては、いずれの処理についても、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
【0048】
図12(2)のグラフに示すように、パントテン酸については、スルホサリチル酸処理後、7日間の保存によって尿中パントテン酸濃度は42%に低下した。また、シュウ酸処理によって尿中パントテン酸濃度は約70%に低下した。それ以外の処理では、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
図12(3)(4)のグラフに示すように、葉酸については、水処理後、3日間以上の保存によって尿中葉酸濃度は3倍以上に増加した。7日間の保存で尿中葉酸濃度が安定だったのは、アスコルビン酸、シュウ酸、酒石酸の処理であった。それ以外の処理では、3〜7日間の保存によって尿中葉酸濃度は50〜70%に低下した。
【0049】
図13(1)のグラフに示すように、ビオチンについては、いずれの処理についても、7日間の保存による大きな変動は認められなかった。
図13(2)のグラフに示すように、ビタミンCについては、3日間の保存で変動を示さなかったのは、シュウ酸処理のみであった。それ以外のいずれの処理においても、3日間の保存によって尿中総アスコルビン酸濃度は30%以下に、7日間の保存によってほぼ0%に低下した。生体試料中のビタミンCの安定化に用いられるメタリン酸でも3日間以上安定に保存することができなかった。37℃の保存によって2,3−ジケトグロン酸がさらに酸化されてしまった可能性が考えられる。
【0050】
すなわち、ビタミンCを除く7種類の水溶性ビタミンについて、塩酸と同等の安定性を発揮した酸は酒石酸、クエン酸であった。酢酸はビタミンB1を安定保存することができず、アスコルビン酸およびメタリン酸もビタミンB1の安定性が劣っていた。シュウ酸によるパントテン酸の安定性はやや劣った。スルホサリチル酸は3日間まではパントテン酸を安定に保存することができたが、7日間保存では安定化は認められなかった。ビタミンCについては、シュウ酸処理のみが3日間安定に保つことができたが、他のいずれの酸溶液も3日以上安定に保存することができなかった。
【0051】
各種酸性溶液が尿中水溶性ビタミン濃度に及ぼす影響のまとめを、下記表3に示す。表3は、塩酸処理0日の値を基準として、相対値の平均が75〜150%の範囲にあれば〇、50〜75%若しくは150〜200%の範囲にあれば△、50%未満もしくは200%以上であれば×としたものである。
【0052】
【表3】
【0053】
以上より、塩酸に代わる安定化剤として利用可能な酸溶液は、酒石酸、クエン酸であることが分かった。ただし、ビタミンB1の安定化は劣るものの、葉酸の安定化にはアスコルビン酸が最も優れていた。ビタミンCについては、酸溶液で処理しても7日間安定に保存することは非常に難しいことが分かったが、シュウ酸については、3日間保存することが可能であることが分かった。
したがって、塩酸に代わる安定化剤として利用可能な酸溶液としては、酒石酸、クエン酸又はアスコルビン酸が好ましく、さらに、シュウ酸を混合することで、ビタミンCの安定化を図る構成も可能であるといえる。
【実施例6】
【0054】
通常、尿検査において、尿糖(グルコース:Glu)は、常温では陰性化するとされている。例えば、日本農村医学会雑誌(第64巻、2016年1月、第5号)の789〜797頁に記載の論文「採尿後の経過時間と温度が尿検査に及ぼす影響」によれば、大腸菌添加尿では、25〜26℃の室温では4時間後から、30℃では3時間後から解糖作用が見られ、糖200mg/dLプール尿は24時間後にはほぼ分解され0になったとされている。
また、プロテウス菌添加尿では、糖200mg/dLプール尿で、室温では7時間後、30℃では6時間後より減少傾向を示したとされている。
これは、一般に、尿中の細菌がブドウ糖を分解することを補足するデータであるといえる。
【0055】
本実施例では、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を安定化剤として尿に添加して、常温保存した場合において、尿糖の安定化の可否につき実験を行い確認した結果について説明する。
実験方法としては、尿糖を「安定化剤なし」で、採尿当日(0日目)に測定したものと、「安定化剤あり」で3日後、7日後に測定したものにつき、尿中のグルコース濃度(mg/dL)を比較した。
「安定化剤あり」の検体は、尿8mgに安定化剤2mgを混合したものである。このように、「安定化剤あり」の検体は、安定化剤を混合することで、尿が希釈されるため、「安定化剤なし」の検体についても、「安定化剤あり」の検体と希釈濃度を合わせるために0.8を乗じた数値にして、比較を行った。
【0056】
下記表4は、上記実験結果を纏めたものである。下記表に示すように、被験者は被験者1〜10の10人であり、各被験者につき3回採尿を行い、3つの検体の平均値を算出することにした。
被験者1は42歳女性、被験者2は21歳女性、被験者3は24歳女性、被験者4は21歳男性、被験者5は25歳女性、被験者6は23歳女性、被験者7は21歳女性、被験者8は22歳女性、被験者9は47歳男性、被験者10は45歳女性であった。
表中の“0日目”とは、「安定化剤なし」で採尿当日の尿中グルコース濃度の測定数値に0.8を乗じた数値である。“3日目”とは、「安定化剤あり」で採尿後3日目の測定数値である。“7日目”とは、「安定化剤あり」で採尿後7日目の測定数値である。
また、“3日後”とは、「安定化剤なし」で採尿当日の尿中グルコース濃度の測定数値に0.8を乗じた値から、「安定化剤あり」で採尿後3日目の測定数値を減じたものである。同様に、“7日後”とは、「安定化剤なし」で採尿当日の尿中グルコース濃度の測定数値に0.8を乗じた値から、「安定化剤あり」で採尿後7日目の測定数値を減じたものである。したがって、“3日後”及び“7日後”の値は、尿中グルコース濃度の低下度であり、値がプラスであればグルコース濃度が低下したといえ、逆に値がマイナスであればグルコース濃度が上昇したといえる。なお、表中の数値は適宜四捨五入している。
【0057】
【表4】
【0058】
上記表4に示すように、被験者1では、3日後の低下度は0.73mg/dL、7日後の低下度は−0.07mg/dLとなっている。被験者2では、3日後の低下度は−0.40mg/dL、7日後の低下度は−0.40mg/dLとなっている。被験者3では、3日後の低下度は−0.80mg/dL、7日後の低下度は−1.80mg/dLとなっている。被験者4では、3日後の低下度は−0.53mg/dL、7日後の低下度は−1.53mg/dLとなっている。被験者5では、3日後の低下度は0.14mg/dL、7日後の低下度は0.80mg/dLとなっている。被験者6では、3日後の低下度は0.07mg/dL、7日後の低下度は−0.93mg/dLとなっている。被験者7では、3日後の低下度は−0.07mg/dL、7日後の低下度は−0.40mg/dLとなっている。被験者8では、3日後の低下度は0.26mg/dL、7日後の低下度は0.93mg/dLとなっている。被験者9では、3日後の低下度は−0.54mg/dL、7日後の低下度は0.13mg/dLとなっている。被験者10では、3日後の低下度は0.07mg/dL、7日後の低下度は−0.93mg/dLとなっている。
【0059】
被験者1〜10について、尿中グルコース濃度の低下度の変化平均は−0.6であり、変化標準偏差は1.0であった。
前述したように、例えば大腸菌添加尿では、尿糖は24時間後にはほぼ分解され0になることと比較すると、採尿7日後においてもグルコース濃度の低下は僅かであるといえる。
したがって、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を安定化剤として尿に添加することにより、少なくとも採尿7日間、尿中のグルコース濃度を安定化させられたといえる。
【実施例7】
【0060】
尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、たんぱく質、ミネラル、ビタミンの安定化度合いについて、それぞれ確認した結果を説明する。ミネラルは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)およびモリブデン(Mo)について確認した。ビタミンは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸およびビオチンについて確認した。実験方法としては、採尿当日(0日目)に測定したもの、3日目、1週間(7日目)、10日目、2週間(14日目)に測定したものをそれぞれ比較した。なお、安定化剤を添加した尿の保存は、常温(20℃)で行った。被験者は4人であり、各測定の際は、各被験者につき2回採尿を行い、その平均値を算出し、各測定における4人の平均値を算出した。結果を下記表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
表5から以下のことが確認できた。すなわち、尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、尿中たんばく質濃度は、測定を通して14日間、安定であったことが確認できた。また、尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)といったミネラル濃度は、測定を通して14日間、安定であったことが確認できた。ここで、モリブデン(Mo)は、3日目の測定から増加量(マイナスなので増加)が大きいが、これは尿中のモリブデン濃度がμg/mLと、他のミネラルと比べて3桁程度下回るぐらいの微量であり、測定分解能に起因するものと推察している。
一方、ビタミンに関して、尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸およびビオチンに関して、10日目までは安定であったことが確認できた。葉酸については、3日目の測定から増加しているが、10日目までは大きく増加量が変化することは無く安定していたことを確認した。
【実施例8】
【0063】
尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加した後で凍結して数日間冷凍保存し、その後に解凍した場合において、たんぱく質、ミネラル、ビタミンの安定化度合いについて、それぞれ確認した結果を説明する。ミネラルは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)およびモリブデン(Mo)について確認した。ビタミンは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸およびビオチンについて確認した。実験方法としては、採尿当日(0日目)に測定したもの、7日間凍結させた後に解凍したもの、20日間凍結させた後に解凍したものをそれぞれ比較した。なお、冷凍保存は−10℃の冷凍室内で行い、解凍は常温(20℃)で自然解凍により行った。被験者は4人であり、各測定における4人の平均値を算出した。結果を下記表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
表6から以下のことが確認できた。すなわち、尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、尿中たんばく質濃度は、7日間凍結させた後に解凍したもの、20日間凍結させた後に解凍したもの、双方の場合において、安定であったことが確認できた。また、尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)といったミネラル濃度は、7日間凍結させた後に解凍したもの、20日間凍結させた後に解凍したもの、双方の場合において、安定であったことが確認できた。ここで、モリブデン(Mo)は、7日間凍結させた後に解凍したものの測定から増加量(マイナスなので増加)が大きいが、これは尿中のモリブデン濃度がμg/mLと、他のミネラルと比べて3桁程度下回るぐらいの微量であり、測定分解能に起因するものと推察している。
一方、ビタミンに関して、尿の安定化剤として、クエン酸とシュウ酸を混合した水溶液を尿に添加することにより、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸およびビオチンに関して、7日間凍結させた後に解凍したもの、20日間凍結させた後に解凍したもの、双方の場合において、安定であったことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、尿検査装置に有用である。
【要約】
尿中ビタミンを数日間安定させることができ、検査の正確性と被験者の採尿検査の利便性を向上させる尿検査装置および尿検査方法を提供する。本尿検査装置は、採尿の収納容器内壁に、尿の安定化剤として、クエン酸水溶液等が塗布される。或は、採尿の収納容器内に、尿の安定化剤としてのクエン酸水溶液等が乾燥または凍結乾燥されたものが収容される。一方、本発明の尿検査方法は、採取した尿に、クエン酸水溶液等を、尿の安定化剤として加えることにより、少なくとも採尿後7日間のビタミン濃度を安定化させて、尿中ビタミンを数日間安定させることにより、被験者の採尿検査の利便性を向上させると共に、特に、B群のビタミンの尿中濃度を安定させることにより、被験者の体内の不足している栄養素を正確に検査する。