特許第6355162号(P6355162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6355162ハーフメタル強磁性体接合構造、これを用いた5層磁気トンネル接合素子、及び磁気メモリ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355162
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】ハーフメタル強磁性体接合構造、これを用いた5層磁気トンネル接合素子、及び磁気メモリ装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/10 20060101AFI20180702BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20180702BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20180702BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   H01L43/10
   H01L43/08 Z
   H01L27/105 447
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-189666(P2014-189666)
(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-63062(P2016-63062A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】中川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】史 蹟
(72)【発明者】
【氏名】高村 陽太
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−214251(JP,A)
【文献】 特開2004−179219(JP,A)
【文献】 特開2006−286713(JP,A)
【文献】 特開2011−138924(JP,A)
【文献】 特開2015−061045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239,27/105,
29/82,43/08,43/10
H01F 1/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーフメタル強磁性体層と、
前記ハーフメタル強磁性体層の下に設けられた強誘電体層と、
前記強誘電体層の下に設けられた導電層と
を具備し、
前記強誘電体層の分極によって前記ハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調するハーフメタル強磁性体接合構造。
【請求項2】
さらに、前記強誘電体層の分極の方向及び大きさを制御する手段を具備する請求項1に記載のハーフメタル強磁性体接合構造。
【請求項3】
ハーフメタル強磁性体層と、
前記ハーフメタル強磁性体層の下に設けられ、強誘電性及び反強磁性を有するマルチフェロイック層と、
前記マルチフェロイック層の下に設けられた導電層と
を具備し、
前記マルチフェロイック層の分極によって前記ハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調するハーフメタル強磁性体構造。
【請求項4】
さらに、前記マルチフェロイック層の分極の方向及び大きさを制御する手段を具備する請求項3に記載のハーフメタル強磁性体構造。
【請求項5】
金属強磁性体層と、
前記金属強磁性体層の下に設けられたトンネル障壁層と、
前記トンネル障壁層の下に設けられたハーフメタル強磁性体層と、
前記ハーフメタル強磁性体層の下に設けられた強誘電体層と、
前記強誘電体層の下に設けられた導電層と
を具備し、
前記強誘電体層の分極によって前記ハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調する5層磁気トンネル接合素子。
【請求項6】
金属強磁性体層と、
前記金属強磁性体層の下に設けられたトンネル障壁層と、
前記トンネル障壁層の下に設けられたハーフメタル強磁性体層と、
前記ハーフメタル強磁性体層の下に設けられ、強誘電性及び反強磁性を有するマルチフェロイック層と、
前記マルチフェロイック層の下に設けられた導電層と
を具備し、
前記マルチフェロイック層の分極によって前記ハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調する5層磁気トンネル接合素子。
【請求項7】
請求項5もしくは6に記載の5層磁気トンネル接合素子と、
前記金属強磁性体層に接続されたビット線と、
前記導電層に接続されたセンス線と
を具備し、
前記金属強磁性体層の磁化方向と前記強誘電体層もしくは前記マルチフェロイック層の分極の方向及び大きさとの組合せにより4値以上の多値記憶情報を記憶する磁気メモリ装置。
【請求項8】
さらに、
第1、第2のワード線と、
前記ハーフメタル強磁性体層と前記センス線との間に接続され、前記第1のワード線の電位によって制御される第1のスイッチング素子と、
前記ハーフメタル強磁性体層と前記ビット線との間に接続され、前記第2のワード線の電位によって制御される第2のスイッチング素子と
を具備する請求項7に記載の磁気メモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフメタル強磁性体(HMF)層を含むハーフメタル強磁性体接合構造、これを用いた5層磁気トンネル接合(MTJ)素子、及び磁気メモリ(MRAM)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強磁性体層においては、図1の(A)に示すように、アップスピン及びダウンスピンがフェルミレベルEまで占有しており、この結果、スピン分極により占有状態数に差を生じ、そのスピン分極率Pは、
P=(D(E)−D(E))/(D(E)+D(E))
で与えられる。これに対し、ハーフメタル強磁性体(HMF)層たとえばCoMnSi等よりなるフルホイスラー合金層においては、図1の(B)に示すように、アップスピンは金属的バンド構造を有するが、ダウンスピンはフェルミレベルE近傍でエネルギーギャップが存在する半導体的バンド構造を有する。この結果、スピン分極率Pは、
P=D(E)/D(E
=1
で与えられ、理論的に100%となる。
【0003】
従って、上述のハーフメタル強磁性体層を磁性トンネル接合(MTJ)素子に適用すると、大きなトンネル磁気抵抗(TMR)効果を期待できる。
【0004】
従来の磁気メモリ(MRAM)装置の1セルは、1つの3層MTJ素子及び1つのトランジスタよりなる。3層MTJ素子はトンネル障壁層を挟んだ2つの磁性層よりなる3層構造をなし、トンネル障壁層の上側磁性層は、磁化方向が自由な方向になるので、フリー層と呼ばれ、他方、トンネル障壁層の下側磁性層は、磁化が特定方向に固定されているので、ピン層と呼ばれる。この場合、ピン層の磁化方向に対するフリー層の磁化方向が平行か反平行かに応じて3層MTJ素子は低磁気抵抗状態(たとえば記憶状態“0”に相当)か高磁気抵抗状態(たとえば記憶状態“1”に相当)かになる。
【0005】
従って、上述のMRAM装置の集積度はピン層にハーフメタル強磁性体層を適用することによって向上できる(参照:特許文献1、2)。
【0006】
さらに、MRAM装置においては、書込み動作時に偏極したスピン流を3層MTJ素子に流すことによってフリー層の磁化方向を反転させるスピントランスファトルク(STT)方式を採用することにより、低消費電力化や集積度の向上に寄与することができる。
【0007】
さらにまた、MRAM装置においては、磁性層の垂直方向の磁化を利用した垂直磁化方式を採用して、フリー層の磁化方向の反転を少ない電流で行えるようにすることにより、集積度の向上に寄与できる。
【0008】
このように、ハーフメタル強磁性体層を用いたSTT−垂直磁化型MRAM装置により集積度の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−257395号公報
【特許文献2】特開2011−141934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ハーフメタル強磁性体層の状態密度及びバンド構造はその成分固有で変化しないと考えられ、従って、ハーフメタル強磁性体層のスピン分極率は固定と考えられる。この結果、上述の従来のハーフメタル強磁性体層を適用した3層MTJ素子を含むMRAM装置は2値メモリセル構造を維持し、集積度の向上に限界があるという課題がある。
【0011】
従って、本発明はハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調できるハーフメタル強磁性体接合構造、及びこれを用いたMTJ素子を提供することを目的とする。
また、本発明はMTJ素子を含むMRAM装置に4値以上の多値記憶を実現できるメモリセル構造を提供してMRAM装置の集積度を向上させることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係るハーフメタル強磁性体接合構造は、ハーフメタル強磁性体層と、ハーフメタル強磁性体層の下に設けられた強誘電体層と、強誘電体層の下に設けられた導電層とを具備し、強誘電体層の分極によってハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調するものである。この場合、強誘電体層の分極はハーフメタル強磁性体層内の強誘電体層との界面に少数スピンキャリアを誘起させる。
また、本発明に係る5層MTJ素子は、金属強磁性体層と、金属強磁性体層の下に設けられたトンネル障壁層と、トンネル障壁層の下に設けられたハーフメタル強磁性体層と、ハーフメタル強磁性体層の下に設けられた強誘電体層と、強誘電体層の下に設けられた導電層とを具備し、強誘電体層の分極によってハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調するものである。この場合、強誘電体層の分極はハーフメタル強磁性体層内の強誘電体層との界面に少数スピンキャリアを誘起させる。
【0013】
さらに、本発明に係るMRAM装置は、上述の5層MTJ素子と、金属強磁性体層に接続されたビット線と、導電層に接続されたセンス線とを具備し、金属強磁性体層の磁化方向と強誘電体層の分極の方向及び大きさとの組合せにより4値以上の多値記憶情報を記憶するものである。
【0014】
また、強誘電体層は強誘電性及び反強磁性の2つの特性を兼ね備えるマルチフェロイック層に置換し得る。マルチフェロイック層を用いた場合には、ハーフメタル強磁性体層の磁化の一方向異方性が導かれる。この結果、ハーフメタル強磁性体層の垂直磁化を固定し、ハーフメタル強磁性体層は磁化固定層(ピン層)として効率よく作用する。
【発明の効果】
【0015】
ハーフメタル強磁性体層のスピン分極率を変調することができる。また、5層MTJ素子を含むMRAM装置の4値以上の多値記憶メモリセル構造を実現できるので、MRAM装置の集積度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)は金属強磁性体層の状態密度を示すグラフ、(B)はハーフメタル強磁性体層の状態密度を示すグラフである。
図2】本発明に係るハーフメタル強磁性体接合構造の実施の形態を含む垂直磁化型MRAM装置を示す図である。
図3図2の5層MTJ素子の金属強磁性体層の磁化方向が反平行状態かつ強誘電体層の分極方向が下向き状態のバンド図である。
図4図2の5層MTJ素子の金属強磁性体層の磁化方向が平行状態かつ強誘電体層の分極方向が下向き状態のバンド図である。
図5図2の5層MTJ素子の金属強磁性体層の磁化方向が反平行状態かつ強誘電体層の分極方向が上向き状態のバンド図である。
図6図2の5層MTJ素子の金属強磁性体層の磁化方向が平行状態かつ強誘電体層の分極方向が上向き状態のバンド図である。
図7図2の5層MTJ素子のトンネル障壁層のコンダクタンスを示すグラフである。
図8図2の垂直磁化型MRAM装置の変更例を示す図である。
図9図8のハーフメタル強磁性体層の磁界−磁化(H−M)特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2は本発明に係るハーフメタル強磁性体接合構造の実施の形態を含む垂直磁化型MRAM装置を示す図である。
【0018】
図2において、たとえば、FeCoB等よりなるフリー層としての厚さ約1〜2nmの金属強磁性体層1、MgO等の絶縁体よりなる厚さ約1nmのトンネル障壁層2、及びCoMnSi(CMS)等よりなるピン層としての厚さ約1nmのハーフメタル強磁性体層3は、3層MTJ構造S1を構成する。他方、3層MTJ構造S1のハーフメタル強磁性体層3側には自発分極Pを有するBaTiO等よりなる厚さ約10nmの強誘電体層4及びTa等の導電体よりなる厚さ約1nmの導電層5が接合され、ハーフメタル強磁性体層3のスピン分極率を変調する。この場合、ハーフメタル強磁性体層3及び強誘電体層4及び導電層5はハーフメタル強磁性体接合構造S2を構成する。
【0019】
ハーフメタル強磁性体層3を共通とする3層MTJ構造S1及びハーフメタル強磁性体接合構造S2は合せて5層MTJ素子S3を構成する。図2において、金属強磁性体層1のトンネル障壁層2との反対側はビット線BLに接続されている。さらに、導電層5の強誘電体層4の反対側はソース線SLに接続されている.また、ハーフメタル強磁性体層3とセンス線SLとの間には、ワード線WL1の電位によって制御されるMOSトランジスタよりなるスイッチング素子SW1が接続されている。さらに、ハーフメタル強磁性体層3とビット線BLとの間には、ワード線WL2の電位によって制御されるMOSトランジスタよりなるスイッチング素子SW2が接続されている。尚、MRAM装置においては、行方向に複数のワード線WL1及び複数のワード線WL2が設けられ、他方、列方向に複数のビット線BL及び複数のセンス線SLが設けられ、行方向及び列方向の各交点に1つのセルが設けられている。スイッチング素子SW1、SW2及びワード線WL1、WL2はCMOS技術によって製造され、金属強磁性体層1、トンネル障壁層2、ハーフメタル強磁性体層3、強誘電体層4、導電層5は多層膜製造装置を用いてナノヘテロ構造として製造され、ビット線BL及びセンス線SLはCu配線技術等によって製造される。
【0020】
金属強磁性体層1の自発磁化Mの方向は可変で、その書込み動作はワード線WL1の電位によってスイッチング素子SW1をオンにし、STTを利用してビット線BLとセンス線SLとの間にスピン偏極した比較的に大きい書込電流を流すことによって制御される。他方、メモリセルの読出し動作もスイッチング素子SW1をオンにすることによってビット線BLとセンス線SLとの間を流れる読出電流を検出することによって行われる。
【0021】
強誘電体層4の自発分極Pの方向及び大きさを決定する書込み動作はワード線WL2の電位によってスイッチング素子SW2をオンにすることによって行われ、このときにセンス線SLとビット線BLによって強誘電体層4に電圧を印加することによって自発分極Pを生じさせる。この印加電圧の極性及び大きさ、印加方法等で自発分極Pの残留分極の方向及び大きさを制御することが可能である。
【0022】
次に、図2のハーフメタル強磁性体層3のスピン分極率の変調について図3図4図5図6のバンド図を参照して説明する。図2においては、金属強磁性体層1の磁化方向Mの上下方向と強誘電体層4の分極方向Pの上下方向との組合せは以下の4通りである。尚、ハーフメタル強磁性体層3の磁化方向Mは常に上向きである。
AP−状態(図3):磁化方向Mが下向き状態(MTJのM、Mが反平行状態)かつ分極方向Pが下向き状態である。
P−状態(図4):磁化方向Mが上向き状態(MTJのM、Mが平行状態)かつ分極方向Pが下向き状態である。
AP+状態(図5):磁化方向Mが下向き状態(MTJのM、Mが反平行状態)かつ分極方向Pが上向き状態である。
P+状態(図6):磁化方向Mが上向き状態(MTJのM、Mが平行状態)かつ分極方向Pが上向き状態である。
【0023】
図3図4においては、強誘電体層4の分極方向Pによってハーフメタル強磁性体層3内の強誘電体層4側界面に負電荷が誘起する。この負電荷による電界によってハーフメタル強磁性体層3のダウンスピンのバンド構造にバンドベンディングが励起される。しかし、ハーフメタル強磁性体層3のダウンスピンのフェルミレベルEでの状態密度D↓,3は、強誘電体層4の分極方向Pに依存せず、依然として0である。つまり、強誘電体層4の下向きの分極方向Pによる変調はハーフメタル強磁性体層3のスピン分極を変化させない。従って、Julliereモデルに基づき、金属強磁性体層1(スピン分極率P=0.6と仮定)及びハーフメタル強磁性体層3のフェルミレベルでのダウンスピンの状態密度D↓,3=0をもとに演算されたトンネル障壁層2のAP−状態、P−状態のコンダクタンスGは、図7に示すように、スピン分極率変調度kに依存せず、一定値0.2及び0.8となる。
【0024】
他方、図5図6においては、強誘電体層4の分極方向Pによってハーフメタル強磁性体層3内の強誘電体層4側界面に少数スピンキャリアである正電荷が誘起する。この正電荷による電界によってハーフメタル強磁性体層3のダウンスピンのバンド構造にバンドベンディングが誘起される。この場合、強誘電体層4の分極方向Pに依存して、ハーフメタル強磁性体層3内の強誘電体層4との界面においてダウンスピンのフェルミレベルEでのスピン分極率変調度kで表される状態密度D↓,3=kが発生する。つまり、強誘電体層4の上向き分極方向Pによってハーフメタル強磁性体層3のスピン分極率は変調する。従って、Julliereモデルに基づき、金属強磁性体層1(スピン分極率P=0.6と仮定)及びハーフメタル強磁性体層3のフェルミレベルでのダウンスピンの状態密度D↓,3=kをもとに演算されたトンネル障壁層2のAP+状態、P+状態のコンダクタンスGは、図7に示すように、スピン分極率変調度kに依存して増加する。尚、スピン分極率変調度kは強誘電体層4の分極Pの方向および大きさに応じた値であり、上述の4つのコンダクタンスGが最小となるときにk=0と定義する。
【0025】
図7に示すように、たとえば、k=0.4のときに、金属強磁性体層1の磁化方向M及び強誘電体層4の分極方向Pに応じて4値のトンネル障壁層2のコンダクタンスGが実現していることが分かる。従って、k=0.4のときのP+状態、P−状態、AP+状態、AP−状態に00、01、10、11を割当てることにより4値メモリ状態を実現できる。
【0026】
強誘電体層4の分極Pは、残留分極の方向だけでなく大きさも変化させることができるので、この大きさによってP+状態およびAP+状態でのハーフメタル強磁性体層3のスピン分極率変調度kを可変することができる。これにより、たとえば、k=0.4以外の値に設定することによって異なるコンダクタンスGを実現できるので、上述の4値以上のメモリ状態を実現できる。
【0027】
図8図2の垂直磁化型MRAM装置の変更例を示す図である。図8においては、図2の強誘電体層4を強誘電性及び反強磁性の2つの特性を兼ね備えるたとえばBiFeOよりなるマルチフェロイック層4’に置換し、ハーフメタル強磁性体接合構造S2をハーフメタル強磁性体接合構造S2’に置換した。
【0028】
図8において、ハーフメタル強磁性体接合構造S2’は、上述したハーフメタル強磁性体接合構造S2と同様に、ハーフメタル強磁性体層3のスピン分極率の変調を誘起できる。加えて、ハーフメタル強磁性体接合構造S2’にすることにより交換バイアス効果によるハーフメタル強磁性体層3の磁化を安定させる効果が発現する。ハーフメタル強磁性体接合構造S2’の製造は、上述の複合成膜装置を用いてたとえばBiFeOよりなる厚さ約10nmのマルチフェロイック層4’を基板上の導電層5上に成長させ、さらに、たとえばCoFeSiよりなる厚さ約1nmのハーフメタル強磁性体層3をマルチフェロイック層4’上に成長させて垂直磁化を実現する。その後、BiFeOのネール温度380℃以上に加熱し、マルチフェロイック層4’の面と垂直な磁場の基で冷却する。従って、マルチフェロイック層4’の反強磁性から交換バイアス効果を引き起こし、図9の磁界−磁化(H−M)特性図に示すごとく、ハーフメタル強磁性体層3の磁化の一方向異方性を導く。この結果、ハーフメタル強磁性体層3は5層MTJ素子S3の固定層(ピン層)として効率よく作用する。
【0029】
上述の実施の形態においては、5層MTJ素子は、垂直磁化方式を採用しているが、金属強磁性体層1及びハーフメタル強磁性体層3の材料を適宜選択することにより面内磁化方式を採用できる。
【0030】
尚、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲のいかなる変更も適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は磁気メモリ装置以外に磁気ヘッド、磁気センサ等にも利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1:金属強磁性体層
2:トンネル障壁層
3:ハーフメタル強磁性体層
4:強誘電体層
4’:マルチフェロイック層
5:導電層
S1:3層MTJ構造
S2、S2’:ハーフメタル強磁性体接合構造
S3:5層MTJ素子
BL:ビット線
SL:センス線
WL1、WL2:ワード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9