特許第6355166号(P6355166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355166
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】焙煎香気回収物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/42 20060101AFI20180702BHJP
   A23F 5/48 20060101ALI20180702BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20180702BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   A23F3/42
   A23F5/48
   A23L27/10 C
   A23L2/38 M
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-108123(P2015-108123)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-220562(P2016-220562A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】村井 弘二
(72)【発明者】
【氏名】細貝 知弘
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−298065(JP,A)
【文献】 特開平10−286063(JP,A)
【文献】 特開2003−033137(JP,A)
【文献】 特開昭59−109133(JP,A)
【文献】 特開平08−291298(JP,A)
【文献】 特開2011−182673(JP,A)
【文献】 特表2014−526247(JP,A)
【文献】 特開平06−133726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00− 5/00
A23L 27/00
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS/WPIX(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎原料に水蒸気および/または不活性ガスを送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させる工程と、
前記焙煎香気の少なくとも一部を含む蒸気を、pHが、9〜13の範囲であるグリセリン水溶液に通気することにより、前記蒸気に含まれる焙煎香気を前記グリセリン水溶液中に回収させる工程
とを含むことを特徴とする、焙煎香気回収物の製造方法。
【請求項2】
焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させ、次いで、前記蒸気を凝縮液化して、第1の香気回収物を得る工程と、
前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにpHが、9〜13の範囲であるグリセリン水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る工程と、
前記第1および第2の香気回収物を混合する工程
とを含むことを特徴とする、焙煎香気回収物の製造方法。
【請求項3】
焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させ、次いで、前記蒸気を凝縮液化して、第1の香気回収物を得る工程と、
前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにpHが、9〜13の範囲であるグリセリン水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る工程と、
前記焙煎原料に水、または、水混和性アルコール水溶液を加えて抽出して抽出液を得る工程と、
前記第1および第2の香気回収物、並びに前記抽出液を混合する工程
とを含むことを特徴とする、焙煎香気回収物の製造方法。
【請求項4】
前記焙煎原料が、緑茶、烏龍茶、紅茶、麦茶、焙煎ハト麦、焙煎玄米、焙煎麦芽、またはコーヒーである請求項1〜のいずれか1項に記載の焙煎香気回収物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の焙煎香気回収物の製造方法により得られる焙煎香気回収物を食品に添加することを特徴とする焙煎香気の付与増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎香気回収物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に対する嗜好性を決定する上で、食品の香りは最も重要な要素の1つである。そのため、香ばしい香りを引き出して食品に対する嗜好性の向上を図ることを目的として、焙煎がしばしば行われる。例えば、代表的な嗜好飲料の1つであるコーヒーは、コーヒーの生豆(グリーンビーンズ)の状態では青臭い香りをもつにすぎないが、コーヒーの生豆を焙煎することにより、いわゆるコーヒーの独特の香り(アロマ)を呈するようになる。焙煎コーヒー豆からは約800種類の揮発性香気成分が同定されているが、これらの香気成分の組成は焙煎の程度(加熱温度と時間)によって変化するため、同じ材料でも焙煎の程度により様々な香りを引き出すことができる。
【0003】
このように、焙煎を施すことによって香ばしい好ましい香りが形成され、この香りは食品の嗜好性を向上させる上で大きく影響する。そのため、焙煎により形成される香ばしい香りをターゲットとする食品に付与することができる香料に強い関心が寄せられている。
【0004】
ところで、一般に、天然原料を蒸留して得られる香気回収物は、天然原料に水を加えて抽出して得られる抽出物に比べ、香気成分を多く含み、食品などに添加することにより、香気が強化、改善された品質の高い製品が得られるため、広く利用されている。
【0005】
そのため、食品素材を焙煎することにより形成された香気(以下、「焙煎香気」という。)をターゲットとする食品に付与して該食品への嗜好性を向上させることを目的として、焙煎香気をできる限り忠実に再現した、焙煎香気の再現性が高い焙煎香気回収物の開発が期待されている。
【0006】
従来、焙煎した食品(焙煎原料)に含まれる香気成分を回収するために各種方法が報告されている。それらの方法のうち一部を挙げると、例えば、嗜好飲料等の液状食品中の香気成分を液体状態あるいは超臨界状態の二酸化炭素に回収し、次いで、該液体状態あるいは超臨界状態の二酸化炭素を気化して、エタノールと10重量%以上の水との混合物に0〜70重量%のグリセリンを混合した吸収液または水と0.1〜70重量%のグリセリンとからなる吸収液に接触させ、前記二酸化炭素中の香気成分を前記吸収液に回収する液状食品中の香気成分の回収方法(特許文献1)、焙煎コーヒー豆等の固体食品中の香気成分を、液体状態あるいは超臨界状態の二酸化炭素中に溶解・移行させ、次いで、得られた香気成分含有二酸化炭素を気化させた後、水あるいはエタノールまたはこれらの混合物に0〜70重量%のグリセリンを混合した吸収液に接触させて、前記二酸化炭素中の香気成分を該吸収液に吸収させる固体食品中の香気成分の回収方法(特許文献2)、被加熱原料を該被加熱原料の少なくとも一部が焦げるように酸素存在雰囲気中で加熱することにより発せられる香気成分を捕集液に捕集する香料組成物の製造方法(特許文献3)、淹出飲料濃縮物を調製する方法であって、 約10から約70%の植物性の固体フレーバー源を約30から約90%の非水性の液体中で混合して混合物を形成するステップと、 前記混合物を処理して前記植物性の固体フレーバー源の平均粒子サイズを約50ミクロン未満に低下させて前記淹出飲料濃縮物を得るステップと、を含むことを特徴とする方法(特許文献4)、(i)茶類原料から水蒸気蒸留法により香気を回収し、(ii)蒸留残渣を酵素処理して酵素処理エキスを得、(iii)工程(ii)で得られた酵素処理エキスと工程(i)で得られた回収香を混合する茶類エキスの製造方法(特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−133725号公報
【特許文献2】特開平6−133726号公報
【特許文献3】特開平8−291298号公報
【特許文献4】特表2014−526247号公報
【特許文献5】特開2011−182673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術によって得られる焙煎香気回収物は、特に厚みやコクなどの点において、焙煎原料(茶類など)が呈する焙煎香気・香味を十分に再現しているとは言い難く、さらなる改善が求められていた。
【0009】
そこで、本発明は、焙煎香気の再現性が高く、食品に添加することにより、厚みやコクなどを有する焙煎香気・香味を付与増強することができる焙煎香気回収物を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、焙煎香気を含む蒸気(気体)をアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、焙煎香気の再現性が高く、厚みやコクなどを有する焙煎香気を付与増強することができる焙煎香気回収物を効率よく得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、焙煎原料に水蒸気および/または不活性ガスを送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させる工程と、前記焙煎香気の少なくとも一部を含む蒸気を、アルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、前記蒸気に含まれる焙煎香気を前記アルカリ性の水混和性アルコール水溶液中に回収させる工程とを含むことを特徴とする、焙煎香気回収物の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させ、次いで、前記蒸気を凝縮液化して、第1の香気回収物を得る工程と、前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る工程と、前記第1および第2の香気回収物を混合する工程とを含むことを特徴とする、焙煎香気回収物の製造方法である。
【0013】
さらに、本発明は、焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させ、次いで、前記蒸気を凝縮液化して、第1の香気回収物を得る工程と、前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る工程と、前記焙煎原料に水、または、水混和性アルコール水溶液を加えて抽出して抽出液を得る工程と、前記第1および第2の香気回収物、並びに前記抽出液を混合する工程とを含むことを特徴とする、焙煎香気回収物の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、焙煎原料が呈する焙煎香気の再現性に優れた焙煎香気回収物を効率よく製造することができる。また、本発明の製造方法により得られる焙煎香気回収物は、食品に配合することにより、従来の方法によって得られる焙煎香気回収物を配合する場合に比べて、焙煎香気・香味の厚み、およびコクをより一層増強することができ、かつ、茶系飲料など幅広い食品に適用することができる。
特に、本発明の製造方法により得られる焙煎香気回収物を、緑茶や烏龍茶等の茶系飲料に配合した場合には、淹れたての焙煎茶が有しているフレッシュな香ばしい香気と、コクを感じさせる膨らみのある重厚な香気を付与することができるとともに、沈殿生成をも抑制することができる。
さらには、本発明の製造方法は、従来、香気成分の捕集装置外に排出・廃棄されていた揮発性の高い香気を回収して利用することができるため、コスト面でも有利であるという、産業上極めて優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
まず、本発明の第1の実施形態に係る焙煎香気回収物の製造方法について説明する。本発明の第1の実施形態に係る焙煎香気回収物の製造方法は、焙煎原料に水蒸気および/または不活性ガスを送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させる工程と、前記焙煎香気の少なくとも一部を含む蒸気を、アルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、前記蒸気に含まれる焙煎香気を前記アルカリ性の水混和性アルコール水溶液中に回収させる工程とを含むものである。
【0016】
本実施形態においては、まず、焙煎原料に水蒸気および/または不活性ガスを送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させる。ここで、前記焙煎原料としては、焙煎や焙焼等の加熱処理が行われることによって、嗜好性を高めうる香気が付与されている天然原料であれば特に限定されるものではなく、一般的には、例えば、コーヒー、茶類(緑茶、焙じ茶、番茶、釜炒り茶、烏龍茶、紅茶、中国茶、玄米茶、麦茶、ハトムギ茶、玄米茶、ソバ茶、ハブ茶、ブラックマテ茶、グリーンマテ茶など)、穀物類(焙煎大麦、焙煎麦芽、焙煎ハト麦、焙煎米、焙煎玄米、焙煎発芽米、焙煎ソバの実、焙煎トウモロコシ、炒りごま、焙煎キヌア、焙煎アマランサス、焙煎キビ、焙煎ヒエ、焙煎アワ、焙煎大豆など)、ハーブ類(ラベンダー、シソ、ジャスミン、 セージ、オレガノ、ベルガモット、ホップ、レモンバーム、カモミール、ローズマリー、 タイム、ミント、コリアンダーなど)、果実・野菜類(リンゴ、さつまいも、じゃがいもなど)、ナッツ類(クルミ、栗、ピーナッツなど)、水産物(鰹節、スルメ、甲殻類など)を挙げることができる。これらのうち、特に緑茶、烏龍茶、紅茶、麦茶、焙煎ハト麦、焙煎玄米、焙煎麦芽、コーヒーを好ましく例示することができる。緑茶は、火入れ操作をして製茶とするが、この火入れにより香ばしい香気が形成され、青葉の香りと焙焼香が調和した緑茶の香気を放つようになる。なお、コーヒーに使用しうる原料生豆としては、アラビカ種、リベリカ種、ロブスタ種等、いずれでもよく、その種類、産地を問わず、ブラジル、コロンビア、インドネシア等、いずれの産地のコーヒー豆も使用することができる。また、コーヒー豆は、1種類の豆のみを単独で使用しても、また2種類以上の豆をブレンドして使用してもよい。
【0017】
これらの焙煎原料は、焙煎の程度により異なるが、通常は焙煎により、糖質、アミノ酸その他の成分などが加熱によりメイラード反応などを起こし、好ましい香ばしい焙煎香気が形成されている。一方、焙煎香気の生成に伴い、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などの有機酸が生成する。これらのうち、酢酸およびギ酸は、香気成分の一部でもあるが、多量に存在すると、焙煎香気に湿っぽいマイナスの影響を与えるとともに、抽出液のpH低下、保存による風味劣化の原因となる。焙煎香気に含まれる成分は、焙煎原料の種類や焙煎の程度などにより、その含有バランスが異なり、その結果、焙煎原料は、それぞれ特徴ある焙煎香気を形成する。
【0018】
前記焙煎原料は、いかなる焙煎方法によって得られたものでもよく、一般には、焙煎または焙焼を行う際に通常使用される装置を用いて、嗜好に適した焙煎または焙焼を天然原料に施すことにより得ることができる。例えば、コーヒーを例に取ると、コーヒー生豆をコーヒーロースターなどを用いて常法により焙煎することができる。例えば、コーヒー生豆を回転ドラムの内部に投入し、この回転ドラムを回転攪拌しながら、下方からガスバーナー等で加熱することでコーヒー生豆が焙煎される。焙煎の程度は、通常飲用ないし食用に供される程度の焙煎であればいかなる範囲内でもよい。なお、前記焙煎原料は、焙煎された市販品を購入することによって入手することもできる。
【0019】
前記焙煎原料のうち、特に塊状のものは、水蒸気および/または不活性ガスを送り込む前に粉砕しておくと焙煎香気成分の回収効率が高まるため、焙煎後粉砕することが好ましい。この場合、粉砕方法については特に制限はなく、いかなる粉砕方法、また粉砕粒度も採用することができ、粉砕装置も、特に限定されるものではない。しかしながら、外気と接触せず、不活性気体中で適宜冷却して短時間で粉砕できる装置を採用することにより、焙煎香気の飛散が防止できるためより好ましい。
【0020】
水蒸気および/または不活性ガスを焙煎原料に送り込むことにより、該焙煎原料が呈する焙煎香気を水蒸気および/または不活性ガスとともに留出させる。前記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素(炭酸ガス)等が例示される。
【0021】
前記焙煎原料に水蒸気および/または不活性ガスを送り込む場合は、前記焙煎原料から焙煎香気が蒸発しやすい温度(通常、40〜130℃)に焙煎原料を加熱して、焙煎香気が強く感じられる状態にしておくことが好ましい。これにより、焙煎香気の再現性がより一層高い焙煎香気回収物を得ることができる。
【0022】
また、前記焙煎原料に水蒸気および/または不活性ガスを送り込む前に、予め、該焙煎原料を溶媒(水、アスコルビン酸ナトリウム水溶液など)で湿潤させておくことが、焙煎香気を蒸発しやすくする上で好ましい。湿潤させる際の条件(温度、時間)は焙煎原料の種類等によって異なるが、焙煎原料が茶葉の場合は、5〜60℃の温度で3〜120分間行うことが好ましい。
【0023】
また、焙煎香気を良好に蒸発させる点から、水蒸気および/または不活性ガスを送り込みは、好ましくは5〜130℃、より好ましくは70〜105℃、さらに好ましくは90〜105℃の温度条件下で行う。
【0024】
次いで、前記焙煎香気の少なくとも一部を含む蒸気を、アルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、前記蒸気に含まれる焙煎香気を前記アルカリ性の水混和性アルコール水溶液中に回収させる。これにより、従来技術では回収が困難であった焙煎香気成分を含む焙煎香気を捕捉した本発明の焙煎香気回収物が得られる。
【0025】
アルカリ性の水混和性アルコール水溶液に前記蒸気を通気する場合、焙煎香気の回収効率の点からは、該アルカリ性の水混和性アルコール水溶液の温度を、好ましくは−5〜60℃、より好ましくは0〜35℃、さらに好ましくは0〜25℃に設定した温度条件下で行う。
【0026】
前記アルカリ性の水混和性アルコール水溶液としては、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、還元水水飴、グルコース、フラクトース、ショ糖、マルトース、液糖、および水飴から選択される少なくとも1種の水溶液が例示される。これらのうち、特にグリセリンの水溶液が、焙煎香気を捕集する能力、特に焙煎のシャープな香気を捕捉する点で優れており好ましい。
【0027】
前記アルカリ性の水混和性アルコール水溶液のpHは、通常、7.5〜13.0の範囲に設定し、好ましくは8.5〜12.5、より好ましくは、9〜12の範囲に設定する。7.5〜13.0の範囲外のpHであると、焙煎香気を十分に捕集することができなくなるおそれがある。
【0028】
前記アルカリ性の水混和性アルコール水溶液の該アルコール濃度は、該水混和性アルコールの種類により異なるが、例えば、該アルコールがグリセリンの場合には、グリセリン濃度は15〜50質量%であるのが好ましく、より好ましくは20〜35質量%である。15〜50質量%の範囲外の濃度であると、焙煎香気を十分に捕集することができなくなるおそれがある。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態に係る焙煎香気回収物の製造方法について説明する。本発明の第2の実施形態に係る焙煎香気回収物の製造方法は、焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させ、次いで、前記蒸気を凝縮液化して、第1の香気回収物を得る工程と、前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る工程と、前記第1および第2の香気回収物を混合する工程とを含むものである。
【0030】
本実施形態においては、焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させる点は第1の実施形態と基本的に同様であるが、該蒸気を抽出させた後、凝縮液化して、第1の香気回収物を得る点は第1の実施形態と異なる。すなわち、本実施形態では、まず焙煎原料に対して水蒸気蒸留を行い、留出液である第1の香気回収物を得る。この場合、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、気−液多段式交流接触蒸留(スピニングコーンカラム)などの方法を採用することができる。また、水蒸気蒸留の方式は、回分式、連続式のいずれであってもよい。例えば、常圧水蒸気蒸留を用いる方法においては、焙煎原料を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、焙煎香気を含む留出液である第1の香気回収物を得ることができる。
【0031】
前記焙煎原料に水蒸気を送り込む際には、窒素ガスなどの不活性ガスおよび/またはビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で行うと、焙煎香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができるので好適である。
【0032】
該焙煎原料から蒸発する焙煎香気は、水蒸気を送り込むにつれて、徐々に焙煎香気の留出が少なくなる。どの時点で水蒸気の送り込みを終了するかは、何回かの試行結果を参考にしつつ、経済性等を考慮して決定すればよい。
【0033】
次いで、前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る。これにより、凝縮液化によって前記第1の香気回収物に回収されずに散逸している焙煎香気が捕捉される。この焙煎香気は従来の香気成分の捕集装置を用いた技術では該装置外に排出・廃棄されていたものであるが、本発明は、このような従来排出・廃棄され、したがって捕捉が困難であった焙煎香気をも回収するものである。
【0034】
前記蒸気をアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気するには、例えば、前記第1の香気回収物の捕集容器の上部に流出管を介してアルカリ性の水混和性アルコール水溶液を充填したトラップを接続しておき、前記捕集容器に送り込まれる蒸気をその上部から外に導出して、前記トラップ中に導入させることにより行えばよい。
【0035】
前記第1および第2の香気回収物を混合することにより、従来技術では回収が困難であった焙煎香気成分を含む焙煎香気を捕捉した、焙煎香気の再現性に優れた本発明の焙煎香気回収物が得られる。
【0036】
次に、本発明の第3の実施形態に係る焙煎香気回収物の製造方法について説明する。本発明の第3の実施形態に係る焙煎香気回収物の製造方法は、焙煎原料に水蒸気を送り込み、該焙煎原料から蒸発する焙煎香気を含む蒸気を留出させ、次いで、前記蒸気を凝縮液化して、第1の香気回収物を得る工程と、前記第1の香気回収物に回収されなかった残りの焙煎香気を含む蒸気を、さらにアルカリ性の水混和性アルコール水溶液に通気することにより、第2の香気回収物を得る工程と、前記焙煎原料に水、または、水混和性アルコール水溶液を加えて抽出して抽出液を得る工程と、前記第1および第2の香気回収物、並びに前記抽出液を混合する工程とを含むものである。
【0037】
本実施形態においては、第1の香気回収物を得る工程と、第2の香気回収物を得る工程については、第2の実施形態と基本的に同様である。本実施形態と第2の実施形態との主たる違いは、本実施形態には、前記焙煎原料に水、または、水混和性アルコール水溶液を加えて抽出して抽出液を得る工程が付加されている点にある。その結果、第2の実施形態で得られる焙煎香気回収物に比べて、焙煎の香味が強化・付与された焙煎香気回収物が得られる。
【0038】
前記焙煎原料に水、または、水混和性アルコール水溶液を加えて抽出して抽出液を得る工程では、該焙煎原料として、第1の香気回収物を得る際に用いた焙煎原料の残渣を通常用いるが、該残渣ではなく、新たな焙煎原料を用いてもよい。
【0039】
本工程では、抽出する際の条件は必ずしも限定されるものではないが、例えば、前記残渣に対して、1〜30倍量の水、または、水混和性アルコール水溶液を加え、10〜100℃の範囲の温度で5分〜5時間の抽出を行い、濾過後、30℃以下に冷却することが好ましい。
【0040】
前記濾過は、ろ紙、サラン、ネルを用い、不溶成分等の除去を行うが、その際、濾過助剤を併用してもよく、例えば、ケイソウ土、酸性白土、活性白土、タルク類、粘土、ゼオライト、粉末セルロース等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。さらに、濾過とは異なる手段として、遠心分離で不純物の除去を行うことも効果的であり、単独、あるいは濾過と併用してもよい。
【0041】
最後に、前記第1および第2の香気回収物、並びに前記抽出液を混合することにより、従来技術では回収が困難であった焙煎香気成分を含む焙煎香気を捕捉した、焙煎香気の再現性に優れた焙煎香気回収物を得ることができる。
【0042】
以上の製造方法により得られる本発明の焙煎香気回収物は、そのまま水溶液の形態として使用することもできるが、所望により該エキスにデキストリン、加工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガム等の賦形剤を添加してペースト状とすることもでき、さらにまた、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの適宜な乾燥手段を採用して乾燥することにより粉末状とすることもできる。
【0043】
本発明の焙煎香気回収物は、各種食品に添加することにより、焙煎香気を付与増強することができる。本発明の焙煎香気回収物を添加する対象となる食品は、焙煎香気を付与増強する必要がある食品であれば限定されず、各種飲料のほか、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓類;ゼリー、プリン、羊羹などのデザート類;クッキー、ケーキ、チョコレート、チューインガム、饅頭などの菓子類;菓子パン、食パンなどのパン類;ジャム類、ラムネ、タブレット、錠菓などが挙げられる。前記焙煎香気回収物の添加量については、食品の種類、所望する焙煎香気、香味の程度等を考慮して適宜決定すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例および比較例により、さらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
容量3Lのジャケット付きガラスカラムに、焙じ茶葉400gを仕込み、該カラムの上部より0.8gアスコルビン酸ナトリウムを軟水120gに溶解した溶液を注入し、茶葉を湿潤し、95℃にて、50分間保持した後、該カラム下部より窒素ガスおよび100℃の水蒸気を吹き込んだ。該カラムを通過した香気を含む水蒸気を該カラム上部からガラス配管により水冷式コンデンサーへと導き、凝縮し、該コンデンサーの下部に取り付けた分液漏斗型分離器へと導き、凝縮液化した香気回収物600gを得た(比較品1)。
一方、水冷式コンデンサーにより回収されなかった香気は、分液漏斗型分離器の上部に設けられた通気口よりシリコンチューブを経由して30質量%グリセリン水溶液(pH12.0)80gを充填したグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH12.0、温度20℃)へと導き、香気回収物80gを得た(発明品1)。
次に、比較品1を200g、発明品1を26.6g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物226gを得た(発明品2、pH5.0、Bx3.35°)。
【0046】
[官能評価]
発明品1、2および比較品1の香気について、5人の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、比較品1はトップ、ミドルの甘く、軽やかな香気を有する焙じ茶の香りであると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品1は、それ自身はバランスの悪い茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していた。また、比較品1に発明品1を加えた発明品2は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、厚みのある香りであるとの評価であった。
【0049】
[市販飲料への添加効果]
市販のペットボトル入り焙じ茶飲料(参考品1)を購入し、これに実施例1で得られた発明品1、2および比較品1を5質量%添加し、それぞれ添加したものについて、5人の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。得られた評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、市販品である参考品1は、焙じ茶の香りがあるがパンチが弱く、マイルドな香気、香味であったのに対し、比較品1を添加したものは、焙じ茶の甘く、軽やかな香気が付与されていると評価された。一方、前記グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品1を添加したものは、焙じ茶の香りにやや重さとパンチを付与した香気、香味を有していた。また、発明品2を添加したものは、焙じ茶の甘さ、軽やかさが付与されるとともに全体の厚みが増し、飲み応えのある香気、香味との評価であった。
したがって、発明品1および2ともに、市販の焙じ茶飲料に焙じ茶の重さや厚みを付与することができ、従来の香気回収品(比較品1)では得られない特性が付与できることが確認された。
【0052】
(実施例2)
実施例1の焙じ茶葉400gに代えて緑茶葉400gを使用するほかは、実施例1と同様な方法で、凝縮液化した香気回収物600g(比較品2)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80gを得た(発明品3)。
次に、比較品2を200g、発明品3を26.6g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物226gを得た(発明品4、pH5.0、Bx3.54°)。
【0053】
(実施例3)
実施例1の焙じ茶葉400gに代えて烏龍茶葉400gを使用するほかは、実施例1と同様な方法で、凝縮液化した香気回収物600g(比較品3)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80gを得た(発明品5)。
次に、比較品3を200g、発明品5を26.6g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物226gを得た(発明品6、pH5.0、Bx3.48°)。
【0054】
(実施例4)
実施例1の焙じ茶葉400gに代えて麦茶葉400gを使用するほかは、実施例1と同様な方法で、凝縮液化した香気回収物600g(比較品4)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80gを得た(発明品7)。
次に、比較品4を200g、発明品7を26.6g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物226gを得た(発明品8、pH5.0、Bx4.30°)。
【0055】
(実施例5)
実施例1の焙じ茶葉400gに代えてコーヒー豆500gを使用するほかは、実施例1と同様な方法で、凝縮液化した香気回収物750g(比較品5)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物100gを得た(発明品9)。
次に、比較品5を250g、発明品9を33.3g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物283gを得た(発明品10、pH5.0、Bx4.06°)。
【0056】
[官能評価]
発明品3〜10および比較品2〜5の香気について、5人の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。得られた評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、緑茶に関しては、比較品2がフレッシュで爽やかな緑茶の香りであると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品3は、それ自身はバランスの悪い緑茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していた。また、比較品2に発明品3を加えた発明品4は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、緑茶のフレッシュさ、爽やかさに加え、焙煎した茶葉の厚みのある香りであるとの評価であった。
また、烏龍茶に関しては、比較品3は、淡泊で爽やかな烏龍茶の香りであると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品5は、それ自身はバランスの悪い烏龍茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していた。また、比較品3に発明品5を加えた発明品6は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、烏龍茶の爽やかな香りに加え、コクを感じさせる厚みのある香りであるとの評価であった。
また、麦茶に関しては、比較品4は、柔らかな麦茶の香りであると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品7は、それ自身はバランスの悪い麦茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していた。また、比較品4に発明品7を加えた発明品8は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、麦茶の柔らかな香りに加え、焙煎した茶葉の香ばしさとコクを感じさせる厚みのある香りであるとの評価であった。
また、コーヒーに関しては、比較品5は、淹れ立てのコーヒーの香りであると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品9は、それ自身はバランスの悪いコーヒーの香気であるが、癖のある独特の香りを有していた。また、比較品5に発明品9を加えた発明品10は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、コーヒーの淹れ立ての香りに加え、焙煎コーヒー豆のコクを感じさせる厚みのある香りであるとの評価であった。
【0059】
[市販飲料への添加効果]
市販のペットボトル入り緑茶飲料(参考品2)を購入し、これに実施例2で得られた発明品3、4および比較品2を5質量%添加し、それぞれ添加したものについて、5人の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。また、市販のペットボトル入り烏龍茶飲料(参考品3)を購入し、これに実施例3で得られた発明品5、6および比較品3を5質量%添加し、それぞれ添加したものについて、同様の官能評価を行った。また、市販のペットボトル入り麦茶飲料(参考品4)を購入し、これに実施例4で得られた発明品7、8および比較品4を5質量%添加し、それぞれ添加したものについて、同様の官能評価を行った。得られた評価結果を表4に示す。また、市販のペットボトル入りコーヒー飲料(参考品5)を購入し、これに実施例5で得られた発明品9、10および比較品5を5質量%添加し、それぞれ添加したものについて、同様の官能評価を行った。得られた評価結果を表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
表4に示すように、市販品の緑茶飲料である参考品2は、飲みやすいが特徴のない香気、香味であったのに対し、比較品2を添加したものは、緑茶のフレッシュで爽やかな香気、香味が付与されていると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品3を添加したものは、緑茶の香りにやや重さとパンチを付与した香気、香味を有していた。また、発明品4を添加したものは、緑茶のフレッシュで爽やかな香気が付与されるとともに、焙煎した茶葉の厚みが増し、飲み応えのある香気、香味との評価であった。
また、市販品の烏龍茶飲料である参考品3は、飲みやすいが特徴のない香気、香味であったのに対し、比較品3を添加したものは、烏龍茶の爽やかな香気が付与された香気、香味が付与されていると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品5を添加したものは、烏龍茶の香りにやや重さとパンチを付与した香気、香味を有していた。また、発明品6を添加したものは、烏龍茶の爽やかさが付与されるとともに、コクを感じさせる厚みが増し、飲み応えのある香気、香味との評価であった。
また、市販品の麦茶飲料である参考品4は、麦茶の香りあるもパンチが弱く、平板な香気、香味であったのに対し、比較品4を添加したものは、麦茶の柔らかな香気が付与された香気、香味が付与されていると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品7を添加したものは、麦茶の香りにやや重さとパンチを付与した香気、香味を有していた。また、発明品8を添加したものは、麦茶の柔らかな香りが付与されるとともに、コクを感じさせる厚みが増し、飲み応えのある香気、香味との評価であった。
また、市販品のコーヒー飲料である参考品5は、コーヒーの香りあるもパンチが弱く、平板な香気、香味であったのに対し、比較品5を添加したものは、コーヒーの淹れ立ての香気が付与された香気、香味が付与されていると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品9を添加したものは、コーヒーの淹れ立ての香りにやや重さとパンチを付与した香気、香味を有していた。また、発明品10を添加したものは、コーヒーの淹れ立ての香気が付与されるとともに、コクを感じさせる厚みが増し、飲み応えのある香気、香味との評価であった。
したがって、発明品3および4ともに、市販の緑茶飲料に焙煎した茶葉の重さや厚みを付与することができ、従来の香気回収品(比較品2)では得られない特性が付与できることが確認された。また、発明品5および6ともに、市販の烏龍茶飲料に烏龍茶の重さや厚みを付与することができ、従来の香気回収品(比較品3)では得られない特性が付与できることが確認された。また、発明品7および8ともに、市販の麦茶飲料に麦茶の重さや厚みを付与することができ、従来の香気回収品(比較品4)では得られない特性が付与できることが確認された。また、発明品9および10ともに、市販のコーヒー飲料にコーヒーの重さや厚みを付与することができ、従来の香気回収品(比較品5)では得られない特性が付与できることが確認された。
【0062】
(実施例6)
容量3Lのジャケット付きガラスカラムに、焙じ茶葉400gを仕込み、該カラム下部より窒素ガスを導入し、内部空気を置換した後、該カラムの上部より0.8gアスコルビン酸ナトリウムを軟水120gに溶解した溶液を注入し、茶葉を湿潤し、該カラム下部より100℃の水蒸気を吹き込んだ。該カラムを通過した香気を含む水蒸気を該カラム上部からガラス配管により水冷式コンデンサーへと導き、凝縮し、該コンデンサーの下部に取り付けた分液漏斗型分離器へと導き、凝縮液化した香気回収物600gを得た(参考品6)。
一方、水冷式コンデンサーにより回収されなかった香気は、分液漏斗型分離器の上部に設けられた通気口よりシリコンチューブを経由して30質量%グリセリン水溶液(pH8.0)80gを充填したグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)へと導き、香気回収物80gを得た(発明品11)。
前記操作を行った後、水蒸気の吹き込みを停止し、予め準備しておいた0.4gアスコルビン酸ナトリウムを軟水2800gに溶解した溶液(温度55℃)をカラム上部より充填し、35分保持後、25分でカラム下部より抜き取り、抽出液2215g(参考品7、Bx4.19°)を得た。
次に、参考品6、7および発明品11を混合し、混合物2895gを得た(発明品12、pH5.17、Bx3.35°)。
【0063】
(実施例7)
実施例6のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH9.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例6と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(参考品8)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品13)および抽出液2205g(参考品9)を得た。また、参考品8、9および発明品13を混合し、混合物2885gを得た(発明品14、pH5.17、Bx3.35°)。
【0064】
(実施例8)
実施例6のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH10.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例6と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(参考品10)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品15)および抽出液2210g(参考品11)を得た。また、参考品10、11および発明品15を混合し、混合物2890gを得た(発明品16、pH5.17、Bx3.35°)。
【0065】
(実施例9)
実施例6のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH11.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例6と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(参考品12)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品17)および抽出液2210g(参考品13)を得た。また、参考品12、13および発明品13を混合し、混合物2890gを得た(発明品18、pH5.17、Bx3.35°)。
【0066】
(実施例10)
実施例6のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH12.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例6と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(参考品14)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品19)および抽出液2210g(参考品15)を得た。また、参考品14、15および発明品15を混合し、混合物2890gを得た(発明品20、pH5.17、Bx3.35°)。
【0067】
(実施例11)
実施例6のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH13.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例6と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(参考品16)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品21)および抽出液2210g(参考品17)を得た。また、参考品16、17および発明品17を混合し、混合物2890gを得た(発明品22、pH5.17、Bx3.35°)。
【0068】
(比較例1)
実施例6のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH7.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例6と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(参考品18)、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(参考品19)および抽出液2210g(参考品20)を得た。また、参考品18、19、20の各半量を計り取って混合し、混合物1445gを得た(比較品6、pH5.17、Bx3.29°)。
【0069】
[官能評価]
実施例6〜11で得られた発明品12、14、16、18、20、22並びに比較品1、6を60℃に加温し、香気香味を5名の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。得られた評価結果を表4に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示すように、発明品12および14は、トップ、ミドル、ラストのバランスが改善され、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、厚みのある香りであると評価された。また、発明品16および18は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、厚みのある香りであると評価された。また、発明品20は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、焙じ茶のロースト感が付与された厚みの増した香りと評価され、発明品22は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、焙じ茶のロースト感が強く付与された厚みのある香りであると評価された。
一方、比較品1および6は、トップ、ミドルの甘く、軽やかな香気を有する焙じ茶の香りであり、ラストの香気が弱く、厚みも感じられないとの評価であった。
結果として、グリセリン−アルカリトラップで捕集した香気回収物を用いた発明品12、14、16、18、20、22は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良くなり、厚みやロースト感が付与されるなど、従来品にはない効果があることが確認された。
【0072】
[市販飲料への添加効果]
市販のペットボトル入り焙じ茶飲料(参考品1)を購入し、これに実施例6〜11で得られた発明品12、14、16、18、20、22および比較品1、6を5質量%添加し、それぞれ添加したものについて、5人の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。得られた評価結果を表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
表6に示すように、市販品である参考品1は、焙じ茶の香りがあるがパンチが弱く、マイルドな香気、香味であったのに対し、比較品1および6を添加したものは、焙じ茶の甘く、軽やかな香気が付与されていると評価された。
一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品12、14を添加したものは、焙じ茶の甘さ、軽やかさが付与されるとともに、全体の厚みがやや増し、コクと飲み応えのある香気、香味を有していた。また、発明品16、18を添加したものは、焙じ茶の甘さ、軽やかさが付与されるとともに、全体の厚みが増し、コクと飲み応えのある香気、香味との評価であった。また、発明品20、22を添加したものは、焙じ茶の甘さが付与され、焙じ茶のロースト感が付与され、重厚で、コクと飲み応えのある香気、香味を有していた。
したがって、発明品12、14、16、18、20、22は、市販の焙じ茶飲料に焙じ茶の重さや厚み、ロースト感を付与することができ、従来の香気回収品(比較品1、6)では得られない特性が付与できることが確認された。
【0075】
(実施例12)
実施例1のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてエチルアルコール−アルカリトラップ(30質量%エチルアルコール水溶液、pH12.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例1と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(比較品7)、エチルアルコール−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品23)を得た。次に、比較品7を200g、発明品23を26.6g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物226gを得た(発明品24、pH5.0、Bx3.30°)。
【0076】
(実施例13)
実施例1のグリセリン−アルカリトラップ(30質量%グリセリン水溶液、pH8.0、温度25℃)に代えてプロピレングリコール−アルカリトラップ(30質量%エチルアルコール水溶液、pH12.0、温度25℃)を使用するほかは、実施例1と同様な方法により、凝縮液化した香気回収物600g(比較品8)、エチルアルコール−アルカリトラップで捕集した香気回収物80g(発明品25)を得た。次に、比較品8を200g、発明品25を26.6g計り取り、混合し、pHを5.0に調整した混合物226gを得た(発明品26、pH5.0、Bx3.41°)。
【0077】
[官能評価]
実施例1、12および13の発明品1、2、23、24、25、26および比較品1、7、8の香気について、5人の良く訓練されたパネリストにより官能評価を行った。得られた評価結果を表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
表7に示すように、比較品1はトップ、ミドルの甘く、軽やかな香気を有する焙じ茶の香りであると評価された。一方、グリセリン−アルカリトラップで捕集した発明品1は、それ自身はバランスの悪い茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していた。また、比較品1に発明品1を加えた発明品2は、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、厚みのある香りであるとの評価であった。
次に比較品7は比較品1と同様、トップ、ミドルの甘く、軽やかな香気を有する焙じ茶の香りであると評価された。一方、エチルアルコール−アルカリトラップで捕集した発明品23は、それ自身はバランスの悪い茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していたが、香りの強さは発明品1に比べるとやや弱かった。また、比較品7に発明品23を加えた発明品24は、発明品2には及ばないが、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、厚みのある香りであるとの評価であった。
次に比較品8は比較品1と同様、トップ、ミドルの甘く、軽やかな香気を有する焙じ茶の香りであると評価された。一方、プロピレングリコール−アルカリトラップで捕集した発明品25は、それ自身はバランスの悪い茶の香気であるが、癖のある独特の香りを有していたが、香りの強さは発明品1と発明品23の中間くらいであった。また、比較品8に発明品25を加えた発明品26は、発明品2には及ばないが、トップ、ミドル、ラストのバランスが良く、焙じ茶の甘さ、軽やかさに加え、厚みのある香りであるとの評価であった。