【実施例1】
【0010】
<1>土木工事用袋体(
図1,2)。
土木工事用袋体10は、中心に中央穴11を有し、内口23aと外口24aとの間に上口を開放した環状空間21を有し、該環状空間21に中詰材30を充填する抱持袋20と、前記中詰材30を全周に亘って抱持するように、前記環状空間21を閉口する抱持袋20の閉口手段とを具備する。
【0011】
<2>土木工事用構造体(
図1,2)。
土木工事用構造体Aは中心部に中央穴11を有するとともに、上口を開放した環状空間21を有する抱持袋20と、抱持袋20の環状空間21内に収容する中詰材30と、抱持袋20の開口を閉鎖する抱持袋20の閉口手段とを具備する。
換言すれば、土木工事用構造体Aは土木工事用袋体10と中詰材30とにより構成する。
【0012】
<3>抱持袋。
抱持袋20は、上方を開放した環状を呈する半筒状物であり、その内部に環状空間21を形成している。例えていえば、上口を縫合する前の抱持袋20は浮き輪の上半を水平に切除したような断面が略U字形の環状体を呈している。
抱持袋20の底面22と内外側面23,24はそれぞれ環状を呈していて、各側面23,24の上部には環状の内口23aと外口24aを形成している。
底面22および内外の側面23,24で囲まれた空間が環状空間21となる。
抱持袋20の断面サイズ(断面積)、最大径、最小径、全長等は使途に応じて適宜選択する。
【0013】
<3.1>抱持袋の素材。
本例では抱持袋20を合成繊維製の網体で形成した場合について示すが、これに限定されない。
抱持袋20は可撓性および耐久性に優れた網体、シート状物、またはこれらの組み合せでもよい。透水性または非透水性(遮水性)の素材、或いは伸縮性または非伸縮性の素材でもよい。
抱持袋20の素材は土木工事用構造体Aの使途に応じて適宜選択する。
【0014】
<3.2>口紐。
抱持袋20の内外の側面23,24の口部には、その環状の内口23aと外口24aに沿って内口紐25と外口紐26が挿通してある。
内口紐25は内口23aの径を規制する紐体であり、外口紐26は外口24aの径を規制する紐体である。
両口紐25,26を緩めることで、両口23a,24aの口径を拡張でき、両口紐25,26を絞り込むことで、両口23a,24aの口径を縮小できる。
【0015】
<4>抱持袋の閉口手段。
本例では、抱持袋20の開口の閉口手段として、一本または複数本の閉鎖紐27を使用する場合について説明する。
後述するように、抱持袋20の内外の側面23,24の内口23aと外口24aの間を閉鎖紐27で縫合することで、抱持袋20の開口を閉鎖する。
抱持袋20の閉口手段は、抱持袋20を介して中詰材30の全周を抱持し得るように、抱持袋20の円周方向に沿って内口23aと外口24aの間を強固に連結できるものであればよく、紐状物の他にクリップ類等を使用することもできる。
【0016】
抱持袋20を閉口するのは、中詰材30の全体を抱持して環状拘束土30aを形成するためと、抱持袋20の内口23aと外口24aとの間における荷重伝達を可能にするためである。
したがって、抱持袋20の閉口後に内口23aと外口24aとの間が多少離れていていても問題はない。
【0017】
<5>中詰材。
中詰材30は圧縮変形しない硬質粒体であり、例えば、砕石や玉石等の骨材、軽量骨材、コンクリートガラ、焼却灰の造粒物、土砂等を使用できる。
中詰材30の素材、比重、サイズ等は、土木工事用構造体Aの使途に応じて適宜選択する。
【0018】
<6>環状拘束土(
図4,5)。
環状拘束土30aは、土木工事用袋体10により全周面を抱持された環状の中詰材30の集合体である。
環状拘束土30aはその表層だけでなくその中心部においても中詰材30が互いに噛み合う(インターロッキング効果)ため、その断面形状を保持できるだけでなく、環状拘束土30aの全長に亘って、曲げ強度、圧縮強度、およびせん断強度が非常に高くなる。
なお、環状拘束土30aは抱持袋20の伸縮に起因して多少の変形は許容する。
【0019】
[土木工事用構造体の製作方法]
つぎに
図2〜5を参照して土木工事用構造体Aの製作方法の一例について説明する。
【0020】
<1>土木工事用袋体の準備工(
図2,3)。
本例では円筒状の筒体20aを用いて抱持袋20を形成する場合について説明する。
円筒状の筒体20aの両端の開口部の近くには、それぞれ周方向に沿って内口紐25と外口紐26が挿通してある。
【0021】
円筒状の筒体20aをその中央部で折り返して有底の二重筒構造を呈する抱持袋20を形成する。内口23aの内方には中央穴11が形成されている。
抱持袋20を形成する際、内口紐25を絞り込んで抱持袋20の内口23aを縮径するとともに、外口紐26を緩めて外口24aを拡径しておく。環状空間21の上部の開口寸法は両口23a,24aの径差によって求められる。
【0022】
<2>中詰材の充填(
図3)。
抱持袋20の上部の開口を維持した状態で環状空間21の全域に満杯になるまで中詰材30を充填する。
中詰材30の充填量は抱持袋20の環状空間21を閉口したときに、抱持袋20で中詰材30を拘束し得る量とする。
また図示しない製作枠を使用して、抱持袋20の内口23aと外口24aを保持すると、中詰材30の充填作業を円滑に行える。
【0023】
<3>抱持袋の閉口(
図4,5)。
抱持袋20の内口23aと外口24aの間を周方向に沿って閉鎖紐27で縫合(連結)して土木工事用構造体Aの製作を完了する。抱持袋20を閉口手段で閉口することで、抱持袋20がシームレスチューブのような密封構造となって、環状を呈する中詰材30の全周面を抱持する。
土木工事用構造体Aは海洋または陸上における所望の土木工事に使用する。
なお、土木工事用構造体Aの中央穴11の径は、土木工事用構造体Aの使途に応じて適宜設定する。
また内口紐25と外口紐26は邪魔にならないように短く結んでおく。
【0024】
[土木工事用構造体の機能]
<1>抱持袋の破損防止(
図3)。
既述したように、本発明の土木工事用構造体Aは、従来と比べて抱持袋20による中詰材30の抱持面積を大きく確保できるから、中詰材30の自由な動きを確実、かつ効果的に拘束することができる。
したがって、中詰材30の自由な動きに起因した抱持袋20の摩耗を防止し、抱持袋20の耐久性が格段に向上する。
【0025】
例えば、巾着状の袋体に中詰材を満杯に詰め込み、袋体の上口を閉じた場合でも一塊状の中詰材の外周面を拘束することは可能であるが、袋詰めした中詰材と袋体との接触面積を大きく確保できない。そのために、中詰材の表層と中心部で拘束力にバラツキを生じる。
【0026】
これに対して本発明ではこの接触面積に着目し、袋体として環状の抱持袋20を使用するとともに、中詰材30も環状の形態に配置することで、中詰材30の全周面を抱持袋20で抱持する両部材20,30の抱持面積(拘束面積)を大きく確保するようにした。
本発明の土木工事用構造体Aと、巾着状の袋体に中詰材を詰め込んだ従来の土木工事用構造体とを比較した場合、両構造体の中詰材30が同量であれば、本発明の土木工事用構造体Aは従来と比べて中詰材30との抱持面積が格段に大きくなる。
したがって、土木工事用構造体Aでは、中詰材30の表層と中心部で抱持力にバラツキを生じないだけでなく、土木工事用構造体Aを海洋に設置した場合でも中詰材30の自由な変位を確実に拘束できるから、抱持袋20の摩耗による破損を長期間に亘って防止することができる。
【0027】
<2>土木工事用構造体の変形防止(
図4,5)。
土木工事用構造体Aのひとつの断面だけをとらえた場合、抱持袋20の大半は中詰材30の自重により緊張されるが、抱持袋20の上部は中詰材30の自重が作用しないため緊張されない。
そこで、抱持袋20の内口23aと外口24aの間を閉鎖紐27により締め付けると、内側面23と外側面24が緊張されて中詰材30をその中心部へ向けて抱持する。
閉鎖紐27による締め付け力は、抱持袋20の上半部が弛みのない状態で中詰材30を被覆できる程度の力でよい。
このように、抱持袋20はそのひとつの断面の全周に亘って緊張力が生じ、中詰材30は抱持袋20を介して全周に亘って抱持(拘束)される。
上記した抱持袋20による中詰材30の抱持(拘束)作用は、環状を呈する土木工事用構造体Aの全断面(全長)に亘って作用するため、環状を呈する中詰材30は抱持袋20によって面的に抱持(拘束)される。
したがって、土木工事用構造体Aはその断面形状だけでなく、全体形状も変形がし難いため、例えば大きな波浪が作用する現場へ土木工事用構造体Aを設置した場合でも、土木工事用構造体Aが設置場所から移動しにくい。
【0028】
<3>抱持袋の口開き防止。
抱持袋20の開口を閉鎖紐27で閉口することで、内口23aと外口24aとの間での荷重伝達が可能である。
したがって、土木工事用構造体Aの一部に作用した外力を抱持袋20の全体に分散できるので、抱持袋20の閉口部に外力が集中することがない。
よって、土木工事用構造体Aの設置後における抱持袋20の口開きを確実に抑止することができる。
【0029】
<4>抱持袋の再緊張。
土木工事用構造体Aの設置後に何らかの理由で、抱持袋20が弛むことが予想される。
このような場合には、例えば閉口手段(閉鎖紐27)を再度締め直すことで抱持袋20の弛みを解消できる。
すなわち、抱持袋20の内口23aと外口24aを締め付けて抱持袋20を再緊張して弛みをなくすことができる。
【0030】
<5>中央穴の作用。
ドーナツ状を呈する土木工事用構造体Aはその中心部に中央穴11を有している。
この土木工事用構造体Aを激流や巨大な波力が作用する海洋等の現場へ設置した場合に、中央穴11は以下に説明するように複数の有益な作用を発揮する。
【0031】
<5.1>揚力の低減作用。
上記した環境下に本発明の土木工事用構造体Aと、巾着状の袋体に同容量の中詰材を詰め込んだ従来の土木工事用構造体をそれぞれ設置した場合、中央穴の有無により土木工事用構造体に生じる揚力に大きな差が生じる。具体的に対比して説明する。
【0032】
中央穴を有しない座布団形状を呈する従来の土木工事用構造体では、水流に起因した揚力の作用面が土木工事用構造体の底面全面となる。
そのため、土木工事用構造体の総重量を、底面全面に作用する揚力に対向し得る重量にする必要があった。
【0033】
これに対し中央穴11を有する本発明の土木工事用構造体Aでは、水流に起因した揚力の作用する環状の底面積が従来と比べて小面積なると共に、中央穴11を通じて揚力を逃がすことができるので、土木工事用構造体Aの総重量を軽量化できて、土木工事用構造体Aの運搬性と取扱性がよくなる。
【0034】
尚、本発明と従来の土木工事用構造体が共に透水性を有していたとしても、経時的に目詰まりして土木工事用構造体の透水性が低下する。
したがって、中央穴11を有する本発明の土木工事用構造体Aでは、中央穴を有しない従来の土木工事用構造体と比較して揚力の影響を受け難いといった利点がある。
換言すれば、本発明の土木工事用構造体Aでは、中央穴を有しない土木工事用構造体と比べて、移動限界流速が増大する。
【0035】
<5.2>水流の減衰作用。
中央穴の有無により土木工事用構造体の抵抗に起因した粗度係数に大きな差を生じる。
【0036】
中央穴を有しない座布団形状を呈する従来の土木工事用構造体では、外面の凹凸が少ないフラット形状を呈するため、土木工事用構造体の粗度係数が小さく、水流に対して大きな減衰効果が得られない。
【0037】
これに対し、本発明の土木工事用構造体Aでは、中心部に窪んだ中央穴11を有するため、土木工事用構造体Aの粗度係数が従来と比べて大きくなって、水流に対して大きな減衰効果が得られる。
【0038】
<5.3>洗掘防止作用。
上記したように、中央穴11を有する本発明の土木工事用構造体Aでは、中央穴を有しない従来の土木工事用構造体と比較して水流の減衰作用が大きいために、土木工事用構造体Aの下流側の水底における洗掘防止効果が高い。
【実施例3】
【0042】
<1>巻装紐を追加した実施例。
図6,7を参照して、中央穴11を利用して抱持袋20の外周に巻き付け可能な巻装紐28を追加した実施例について説明する。
【0043】
<2>巻装紐。
巻装紐28は単数または複数の拘束部材であり、抱持袋20に巻き付け可能な長さと、中詰材30を拘束可能な強度を有する。
巻装紐28としては、ロープ材、ベルト材、バンド材等を使用できる。
巻装紐28の巻付け形態は、中央穴11を利用して抱持袋20の外周に巻装紐28を単独で巻付けるか、或いは螺旋状に巻き付ける。
巻装紐28の巻付け間隔は、
図6に示した等間隔に限定されず、巻付け間隔を適宜変えてもよい。
【0044】
<3>紐の兼用。
巻装紐28は専用でもよいが、内口紐25または外口紐26の何れか一方、また両方を兼用することも可能である。
内口紐25または外口紐26を巻装紐28に兼用する場合、予め抱持袋20に巻き付け可能な長さを確保しておく。
内口紐25または外口紐26を用いて、抱持袋20に巻き付けて中詰材30を締め付けることで、専用の巻装紐28を省略することができる。
【0045】
<4>本例の作用効果。
前述した実施例では、抱持袋20により環状の中詰材30全周面を抱持することで変形し難い環状拘束土30aを形成した。
本例にあっては、先の実施例1の効果に加えて、巻装紐28を追加配置することで、環状の環状拘束土30aを複数に区分して、巻装紐28で仕切られた区間の抱持力をさらに高めることができる。
そのため、先の実施例と比較して中詰材30の変位防止効果が高まるとともに、土木工事用構造体Aの全体形状がさらに変形し難くなる。
また巻装紐28が抱持袋20を外装して抱持袋20の変形やズレを拘束するので、抱持袋20の損傷防止効果も高まる。
本例の土木工事用構造体Aは、きわめて大きな載荷重や巨大な波力が作用する現場場に好適である。
【0046】
なお、巻装紐28の他の巻付け形態としては、中央穴11を通さずに抱持袋20の最外周を包囲するように図示しない巻装紐28を追加して巻き付ける場合もある。