(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355231
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】シリコン系蓄電池用負極材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20180702BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20180702BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20180702BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20180702BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/66 A
H01M4/70 A
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-24263(P2014-24263)
(22)【出願日】2014年2月12日
(65)【公開番号】特開2015-153495(P2015-153495A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年10月1日 日本化学会秋季事業 第3回CSJ化学フェスタ2013 プログラム・講演予稿集 [刊行物等] 平成25年11月2日 第44回中部化学関係学協会支部連合秋季大会講演予稿集
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
【審査官】
小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−238354(JP,A)
【文献】
特開2010−238652(JP,A)
【文献】
特開2004−228059(JP,A)
【文献】
特開2010−164659(JP,A)
【文献】
特開2010−236072(JP,A)
【文献】
特開2010−103061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
H01M 4/66
H01M 10/05−10/0587
H01G 9/00
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体表面に、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜が形成され、該銅膜の前記析出体間の空隙内に位置してシリコン粒子が固定されているシリコン系蓄電池用負極材料であって、
前記板状もしくは柱状の銅めっき析出体上にさらなる銅めっき皮膜が形成されて前記析出体間の前記空隙が狭められ、前記シリコン粒子がその表面の一部が露出するようにして、前記空隙内に閉じ込められ、固定されていることを特徴とするシリコン系蓄電池用負極材料。
【請求項2】
前記銅膜が硫酸銅めっきによる銅膜であることを特徴とする請求項1記載のシリコン系蓄電池用負極材料。
【請求項3】
前記さらなる銅めっき皮膜がピロリン酸銅めっきによるめっき皮膜であることを特徴とする請求項1または2記載のシリコン系蓄電池用負極材料。
【請求項4】
前記シリコン粒子は、500nm以下の大きさの粒状をなすことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のシリコン系蓄電池用負極材料。
【請求項5】
前記金属基体が銅箔であり、リチウムイオン電池用の負極材料であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のシリコン系蓄電池用負極材料。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のシリコン系蓄電池用負極材料を負極に用いたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項7】
界面活性剤を含む硫酸銅めっき液により、金属基体表面に銅めっきを施し、該金属基体表面に、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜を形成する工程と、
該銅膜の前記析出体間の空隙内に位置してシリコン粒子を固定する工程を含むシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法であって、
前記板状もしくは柱状の銅めっき析出体上にさらなる銅めっき皮膜を形成して前記析出体間の前記空隙を狭め、前記空隙内に位置する前記シリコン粒子をその表面の一部が露出するようにして、前記空隙内に閉じ込め、固定する銅めっき工程をさらに含むことを特徴とするシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法。
【請求項8】
前記さらなる銅めっき皮膜としてピロリン酸銅めっき皮膜を形成することを特徴とする請求項7記載のシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤にポリアクリル酸もしくはその塩を用いることを特徴とする請求項7または8記載のシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法。
【請求項10】
前記ポリアクリル酸もしくはその塩の濃度を、1×10-4M〜5×10-4Mとすることを特徴とする請求項9記載のシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法。
【請求項11】
前記銅膜を形成した金属基体を、シリコン粒子を分散させた電気泳動液中に浸漬し、シリコン粒子を電気泳動させて、前記銅膜の前記析出体間の空隙内にシリコン粒子を固定することを特徴とする請求項7〜10いずれか1項記載のシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池用負極材料として用いて好適なシリコン系蓄電池用負極材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用二次電池には、現在のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度の大きな蓄電池が必要とされている。現在のリチウムイオン電池の電極材料には、一般的に正極材料としてコバルト酸リチウム等の金属酸化物、負極材料としてグラファイトが使用されている。リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させるには現在の電極材料よりも比容量の大きな電極材料への変更が必要である。比容量の大きな負極材料としてシリコンが注目されている。シリコンはグラファイトの約10倍の比容量をもつ。しかし、シリコンはリチウムイオンの充放電時に大きな体積変化が起こり、場合によっては電極から脱離し、充放電特性が劣化する。充放電時のシリコンの体積変化による劣化を抑制できれば、充放電による特性劣化が低減され、有望な次世代リチウムイオン電池の負極材料となる。
【0003】
このため、充放電時のシリコンの体積変化を抑制する工夫が種々検討されている。
特許文献1には、ニッケルめっき皮膜中にシリコン粒子が混入している複合材料からなるリチウムイオン電池の負極材料について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−211264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の負極材料によれば、ニッケルめっき皮膜中にシリコン粒子が混入されているので、充放電時にシリコン粒子が脱落するのを好適に防止できる。
ところで、前記のように、シリコン粒子は充電時にリチウムイオンと反応して合金を形成し、理論上、体積が3.8倍にもなり、一方、放電時にはリチウムイオンを放出して体積が元に戻るという大きな体積変化が起こる。
特許文献1のように、シリコン粒子がニッケルめっき皮膜で覆われていると、上記体積変化を吸収しがたいという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、シリコン粒子の体積変化を良好に吸収でき、充放電特性に優れ、さらなる容量アップが可能なシリコン系蓄電池用負極材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシリコン系蓄電池用負極材料は、金属基体表面に、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜が形成され、該銅膜の前記析出体間の空隙内に位置してシリコン粒子が固定されているシリコン系蓄電池用負極材料
であって、前記板状もしくは柱状の銅めっき析出体上にさらなる銅めっき皮膜が形成されて前記析出体間の前記空隙が狭められ、前記シリコン粒子がその表面の一部が露出するようにして、前記空隙内に閉じ込められ、固定されていることを特徴とする。
前記銅膜を硫酸銅めっきによって形成することが
できる。
【0008】
前記銅めっき皮膜をピロリン酸銅めっきによるめっき皮膜とすることができる。
前記シリコン粒子に、500nm以下の大きさのものを用いると好適である。
前記金属基体を銅箔とし、リチウムイオン電池用の負極材料に好適に用いることができる。
また本発明に係るリチウムイオン電池は、負極材料に、上記いずれかの負極材料を用いたことを特徴とする。
【0009】
また本発明に係るシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法は、界面活性剤を含む硫酸銅めっき液により、金属基体表面に銅めっきを施し、該金属基体表面に、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜を形成する工程と、該銅膜の前記析出体間の空隙内に位置してシリコン粒子を固定する工程を含むシリコン系蓄電池用負極材料の製造方法
であって、前記板状もしくは柱状の銅めっき析出体上にさらなる銅めっき皮膜を形成して前記析出体間の前記空隙を狭め、前記空隙内に位置する前記シリコン粒子をその表面の一部が露出するようにして、前記空隙内に閉じ込め、固定する銅めっき工程をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
前記界面活性剤にポリアクリル酸もしくはその塩を用いることができる。
前記ポリアクリル酸もしくはその塩の濃度を、1×10
−4M〜5×10
−4Mとすると好適である。
また、前記銅膜を形成した金属基体を、シリコン粒子を分散させた電気泳動液中に浸漬し、シリコン粒子を電気泳動させて、前記銅膜の前記析出体間の空隙内にシリコン粒子を固定することができる。
【0011】
前記シリコン粒子を、ノニオン系界面活性剤を分散剤に用いて分散させた電気泳動液を用いることができる。
前記ノニオン系界面活性剤にポリエチレングリコールを用いることが
できる。
前記銅めっき皮膜としてピロリン酸銅めっき皮膜を形成することができる。
前記金属基体を銅めっきによって形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、
シリコン粒子が、板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜の空隙内に位置して固定されているので、該銅膜がクッション性を有し、充放電によるシリコン粒子の体積変化を良好に吸収し、シリコン粒子が破壊されることなく、銅膜中に保持されることから、
蓄電池に用いた際、充放電を繰り返しても、容量が劣化することが少なく、充放電特性に優れる
シリコン系蓄電池用負極材料を提供できる。
特に本発明によれば、
前記板状もしくは柱状の銅めっき析出体上にさらなる銅めっき皮膜が形成されて前記析出体間の前記空隙が狭められ、前記シリコン粒子がその表面の一部が露出するようにして、前記空隙内に閉じ込められ、固定されているので、リチウムイオン電池等の負極材料として用いたときに、シリコン粒子とリチウムイオンの接触性が良好であり、電極反応が良好に行われるシリコン系蓄電池用負極材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】銅膜の空隙内にシリコン粒子が進入した状態のSEM像である。
【
図3】銅膜の析出体上にピロリン酸銅めっき皮膜が形成された状態のSEM像である。
【
図4】負極材料の製造過程を示す概略的な説明図である。
【
図5】通電量27Cのものにおいて、PA−5000の濃度を0とした場合の、銅膜の表面と断面のFE−SEM像である。
【
図6】通電量27Cのものにおいて、PA−5000の濃度を1×10
−4Mとした場合の、銅膜の表面と断面のFE−SEM像である。
【
図7】通電量27Cのものにおいて、PA−5000の濃度を3×10
−4Mに振った場合の、銅膜の表面と断面のFE−SEM像である。
【
図8】通電量27Cのものにおいて、PA−5000の濃度を5×10
−4Mに振った場合の、銅膜の表面と断面のFE−SEM像である。
【
図9】通電量27Cのものにおいて、PA−5000の濃度を2×10
−3Mとした場合の、銅膜の表面と断面のFE−SEM像である。
【
図10】PA−5000の濃度を3×10
−4Mとし、通電量をそれぞれ14Cとした場合の銅膜の表面のFE−SEM像である。
【
図11】PA−5000の濃度を3×10
−4Mとし、通電量を27Cとした場合の銅膜の表面のFE−SEM像である。
【
図12】PA−5000の濃度を3×10
−4Mとし、通電量をそれぞれ54Cとした場合の銅膜の表面のFE−SEM像である。
【
図13】粉砕したシリコン粒子のFE-SEM像である。
【
図14】電気泳動によるシリコン粒子の付着前の銅膜のFE-SEM像である。
【
図15】電気泳動によるシリコン粒子付着後の銅膜のFE-SEM像である。
【
図16】ピロリン酸銅めっきにおける通電量14Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像である。
【
図17】ピロリン酸銅めっきにおける通電量27Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像である。
【
図18】ピロリン酸銅めっきにおける通電量41Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像である。
【
図19】ピロリン酸銅めっきにおける通電量54Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像である。
【
図20】各種リチウムイオン電池の放電容量のグラフである。
【
図21】ピロリン酸銅めっきにおける通電量14Cとしたリチウムイオン電池の充放電特性のグラフである。
【
図22】ピロリン酸銅めっきにおける通電量21Cとしたリチウムイオン電池の充放電特性のグラフである。
【
図23】ピロリン酸銅めっきにおける通電量41Cとしたリチウムイオン電池の充放電特性のグラフである。
【
図24】ピロリン酸銅めっきにおける通電量54Cとしたリチウムイオン電池の充放電特性のグラフである。
【
図25】ピロリン酸銅めっきにおける通電量14Cとしたリチウムイオン電池の5サイクル繰り返した充放電前後の銅膜表面のSEM像である。
【
図26】ピロリン酸銅めっきにおける通電量14Cとしたリチウムイオン電池の5サイクル繰り返した充放電前後の銅膜表面のSEM像である。
【
図27】ピロリン酸銅めっきにおける通電量14Cとしたリチウムイオン電池の5サイクル繰り返した充放電前後の銅膜表面のSEM像である。
【
図28】ピロリン酸銅めっきにおける通電量14Cとしたリチウムイオン電池の5サイクル繰り返した充放電前後の銅膜表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
本実施の形態に係るシリコン系蓄電池用負極材料(以下、リチウムイオン電池用負極材料として説明する)は、金属基体表面に、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜が形成され、該銅膜の前記析出体間の空隙内に位置してシリコン粒子が固定されていることを特徴としている。金属基体としては、圧延銅箔、電解銅箔などを用いることができる。
【0015】
前記銅めっき析出体からなる銅膜は、金属基体に硫酸銅めっきを施すことによって良好に形成できる。例えば、電解銅めっきによって電解銅箔を形成し、次いで、硫酸銅めっきを施して上記銅めっき析出体からなる銅膜を形成することによって、連続した銅めっきによって、電荷銅箔および銅膜を形成できる。
硫酸銅めっき液は、ポリアクリル酸もしくはその塩等の、界面活性剤を添加した硫酸銅めっき液が好適である。ポリアクリル酸を添加することにより、析出する銅析出体にポリアクリル酸の膜が形成され、これにより析出物の成長端がほぼ先端部のみとなる。
【0016】
その結果、析出物は厚み方向にはそれほど成長せず、長さ方向に成長することから、析出体は、
図1に示すように、板状もしくは柱状となる。
そしてこの析出体からなる銅膜は、
図1に示すように、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する、複雑で高比表面積の銅膜となる。銅膜の厚さは3〜4μmである。また、銅膜の表面は、析出体間に開口部を有し、この開口部の大きさは
図1に示すように、0.5〜2μm程度のものとなる。上記のような構造の銅膜となるため、該銅膜は高比表面積のものとなり、良好な電極反応が行えることとなる。
なお、ポリアクリル酸もしくはその塩の添加量は、1×10
−4M〜5×10
−4M程度が好ましい。この添加量の範囲で、上記形態の析出体が好適に得られる。
【0017】
そして、本実施の形態に係るリチウムイオン電池用負極材料は、上記のように、析出体間の空隙内に位置してシリコン粒子が固定されてなる。
このように、前記空隙内にシリコン粒子を固定するには、単に銅膜の上から、シリコン粒子を振りまいて、析出体間の開口部から、空隙内にシリコン粒子を落とし込むようにしてもよい。
あるいは、以下に示すように、電気泳動法によりシリコン粒子を上記空隙内に固定するようにしてもよい。
【0018】
本実施の形態において実施した電気泳動法について説明する。
まず、市販のシリコン粒子をボールミルにて粉砕し、粒径が0.5μm(500nm)以下となるように調整するとよい。
このように調整したシリコン粒子を、ノニオン系の界面活性剤を分散剤として用いて、水に分散させ、電気泳動液を作成する。ノニオン系の界面活性剤としては、ポリエチレングリコールが好適であった。ポリエチレングリコールの量は、
1.7×10-1M〜1.7×10
-4M程度が良好である。このポリエチレングリコールを分散剤として用い、かつシリコン粒子を500nm以下の粒径に調整することで、分散媒(水)に良好に分散させることができる。
このように、シリコン粒子を分散した電気泳動液中に、上記銅膜を形成した金属基板を浸漬し、対極に銅板を用い、電圧を印加することにより、シリコン粒子が金属基体方向に移動し、銅膜の上記空隙内に進入させることができた(
図2)。シリコン粒子は、銅膜の開口部から確認できる。
【0019】
次に、本実施の形態では、銅膜の上記空隙内に進入したシリコン粒子を空隙内に固定する処理をした。
本実施の形態では、上記シリコン粒子を固定する処理として、銅膜の析出体上にさらなる銅めっきを施した。これにより、板状もしくは柱状の析出体上に銅めっき皮膜が形成されて厚さが増し、その結果、析出体間の空隙が狭まり、該空隙内に進入したシリコン粒子は該空隙内に閉じ込められ、空隙内に固定されることになる。なお、この場合にあっても、シリコン粒子の表面の一部は露出している。このようにシリコン粒子の表面の一部が露出していることから、リチウムイオン電池の負極材料として用いたときに、シリコン粒子とリチウムイオンの接触性が良好であり、電極反応が良好に行われる。
【0020】
銅膜の析出体上にさらに形成する銅めっき皮膜はピロリン酸銅めっき皮膜が好適である。ピロリン酸銅めっきは、めっき皮膜の均一電着性に優れ、銅析出体の厚さを均一に増加させることから、シリコン粒子を上記空隙内に良好に閉じ込めることができる。また、シリコン粒子と、銅めっき皮膜が形成された析出体との接触性が良好となり、シリコン粒子への導電性が良好になる。この状態を
図3に示す。
なお、銅めっき皮膜はピロリン酸銅めっきによるものでなくともよい。他の銅めっきの場合、電流が集中する析出体の先端に厚く皮膜が形成される傾向にある。これによっても、シリコン粒子を上記空隙内に閉じ込めることができる。
【0021】
図4は、以上の工程を示す概略図である。
まず、
図4(a)に示すように、銅箔等の金属基体10上に上記構造の銅膜12を形成する。
そして、
図4(b)に示すように、この銅膜10の析出体間の空隙内に、所要大きさに調整したシリコン粒子14を電気泳動法等によって進入させる。
次に、銅膜10の析出体上にピロリン酸銅めっき皮膜等の銅めっき皮膜を形成して、析出体を太らせ、シリコン粒子14を上記空隙内に閉じ込めるのである。
なお、シリコン粒子14を上記空隙内に閉じ込める手段はめっきによるものでなくともよい。
【0022】
本実施の形態に係るリチウムイオン電池負極材料およびこれを用いたリチウムイオン電池は、シリコン粒子を活物質として用いたので、大容量のリチウムイオン電池を提供できる。また、シリコン粒子は、銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する銅膜の空隙内に位置して固定されているので、該銅膜がクッション性を有し、充放電によるシリコン粒子の体積変化を良好に吸収し、シリコン粒子が破壊されることなく、銅膜中に保持されることから、充放電を繰り返しても、容量が劣化することが少なく、充放電特性に優れるリチウムイオン電池を提供できる。
なお、シリコンは半導体であり、導電性がないので、通常は導電助材を添加したりするが、本実施の形態では、シリコン粒子に銅めっき皮膜が直接接触しているので、導電助材を添加しなくとも、負極材料としての導電性を確保できる。
なおまた上記では、リチウムイオン電池の負極材料として説明したが、ナトリウムイオン電池などの負極材料としての利用も期待される。
【実施例】
【0023】
1.硫酸銅めっき
硫酸銅めっき液の組成例を次に示す。
CuSO
4・5H
2O 0.85M
H
2SO
4 0.55M
ポリアクリル酸 0〜2×10
−3M
(分子量5000:以下PA−5000)
上記硫酸銅めっき液を用い、下記条件で銅箔上に電解銅めっきを行った。
アノード・カソード:銅板
温度:室温
撹拌:なし
電流密度:1A/dm
2
通電量:14〜54C
【0024】
図5〜
図9に、通電量27Cのものにおいて、PA−5000の濃度を0〜2×10
−3Mに振った場合の、銅膜の表面と断面のFE−SEM像を示す。
図5からわかるように、PA−5000が含まれない場合には、前記構造の銅膜12は全く得られず、また
図9に示すように、PA−5000の量があまり多くても、上記構造の銅膜が得られない。
結局PA−5000の濃度は、1×10
−4〜5×10
−4Mの時に、高比表面積の上記構造の銅膜が得られた。特に形状的に、
図7に示すように、PA−5000の濃度が3×10
−4Mの場合が最適であった。
【0025】
図10〜
図12に、PA−5000の濃度を3×10
−4Mとし、通電量をそれぞれ14C、27C、54Cとした場合の銅膜の表面のFE−SEM像を示す。
図10〜
図12からわかるように、通電量に係らず、板状もしくは柱状の析出体は、その厚さは変わらずに、長さ方向に成長する。また析出体の成長に伴い、銅膜の表面の隙間(開口部)が大きくなることがわかる。
以上から、PA−5000により銅の析出が抑制されることがわかる。
すなわち、PA−5000が被めっき物の表面に吸着され、吸着されたPA−5000の隙間から銅が析出し、そしてこの析出物にもPA−5000が吸着され、これにより特定方向(先端方向)にめっき膜が成長し、複数の板状もしくは柱状の銅めっき析出体が三次元空間内で交錯し、該析出体間に空隙を有する、高比表面積の銅膜が得られる。
【0026】
2.シリコン粒子の固定
2−1.電気泳動液の調整
まず、ケイ素粉末(関東化学製)をボールミルで粉砕し、シリコン粒子を調整した。
図13に、粉砕したシリコン粒子のFE-SEM像を示す。
このシリコン粒子を、分散剤としてポリエチレングリコールを添加した水中に分散させて電気泳動液を調整した。シリコン粒子は、粒径500nm以下のものが分散が良好で、粒径が500nmよりも大きくなると、凝集が見られた。また、ポリエチレングリコールの濃度は、1.7×10
−1〜1.7×10
−4M程度が良好であった。
2−2.電気泳動
上記銅膜を形成した電解銅箔(金属基体)を、シリコン粒子を分散させた上記電気泳動液中に浸漬し、対極を銅板とし、室温下、電圧を3Vとして、15分間電気泳動させた。
図14は電気泳動前の銅膜のFE-SEM像、
図15(
図2と同じ)は電気泳動後の銅膜のFE-SEM像である。電気泳動により、シリコン粒子は、銅膜の析出体間の空隙内に移動し、付着していることがわかる。
【0027】
3.銅めっきによるシリコン粒子の固定
上記シリコン粒子を付着(仮固定)させた後、銅膜の銅めっき析出体上にピロリン酸銅めっきを施し、ピロリン酸銅めっき皮膜を形成した。
ピロリン酸銅めっき液の組成例を次に示す。
Cu
2P
2O
7・4H
2O 0.21M
K
4P
2O
7 0.88M
アンモニウム水(28%) 3mg/L
上記ピロリン酸銅めっき液を用い、下記条件で銅箔上に電解銅めっきを行った。
アノード:銅板
pH:8.6〜9.0(硝酸)
温度:50℃
撹拌:なし
電流密度:2A/dm
2
通電量:14〜54C
【0028】
図16は通電量14Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像、
図17は通電量27Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像、
図18は通電量41Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像、
図19は通電量54Cの場合の銅膜の表面および断面のFE−SEM像である。シリコン含有量はXRFにより測定した。
図16〜19に示すように、通電量を増大させるとともに、板状もしくは柱状の析出体の厚さが増し、析出体間の間隔が狭まっていくことがわかる。すなわち、銅膜は膜内に空隙を保持し、かつシリコン粒子が析出体間の空隙内に閉じ込められたものとなる。
上記各種の負極材料を用いたリチウムイオン電池を作製した。
図20にこれらリチウムイオン電池の放電容量のグラフを示す。また、
図21〜
図24に充放電特性のグラフを示す。
図20〜
図24から明らかなように、通電量が14C、27Cおよび41Cの場合に十分な容量の充電が行える。通電量が54Cの場合には、ピロリン酸めっき皮膜が厚く形成され、シリコン粒子の露出度が少なくなることから、充電量が少なくなると考えられる。
【0029】
また、
図20からわかるように、放電容量は、通電量が少ないと次第に低下していく傾向にある。これは、充放電を繰り返すことによって、シリコン粒子が少しずつ脱落していくからと考えられる。
しかし、通電量が41Cのもの、54Cのものでは、逆に放電容量は増大していく。すなわちサイクル特性は向上する。これは、充放電を繰り返すことによって、ピロリン酸めっき皮膜に割れが生じ、シリコン粒子が次第に露出していくからと考えられる。
【0030】
表1に、充放電5サイクル後の、容量の保持率を示す。
【表1】
なお、Siの理論容量は4200mAh/gである。
表1からも明らかなように、通電量が少ないと容量は低下していく。通電量が多いほどサイクル特性は向上する。
【0031】
図25〜
図28に、5サイクル繰り返した充放電前後の銅膜表面のSEM像を示す。
銅膜の構造に大きな変化はなく、高比表面積の構造が維持されているが、通電量41Cと54Cのものでは、5サイクル後、ピロリン酸銅めっき皮膜に割れが見られ、隙間(開口部)が大きくなっている。
通電量27Cのものが、5サイクル後もシリコン粒子が多く残っている。
【符号の説明】
【0032】
10 金属基体、12 銅膜、14 シリコン粒子