(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業車両においては、所定稼働時間(例えば2000時間)ごとにオーバーホールを行なう。このオーバーホールの際等に、回転電機の軸受に給脂を行なう。この給脂は、グリースガンのような手動式の給脂具か、あるいは動力を用いた自動式給脂装置を用いて、供給するグリースに圧力をかけながら給脂口から給脂流路を通して軸受本体にグリースを供給する。しかしながら、従来の構成によると、この給脂を行なう際に、排出口がカバーにより閉塞されていると、グリースの供給圧力によりグリースが回転電機内等に侵入し、回転電機あるいは周辺機器に悪影響を与えるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み、グリース供給時において、グリースが回転電機内等に侵入するおそれがない作業車両用回転電機の給脂装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の作業車両用回転電機の給脂装置は、
軸受ハウジングに設けられ、グリースを軸受本体に供給する給脂流路と、
軸受ハウジングに設けられ、グリースを軸受本体から外部に排出する排出流路と、
前記排出流路に繋がる排出口と、
前記排出口を開閉可能に覆うカバーと、
前記給脂流路に繋がる給脂口とを備え、
前記排出口を前記カバーで覆った状態において、前記給脂口の先端の少なくとも一部が前記カバーで覆われることにより、給脂が不可能であり、
前記カバーの取外し、または前記カバーの前記排出口を覆った状態からの変位により、給脂が可能となる配置構造
を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2の作業車両用回転電機の給脂装置は、請求項1に記載の作業車両用回転電機の給脂装置において、
前記給脂口と前記排出口と
が隣接させて設け
られていることを特徴とする。
【0008】
請求項3の作業車両用回転電機の給脂装置は、請求項1または2に記載の作業車両用回転電機の給脂装置において、
前記軸受ハウジングに、前記排出流路に連続する排出口
が設け
られると共に、軸受ハウジングにおける前記排出口から離れた個所に給脂流路
が設け
られ、
前記給脂口と前記給脂流路と
が給脂配管により接続
されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4の作業車両用回転電機の給脂装置は、請求項1または2に記載の作業車両用回転電機の給脂装置において、
前記給脂流路と前記給脂口とを接続する給脂配管と、
前記排出流路と前記排出口とを接続する排出配管と、
前記給脂口および前記排出口を取付けた取付け部材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項5の作業車両用回転電機の給脂装置は、
給脂装置を適用する回転電機がエンジンに直結された発電機または発電電動機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、軸受にグリースを供給する給脂時には、カバーを動かしてグリースの排出口を開放しなければ給脂ができないため、排出口がカバーで閉塞されたまま給脂を行なう事態の発生が回避される。このため、カバーで排出口が閉塞されたままで給脂した場合における軸受から回転電機内等へのグリースの侵入が防止され、グリースの侵入による汚れの発生や回転電機や周辺機器への悪影響を防止することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、給脂口と排出口とを隣接させて設けたので、給脂時にグリースの排出を容易に確認できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、給脂口と給脂流路とを給脂配管により接続したので、軸受への給脂にとって好ましい給脂口と排出口との配置、すなわち給脂口と排出口とを離れた位置に配置した場合であっても、給脂口と排出口とを目視や給脂作業にとって好適な個所に設けることができ、給脂作業やカバーの着脱が容易となる。
【0014】
請求項4の発明によれば、軸受ハウジングに備える給脂流路および排出流路の配置個所と異なる個所に取付け部材を設け、その取付け部材に給脂口と排出口とを設け、その給脂口と排出口とを、軸受ハウジングに備えられている給脂口と排出口とにそれぞれ給脂配管および排出配管により接続したので、給脂口と排出口を目視や給脂作業にとってより好適な個所に設けることができ、給脂作業やカバーの着脱がさらに容易となる。
【0015】
請求項5の発明は、エンジンからの熱的影響が大きな発電機または発電電動機に本発明の給脂装置を適用したものであり、このような回転電機はグリースの劣化が進行しやすく、比較的グリースの供給頻度が高いため、より重要な効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の給脂装置を適用する作業車両であるホイルローダにおけるフレーム上の回転電機を含む機器の配置の一例を示す側面図である。ホイルローダとは、車両の前部に油圧シリンダにより起伏可能にブームを取付け、ブームの前端に油圧シリンダにより上下に回動可能にバケットを取付けた構成を有する。そして、ブームおよびバケットを下げた姿勢で車両の前進により土砂等にバケットを食い込ませて土砂等をバケット内に積込み、その後バケットを上向きに回動させ、さらにブームを上げた状態にして車両を搬送させ、トラックの荷台に土砂等を積み込むかあるいは集積個所に土砂等を集積させるものである。
【0018】
図1において、1はホイルローダの車体フレームであり、1aは車両の前後方向に見て前側、1bは後側である。車体フレーム1上にはエンジン2と、エンジン2の回転力を受けて駆動される発電電動機3と、発電電動機3に直結された油圧ポンプ4とを備える。発電電動機3は、エンジン2により駆動されて発電し、不図示の蓄電器に充電したり、蓄電器からの電力の供給を受けて電動機として油圧ポンプ4を駆動することにより、燃費の向上を図る。
【0019】
図2は本発明による給脂装置の一実施の形態を示す斜視図、
図3は
図2の要部拡大斜視図である。発電電動機3の本体部3aにおける
図1に示したエンジン2側にはエンジン2にボルト5により結合するフランジ3bを一体に有する。6は発電電動機3におけるエンジン2の反対側に設けた軸受である。
【0020】
この軸受6は後述の
図5(本発明の他の実施の形態を示す。)に示すものと基本構想が同じとなる転がり軸受である。
図5に示すように、この軸受6は、軸受ハウジング6aと軸受本体6dとからなり、軸受本体6dは内輪6xと外輪6yとの間に転動体(図示のような球体またはコロ)6zを介在させて構成する。そして軸受ハウジング6aに設けた貫通孔6bに回転軸12を回転可能に貫挿し、この回転軸12に軸受本体6dの内輪6xを固定し、軸受ハウジング6aの端部に設けた大径の孔6cに外輪6yを固定して軸受本体6dを軸受ハウジング6aに取付ける。
【0021】
軸受ハウジング6aには給脂流路13と排出流路14とを有する。
図5に示す矢印は給脂時におけるグリースの流れを示しており、軸受本体6dと端板8との間にはグリースを通す隙間36を有する。回転軸12の端部には、後述のように油圧ポンプ4に結合する円筒部12aを有する。
【0022】
図2、
図3に示すように、軸受ハウジング6aには一体のフランジ6eを有し、このフランジ6eをボルト7により発電電動機3の本体部3aに固定することにより、軸受6が発電電動機3の本体部3aの端部に取付けられる。端板8は油圧ポンプ4の取付け板を兼ねたものであって、この端板8は軸受ハウジング6aにボルト9により固定される。
【0023】
図3に示すように、端板8には複数のねじ孔8aを有し、
図2に示すように、油圧ポンプ4の端部のフランジ4aの孔に貫挿するボルト10を、端板8のねじ孔8aを螺合することにより、軸受6の端板8に油圧ポンプ4を結合する。
図3において、8bは端板8の中央に設けた円孔であり、この円孔8b内に発電電動機3の回転軸12と一体の円筒部12aを貫挿する。この円筒部12aは内部にスプライン溝12bを有するものであり、油圧ポンプ4の入力軸であるスプライン軸(図示せず)をこのスプライン溝12bを有する孔に嵌合して油圧ポンプ4の入力軸を回転軸12に結合する。
【0024】
図3において、13は
図5(A)に示したように、軸受ハウジング6aの一方の側面に設けたグリースの給脂流路、15は軸受ハウジング6aにおける給脂流路13の反対側の側面に溶接またはボルト等の固定具を用いて固定した排出口形成体であり、軸受6から排出されるグリースの排出口15aを設けたものである。この排出口15aは
図5(A)に示した排出流路14に連通する。16はこの排出口形成体15の下部側面に取付けたグリース供給用の給脂口であり、この例ではニップルにより構成している。この給脂口16は、その先端を軸受6の半径方向に見て外向きにして取付ける。
【0025】
18は給脂流路13と給脂口16とを接続する給脂配管であり、その一端を、給脂流路13に固定した配管19に継手20により接続し、他端を、排出口形成体15に継手21により結合し、その継手21の内部と給脂口16の内部とを、排出口形成体15に設けたL字形の流路15bにより連通させる。
【0026】
24は排出口15aを開閉可能に閉塞するカバーであり、このカバー24は排出口形成体15にボルトやねじ等の固定具25によって着脱可能に取付ける。このカバー24は、これを排出口形成体15に取付けた状態において、給脂口16にグリースガン(図示せず)のような手動式給脂具や動力を用いた給脂装置等の給脂手段による給脂が不可能となるように、カバー24によって給脂口16の先端の少なくとも一部を覆うように、カバー24を給脂口16に対して当接または非当接状態で取付ける。
【0027】
図1に示すように、車体フレーム1の側板1cにおける発電電動機3の軸受6に対応する部分には、グリース交換等のメンテナンス作業のための開口部26が設けられている。
図4(A)に示すように、排出口15aを閉塞するカバー24はこの開口部26に対面しており、排出口形成体15にカバー24を取付けた状態においては、カバー24が邪魔になって給脂が不可能である。一方、
図4(B)に示すように、カバー24を取外した状態においては、給脂口16が開口部26側に露出し、給脂を行なうことが可能となる。
【0028】
なお、給脂時は、カバー24を取外した状態において、排出口15aからのグリースの排出を確認することにより、グリースの交換を確認することができる。
【0029】
このように、本実施の形態においては、軸受6にグリースを供給する給脂時には、カバー24を取外してグリースの排出口15aを開放しなければ給脂ができないため、排出口15aがカバー24で閉塞されたまま給脂を行なう事態の発生が回避される。このため、カバー24で排出口15aが閉塞されたままで給脂した場合における軸受6から発電電動機3内、あるいは油圧ポンプ4のような周辺機器等へのグリースの侵入が防止され、グリースの侵入による汚れの発生や回転電機を含む周辺機器への悪影響を防止することができる。
【0030】
また、本実施の形態においては、給脂口16と排出口15aとを隣接させて設けたので、給脂時にグリースの排出を容易に確認できる。
【0031】
また、本実施の形態によれば、給脂流路13と給脂口16とを給脂配管18により接続したので、軸受6への給脂にとって好ましい給脂流路13と排出口15aとの配置、すなわち給脂流路13と排出口15aとを離れた位置に配置した場合であっても、給脂口16と排出口15aとを目視や給脂作業にとって好適な個所に設けることができ、給脂作業やカバーの着脱が容易となる。
【0032】
なお、図示例では排出口形成体15に給脂口16を設けた例を示したが、排出口形成体15と異なる部材に給脂口16を設けてもよい。また、カバー24は
排出口形成体15に回動可能あるいはスライド可能、すなわち変位可能に取付けることにより、排出口15aを開閉可能としてもよい。
【0033】
図5は本発明の給脂装置の他の実施の形態である。
図5(A)に示す軸受6の断面構造は前述の通りである。本実施の形態においては、軸受ハウジング6aに設けた給脂流路13、排出流路14にそれぞれ給脂配管28、排出配管29の一端を接続し、これらの配管28,29の他端を、
図5(B)、(C)に示す取付け部材30に取付ける。この取付け部材30は、給脂に好適な場所である例えば軸受ハウジング6aの上面や側面あるいは発電電動機3の本体部3a等のような、軸受6の給脂流路13や排出流路14と異なる個所に設定した取付け面32にボルトやねじ等の固定具31により取付ける。また、この取付け部材30は既存の板材等の部材であってもよい。
【0034】
取付け部材30は、取付け面32に取付けるL字形の板状部30aと、この板状部30aの片面に一体に設けたボックス部30bとを有する。ボックス部30bは、仕切り板30cにより上下の部屋30d,30eに仕切り、上側の部屋30d内に給脂配管28の端部に接続した給脂口(ニップル)16を設け、下側の部屋30e内に、排出配管29の端部を接続する排出口29aを設ける。33はこのボックス部30bの開口面に取付けられて部屋30d,30eを閉塞するカバーであり、このカバー33はボルトやねじ等の固定具34によりボックス部30bに着脱可能に固定される。35はボックス部30bとカバー33との間に設けたシール材であり、通常時に排出口29aからボックス部30b内の下側の部屋30eからグリースが外部に漏出することを防止するものである。
【0035】
図5の実施の形態によれば、軸受ハウジング6aに設けた給脂流路13および排出流路14の配置個所と異なる個所に設けた取付け部材30に、給脂口16と排出口29aとを設け、給脂口16と排出口29aとを、軸受ハウジング6aに備えられている給脂流路13と排出流路14とにそれぞれ給脂配管28,排出配管29により接続したので、給脂口16と排出口29aを目視や給脂作業にとってより好適な個所に設けることができ、給脂作業やカバーの着脱がさらに容易となる。
【0036】
なお、
図5(B)、(C)の例においては、給脂口16と排出口29aの両者にそれぞれ部屋30d,30eを設けたが、排出口29aだけを部屋30eで囲い、給脂口16の周囲には部屋30dを設けず、カバー33を取付けている場合には、給脂口16からの給脂がカバー33が障害となって不可能になる配置構造としてもよい。
【0037】
図6は本発明による給脂装置の他の実施の形態を示すもので、
図6(A)は軸受の端面図、
図6(B)は
図6(A)のF−F断面図、
図6(C)は給脂口および排出口の構造を示す平面図である。本実施の形態は、軸受ハウジング6aにおける隣接する個所に給脂流路13と排出流路14とを設け、給脂流路13には給脂口(ニップル)16を設け、給脂口16と排出流路14の開口部である排出口14aとをボックス部37で囲う構造とする。また、ボックス部37内に仕切り38を設けて給脂口16を囲う部屋37aと排出口14aを囲う部屋37bとを形成する。
【0038】
39はボックス部37の開口面を覆うカバーである。軸受ハウジング6aの円周方向におけるボックス部37の両端にはこのカバー39の取付け座40を設ける。そしてカバー39をボルトやねじ等の固定具41により取付け座40に固定することにより、部屋37a,37bをカバー39により閉塞する。42はボックス部37とカバー39との間に設けたシール材であり、通常時に排出口14aから漏れるグリースが外部に流出することを防止するものである。
【0039】
軸受ハウジング6aの端面と端板8との間には隙間36が形成されており、カバー39を取外して給脂する際には、矢印に示すように、給脂口16から供給されるグリースはその隙間36を通り、軸受本体6dを経由して排出流路14に至り、排出口14aから部屋37bを経て外部に流出する。この給脂の場合も回転軸12を回転させながら給脂することにより、グリースを軸受本体6dの全体に充填することができる。
【0040】
本実施の形態においても、カバー39を取外さなければ給脂は不可能となるので、カバー39で排出口14aが閉塞されたままで給脂した場合における軸受6から発電電動機3や油圧ポンプ4内等へのグリースの侵入が回避され、グリースの侵入による汚れの発生や発電電動機3を含む周辺機器への悪影響を防止することができる。また、
図6の実施の形態においては、給脂口16と排出口14aとを隣接させて設けたので、給脂時にグリースの排出を容易に確認できる。
【0041】
図6の実施の形態においても、排出口14aだけを部屋37bで囲い給脂口16の周囲には部屋37aを設けず、カバー39を取付けている場合には、給脂口16からの給脂がカバー39により邪魔される構造としてもよい。
【0042】
図7は本発明の給脂装置の他の実施の形態を示すもので、油圧ポンプ4を結合しない発電電動機3または発電機もしくは電動機に適用されるものである。
図7(A)は軸受6の平面図、
図7(B)は軸受6の端面図、
図7(C)は
図7(A)のG−G断面図である。
【0043】
図7の実施の形態においては、軸受ハウジング6aの外周の一部(図示例では上部)に給脂流路13を設け、軸受ハウジング6aの外周における給脂流路13の反対側(図示例では下部)に排出流路14および排出口14aを設ける。給脂流路13に給脂口(ニップル)16を設けると共に、軸受ハウジング6aの上面には給脂口16を囲うボックス部43を形成する。44は排出口14aとボックス部43とを同時に閉塞するカバーであり、このカバー44は側面視がコ字形をなす。45はボックス部43に軸受6の軸方向に隣接して設けたカバー44の取付け座45である。カバー44は、この取付け座45に取付ける固定具46によりカバー44の上板部44aを固定して取付ける。この取付け状態では、下板部44bが排出口14aを閉塞する。44cはカバー44を軸受6に着脱するための把手である。
【0044】
本実施の形態においても、カバー44を取外して排出口14aを露出させなければ給脂口16から給脂を行なえず、排出口14aが閉塞されたままでの給脂は不可能となるので、カバー44で排出口14aが閉塞されたままで給脂した場合における軸受6から発電電動機3や油圧ポンプ4内等へのグリースの侵入が回避され、グリースの侵入による汚れの発生や発電電動機3を含む周辺機器への悪影響を防止することができる。
【0045】
本発明はホイルローダ以外の油圧ショベルやその応用機械等の発電機、発電電動機、電動機等の回転電機の軸受の給脂装置として用いることができる。特にエンジンに直結されてエンジンからの熱を受ける発電機や発電電動機のような回転電機の場合、グリースの劣化が進行しやすく、グリースの交換頻度が高くなるので、本発明は重要な効果を発揮することができる。
【0046】
上記各実施の形態においては、カバー24,33,39,44を取外すことによりニップル16からの給脂が可能となる構成としたが、これらのカバー24,33,39,44を回動させたり、スライドさせる等の変位をさせることにより、給脂口16からの給脂ができるように構成してもよい。また、給脂口16は逆止弁を内蔵するニップルによって構成するのではなく、給脂口をねじ式あるいはピン式に嵌合する栓によって閉塞する構造としてもよい。また、本発明を実施する場合は、上記の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。