特許第6355257号(P6355257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355257
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】ゴム摩擦試験方法及びゴム摩擦試験機
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/02 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01N19/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-234405(P2014-234405)
(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-99151(P2016-99151A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吹田 晴信
【審査官】 野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−221990(JP,A)
【文献】 特開2001−356088(JP,A)
【文献】 特開2011−149870(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0085987(US,A1)
【文献】 特開2003−182475(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3123589(JP,U)
【文献】 特開2011−180096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム試験片を第1の入力荷重Fzで氷路面に押し当てながら走行させ、走行時の出力荷重Fz’を計測する予備試験の工程と、
前記第1の入力荷重Fz及び前記出力荷重Fz’に基づいて第2の入力荷重を算出する荷重調整の工程と、
ゴム試験片を前記第2の入力荷重で前記氷路面に押し当てながら走行させる本試験の工程と、を備え、
前記荷重調整の工程は、前記第1の入力荷重Fzから前記出力荷重Fz’を差し引いて得られる値αを求める第1の段階と、α>0の場合に前記第2の入力荷重を(Fz+α)として算出し、α<0の場合に前記第2の入力荷重を(Fz−α)として算出する第2の段階とを含むゴム摩擦試験方法。
【請求項2】
前記荷重調整の工程が、前記第1の段階後で且つ前記第2の段階前に、前記値αの絶対値|α|を所定の基準値Vsと比較する第3の段階を有し、|α|>Vsの場合には前記氷路面の平滑度を調整する第4の段階に移行し、そうでない場合には前記第2の段階に移行する請求項1に記載のゴム摩擦試験方法。
【請求項3】
前記第4の段階では、α>0の場合には前記氷路面に給水し凍結させることにより、α<0の場合には前記氷路面を研磨することにより、前記氷路面の平滑度を調整する請求項2に記載のゴム摩擦試験方法。
【請求項4】
前記第4の段階後に前記予備試験の工程からやり直す請求項2または3に記載のゴム摩擦試験方法。
【請求項5】
設定された入力荷重でゴム試験片を氷路面に押し当てる荷重装置と、
氷路面に押し当てられた前記ゴム試験片を走行させる駆動装置と、
ゴム試験片に作用する出力荷重を計測する計測装置と、
前記ゴム試験片を第1の入力荷重Fzで氷路面に押し当てながら走行させた際に、前記第1の入力荷重Fz及び前記計測装置により計測された出力荷重Fz’に基づいて第2の入力荷重を算出する演算部と、前記ゴム試験片を前記第2の入力荷重で氷路面に押し当てるように前記荷重装置を制御する作動制御部とを有する制御装置と、を備え、
前記演算部は、前記第1の入力荷重Fzから前記出力荷重Fz’を差し引いて得られる値αを求め、α>0の場合には前記第2の入力荷重を(Fz+α)として算出し、α<0の場合には前記第2の入力荷重を(Fz−α)として算出するゴム摩擦試験機。
【請求項6】
前記制御装置が、前記値αを求めた後で且つ前記第2の入力荷重を算出する前に、前記値αの絶対値|α|を所定の基準値Vsと比較し、|α|>Vsの場合には前記氷路面の平滑度を調整するための路面調整装置を作動させるように制御し、そうでない場合には前記第2の入力荷重を算出する請求項5に記載のゴム摩擦試験機。
【請求項7】
前記路面調整装置は、α<0の場合において前記氷路面を研磨することにより前記氷路面の平滑度を調整する請求項6に記載のゴム摩擦試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の氷上摩擦特性を評価するためのゴム摩擦試験方法及びゴム摩擦試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用タイヤなどのゴム製品に採用するゴム材料の氷上摩擦特性を評価するため、屋内に設置される試験機を用いて、ゴム試験片を氷路面に押し当てながら走行させるゴム摩擦試験が実施されている。ゴム摩擦試験の具体的な方法や、それに使用される試験機は、例えば特許文献1〜3に開示されている。通常、氷路面は、水を薄く張って凍らせる作業を何度も繰り返すことによって作製され、ゴム試験片を走行させる区間に設置される。
【0003】
上記のようなゴム摩擦試験においては、氷路面の性状が評価精度に大きく影響する傾向にある。特に、凹凸が顕著な氷路面では、ゴム試験片が所定の入力荷重で押し当てられていても、そのゴム試験片に実際に作用する出力荷重が入力荷重から乖離したものになり、所望の荷重条件が実現されないことで評価精度が悪化する。この問題は、殆ど凹凸のない平滑度に優れた氷路面を作製することで解消されるが、そのような氷路面の作製は困難であるため現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−215038号公報
【特許文献2】特開2010−249693号公報
【特許文献3】特開2011−180096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、氷路面の平滑度に影響されやすい荷重条件を適宜に調整することで評価精度を向上できるゴム摩擦試験方法及びゴム摩擦試験機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係るゴム摩擦試験方法は、ゴム試験片を第1の入力荷重Fzで氷路面に押し当てながら走行させ、走行時の出力荷重Fz’を計測する予備試験の工程と、前記第1の入力荷重Fz及び前記出力荷重Fz’に基づいて第2の入力荷重を算出する荷重調整の工程と、ゴム試験片を前記第2の入力荷重で前記氷路面に押し当てながら走行させる本試験の工程と、を備え、前記荷重調整の工程は、前記第1の入力荷重Fzから前記出力荷重Fz’を差し引いて得られる値αを求める第1の段階と、α>0の場合に前記第2の入力荷重を(Fz+α)として算出し、α<0の場合に前記第2の入力荷重を(Fz−α)として算出する第2の段階とを含むものである。
【0007】
この方法では、本試験に先駆けて予備試験を実施し、その予備試験の結果に基づいて調整した入力荷重を本試験で採用する。予備試験では、氷路面の平滑度の影響によって出力荷重Fz’が第1の入力荷重Fzから乖離しやすく、出力荷重Fz’が第1の入力荷重Fzよりも大きい場合もあれば、逆に小さい場合もある。荷重調整の工程では、それらの差(Fz−Fz’)に相当する値αを用いて第2の入力荷重を算出する。第2の入力荷重を採用した本試験での出力荷重は、予備試験での出力荷重Fz’に比べて、第1の入力荷重Fzからの乖離が小さい。このため、本試験では所望の荷重条件に近付けることができ、ゴム摩擦試験の評価精度を向上できる。
【0008】
前記荷重調整の工程が、前記第1の段階後で且つ前記第2の段階前に、前記値αの絶対値|α|を所定の基準値Vsと比較する第3の段階を有し、|α|>Vsの場合には前記氷路面の平滑度を調整する第4の段階に移行し、そうでない場合には前記第2の段階に移行することが好ましい。
【0009】
|α|>Vsとなる場合には、氷路面の凹凸が過度に顕著であると判断できるので、第3の段階から第4の段階へ一旦移行し、氷路面の平滑度を調整することにより対処する。一方、そうでない場合には、氷路面の凹凸が適度に小さいと考えられるので、そのまま第2の段階へ移行して第2の入力荷重を算出する。これにより、評価精度をより良好に向上することができる。
【0010】
前記第4の段階では、α>0の場合には前記氷路面に給水し凍結させることにより、α<0の場合には前記氷路面を研磨することにより、前記氷路面の平滑度を調整することが好ましい。
【0011】
α>0となる場合には、氷路面の凹部が顕著であるために出力荷重Fz’が小さくなったと考えられるので、氷路面への給水とその凍結により凹部を削減して平滑度を改善する。一方、α<0となる場合には、氷路面の凸部が顕著であるために出力荷重Fz’が大きくなったと考えられるので、氷路面の研磨により凸部を削減して平滑度を改善する。どちらによっても氷路面の凹凸が抑制されることから、第2の入力荷重を正確に算出するうえで有効である。
【0012】
前記第4の段階後に前記予備試験の工程からやり直すことが好ましい。氷路面の平滑度を調整したうえで予備試験からやり直すことにより、第2の入力荷重をより正確に算出することができる。
【0013】
また、本発明に係るゴム摩擦試験機は、設定された入力荷重でゴム試験片を氷路面に押し当てる荷重装置と、氷路面に押し当てられた前記ゴム試験片を走行させる駆動装置と、ゴム試験片に作用する出力荷重を計測する計測装置と、前記ゴム試験片を第1の入力荷重Fzで氷路面に押し当てながら走行させた際に、前記第1の入力荷重Fz及び前記計測装置により計測された出力荷重Fz’に基づいて第2の入力荷重を算出する演算部と、前記ゴム試験片を前記第2の入力荷重で氷路面に押し当てるように前記荷重装置を制御する作動制御部とを有する制御装置と、を備え、前記演算部は、前記第1の入力荷重Fzから前記出力荷重Fz’を差し引いて得られる値αを求め、α>0の場合には前記第2の入力荷重を(Fz+α)として算出し、α<0の場合には前記第2の入力荷重を(Fz−α)として算出するものである。この試験機によれば、上述したゴム摩擦試験方法を簡便に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ゴム摩擦試験機の一例を概略的に示す正面図
図2】氷路面が設けられたフレーム部材の(a)平面図と(b)A−A断面図
図3】(a)ゴム試験片の移動経路と(b)走行速度の推移を示す図
図4】ゴム摩擦試験方法の一例を示すフローチャート
図5】荷重調整の工程の好ましい例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態では、図1の試験機を用いてゴム摩擦試験を実施する例を示す。但し、本発明に係るゴム摩擦試験方法は、かかるゴム摩擦試験機を用いて実施されるものに限定されない。図1に示したゴム摩擦試験機10は、ゴム試験片1を氷路面2に押し当てながら走行可能に構成され、ゴム材料の氷上摩擦特性の評価に供される。この試験機10は、破線で示した冷蔵庫などの恒温室20に収容され、所望の温度環境で、例えば−6〜12℃の範囲から選択される設定温度で試験を実施できるようになっている。
【0017】
ゴム摩擦試験機10は、ゴム試験片1を保持するためのホルダー11と、設定された入力荷重でゴム試験片1を氷路面2に押し当てる荷重装置12とを有する。本実施形態では、氷路面2と対面するようにゴム試験片1が板状のホルダー11に接着され、そのホルダー11は荷重装置12に接続されている。荷重装置12は、氷路面2に対して垂直となるZ方向(図1の上下方向)に沿ってホルダー11を往復動可能に構成され、ホルダー11の位置(ホルダー11と氷路面2との間隔)に応じた荷重がゴム試験片1に入力される。荷重装置12はサーボモータにより構成されているが、他のアクチュエータ機構を利用しても構わない。
【0018】
ゴム摩擦試験機10は、氷路面2に押し当てられたゴム試験片1を走行させる駆動装置13を有する。駆動装置13は、荷重装置12が支持されたテーブル14をX方向(図1の左右方向)に沿って往復動可能に構成されている。このテーブル14の移動によってホルダー11を移動させ、延いてはゴム試験片1を走行させることができる。アクチュエータ15は、X及びZ方向に垂直となるY方向(図1の紙面に垂直な方向)にテーブル22を往復動可能に構成されていて、Y方向におけるゴム試験片1と氷路面2との位置合わせに利用される。本実施形態では、駆動装置13とアクチュエータ15が、それぞれサーボモータにより構成されているが、これに限定されない。
【0019】
ゴム摩擦試験機10は、ゴム試験片1に作用する出力荷重を計測する計測装置16を備える。計測装置16は、例えばロードセルにより構成される。本実施形態では、ホルダー11の上側(ゴム試験片1とは反対側)に計測装置16が取り付けられている。計測装置16は、垂直成分及び水平二成分の計三成分の荷重測定が可能であり、上述した出力荷重(Z方向の荷重)に加えて、ゴム試験片1に作用する前後力(X方向の荷重)と横力(Y方向の荷重)を検出することができる。
【0020】
ゴム摩擦試験機10は、後述する荷重調整に必要な計算を行う演算部17aと、荷重装置12や駆動装置13、後述する路面調整装置などの作動を制御する作動制御部17bとを有する制御装置17を備える。制御装置17は、更に、試験作業者からの入力を受け付ける入力部17cと、試験機10の操作や設定、状態などに関する各種情報を画面上に表示する表示部17dとを有する。入力部17cは、例えばタッチパネルやキーボードにより構成される。制御装置17は、恒温室20の外部に配置されている。
【0021】
ゴム摩擦試験機10は、氷路面2の平滑度を調整するための路面調整装置を備える。本実施形態における路面調整装置は、氷路面2を研磨する研磨具としての氷磨きプレート18を備える。氷磨きプレート18は、作動時には氷路面2の高さまで移動し、その状態から駆動装置13がテーブル14を移動させることにより氷路面2上を滑走する。氷磨きプレート18には熱線が埋設されており、氷路面2の表面を僅かに融解させながら研磨することができる。
【0022】
図2に示すように、氷路面2は、ゴム試験片1が押し当てられる氷板をフレーム部材21に固定してなる。フレーム部材21は、金属製であり、テーブル22に対して着脱自在に構成されている。フレーム部材21は、表面に氷板が配置される路面部21aと、その路面部21aを取り囲む外周部21bとを有する。路面部21aの表面に氷板が配置されたフレーム部材21は、全体として厚みが均一な板状物を呈する。路面部21aの中央部は貫通しており、その貫通部分を塞ぐようにして透明なガラス板23が取り付けられている。接地面の観察が不要であれば、貫通部分は無くてもよい。テーブル22には、ガラス板23と対向する位置で開口した観察窓が形成されている。
【0023】
氷路面2は、ゴム試験片1の走行方向となるX方向に長く、その方向に並ぶ3つの区間α,β,γを有する。本実施形態では、図3(a)のように、ゴム試験片1が氷路面2上を始点SPから終点GPまで走行する。その過程で、ゴム試験片1は区間αから区間βを経て区間γに至り、走行速度は図3(b)のように推移する。走行動作を反復する場合は、走行し終えたゴム試験片1を氷路面2から引き上げて区間αの上方に移動させ、再び氷路面2に押し当てて始点SPに配置する。ゴム試験片1の走行に関する動作は、制御装置17によって制御される。
【0024】
図3(b)のように、氷路面2の中央部に位置する区間βでは走行速度が一定であり、この区間βは、氷上摩擦特性を評価するための評価区間となる。路面部21aの貫通部分は評価区間βに設けられており、この区間βにおけるゴム試験片1の接地面の様子がガラス板23を通じて観察可能である。詳細な観察には、高速度カメラ24を利用することができる。区間βの手前に位置する区間αは、ゴム試験片1を加速させるための助走区間である。区間βを挟んで区間αの反対側に位置する区間γは、ゴム試験片1を減速させるための制動区間である。
【0025】
ゴム摩擦試験では、ゴム試験片1を氷路面2に押し当てながら走行させて、ゴム材料の氷上摩擦特性を評価する。走行時のゴム試験片1に作用する出力荷重(Z方向の荷重)は、設定された入力荷重と同じかそれに近いのが理想的であるが、実際には、氷路面2の平滑度の影響を受けて出力荷重が入力荷重から乖離したものになる。そこで、本実施形態のゴム摩擦試験方法では、本試験に先駆けて予備試験を実施し、その結果に基づいて調整した入力荷重を本試験で採用する。具体的には、図4のように、予備試験の工程(S40)と荷重調整の工程(S50)を経たうえで本試験の工程(S60)を実施する。
【0026】
図4の例では、予備試験の前に、ゴム試験片1や氷路面2を設置する工程(S30)を備える。ゴム試験片1や氷路面2が事前に設置されている状況であれば、この工程は省略できる。ゴム試験片1の設置は、ゴム試験片1を接着したホルダー11を試験機10に取り付けることにより行われる。氷路面2の設置は、氷路面2が設けられたフレーム部材21をテーブル22に固定することにより行われる。氷路面2は、例えば、フレーム部材21の路面部21aに水を薄く張って凍らせる作業を繰り返すことによって作製される。
【0027】
予備試験の工程(S40)では、ゴム試験片1を第1の入力荷重Fzで氷路面2に押し当てながら走行させ、走行時の出力荷重Fz’を計測する(S41,S42)。第1の入力荷重Fzは、試験条件として所望される荷重であり、試験作業者により入力部17cを介して予め設定されている。制御装置17は、その設定された入力荷重が得られるホルダー11の位置(ホルダー11と氷路面2との間隔)を計算し、その位置にホルダー11が配置されるように荷重装置12を制御する。試験条件としては、第1の入力荷重Fzのほか、走行速度や反復回数などが入力設定される。
【0028】
氷路面2に押し当てられたゴム試験片1は、図3のように始点SPから終点GPに至る直線経路を走行する。その過程で、ゴム試験片1は助走区間αで加速して所望の走行速度に到達し、一定の走行速度で評価区間βを通過し、制動区間γで減速して停止する。制御装置17は、設定された走行速度でゴム試験片1を走行させるように駆動装置13を制御する。出力荷重Fz’は計測装置16によって計測され、その情報は制御装置17に送られる。評価区間βにおいて出力荷重Fz’は多少変動するため、時系列的に出力荷重Fz’を計測し、その平均値を算出することが好ましい。
【0029】
本実施形態では、ゴム試験片1を走行させて出力荷重Fz’を計測した後、設定された反復回数を達成したか制御装置17が判定し(S43)、そうでなければゴム試験片1を再び始点SPに配置して再度の予備試験を行う。バラツキの影響を抑えて評価精度を向上するうえでは、このように予備試験を複数回(例えば、3回)反復して、その結果の平均を取得することが好ましい。反復回数を達成した場合は、荷重調整の工程(S50)へ移行する。
【0030】
荷重調整の工程(S50)では、第1の入力荷重Fz及び出力荷重Fz’に基づいて第2の入力荷重を算出する。この工程は、第1の入力荷重Fzから出力荷重Fz’を差し引いて得られる値αを求める第1の段階(S51)と、α>0の場合に第2の入力荷重を(Fz+α)として算出し、α<0の場合に第2の入力荷重を(Fz−α)として算出する第2の段階(S52)とを含む。もし仮にα=0であれば、荷重の調整は不要であるため、第2の段階では第1の入力荷重Fzをそのまま第2の入力荷重とすればよい。このような第2の入力荷重の算出は、制御装置17の演算部17aにより実行される。
【0031】
本試験の工程(S60)では、ゴム試験片1を第2の入力荷重で氷路面2に押し当てながら走行させる(S61,S62)。このとき、制御装置17の作動制御部17bが荷重装置12を制御する。走行後、設定された反復回数を達成したか制御装置17が判定し(S63)、そうでなければ再度の本試験を行う。本試験における走行動作は予備試験と同様であるため、詳しい説明は省略する。バラツキの影響を抑えて評価精度を向上するうえでは、このように本試験を複数回(例えば、10回)反復して、その結果の平均を取得することが好ましい。評価に供する走行の前に、慣らしを目的とした走行を1回以上(例えば、3回)設定してもよい。
【0032】
本試験を完了したら、その結果に基づいて氷上摩擦特性を評価する。この評価では、例えば、走行時の出力荷重(Z方向の荷重)と前後力(X方向の荷重)に基づき、(前後力/出力荷重)により摩擦係数μを測定することができる。これらの荷重は、本試験でゴム試験片1を走行させた際に計測装置16によって計測される。これに代えてまたは加えて、走行時の接地面を高速度カメラ24により撮影し、その観察に基づいて氷路面2に対する接地面積を算出することもできる。但し、氷上摩擦特性の評価は、これらに限られるものではない。
【0033】
上述のように、荷重調整の工程(S50)では、第1の入力荷重Fzと出力荷重Fz’との差(Fz−Fz’)に相当する値αを用いて第2の入力荷重を算出し、これを本試験で採用する。α>0となる場合には第1の入力荷重Fzが不足し、α<0となる場合には第1の入力荷重Fzが過剰であると考えられるため、上記のように算出した第2の入力荷重を採用することにより、本試験での出力荷重は、予備試験での出力荷重Fz’に比べて、第1の入力荷重Fzからの乖離が小さくなる。このため、本試験では所望の荷重条件に近付けることができ、ゴム摩擦試験の評価精度を向上できる。
【0034】
図5に示した好ましい例では、荷重調整の工程(S50)が、第1の段階(S51)の後で且つ第2の段階(S52)の前に、値αの絶対値|α|を所定の基準値Vsと比較する第3の段階(S53)を有する。基準値Vsは、試験作業者が任意に設定できる値であり、例えば10Nである。この比較の結果、|α|>Vsの場合には、氷路面2の平滑度を調整する第4の段階(S54)に移行し、制御装置17が路面調整装置を作動させるように制御する。一方、そうでない場合(即ち、|α|≦Vsの場合)には、第2の段階(S52)に移行して第2の入力荷重を算出する。
【0035】
第3の段階(S53)で|α|>Vsとなる場合は、基準値Vsを超えるほどに出力荷重Fz’が第1の入力荷重Fzから大きく乖離し、氷路面2の凹凸が過度に顕著であると判断できる。そこで、図5の例では、第4の段階(S54)へ一旦移行し、氷路面2の平滑度を調整することにより対処する。一方、|α|≦Vsとなる場合には、氷路面2の凹凸が適度に小さいと考えられるので、そのまま第2の段階(S52)に移行して第2の入力荷重を算出する。かかる手順によれば、評価精度をより良好に向上することができる。
【0036】
図5に示すように、第4の段階(S54)では、α>0の場合には氷路面2に給水し凍結させることにより、α<0の場合には氷路面2を研磨することにより、氷路面2の平滑度を調整する。給水及びその凍結は、氷路面2の凹部を削減する目的で行われ、それに適した少量の水を氷路面2上に供給して凍結させる。本実施形態では手作業で給水する例を示すが、路面調整装置が備える給水具を制御装置17で制御するように構成してもよい。研磨は、氷路面2の凸部を削減する目的で行われ、路面調整装置の氷磨きプレート18により氷路面2を磨いて平滑にする。
【0037】
α>0となる場合には、氷路面2の凹部が顕著であるために出力荷重Fz’が小さくなったと考えられるので、第4の段階(S54)では氷路面2への給水とその凍結により凹部を削減して平滑度を改善する。一方、α<0となる場合には、氷路面2の凸部が顕著であるために出力荷重Fz’が大きくなったと考えられるので、第4の段階(S54)では氷路面2の研磨により凸部を削減して平滑度を改善する。どちらによっても氷路面2の凹凸が抑制されることから、第2の入力荷重を正確に算出するうえで有効である。
【0038】
図5の手順では、第4の段階(S54)の後に予備試験の工程(S40)からやり直すようにしており、これによって第2の入力荷重をより正確に算出することができる。
【0039】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば下記に挙げたように、方法の手順や装置の構成などは適宜に変更することが可能である。
【0040】
前述の実施形態では、ホルダー11を移動させることでゴム試験片1を走行させる例を示したが、これに限定されない。ゴム試験片1の走行は、氷路面2に対するゴム試験片1の相対移動を伴うものであればよく、例えば氷路面2を移動させることでゴム試験片1を走行させても構わない。
【0041】
前述の実施形態では、ゴム試験片1を直線経路の一方向に走行させる例を示したが、これに限定されない。例えば、ゴム試験片1を直線経路の一方向だけでなく他方向にも走行させる(往復動させる)ようにしても構わない。あるいは、ターンテーブル上に設けた氷路面を用いて、ゴム試験片1を環状経路に沿って走行させてもよい。
【0042】
前述の実施形態では、ゴム試験片1が氷路面2上を滑走するときの滑り摩擦について試験する例を示したが、ゴム試験片1が氷路面2上で転動するときの転がり摩擦について試験するものでもよい。その場合は、例えば円盤状または円柱状に形成したゴム試験片を回転可能に軸部材で支持し、その軸部材をホルダーに取り付ければよい。ゴム試験片を転動させる走行であっても、上記と同様に試験することにより評価精度を向上できる。
【符号の説明】
【0043】
1 ゴム試験片
2 氷路面
10 ゴム摩擦試験機
11 ホルダー
12 荷重装置
13 駆動装置
16 計測装置
17 制御装置
17a 演算部
17b 作動制御部
18 氷磨きプレート
20 恒温室
S40 予備試験の工程
S50 荷重調整の工程
S60 本試験の工程
図1
図2
図3
図4
図5