特許第6355295号(P6355295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッポン高度紙工業株式会社の特許一覧

特許6355295アルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池
<>
  • 特許6355295-アルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355295
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   H01M2/16 N
   H01M2/16 P
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-5489(P2013-5489)
(22)【出願日】2013年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-179036(P2013-179036A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年12月2日
【審判番号】不服2017-11520(P2017-11520/J1)
【審判請求日】2017年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-17572(P2012-17572)
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 好世
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 攻
(72)【発明者】
【氏名】小川 健太郎
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 長谷山 健
【審判官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−39451(JP,A)
【文献】 特開平6−231746(JP,A)
【文献】 特開2005−23501(JP,A)
【文献】 特開平7−229085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14-2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電池の正極と負極の間に介在させ、両極の活物質を隔離するために使用するセパレータにおいて、
前記セパレータは、セルロースIの結晶構造のみを有する場合は20〜70質量%のセルロース繊維を含有し、セルロースIの結晶構造とセルロースIIの結晶構造を有する場合は20〜75質量%のセルロース繊維を含有し、セルロースIIの結晶構造のみを有する場合は20〜90質量%のセルロース繊維を含有し、残部が耐アルカリ性合成繊維で構成され、前記セルロース繊維としてJIS P 8101「溶解パルプ試験方法」によるペントサン含有率が2.0質量%以下の範囲の、JIS P 2701で種類と規格が規定された溶解パルプを含有し、
前記セパレータのJIS P 8101「溶解パルプ試験方法」によるペントサン含有率が1.0質量%以下である
ことを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
前記セパレータの耐アルカリ性合成繊維として、水中溶解温度60℃〜90℃の易溶解性ポリビニルアルコール繊維が配合され、溶解した易溶解性ポリビニルアルコール繊維でセルロース繊維及び耐アルカリ性合成繊維が結着され、前記セパレータの湿潤強度が5N/15mm〜20N/15mmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
正極活物質と負極活物質とをセパレータにより隔離したアルカリ電池であって、
前記セパレータとして請求項1又は請求項2に記載のアルカリ電池用セパレータが用いられている
ことを特徴とするアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリマンガン電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池等のアルカリ電池に使用されるアルカリ電池用セパレータ及び該セパレータを使用したアルカリ電池に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来からアルカリ電池における正極活物質と負極活物質とを隔離するセパレータの特性として、正極活物質と負極活物質の接触による内部短絡の防止、導電性の亜鉛酸化物等のデンドライトによる内部短絡の防止、水酸化カリウムの電解液や二酸化マンガン、オキシ水酸化ニッケル、酸化銀等の正極活物質に対して収縮及び変質を起こさない耐久性、及び、起電反応に十分な量の電解液を長期間保持し、イオン伝導を妨げないことが要求されている。
【0003】
このような特性を備えたアルカリ電池用セパレータとしては、耐アルカリ性合成繊維のビニロン繊維やナイロン繊維を主体とし、これに耐アルカリ性に優れたマーセル化パルプや、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、有機溶剤系セルロース繊維等の再生セルロース繊維を配合し、さらに60℃〜90℃で水に溶解する易溶解性ポリビニルアルコール繊維をバインダとして添加した、合成繊維とセルロース繊維との混抄紙が使用されている。
【0004】
セパレータの製造にあたって、マーセル化パルプ、ポリノジック繊維、有機溶剤系セルロース繊維等のフィブリル化が可能なセルロース繊維は、必要に応じて叩解処理を施して、繊維をフィブリル化して使用されている。フィブリル化したセルロース繊維の配合によってセパレータに緻密性を付与して、デンドライトによる内部短絡の発生を防止できる。
【0005】
マーセル化パルプはアルカリ水溶液で処理したのみのパルプであり、叩解処理によって容易にフィブリル化することが可能である。そして叩解処理したマーセル化パルプを配合することによって、正極と負極の間の遮蔽性に優れた緻密なセパレータが得られる。
【0006】
このためマーセル化パルプにビニロン繊維等の耐アルカリ性合成繊維とバインダとなる易溶解性ポリビニルアルコール繊維を配合して抄紙されたアルカリ電池用セパレータが広く使用されている。或いは、これらのマーセル化パルプ、合成繊維、易溶解性ポリビニルアルコール繊維に加えて、レーヨン繊維や有機溶剤系セルロース繊維等の再生セルロース繊維を配合して抄紙された、アルカリ電池用セパレータが広く使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0007】
特許文献1では、マーセル化木材クラフトパルプ単独を抄紙する、又は、マーセル化木材クラフトパルプが50質量%以上であり、これに合成繊維、合成樹脂パルプ、耐アルカリ性樹脂から成る群より選択された少なくとも1種を添加した混合物を混抄して得られるアルカリ乾電池用セパレータが提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、アルカリ電池の無水銀化の要求に伴い、マーセル化パルプやポリノジック繊維等の叩解可能な耐アルカリ性セルロース繊維と合成繊維とを、ポリビニルアルコール繊維等のバインダを用いて混抄して結着させたアルカリ電池用セパレータが提案されている。このアルカリ電池用セパレータは、耐アルカリ性セルロース繊維を10質量%〜50質量%の範囲で含有し、かつ、耐アルカリ性セルロース繊維の叩解の程度をCSFの値で500ml〜0mlの範囲としている。
【0009】
更に、特許文献3では、マーセル化パルプと再生セルロース繊維との併用に関し、耐アルカリ性合成繊維と、叩解の程度がCSFの値で10〜550mlの有機溶剤系セルロース繊維のフィブリル化物と、叩解の程度がCSFの値で450ml以上であるマーセル化パルプとを含有し、各々の比率が質量比で30〜60%:5〜20%:35〜50%であることを特徴とするアルカリ電池用セパレータが提案されている。
【0010】
なお、上記特許文献3に記載されたセパレータに使用されている有機溶剤系セルロース繊維としては、例えば、リヨセル(登録商標)又はテンセル(登録商標)という再生セルロース繊維が知られている。また、有機溶剤系セルロース繊維はJIS規格およびISO規格で定める繊維用語において、リヨセルの名称で規定されており、以下、有機溶剤系セルロース繊維をリヨセル繊維として記述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭54−87824号公報
【特許文献2】特開平2−119049号公報
【特許文献3】特開2006−236808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のアルカリ電池用セパレータに用いられているマーセル化パルプは、α−セルロース含有率が高く、アルカリ電解液へ溶解する成分が少ない。そして、アルカリ電解液中での寸法収縮が小さく、アルカリ電池用セパレータに適したセルロース繊維である。さらに、セパレータに叩解処理してフィブリル化させたマーセル化パルプを配合すれば、両極活物質の遮蔽性に優れた緻密なセパレータが安価に得られるため、広くアルカリ電池用セパレータに使用されている。
【0013】
しかし、マーセル化パルプを配合したセパレータを使用するとアルカリ電池の負極活物質である亜鉛合金粉末の腐食が増加する問題がある。このため、アルカリ電池の保存後の特性の低下が問題となる。
【0014】
上述した問題の解決のため、本発明においては、保存後のアルカリ電池の特性低下を抑制することが可能なアルカリ電池用セパレータ、及び、このセパレータを備えるアルカリ電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池の正極と負極の間に介在させ、両極の活物質を隔離するために使用するセパレータにおいて、セパレータは、セルロースIの結晶構造のみを有する場合は20〜70質量%のセルロース繊維を含有し、セルロースIの結晶構造とセルロースIIの結晶構造を有する場合は20〜75質量%のセルロース繊維を含有し、セルロースIIの結晶構造のみを有する場合は20〜90質量%のセルロース繊維を含有し、残部が耐アルカリ性合成繊維で構成される。さらに、セルロース繊維としてJIS P 8101「溶解パルプ試験方法」によるペントサン含有率が2.0質量%以下の範囲の、JIS P 2701で種類と規格が規定された溶解パルプを含有し、且つ、セパレータのJIS P 8101「溶解パルプ試験方法」によるペントサン含有率が1.0%質量%以下であることを特徴とする。
また、本発明のアルカリ電池は、正極活物質と負極活物質とを隔離するセパレータとして、上記アルカリ電池用セパレータを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保存後の特性低下を抑制することが可能なアルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るアルカリ電池用セパレータを使用したアルカリ電池の中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の具体的な実施形態の説明の前に、本発明の概要について説明する。
本発明は、アルカリ電池用セパレータにおいて、亜鉛合金粉末に対する腐食を低減し、保存特性に優れたアルカリ電池を提供する。
【0019】
従来からアルカリ電池用セパレータに使用されているセルロース繊維の中で、マーセル化パルプとは、主に木材を蒸解して得られた製紙用化学パルプを、18質量%以上の高濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬処理(マーセル化処理)したパルプである。
マーセル化処理によって、木材化学パルプから低分子量のセルロースやヘミセルロース等のアルカリに可溶な成分が除かれ、α−セルロース含有率が97%以上の高純度のパルプが得られる。また、マーセル化処理によって化学パルプのセルロースIの結晶構造の全てが、セルロースIIの結晶構造に変化する。このため、アルカリ電解液中での寸法収縮が減少し、アルカリ電池用セパレータに適した耐アルカリ性に優れるパルプが得られる。
【0020】
マーセル化パルプは、上述のように製紙用化学パルプを高濃度のアルカリ水溶液に浸漬後、アルカリ液を除去する簡単なプロセスで製造できる。このため、マーセル化パルプの製造には、レーヨンやリヨセル等の再生セルロース繊維の製造に必要な、セルロースパルプの溶解、溶解液からの再生セルロース繊維の紡糸、溶媒の回収等の複雑な工程が不要である。従って、マーセル化パルプは再生セルロース繊維に比べて安価に製造できる。
【0021】
しかし、近年、マーセル化パルプを配合したセパレータを使用した場合に、アルカリ電池の負極活物質である亜鉛合金粉末の腐食が報告されている。亜鉛合金の腐食とは、亜鉛合金粉末と電解液とが電池の起電反応に関係なく反応して、反応生成物として水素ガスと亜鉛酸化物や亜鉛水酸化物を生成する現象である。
亜鉛合金の腐食によるガス発生量が急激に増加すると、電池内部の圧力が高まり、電解液漏液の可能性が増加する。また、漏液を起こさないまでも、電池を長期間保存した場合には、負極の亜鉛合金粉末の周囲に腐食による亜鉛酸化物や亜鉛水酸化物が析出し、亜鉛合金粉末間の電子伝導が低下する。このため、電池の内部抵抗が増加する。さらに、負極活物質も消費されてしまう。このため、マーセル化パルプを配合したセパレータを使用したアルカリ電池では、長期間の保存により電池の容量が低下してしまう。
【0022】
過去のアルカリ電池では、亜鉛粉末に水銀を添加して亜鉛表面をアマルガム化した負極が使用されていた。アマルガム化すると亜鉛粉末の水素過電圧が十分に高くなって腐食が起こりにくくなる。従って、マーセル化パルプを配合したセパレータを使用した場合にも、負極活物質の腐食は起こりにくく、腐食による水素ガスの発生量や電池性能には、ほぼ影響がなかった。
【0023】
しかし、その後の環境汚染の防止の観点から無水銀化が要請され、アマルガム化した亜鉛負極は、ボタン型アルカリ電池で若干残るものを除き、その他のアルカリ電池では姿を消している。現在では水銀の添加に代わって、亜鉛にアルミニウム、ビスマス及びインジウム等の金属を添加して耐食性を向上させた亜鉛合金粉末が、アルカリ電池の負極活物質として使用されている。
【0024】
しかしながら、水銀無添加の亜鉛合金粉末を負極活物質とするアルカリ電池に、マーセル化パルプを配合したセパレータを使用すると、上述のような負極の腐食が促進され、水素ガス発生量の増加、及び、電池の保存後の性能低下が問題となる。
なお、上述のインジウムの添加率を多くした亜鉛合金粉末を使用すると、負極活物質の耐食性が向上することが知られている。しかし、インジウムはフラットパネルディスプレイの透明導電膜にも使用されるため非常に高価である。このため、亜鉛合金粉末の低コスト化の観点から、インジウム等のレアメタルの添加量をできる限り減少させる傾向にある。このような傾向も原因となり、マーセル化パルプを配合したセパレータによる亜鉛合金粉末の腐食が近年特に問題となっている。
【0025】
上記問題に対して本発明者等は、亜鉛合金粉末の腐食に関して研究した結果、木材等の製紙用化学パルプをNaOH水溶液で処理したマーセル化パルプには、アルカリ水溶液に難溶解性のヘミセルロースが残留していることを発見した。また、アルカリ電池の亜鉛合金粉末の腐食とパルプ中のヘミセルロース含有量の指標であるペントサン含有率との間に関連性があり、ペントサン含有率の大きい木材化学パルプほど亜鉛合金粉末の腐食が増加してガス発生量が増大することを発見した。
【0026】
この研究結果により、従来のマーセル化パルプに換えてペントサン含有率が2.0%以下であり、特にヘミセルロースの少ない木材化学パルプである溶解パルプを配合し、ペントサン含有率が1.0%以下のセパレータを構成することにより、アルカリ電池負極の亜鉛合金粉末の腐食の抑制、及び、ガス発生量の抑制が可能となることを見出した。
【0027】
本発明者等の研究結果によると、マーセル化処理によって製紙用の化学パルプに含まれていたヘミセルロースの多くが除去され、α−セルロース含有率の高いパルプが得られる。しかし、α−セルロース含有率が97%以上のマーセル化パルプであっても、アルカリ液に難溶解性のヘミセルロースがパルプ中に残留する。このため、従来のマーセル化パルプを含有したセパレータでは、マーセル化パルプに残留したヘミセルロースが、30〜40質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液中に徐々に溶出する。そして、この電解液中に溶出したヘミセルロースが亜鉛合金粉末の腐食を引き起こすため、ガス発生量が大きく、電池の保存特性が低下してしまう。
【0028】
なお、ヘミセルロースとは、木材パルプ及び非木材パルプに含まれているセルロース以外の多糖類の総称である。パルプの主成分はセルロースであり、セルロースはグルコースのみが直鎖状に重合した結晶質の多糖類である。一方、ヘミセルロースはキシロース、マンノース、アラビノース、ガラクトース、グルクロン酸及びガラクツロン酸等の単糖類を含んだ分岐鎖を有する多糖類である。ヘミセルロースは、セルロースに比べて低分子量で非晶質の多糖類である。代表的なヘミセルロースとしては、例えば、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、グルコマンナン、グルクロノキシラン等の多糖類が知られている。
【0029】
ペントサンとは、ヘミセルロースの中でペントース(キシロース、アラビノース等の5炭糖類)を構成単糖として含む多糖類の総称であり、ヘミセルロースを構成する主要成分である。ペントサンは、6炭糖類で構成されたヘキソサンに対してパルプ中の含有率測定が容易であるため、本発明ではペントサン含有率をヘミセルロース含有率の指標としている。
【0030】
つまり、本発明は、アルカリ電池の正極と負極の間に介在させ、両極の活物質を隔離するために使用するアルカリ電池セパレータを基本として提供する。このセパレータは、20〜90質量%のセルロース繊維を含有し、残部が耐アルカリ性合成繊維である。そして、セルロース繊維としてペントサン含有率が2.0%以下の範囲の溶解パルプを含有し、且つ、セパレータのペントサン含有率が1.0%以下である。
【0031】
また、本発明では、アルカリ電池用セパレータを構成する溶解パルプの一部又は全部がセルロースIIの結晶構造を有する。或いは、この溶解パルプと再生セルロース繊維とを含有したセルロース繊維からなる。
また、上記再生セルロース繊維がリヨセル繊維である。
また、セパレータの耐アルカリ性合成繊維の一部あるいは全部として、易溶解性ポリビニルアルコール繊維が配合され、セルロース繊維及び耐アルカリ性合成繊維が溶解したポリビニルアルコール繊維により結着され、該セパレータの湿潤強度が5N/15mm〜20N/15mmの範囲にある。
さらに、本発明は、上述のアルカリ電池セパレータを使用したアルカリ電池である。
【0032】
(実施形態)
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のアルカリ電池用セパレータは、20〜90質量%のセルロース繊維を含有し、残部が耐アルカリ性合成繊維で構成される。そして、このセルロース繊維の一部あるいは全部としてペントサン含有率が2.0%以下の範囲の溶解パルプを含有する。さらに、このセパレータ全体でのペントサン含有率が1.0%以下である。
ペントサン含有率が2.0%以下の溶解パルプをセパレータに配合し、さらに、セパレータのペントサン含有率も1.0%以下にすることによって、負極亜鉛合金粉末の腐食を十分に減少したアルカリ電池用セパレータ及びアルカリ電池を実現できる。
【0033】
(溶解パルプ)
本実施形態のアルカリ電池用セパレータにおいて、セルロース繊維を構成する溶解パルプは、木材化学パルプの一種である。通常の製紙用の木材化学パルプはα−セルロース含有率が低く耐アルカリ性が劣るため、アルカリ電池用セパレータには適さない。本実施形態のセパレータに含有する溶解パルプは、漂白された高純度の木材化学パルプであり、特に溶解パルプの中でもヘミセルロース含有量の少ない高純度の溶解パルプを用いることが好ましい。
【0034】
アルカリ電池用セパレータに配合する溶解パルプは、木材チップにNaOH,NaS等のアルカリ性薬液を加えて蒸解したクラフト(サルフェート)法パルプのような、一般的な製紙用木材化学パルプとは製造工程が異なる。アルカリ電池用セパレータに使用する溶解パルプは、蒸解の前に木材チップを高温の蒸気で蒸煮処理し、チップに含まれたヘミセルロースを酸性下で加水分解した後、蒸解してパルプ化する。さらに、蒸解後のパルプを2〜10質量%程度の水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で処理し、ヘミセルロースを抽出して除去する。蒸解の前に酸性下で木材チップを処理することによって、セルロース鎖に入り組んで存在するヘミセルロースが加水分解されて低分子になり、パルプ化後のアルカリ水溶液でのヘミセルロースの抽出除去が容易になる。また、溶解パルプでは、ヘミセルロースが蒸解前に加水分解されてより低分子となるため、蒸解後に溶解パルプをアルカリ水溶液で処理しても、アルカリ水溶液に難溶解性のヘミセルロースはパルプ中に残留しない。
【0035】
溶解パルプの蒸解方法としては、サルファイト法、サルフェート法、アルカリ法が利用できる。なお、蒸解法がサルファイト法の場合、酸性あるいは中性〜アルカリ性のサルファイト蒸解法が適用できる。また、酸性サルファイト蒸解の場合には蒸解時に酸性になるため、前記した蒸解前の酸性下でのチップの処理が不要となる。
これらの蒸解法の中では、サルフェート法が高純度でα−セルロース含有率の高い溶解パルプが得られるため、サルフェート法による溶解パルプが本実施形態に用いる溶解パルプとして好ましい。
【0036】
なお、溶解パルプに関してはJIS P 2701で種類と規格が規定されているが、本実施形態のアルカリ電池用セパレータには、JIS P 2701に規定されたサルファイト法パルプ及びサルフェート法パルプの溶解パルプの中でも、特にα−セルロース含有率が大きく、ペントサン含有率が低い高純度の溶解パルプを使用する。
【0037】
(セルロースの結晶構造)
上記溶解パルプは、セパレータの寸法収縮を少なくできるため、セルロースIIの結晶構造を有していることが好ましい。市販の溶解パルプの殆どはセルロースIの結晶構造のパルプである。このようなセルロースIの結晶構造のパルプが多く含まれると、セパレータのアルカリ電解液中での寸法収縮が大きくなる。
【0038】
セパレータ中の溶解パルプの含有率を70質量%以上といった高含有率にする場合は、セルロースIIの結晶構造を有した溶解パルプの使用が好ましい。このため、セルロースIの結晶構造の溶解パルプを10質量%〜18質量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液で処理すれば、セルロースIの結晶構造の一部又は全部をセルロースIIの結晶構造に変換でき、アルカリ電解液での収縮が少なく、かつ負極の腐食によるガス発生の少ない溶解パルプが得られる。
【0039】
また、溶解パルプは、ヘミセルロースが除去されてパルプ中の非晶質部分が減少している。このため、溶解パルプの繊維中へのアルカリ電解液の浸透が抑制され、溶解パルプではアルカリ電解液による繊維の膨潤が減少する。つまり、溶解パルプはセルロースIのみの結晶構造であっても、一般の製紙用パルプに比べて電解液中での寸法収縮が少なくなる。従って、セルロースIとセルロースIIとの結晶構造が混合した溶解パルプを含有するセパレータであっても、従来のマーセル化パルプを使用したセパレータと同じ程度まで寸法収縮を小さくできる。
【0040】
なお、セルロースIのみの結晶構造を有する溶解パルプは、上述のように、アルカリ電解液中での収縮が大きい問題はある。しかし、アルカリ電解液中で寸法変化の少ないビニロン繊維等の合成繊維をセパレータ質量の30質量%以上配合すれば、セパレータの電解液中での寸法収縮を2.0%以下とすることができ、実用的に問題のない程度に抑制できる。このため、セルロースIのみの結晶構造の溶解パルプであっても本実施形態のアルカリ電池用セパレータに十分に使用できる。
【0041】
本実施形態のアルカリ電池用セパレータに配合する溶解パルプとしては、針葉樹及び広葉樹から得られたパルプが利用できる。
針葉樹としては、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、スプルース、ダグラスファー、ヘムロック等から得られた溶解パルプを使用できる。
広葉樹としては、ブナ、ナラ、カバ、ユーカリ、オーク、ポプラ、アルダー等から得られた溶解パルプを使用できる。
針葉樹から得られた溶解パルプは、平均繊維長が2mm程度と長く、比較的に叩解処理が容易であり、CSF値で100ml以下といった高叩解に適している。このため、特に気密度が高く、デンドライトの遮蔽性に優れたセパレータを得るのに適している。一方、広葉樹から得られた溶解パルプは、平均繊維長が0.7mm程度であり、CSF値で100ml以下の高叩解には適さないが、繊維の平均幅が15μm程度と細く、軽度の叩解でも均質なセパレータが得られる。
【0042】
なお、従来からアルカリ電池用セパレータに配合するセルロース繊維として、マーセル化パルプ等の高α−セルロース含有率のパルプが適することは知られている。しかし、この高α−セルロース含有率のパルプがセパレータに適しているとされる理由は、高純度のパルプほどアルカリ電解液への溶解成分が少なく、電解液への溶解や電解液中での寸法変化が少なく、耐アルカリ性に優れるとの知見や推測に基づくものである。
一方、アルカリ電池の亜鉛合金粉末の腐食について、セパレータ中のパルプや再生セルロース繊維の影響は、現在に至るまで知られていない。
【0043】
(再生セルロース繊維)
また、本実施形態のアルカリ電池用セパレータに配合するセルロース繊維としては、上述の溶解パルプに加えて、再生セルロース繊維を配合することができる。
セルロース繊維として再生セルロース繊維を加えることによって、セパレータをより低密度化することができ、セパレータの電解液保液量が増える。このため、セパレータの電気抵抗の低減と保液量の増加とにより、アルカリ電池の重負荷放電特性を向上させることができる。
一方、セルロース繊維として溶解パルプのみを配合する場合には、両極間の遮蔽性に優れた薄いセパレータが製作可能である。セパレータを薄くすると電池の活物質量が増やせるため、電池の容量を増加できる。
【0044】
セパレータに配合する再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン繊維、モダル繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、リヨセル繊維等を使用できる。使用する再生セルロース繊維の繊維径としては0.5dtex.〜3.3dtex.の繊度で、繊維長は2mm〜7mmが好ましい範囲である。これらの再生セルロース繊維の中でポリノジック繊維、キュプラ繊維、リヨセル繊維は叩解処理によってフィブリル化が可能である。
【0045】
なお、再生セルロース繊維のセルロースの重合度は300〜500程度と低いため、従来のマーセル化パルプや上述の溶解パルプに比べて、再生セルロース繊維は電解液に溶解しやすく、耐アルカリ性が劣る。
【0046】
セパレータ中のセルロース繊維の含有率としては、20質量%〜90質量%の範囲が好ましい。セパレータ中のセルロース繊維の含有率が20質量%未満では、セパレータの電解液の保液率が低下し、電池の放電性能全般、特に重負荷放電特性が低下するため好ましくない。一方、セパレータのセルロース繊維の含有率が大きくなると、必然的にセパレータ中の耐アルカリ性合成繊維が減少する。この結果、電解液中でのセパレータの寸法収縮が大きくなる。また、セパレータの湿潤強度が低下するため、セパレータが破損し易くなり、電池の内部短絡が起こり易くなる。従って、セパレータ中のセルロース繊維の含有率は90質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
また、セパレータのセルロース繊維として、溶解パルプと再生セルロース繊維とを使用する場合は、溶解パルプと再生セルロース繊維とを合わせて20質量%以上含有していれば、配合率に特に限定はない。セパレータの遮蔽性を向上させるにはフィブリル化させた溶解パルプを少なくとも10質量%含有するのが好ましい。また、再生セルロース繊維が5質量%未満ではセパレータの保液率向上効果が少なくなるため、再生セルロース繊維は5質量%以上の配合が好ましい。
なお、再生セルロース繊維がセパレータの60質量%を超えて含有されるとセパレータの保液率が大きくなり過ぎて、特に単3あるいは単4サイズの小型アルカリマンガン電池では、セパレータが電解液で膨潤して電池内部に占めるセパレータの容積が大きくなるため、電池の活物質量を減少させることが必要になり、電池性能の向上が難しくなる。
【0048】
(耐アルカリ性合成繊維)
また、本実施形態のアルカリ電池用セパレータに配合する耐アルカリ性合成繊維は、電解液中で溶解や収縮を起こさないものがよい。このような合成繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維の他、ナイロン−6繊維、ナイロン−6,6繊維等のポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維、ポリエチレン合成パルプ等のポリオレフィン繊維等が好ましい。また、合成繊維の繊維径としては、0.1dtex.〜3.3dtex.の繊度で、繊維長は2mm〜7mmのものが好ましい。セパレータの遮蔽性を向上するためには、細い繊度の耐アルカリ性合成繊維を用いることが好ましい。
【0049】
これらの合成繊維の中で、ビニロン繊維はアルカリ電池用セパレータに配合するのに特に適した耐アルカリ性合成繊維である。ビニロン繊維とは、紡糸して得たポリビニルアルコール繊維をホルムアルデヒド等と反応させ、アセタール化した繊維である。ビニロン繊維はアルカリ電解液で殆ど溶解せず、電解液中での寸法変化も殆どない。このため、セパレータに配合すれば電解液中でのセパレータの寸法収縮を小さくできる。
【0050】
なお、従来からアルカリ電池用セパレータには、セルロース繊維と合成繊維を結着するためのバインダとして、水中溶解温度が60℃〜90℃の易溶解性ポリビニルアルコール繊維が使用されている。本実施形態のアルカリ電池用セパレータでは、このバインダとして使用する易溶解性ポリビニルアルコール繊維についても、耐アルカリ性合成繊維として含む。
【0051】
セパレータに、バインダとして易溶解性ポリビニルアルコール繊維を使用する場合、セパレータ中の易溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率は5〜20質量%の範囲が好ましい。
また、易溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率は上記含有率範囲にかかわらず、セパレータの湿潤強度が5N/15mm〜20N/15mmの範囲となるように、易溶解性ポリビニルアルコール繊維の含有率を調整することが好ましい。湿潤強度が5N/15mm未満ではセパレータが破れ易くなり、アルカリ電池の輸送や落下時の衝撃で電池が内部短絡を起こし易い。一方、20N/15mmを超える湿潤強度のセパレータは、バインダ効果が大きすぎるため、セパレータの電解液中での膨潤が抑制され、セパレータの保液率が低下する。或いは、電気抵抗が大きくなり、アルカリ電池の重負荷放電特性が低下し易い。
【0052】
本実施形態のアルカリ電池用セパレータは、上述の材料を使用し、傾斜短網抄紙機、円網抄紙機、又は、長網抄紙機等を使用した通常の抄紙法によって抄紙される。また、これらの抄紙機の抄紙網部分を組み合せたコンビネーション抄紙機を使用して、繊維配合や密度、緻密性の異なる紙層を積層したセパレータを製造することも可能である。さらに、同一の抄紙原料であっても、複数の抄紙網部分を有したコンビネーション抄紙機を使用して、積層セパレータにすると、単層のセパレータに比べて孔がより小さくなり、デンドライトによる電池の内部短絡が発生しにくいセパレータが得られる。
なお、本実施形態のセパレータに使用する溶解パルプやリヨセル繊維等のセルロース繊維の叩解処理はディスクリファイナ、ビーター、高速離解機等の各種の叩解機を使用して実施できる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明にかかるアルカリ電池用セパレータ及び該セパレータを使用したアルカリ電池の具体的な実施例を説明する。なお、本願発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
【0054】
(溶解パルプのガス発生量試験)
まず、具体的な実施例に先立ち、アルカリ電池用セパレータに用いられる溶解パルプのペントサン含有率とガス発生量の関係について、従来から使用されているマーセル化パルプ等と比較して説明する。
表1に実施例及び比較例において使用される溶解パルプ、マーセル化パルプ等の木材化学パルプに関して、パルプ材種とα−セルロース含有率、ペントサン含有率、結晶構造、面積収縮率及びガス発生量の測定結果を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、表1に記載されたパルプA〜Kの各測定値は、次の方法で測定した。
(1)α−セルロース含有率
TAPPI(Technical Association of the Pulp and Paper Industry)標準法T203に規定の「パルプ中のα,βとγ−セルロース」の測定方法によって、α−セルロースの含有率を測定した。
【0057】
(2)ペントサン含有率
JIS P 8101溶解パルプ試験方法に規定の「5.11ペントサン」の方法によって測定した。
【0058】
(3)結晶構造
X線回折装置の試料ホルダーにパルプシートを固定して、CuターゲットのX線管球を使用してX線回折パターンを測定した。測定したX線回折パターンから、セルロースI又はセルロースIIに帰属する回折ピークを確認して、パルプの結晶構造をセルロースI、セルロースII、又は、これらの混合物(I+II)を判定した。
【0059】
(4)面積収縮率
パルプの面積収縮率の測定は、試料に質量比で10%の易溶解性ポリビニルアルコール繊維(溶解温度70℃)を配合し、坪量30g/mの手漉きシートを作製した。このシートを定寸(100mm×100mm)に切り取り、面積を測定した。次に70℃の40%KOH水溶液中に8時間浸漬して、浸漬後の試験片の面積をKOH水溶液に濡れた状態で測定し、下記式により面積収縮率を求めた。
面積収縮率(%)={(A1−A2)/A1}×100
A1=浸漬前の面積
A2=浸漬後の面積
【0060】
(5)水素ガス発生量
市販されているアルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)及びインジウム(In)を添加したアルカリマンガン電池負極用の亜鉛合金粉末にパルプ及びKOH電解液(酸化亜鉛を溶解)を加え、70℃で10日間放置して発生する水素ガス量(亜鉛1gに対する発生した水素ガスの容積μl)を測定した。なお、各パルプの測定にあたり、亜鉛合金粉末:パルプ:KOH電解液は質量比で1:0.05:1の一定量を取り、特開2008-171767号公報で開示された図2に類似した装置を使用してガス発生量を測定した。
【0061】
表1において、パルプA〜パルプFは市販の溶解パルプである。パルプG及びパルプHは針葉樹の溶解パルプであるパルプAを12質量%、17.5質量%のNaOH水溶液で処理したパルプである。同様にパルプIは広葉樹の溶解パルプであるパルプFを、17.5質量%の濃度のNaOH水溶液で処理したパルプである。
なお、パルプA、B、C、Dはサザンパイン、ラジアータパイン、スラッシュパインから得られた針葉樹の溶解パルプ(DKP)であり、パルプEはラジアータパインから得られた酸性サルファイト法による針葉樹の溶解パルプ(DSP)である。パルプFはユーカリから得られた広葉樹の溶解パルプ(DKP)である。また、パルプJは米国Rayonier Inc.社のポロサニア(Porosanier)パルプで、サザンパインの針葉樹パルプをマーセル化したパルプである。さらに、パルプKはスプルースを主体とする製紙用の針葉樹パルプ(NBKP)である。
【0062】
表1より、製紙用パルプであるパルプKは、α−セルロース含有率が88.1%と低く、ペントサン含有率も4.2%と大きく、ガス発生量も300μl/gと大きいことが分かる。また、市販のマーセル化パルプであるパルプJは、α−セルロース含有率が97.5%と高いが、ペントサン含有率は2.5%であり、ガス発生量も190μl/gと大きいことが分かる。
【0063】
一方、溶解パルプであるパルプA〜Fでは、パルプAのペントサン含有率が0.8%と最も低く、パルプEのペントサン含有率が2.0%と最も高い。これらの溶解パルプのガス発生量は、ペントサン含有率が最も低いパルプAで118μl/gである。そして、ペントサン含有率が最も高いパルプEで145μl/gである。この結果から、ペントサン含有率の増加にともない、ガス発生量が増加することがわかる。
【0064】
パルプG及びパルプHは、針葉樹の溶解パルプであるパルプAを、それぞれ12質量%、17.5質量%のNaOH水溶液で処理したパルプである。パルプAの面積収縮率が、12.3%であるのに対して、パルプGが3.2%、パルプHが2.8%と減少している。
また、パルプIは、広葉樹の溶解パルプであるパルプFを17.5質量%のNaOH水溶液で処理したパルプであるが、この処理によって面積収縮率は13.0%(パルプF)から2.8%(パルプI)に減少している。
この結果から、溶解パルプをNaOH水溶液で処理することにより、アルカリ電解液中での収縮が減少することが分かる。
【0065】
また、パルプA、パルプG及びパルプHのX線回折パターン測定をした。処理前のパルプAは、セルロースIの回折パターンであった。これに対し、12質量%のNaOH水溶液で処理されたパルプGは、セルロースIとセルロースIIの混合した回折パターンであった。また、パルプHは、ほぼセルロースIIのみのX線回折パターンを示した。
従って、セルロースIの結晶構造の溶解パルプをNaOH水溶液等のアルカリ水溶液で処理することにより、セルロースIIの結晶構造に変化することがわかる。そして、パルプの面積収縮率の減少は、パルプがNaOH水溶液で処理されて、セルロースIの結晶構造がセルロースIIに変化したことによると考えられる。
【0066】
また、溶解パルプをアルカリ処理することによって、溶解パルプのペントサン含有率もさらに減少する。このため、ガス発生量もさらに減少させることができる。例えば、パルプAのペントサン含有率が0.8%であるのに対し、パルプGのペントサン含有率が0.6%、パルプHが0.4%と減少している。同様に、パルプAのガス発生量が118μl/gであるのに対して、パルプGのガス発生量が114μl/g、パルプHのガス発生量が112μl/gと減少している。この様に、セルロースIIの結晶構造を有する溶解パルプをセパレータに配合すると、セパレータの電解液中での寸法収縮を低減できるだけでなく、ガス発生量を更に低減させることができる。
【0067】
なお、上述の木材化学パルプ以外に、ヘミセルロース物質であるアラビノキシランとグルコマンナンについても同様に水素ガス発生量を測定した。これらのヘミセルロース物質では、水素ガス発生量が上記の溶解パルプA〜Fの50倍以上になり、水素ガス発生量が大きすぎて測定困難であった。この結果からも、パルプに含まれるヘミセルロースが亜鉛合金粉末の腐食を増大させていると考えられる。
【0068】
(セパレータの物性及びガス発生量試験)
次に、アルカリ電池セパレータに配合するセルロース繊維として、表1に記載のパルプA〜Jを使用して、以下に示す実施例及び比較例のアルカリ電池セパレータを製作した。なお、パルプKは普通の製紙用パルプであり、耐アルカリ性が著しく劣り、パルプのガス発生量も異常に大きいため、アルカリ電池用セパレータには適さない。このため、パルプKを使用したセパレータは製作しなかった。
【0069】
(実施例1)
表1に記載のパルプH(針葉樹の溶解パルプAをアルカリ処理したパルプ、ペントサン含有率0.4%)50質量%を、CSF値で350mlに叩解処理した。この叩解したパルプにビニロン繊維(繊度0.6dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)40質量%と、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維)10質量%とを混合した。この混合原料を傾斜短網抄紙機で抄紙して、厚さ96.5μm、坪量33.4g/m、密度0.346g/cmの実施例1のセパレータを得た。
【0070】
(実施例2)
パルプHをパルプG(針葉樹の溶解パルプAをアルカリ処理したパルプ、ペントサン含有率0.6%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ95.3μm、坪量32.9g/m、密度0.345g/cmの実施例2のセパレータを得た。
【0071】
(実施例3)
パルプHをパルプB(針葉樹の溶解パルプ、ペントサン含有率1.0%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ91.3μm、坪量32.7g/m、密度0.358g/cmの実施例3のセパレータを得た。
【0072】
(実施例4)
パルプHをパルプC(針葉樹の溶解パルプ、ペントサン含有率1.5%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ90.5μm、坪量33.0g/m、密度0.365g/cmの実施例4のセパレータを得た。
【0073】
(実施例5)
パルプHをパルプD(針葉樹の溶解パルプ、ペントサン含有率1.8%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ90.1μm、坪量33.2g/m、密度0.368g/cmの実施例5のセパレータを得た。
【0074】
(実施例6)
パルプHをパルプE(針葉樹の溶解パルプ、ペントサン含有率2.0%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ89.8μm、坪量33.1g/m、密度0.369g/cmの実施例6のセパレータを得た。
【0075】
(比較例1)
パルプHをパルプJ(市販の針葉樹のマーセル化パルプ、ペントサン含有率2.5%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ87.3μm、坪量32.9g/m、密度0.377g/cmの比較例1のセパレータを得た。
【0076】
(実施例7)
パルプF(広葉樹の溶解パルプ、ペントサン含有率0.8%)20質量%をCSF値で500mlに叩解処理した。この叩解したパルプに、ビニロン繊維(繊度0.6dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)70質量%と、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維)10質量%とを混合した。この混合原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ100.7μm、坪量33.1g/m、密度0.329g/cmの実施例7のセパレータを得た。
【0077】
(実施例8)
パルプFを70質量%とし、ビニロン繊維を20質量%とした以外は、実施例7と同様にして、厚さ93.2μm、坪量33.2g/m、密度0.356g/cmの実施例8のセパレータを得た。
【0078】
(実施例9)
パルプI(広葉樹の溶解パルプFをアルカリ処理したパルプ、ペントサン含有率0.5%)90質量%をCSF値で500mlに叩解処理し、ビニロン繊維(繊度0.6dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)5質量%と、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維)5質量%とを混合した。この混合原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ84.6μm、坪量32.5g/m、密度0.384g/cmの実施例9のセパレータを得た。
【0079】
(比較例2)
パルプFを15質量%とし、ビニロン繊維を75質量%とした以外は、実施例7と同様にして、厚さ111.4μm、坪量33.4g/m、密度0.300g/cmの比較例2のセパレータを得た。
【0080】
(比較例3)
パルプI97質量%をCSF値で500mlに叩解処理し、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維)3質量%を混合した。この混合原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ82.5μm、坪量32.8g/m、密度0.398g/cmの比較例3のセパレータを得た。
【0081】
(実施例10)
パルプA(針葉樹の溶解パルプ、ペントサン含有率0.8%)10質量%と、リヨセル繊維(繊度1.7dtex.繊維長3mm:Lenzing Fibers Limited社のTENCEL繊維)10質量%とを混合した後、CSF値で350mlに叩解処理した。この叩解した原料に、ビニロン繊維(繊度0.6dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFFN繊維)70質量%と、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSML繊維)10質量%とを混合した。この混合原料を円網抄紙機で抄紙して、厚さ105.4μm、坪量33.6g/m、密度0.319g/cmの実施例10のセパレータを得た。
【0082】
(実施例11)
パルプAを30質量%とし、リヨセル繊維を20質量%とし、ビニロン繊維を40質量%とした以外は、実施例10と同様にして、厚さ100.2μm、坪量32.9g/m、密度0.328g/cmの実施例11のセパレータを得た。
【0083】
(実施例12)
パルプAを30質量%とし、リヨセル繊維を40質量%とし、ビニロン繊維を20質量%とした以外は、実施例10と同様にして、厚さ99.8μm、坪量33.0g/m、密度0.331g/cmの実施例12のセパレータを得た。
【0084】
(比較例4)
パルプAをパルプJに変更した以外は、実施例11と同様にして、厚さ93.6μm、坪量33.2g/m、密度0.355g/cmの比較例4のセパレータを得た。
【0085】
(実施例13)
パルプF30質量%、レーヨン繊維(繊度1.1dtex.繊維長4mm)30質量%、ポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維(繊度2.2dtex.繊維長5mm:ダイワボウポリテック社製NBF(H)繊維)10質量%、ビニロン繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のFGN繊維)20質量%、及び、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm:ユニチカ株式会社製のSMM繊維)10質量%を混合した。この混合原料を傾斜短網抄紙機で抄紙して、厚さ321.0μm、坪量71.5g/m、密度0.223g/cmの実施例13のセパレータを得た。パルプFは未叩解で使用したが、そのCSF値は730mlであった。
なお、実施例13のセパレータは厚くて坪量も大きいセパレータのため、単1及び単2サイズの大型のアルカリマンガン電池に適したセパレータである。
【0086】
(実施例14)
パルプG75質量%を、CSF値で0mlに叩解処理した。この叩解原料に、ポリエチレン合成パルプ(三井化学株式会社製のSWP EST−8)5質量%と、ポリビニルアルコール繊維(繊度1.1dtex.繊維長2mm:ユニチカ株式会社製のAH繊維)20質量%とを混合した。この混合原料を長網抄紙機で抄紙して、厚さ55.2μm、坪量32.2g/m、密度0.583g/cmの実施例14のセパレータを得た。
【0087】
上記実施例1〜実施例14及び比較例1〜比較例4にかかるセパレータの各種測定データを表2に示す。
上記各実施例及び比較例にかかるセパレータの各測定値は次の方法で測定した。
(1)CSF(カナダ標準形濾水度、Canadian Standard Freeness)JIS P 8121に規定のカナダ標準形の方法で測定した。
【0088】
(2)厚さ
セパレータを2枚重ねにしてダイアルシックネスゲージを用いて均等な間隔で厚さを測定し、その1/2をもって1枚当たりの厚さを求め、更に測定個所の平均値をセパレータの厚さとした。
【0089】
(3)坪量
セパレータの面積と質量を測定し、セパレータ(m)当たりの質量(g)を求めた。
【0090】
(4)湿潤強度
セパレータから幅15mmの試験片を縦方向に取って、試験片を40%KOH水溶液に浸漬した後、試験片に付着した過剰の40%KOH水溶液をろ紙で吸い取った。この40%KOH水溶液で濡れた試験片の引張強度をJIS P 8113に規定の方法に準じて測定して、セパレータの湿潤強度とした。
【0091】
(5)保液率
セパレータを50mm×50mmの正方形に切り取り、乾燥後の質量を測定した後、40%KOH水溶液に10分間浸漬した。この試験片を45度の角度に傾斜させたガラス板にそのまま貼り付けて3分間固定し、過剰の40%KOH水溶液を流下させて取り除き、そのまま保液した試験片の質量を測定し、次式により保液率を算出した。
保液率(%)=(W2−W1)/W1×100
W1=浸漬前の質量
W2=浸漬後の質量
【0092】
(6)寸法変化率と面積収縮率
セパレータを縦(MD)、横(CD)方向に合わせて100mm×100mmの正方形に正確に切り取り、縦と横の長さを正確に測定した後、40%KOH水溶液中に30分間浸漬した。浸漬後、セパレータの縦と横の長さを正確に測定して、次式によってセパレータの縦及び横方向の寸法変化率を求めた。
寸法変化率(%)={(A1−A2)/A1}×100
A1=浸漬前の長さ
A2=浸漬後の長さ
なお、寸法変化率の測定値がプラスの場合は、セパレータの収縮率を表す。また、セパレータの面積収縮率は縦と横の寸法収縮率の和の値である。
【0093】
(7)気密度
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)のB型測定器の試験片取り付け部分に、直径6mmの孔径の絞りを取り付け、セパレータの直径6mmの面積(28.26mm)の部分を、100mlの空気が通過するのに要する時間(秒/100ml)を測定した。
【0094】
(8)電気抵抗
40%KOH水溶液に浸漬された、約2mmの間隔で平行する白金電極(白金黒付けした直径20mmの円板形状の電極)の間にセパレータを挿入し、この挿入に伴う電極間の電気抵抗の増加をセパレータの電気抵抗とした。なお、電極間の電気抵抗は1000Hzの周波数でLCRメータを用いて測定した。本測定方法は電気抵抗の呼称としたが、電解液(40%KOH水溶液)中でのセパレータのイオン抵抗を測定する方法である。
【0095】
(9)水素ガス発生量
市販されているアルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)及びインジウム(In)を添加したアルカリマンガン電池負極用の亜鉛合金粉末に、セパレータ及びKOH電解液(酸化亜鉛を溶解)を加え、70℃で10日間放置して発生する水素ガス量(亜鉛1gに対する発生した水素ガスの容積μl)を測定した。なお、各パルプの測定にあたり、亜鉛合金粉末:セパレータ:KOH電解液は質量比で1:0.05:1の一定量を取り、特開2008-171767号公報で開示された図2に類似した装置を使用してガス発生量を測定した。
【0096】
(10)セパレータのペントサン含有率
JIS P 8101(溶解パルプ試験方法)に規定の「5.11ペントサン」の方法に準じて、セパレータのペントサン含有率を測定した。
【0097】
【表2】
【0098】
次に、上記実施例及び比較例のセパレータについて検討する。
(ペントサン含有率とガス発生量との関係)
表2に示すように、実施例1〜6と比較例1は、セパレータのセルロース繊維を針葉樹パルプのみによって構成し、また、セパレータ中のセルロース繊維の含有率を50%とし、得られたセパレータの物性を比較したものである。
【0099】
ペントサン含有率0.4%のパルプHを使用した実施例1のセパレータは、ガス発生量が82μl/gであった。これに対して、ペントサン含有率1.0%のパルプBを使用した実施例3のセパレータは、ガス発生量が90μl/gであり、ペントサン含有率1.5%のパルプCを使用した実施例4のセパレータは、ガス発生量が95μl/gであり、ペントサン含有率2.0%のパルプEを使用した実施例6のセパレータは、ガス発生量が110μl/gであった。
一方、ペントサン含有率2.5%の市販のマーセル化パルプであるパルプJを使用した比較例1のセパレータは、ガス発生量が140μl/gであった。
【0100】
この結果から、セパレータに使用するパルプのペントサン含有率が2.0%を越えると、セパレータのガス発生量が著しく増加することが分かる。従って、セパレータに含有する溶解パルプは、ペントサン含有率2.0%以下のパルプが適していることが分かる。
【0101】
(セルロースの結晶構造と面積収縮率との関係)
実施例3〜6は、セルロースIの結晶構造を有した針葉樹の溶解パルプを使用したセパレータであり、これらのセパレータの面積収縮率は1.7%〜2.1%であった。一方、パルプAを17.5%NaOHでアルカリ処理して、結晶構造をセルロースIIにしたパルプHを使用した実施例1のセパレータは、面積収縮率が0.5%であった。
また、パルプAを12%NaOHでアルカリ処理して、結晶構造をセルロースIとセルロースIIとの混合状態としたパルプGを使用した実施例2のセパレータは、面積収縮率が0.7%であった。
【0102】
この結果から、セパレータに使用される溶解パルプが、セルロースIIの結晶構造を一部でも有していることにより、電解液中でのセパレータの寸法収縮が小さくなることがわかる。
【0103】
(パルプの配合率と湿潤強度及び面積収縮率の関係)
実施例7〜9と比較例2〜3は、セパレータに広葉樹の溶解パルプを使用して、パルプの配合率を変化させたセパレータの物性値を示している。
実施例7は、溶解パルプであるパルプFを20%配合したセパレータである。実施例8は、パルプFを70質量%配合したセパレータである。また、比較例2は、同じパルプFを15%配合したセパレータである。
【0104】
比較例2のセパレータは、パルプの配合率が15%と少ないため湿潤強度が21.3N/15mmと大きく、保液率は360%と少ない。つまり、セルロース繊維の含有率が少ないため、抄紙時に溶解した易溶解性ポリビニルアルコール繊維により、セパレータを主に構成するビニロン繊維が強固に接着されていることが分かる。
また、比較例2のセパレータは、気密度が1.0秒と小さく、セパレータの遮蔽性が劣ることが分かる。
【0105】
これに対し、パルプFの配合率を20質量%にした実施例7は、セパレータの湿潤強度が17.6N/15mmに低下した。そして、保液率及び気密度は、420%及び3.0秒/100mlと増加している。
パルプFの配合率を70%にした実施例8では、湿潤強度が10.5N/15mmに低下した。そして、保液率及び気密度は450%及び7.2秒/100mlと増加している。
一方、実施例8のセパレータの面積収縮率は2.5%となり、比較例2のセパレータの0.3%、実施例7の0.5%に比べて著しく大きくなった。この結果から、結晶構造がセルロースIのパルプFを70質量%配合したセパレータは、電解液中での寸法収縮が大きいことが分かる。
【0106】
また、実施例9はセルロースIIの結晶構造のパルプIを90質量%配合したセパレータである。セルロースIの結晶構造のパルプIを70%配合した実施例8のセパレータの面積収縮率2.5%に対して、実施例9の面積収縮率は2.3%であった。実施例9は、パルプの配合率が90質量%と大きいにも関わらず、実施例8よりもセパレータの面積収縮率がわずかに減少している。
【0107】
このことから、セパレータに配合する溶解パルプがセルロースIの結晶構造を有する場合は、溶解パルプの配合量を70質量%以下に留めることが好ましいことが分かる。また、70質量%を超えて配合する場合には、セルロースIIの結晶構造を有したパルプを用いることが好ましい。比較例3は、パルプIを97質量%配合したセパレータであるが、このセパレータの湿潤強度は4.0N/15mmと低く、また、面積収縮率は3.7%と大きくなった。このため、電池に輸送時や落下時の衝撃が加わった場合、セパレータが破損することが予想される。
【0108】
(リヨセル)
実施例10〜12は、セパレータのセルロース繊維として、溶解パルプと再生セルロース繊維であるリヨセル繊維とを混合使用した例である。
実施例10は、溶解パルプ10質量%と、リヨセル繊維10質量%とを配合し、セルロース繊維の合計が20質量%のセパレータである。実施例11は、溶解パルプ30質量%と、リヨセル繊維20質量%とを配合し、セルロース繊維の合計が50質量%のセパレータである。
【0109】
実施例10と、セルロース繊維配合率が同じ20質量%の実施例7とを比較すると、実施例7のセパレータの保液率が420%であったのに対し、リヨセル繊維を配合した実施例10のセパレータの保液率は440%であった。
また、実施例11と、セルロース繊維配合率が同じ50質量%の実施例1〜6を比較すると、実施例1〜6のセパレータの保液率が410〜430%であったのに対し、実施例11のセパレータの保液率は500%であった。
【0110】
この結果から、リヨセル繊維の配合によってセパレータの保液率が増加することが分かる。さらに、実施例7のセパレータの電気抵抗が12.5mΩであったのに対し、実施例10のセパレータの電気抵抗は10.6mΩであった。また、実施例1〜6のセパレータの電気抵抗が13.4mΩ〜15.5mΩ%であったのに対し、実施例11のセパレータの電気抵抗は11.8mΩであった。つまり、リヨセル繊維の配合によって、セパレータの電気抵抗が減少することが分かる。
【0111】
また、実施例12は溶解パルプ30質量%と、リヨセル繊維40質量%とを配合し、セルロース繊維の合計が70質量%のセパレータである。セパレータに使用するセルロース繊維として、溶解パルプと再生セルロース繊維とを使用する場合には、電解液の保液率が大きいセパレータが得られる。しかし、セパレータの電解液保液率が大きくなれば、必然的にセパレータが電解液中で膨潤して厚さが増加することになる。
特に、再生セルロース繊維がセパレータの60質量%を超えて含有されると、セパレータの保液率が大きくなり過ぎて、セパレータが電解液で膨潤して、電池内部に占めるセパレータの容積が大きくなる。このため、単3又は単4サイズ等の小型電池では活物質量を減少させることが必要になり、電池性能の向上が難しくなる。従って、セパレータ質量に対して溶解パルプを10質重量%〜50質量%の範囲とし、再生セルロース繊維を10質量%〜40質量%の範囲として、残部を耐アルカリ性合成繊維とすることにより、セパレータの電解液保液率を適正な範囲に調整することが特に好ましい。
【0112】
比較例4は、実施例11のパルプAを、従来から使用されている市販のマーセル化パルプであるパルプJに変更し、パルプと再生セルロース繊維であるリヨセル繊維との混合比率を実施例11と同じ配合としたセパレータである。
実施例11のセパレータは、ガス発生量が90μl/gであったのに対し、ペントサン含有率2.5%の従来のマーセル化パルプを配合した比較例4のセパレータは、ガス発生量が130μl/gと大きくなった。また、実施例11のセパレータのペントサン含有率0.6%に対して、比較例4のセパレータのペントサン含有率は1.1%と大きくなっている。比較例4のセパレータでは、パルプのペントサン含有率の増加により、亜鉛合金粉末の腐食が増加することがわかる。
【0113】
実施例13は、セルロース繊維として未叩解の広葉樹の溶解パルプと、レーヨン繊維とを使用し、厚さ321μm、坪量71.5g/mで保液率780%の高保液率のセパレータである。このような厚いセパレータは、電池内部に占めるセパレータの容積が大きくなるため、単3、単4サイズの小型のアルカリ電池のセパレータとしては適していない。実施例13のような厚いセパレータは、単1、単2サイズの大型のアルカリマンガン電池に通常使用されている。
実施例13のセパレータの気密度は1.0秒/100mlと低い値であるが、セパレータの厚さが321μmと厚いため亜鉛酸化物のデンドライトによる電池の内部短絡は起こりにくい。
【0114】
また、実施例14は、CSF0mlの高叩解した溶解パルプを使用したセパレータである。実施例14のセパレータは、密度が0.583g/cmと高く、また、気密度は2000秒/100ml以上と大きく、特にデンドライトの阻止効果に優れた遮蔽性の高いセパレータである。
【0115】
(電池の特性試験)
次に、表2に記載した各実施例及び各比較例にかかるセパレータを使用して、正極活物質と負極活物質とを隔離し、図1に示す構成の単3サイズの筒型アルカリマンガン電池(LR−6)を各30個製作した。
図1に示すアルカリマンガン電池1は、有底筒状の正極缶2を有し、一端部に正極端子2aが形成されている。この正極缶2内には、二酸化マンガンと黒鉛からなる円筒状の正極合剤3が圧入されている。筒状に捲回したセパレータ4の内側には、水銀無添加の亜鉛合金粉末をゲル状電解液に分散、混合したゲル状負極5が充填されている。さらに、負極集電子6、及び、正極缶2の開口部を閉塞する樹脂製封口体7を備え、樹脂製封口体7には、負極端子を兼ねる負極端子板8が負極集電子6の頭部に溶接されている。筒状に捲回したセパレータ4の正極端子側は、底紙9により封止され、ゲル状負極5と正極缶2との接触が防止されている。また、樹脂外装材10が、正極端子2aと負極端子板8を露出させた状態の正極缶2の外周面に密着して包装されている。
【0116】
筒型アルカリマンガン電池1は、具体的に以下の方法により製造した。
まず、各セパレータ4を捲回してセパレータ円筒を製作し、この円筒を正極の円筒内壁に密着させ、次いで底紙を押し込み、セパレータ4の円筒の正極端子2a側を封止する。電解液を注液した後、所定の位置までゲル状負極5を注入し、負極集電子6を装着した樹脂製封口体7を挿入、正極缶2の端をかしめて固定して、アルカリマンガン電池を製作した。セパレータ4の捲回数は2回とした。なお、セパレータには縦と横の方向があるが、今回製作したアルカリマンガン電池では、セパレータの縦方向を円筒に捲回して、正極に挿入したので、セパレータの横方向が電池の正極端子と負極端子板を結ぶ方向に位置している。
【0117】
(電池の輸送テスト)
上記方法により製作したアルカリマンガン電池について、輸送テストを実施した。
輸送テストはアルカリマンガン電池を製作後、箱詰めした状態でトラックに積載し、約1000kmの区間を輸送した。輸送後、更に1週間放置した。その後、アルカリマンガン電池の開路電圧を測定し、1.5V以下に電圧降下したアルカリマンガン電池を不良電池とし、不良電池の発見された各実施例及び各比較例にかかるセパレータを調べた。
なお、製作直後に測定したアルカリマンガン電池の開路電圧はいずれも1.6V以上であった。この輸送テストで不良電池の発生しなかったセパレータに○、不良電池が1個以上見つかったセパレータに×を付して表3に記載した。
【0118】
(電池の放電特性)
輸送試験で不良電池の発生しなかった各実施例と比較例のアルカリマンガン電池の各10個について、低温軽負荷放電試験、重負荷放電試験、また、保存後放電容量の測定を行ない、結果を表3に示す。
なお、実施例13のセパレータは単3サイズのアルカリマンガン電池(LR−6)には厚すぎて負極ゲルの減量が必要であり、電池の放電性能が比較できないので輸送試験のみにとどめ、放電試験からは除外した。
放電試験の測定方法は以下のとおりである。
【0119】
(1)低温軽負荷放電試験
アルカリマンガン電池を0℃で300Ωの抵抗に接続し、終止電圧1.0Vまで連続放電し、放電時間が規定時間以下であった早期寿命の電池の個数を調べた。なお、試験に供した電池は各10個である。この低温軽負荷放電試験は、導電性の亜鉛酸化物による電池の短絡が発生し易い試験条件である。
【0120】
(2)重負荷放電試験
アルカリマンガン電池を室温下1000mAの定電流で放電し、終止電圧1.0Vまでの放電時間(分)を測定した。なお、試験に供した電池は、各10個であり、この10個の電池の平均値を求めた。
【0121】
(3)保存後放電容量
アルカリマンガン電池を60℃で2ヶ月間保存後、室温下350mAの定電流で終止電圧0.9Vまで放電させ、放電容量(mAh)を測定した。なお、試験に供した電池は、各10個であり、この10個の電池の平均値を求めた。
【0122】
【表3】
【0123】
表3に示す輸送テストの結果より、比較例3のみに電圧降下した電池が認められたが、その他の実施例及び比較例の電池は1.5V以上の電圧を維持し、不良電池は全く認められなかった。
電圧の低下した比較例3の不良電池を分解して調べたところ、樹脂製封口体で固定されたセパレータ端部に破れが認められ、セパレータ内部に充填した負極ゲルが正極側にこぼれて短絡した部分が認められた。これは比較例3のセパレータのセルロース繊維の含有率が97%と大きく、合成繊維が少ないため、セパレータが電解液に濡れた状態の湿潤強度も4.0N/15mmと低く、寸法収縮もセパレータの横方向で2.2%と大きかったため、電池に輸送時に加わった衝撃で電池内部のセパレータが破損したと考えられる。
【0124】
一方、実施例9のセルロース繊維含有率90%で湿潤強度6.5N/15mmの電池、及び、実施例14の湿潤強度5.5N/15mmの電池では、不良電池が認められなかった。この結果から、セパレータの湿潤強度を5N/15mm以上とすることにより、輸送等で電池に衝撃が加わっても内部短絡を防止することが可能となる。
【0125】
次に、比較例3と実施例13を除いた電池について放電試験を実施した結果、比較例2の電池で、早期寿命の電池が発生した。しかし、他の実施例及び比較例の電池では早期寿命の電池は発生しなかった。
比較例2の電池は、気密度が最も小さい1.0秒/100mlのセパレータを使用したため、遮蔽性が低く、低温軽負荷放電試験において亜鉛酸化物による短絡が発生したものと考えられる。
【0126】
一方、セルロース含有率20質量%の実施例7及び実施例10の電池では早期寿命の電池は発生していない。従って、実施例7のセパレータが気密度3.0秒/100mlで早期寿命の電池が発生しなかったことから、セパレータの気密度を3.0秒/100ml以上とすることが好ましい。
なお、本実施形態例のアルカリ電池はセパレータの捲回数を2回として試験したが、セパレータの捲回数をさらに増せば、正極と負極の間隔が大きくなり、気密度が3.0秒/100mlより低いセパレータでも、早期寿命の電池は発生しにくくなる。したがって、本実施形態のセパレータの気密度は3.0秒/100ml以上に限定されるものではない。
【0127】
次に、重負荷放電試験の結果では、セルロース繊維含有率が15%と少なく、湿潤強度が21.3N/15mmと最も大きかった、比較例2の電池の放電時間が25分間で最も短かった。比較例2のセパレータは、易溶解性ポリビニルアルコール繊維によってセパレータを主に構成するビニロン繊維が強固に接着され、また、電解液の保液量が少ないため、電池の放電時間が短くなったと考えられる。
【0128】
この結果より、セパレータの湿潤強度を20N/15mm以下とすることが好ましい。従って、セパレータの湿潤強度は、電池の輸送や落下によるセパレータの破損を引き起こさない5N/15mm以上、20N/15mm以下の範囲とすることが好ましい。
【0129】
また、実施例11とセルロース繊維配合率が同じく50質量%である実施例1から6の電池は、重負荷放電試験の結果を比較すると、実施例11の電池の放電時間が35分間であるのに対して、実施例1〜6の電池の放電時間が31〜32分間である。つまり、セパレータにリヨセル繊維等の再生セルロース繊維を配合すると、セパレータの保液率が増加し、電池の重負荷放電性能が向上することがわかる。
【0130】
さらに、製作した電池を60℃で2か月保存した後で測定した放電容量は、実施例の電池では830〜880mAhである。これに対して、従来のマーセル化パルプを含有し、セパレータ中のペントサン含有率が1.0%を超えるセパレータを使用した比較例1及び比較例4の電池は、放電容量が710mAh及び740mAhと、電池の容量低下が大きくなっている。これはセパレータにペントサン含有率が2.5%と大きいマーセル化パルプが含有され、またセパレータ中のペントサン含有率も1.0%を越えて大きいため、電池の保存中に負極の亜鉛合金粉末が腐食されて、電池の保存後の放電容量が低下したためである。
【0131】
なお、上述の実施形態及び実施例では、セパレータの電池試験を筒型アルカリマンガン電池で実施したが、本発明のセパレータは筒型アルカリマンガン電池に限らず、ボタン型電池である酸化銀電池等のアルカリ電池にも使用できる。
ボタン型電池である酸化銀電池のセパレータは、正極活物質である酸化銀の酸化力に対する耐性を備え、銀イオンの負極への移行を防止すると共に、起電反応に十分な電解液を保持することが必要とされる。このため酸化銀電池では、耐酸化性に優れたグラフト重合したポリエチレン膜、銀イオンの移行阻止に優れたセロハン膜および電解液の保液性に優れた保液体を組み合せたセパレータが一般的に使用されている。
本発明のセパレータを酸化銀電池に使用する場合は、特にセパレータの中で負極に接触する保液体として利用するのが好ましい。
近年、酸化銀電池等のボタン型電池も負極の無水銀化が進められており、本発明のセパレータを使用することによってガス発生が抑えられ、電池ケースの膨れ等の不良が発生しないボタン型電池の製作が容易になる。
【0132】
また、本発明では、パルプ中のヘミセルロース含有量の指標としてペントサン含有率を利用して、溶解パルプおよびセパレータのヘミセルロース含有量を規定しているが、ペントサン含有率以外をヘミセルロースの指標として用いることもできる。例えば、パルプ中の単糖類を分析して、ヘミセルロースに関係した単糖類であるキシロースとマンノースの合計の含有率をヘミセルロースの指標として利用することもできる。上述の実施例で用いた従来のマーセル化パルプであるパルプJに含有されるキシロースとマンノースの含有率を定量すると、キシロースで2.6%、また、マンノースで4.9%の含有率であった。パルプJのこの2単糖の含有率合計は7.5%となる。したがって、キシロースとマンノースの合計含有率がパルプJの含有率値未満の溶解パルプをセパレータに配合すれば、本発明のセパレータと同様のガス発生量の低減効果が得られ、アルカリ電池の保存後の容量減少が少ないアルカリ電池が得られる。
さらに、他のヘミセルロース含有率の指標として、パルプの18%水酸化ナトリウム水溶液への可溶分(測定方法としては、例えばTAPPI T235)の測定値(S18)が、パルプのヘミセルロース含有率に関連することが知られている。しかし、マーセル化パルプに残留したヘミセルロースはアルカリ水溶液に難溶解性のヘミセルロースであり、18%水酸化ナトリウムへの可溶分の測定方法では、溶解しないヘミセルロースがパルプ中に残留する。したがって、18%水酸化ナトリウムへの可溶分の測定方法をヘミセルロース含有率の指標とすることはあまり適切でない。
【0133】
なお、本発明において、セルロースI、セルロースIIのI及びIIは、便宜上ローマ数字を対応するローマ字に置き換えて記述している。
【符号の説明】
【0134】
1 アルカリマンガン電池、2 正極缶、2a 正極端子、3 正極合剤、4 セパレータ、5 ゲル状負極、6 負極集電子、7 樹脂製封口体、8 負極端子板、9 底紙、10 樹脂外装材
図1