(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱硬化性樹脂層の厚さが1μm以上、10μm以下であって、前記熱硬化性樹脂層の厚さaと、前記熱可塑性樹脂層の厚さbとの比[a:b]が1:50以上、1:3以下である、請求項1に記載の絶縁電線。
前記熱硬化性樹脂層が、前記芯材上に熱硬化性樹脂層用組成物を塗布して形成された層、又は、前記熱可塑性樹脂層の芯材側の面に熱硬化性樹脂層用組成物を塗布して形成された層である、請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る絶縁電線及びその製造方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は図示の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[絶縁電線及びその製造方法]
本発明に係る絶縁電線10は、
図1に示すように、はんだ付け可能な導電性の芯材1と、芯材1上に設けられた熱硬化性樹脂層2と、熱硬化性樹脂層2上に設けられた1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層(例えば3a,3b,3c)で構成された絶縁層3とを有している。そして、熱硬化性樹脂層2が、熱天秤を用いて測定した加熱減量曲線において、310℃〜460℃の温度領域内での質量減少領域(第2の質量減少領域又は高温域質量減少領域ともいう。)を有し、その質量減少領域が、少なくとも50℃の温度幅内で、100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少することを特徴とする。
【0019】
こうした絶縁電線10の製造方法としては、2つの方法を挙げることができる。第1の製造方法は、芯材1上に熱硬化性樹脂層2を設けた後に絶縁層3を設ける方法であり、詳しくは、はんだ付け可能な導電性の芯材1上に熱硬化性樹脂層用組成物を塗布して熱硬化性樹脂層2を設ける工程と、熱硬化性樹脂層2上に1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層を設けて絶縁層3を形成する工程とを有する方法である。
【0020】
第2の製造方法は、芯材1上に設ける1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層(3a,3b,3c)のうち、少なくとも芯材1側の熱可塑性樹脂層3aの表面に熱硬化性樹脂層2を形成する工程と、その熱硬化性樹脂層2が設けられた熱可塑性樹脂層3aのうち、熱硬化性樹脂層2が設けられた側を芯材1上に巻き付ける工程と、巻き付けた熱可塑性樹脂層3a上に、必要に応じて2層目以降の熱可塑性樹脂層(3b,3c,…)を設ける工程とを有する方法である。
【0021】
なお、上記第1及び第2の製造方法において、熱硬化性樹脂層2は、熱天秤を用いて測定した加熱減量曲線において、310℃〜460℃の温度領域内での質量減少領域(第2の質量減少領域又は高温域質量減少領域ともいう。)を有し、その質量減少領域が、少なくとも50℃の温度幅内で、100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少している。
【0022】
以下、各構成について説明する。本願において、1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層を、まとめて「絶縁層3」ということがある。また、310℃〜460℃の温度領域内での質量減少領域を、第2の質量減少領域又は高温域質量減少領域ともいい、その第2の質量減少領域とは重ならない230℃以上400℃未満の温度領域内での質量減少領域を、第1の質量減少領域又は低温域質量減少領域ともいう。
【0023】
<芯材>
芯材1は、絶縁電線10の中心導体であり、はんだ付け可能でかつ導電性を有している。この芯材1は、はんだ付け可能な導体であればよく、通常、銅又は銅合金を好ましく用いることができるが、錫めっき等のめっきを施した銅又は銅合金であってもよい。また、銅や銅合金以外のはんだ付け可能な金属又は合金であってもよい。また、導体自体がはんだ付け性を有しない場合は、導体上にはんだ付け可能な金属がめっき等で設けられていればよい。めっき等で設けられるはんだ付け可能な金属としては、錫、はんだ、ニッケル、金、銀、銅、パラジウム、又はそれらの1種若しくは2種以上の合金を挙げることができる。
【0024】
芯材1は、1本の導体で構成されていてもよいし、複数の導体を撚り合わせて構成されていてもよい。複数の導体を撚り合わせた構造としては、集合撚り、同心撚り又はリッツ撚り等を挙げることができる。
【0025】
芯材1の直径は特に限定されないが、1本の導体で構成されている場合は、例えば、0.1mm以上、1.5mm以下の程度とすることができ、複数の導体を撚り合わせて構成されている場合も、撚り合わせた後の外径を、例えば、0.1mm以上、3mm以下の程度とすることができる。このような芯材1は、任意の太さの母材を熱間加工や冷間加工等して得ることができる。
【0026】
<熱硬化性樹脂層>
熱硬化性樹脂層2は、
図1に示すように、芯材1と絶縁層3(1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層)との間に設けられている。この熱硬化性樹脂層2は、
図2及び
図3に示すように、熱天秤を用いて測定した加熱減量曲線において、310℃〜460℃の温度領域内での第2の質量減少領域(高温域質量減少領域)を有し、その第2の質量減少領域は、少なくとも50℃の温度幅内で、100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少する領域である。
【0027】
こうした質量減少領域を有する熱硬化性樹脂層2は、例えば400℃〜450℃程度の高温の溶融はんだに絶縁電線10を接触させてはんだ付けする際に、はんだ付け部以外の絶縁層(溶融はんだに接触しない絶縁層)が熱劣化するのを抑制し、かつ効率的にはんだ付けすることができるように作用する。詳しくは、熱硬化性樹脂層2を備えた絶縁層3を、例えば400℃〜450℃程度の高温の溶融はんだに接触させてはんだ付けする際、熱硬化性樹脂層2は100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少する。その質量の減少は、熱硬化性樹脂層2が高温の溶融はんだの熱によって、その熱硬化性樹脂層2が分子量100〜1000程度の流動性のあるオリゴマー等に分解していると推察される。その結果、はんだ付け時に、熱硬化性樹脂層2と絶縁層3の軟化が同時又はほぼ同時に起こるか、先に絶縁層3の軟化が起こるかは、各層の材料の組合せにより異なるが、いずれにしても、はんだ付け時には、熱硬化性樹脂層2と絶縁層3が軟化した状態で残るので、溶融はんだが容易に芯材1に接触して良好なはんだ付け現象を実現できると考えられる。こうしたはんだ付け現象によって、はんだ付け時間が短くなり、高温でのはんだ付けの際にはんだ付け部以外の絶縁層3の熱ダメージを極力抑制することができる。
【0028】
なお、絶縁電線10は、はんだ付けされる以外は、通常、200℃以下の温度で使用されるので、熱硬化性樹脂層2は、その温度では分解等せず、絶縁電線10の絶縁性に悪影響を及ぼすことはない。熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂層用組成物を構成する。
【0029】
「熱天秤を用いる加熱減量曲線」の測定は、従来公知の方法及び装置で行うことができる。例えば、示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)装置等を挙げることができる。本発明では、TG−DTA装置を用い、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で、30℃〜800℃の範囲で測定した。
【0030】
「310℃〜460℃」は、その範囲内に、少なくとも50℃の温度幅内で、100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少する領域が存在している温度範囲のことである。「少なくとも50℃の温度幅内」とは、310℃〜460℃の範囲内のうち、例えば350℃〜400℃の50℃幅のような場合である。「100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少」とは、その50℃の温度幅内での質量減少割合が、100℃幅あたり40質量%以下であるということである。このときの「40質量%以下」とは、測定装置に投入した全質量に対する100℃幅あたりの割合であり、例えば投入質量を質量Aとし、例えば350℃のときの質量b1と400℃での質量b2との差を減少質量B(b1−b2)とすると、その100℃幅で、「質量B/質量A×100」が100℃幅あたり40質量%以下であることをいう。40質量%以下であるので、30質量%でも20質量%でも10質量%でもよい。なお、好ましくは、30質量%以下である。下限値は特に限定されないが、5質量%とすることができる。このように、用いる熱硬化性樹脂が、310℃〜460℃の温度領域内の任意の50℃の温度幅で、急激に減量しない領域(第2の質量減少領域)をもっている。
【0031】
なお、上記の関係は、100℃幅を「ΔT」とし、その100℃幅あたりの質量減少割合(質量%)を「ΔW」とすると、傾き=[ΔW/ΔT]として定義することもできる。例えば310℃〜460℃の間に、50℃の温度幅で5質量%の傾き部分が存在した場合、100℃幅(ΔT)あたり10質量%(ΔW)減少する傾き部分が存在することになる。また、例えば310℃〜460℃の間に、10質量%/50℃の傾き部分が存在すれば、100℃幅(ΔT)あたり20質量%(ΔW)減少する傾き部分が存在することになる。
【0032】
上記領域を有する熱硬化性樹脂であれば各種の熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等を挙げることができる。これらのうち、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。なお、上記領域を有さない熱硬化性樹脂は本発明の効果を奏しない。
【0033】
熱硬化性樹脂層2を形成する熱硬化性樹脂層用組成物には、架橋剤や溶剤が含まれる。また、必要に応じて各種の添加剤が含まれる。それらの架橋剤、溶剤及び添加剤は特に限定されず、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等の種類とその要求特性に応じた各種の架橋剤、溶剤及び添加剤が必要に応じて用いられる。なお、通常は、熱硬化性樹脂、架橋剤及び溶剤等を含む市販の熱硬化性樹脂層用塗料を入手し、その熱硬化性樹脂層用塗料で形成した熱硬化性樹脂層2が、上記領域を有するか否かで本発明を構成する熱硬化性樹脂層2に適した組成物であるか否かを判断し、その領域を有する熱硬化性樹脂層2を得ることができる熱硬化性樹脂層用塗料を採用する。
【0034】
熱硬化性樹脂層2の形成は、芯材1上に熱硬化性樹脂層用組成物を塗布して形成する方法で行ってもよいし、後述した絶縁層3のうち第1層目の熱可塑性樹脂層3aの芯材側の面に熱硬化性樹脂層用組成物を塗布して形成する方法で行ってもよい。なお、熱可塑性樹脂層3aの芯材側の面に熱硬化性樹脂層用組成物を塗布して熱硬化性樹脂層2を形成する場合は、テープ状の熱可塑性樹脂層3aに熱硬化性樹脂層2を設けた場合であり、得られたテープ状の熱可塑性樹脂層3aを芯材1上に巻くことにより、本発明を構成できる。
【0035】
熱硬化性樹脂層2の厚さは特に限定されないが、通常は、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。熱硬化性樹脂層2はこの範囲内で上記作用を実現できる。なお、厚さが1μm未満では、薄すぎて良好なはんだ付けができないことがあり、厚さが10μmを超えると、工数が増えてコストアップになることがある。
【0036】
熱硬化性樹脂層2の厚さaと、後述する絶縁層3の厚さb(1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層の合計厚さ)との比[a:b]は、1:50以上、1:3以下の範囲内であることが好ましく、この範囲内で良好なはんだ付けを実現できる。比[a:b]が1:50未満では、絶縁層3の厚さが厚くなりすぎ、はんだ付けできないことがある。一方、比[a:b]が1:3を超えると、絶縁層3に対する熱硬化性樹脂層2の厚さ割合が大きくなって、製造コストが嵩むことがある。
【0037】
なお、熱硬化性樹脂層2を芯材1上に設けた場合は、その後に絶縁層3を設けるまでの間に、その熱硬化性樹脂層2の存在により芯材1の酸化を防止できる。その結果、後のはんだ付け時のはんだ付け性を改善できるという利点がある。
【0038】
(熱硬化性樹脂層の作用)
熱硬化性樹脂層2の作用について、
図2〜
図4を参照して詳しく説明する。
図2は、熱硬化性樹脂層2の加熱減量曲線を熱天秤を用いて測定したグラフである。このグラフは、A〜Eの5つの領域を有している。
【0039】
A領域は、初期段階の領域であり、この領域では熱硬化性樹脂層2の実質的な減量は生じない。B領域は、後述するC領域の質量減少領域とは重ならない230℃以上400℃未満の温度領域内での質量減少領域(第1の質量減少領域又は低温域質量減少領域ともいう。)であり、主に低分子化合物の分解と揮発に由来する減量が生じている。C領域は、本発明に係る本質的な減量領域であり、310℃〜460℃の温度領域内で、少なくとも50℃の温度幅内で100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少する領域である。D領域は、熱硬化性樹脂が炭化物としてガス化又は固体化する減量領域である。E領域は、最終的な一定領域であり、主要成分が既に減量した後の領域である。
【0040】
このC領域を有する熱硬化性樹脂層2を利用した点が本発明の特徴であり、C領域を有しない熱硬化性樹脂層を用いた場合には本発明には含まれない。なお、
図2に示すように、C領域が一定の傾斜角の直線又はほぼ直線であってもよいし、
図3(A)に示すように、階段状又は段階的の軌跡を示す線であってもよい。通常の熱硬化性樹脂層2はB領域が存在するが、例えば
図3(B)に示すように、B領域がなく、A領域からそのままC領域になるような熱硬化性樹脂層2であってもよい。すなわち、C領域は、その形態が直線状でも階段状でもよく、少なくとも50℃の温度幅内で100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少する領域であればよい。
【0041】
熱硬化性樹脂層2がC領域を有することにより、いわゆるフラックス効果が発揮されて、良好なはんだ付け現象が実現できると考えられる。ここで、フラックス効果とは、通常、濡れ性よくはんだ付けさせる効果のことをいう。詳しくは、熱によって緩やかに流動性のあるオリゴマー等に分解した熱硬化性樹脂層2は、一定時間芯材表面に留まっていると思われる。そのため、この熱硬化性樹脂層2中に含まれているCO等の還元性物質が芯材表面上の酸化膜を還元除去するために作用できると考えられる。さらに、分解した熱硬化性樹脂層2は、芯材表面を覆っていると思われるので、この熱硬化性樹脂層2が芯材表面の熱による酸化を防止するために作用していると考えられる。これら作用の結果、分解した熱硬化性樹脂層2で覆われた芯材は、その表面の濡れ性が向上して、良好にはんだ付けされると考えられる。なお、熱硬化性樹脂層がC領域を有さない場合(熱硬化性樹脂層が熱により急激に分解される場合)は、熱によって分解した硬化性樹脂層が芯材表面上に留まることができないので、フラックス効果が発揮されないと考えられる。
【0042】
図4は、本発明で用いない熱可塑性樹脂層の加熱減量曲線(TG−DTA曲線)の一例を示すグラフである。この加熱減量曲線では、310℃〜460℃の温度領域内で、少なくとも50℃の温度幅内で100℃幅あたり40質量%以下の割合で質量が減少する領域が存在しない。
【0043】
さらに、はんだ付け時において、熱硬化性樹脂層が有する質量減少領域の温度幅内の温度ではんだ付けされることが好ましい。すなわち、C領域内の温度と同じ温度を有する溶融はんだを用いた場合には、より良好なはんだ付け現象が実現できる。例えば、実施例1のように、少なくとも400℃〜450℃の50℃の温度幅内にC領域が存在する熱硬化性樹脂層2を有する絶縁電線10Aを、その温度幅内の温度(例えば400℃)にした溶融はんだに接触させてはんだ付けした場合、その絶縁電線10Aは、より外観に優れ、良好にはんだ付けすることができる。
【0044】
<絶縁層>
絶縁層3は、熱硬化性樹脂層2上に設けられた絶縁性の層であり、
図1、
図5及び
図6に示すように、1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層で構成されている。こうした絶縁層3を有する絶縁電線10は、高い絶縁性を実現し、例えばIEC60950等の安全規格を満たす絶縁電線として認証されており、絶縁トランスやIHヒータ等のコイル用線材として用いることができる。絶縁電線10をトランス用のコイルに用いた場合には、この絶縁層3により、一次側と二次側を確実に絶縁することができる。
【0045】
絶縁層3は、1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層で構成されている。
図5及び
図6の例では、三層の熱可塑性樹脂層3a,3b,3cで構成されている。いずれの場合であっても、芯材1と絶縁層3との間には、上記した熱可塑性樹脂層2が形成されている。
【0046】
熱可塑性樹脂層としては、ポリフェニルサルファイド(PPS)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、フッ素化樹脂共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂:PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等の耐熱性の熱可塑性樹脂が好ましい。より耐熱性を持たせる場合には、ポリフェニルサルファイド(PPS)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、フッ素化樹脂共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂:PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が好ましい。
【0047】
絶縁層3が2層以上の熱可塑性樹脂層で構成されている場合、その熱可塑性樹脂層は、同じ熱可塑性樹脂で全ての層が形成されていることが製造面及びコスト面で好ましいが、2層以上の層(例えば3層)のうち1層又は2層が異なる熱可塑性樹脂で形成されていてもよいし、全ての層が異なる熱可塑性樹脂で形成されていてもよい。
【0048】
絶縁層3として、例えば
図5に示すように、テープ巻型の絶縁電線10Aであってもよいし、例えば
図6に示すように、押出し型の絶縁電線10Bであってもよい。これらの絶縁電線は、三層の熱可塑性樹脂層を積層した例である。テープ巻型の絶縁電線10Aでは、芯材1上の熱硬化性樹脂層2の上に、第1層目のテープ状の熱可塑性樹脂層3aを巻きつけ、次いで、その上に第2層目のテープ状の熱可塑性樹脂層3bを巻き付け、次いで、その上に第3層目のテープ状の熱可塑性樹脂層3cを巻き付ける。また、押出し型の絶縁電線10Bでは、芯材1上の熱硬化性樹脂層2の上に、第1層目の熱可塑性樹脂層3aを押出し成形し、次いで、その上に第2層目の熱可塑性樹脂層3bを押出し成形し、次いで、その上に第3層目の熱可塑性樹脂層3cを押出し成形する。この押出しの場合は、各層を個々に押出し成形してもよいし、共押出しによって一段階で又は二段階で押出し成形してもよい。
【0049】
絶縁層3の厚さbは、上記した熱硬化性樹脂層2の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]で、1:50以上、1:3以下の範囲内であることが好ましい。絶縁層3の厚さとは、1層又は2層以上の熱可塑性樹脂層の合計厚さである。この範囲内で良好なはんだ付けを実現できる。比[a:b]が1:50未満では、絶縁層3の厚さが厚くなりすぎ、はんだ付けできないことがある。一方、比[a:b]が1:3を超えると、絶縁層3に対する熱硬化性樹脂層2の厚さ割合が大きくなるので、製造コストが嵩むことがある。
【0050】
本発明に係る絶縁電線10が、良好なはんだ付け現象を実現できる理由は、以下のように推察される。絶縁電線10を、例えば400℃〜450℃程度の高温の溶融はんだに接触させてはんだ付けする際、通常、絶縁層3は、熱硬化性樹脂層2より先に軟化し、次いで、熱硬化性樹脂層2が熱によって分解され流動化するものと考えられる。この熱硬化性樹脂層2は、少なくとも50℃の温度幅内で100℃幅あたり40質量%以下の割合で緩やかに質量減少するので、はんだ付け時には、絶縁層3と熱硬化性樹脂層2との両方が軟化した状態で存在していると考えられる。その結果、軟化した絶縁層3は溶融はんだが絶縁層3内に浸透し易くする作用(この作用を引き込み効果ともいう。)を発揮し、軟化した熱硬化性樹脂層2がフラックス効果を発揮させることによって、良好なはんだ付け現象を実現しているのではないかと推察される。
【0051】
<変形例>
上記した実施形態の絶縁電線10は、
図5及び
図6に示すように、芯材1上に熱硬化性樹脂層2が形成され、その熱硬化性樹脂層2上に三層の熱可塑性樹脂層3a,3b,3cが順次設けられている。しかし、本発明に係る絶縁電線10は、
図1に示すように、芯材1と絶縁層3との間に熱硬化性樹脂層2が設けられていればよいので、結果として
図1に示す形態と同じ形態になれば、絶縁層3の芯材側の表面に設けられたもの(例えばテープ状の熱可塑性樹脂層3aの芯材側の面に熱硬化性樹脂層2を設けたもの)を芯材1に巻き付けて形成したものであってもよい。
【0052】
そうした絶縁電線10は、
図5に示すように、第1層目のテープ状の熱可塑性樹脂層3aの表面に熱硬化性樹脂層2を設けた後、芯材1上にその第1層目の熱可塑性樹脂層3aを巻き付け、その後に第2層目と第3層目の熱可塑性樹脂層3b,3cを設ける方法である。さらに詳しくは、はんだ付け可能な導電性の芯材1を準備する工程と、芯材1上に設ける絶縁層3を構成する三層の熱可塑性樹脂層3a,3b,3cのうち、少なくとも芯材1側の第1層目のテープ状熱可塑性樹脂層3aの表面に熱硬化性樹脂層2を形成する工程と、第1層目のテープ状熱可塑性樹脂層3aのうち熱硬化性樹脂層2が設けられた側を芯材1上に巻き付ける工程と、巻き付けた第1層目のテープ状熱可塑性樹脂層3a上に、第2層目と第3層目の熱可塑性樹脂層3b,3cを設けて絶縁層3を形成する工程とを有する方法である。
【0053】
なお、第2層目の熱可塑性樹脂層3bと第3層目の熱可塑性樹脂層3cには、芯材側の面に熱硬化性樹脂層2が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。第2層目と第3層目の熱可塑性樹脂層3b,3cには、必ずしも熱硬化性樹脂層2は必要ないが、製造コストの観点からは、同じテープ状の熱可塑性樹脂層3a,3b,3cを用いてもよい。
【0054】
他の形態の絶縁電線10としては、芯材1側の面に熱硬化性樹脂層2を設けた第1層目のテープ状の熱可塑性樹脂層3aを準備し、その第1層目の熱可塑性樹脂層3aを芯材1上に巻き付け、次いで、その上に第2層目の熱可塑性樹脂層3bを押出し成形し、次いで、その上に第3層目の熱可塑性樹脂層3cを押出し成形して製造してもよい。この押出しの場合は、各層を個々に押出し成形してもよいし、共押出しによって一段階で押出し成形してもよい。
【0055】
これらの変形例でも、上記した本発明に係る絶縁電線10の効果と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳しくて説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
芯材1として直径0.29mmの銅線を準備した。その芯材1上にポリウレタン樹脂塗料(商品名:TPU F2−NC、東特塗料株式会社製)を塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層2を形成した。さらにその熱硬化性樹脂層2上に、熱可塑性樹脂テープ(ポリフェニレンサルファイド:PPS、軟化点(融点):282℃)を第1層目の熱可塑性樹脂層3aとして1/2ラップで巻き、次いで同じ熱可塑性樹脂テープを第2層目及び第3層目の熱可塑性樹脂層3b,3cとして順次1/2ラップで巻いた。こうして実施例1の絶縁電線10Aを作製した。この絶縁電線10Aの外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリウレタン層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0058】
[実施例2]
直径0.3mmの銅線上に厚さ5μmのポリウレタン層が形成された融着層付きポリウレタン銅線(商品名:LL−UEW、コーセル株式会社製)を準備した。そのポリウレタン銅線上に、実施例1と同じ熱可塑性樹脂テープ(ポリフェニレンサルファイド:PPS、軟化点(融点):282℃)を第1層目の熱可塑性樹脂層3aとして1/2ラップで巻き、次いで同じ熱可塑性樹脂テープを第2層目及び第3層目の熱可塑性樹脂層3b,3cとして順次1/2ラップで巻いた。こうして実施例2の絶縁電線10Aを作製した。この絶縁電線の外径は0.535mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリウレタン層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:22.5であった。
【0059】
[実施例3]
実施例1において、ポリウレタン樹脂塗料の代わりに半田可能ポリエステル樹脂塗料(商品名:HG−4300E、日立化成工業株式会社製)で塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層2を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例3の絶縁電線10Aを作製した。この絶縁電線10Aの外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリエステル樹脂層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5でった。
【0060】
[実施例4]
実施例1において、ポリウレタン樹脂塗料の代わりに半田可能ポリエステルイミド樹脂塗料(商品名:TSF500、東特塗料株式会社製)で塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層2を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例4の絶縁電線10Aを作製した。この絶縁電線10Aの外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリエステルイミド樹脂層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0061】
[実施例5]
実施例1において、PPS製の熱可塑性樹脂テープの代わりにエチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)製の熱可塑性樹脂テープを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例5の絶縁電線10Aを作製した。この絶縁電線10Aの外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリエステル樹脂層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0062】
[実施例6]
実施例1において、芯材1上に熱硬化性樹脂層2を形成した後、熱可塑性樹脂テープの代わりに第1層目の熱可塑性樹脂層3aを押出し成形し、次いで、その上に第2層目の熱可塑性樹脂層3bを押出し成形し、次いで、その上に第3層目の熱可塑性樹脂層3cを押出し成形した。押出樹脂は、(エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE))を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例6の絶縁電線10Bを作製した。この絶縁電線10Bの外径は0.550mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリウレタン樹脂層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:25であった。
【0063】
[実施例7]
芯材1として直径0.29mmの銅線を準備した。また、熱可塑性樹脂テープ(ポリフェニレンサルファイド:PPS、軟化点(融点):282℃)を第1層目の熱可塑性樹脂層3aとして準備した。その熱可塑性樹脂テープの片面に、ポリウレタン塗料(商品名:TPU F2−NC、東特塗料株式会社製)を塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層2を形成した。その熱可塑性樹脂テープ3aを、熱硬化性樹脂層2が芯材1側になるようにして芯材上に1/2ラップで巻いた。次いで、熱硬化性樹脂層2を設けていない上記熱可塑性樹脂テープを第2層目及び第3層目の熱可塑性樹脂層3b,3cとして順次1/2ラップで巻いた。こうして実施例7の絶縁電線10Bを作製した。この絶縁電線10Bの外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリウレタン層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0064】
[比較例1]
実施例1において、熱硬化性樹脂層2を形成せずに銅線上に直接熱可塑性樹脂テープを巻いた。それ以外は実施例1と同様にして、比較例1の絶縁電線を作製した。この絶縁電線の外径は0.535mmであった。
【0065】
[比較例2]
実施例1において、ポリウレタン樹脂塗料の代わりにポリエステル樹脂塗料(商品名:LITON 3300、東特塗料株式会社製)を塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例2の絶縁電線を作製した。この絶縁電線の外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0066】
[比較例3]
実施例5において、ポリウレタン樹脂塗料(ポリウレタンの分子量50000、商品名:TPU F2−NC、東特塗料株式会社製)で形成した厚さ5μmの熱硬化性樹脂層2の代わりに、ポリエステル樹脂塗料(商品名:LITON3300、東特塗料株式会社製)を塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層2を形成した。それ以外は、実施例5と同様にして、比較例3の絶縁電線を作製した。この絶縁電線の外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2であるポリエステル樹脂層の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0067】
[比較例4]
実施例1において、ポリウレタン樹脂塗料の代わりにポリアミドイミド樹脂塗料(商品名:Neoheat AI−00C、東特塗料株式会社製)を塗布して厚さ5μmの熱硬化性樹脂層を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例4の絶縁電線を作製した。この絶縁電線の外径は0.545mmであり、熱硬化性樹脂層2の厚さaと絶縁層3の厚さbとの比[a:b]は1:24.5であった。
【0068】
[加熱減量曲線]
加熱減量曲線は、TG−DTA装置(型名:TG/DTA7300、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いて測定した。
図7は、実施例1の絶縁電線を構成する熱硬化性樹脂層2を測定した結果であり、
図8は、実施例3の絶縁電線を構成する熱硬化性樹脂層2を測定した結果であり、
図9は、実施例4の絶縁電線を構成する熱硬化性樹脂層2を測定した結果であり、
図10は、比較例3の絶縁電線を構成する熱硬化性樹脂層2を測定した結果であり、
図11は、比較例4の絶縁電線を構成する熱硬化性樹脂層2を測定した結果である。
【0069】
実施例1,3,4で得られた加熱減量曲線は、
図7〜
図9に示すように、310℃〜460℃の温度領域内で、少なくとも50℃の温度幅内で100℃幅(ΔT)あたり40質量%(ΔW)以下の割合で質量が減少する領域を有していた。具体的には、実施例1(
図7)では、少なくとも400℃〜450℃の50℃の温度幅内で、100℃幅(ΔT)あたり10質量%(ΔW)減少しており、実施例3(
図8)では、少なくとも380℃〜430℃の50℃の温度幅内で、100℃幅(ΔT)あたり15質量%(ΔW)減少しており、実施例4(
図9)では、少なくとも410℃〜460℃の50℃の温度幅内で100℃幅(ΔT)あたり40質量%(ΔW)減少している。一方、比較例3(
図10)では、410℃〜450℃の40℃の温度幅内で20質量%減少しており、比較例4(
図11)では、該当する領域は存在しない。
【0070】
[はんだ付け評価]
はんだ付け評価は、実施例1〜7及び比較例1〜4の絶縁電線を用いて行った。はんだ付けは、絶縁電線10の片側の端部から16mmの長さを400℃の溶融はんだ(はんだ種類:千住金属工業株式会社製、M31)に所定の時間接触させてはんだ付けした。接触は、溶融はんだ槽に昇降させる移動浸漬法で行った。はんだ付け後の絶縁電線のはんだ付け部の外観(外観)を評価した。はんだ付け部分が、ムラがなく滑らかにはんだ付けされていた場合を「ランク4」とし、少しムラがあるが滑らかにはんだ付けされていた場合を「ランク3」とし、少しムラがありやや滑らかではないが実使用可能な程度にはんだ付けされていた場合を「ランク2」とし、ムラが顕著で滑らかではなく実使用できないもの又ははんだ付けできなかったものを「ランク1」として評価した。結果を表1に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
[結果]
表1に示すように、実施例1,2の絶縁電線は、400℃の溶融はんだへの浸漬時間が1秒〜3秒の短時間であっても、外観が優れ、溶融はんだに接触させた部分(端部から16mm)に良好にはんだ付けすることができた。また、実施例3〜5の絶縁電線も、浸漬時間3秒ではんだ付けした結果、外観が優れ、溶融はんだに接触させた部分(端部から16mm)に良好にはんだ付けすることができた。一方、比較例1〜4の絶縁電線は、十分なはんだ付けができなかった。
【0073】
図12は、絶縁電線をはんだ付けした後の外観を示す写真である。この外観写真において、符号1−1と1−2は実施例1の絶縁電線の結果であり、符号2−1と2−2は実施例2の絶縁電線の結果であり、符号3−1と3−2は比較例1の絶縁電線の結果であり、符号4−1と4−2は比較例2の絶縁電線の結果である。
図12に示すように、実施例1,2の絶縁電線のはんだ付け部分は、全体にわたってムラがなく、滑らかであるのに対して、比較例1の絶縁電線のはんだ付け部分は、先端部分しかはんだ付けされておらず、それ以外の部分は絶縁層が残っていた。また、比較例2の絶縁電線は、絶縁層が除去されず、はんだ付けできなかった。なお、比較例1,2の絶縁電線において、除去されずに残った絶縁層は、分析の結果、熱可塑性樹脂層であることを確認した。
【0074】
なお、比較例3の絶縁電線は、410℃〜450℃の領域自体がC領域であるかD領域であるかの区別が難しく、しかも、その温度幅内で熱硬化性樹脂層の質量減少が急激に進行して100℃あたり50質量%程度の急激な減少であるため、フラックス効果が十分に発揮できず、良好にはんだ付けすることができなかったと考えられる。