(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ノズルからの塗液の吐出開始時に、前記ノズルを前記基材に近づけ、前記ノズルから塗液を吐出する終了時に、前記ノズルを前記基材から遠ざける、請求項1に記載の塗布方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における塗布方法に使用する塗布装置(ダイコータ)100の概要を示した図である。
【0014】
図1に示すように、塗布装置100は、塗液を基材31上に吐出するノズル(ダイヘッド)10と、ノズル10に塗液を供給するポンプ11と、塗液を貯えるタンク12とを備えている。ノズル10は、供給路20を介してポンプ11と接続され、ポンプ11は、リターン路21を介してタンク12に接続されている。供給路20には、ポンプ11とノズル10との間に供給弁13が設けられ、リターン路21には、ポンプ11とタンク12との間にリターン弁14が設けられている。
【0015】
基材31は、バックアップロール30に巻き掛けられ、バックアップロール30の回転により基材31が連続的に走行する。ポンプ11から供給路20を介してノズル10に塗液が供給され、ノズル10から塗液を吐出しながら、ノズルに対して相対的に移動する基材31上に塗布膜が形成される。
【0016】
ここで、ポンプ11は、例えば、シリンジポンプ等の定容量ポンプで構成され、塗布開始前に、シリンジポンプ内のピストン(不図示)を下方に移動させることによって、ポンプ11内に、タンク12に貯められた塗液がリターン路21を介して充填される。塗布開始時には、リターン弁14を閉じ、供給弁13を開けて、シリンジポンプ内のピストンを上方に移動させることによって、ノズル10に、ポンプ11内に充填された塗液が供給路20を介して供給される。ノズル10から吐出する塗液の供給速度は、シリンジポンプ内のピストンの移動速度で制御される。
【0017】
図2は、従来の塗布方法におけるポンプの塗液供給速度と、供給路20内の塗液の圧力(以下、単に「圧力」という)及び塗布膜の膜厚との関係を示した時間線図である。
【0018】
図2に示すように、塗布開始時(時刻t1)に供給弁13を開けて、ポンプ11から塗液を一定の供給速度でノズル10に供給する。このとき、供給路20内の圧力はすぐには上がらず、所定の圧力に達するまで(時刻t2)、一定の時間を要する。これは、ポンプ11とノズル10との間にある供給路20が、例えば、可撓性を有する樹脂で構成されている場合、供給路20の膨張に、供給された塗液が消費され、供給路20内の圧力上昇が遅れたためと考えられる。その結果、塗布開始部で、塗布膜は薄くなり、所定の膜厚に達するまでの範囲(不良膜厚領域)Aが広くなってしまう。
【0019】
そこで、本願発明者等は、塗布開始前に、供給路20内の圧力を予め高めておけば、塗布開始後の供給路20内の圧力上昇の応答性を向上できると考えた。なお、ノズル10と供給弁13との間の供給路20bの長さが、ポンプ11と供給弁13との間の供給路20aの長さよりも短ければ、供給路20内の圧力は、ポンプ11と供給弁13との間の供給路20a内の圧力によって実質的に制御されると考えられる。
【0020】
図3は、塗布開始前に予め供給路20a内の圧力を予め高めたときの、ポンプの塗液供給速度と、供給路20a内の圧力及び塗布膜の膜厚との関係を示した時間線図である。
【0021】
図3に示すように、塗布開始時(時刻t1)より前(時刻t0)に、供給弁13及びリターン弁14を閉じて、ポンプ11を始動させ、ポンプ11の塗液供給速度が所定の値に達した時(時刻t1)、供給弁13を開けて塗布を開始する。この場合、塗布開始時(時刻t1)には、供給路20a内の圧力がすでに上昇しているため、所定の圧力に達するまで(時刻t2)の時間を短縮することができる。その結果、塗布開始部での不良膜厚領域Aを、
図2に示した従来の塗布方法よりも縮小させることができる。
【0022】
なお、塗布開始時の供給路20a内の圧力は、ポンプ11の作動時(時刻t0)から塗布開始時(時刻t1)までのポンプ11の塗液供給速度プロファイルで制御することができる。例えば、
図3に示すように、塗布開始時の供給路20a内の圧力を、膜厚が安定して形成される塗布時の圧力よりも高めることによって、塗布開始時の液着きが向上し、その結果、塗布開始部における塗布膜の直進性を向上させることができる。
【0023】
しかしながら、塗布開始時の供給路20a内の圧力を高めると、その分、塗液の供給量が増えるため、
図3に示すように、塗布開始部において、塗布膜の膜厚が厚くなってしまうという問題が生じる。この問題は、塗布膜の膜厚が薄くなる(例えば、10μm以下)ほど顕著になり、液着けの向上と膜厚の制御とを両立させて制御することは難しい。
【0024】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、以下、
図1及び
図4を参照しながら、本発明の一実施形態における塗布方法を説明する。
【0025】
本実施形態における塗布方法は、
図1に示すように、ポンプ11から供給路20を介してノズル10に塗液を供給し、ノズル10から塗液を吐出しながら、ノズル10に対して相対的に移動する基材31上に塗布膜を形成するものである。
【0026】
図4は、本実施形態における塗布方法におけるポンプの塗液供給速度と、供給路20a内の塗液の圧力及び塗布膜の膜厚との関係を示した時間線図である。
【0027】
図4に示すように、ノズル10から塗液を吐出する前、すなわち塗布開始前(時刻t0からt1)に、供給路20a内の塗液に、第1の圧力P1を付加する(工程(a))。具体的には、供給弁13及びリターン弁14は閉じた状態で、ポンプ11を作動させて、ポンプ11の塗液供給速度を第2の速度V2まで上げて、塗布開始時(時刻t1)における供給路20a内の圧力を第1の圧力P1まで高める。
そして、塗布開始時(時刻t1)までに、ポンプ11の塗液供給速度を第1の速度V1まで下げておく。
【0028】
次に、ノズル10からの塗液の吐出開始時(塗布開始時)
から、ポンプ11の塗液供給速度を
、所定の時間の間(時刻t1からt2)
、第1の速度V1から第2の速度V2に高めながら、ノズル10から塗液を吐出する(工程(b))。これにより、供給路20a内の圧力は、第1の圧力P1から第2の圧力P2に徐々に下がる。
【0029】
次に、上記所定の時間の経過後、ポンプ11の塗液供給速度を、第2の速度V2に維持しながら、かつ、供給路20a内の塗液の圧力を、第2の圧力P2に維持しながら、ノズル10から塗液を吐出する(工程(c))。
【0030】
本実施形態における塗布方法によれば、塗布開始前に、予め、供給路20a内の塗液に所定の圧力(第1の圧力P1)を付与しているため、膜厚が安定して形成される塗布時の圧力(第2の圧力P2)に達するまで(時刻t2)の時間を短縮させることができる。さらに、塗布開始時(時刻t1)における供給路20a内の圧力(第1の圧力P1)を、膜厚が安定して形成される塗布時の圧力(第2の圧力P2)よりも高めることによって、塗布開始時の液着きが向上し、その結果、塗布開始部における塗布膜の直進性を向上させることができる。加えて、塗布開始後、所定の時間の間(時刻t1からt2)、ポンプ11の塗液供給速度を、膜厚が安定して形成される塗布時の塗液供給速度(第2の速度V2)よりも遅くすることによって、液着け時における塗液の供給量を抑えることができる。これにより、膜厚が安定して形成される塗布時の圧力(第2の圧力P2)に達するまで(時刻t2)の時間を、
図3に示した塗布方法よりも、さらに短縮させることができるとともに、塗布開始部において、塗布膜の膜厚が厚くなるのを抑制することができる。その結果、
図4に示すように、塗布開始部での不良膜厚領域Aを大幅に縮小させることができる。
【0031】
本実施形態において、塗布開始前(時刻t0からt1)におけるポンプ11の塗液供給速度プロファイルは、任意に決めることができるが、第1の圧力P1まで高める時間を短縮するために、ポンプ11の塗液供給速度は、少なくとも、第1の速度V1よりも大きいことが好ましい。
【0032】
また、本実施形態では、塗布開始前(時刻t0からt1)におけるポンプ11の塗液供給速度を、膜厚が安定して形成される塗布時の塗液供給速度(第2の速度V2)まで高めたが、これに限定されず、例えば、
図5(a)、(b)に示すように、塗布開始前におけるポンプ11の塗液供給速度(第3の速度V3)を、第2の速度V2よりも低く、もしくは高く設定してもよい。
【0033】
また、本実施形態において、塗布開始前(時刻t0からt1)に、ポンプ11を作動させて、供給路20a内の塗液に、第1の圧力P1を付加したが、これに限定されず、例えば、供給路20aに、別途、加圧弁を介して他の加圧手段(例えば、圧空源など)を連結し、塗布開始前に、加圧弁を開けて、所定の背圧を供給路20a内の塗液に付与してもよい。
【0034】
また、本実施形態では、時刻t1からt2の間、ポンプ11の塗液供給速度を、第1の速度V1から第2の速度V2まで直線的に変化させたが、これに限定されず、任意の速度プロファイル(例えば、多段階に変化)を設定することができる。
【0035】
なお、本発明において、塗布開始前に、供給路20内の内圧を高める(第1の圧力P1を付与する)工程は、必ずしも、ポンプ11とノズル10との間にある供給路20内全体の内圧を高めることに限定されない。
【0036】
本実施形態で示したように、例えば、ノズル10と供給弁13との間の供給路20bの長さを、ポンプ11と供給弁13との間の供給路20aの長さよりも短くすることによって、供給路20内全体の圧力を、供給路20a内の圧力によって、実質的に制御することができる。また、供給弁13とノズル10との間の供給路20bに、別途、加圧弁を介して他の加圧手段(例えば、圧空源など)を連結し、塗布開始前に、供給路20a内の内圧の上昇に連動させて、供給路20b内の内圧を高めることによって、供給路20内全体の圧力を、実質的に制御することができる。
【0037】
本発明の一実施形態における塗布装置は、
図1に示すように、塗液を基材31上に吐出するノズル10と、ノズル10に塗液を供給するポンプ11と、塗液を貯えるタンク12とを備え、ノズル10は、供給路20を介してポンプ11と接続され、ポンプ11は、リターン路21を介してタンク12に接続されている。
【0038】
本実施形態の塗布装置において、供給路20a内の塗液の圧力及びポンプ11の塗液供給速度は、次のように制御される。まず、ノズル10から塗液を吐出する前に、供給路20a内の塗液に第1の圧力P1が付加される。次に、ノズル10からの塗液の吐出開始時から所定の時間の間、ポンプ11の塗液供給速度を、第1の速度V1から第2の速度V2に高める。次に、上記所定の時間の経過後、ノズル10から塗液を吐出する間、ポンプ11の塗液供給速度を、第2の速度V2に維持し、かつ、供給路20a内の塗液の圧力を、第1の圧力P1よりも低い第2の圧力P2に維持する。
【0039】
このような制御を行うことにより、塗布開始後、膜厚が安定して形成される塗布時の圧力(第2の圧力P2)に達するまでの時間を短縮させることができる。さらに、塗布開始時の液着きが向上し、塗布開始部における塗布膜の直進性を向上させることができるとともに、塗布開始部において、塗布膜の膜厚が厚くなるのを抑制することができる。その結果、塗布開始部での不良膜厚領域Aを大幅に縮小させることができる。
【0040】
なお、本実施形態において、ノズル10と供給弁13との間の供給路20bの長さを、ポンプ11と供給弁13との間の供給路20aの長さよりも短くすることが好ましい。これにより、塗布開始前に供給路20内の塗液に付加した圧力(第1の圧力P1)が、供給弁13を開けて塗布を開始する際、ノズル10と供給弁13との間の供給路20bで損失するのを抑制することができる。これにより、塗布開始時におけるノズル10からの塗液吐出の応答性を高めることができる。その結果、塗布開始時の液着きが向上し、塗布開始部における塗布膜の直進性を向上させることができる。
【0041】
図6は、本発明における塗布方法を、間欠塗布に適用した例を示した時間線図である。
【0042】
図6に示すように、塗布開始前(時刻t0からt1)に、供給弁13及びリターン弁14は閉じた状態で、ポンプ11を作動させる(工程(a))。これにより、
図4に示したように、塗布開始時(時刻t1)における供給路20a内の圧力が第1の圧力P1まで高められる。次に、塗布開始時に、リターン弁14を閉じたまま、供給弁13を開け、ポンプ11の塗液供給速度を、一端、第1の速度V1まで下げ、時刻t1からt2の間、ポンプ11の塗液供給速度を、第1の速度V1から第2の速度V2に高めながら、ノズル10から塗液を吐出する(工程(b))。これにより、
図4に示したように、供給路20a内の圧力は、第1の圧力P1から第2の圧力P2に徐々に下がる。次に、時刻t2からt3の間、ポンプ11の塗液供給速度を、第2の速度V2に維持しながら、ノズル10から塗液を吐出する(工程(c))。このとき、
図4に示したように、供給路20a内の塗液の圧力は、第2の圧力P2に維持される。次に、時刻t3で、供給弁13を閉じるとともに、ポンプ11の作動を停止して、ノズル10からの塗液の吐出を停止する(工程(d))。そして、上記工程(a)〜(d)を繰り返すことによって、基材31上に、
図6に示すような、間欠塗布された塗布パターンが形成される。
【0043】
ところで、塗布終了時には、ポンプ11と供給弁13及びリターン弁14との間にある供給路20及びリターン路21には、塗液が一定の圧力をもった状態で残留している。この状態で、再び、塗布開始前のポンプ11を作動させると、ポンプ11の作動によって高められた供給路20a内の圧力に、残留した塗液の圧力が付加されてしまうため、塗布開始時の供給路20a内の圧力が、所定の値(第1の圧力P1)に制御できないおそれがある。その結果、間欠塗布を繰り返すと、第1の圧力P1が安定しないため、不良膜厚領域Aの幅にバラツキが生じるおそれがある。
【0044】
このような問題を解決するために、ノズル10からの塗液の吐出終了後、供給路20a内に残留している塗液の圧力を開放することが好ましい。具体的には、
図6に示すように、塗布終了時(時刻t3)に、供給弁13を閉じ、リターン弁14を開くことによって、供給路20a内にある塗液の圧力を、タンク12側に開放することができる。例えば、タンク12に貯められた塗液が大気に開放されていれば、供給路20a内にある塗液の圧力も、大気圧に開放される。これにより、供給路20a内に残留した塗液の圧力は、常に一定の圧力にリセットされるため、間欠塗布を繰り返しても、塗布開始時に供給路20a内に付与する圧力を、常に一定の値(第1の圧力P1)に制御することができる。その結果、不良膜厚領域Aの幅のバラツキを抑えることができる。
【0045】
なお、供給路20a内に残留する塗液の圧力は、必ずしも大気圧に開放する必要はなく、塗布開始時に供給路20a内に付与する第1の圧力P1に影響の与えない程度の圧力、例えば、少なくとも、膜厚が安定して形成される塗布時の圧力(第2の圧力P2)以下に開放すればよい。
【0046】
なお、供給路20a内に残留した塗液の圧力の開放は、上記の方法に限定されず、例えば、リターン路21に、別途、大気に通じる開放弁を設け、塗布終了後に、開放弁を開けて、供給路20内に残留した塗液の圧力を大気に開放してもよい。
【0047】
また、
図6に示すように、塗布開始時(時刻t0)に、ノズル10の位置を低くして、基材31に近づけてもよい。ノズル10と基材31とのギャップを狭めることによって、液着きを向上させることができ、これにより、塗布開始部における直線性をより向上させることができる。
【0048】
また、
図6に示すように、塗布終了時(時刻t3)に、ノズル10の位置を高くして、基材31から遠ざけてもよい。これにより、ノズル10と基材31との間にある塗液ビードが切れ、塗布終了部の直進性をより向上させることができる。
【0049】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態において、ポンプ11として、シリンジポンプを例に説明したが、これに限定されず、他の定容量ポンプ等を用いることができる。また、基材31の搬送機構として、バックアップロールを例に説明したが、これに限定されず、例えば、枚葉式の搬送機構を用いることができる。