特許第6355375号(P6355375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6355375パーフルオロエラストマー組成物及びシール材
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  • 特許6355375-パーフルオロエラストマー組成物及びシール材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355375
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】パーフルオロエラストマー組成物及びシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20180702BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20180702BHJP
   C08K 5/32 20060101ALI20180702BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C08L27/18
   C08K5/14
   C08K5/32
   C09K3/10 M
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-54896(P2014-54896)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-174988(P2015-174988A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】日本バルカー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/143881(WO,A1)
【文献】 特表2004−510858(JP,A)
【文献】 国際公開第02/028946(WO,A1)
【文献】 特表2004−510860(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0192419(US,A1)
【文献】 特開2006−228805(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0093590(US,A1)
【文献】 特開2002−265733(JP,A)
【文献】 特開2005−344074(JP,A)
【文献】 特開2014−159505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C09K 3/10 − 3/12
C08J 3/00 − 3/28
C08J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン由来の構成単位と、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位と、架橋部位モノマー由来の構成単位とからなるパーフルオロエラストマーと、
有機過酸化物及びニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤と、
を含み、
前記パーフルオロエラストマーにおける各構成単位の比率は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロビニルエーテル/架橋部位モノマーの比が、モル比で、50〜74.8%/25〜49.8%/0.2〜5%であり、
前記複合架橋剤中の有機過酸化物の含有量は、パーフルオロエラストマー100重量部に対して0.5〜10重量部である、送りプレス成形に用いるためのパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
前記ニトロオキサイド化合物の含有量は、前記有機過酸化物の含有量の1〜10重量%の範囲内である、請求項1に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項3】
可塑剤不含有である、請求項1又は2に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項4】
共架橋剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のパーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロエラストマー組成物、及びこれを用いたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種分野で用いられるシール材(ガスケット、パッキン等)として、フッ素ゴムからなるシール材が知られている。フッ素ゴムの中でもパーフルオロエラストマー(FFKM)は、他のフッ素ゴム(FKM)に比べて、非常に高価な材料であるものの、耐熱性や耐薬品性、クリーン性に優れた材料であり、シール材用ゴム成分としての利用価値が高い。例えば特許文献1には、半導体製造装置用のシール材にパーフルオロエラストマー(FFKM)を用いることが記載されている。
【0003】
フッ素ゴムシール材は、FKMやFFKMを含むゴム組成物を、送りプレス成形、プレス成形、インジェクション成形等によって架橋成形することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−228805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、大口径のリング状シール材(Oリング等)を製造する場合、極めて大きな金型を用意する必要があるためプレス成形やインジェクション成形は適しておらず、このような場合は、両端部が未架橋(又は架橋不十分)の紐状架橋成形体を熱プレスにより複数作製し、これらの端部同士を繋いで、繋ぎ部を熱プレスにより架橋接合させる送りプレス成形(繋ぎ成形)が有利である。
【0006】
しかしながら、架橋性ゴム成分としてFFKMを用いた未架橋ゴム組成物を、パーオキサイド架橋系にて送りプレス成形により架橋成形すると、「繋ぎ痕」と称する、上記繋ぎ部に相当するとわかるような外観上の不具合が得られる製品(シール材)に生じやすく、製品の不良率が極めて高いという問題があった。「繋ぎ痕」とは、具体的には、繋ぎ部に生じるビビリ(波打ち状の表面凹凸)、凹み、ズレ(接合する2つ端部の表面位置のズレ(段差))等である。
【0007】
「繋ぎ痕」の問題は、FKMを用いた場合にも生じやすいが、FKMよりも一般に粘度が高く、流動性が低いために成形加工性に劣るFFKMを用いる場合にとりわけ顕著である。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みなされたものであり、その目的は、架橋性ゴム成分としてFFKMを用いたパーオキサイド架橋系のパーフルオロエラストマー組成物であって、送りプレス成形によっても繋ぎ痕が生じにくいパーフルオロエラストマー組成物、及びこれを架橋成形してなるシール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次のパーフルオロエラストマー組成物及びシール材を含む。
[1]テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系パーフルオロエラストマー100重量部と、
有機過酸化物0.5〜10重量部及びニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤と、
を含む、パーフルオロエラストマー組成物。
【0010】
[2]前記ニトロオキサイド化合物の含有量は、前記有機過酸化物の含有量の1〜10重量%の範囲内である、[1]に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【0011】
[3]可塑剤不含有である、[1]又は[2]に記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【0012】
[4]共架橋剤をさらに含む、[1]〜[3]のいずれかに記載のパーフルオロエラストマー組成物。
【0013】
[5][1]〜[4]のいずれかに記載のパーフルオロエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、送りプレス成形によっても繋ぎ痕が生じにくいパーオキサイド架橋系のパーフルオロエラストマー組成物を提供することができる。このパーフルオロエラストマー組成物によれば、繋ぎ痕が抑制された大口径のリング状シール材を歩留まり良く、高効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1及び比較例1のパーフルオロエラストマー組成物の架橋特性(架橋挙動)を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<パーフルオロエラストマー組成物>
〔a〕パーフルオロエラストマー
本発明で用いるパーフルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系であり、すなわち基本的にはテトラフルオロエチレン由来の構成単位と、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位からなり、これに少量の架橋部位モノマーを共重合させたものである。
【0017】
パーフルオロビニルエーテルは、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)及び/又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)であることができる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、アルキル基の炭素数が1〜5であることができ、例えばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等であることができる。好ましくは、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0018】
パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)は、ビニルエーテル基(CF2=CFO−)に結合する基の炭素数が3〜11であることができ、例えば
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCn2n+1
CF2=CFO(CF23OCn2n+1
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1、又は
CF2=CFO(CF22OCn2n+1
であることができる。上記式中、nは例えば1〜5であり、mは例えば1〜3である。
【0019】
架橋部位モノマーは架橋部位を与える基を有するモノマーであり、本発明においては、パーフルオロエラストマーにパーオキサイド架橋性を付与するあらゆるモノマーであり得る。架橋部位を与える基の一例を挙げればハロゲン原子(例えばヨウ素原子)である。
【0020】
パーフルオロエラストマーにおける各構成単位の比率、テトラフルオロエチレン/パーフルオロビニルエーテル/架橋部位モノマーの比は、モル比で、通常50〜74.8%/25〜49.8%/0.2〜5%であり、好ましくは60〜74.8%/25〜39.5%/0.5〜2%である。本発明のパーフルオロエラストマー組成物は、当該モル比の異なる2種以上のパーフルオロエラストマーを含むこともできる。
【0021】
パーフルオロエラストマーは、市販品を使用することもでき、その具体例は、Dupont社製の「Kalrez」、ダイキン社製の「ダイエルパーフロ」、ソルベイ社製の「Tecnoflon」、住友3M社製の「ダイオニン」を含む。
【0022】
パーフルオロエラストマーの粘度は、送りプレス成形加工性、及び送りプレス成形を用いた架橋成形物の量産性等の観点から、ムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕で50〜100であることが好ましい。粘度があまりに低いと、パーフルオロエラストマー組成物の流動性が過度に高くなって、送りプレス成形用の金型上において、パーフルオロエラストマー組成物が自重で変形し、得られる架橋成形物に凹み等の不具合を生じやすい。パーフルオロエラストマーの粘度があまりに高いと、パーフルオロエラストマー組成物の流動性が過度に低くなって、送りプレス成形自体が困難となる。
【0023】
〔b〕複合架橋剤
本発明で用いる複合架橋剤は、架橋性ゴム成分(パーフルオロエラストマー)を架橋させる架橋剤としての有機過酸化物と、ニトロオキサイド化合物とを含有するものである。このような複合架橋剤の使用により、送りプレス成形における繋ぎ痕を生じにくくすることができる。これは次の理由によるものと考えられる。
【0024】
1)パーフルオロエラストマー組成物を投入した金型をプレスにセットし、熱プレスを実施したときに、パーフルオロエラストマー組成物の架橋がすでに始まっている場合には、金型の溝内での該組成物の流動性が低くなり、上述のビビリが生じやすいところ、複合架橋剤の使用により初期流動時間(パーフルオロエラストマー組成物を金型に投入してから、架橋曲線が急激に立ち上がり始めるまでの時間)を延ばすことができるため、このようなビビリを抑制することができる。
【0025】
2)架橋曲線の立ち上がりが弱く、パーフルオロエラストマー組成物の架橋反応が比較的ゆっくりと進行する場合には、架橋完了までの比較的軟らかい状態が長く続くため、架橋成形物が正確に金型の形状とならずに繋ぎ部に上述の凹みやズレが生じやすいところ、複合架橋剤の使用により架橋開始から架橋完了までの時間を短縮することができる(架橋曲線の立ち上がりをより急激にすることができる)ため、このような凹みやズレを抑制することができる。
【0026】
また、複合架橋剤の使用は、パーフルオロエラストマー組成物の架橋反応に十分な完結度をもたらす。これにより、バリ部の粘着性が高くなり、金型を汚染しやすいという問題をも解消し得る。また、所望の架橋密度を有し、所望の優れた特性を示す架橋成形物(シール材等)を得ることができる。
【0027】
これに対して、架橋性ゴム成分としてFFKMやFKMを用いた従来のパーオキサイド架橋系ゴム組成物は、初期流動時間が短い一方で、架橋開始から架橋完了までの時間が非常に長いという架橋挙動を示すため、繋ぎ痕を生じやすかった。また、上記従来のパーオキサイド架橋系ゴム組成物には、初期流動時間が極端に短い上に、架橋開始から架橋完了までの時間が極端に短い架橋挙動を示すものもあり、この場合、金型の上に、ゴム組成物を長時間置く送りプレス成形では、当該ゴム組成物の架橋反応が早すぎるために、成形自体が困難であった。
【0028】
一方、架橋開始時期を遅らせるためにゴム組成物に架橋遅延剤を添加することが知られているが、架橋遅延剤の使用は、架橋開始時期を遅らせることができる反面、得られる架橋成形物の最終的な架橋密度を低下させるという問題を抱えている。
【0029】
複合架橋剤を構成する有機過酸化物としては、架橋剤として従来公知のものを用いることができ、例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキサイド、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等を挙げることができる。有機過酸化物は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等を好ましく用いることができる。
【0030】
複合架橋剤は、架橋性ゴム成分(パーフルオロエラストマー)100重量部に対する有機過酸化物の含有量が0.5〜10重量部となるようにパーフルオロエラストマー組成物中に添加され、好ましくは0.8〜6重量部となるようにパーフルオロエラストマー組成物中に添加される。複合架橋剤の添加量は、架橋性ゴム成分(パーフルオロエラストマー)100重量部に対して、例えば1〜20重量部程度、1〜15重量部程度又は1〜10重量部程度である。架橋性ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を0.5重量部以上とすることにより、十分な架橋密度を得ることができる。これにより架橋成形物(シール材等)に良好なゴム弾性、硬度、機械的強度、耐熱性、シール性を付与することができる。また、架橋性ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を0.5重量部以上とすることは、上述した金型汚染の問題の抑制にも有利である。
【0031】
一方、架橋性ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を10重量部以下とすることは、得られる架橋成形物(シール材等)に発泡や粘着性が生じることを抑制又は防止できる点、得られる架橋成形物(シール材等)の耐熱性やシール性が向上され得る点で有利である。
【0032】
複合架橋剤を構成するニトロオキサイド化合物の具体例は、例えば、
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
2,2,5,5−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ−4−イル)セバケート、
4,4’−[(1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジジニルオキシ、
2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシルモノフォスフェート、
3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル
等である。
【0033】
上記の中では、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4,4’−[(1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジジニルオキシが好ましく用いられる。
【0034】
複合架橋剤におけるニトロオキサイド化合物の含有量は、好ましくは有機過酸化物の含有量の1〜10重量%の範囲内であり、より好ましくは2〜8重量%の範囲内である。ニトロオキサイド化合物の含有量をこの範囲内にすることにより、良好な初期流動時間伸長効果及び架橋時間の短縮効果を得ることができる。
【0035】
複合架橋剤は、有機過酸化物及びニトロオキサイド化合物のみから構成されていてもよいが、フィラー成分等の他の成分を含有していてもよい。フィラー成分としては、無機顔料(炭酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク等)、有機顔料、樹脂成分等を挙げることができる。複合架橋剤の形態は特に制限されず、液状、粉末状の他、成形体(例えば、顆粒状、ペレット状、シート状等)であることもできる。フィラーは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明において使用し得る複合架橋剤の市販品としては、例えば、いずれも有機過酸化物のニトロオキサイド処理物である、Arkema社製の「Luperox DC40P−SP2」(有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド40重量%、ニトロオキサイド化合物:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル2.4重量%、残部:フィラー);「Luperox F40P−SP2」(有機過酸化物:α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40重量%、ニトロオキサイド化合物3.8重量%、残部:フィラー);「Luperox 101XL45−SP2」(有機過酸化物:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン45重量%、ニトロオキサイド化合物及びフィラーからなる)等がある。中でも、架橋成形物の耐熱性の観点からは、「Luperox 101XL45−SP2」が好ましく用いられる。
【0037】
〔c〕共架橋剤
パーフルオロエラストマー組成物は、共架橋剤を含むことができる。共架橋剤の具体例は、硫黄、硫黄系化合物、キノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2−ポリブタジエン、(メタ)アクリル酸金属塩を含む。
【0038】
共架橋剤を含む場合、その含有量は、架橋性ゴム成分(パーフルオロエラストマー)100重量部に対して、1〜10重量部程度であることができる。
【0039】
〔d〕その他の配合成分
パーフルオロエラストマー組成物は、必要に応じて、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、加工助剤、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤、上記パーフルオロエラストマー以外のフッ素ゴム等の添加剤を含むことができる。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
充填剤の具体例は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状又は粉末状樹脂(フッ素樹脂等)、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等を含む。
【0041】
上記フッ素樹脂は、分子内にフッ素原子を有する樹脂であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VDF−HFP共重合体)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(VDF−HFP−TFE共重合体)等であることができる。フッ素樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
老化防止剤の具体例は、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、アミン−ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体、チオウレア誘導体等を含む。加硫促進剤の具体例は、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系の化合物等を含む。
【0043】
パーフルオロエラストマー以外のフッ素ゴム(FKM)の具体例は、ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体;テトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−プロピレン(Pr)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体;エチレン(E)−テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体を挙げることができる。フッ素ゴムは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
ただし、可塑剤の含有量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、架橋性ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、可塑剤を含有しないことが極めて好ましい。可塑剤を含有させることによってパーフルオロエラストマー組成物の流動性が過度に高くなると、送りプレス成形用の金型上において、パーフルオロエラストマー組成物が自重で変形し、得られる架橋成形物に凹み等の不具合を生じやすい。また、可塑剤を含有させると、架橋成形物(シール材等)の耐熱性が低下しやすく、また架橋成形物がシール材である場合、シール材に接触する物体に汚染を生じさせるおそれもある。
【0045】
また同様にシール材に接触する物体に汚染を生じさせるおそれのある他の添加剤、例えば、離型剤、ワックス類、滑剤、液状の加工助剤等の含有量は、できるだけ少なくすることが好ましく(例えば、架橋性ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、このような添加剤を含有しないことがより好ましい。
【0046】
なお、ここでいう可塑剤とは、狭義の可塑剤(フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、クエン酸エステル系、トリメリット系可塑剤等)の他、オイル(ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、フッ素系オイル、植物油、エポキシ化植物油等)も含まれる。
【0047】
パーフルオロエラストマー組成物は、パーフルオロエラストマー、複合架橋剤、及び必要に応じて添加されるその他の配合成分を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、オープンロールのようなロール混練機;加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)のようなミキサー等の従来公知のものを用いることができる。これらの配合成分は、一度に混合して混練されてもよいし、一部の配合成分を混練した後、残りの配合成分を混練するといったように複数段に分けてすべての配合成分を混練するようにしてもよい。
【0048】
<シール材>
上記パーフルオロエラストマー組成物を架橋成形することにより、架橋成形物であるシール材を製造することができる。架橋成形方法は、送りプレス成形、プレス成形、インジェクション成形のような従来公知の方法を採用することができるが、大口径のリング状シール材(Oリング等)を製造する場合には、送りプレス成形を採用することが好ましい。架橋成形温度は、例えば100〜200℃程度であり、好ましくは150〜190℃である。必要に応じて、架橋成形温度と同程度の温度以上で二次架橋(熱処理)を行ってもよい。
【0049】
シール材は、パッキンやガスケット等であることができる。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択されるが、その代表例はOリングのようなリング状である。本発明のパーフルオロエラストマー組成物は、送りプレス成形における繋ぎ痕を効果的に抑制できることから、とりわけ送りプレス成形によって好適に製造できる大口径のリング状シール材用途に有効である。大口径のリング状シール材としては、例えば化学工場で用いられるような蒸気釜や反応器用のシール材を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1、比較例1>
(1)パーフルオロエラストマー組成物の調製及びシール材の作製
次の手順に従って、パーフルオロエラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である)、パーフルオロエラストマー、フィラー1,2の所定量をロール混練機(ロール回転速度:15rpm)により均一に混練した。その後、得られた混練物に、複合架橋剤又は架橋剤、及び、共架橋剤を所定量投入し、ロール混練機により均一混練を行って、パーフルオロエラストマー組成物を調製した。
【0052】
次に、得られたパーフルオロエラストマー組成物を送りプレス成形(架橋成形温度:170℃)により架橋成形して、内径が1mであり、繋ぎ部を5ヶ所有するシール材を作製した。なお、このシール材の断面は横10mm×縦10mmの正方形である。シール材は、上記パーフルオロエラストマー組成物から、長さ65cmの紐状の架橋成形物(両末端の3cmのみ半架橋)を5本作製し、これらを上記架橋成形温度にて繋ぐとともに繋ぎ部分を架橋させることによって作製した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例及び比較例で用いた各配合成分の詳細は次のとおりである。
〔1〕FFKM:テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系パーフルオロエラストマー、
〔2〕フィラー1:カーボンブラック、
〔3〕フィラー2:酸化亜鉛2種、
〔4〕複合架橋剤:Arkema社製の「Luperox 101XL45−SP2」、
〔5〕架橋剤:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、
〔6〕共架橋剤:トリアリルイソシアヌレート。
【0055】
(2)パーフルオロエラストマー組成物及びシール材の評価
得られたパーフルオロエラストマー組成物及び架橋成形物(シール材)について、下記の項目を測定、評価した。結果を表1〔下記〔エ〕については図1〕に示す。
【0056】
〔ア〕シール材の常態物性
実施例・比較例で用いたのと同じパーフルオロエラストマー組成物を用い、同じ方法で架橋成形を行って、JIS K6250に従い、2mmの厚さのシート状架橋成形品を作製した。このシート状架橋成形品から、JIS K6251に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸びを測定した。また、JIS K6253に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状架橋成形品の硬度を測定した。これらの試験はすべて25℃の温度下で行った。
【0057】
〔イ〕シール材の圧縮永久歪
JIS K6262に準拠し、300℃×72時間、圧縮率25%の条件で、線径φ3.53 Oリングを使用して圧縮永久歪を測定した。
【0058】
〔ウ〕シール材における繋ぎ痕の評価
実施例・比較例で得られたシール材の繋ぎ部5ヶ所を目視で観察し、下記評価基準に従って繋ぎ痕を評価した。
【0059】
A:いずれの繋ぎ部においても、繋ぎ面を中心とする長さ5cmの範囲におけるシール材表面を評価したとき、目視にて繋ぎ痕(ビビリ、凹み、ズレ(段差))が認められず、触感でも段差は認められず、かつ、顕微鏡観察において段差が認められる場合であっても、その高さが最大で0.25mm以下である、
B:A及びC以外の場合、
C:いずれかの繋ぎ部において、繋ぎ面を中心とする長さ5cmの範囲におけるシール材表面を評価したとき、目視にて繋ぎ痕(ビビリ、凹み、ズレ(段差))が認められるか、触感で段差を確認できるか、又は、顕微鏡観察において最大で0.5mmを超える高さの段差が認められる。
【0060】
〔エ〕パーフルオロエラストマー組成物の架橋特性
実施例・比較例で得られたパーフルオロエラストマー組成物について、JIS K6300−2に準拠し、ダイ加硫試験A法(170℃×30分)によって架橋特性(架橋挙動)を測定した。結果を図1に示す。
【0061】
〔オ〕パーフルオロエラストマー組成物の離型性及び金型汚染性
プレス成形(使用金型:P26 Oリング用、架橋成形温度:170℃)により実施例・比較例のパーフルオロエラストマー組成物から製品Oリングを作製する成形工程を連続して10回実施し、下記評価基準に従って離型性及び金型汚染性を評価した。
【0062】
A:金型からの製品離型が最後まで可能であり、金型キャビティの汚れもなく、バリ付着もない、
B:金型からの製品離型が最後まで可能であり、金型キャビティの汚れもないが、バリ付着が認められる、
C:金型からの離型が困難となるか、又は金型キャビティに汚れが発生する。
図1