(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355433
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
F16H7/08 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-110977(P2014-110977)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-224748(P2015-224748A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 好一
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−133879(JP,A)
【文献】
特開2003−202061(JP,A)
【文献】
実開平03−089253(JP,U)
【文献】
特開2004−211752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成されたシリンダ室内に摺動可能なプランジャと、そのプランジャを外方に向けて押圧するスプリングとを組込み、前記ハウジングと前記プランジャはプランジャの軸方向が上下方向と交差する方向に配置され、前記ハウジングには前記プランジャの背部に形成された圧力室に連通する給油通路を設け、前記プランジャは回転自在であり、そのプランジャの先端部における外周下部に径方向に延びるロックピンを設け、前記ハウジングの先端部下側に支持ピンを設け、その支持ピンを中心にして上下方向に揺動自在に支持されたロックレバーは係合片の両端に対向一対の側片を設けたコの字形をなす金属板であり、その対向一対の側片の端部にピン孔が設けられ、そのピン孔に前記支持ピンが挿入され、前記係合片の内面に対する前記ロックピンの係合によってプランジャを押し込んだ初期セット状態に保持するチェーンテンショナにおいて、
前記ロックレバーにおける係合片の両端間における中央部に前記ロックピンが係合可能な係合凹部を設け、前記係合凹部は、円弧状屈曲部またはコの字状屈曲部からなり、その係合凹部の両端側に、前記ロックピンを前記係合凹部に案内する一対の相反する方向に傾斜する傾斜案内部が設けられていることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記ロックレバーが、金属板のプレス成形品とされ、その成形後に熱処理された請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーン伝動装置、特に、カム軸駆動用チェーン伝動装置のチェーンの張力を一定に保持するチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
カム軸駆動用チェーン伝動装置のチェーンの張力を一定に保持するチェーンテンショナとして、ハウジングに形成されたシリンダ室内にプランジャと、そのプランジャを外方向に向けて押圧するスプリングとを組込み、上記ハウジングにはプランジャの背部に形成された圧力室に連通する給油通路を設け、その給油通路から圧力室内に供給される作動油によってプランジャに付与される押し込み力を緩衝するようにしたものが従来から知られている。
【0003】
上記のようなチェーンテンショナにおいては、スプリングの押圧によってプランジャが常に突出する方向に付勢されているため、組付けに際しては、プランジャを押し込み、その押し込み状態を保持してテンショナ取付け対象にハウジングを固定する必要が生じ、組付けに非常に手間がかかるという問題がある。
【0004】
かかる問題点を解決するため、特許文献1に記載されたチェーンテンショナにおいては、プランジャの先端部における外周下部に、そのプランジャの径方向に延びるロックピンを設け、ハウジングの先端部下側に設けられた支持ピンによってロックレバーの対向一対の側片の端部を支持して、ロックレバーを上下方向に揺動自在に支持し、そのロックレバーの対向一対の側片間に渡る係合片の内面に上記ロックピンを係合し、プランジャを押し込んだ初期セット状態に保持して組み付けの容易化を図るようにしている。
【0005】
上記チェーンテンショナにおいては、チェーン伝動装置に対する組み付け後、チェーン伝動装置を作動させると、緊張するチェーンによりプランジャが押し込まれてロックピンが係合片から離反し、ロックレバーが自重で下方向に揺動してロックピンに対する係合が解除するため、初期セット状態を自動的に解除することができるという特徴も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−98420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されたチェーンテンショナにおいては、ロックレバーの係合片に対するロックピンの掛かり代は、両端間における中央部で大きく、両端部に至るに従って次第に小さくなって係合解除し易くなるため、係合片の中央部にロックピンを係合保持させておくのが理想である。
【0008】
しかし、上記従来のチェーンテンショナにおいては、係合片が平板状であり、しかも、プランジャは回転自在であるため、理想とする中央位置にロックピンを確実に係合保持させることはできず、係合片の両端部にロックピンが係合していると、組み付け前の輸送の段階で、振動等によりプランジャが少し押し込まれると係合が解除して初期セットが解除する可能性があり、その誤解除を防止する上において改善すべき点が残されている。
【0009】
この発明の課題は、組み付け前の輸送の段階等で初期セット状態が誤って解除されるのを防止することができるようにしたチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、ハウジングに形成されたシリンダ室内に摺動可能なプランジャと、そのプランジャを外方に向けて押圧するスプリングとを組込み、前記ハウジングには前記プランジャの背部に形成された圧力室に連通する給油通路を設け、前記プランジャの先端部における外周下部に径方向に延びるロックピンを設け、前記ハウジングの先端部下側に支持ピンを設け、その支持ピンを中心にして上下方向に揺動自在に支持されたロックレバーが、係合片と、その係合片の両端に設けられて端部が支持ピンで揺動自在に支持された対向一対の側片を有してなり、前記係合片の内面に対する前記ロックピンの係合によってプランジャを押し込んだ初期セット状態に保持するチェーンテンショナにおいて、前記ロックレバーにおける係合片の両端間における中央部に前記ロックピンが係合可能な係合凹部を設けた構成を採用したのである。
【0011】
上記のように、ロックレバーに設けられた係合片の両端間における中央部に係合凹部を設けることによって、その係合凹部に対するロックピンの係合により、係合片の中央部にロックピンを確実に係合保持することができ、チェーンテンショナの組み付け前の輸送等の段階で初期セット状態が誤って解除されるのを防止することができる。
【0012】
ここで、係合凹部は、V字状屈曲部であってもよく、円弧状屈曲部であってもよい。また、コの字状屈曲部であってもよい。
【0013】
係合凹部としてV字状屈曲部を採用する場合において、係合片の両端間における中央部からの屈曲によって係合片の全体をV字形とすることにより、初期セット時、ロックピンが係合片の内面端部に係合していると、その内面は傾斜状態にあるため、ロックピンは傾斜内面に案内されて係合片の中央位置に移動し、係合片の中央に形成された係合凹部にロックピンを確実に係合させることができる。
【0014】
また、係合凹部として円弧状屈曲部、あるいは、コの字状屈曲部を採用する場合において、その係合凹部の両端側に一対の相反する方向に傾斜する傾斜案内部を設けておくことにより、その傾斜案内部でロックピンを係合凹部に案内することができるため、係合凹部にロックピンを確実に係合させることができる。
また、前記ロックレバーは、金属板のプレス成形品とされ、その成形後に熱処理されたものを採用することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明においては、上記のように、ロックレバーに設けられた係合片の両端間における中央部に係合凹部を設けたことにより、その係合凹部に対するロックピンの係合によって、係合片の中央部にロックピンを確実に係合保持することができ、チェーンテンショナの組み付け前の輸送等の段階で初期セット状態が誤って解除されるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明に係るチェーンテンショナの実施の形態を示す一部切欠正面図
【
図2】
図1に示すチェーンテンショナの先端部分を示す正面図
【
図5】チェーンテンショナの組付け状態を示す一部切欠正面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至
図4に示すように、ハウジング10はアルミ合金等の金属から形成されて円柱状をなし、先端部には小径部11が設けられている。
【0018】
また、ハウジング10の後端部にはチェーンテンショナ取付け対象に対する取付け用のフランジ12が設けられ、そのフランジ12に複数の取付け孔13が形成されている。
【0019】
ハウジング10には先端面で開口するシリンダ室14が設けられ、そのシリンダ室14内にプランジャ15が摺動自在に組込まれている。
【0020】
プランジャ15は、その後端面で開口するスプリング収納凹部16を有し、そのスプリング収納凹部16の閉塞端面とシリンダ室14の底面間に組み込まれたスプリング17はプランジャ15を外方向に向けて押圧している。
【0021】
ハウジング10の後端部にはプランジャ15の背部に形成された圧力室18 に連通する給油通路19が形成され、その給油通路19の油出口側に圧力室18内の作動油が給油通路19側に逆流するのを防止するチェックバルブ20が設けられている。
【0022】
図1に示すように、ハウジング10とプランジャ15の相互間には、プランジャ15がシリンダ室14の底面側に向けて所定量以上後退動するのを防止する後退動規制手段21が設けられている。
【0023】
後退動規制手段21は、シリンダ室14の開口部内周にリング収容溝22を形成し、そのリング収容溝22内にレジスタリング23に設けられた径方向に弾性変形可能なリング部23aを収容し、プランジャ15の外周部には上記リング部23aで締付けられる複数の円周溝24を軸方向に等間隔に設け、各円周溝24の内周にプランジャ15の先端に向けて小径となるテーパ面24aと、そのテーパ面24aの小径側端部に係合面24bとを設けている。
【0024】
ここで、レジスタリング23のリング部23aの両端には
図4に示すように、一対の摘み23b が設けられている。摘み23bはハウジング10の小径部11に形成された切欠部25から外部に臨み、その一対の摘み23bを両側から押圧することによってリング部23aが拡径するようになっている。
【0025】
上記の構成から成る後退動規制手段21においては、テーパ面24aがレジスタリング23のリング部23aを拡径させる作用によってプランジャ15の前進動を許容し、リング収容溝22の後壁面22aに当接して停止するレジスタリング23のリング部23aに対する係合面24bの係合によってプランジャ15の後退動を規制する。
【0026】
図1乃至
図4に示すように、ハウジング10における小径部11の外周下部には軸方向に延びる突出部26が設けられ、その突出部26に両側面に貫通するピン孔27が形成されている。ピン孔27には支持ピン28が圧入され、その支持ピン28を中心にしてロックレバー30が揺動自在に支持されている。
【0027】
ロックレバー30は係合片31の両端に対向一対の側片32を設けたコの字形をなし、その対向一対の側片32の端部にピン孔33が設けられ、そのピン孔33に上記支持ピン28が挿入されて、支持ピン28を中心にロックレバー30は揺動自在とされている。ピン孔33として、ここでは長孔からなるものを示したが円形孔であってもよい。
【0028】
係合片31には、両端間における中央位置からの折り曲げによってV字状屈曲部からなる係合凹部34が設けられている。一方、プランジャ15の先端部における外周下部には、プランジャ15の径方向に延びるロックピン35が設けられ、そのロックピン35に対するロックレバー30の係合片31の係合によってプランジャ15はシリンダ室14内に押し込まれた初期セット状態に保持される。
【0029】
実施の形態で示すチェーンテンショナは上記の構造から成り、そのチェーンテンショナの組付けに際しては、プランジャ15を押し込み、支持ピン28を中心とするロックレバー30の揺動により、そのロックレバー30の係合片31をロックピン35に係合して、プランジャ15を押込み状態に保持する。
【0030】
上記のようなロックレバー30の揺動によるチェーンテンショナの初期セット状態の形成に際し、ロックピン35が係合片31の端部に係合する場合、その係合片31に対するロックピン35の掛かり代が小さく、振動等によってプランジャ15が少し押し込まれると、ロックピン35が係合片31から離反し、ロックレバー30が揺動して係合解除する可能性があるため、ロックピン35はV字状屈曲部からなる係合凹部34に係合させるようにする。
【0031】
ここで、ロックレバー30の揺動により係合片31をロックピン35に係合させる場合において、その係合片31の端部がロックピン35に係合した場合、係合片31は、両端間における中央部からの屈曲により全体がV字形とされて係合凹部34の両端側における内面が傾斜状とされているため、上記ロックピン35は傾斜状内面に案内されて中央部に移動し、V字状屈曲部からなる係合凹部34に自然に係合することになり、係合凹部34にロックピン35を確実に係合させることができる。
【0032】
このとき、係合片31に対するロックピン35の掛かり代は最も大きい状態にあるため、チェーンテンショナの組付け前の輸送の段階等において、振動等によりプランジャ15が少し押し込まれても、ロックレバー30とロックピン35は係合状態に保持され、初期セット状態が誤って解除されるようなことはない。
【0033】
図5は、チェーンテンショナ取付け対象としてのエンジンカバー40に形成されたテンショナ取付孔41にハウジング10を挿入し、エンジンカバー40の外側面に衝合されたフランジ12をボルト42の締め付けによって固定した状態を示す。
【0034】
上記のようなチェーンテンショナの組付け状態において、エンジンカバー40内に設けられたカム軸駆動用のチェーン43を移動させると、チェーン43が緊張し、揺動可能に支持されたチェーンガイド44を介してプランジャ15に押し込み力が負荷される。
【0035】
このとき、プランジャ15が後退し、ロックピン35がロックレバー30に対する係合凹部34から離反するため、ロックレバー30は自重により支持ピン28を中心に下方向に揺動し、ロックピン35に対するロックレバー30の係合が解除して、初期セット状態が自動的に解除される。その初期セット状態の解除により、プランジャ15はチェーン43からプランジャ15に負荷される押し込み力とスプリング17のばね力とが釣り合う位置まで移動して停止し、チェーン43に一定の張力が負荷される。
【0036】
上記のようなチェーンテンショナの組付け後、給油通路19から圧力室18内に作動油を供給して圧力室18内に作動油を満たし、その作動油によってチェーン43からプランジャ15に負荷される押し込み力を緩衝する。
【0037】
図3においては、ロックレバー30の係合片31を両端間の中央部からの折曲げによってV字状屈曲部からなる係合凹部34を形成したが、係合凹部34はV字状屈曲部に限定されるものではない。
【0038】
図6乃至
図9は係合凹部34の他の例を示す。
図6および
図8においては、円弧状屈曲部を係合凹部34としており、また、
図7および
図9ではコの字状屈曲部を係合凹部34としている。いずれの係合凹部34においても、その係合凹部34にロックピン35を係合させることによって、係合片31の中央部にロックピン35を確実に係合保持することができ、チェーンテンショナの組み付け前の輸送等の段階で初期セット状態が誤って解除されるのを防止することができる。
【0039】
ここで、
図6および
図7に示すように、係合凹部34の両端側に一対の相反する方向に傾斜する傾斜案内部36を設けておくことにより、その傾斜案内部36でロックピン35を係合凹部34に案内することができるため、ロックレバー30をロックピン35に向けて揺動させる係合操作のみで係合凹部34にロックピン35を確実に係合させることができる。
【符号の説明】
【0040】
10 ハウジング
14 シリンダ室
15 プランジャ
17 スプリング
18 圧力室
19 給油通路
28 支持ピン
30 ロックレバー
31 係合片
32 側片
34 係合凹部
35 ロックピン