(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂とを含有する(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、並びに、(D)誘電体粉末を含有するアルカリ現像型感光性誘電体組成物であって、
前記(A−I)ポリビニルブチラール樹脂は、モノマー単位の構造としてブチラール基、水酸基、および酢酸基を含有し、
前記(A)バインダー樹脂における前記(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と前記(A−II)カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂との質量比が、5:95〜60:40の範囲内であり、
前記(A)バインダー樹脂と(B)光反応性モノマーとの質量比が20:80〜70:30の範囲内であり、
さらに、前記(D)誘電体粉末と、前記(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの合計との質量比が、30:70〜90:10の範囲内であり、
前記(A)バインダー樹脂の重量平均分子量Mwが、GPC測定によるポリスチレン換算で5000〜50000の範囲内であることを特徴とする、
アルカリ現像型感光性誘電体組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物は、(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、および(D)誘電体粉末を含有するものである。(A)バインダー樹脂には、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂とが含有されている。また、これら各成分の質量比には、(A)バインダー樹脂における(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂との質量比が、5:95〜60:40の範囲内であるという条件、(A)バインダー樹脂と(B)光反応性モノマーとの質量比が20:80〜70:30の範囲内であるという条件、並びに、(D)誘電体粉末と、前記(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの合計との質量比が、30:70〜90:10の範囲内であるという条件をいずれも満たしている。
【0017】
[(A)バインダー樹脂]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物に用いられる(A)バインダー樹脂は、前記の通り、少なくとも(A−I)ポリビニルブチラール樹脂および(A−II)カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂を含有している。なお、説明の便宜上、(A−II)カルボキシル基を有する(メタ)アクリル樹脂は、「(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂」と称する。
【0018】
(A−I)ポリビニルブチラール樹脂は、モノマー単位の構造としてブチラール基、水酸基、および酢酸基を含有するポリマーであり、ポリビニルアルコールおよびブチルアルデヒドを反応させることにより合成される。その具体的な物性等は特に限定されないが、本発明では、その重量平均分子量MwがGPC測定によるポリスチレン換算で5000〜50000の範囲内であることが好ましく、ガラス転移温度Tgが80℃以下であることが好ましく、ポリビニルアルコールに対するブチラール化度が60モル%以上であることが好ましい。
【0019】
また、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂は、公知の手法で修飾されたり変性されたりしたものであってもよいし、モノマー単位の構造としてブチラール基、水酸基、および酢酸基以外の構造を含んでもよい。さらに、(A)バインダー樹脂中には、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂は1種類のみが含まれてもよいし、構造または物性等が異なる2種類以上が含まれてもよい。
【0020】
(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂は、モノマー成分として、少なくともアクリル酸系モノマーまたはメタクリル酸系モノマーを用いて得られる樹脂(ポリマー)であればよい。本実施の形態では、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタクリル酸)と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体(コポリマー)が好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸エステルの具体的な構造等は特に限定されないが、本実施の形態では、エステル構造中のCOOR1構造において、R1が炭素数1〜12の範囲内にあるアルキル基であるか、または、アリール基(芳香族炭化水素誘導基)を含むアリールアルキル基であることが好ましい。
【0021】
このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−フェニルエチル等が挙げられるが、特に限定されない。これら(メタ)アクリル酸エステルは1種類のみが用いられてもよいし、2種類以上が組み合わせられて用いられてもよい。
【0022】
また、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量Mw、ガラス転移温度Tg等の物性についても特に限定されない。さらに、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂には、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーが用いられてもよい。さらに、(A)バインダー樹脂中には、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂は1種類のみが含まれてもよいし、構造または物性等が異なる2種類以上が含まれてもよい。
【0023】
(A)バインダー樹脂は、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂および(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂を含有していればよいが、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂および(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂の2種類のみで構成されてもよいし、他の樹脂を含有してもよい。
【0024】
また、(A)バインダー樹脂としての物性、つまり、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂および(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂を含有する樹脂組成物としての物性も特に限定されないが、本発明では、(A)バインダー樹脂のガラス転移温度Tgは60℃以下であることが好ましく、(A)バインダー樹脂の酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。さらに、(A)バインダー樹脂の重量平均分子量Mwは、GPC測定によるポリスチレン換算で5000〜50000の範囲内であることが好ましい。
【0025】
(A)バインダー樹脂のガラス転移温度Tgが60℃を超えると、感光性誘電体組成物を硬化させて得られるシート(シート状硬化物)が硬くなりすぎて良好な耐屈曲性が得られない場合がある。また、(A)バインダー樹脂の酸価が50〜200mgKOH/gの範囲内から外れると、得られる感光性誘電体組成物をアルカリ現像液(アルカリ性水溶液)で良好に現像できなくなる場合がある。さらに、(A)バインダー樹脂の重量平均分子量Mwが5000未満であると、シート状硬化物が非常にもろくなり、50000を超えるとアルカリ現像液への溶解性が大きく低下する場合がある。
【0026】
本発明においては、(A)バインダー樹脂における(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂との質量比は、5:95〜60:40の範囲内となっている。前述したように、この(A)バインダー樹脂における樹脂の質量比を条件1とする。この条件1において、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂が5質量%未満であれば、シート状硬化物が硬くなりすぎるとともに脆くなって、誘電体グリーンシートと同様に取り扱うことができない。一方、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂が95質量%を超えると、シート状硬化物は良好な柔軟性を発揮できるものの、シート状硬化物として強靭になりすぎる。そのため、シート状硬化物を露光した後であっても、未露光部をアルカリ現像液で現像(エッチング)することが困難となるため、所定のパターンを形成することができなくなる。
【0027】
(A)バインダー樹脂の調製方法は特に限定されず、例えば、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂とを公知の溶媒に溶解させたバインダー樹脂溶液を挙げることができる。また、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂を先に溶媒に溶解してポリビニルブチラール溶液を調製しておき、その後、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂の原料となるモノマー成分を、ポリビニルブチラール溶液に投入して(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂を重合することにより、バインダー樹脂溶液を調製してもよい。
【0028】
[(B)光反応性モノマー]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物に用いられる(B)光反応性モノマーは、光エネルギーにより硬化することが可能なモノマー化合物であればよく、その種類は特に限定されない。照射される光の種類も特に限定されないが、代表的には、紫外線を挙げることができる。また、照射される光エネルギーの量(露光量)についても特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0029】
代表的な(B)光反応性モノマーとしては、例えば、炭素数1〜18のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数1〜8のアルコールエチレンオキサイド誘導体(メタ)アクリレート、炭素数1〜18の(アルキル)フェノールエチレンオキサイド誘導体(メタ)アクリレート、炭素数2〜9のジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド誘導体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド誘導体ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド誘導体トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロレンオキサイド誘導体トリ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキサイド誘導体トリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロレンオキサイド誘導体トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されない。これら化合物は単独で(B)光反応性モノマーとして用いてもよいし、複数種類を適宜組み合わせて(B)光反応性モノマーとして用いることができる。
【0030】
[(C)光重合開始剤]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物に用いられる(C)光重合開始剤は、光エネルギーの照射により、光反応性成分(特に(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂および(B)光反応性モノマー)を反応(光硬化)させるものであればよく、その種類は特に限定されない。
【0031】
代表的な(C)光重合開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、ベンジルケタール類、ベンゾイン、ベンゾインエーテル類、アセトフェノン類、ホスフィンオキシド類、チオキサントン類、これらの誘導体等を挙げることができる。これら化合物は、単独で(C)光重合開始剤として用いてもよいし、複数種類を適宜組み合わせて(C)光重合開始剤として用いてもよい。さらに、必要に応じて、アミノ安息香酸類、色素等の増感助剤を併用しても差し支えない。
【0032】
[(D)誘電体粉末]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物に用いられる(D)誘電体粉末は、誘電性を有する材料の粉末であれば特に限定されず、公知の様々な種類のものを好適に用いることができる。代表的には、積層部品に含まれる誘電体または絶縁体を形成するための無機化合物粉末を挙げることができる。
【0033】
より具体的には、例えば、(1)低温焼成多層セラミック基板またはその部品に用いられるガラスセラミック粉末、(2)Al
2O
3、AlN,ZrO
2 等のセラミック基板に用いられるセラミック粉末、(3)フェライト積層部品に用いられるフェライト粉末、(4)圧電セラミック素子に用いられる圧電セラミック粉末等を挙げることができるが、特に限定されない。これら無機化合物粉末は、1種類の粉末から構成されてもよいし、複数種類の粉末の混合物であってもよい。
【0034】
また、(D)誘電体粉末に要求される諸条件も特に限定されない。例えば、(D)誘電体粉末の粒径については、製造対象となる積層部品、または当該積層部品に含まれる誘電体もしくは絶縁体等の種類等に応じて、公知の粒径の範囲を好適に用いることができる。同様に、(D)誘電体粉末の形状についても、前記積層部品、誘電体、絶縁体等の種類に応じて公知の形状を好適に用いることができる。
【0035】
[(E)溶媒、並びに、その他の成分]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物には、前述した(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、および(D)誘電体粉末が含まれていればよいが、さらに(E)溶媒、もしくは、その他の成分が含まれてもよい。
【0036】
(E)溶媒は、本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物のスラリーとしての取扱性を向上するために、必要に応じて添加される。具体的には、例えば、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、またはそれらの酢酸エステル、ペンタンジオールアルキルエーテル、ジブチルフタレート等の有機溶媒を挙げることができる。また、これら以外にも、種々の条件に応じて、公知の芳香族系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、エステル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒等を用いることができる。これら溶媒をアルカリ現像型感光性誘電体組成物に添加することにより、当該組成物の粘度または流動性を調整することができる。これら溶媒は、単独で用いてもよいし、複数種類を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0037】
さらに、その他の成分としては、感光性誘電体組成物の分野で公知の各種添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。具体的には、(E)溶媒以外の粘度調整剤、分散剤、酸化防止剤、前述した増感助剤(または増感剤)等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0038】
[アルカリ現像型感光性誘電体組成物の製造、光硬化および現像]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物の製造方法は特に限定されず、前述した(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、および(D)誘電体粉末等の各成分を公知の手法で混練してスラリー状に調製すればよい。具体的には、例えば、これら(A)〜(D)の各成分の混合物を、ボールミル、ロールミルまたはアトライタ等を用いて所定時間をかけて粉砕および混合することにより、スラリー(アルカリ現像型感光性誘電体組成物)を調製すればよい。組成物の粘度を調整するために、必要に応じて(E)溶媒を追加的に添加することができる。後述する実施例および比較例では、遊星式攪拌機で予備混合した後、3本ロールミルで混練することによりアルカリ現像型感光性誘電体組成物を製造しているが、この製造方法に限定されず、公知の様々な製造方法を採用することができる。
【0039】
得られたアルカリ現像型感光性誘電体組成物の塗工および光硬化の方法も特に限定されず公知の方法を好適に用いることができる。例えば、アルカリ現像型感光性誘電体組成物を、バーコーターまたはドクターブレード等を用いて、ポリエステルフィルム(例えばPETフィルム)製の基材上に所定の厚さ(例えば1〜100μmの範囲内)で塗工して硬化前シートを形成すればよい。
【0040】
また、硬化前シートは、アルカリ現像型感光性誘電体組成物が含有する光反応性成分((A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂および(B)光反応性モノマー)、並びに、(C)光重合開始剤の種類等に応じて、好適な波長の光を選択して好適な露光量で露光すればよい。露光時には、ビアホールに対応するパターンを有するフォトマスクを用いることにより、光硬化により得られるシート状硬化物(誘電体シート)に良好な位置精度でビアホールを形成することができる。
【0041】
硬化後のシート状硬化物は、良好な柔軟性または可撓性を有するが、特に本発明においては、後述する実施例でも評価しているように、JIS K5600−5−1に従って2mm径のマンドレルを用いたマンドレル屈曲性試験によって、柔軟性または可撓性を評価することが好ましい。2mm径のマンドレルであってもシート状硬化物の折り曲げ部に破損が生じていなければ、当該シート状硬化物は、誘電体グリーンシートと同程度の柔軟性または可撓性を発揮することができる。
【0042】
露光後のシート状硬化物を現像するアルカリ現像液についても特に限定されず、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の公知のアルカリ水溶液を用いることができる。アルカリ現像液に含まれるアルカリ成分(塩基性成分)の濃度は、0.5〜5質量%の範囲内であればよいが特に限定されない。一般に、アルカリ成分の濃度が低すぎれば未露光部が除去されず、アルカリ成分の濃度が高すぎれば露光部を腐食させるおそれがあるため、例えば前記の範囲内に設定されることが好ましい。
【0043】
[アルカリ現像型感光性誘電体組成物の組成]
本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物は、前述した(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、および(D)誘電体粉末を含有し、必要に応じて、さらに(E)溶媒もしくはその他の成分を添加することができるが、これら各成分の配合量も特に限定されない。ただし、本発明においては、フォトリソグラフィー法を用いてビアホール形成を可能とし、光硬化した後であっても、誘電体グリーンシートと同程度の柔軟性または可撓性を実現するためには、(A)バインダー樹脂に含まれる(A−I)ポリビニルブチラール樹脂および(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂の質量比、並びに、(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、および(D)誘電体粉末の質量比を所定の範囲内に設定する必要がある。
【0044】
具体的には、まず、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂の質量と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂の質量との比は、5:95〜60:40の範囲内に設定される。この質量比の条件を便宜上、条件1と称する。(A)バインダー樹脂の総量中、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂が95質量%を超える(言い換えれば、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂が5質量%を下回る)と、フォトリソグラフィー法によるビアホール形成は可能になるものの、得られるシート状硬化物が固くなり、その柔軟性または可撓性が一般的な誘電体グリーンシートよりも低下する。一方、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂が40質量%を下回る(言い換えれば、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂が60質量%を下回る)と、得られるシート状硬化物の柔軟性または可撓性は良好なものとなるが、良好な感光性が得られないおそれがある。
【0045】
次に、(A)バインダー樹脂の質量と(B)光反応性モノマーの質量との比は、20:80〜70:30の範囲内に設定される。この質量比の条件を便宜上、条件2と称する。(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの総量中、(B)光反応性モノマーが80質量%を超える(言い換えれば、(A)バインダー樹脂が20質量%を下回る)と、光反応性成分の反応(光硬化)によって生じる架橋密度が高くなり過ぎるため、得られるシート状硬化物が固くなり、その柔軟性または可撓性が一般的な誘電体グリーンシートよりも低下する。一方、(B)光反応性モノマーが30質量%を下回る(言い換えれば、(A)バインダー樹脂が70質量%を超える)と、光反応性成分の総量が少ないため光硬化が遅くなり、良好なシート状硬化物の形成が困難になるのみならず、アルカリ現像液による現像時にシート状硬化物が全て流されてしまうおそれがある。
【0046】
次に、(D)誘電体粉末の質量と、(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの合計質量との比は、30:70〜90:10の範囲内に設定される。この質量比の条件を便宜上、条件3と称する。(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマーおよび(D)誘電体粉末の総量中、(D)誘電体粉末が30質量%を下回る(言い換えれば、(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの合計質量が70質量%を超える)と、(D)誘電体粉末が少な過ぎるため、得られるシート状硬化物を良好な誘電体または絶縁体として使用できなくなる。一方、(D)誘電体粉末が90質量%を超える(言い換えれば、(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの合計質量が10質量%を下回る)と、光反応性成分が少な過ぎるため、アルカリ現像型感光性誘電体組成物の感光性が低下し、良好にビアホール形成ができなくなるおそれがある。
【0047】
なお、(C)光重合開始剤の配合量は特に限定されず、光反応性成分を良好に反応させることができる量を配合すればよい。同様に、(E)溶媒またはその他の成分を含む場合にも、これら成分を配合する目的に応じて適量を配合すればよい。
【0048】
(A−I)ポリビニルブチラール樹脂は良好なシート形成能(フィルム形成能)を有し、得られたシート状硬化物(硬化フィルム)は柔軟性および靭性を併せて有している。一方、(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシル基に由来する酸価を有し、アルカリ現像液への溶解性が良好である。本発明においては、(A)バインダー樹脂として、これら樹脂成分を好適な割合(質量比)で含有したものを用いているため、光硬化して得られるシート状硬化物は、誘電体グリーンシートと同程度の柔軟性または可撓性を発揮することができる。しかも、シート状硬化物を良好に露光できるとともに、シート状硬化物の露光部は十分に光硬化し、未露光部はアルカリ現像液へ溶解可能である。そのため、フォトリソグラフィー法により微細なパターニングが可能となる。
【0049】
従来では、パンチングマシーン等による機械的手法またはレーザー加工による手法でビアホールを形成していたが、これら手法では、パンチングピンまたはレーザー光源の走査を伴うため位置精度の微妙なずれが発生しやすくなるとともに、加工面積が広くなったりビアホールの数が増えたりするに伴って、ビアホールを形成する時間が長くなる。これに対して、本発明では、アルカリ現像型感光性誘電体組成物を公知の手法で塗工してフォトリソグラフィー法によりビアホールを形成するので、ビアホールに対応するパターンを含むフォトマスクを、塗工物(硬化前のシート)上に重ねて紫外線等の光を照射して露光することになる。そのため、ビアホールの位置精度は非常に良好になるとともに、一回の露光で多数のビアホールを形成することができるので、形成時間の短縮化も可能となる。
【0050】
一般に、ポリビニルブチラール樹脂は、シート化(もしくは、被膜化またはフィルム化)したときに柔軟かつ高い強度を実現することができるが、アルカリ現像液に溶解し難い。一方、(メタ)アクリル樹脂は、シート化したときに硬くて脆くなるものの良好なアルカリ現像性を有している。実際、(A)バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂のみを用いた場合、アルカリ現像は実質的に不可能であり、(メタ)アクリル樹脂のみを用いた場合には、アルカリ現像性は良好であるもののシート状硬化物が非常にもろくなる。
【0051】
さらに、ポリビニルブチラール樹脂と(メタ)アクリル樹脂とを単に混合したものを(A)バインダー樹脂として用いた場合、これら樹脂の性質は互いに異なるため、均一な混合系が得られ難くなる。(A)バインダー樹脂が不均一な系であれば、得られる感光性誘電体組成物のアルカリ現像性が不均一になるだけでなく、これら異質の樹脂の間で相分離する部分が生じてしまう。このような相分離した部分は、シート状硬化物の欠陥となるため、当該シート状硬化物の強度を低下させることになる。
【0052】
そこで、(A)バインダー樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂にカルボキシル基を導入した樹脂を用いることが考えられる。ところが、このような樹脂は、アルカリ性水溶液との親和性が高くなるためアルカリ現像液への溶解性を向上できるものの、光硬化した部分の耐水性が低下するためシート状硬化物に膨潤等が生じるおそれがある。その結果、カルボキシル基の導入により期待される程度の解像度を得ることができない。
【0053】
これに対して本発明では、(A)バインダー樹脂として、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂とを併用するために、光反応性に寄与しない(A−I)ポリビニルブチラール樹脂の含有量を考慮して、前述した条件1((A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂との質量比)と、条件2((A)バインダー樹脂と(B)光反応性モノマーとの質量比)とを設定するとともに、さらに条件3((D)誘電体粉末と、(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーの合計との質量比)とを設定している。
【0054】
そのため、良好な感光性を実現できる光反応性成分の量と、良好なシート形成性を実現できる(A−I)ポリビニルブチラール樹脂の量とを好適化して(A)バインダー樹脂をより均一な系とすることができるとともに、シート状硬化物が良好な誘電体(または絶縁体)となるように(D)誘電体粉末の量を好適化することができる。これにより、本発明に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物においては、前述した各種の問題が生じることなく、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂に由来する利点も(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂に由来する利点もいずれも有効に発揮することができる。その結果、良好なシート形成性および良好な感光性を実現できるとともに、得られるシート状硬化物に良好な柔軟性または可撓性を付与でき、当該シート状硬化物そのものも良好な誘電体(または絶縁体)とすることができる。
【実施例】
【0055】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例におけるバインダー樹脂の物性の評価、および、バインダー樹脂の合成例、並びに、得られた感光性誘電体組成物のシート化、得られたシートの耐屈曲性、および、パターニング性の評価は次に示すようにして行った。
【0056】
(バインダー樹脂の各種物性の測定)
下記の合成例A−1〜A−10または比較合成例a−1〜a−2により得られたバインダー樹脂溶液をシート形成用基材(PETフィルム)上にキャスティングし、80℃で10分間乾燥することにより、バインダー樹脂シートを得た。得られたバインダー樹脂シートそれぞれについて、酸価、重量平均分子量Mw、およびガラス転移温度Tgを測定した。
【0057】
(バインダー樹脂の合成例A−1)
反応容器中に溶媒であるγ−ブチロラクトン90gを仕込み、ポリビニルブチラール7gを徐々に添加し、系内を窒素置換しながらオイルバスを用いて80℃まで昇温して、ポリビニルブチラールを溶解させた。
【0058】
得られたポリビニルブチラール溶液に対して、表1に示すメタクリル酸系モノマー(メタクリル酸、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸ブチル)のモノマー混合物93gと、当該モノマー混合物の1質量%に相当する量の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルおよびγ−ブチロラクトン10gからなる混合物とを1時間かけて滴下した。滴下の終了後、さらに6時間重合反応を行った。反応中、分子量を調整するために、連鎖移動剤としてα−メチルスチレンを適量添加した。
【0059】
その後、ハイドロキノンモノメチルエーテルを1g添加して重合反応を停止することにより、合成例A−1のバインダー樹脂溶液(50質量%溶液)を得た。当該バインダー樹脂溶液の酸価、重量平均分子量Mw、ガラス転移温度Tgを表1に示す。
【0060】
なお、表1においては、便宜上、ポリビニルブチラールを「PVB」、メタクリル酸を「MA」、メタクリル酸メチルを「MMA」、メタクリル酸ブチルを「BMA」、メタクリル酸2−エチルヘキシルを「EHMA」、メタクリル酸ラウリルを「LMA」と略記している。また、表1においては、得られたバインダー樹脂溶液中の(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂との質量比を条件3として記載している。
【0061】
(バインダー樹脂の合成例A−2〜A−10)
添加するポリビニルブチラールの量を表1に示すように変更するとともに、メタクリル酸系モノマーのモノマー混合物として表1に示す組成のものを用いた以外は、前記合成例A−1と同様にして、合成例A−2〜A−10のバインダー樹脂溶液(50質量%溶液)を得た。これらバインダー樹脂溶液の酸価、重量平均分子量Mw、ガラス転移温度Tgを表1に示す。
【0062】
(バインダー樹脂の比較合成例a−1〜a−2)
添加するポリビニルブチラールの量を0gまたは65gにするとともに、メタクリル酸系モノマーのモノマー混合物として表1に示す組成のものを用いた以外は、前記合成例A−1と同様にして、比較合成例a−1〜a−2のバインダー樹脂溶液(50質量%溶液)を得た。これらバインダー樹脂溶液の酸価、重量平均分子量Mw、ガラス転移温度Tgを表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(誘電体粉末)
下記の実施例1〜10または比較例1〜6では、(D)誘電体粉末として、D−1:日本電気硝子株式会社製のガラスセラミック粉末・商品名:MLS−1000、D−2:Ni−Zn−Cu系ソフトフェライト粉末(Ni
0.49Zn
0.49Co
0.02Fe
1.90O
x )、または、D−3:旭硝子株式会社製ガラスセラミック粉末・商品名:ASF−102Mのいずれかを用いた。
【0065】
(感光性誘電体組成物のシート化の評価)
下記の実施例1〜10または比較例1〜6で得られたアルカリ現像型感光性誘電体組成物をシート形成用基材(シリコーン離型剤で処理したPETフィルム)上にバーコーターにて塗布し、80℃で10分間乾燥することにより、感光性誘電体組成物の乾燥膜を形成した。当該乾燥膜に対して高圧水銀ランプにより200mJの紫外線を照射し、その後、乾燥膜をシート形成用基材から剥離した。剥離した乾燥膜が十分に光硬化して独立したシート状硬化物となっていれば「○」、未硬化または不十分な効果により独立したシート状硬化物となっていなければ「×」として評価した。
【0066】
(感光性誘電体組成物の耐屈曲性の評価)
シート形成用基材から剥離したシート状硬化物(または紫外線照射後の乾燥膜)に対して、JIS K5600−5−1に従って2mm径のマンドレルを用いたマンドレル屈曲性試験を行った。試験後のシート状硬化物(または乾燥膜)に割れ等の破損が発生していなければ「○」、割れ等の破損が発生していれば「×」として評価した。
【0067】
(感光性誘電体組成物のパターニング性の評価)
シート形成用基材から剥離したシート状硬化物(または紫外線照射後の乾燥膜)に対して、フォトマスクを被せて露光装置(ウシオ電機株式会社製、商品名:マルチライトML−251A)にて200mJの条件で露光した。その後、シャワー式アルカリ現像装置(株式会社山縣機械製の卓上アルカリ現像機・商品名:YCD−85K)を用いて、シャワー圧0.1MPsで10秒シャワーリングすることにより、露光後のシート状硬化物(または乾燥膜)を現像した。
【0068】
露光時には、
図1に示すビア評価用パターンのフォトマスク10A、および、
図2に示すレゾリューション評価用パターンのフォトマスク10Bをそれぞれ用いた。ビア評価用パターンのフォトマスク10Aは、
図1に示すように、ビアホールに対応する30μm径のホールマスク部20Aが、150μmの間隔で縦横に配列した構成となっている。また、レゾリューション評価用パターンのフォトマスク10Bは、ライン形成性を評価するために、
図2に示すように、ラインアンドスペースL/S=50μm/50μmで正方形状にラインマスク部20Bが渦巻いた構成となっている。
【0069】
現像されたパターンが、これらフォトマスク10A,10Bのマスク部20A,20Bの設計値から±2μmの範囲内の位置で形成されているときには「○」、設計値から±2μmの範囲から外れた位置で形成されているときには「×」として評価した。
【0070】
(実施例1)
表2に示すように、(A)バインダー樹脂として合成例A−1のバインダー樹脂溶液を70質量部、(B)光反応性モノマーとしてC9ジオールジアクリレートを30質量部、(C)光重合開始剤として商品名:イルガキュア184(登録商標、BASF製)を3.3質量部、(D)誘電体粉末としてD−1を70質量部、(E)溶媒としてγ−ブチロラクトンを5質量部として、これらを遊星式攪拌機で予備混合した後、3本ロールミルで混練することにより、実施例1に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物を得た。
【0071】
得られた感光性誘電体組成物について、前述したようにシート化、耐屈曲性、およびパターニング性を評価した。その結果を表4に示す。なお、表4には、条件2((A)バインダー樹脂と(B)光反応性モノマーとの質量比)、並びに、条件3((D)誘電体粉末と(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーとの質量比)も併記している。
【0072】
(実施例2〜10)
(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、および(D)誘電体粉末の種類または量を表2に示すように変更するとともに、(E)溶媒であるγ−ブチロラクトンの量を表2に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜10に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物を得た。得られた感光性誘電体組成物について、前述したようにシート化、耐屈曲性、およびパターニング性を評価した。その結果と各成分の質量比とを表4に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
(比較例1〜6)
(A)バインダー樹脂、(B)光反応性モノマー、(C)光重合開始剤、および(D)誘電体粉末の種類または量を表3に示すように変更するとともに、(E)溶媒であるγ−ブチロラクトンの量を表3に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜10に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物を得た。得られた感光性誘電体組成物について、前述したようにシート化、耐屈曲性、およびパターニング性を評価した。その結果と各成分の質量比とを表4に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示す結果から明らかなように、実施例1〜10に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物は、各成分の質量比において条件1〜3の全てを満たしている(条件1は表1参照、条件2および3は表4参照)ので、シート化、耐屈曲性およびパターニング性(ビアホール形成性およびライン形成性)のいずれも良好な結果が得られている。特に、耐屈曲性については、2mm(0.2cm)径のマンドレルを用いたマンドレル屈曲性試験で評価していることから明らかなように、特許文献3に開示の感光性材料に比べて非常に良好な耐屈曲性を実現できることがわかる(特許文献3では、10mm(1cm)径のマンドレルで評価しており、表1の屈曲性の最小値は0.5cm(5mm)に過ぎない)。
【0078】
一方、比較例1に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物は、(A)バインダー樹脂として比較合成例a−1のバインダー樹脂溶液を用いており、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂が含まれていない(つまり条件1を満たしていない)。そのため、パターニング性には優れるものの、良好なシート化性能および耐屈曲性を得ることができない。
【0079】
また、比較例2に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物は、(A)バインダー樹脂として比較合成例a−2のバインダー樹脂溶液を用いており、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂の含有量が多すぎる(つまり条件1を満たしていない)。そのため、シート化には優れているものの、良好なパターニング性(露光性能)を得ることができず、また耐屈曲性も得ることができない。
【0080】
また、比較例3および4に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物は、いずれも合成例A−3のバインダー樹脂溶液を用いている(条件1を満たしている)が、比較例3では(B)光反応性モノマーの量が多すぎ、比較例4では(A)バインダー樹脂の量が多すぎる(つまり条件2を満たしていない)。そのため、比較例3では、シート化およびパターニング性には優れるものの、良好な耐屈曲性を得ることができず、比較例4では、シート化および耐屈曲性には優れるものの、良好なパターニング性を得ることができない。
【0081】
また、比較例5および6に係るアルカリ現像型感光性誘電体組成物も、いずれも合成例A−3のバインダー樹脂溶液を用いており(条件1を満たしており)、さらに、表4に示すように、(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーが好適な質量比で配合されている(条件2を満たしている)。しかしながら、表4に示すように、比較例5では、(A)バインダー樹脂および(B)光反応性モノマーに対して(D)誘電体粉末の量が少なすぎ、比較例6では、(D)誘電体粉末の量が多すぎる。そのため、比較例5ではパターニング性には優れるものの、良好なシート化性能および耐屈曲性を得ることができず、比較例6では、シート化、耐屈曲性、およびパターニング性のいずれも十分な性能を得ることができない。
【0082】
実施例1〜10と比較例1および2との対比から、少なくとも条件1を満たさなければ、アルカリ現像型感光性誘電体組成物をシート化できなかったり露光できなかったりすることがわかる。それゆえ、(A)バインダー樹脂として、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂を用いなかったり(比較例1)、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂とを単に併用したりする(比較例2)だけでは、十分な物性が得られないことがわかる。
【0083】
また、実施例1〜10と比較例3および4との対比から、条件1を満たしても条件2を満たしていなければ、アルカリ現像型感光性誘電体組成物をシート化することは可能であっても、シート状硬化物が十分な耐屈曲性を得ることができなかったり、アルカリ現像型感光性誘電体組成物が露光できなかったりすることがわかる。それゆえ、(A)バインダー樹脂として、(A−I)ポリビニルブチラール樹脂と(A−II)カルボキシル基保有(メタ)アクリル樹脂とを併用しても、(B)光反応性モノマーの含有量の好適化を図らなければ、十分な物性が得られないことがわかる。
【0084】
さらに、実施例1〜10と比較例5および6との対比から、条件1および2を満たしても条件3を満たしていなければ、アルカリ現像型感光性誘電体組成物をシート化できず、シート状硬化物に耐屈曲性も付与できないだけでなく、(D)誘電体粉末の量が多すぎればパターニング性(露光性能)も得られないことがわかる。それゆえ、良好な誘電体シート(または絶縁体シート)を実現するためには、(D)誘電体粉末の量を好適化する必要があることもわかる。
【0085】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。