(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(1)を行った後、60℃×3分という条件でのプレヒートを行った以外は完全に同一である方法によって形成された複層塗膜と比較した場合、FFパラメーターの差が±2.0以内である請求項1又は2記載の複層塗膜の形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリプロピレン素材からなる成型品の複層塗膜形成方法である。このようなポリプロピレン素材としては特に限定されず、被塗装物としては、バンパーやフェンダー、バックドア、モール等の自動車部品等を挙げることができる。
【0012】
本発明は、基材上に、水性導電プライマーを塗布する工程(1)、水性ベース塗料組成物を塗布する工程(2)、クリヤー塗料組成物を塗布する工程(3)、及び、工程(1)〜(3)によって形成された複層塗膜層を同時に焼き付ける工程(4)からなるものである。このような塗装工程による複層塗膜形成方法において、工程(1)の後、工程(2)の前において、プレヒート工程を行わない点に特徴を有するものである。
【0013】
すなわち、以下で詳述するような手法を適用すれば、水性導電プライマー塗装工程の後のプレヒート工程を省略しても、塗膜間での混層を生じないことから、意匠性の低下を生じることがない。よって、プレヒート工程を省略することによるコストダウンの効果を得ることができる。
【0014】
本発明の塗装方法は、水性導電プライマーによって形成された塗膜粘度Aが上記工程(2)を行う直前の時点において、600000mPas以上である点に特徴を有するものである。すなわち、プライマー塗装を行った後の塗膜の粘度が高いようなプライマー塗装とすることによって、プレヒート工程を行わなくても混層を生じにくい状況とすることができる。これによって、上述した本発明の目的を達成することができる。
【0015】
本発明における工程(2)を行う直前の塗膜粘度Aは、実施例に記載した方法で測定した値である。上記塗膜粘度Aが600000mPas未満であると、工程(2)を行った場合に混層を生じてしまい、意匠性の悪化を生じる点で好ましくない。
【0016】
上述したような塗膜粘度Aが600000mPas以上であるようなプライマー塗装を行うには、水性プライマー塗料の組成を調製することが好ましい。例えば、塩素化ポリプロピレン(A)及びグリシジルメタクリレートを含むアクリル樹脂エマルション(B)を含む水性プライマー塗料とすること、更に、特定の増粘剤を配合すること、塗料の揮発成分の配合量を調整すること、表面調整剤の配合等の手法を適宜組み合わせることによって行うことができる。更に、必要な場合は、水性プライマー塗装を行った後、一定時間、加熱せずに静置する工程を設けてもよい。
【0017】
以下に、上述したような塗膜粘度Aを有する水性プライマー塗料の各特徴について、順次説明する。但し、本発明の水性プライマー塗料は、得られた塗膜において塗膜粘度Aが600000mPas以上を有するものであればよく、以下に詳述する各成分・性質をすべて満たすものである必要は必ずしもない。
【0018】
(塩素化ポリプロピレン(A))
上記塩素化ポリオレフィンは、例えば、プラスチック基材、特に、ポリオレフィン基材に対する密着性を向上させるものである。配合量としては、水性導電プライマー中に含まれる固形分量に対して、樹脂固形分基準で、20〜35質量%の割合であることが好ましい。20質量%未満ではポリプロピレン素材への密着性が不良となる傾向がある。
【0019】
上記塩素化ポリオレフィンは、酸変性した塩素化ポリオレフィンであることが好ましい。
上記酸変性塩素化ポリオレフィンは、塩素化ポリオレフィン部分と、この塩素化ポリオレフィン部分に結合した酸無水物部分とを含むポリオレフィン誘導体である。
塩素化ポリオレフィン部分は、塩素原子が置換したポリオレフィンからなる部分である。
【0020】
また、酸無水物部分は、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸などの酸無水物に由来する基を含有し、グラフトして得られる変性された部分である。酸無水物部分は、1種または2種以上の酸無水物に由来する基からなる部分であってもよい。酸変性塩素化ポリオレフィンは、ポリオレフィンを酸無水物および塩素と反応させて内部変性したものであり、例えば、ポリオレフィンに対して塩素および酸無水物を反応させて製造される。ここで、塩素および酸無水物はどちらを先に反応させてもよい。塩素との反応は、例えば、ポリオレフィンを含む溶液に塩素ガスを導入することによって行われる。また、酸無水物との反応は、例えば、過酸化物の存在下、ポリオレフィン(または塩素化ポリオレフィン)に酸無水物を反応させることによって行われる。
【0021】
上記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンや、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体などの共重合体や、エチレン、プロピレンおよび炭素数8以下のアルケンから選ばれた少なくとも1種の単量体を重合して得られる重合体などを挙げることができ、1種のみ、または、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリプロピレンを用いることが、入手のし易さ、密着性が高くなる点で好ましい。また、上記変性に用いられる酸無水物としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0022】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、好ましくは10〜30質量%、さらに好ましくは18〜22質量%である。塩素含有率が10質量%未満であると、溶剤溶解性が低下し、その乳化が困難になる傾向がある。他方、塩素含有率が30質量%超であると、ポリプロピレンなどのプラスチック素材に対する密着性が低下し、不十分となるおそれがある。
【0023】
酸変性塩素化ポリオレフィンの酸無水物含有率は、1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、1.2〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。酸無水物含有率が1質量%未満であると、乳化しにくくなるとともに水性プライマーの安定性が悪くなるおそれがある。他方、酸無水物含有率が、10質量%を超えると、酸無水物基が多くなりすぎ、耐水性が低下する傾向がある。
【0024】
酸変性塩素化ポリオレフィンは、その質量平均分子量が20000〜200000の範囲にあることが好ましく、30000〜120000の範囲にあることがより好ましい。質量平均分子量が20000未満であると、このプライマーから得られるプライマー塗膜の強度が低下し、密着性も低くなる傾向がある。他方、質量平均分子量が200000を超えると、粘度が高くなり、乳化しにくい傾向がある。
【0025】
上記酸変性塩素化ポリオレフィンは、疎水性が高く、水に安定的に分散させることが困難であるので、通常、乳化剤や中和剤を使用してエマルション化させ、エマルション樹脂として用いる。
【0026】
乳化剤の配合割合は、酸変性塩素化ポリオレフィン、中和剤や水の配合割合によって適宜設定されるが、例えば、酸変性塩素化ポリオレフィン100質量%に対して2〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。乳化剤が2質量%未満であると、エマルションの貯蔵安定性が低下するとともに、後述のエマルションの製造工程において、重合途中に凝集や沈降がおこり易くなる傾向がある。他方、50質量%を超えると、乳化剤が塗膜中に多量に残り、塗膜の耐水性や耐候性が低下する傾向がある。
【0027】
乳化剤としては、特に限定はないが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルや、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪族エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、アルキロールアミドなどのノニオン型乳化剤;アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン型乳化剤;ステアリルベタインやラウリルベタインなどのアルキルベタイン、アルキルイミダゾリンなどの両性乳化剤;ポリオキシエチレン基含有ウレタン樹脂、カルボン酸塩基含有ウレタン樹脂などの樹脂型乳化剤、イミダゾリンラウレート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルベタイン、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン型乳化剤などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、ノニオン型乳化剤は、親水性の高いイオン性極性基を有しないため塗膜の耐水性を良好とさせ、好ましい。
【0028】
中和剤の配合割合も、酸変性塩素化ポリオレフィン、乳化剤や水の配合割合によって設定され、特に、酸変性塩素化ポリオレフィンや乳化剤などに含まれる酸性官能基(例えば、酸無水物基やカルボキシル基)を十分に中和することを考慮して配合されるが、例えば、酸変性塩素化ポリオレフィンに含まれる酸性官能基1当量に対し、好ましくは0.2〜10当量、より好ましくは0.5〜4当量である。0.2当量未満では乳化が不十分となり、10当量を超えると残存した中和剤などが耐水性を低下させたり、脱塩素化を促進する傾向がある。
【0029】
中和剤の配合によって定まるエマルションのpHは、好ましくは7〜11、さらに好ましくは7.5〜10.5、最も好ましくは8〜10である。エマルションのpHが7未満であると、中和が十分ではなく、エマルションの貯蔵安定性が低下する傾向がある。他方、エマルションのpHが11を超えると、遊離の中和剤がエマルション中に過剰に存在することとなり、中和剤臭が強くなり、使用しにくくなる傾向がある。
【0030】
中和剤は、塩素化ポリオレフィン樹脂が有する酸無水物基および/またはカルボキシル基に付加するか、および/または、これらの基を中和して、変性塩素化ポリオレフィンの親水性を高め、エマルションの貯蔵安定性を向上させる働きをする。
【0031】
中和剤としては有機系アミンやアンモニア、有機系強塩基等を使用することができ、これらを併用しても良い。
【0032】
通常の有機系アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、N−メチルモルホリンなどのモノアミン類;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのポリアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノールなどのアルカノールアミン類などを挙げることができる。
【0033】
エマルション中の酸変性塩素化ポリオレフィンを主成分とするポリマー粒子の平均粒径については、特に限定はないが、0.01〜1μmが好ましく、0.03〜0.5μmがより好ましく、0.03〜0.3μmが最も好ましい。ポリマー粒子の平均粒径が0.01μm未満であると、乳化剤が多量に必要となり、塗膜の耐水性や耐候性が低下する傾向がある。他方、ポリマー粒子の平均粒径が1μmを超えると、エマルションの貯蔵安定性が低下するとともに、ポリマー粒子の体積が大きすぎて、塗膜化するための溶融熱量や時間が多く必要となる。さらに、得られる塗膜の外観や耐水性、耐溶剤性などが低下する傾向がある。
【0034】
酸変性塩素化ポリオレフィンの乳化方法は、公知の方法でよく、例えば、酸変性塩素化ポリオレフィンと、乳化剤、中和剤、必要により溶剤を用いて加熱またはそのまま溶解し、市販の乳化機にて水中に乳化させたり、あるいは、酸変性塩素化ポリオレフィンと、乳化剤、必要により溶剤を用いて加熱またはそのまま溶解し、市販の乳化機にて中和剤を添加した水中に乳化させたりする。また、逆に、酸変性塩素化ポリオレフィンと、乳化剤、中和剤、必要により溶剤を用いて加熱またはそのまま溶解した有機相に、水を攪拌下ゆっくりと添加して転相乳化させたり、あるいは、酸変性塩素化ポリオレフィンと、乳化剤、必要により溶剤を用いて加熱またはそのまま溶解した有機相に、中和剤を添加した水を攪拌下ゆっくりと添加して転相乳化させたりしてもよい。
【0035】
上述の乳化方法に用いられる溶剤としては、例えば、キシレンおよびトルエン、ソルベッソ−100(エクソン社製)などの芳香族系溶剤や、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびプロピレングリコール−n−プロピルエーテルなどのエチレングリコール系またはプロピレングリコール系溶剤などが挙げられる。
【0036】
(グリシジルメタクリレートを含むアクリル樹脂エマルション(B))
上記グリシジルメタクリレートを含むアクリル樹脂は、塗膜の耐水性を向上させる成分である。その配合量としては、水性導電プライマーに対して、樹脂固形分基準で5〜15質量%の割合であることが好ましい。5質量未満では、充分な耐水性が得られず、15質量%を超えると他のプライマー用樹脂の配合が制限されるので密着性不良などを招く場合がある。
【0037】
上記グリシジルメタクリレートを含むアクリル樹脂としては特に限定されず、なかでも、グリシジル(メタ)アクリレートを35〜60質量%含有する重合性不飽和基含有モノマー成分を重合して得られるエポキシ基含有アクリル樹脂であることが好ましい。上記グリシジル(メタ)アクリレートが35質量%未満では十分な耐水性が得られず、60質量%を超えると製造時の変動が大きく、安定して量産することに懸念がある。
【0038】
上記グリシジル(メタ)アクリレート以外の重合性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物などの官能基含有モノマー、さらには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0039】
(ポリウレタン樹脂)
本発明において使用する導電性水性プライマー塗料は、ポリウレタン樹脂を含有するものであってもよい。
上記ポリウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、イソシアネート基とポリオールを反応させて鎖延長されたポリウレタン樹脂が好ましい。上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。ポリオールの市販品としては、ユリアーノシリーズ(荒川化学社製)、オレスターシリーズ(三井化学社製)、アロタンシリーズ(日本触媒社製)などがある。
【0040】
上記ポリウレタン樹脂としては、ポリオール変性物をエマルション化したものやディスパージョン化したものが良い。例えば、乳化剤の存在下、あらかじめジオールとジイソシアネートを反応させて得られるプレポリマーを水中に分散させながら、強制または自己乳化して得られるディスパージョンが挙げられる。上記ディスパージョンにおいては、分散性を高めるために、カルボキシル基を有するジメチロールブタン酸などを含んでいても良い。
【0041】
(加熱不揮発分)
本発明において使用する導電性水性プライマー塗料は、加熱不揮発分が38%以上であることが好ましい。すなわち、固形分の配合量が高い塗料とすることによって、上述したような前記工程(2)を行う直前の塗膜粘度Aが600000mPas以上の塗膜を形成しやすくなる。
【0042】
上記加熱不揮発分は、JIS K5601−1−2に従い、110℃×60分加熱後の残分を測定し算出した値である。また、上記加熱不揮発分を高くするために、体質顔料を配合してもよい。偏平形状の体質顔料がより好ましい。偏平形状の体質顔料は、塗装効率や塗膜物性に影響を与えることなく、低コストで加熱不揮発分の含有量を高めることができる点で好ましいものである。
【0043】
上記体質顔料は、塗料分野において通常使用されるものを好適に使用することができ、タルク、無着色マイカ等を挙げることができる。その配合量は特に限定されるものではないが、塗料中の固形分全量に対して5〜30重量%であることが好ましい。
【0044】
(増粘剤)
更に、本発明において使用する水性プライマー塗料は、増粘剤を含有することが好ましい。すなわち、増粘剤によって塗膜の粘性を高めることによって、上述した塗膜粘度Aが600000mPas以上でとの要件を満たすこととができる。
【0045】
塗料に配合する増粘剤としては、会合型増粘剤が一般的に使用されていた。本願発明においては、系全体に大きな網目構造を形成している高分子型増粘剤を使用することが好ましい。これによって、水性プライマー塗膜の粘度の上昇が速くなり、かつ水性ベースが塗装されても、水性プライマー塗膜とのなじみが低減されるという点で好ましい。
【0046】
このような増粘剤としては、高分子ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸エマルションを中和して使用するアルカリ膨潤タイプ又はその一部を疎水記載にて変性したものを使用することができる。また、市販のものとしては、ロームアンドハース社製ASE−60、BASF社製Visalex HV−30、Viscalex VG2、Rheovis 112、Rheovis 152、DSX−1516、楠本化成社製ディスパロンAQ−001を挙げることができる。
【0047】
上記増粘剤の配合量は特に限定されるものではないが、固形分換算で0.4〜5重量%であることが好ましい。配合量が0.4重量%未満であると、充分な増粘効果が得られないおそれがあり、5重量%を超えると塗料組成物が固いものとなりすぎて、塗装性が悪くなるおそれがある。
【0048】
(ポリシロキサンを含む表面調整剤(D))
塗料において配合される表面調整剤は、塗膜表面に偏在することによってその効果を得るものである。通常は、塗膜形成直後は表面に偏在しておらず、溶媒が除去されて固形分濃度が高くなるにつれて、塗膜形成樹脂と混和しにくくなって表面にあらわれてくる。したがって、溶剤を除去する工程を経なければ、表面調整剤としての効果を得ることが困難である。
【0049】
しかし、ポリシロキサンを含む表面調整剤(D)は、水が残存している状態でも塗膜形成樹脂や溶媒から分離して表面に偏在する状態となる。このため、プレヒートを行わなくても、表面調整剤としての機能を発揮することができる。このようなポリシロキサンを含む表面調整剤(D)を配合することによって、塗膜表面の疎水性を向上させることができる。これによって、次いで行う水性ベース塗料による塗装に際して、水性ベース塗膜と水性プライマー塗膜との間の混層を生じにくくすることができる。
【0050】
本発明において使用できるポリシロキサンを含む表面調整剤(D)は特に限定されるものではなく、塗料分野で使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ビックケミー社製BYK−307、BYK−325、BYK−333、BYK−347、BYK−378、共栄社化学社製ポリフローKL−402、ポリフローKL−403、東レダウコーニング社製L−7002、L−7604、FZ−2123、8211ADDITIVE等を使用することができる。
【0051】
(その他の成分)
本発明の水性プライマー塗料には、顔料を配合することができる。例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄系顔料、酸化クロム等の無機顔料;アゾ系顔料、アントラセン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリノン系顔料、ペンツイミダゾロン系顔料等の有機顔料;アルミニウム系顔料(例えば、コーティングアルミなど)等の金属系顔料;マイカ系顔料;等が挙げられる。顔料は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。顔料を配合する場合には、用いる全樹脂(塗料中の全樹脂固形分)に対して5〜70質量%とすることが好ましい。5質量%未満であると、着色力が低く隠蔽性が不充分となり、一方、70質量%を超えると、得られる塗膜の平滑性や密着性が低下するおそれがある。なお、上記顔料としてアルミニウム系顔料のような金属系顔料を用いる場合には、金属(アルミニウム等)が酸化腐食して沈降凝集したり、塗膜としたときに金属光沢を発しなくなったりするのを防止するため、当該金属系顔料にあらかじめクロメート処理や酸化防止剤(例えば、有機燐化合物など)による処理を施しておいたり、塗料中に金属酸化防止剤を別途配合するなどの措置を講ずることが好ましい。
【0052】
本発明の水性プライマー塗料には、必要に応じて、塗料として通常添加される他の添加剤、例えば、安定剤、消泡剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、無機充填剤(例えば、シリカなど)、導電性充填剤(例えば、導電性カーボン、導電性フィラー、金属粉など)、有機改質剤、可塑剤、防腐・防徹剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0053】
本発明の水性プライマー塗料は、前述した各成分を通常の方法によって均一に混合することにより得ることができる。例えば、顔料を配合する場合には、顔料をあらかじめ一部または全ビヒクルに必要なレベルまで分散させて顔料分散ペーストとしておき、この中に、残りの他の成分を順次もしくは一挙に添加し、均一に混合するようにすればよい。
【0054】
本発明において、上記工程(1)は、上記水性導電プライマーを基材表面に塗布する工程である。上記水性導電プライマーは、例えば、スプレー塗装やベル塗装などの手法で塗ることができる。上記基材は、必要に応じて、洗浄、脱脂しておいてもよい。
【0055】
プライマー塗膜は、乾燥膜厚で5〜20μmであることが好ましい。5μm未満では隠ぺい性不足となり、20μmを超えるとワキやタレが発生し易くなる。好ましくは7〜15μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM−miniRを用いて測定することができる。
【0056】
(水性ベース塗料)
本発明においては、上述した水性導電プライマー塗装を塗布した後に、プレヒートを行うことなく水性ベース塗料組成物を塗布する工程(2)を有するものである。本発明において使用される水性ベース塗料組成物は特に限定されるものではなく、ポリプロピレンの塗装の分野において使用される通常の塗料を使用することができる。
【0057】
好ましくは、自動車用金属素材に用いられる水性ベース塗料と共通のものであってもよい。その場合、別々に塗料を製造する必要がなくなり、効率的である。
【0058】
本発明において、水性ベース塗料は、ベース用樹脂、着色顔料等を含む公知の水性塗料組成物を用いることができる。上記ベース用樹脂の分子量、組成物中における固形物の割合、増粘剤の種類、配合量等を調整することによって、上述したような粘性挙動を有する塗料を得ることができる。
【0059】
上記ベース用樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ビニル樹脂、繊維素樹脂などが挙げられ、1種のみ、または、2種以上を併用してもよい。また、硬化剤をさらに含むものであってもよい。なかでも、アクリル−メラミン系の塗料であることが好ましい。
【0060】
上記着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、クロム酸鉛、カーボンブラックなどの無機顔料;アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、金属錯体顔料などの有機顔料などが挙げられ、また、上記体質顔料としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカなどが挙げられる。これらを、1種のみ、または、2種以上を併用してもよい。
【0061】
更に、水性ベース塗料組成物は、必要に応じて、公知の補助配合剤を含有させることができる。補助配合剤としては、例えば、粘度調整剤、無機充填剤、有機改質剤、安定剤、可塑剤、添加剤などが挙げられる。なかでも、粘度調整剤は、粘性を制御するために、添加することが好ましい。
【0062】
上記粘度調整剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、ウレタン会合型増粘剤を挙げることができる。ウレタン会合型増粘剤は、より効果的な構造粘性を付与するという特徴を有するものであることから、これを含有する塗料は本発明の目的に特に適した性質を有する。
【0063】
上記ウレタン会合型増粘剤としては、例えば分子中にウレタン結合とポリエーテル鎖を有する化合物を挙げることができ、一般に水性媒体中において、該ウレタン結合同士が会合することにより、効果的に増粘作用を示すものであると知られている化合物であり、市販品としては「UH−814N」、「UH−462」、「UH−420」、「UH−472」、「UH−540」(以上、旭電化社製)、「SNシックナー612」、「SNシックナー621N」、「SNシックナー625N」、「SNシックナー627N」(以上、サンノプコ社製)等を挙げることができる。
上記粘度調整剤の配合量は特に限定されないが、樹脂固形分に対して0.1〜0.5質量%であることが好ましい。
【0064】
上記水性ベース塗料組成物は、水を主溶媒とするものであるが、含まれる水に対して40質量%以下であれば、有機溶剤を含有するものであってもよい。有機溶剤としては上述のものを挙げることができる。
【0065】
上記工程(2)は、上記水性ベース塗料組成物を、プライマー塗膜上に塗布する工程である。塗布方法については、静電塗装によって行うことが好ましい。静電塗装を行うことによって、効率よく塗装を行うことができ、1ステージ塗装によって十分な膜厚を得ることができる点で好ましい。
【0066】
ベース塗膜は、乾燥膜厚が10〜30μmであることが好ましく、15〜25μmであることがより好ましい。乾燥膜厚が10μm以上であることにより、成形品表面に、色鮮やかな外観を与えることができる。30μmを超えると、タレ、ワキ等の不具合が発生するため好ましくない。
【0067】
(ベース塗料塗装後のプレヒート)
本発明の複層塗膜の形成方法においては、上記工程(2)の後、クリヤー塗料組成物を塗布する前に、プレヒートを行うものであることが好ましい。すなわち、水性導電プライマーを塗布する工程の後では、プレヒートを省略するものであるが、ベース塗料を行った後は、プレヒートを行うことが好ましい。
【0068】
なお、プレヒートの際の加熱温度は、適宜設定すればよいが、40〜100℃が好ましく、40〜90℃がより好ましい。プレヒートの方法については、特に制限はなく、例えば、熱風乾燥法、赤外線乾燥法など公知の方法を採用すればよい。プレヒートの後にクーリング工程を行ってもよい。
【0069】
(クリヤー塗料)
本発明の複層塗膜の形成方法は、上記工程(2)の後に、さらに、クリヤー塗料組成物を塗布する工程(3)を有するものである。
【0070】
上記クリヤー塗料組成物は、水性ベース未硬化膜上に塗り重ねて、3層塗膜のトップ層(最上層)を形成させるのに用いられる塗料であり、優れた耐候性や耐溶剤性などの物性を硬化塗膜に付与する。
【0071】
上記クリヤー塗料組成物としては特に限定されず、従来公知のものを用いればよいが、例えば、主剤として水酸基を含有するポリオール樹脂を使用し、硬化剤がイソシアネートである2液クリヤー塗料(例えば、2液硬化型ウレタン塗料)が好ましい。得られるクリヤー塗膜の外観が良好で、耐酸性にも優れたものとなるからである。前記主剤として使用されるポリオール樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール等を使用することができる。また、溶剤型2液クリヤー塗料であることがより好ましい。
【0072】
上記硬化剤として用いるイソシアネートとしては、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する無黄変タイプの化合物(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートなどのアダクト体、ヌレート体、ビューレット体など)などを挙げることができる。市販の硬化剤としては、例えば、住化バイエル社製のディスモジュール3600やスミジュール3300、日本ポリウレタン社製のコロネートHX、三井武田ケミカル社製のタケネートD−140NL、D−170N、旭化成社製のデュラネート24A−90PX、THA−100などを挙げることができる。
市販のクリヤー塗料としては、例えば、2液硬化型ウレタン塗料である
日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のR2500−1などを挙げることができる。
【0073】
さらに硬化促進剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤、潤滑剤、UV吸収剤等従来公知の添加剤や有機溶剤を必要に応じて使用される。
【0074】
上記クリヤー塗料組成物の塗布方法としては特に限定されず、たとえば、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装やベル塗装等を採用することができる。
【0075】
クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、20〜50μmであることが好ましい。上記範囲外であると、肌荒れなどの外観低下やタレ、ワキなどの作業性不良が発生するおそれがある。
【0076】
焼き付け工程(4)は、上記3層の未硬化膜を同時に焼き付けて、プライマー塗膜、水性ベース塗膜及びクリヤー塗膜の3層から構成される硬化塗膜を形成する工程である。
【0077】
焼き付け温度は、迅速な硬化とポリプロピレン成型品の変形防止との兼ね合いから、例えば、110〜130℃とすることが好ましい。より好ましくは、120〜130℃である。焼き付け時間は、通常10〜60分間であり、好ましくは15〜50分間、さらに好ましくは20〜40分間である。焼き付け時間が10分間未満であると、塗膜の硬化が不充分であり、硬化塗膜の耐水性及び耐溶剤性などの性能が低下する。他方、焼き付け時間が60分間を超えると、硬化しすぎでリコートにおける密着性などが低下し、塗装工程の全時間が長くなり、エネルギーコストが大きくなる。なお、この焼付け時間は、基材表面が実際に目的の焼き付け温度を保持しつづけている時間を意味し、より具体的には、目的の焼き付け温度に達するまでの時間は考慮せず、目的の温度に達してから該温度を保持しつづけているときの時間を意味する。
【0078】
塗料の未硬化膜を同時に焼き付けるのに用いる加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線などの加熱源を利用した乾燥炉などが挙げられ、また、これら加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮されるため好ましい。
【0079】
本発明において、工程(1)を行った後、60℃×3分という条件でのプレヒートを行った以外は完全に同一である方法によって測定された複層塗膜と比較した場合、FFパラメーターの差が±2.0以内であることが好ましい。
上記FFパラメーターの差が小さいほど、混層を生じることなく良好な意匠性を示していると考えられる。各複層塗膜のFFパラメーターは、メタリック用のマルチアングル分光測色計CM−512m
3(コニカミノルタ社製)で25°と75°のL値の差から算出することができる(FFパラメーター=(25°のL値)−(75°のL値))。
【0080】
本発明の塗膜形成方法を適用することができるプラスチック成形体のプラスチック基材はポリプロピレンである。このようなポリプロピレン性の被塗装物としては、バンパー等の自動車部品等を挙げることができる。
【実施例】
【0081】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「重量部」、「重量%」を意味する。
【0082】
製造例1:酸無水物変性塩素化エマルジョン
攪拌羽根、温度計、温度制御サーミスター装置、滴下装置及び冷却管を備えた反応装置に、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(「スーパークロン892LS」;日本製紙(株)製:塩素含有率22%、重量平均分子量7万〜8万)を288部、界面活性剤(「エマルゲン920」花王(株)製)62部、芳香族炭化水素溶剤「ソルベッソ100」エクソン社製)74部、酢酸カービトール32部を仕込み、110℃まで昇温し、この温度で1時間加熱し樹脂などを溶解させた後、100℃以下に冷却した。次いでジメチルエタノールアミン6部を溶解させたイオン交換水710部を攪拌しながら1時間で滴下し、転相乳化した。その後、室温まで冷却し、400メッシュの金網でろ過して、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィンエマルジョンを得た。このエマルジョンの不揮発分は30質量%であった。
【0083】
製造例2:ポリウレタンディスパージョン
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入管、サンプル採取管及び冷却管付き還流装置を備えた耐圧反応容器に、窒素ガスを通じながらアジピン酸1100部と3−メチルー1,5−ペンタンジオール900部と、テトラブチルチタネート0.5部とを仕込み、容器内液の反応温度を170℃に設定し、脱水によるエステル化反応を行い、酸価が0.3mgKOH/g以下になるまで継続した。次いで、180℃、5kPa以下の減圧条件下で2時間反応を行い、水酸基価112mgKOH/g、酸価0.2mgKOH/gのポリエステルを得た。次いで、上記反応容器と同じ装置のついた別の反応容器に、このポリエステルポリオール500部と、5−スルホソジウムイソフタル酸ジメチル134部及びテトラブチルチタネート2部を仕込み、上記と同じようにして、窒素ガスを通じながら、反応容器を180℃に設定してエステル化を行い、最終的に重量平均分子量2117、水酸基価53mgKOH/g、酸価0.3mgKOH/gのスルホン酸基含有ポリエステルを得た。
上記スルホン酸基含有ポリエステル280部、ポリブチレンアジペート200部、1,4―ブタンジオール35部、ヘキサメチレンジイソシアネート118部及びメチルエチルケトン400部を、攪拌羽根、温度計、温度制御装置、滴下装置、サンプル採取口及び冷却管付き反応容器に窒素ガスを通じながら仕込み、攪拌しながら液温を75℃に保持してウレタン化反応を行い、NCO含有率が1%であるウレタンポリマーを得た。続いて、上記反応容器中の液温を40℃に下げて、十分攪拌しながらイオン交換水955部を均一に滴下して転相乳化を行った。次いで、内部温度を下げて、アジピン酸ヒドラジド13部とイオン交換水110部とを混合したアジピン酸ヒドラジド水溶液を添加してアミン伸張を行った。次いで、若干の減圧状態で60℃に温度をあげて脱溶剤を行い、終了した時点で、ポリウレタンディスパージョンの不揮発分が35%になるようにイオン交換水を追加して、スルホン酸基含有ポリウレタンディスパージョンを得た。ディスパージョン中のポリウレタン樹脂の酸価は、11mgKOH/gであった。
【0084】
製造例3:エポキシ基含有アクリル樹脂
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入管及び冷却管を備えた反応容器に、イオン交換水37部を仕込み、80℃まで昇温した。昇温から反応完了まで全て内部液攪拌しながら各作業を行った。一方、乳化機(T.K.ロボミックスRM型;プライミクス(株)製)にイオン交換水21部、界面活性剤Newcol 710を1部、Newcol 740を1部(いずれも界面活性剤、日本乳化剤(株)製)を仕込み、攪拌しながら均一溶解を行った。
続けて攪拌しながら、上記乳化機にn−ブチルアクリレート6部、エチルヘキシルメタクリレート8部、グリシジルメタクリレート14部からなる重合性モノマー混合溶液を徐々に滴下して、プレエマルション液を作成した。
一方、イオン交換水7部及びアンモニウムパーサルフェート(乳化重合触媒)1.1部からなる重合触媒液を作成し、上記反応容器に、上記プレエマルション液と該重合触媒液とを別々の滴下ロートから3時間をかけて滴下した。反応容器内部温度は80℃に維持し攪拌しながらエマルション重合を行った。プレエマルション液は、乳化機で乳化状態を保持しながらそこから直接反応容器につないで滴下する手法をとった。3時間後、さらに、イオン交換水4部及びアンモニウムパーサルフェート重合触媒からなる重合触媒液だけを、内温を80℃に保持して、1時間かけて滴下した。その後、80℃で1時間熟成し、冷却をして、エポキシ基含有アクリルエマルションを得た。このものの不揮発分は30%であった。また、樹脂固形分100中のエポキシ基含有モノマーの量は50質量%である。
【0085】
製造例4:水性プライマー用顔料分散樹脂
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入管及び冷却管を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルエーテル55部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、攪拌下120℃まで昇温した。次に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート12部、メタクリル酸9部、イソブチルメタクリレート35部、n−ブチルアクリレート44部からなる重合性モノマー混合物と、t−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサナート1部をプロピレングリコール8部に溶解した溶液とを、内部攪拌にてそれぞれ3時間をかけて滴下した。
次いで、滴下終了後、1時間120℃の状態で熟成反応を行った後、さらにt−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサナート0.1部をプロピレングリコールモノメチルエーテル4部に溶解した溶液を、1時間かけて反応容器に滴下した。いずれの場合も内部攪拌状態と120℃液温を維持していた。この後、攪拌しながら120℃で2時間熟成し、次いで内部液温を70℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノール9.5部を滴下して30分攪拌した。さらに内部液温を70℃に保持し、攪拌しながら、イオン交換水167部をゆっくりと滴下し、冷却して水溶性アクリル樹脂溶液を得た。イオン交換水を用いて、不揮発分を30%に調整した。
得られた水溶性アクリル樹脂溶液のpHは8.2で、アクリル樹脂の重量平均分子量は42000であった(GPCでポリスチレン換算)。
【0086】
製造例5:顔料分散ペースト
攪拌機のついたステンレス製の円筒攪拌槽に、上記製造例での水性プライマー用顔料分散樹脂56.66部を仕込み、攪拌しながらイオン交換水31.76部を添加した。次いで、顔料分散割SURFYNOL GA(不揮発分=78%;エアープロダクツ社製)3.90部を攪拌しながら添加した。十分攪拌しながら、消泡割ノプコ8034−L(不揮発分100%;サンノプコ社製)0.75部を添加した。攪拌を続けながら、次いで偏平体質顔料ミクロエースP−4(日本タルク社製)11.94部、導電性カーボンのカーボンECP600JD(ライオン(株)社製)4.53部、チタンR−960(Du Pont社製)31.47部を順序よく仕込み、次いで、マイコート2677(日本サイテック社製;不揮発分=77%)を9部添加し、十分攪拌しながら、全体が均一になるまで15分間攪拌して、顔料ミルベースを作成した。このミルベースをサンドグラインダーミルにより顔料分散を行い、水性プライマー用顔料分散ペーストを作成した。このものの不揮発分は、50.5%であり、顔料濃度(PWC)は、63.4%であった。
顔料分散ペーストの配合比は下記表1の通りである。
【0087】
【表1】
【0088】
(水性導電プライマー製造例)
製造例6−1
攪拌装置のついたステンレス製容器に製造例5の顔料分散ペーストを100部を仕込み、攪拌しながら以下のものを順に仕込み、水性プライマーを作製した。
・製造例1の酸無水物変性塩素化ポリオレフィンエマルション樹脂 29.4部
・製造例2のポリウレタンディスパージョン 34.8部
・製造例3のエポキシ基含有アクリル樹脂 8.4部
・ポリシロキサン含有表面調製剤 BYK347(BYケミー社製) 1.2部
・高分子量増粘剤 ディスパロンAQ−001(楠本化成社製) 0.6部
・2エチルヘキサノール 1.0部
・表面調整剤サーフィノール420(エアープロダクツ社製) 1.7部
この塗料の不揮発分は、43%であった。
【0089】
製造例6−2〜6−6
同様の手順で、表2に記載の配合で、製造例6−2〜6のプライマーを作成した。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例1
イソプロピルアルコールでワイピングしたポリプロピレン素材(70mm×150mm×3mm)の表面に、25℃/70%RHの環境下で、「ワイダ―71」(アネスト磐田社製)により製造例6−1のプライマーをスプレー塗装(乾燥膜厚15μm)し、23℃で3分間乾燥した。その後、
日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製AR−2000(#1F7)水性ベース塗料を同じ環境下で、新カートリッジベルを使用して静電塗装(ガン距離:200mm、ガン速度:900mm/s、印加電圧:−60kV、回転数:35000rpm、シェーピングエアー圧:0.15MPa)条件下でスプレー塗装(乾燥膜厚13μm)した。80℃で3分間乾燥した後、クーリング処理を5分実施し、その上に、クリヤー塗料「R2500−1」(
日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のアクリル系クリヤー主剤と
日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のイソシアネート硬化剤「H−2500硬化剤」からなるもの)を、ロボベル951を使用して静電塗装(ガン距離:200mm、ガン速度:700mm/s、印加電圧:−60kV、回転数:25000rpm、シェーピングエアー圧:0.07MPa)条件下でスプレー塗装(乾燥膜厚25μm)した。その後、10分間セッティングした後、120℃で35分間乾燥し、複層塗膜を形成した。
【0092】
参考例2〜4、比較例1〜3
実施例1で行ったプライマー塗装後の乾燥条件を60℃で3分後、クーリング処理5分実施に変更するか、プライマーを表に記載の製造例に変更する以外は、同じ条件で
参考例2〜4及び比較例1〜3のテストパネルを作製した。
【0093】
(評価方法)
実施例及び比較例によって得られたテストパネルについて、以下の基準に基づいて評価を行った。結果を表3に示す。
【0094】
1.外観(目視)
判定方法:目視により、激しいムラやハジキ等の異常がない場合は合格とする。
【0095】
2.FFパラメーター
クリヤー塗装後、FFパラメーターを示す値として、メタリック用のマルチアングル分光測色計CM−512m
3(コニカミノルタ社製)で25°と75°のL値の差から算出した(FFパラメーター=(25°のL値)−(75°のL値))。水性プライマーのプレヒートなしで混層を生じることなく良好な意匠性を示す評価法として、FFパラメーターの差を各実施例、比較例それぞれにおいて、水性プライマー塗装(工程(1))後プレヒートの有り、および、無しのテストパネルを準備し測定した。FFパラメーターの差が±2.0以下を合格とし、これを超える場合は不合格とした。水性プライマー塗装後、60℃で3分乾燥(プレヒート)し、クーリング処理5分後に水性ベース塗料を塗布したものをプレヒート有りのテストパネルとして作成し、プレヒートなしのテストパネルとのFFパラメーターの差を算出し、評価した。
【0096】
3.塗着粘度
プライマー塗装後テストパネルと同じ条件で乾燥したプライマーをベース塗装前にかき集めレオメーター(HAKKE社製 Rheostress600)で塗料粘度(シェアレート0.1 (1/sec))を測定した。
【0097】
4.初期密着
作成されたテストピースについてJIS K5600−5−6に準拠して、碁盤目による剥離試験を行った。2mm角の100個の碁盤目を用意し、粘着テープにより剥離試験を行い、1個でも剥がれたテストピースは初期密着を不合格と評価した。
【0098】
5.耐水試験
作成されたテストピースを40℃の耐水槽にて240H浸漬させる。引き揚げた後、1時間以内に外観評価と、JIS K5600−5−6に準拠して、碁盤目セロテープ(登録商標)剥離試験を行った。耐水後外観は、フクレやブリスター等の外観異常が認められたテストピースを不合格とした。また、耐水後密着は、2mm角の100個の碁盤目を用意し、セロハンテープ剥離試験を行い、1個でも剥がれたテストピースを不合格とした。
【0099】
【表3】
【0100】
上記表3の結果から、本発明の複層塗膜形成方法によって形成された複層塗膜は、良好な性質を有する塗膜が形成されるものであることが明らかである。