(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のように、基板の変形に合わせて設計データを補正する場合、基板の変形量を計測するために、撮像画像における基板上のアライメントマークの位置をパターンマッチングにより取得することが考えられる。しかしながら、パターンマッチングでは、撮像画像の明るさや当該マーク以外のパターンの影響により、計測精度が低下したり、計測が不能となることがある。また、特許文献2の手法を利用して撮像画像において基板上のマークの位置を取得することも考えられるが、特許文献2の手法では、輪郭点の位置情報のみが利用されるため、当該マークの位置を精度よく取得することができないことがある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、撮像画像中の注目領域の位置を高精度に測定することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、対象物を撮像した画像に含まれる注目領域の位置を測定する位置測定装置であって、対象物を撮像して取得されるとともに、略矩形状、円形状または楕円形状の注目領域を含む画像を記憶する画像記憶部と、前記画像において前記注目領域の断面プロファイルがトップハット形状であり、前記注目領域の画素値分布を偏微分可能なモデル関数にてモデル化し、前記モデル関数に含まれる複数の係数を最適化法にて決定することにより取得する演算部と、前記複数の係数が取得された前記モデル関数に基づいて前記注目領域の位置を取得する位置取得部とを備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の位置測定装置であって、前記最適化法が、ガウス・ニュートン法またはレーベンバーグ・マルカート法である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の位置測定装置であって、前記演算部において、前記注目領域の画素値分布が数1に示す円形状のモデル関数にて表現され、
【数1】
前記複数の係数である数1中のa,b,c,d,e,fについて、係数fの初期値が、前記画像における前記注目領域の背景の明るさに基づいて決定され、係数eの初期値が、前記注目領域の前記断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定され、係数aの初期値が、前記注目領域の明るさと前記背景の明るさとの差に基づいて決定され、係数bの初期値が、前記係数eの初期値、および、前記注目領域の大きさに基づいて決定され、係数cの初期値が、前記注目領域の略中心のx座標に基づいて決定され、係数dの初期値が、前記注目領域の前記略中心のy座標に基づいて決定される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の位置測定装置であって、前記演算部において、前記注目領域の画素値分布が数2に示す略正方形状のモデル関数(ただし、nは1よりも大きい実数)にて表現され、
【数2】
前記複数の係数である数2中のa,b,c,d,e,fについて、係数fの初期値が、前記画像における前記注目領域の背景の明るさに基づいて決定され、係数eの初期値が、前記注目領域の前記断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定され、係数aの初期値が、前記注目領域の明るさと前記背景の明るさとの差に基づいて決定され、係数bの初期値が、前記係数eの初期値、および、前記注目領域の大きさに基づいて決定され、係数cの初期値が、前記注目領域の略中心のx座標に基づいて決定され、係数dの初期値が、前記注目領域の前記略中心のy座標に基づいて決定される。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の位置測定装置であって、前記対象物がパターンが形成された基板であり、前記注目領域が、前記パターンの一部、または、前記基板に形成された孔部を示す。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の位置測定装置であって、前記注目領域が、前記画像中の前記パターンを示すパターン領域の一部であり、前記演算部が、前記注目領域が前記パターン領域の他の一部と接続する場合に前記パターン領域の前記他の一部をマスクする、または、前記注目領域に対応する前記基板上の領域が孔部を含む場合に前記孔部を示す領域の画素値を前記注目領域の他の領域の画素値に置き換える画像加工部と、前記画像加工部による加工済みの画像に基づいて、前記複数の係数を取得する係数取得部とを備える。
【0014】
請求項7に記載の発明は、基板上に描画されるパターンの設計データを補正するデータ補正装置であって、基板を撮像した画像に含まれる注目領域の位置を測定する請求項1ないし6のいずれかに記載の位置測定装置と、前記注目領域の位置に基づいて、基板上に描画されるパターンの設計データを補正するデータ補正部とを備える。
【0015】
請求項8に記載の発明は、対象物を撮像した画像に含まれる注目領域の位置を測定する位置測定方法であって、a)対象物を撮像して取得されるとともに、略矩形状、円形状または楕円形状の注目領域を含む画像を準備する工程と、b)前記画像において前記注目領域の断面プロファイルがトップハット形状であり、前記注目領域の画素値分布を偏微分可能なモデル関数にてモデル化し、前記モデル関数に含まれる複数の係数を最適化法にて決定することにより取得する工程と、c)前記複数の係数が取得された前記モデル関数に基づいて前記注目領域の位置を取得する工程とを備える。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の位置測定方法であって、前記最適化法が、ガウス・ニュートン法またはレーベンバーグ・マルカート法である。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項8または9に記載の位置測定方法であって、前記b)工程において、前記注目領域の画素値分布が数3に示す円形状のモデル関数にて表現され、
【数3】
前記複数の係数である数3中のa,b,c,d,e,fについて、係数fの初期値が、前記画像における前記注目領域の背景の明るさに基づいて決定され、係数eの初期値が、前記注目領域の前記断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定され、係数aの初期値が、前記注目領域の明るさと前記背景の明るさとの差に基づいて決定され、係数bの初期値が、前記係数eの初期値、および、前記注目領域の大きさに基づいて決定され、係数cの初期値が、前記注目領域の略中心のx座標に基づいて決定され、係数dの初期値が、前記注目領域の前記略中心のy座標に基づいて決定される。
【0018】
請求項11に記載の発明は、請求項8または9に記載の位置測定方法であって、前記b)工程において、前記注目領域の画素値分布が数4に示す略正方形状のモデル関数(ただし、nは1よりも大きい実数)にて表現され、
【数4】
前記複数の係数である数4中のa,b,c,d,e,fについて、係数fの初期値が、前記画像における前記注目領域の背景の明るさに基づいて決定され、係数eの初期値が、前記注目領域の前記断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定され、係数aの初期値が、前記注目領域の明るさと前記背景の明るさとの差に基づいて決定され、係数bの初期値が、前記係数eの初期値、および、前記注目領域の大きさに基づいて決定され、係数cの初期値が、前記注目領域の略中心のx座標に基づいて決定され、係数dの初期値が、前記注目領域の前記略中心のy座標に基づいて決定される。
【0019】
請求項12に記載の発明は、請求項8ないし11のいずれかに記載の位置測定方法であって、前記対象物がパターンが形成された基板であり、前記注目領域が、前記パターンの一部、または、前記基板に形成された孔部を示す。
【0020】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の位置測定方法であって、前記注目領域が、前記画像中の前記パターンを示すパターン領域の一部であり、前記b)工程が、b1)前記注目領域が前記パターン領域の他の一部と接続する場合に前記パターン領域の前記他の一部をマスクする、または、前記注目領域に対応する前記基板上の領域が孔部を含む場合に前記孔部を示す領域の画素値を前記注目領域の他の領域の画素値に置き換える工程と、b2)前記b1)工程による加工済みの画像に基づいて、前記複数の係数を取得する工程とを備える。
【0021】
請求項14に記載の発明は、基板上に描画されるパターンの設計データを補正するデータ補正方法であって、基板を撮像した画像に含まれる注目領域の位置を測定する請求項8ないし13のいずれかに記載の位置測定方法と、前記注目領域の位置に基づいて、基板上に描画されるパターンの設計データを補正する工程とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、画像中の注目領域の位置を高精度に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る描画装置1の側面図である。
図2は、描画装置1の平面図である。描画装置1は、対象物上に光を照射してパターンの直接的な描画を行う装置である。当該対象物は、例えば、感光材料の層が設けられたプリント基板(プリント配線板であり、以下、単に「基板」という。)である。
【0025】
図1および
図2に示すように、描画装置1は、保持部移動機構2と、基板保持部3と、描画ヘッド4とを備える。基板保持部3は、(+Z)側の主面91(以下、「上面91」という。)上に感光材料の層が形成された対象物である基板9を保持する。保持部移動機構2は、基台11上に設けられ、基板保持部3をZ方向に垂直なX方向およびY方向に移動する。描画ヘッド4は、フレーム12に取り付けられる。フレーム12は、基板保持部3および保持部移動機構2を跨ぐように基台11に固定される。描画ヘッド4は、基板9上の感光材料に変調されたビーム光を照射する。
【0026】
描画装置1は、
図1に示すように、制御部6と、データ補正装置8とをさらに備える。制御部6は、保持部移動機構2、描画ヘッド4等の各構成を制御する。データ補正装置8は、基板9上に描画される予定のパターンの設計データを補正する。データ補正装置8の詳細については後述する。
【0027】
図1および
図2に示すように、基板保持部3は、ステージ31と、ステージ回転機構32と、支持プレート33とを備える。基板9は、ステージ31上に載置される。支持プレート33は、ステージ31を回転可能に支持する。ステージ回転機構32は、支持プレート33上において、基板9の上面91に垂直な回転軸321を中心としてステージ31を回転する。
【0028】
保持部移動機構2は、副走査機構23と、ベースプレート24と、主走査機構25とを備える。副走査機構23は、基板保持部3を
図1および
図2中のX方向(以下、「副走査方向」という。)に移動する。ベースプレート24は、副走査機構23を介して支持プレート33を支持する。主走査機構25は、基板保持部3をベースプレート24と共にX方向に垂直なY方向(以下、「主走査方向」という。)に移動する。描画装置1では、保持部移動機構2により、基板9の上面91に平行な主走査方向および副走査方向に基板保持部3が移動される。
【0029】
副走査機構23は、リニアモータ231と、1対のリニアガイド232とを備える。リニアモータ231は、支持プレート33の下側(すなわち、(−Z)側)において、ステージ31の主面に平行、かつ、主走査方向に垂直な副走査方向に伸びる。1対のリニアガイド232は、リニアモータ231の(+Y)側および(−Y)側において副走査方向に伸びる。主走査機構25は、リニアモータ251と、1対のエアスライダ252とを備える。リニアモータ251は、ベースプレート24の下側において、ステージ31の主面に平行な主走査方向に伸びる。1対のエアスライダ252は、リニアモータ251の(+X)側および(−X)側において主走査方向に伸びる。
【0030】
図2に示すように、描画ヘッド4は、副走査方向に沿って等ピッチにて配列されてフレーム12に取り付けられる複数(本実施の形態では、8つ)の光学ヘッド41を備える。また、描画ヘッド4は、
図1に示すように、各光学ヘッド41に接続される光源光学系42と、ビーム光を出射する光出射部48とを備える。光出射部48は、紫外光である当該ビーム光を出射するUV光源43と、光源駆動部44とを備える。UV光源43は、例えば固体レーザである。光源駆動部44が駆動されることにより、UV光源43から紫外光が出射され、光源光学系42を介して光学ヘッド41へと導かれる。
【0031】
各光学ヘッド41は、導光部45と、光学系451,47と、空間光変調デバイス46とを備える。導光部45は、UV光源43からの光を下方へと導く。光学系451は、導光部45からの光を反射して空間光変調デバイス46へと導く。空間光変調デバイス46は、光学系451を介して照射された光出射部48からのビーム光を空間変調しつつ反射する。光学系47は、空間光変調デバイス46からの変調された光を、基板9の上面91に設けられた感光材料上へと導く。
【0032】
空間光変調デバイス46は、例えば、複数の光変調素子を備える。光変調素子としては、例えば、GLV(Grating Light Valve:グレーチング・ライト・バルブ)(シリコン・ライト・マシーンズ(サニーベール、カリフォルニア)の登録商標)が利用される。また、DMD(デジタルミラーデバイス)が光変調素子として利用されてもよい。これらの光変調素子は、制御部6からの信号に基づいて制御され、これにより、基板9の上面91上においてX方向(すなわち、副走査方向)に並ぶ複数の照射位置のそれぞれに空間変調されたビーム光が照射される。
【0033】
図1および
図2に示す描画装置1では、保持部移動機構2により移動される基板9に対し、描画ヘッド4の空間光変調デバイス46から変調されたビーム光が照射される。換言すれば、保持部移動機構2は、空間光変調デバイス46から基板9へと導かれたビーム光の基板9上における照射位置を、基板9に対して相対的に移動する照射位置移動機構である。なお、描画装置1の設計によっては、基板9を移動することなく、描画ヘッド4が移動することにより基板9上のビーム光の照射位置が移動されてもよい。描画装置1では、
図1に示す制御部6により、描画ヘッド4および保持部移動機構2が制御されることにより、基板9上にパターンが描画される。
【0034】
図1に示すデータ補正装置8は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶するROM、および、各種情報を記憶するRAM等を含む一般的なコンピュータシステムである。
図3は、データ補正装置8の機能を示すブロック図である。データ補正装置8は、位置測定部80と、データ補正部84と、設計データ記憶部85とを備える。位置測定装置である位置測定部80は、画像記憶部81と、演算部82と、位置取得部83とを備える。画像記憶部81は、所定の撮像装置5により取得された撮像画像(のデータ)を記憶する。撮像装置5は、描画装置1とは分離した装置であってよく、描画装置1に設けられてもよい。演算部82は、画像加工部821と、係数取得部822とを備え、撮像画像における所定の注目領域近傍の画素値分布を取得する。位置取得部83は、演算部82により取得された画素値分布に基づいて注目領域の位置を取得する。設計データ記憶部85は、基板9上に描画される予定のパターンを示す設計データを記憶する。設計データは、典型的にはベクトルデータであるが、ラスタデータであってもよい。データ補正部84は、複数の注目領域の位置に基づいて設計データを補正する。本実施の形態では、データ補正装置8の機能は、コンピュータにおけるプログラムの実行により実現されるが、当該機能は、全体的または部分的に専用の電気的回路により実現されてもよい。
【0035】
描画装置1では、データ補正装置8により設計データが補正された後、補正済みの設計データに基づいて基板9上にパターンが描画される。以下、描画装置1によるパターンの描画に係る処理について、
図4を参照しつつ説明する。なお、
図4中に破線の矩形にて示すステップS11aは、後述の処理例にて行われる。
【0036】
描画に係る処理では、まず、描画装置1によりパターン(上層のパターン)が描画される予定の基板9において、主面91上に既に形成されているパターン(下層のパターン)が撮像装置5により撮像される。基板9を撮像して取得された多階調の画像(すなわち、撮像画像)は、画像記憶部81に記憶され、データ補正装置8による後述の処理に向けて準備される(ステップS10)。以下の説明では、撮像画像は、互いに直交するx方向およびy方向に複数の画素が配列された画像であるものとする。
【0037】
図5は、撮像画像の一部を示す図である。基板9では、主面91上にて設計データの補正に利用すべき複数の参照部位が予め定められており、演算部82の画像加工部821では、撮像画像において各参照部位を示す注目領域R1の全体を包含する包含領域が抽出される(ステップS11)。例えば、画像加工部821では、基板9上に既に形成されているパターン(下層のパターン)の設計データが示す各参照部位の位置が記憶されており、撮像画像において当該位置を中心とする所定の大きさの範囲を抽出することにより、包含領域が取得される。包含領域は、x方向およびy方向に平行な辺を有する矩形領域であり、
図5では、包含領域を符号A1を付す破線の矩形にて示している。なお、包含領域A1の取得は、操作者の入力等に基づいて行われてよい。本実施の形態では、注目領域R1は基板9に形成された特定の孔部であるビアを示す。
図5の包含領域A1における注目領域R1は、注目領域R1の周囲の領域である背景よりも暗い。すなわち、注目領域R1の画素値は、背景の画素値よりも小さい。以下、包含領域を示す画像を「包含領域画像」という。
【0038】
複数の注目領域R1をそれぞれ示す複数の包含領域画像が取得されると、演算部82では、各包含領域画像における画素値分布(すなわち、注目領域R1および注目領域R1の周囲の画素値の二次元分布)が、偏微分可能なモデル関数にてモデル化される(ステップS12)。ここで、撮像画像の包含領域A1(包含領域画像)において、注目領域R1の略中心を含む線上における画素値のプロファイル(以下、「断面プロファイル」という。)は、中央部の画素値が外縁部の画素値よりも小さい下向きのトップハット形状である。トップハット形状は、略台形状、あるいは、(一次元)ガウス分布のピークを平坦化した形状である。また、
図5に示す例では、各注目領域R1は略円形状である。したがって、演算部82では、xy平面から当該xy平面に垂直な方向(画素値を示す軸の方向)に突出する略円錐台形状、あるいは、二次元ガウス分布のピークを平坦化した形状を示すモデル関数が利用される。このようなモデル関数では、xy平面に平行な断面が円形状であるため、当該モデル関数を「円形状のモデル関数」とも呼ぶ。演算部82では、包含領域画像において座標(x,y)にて表される画素の画素値が、数5の円形状のモデル関数にて表現される。
【0040】
包含領域画像の画素値の分布を示す数5の円形状のモデル関数は、複数の係数a,b,c,d,e,fを含む。当該モデル関数は、未知数である係数a,b,c,d,e,fのそれぞれにより偏微分可能な関数である。複数の係数a,b,c,d,e,fのうち係数aは、ガウス関数における振幅に対応し、孔部を示す注目領域R1の中央部における明るさを示す。また、係数bは、注目領域R1に対応する画素の広がりの程度、すなわち、注目領域R1の大きさを示す。係数cおよび係数dはそれぞれ、注目領域R1の中心(重心)のx座標およびy座標、すなわち、当該中心のx方向およびy方向の位置を示す。係数eは、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きを示し、係数eが大きいほど外縁部の傾きが急峻となり、断面プロファイルが理想的なトップハット形状に近似する。係数fは、包含領域画像における注目領域R1の背景の明るさ(すなわち、背景のオフセット)を示す。
【0041】
図6は、数5の円形状のモデル関数における係数b,eの変化による画像の変化を示す図である。ここでは、数5のモデル関数における係数aは負の値である。
図6では、12個の画像(画素値分布)が3行4列に並んでおり、最も左側の列から右側に向かうに従って係数eの値が増加し、最も下側の行から上側に向かうに従って係数bの値が増加している。
図6では、係数bの値が大きくなるに従って、黒い領域が大きくなる。また、係数eの値が大きくなるに従って、黒い領域のエッジが明瞭となり、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きが大きくなることが判る。
【0042】
注目領域R1のモデル化が終了すると、演算部82の係数取得部822により、上記モデル関数に含まれる複数の係数(すなわち、数5中の係数a〜f)の値が、包含領域画像の画素値を用いて最適化法にて決定される(ステップS13)。ステップS13において係数a〜fの決定に利用される最適化法は、例えば、ガウス・ニュートン法(Gauss−Newton法)またはレーベンバーグ・マルカート法(Levenberg−Marquardt法)である。以下では、まず、ガウス・ニュートン法により係数a〜fが決定される場合について説明し、その後、レーベンバーグ・マルカート法により係数a〜fが決定される場合について説明する。
【0043】
ガウス・ニュートン法では、各包含領域画像について、数5にてモデル化された画素値分布が、当該包含領域画像における(注目領域R1の)実際の画素値分布に最も精度良くフィットする場合の係数a〜fが、反復計算により求められる。当該反復計算では、数5にて求められる画素値と包含領域画像の実際の画素値との差の二乗を包含領域画像の全ての画素について合計した値(すなわち、残差の平方和)が最小値に収束するように、係数a〜fを変更しつつ残差の平方和が繰り返し計算される。
【0044】
ステップS13では、まず、
図7に示すように、複数の係数a〜fの初期値a0〜f0が決定される(ステップS131)。具体的には、まず、包含領域画像を所定の閾値にて二値化することにより、注目領域R1と背景とが暫定的に(低精度にて)特定される。なお、当該閾値は、注目領域R1の明るさ(後述の画素値の代表値)と背景の明るさとの間の画素値である。そして、包含領域画像において、暫定的な注目領域R1の中央部の画素値の代表値から背景の画素値の代表値を引いて得た値が係数aの初期値a0として求められる。ここで、各領域の画素値の代表値は、当該領域における画素値のヒストグラムにおける中央近傍を示す画素値であり、例えば、平均値または最頻値である。係数c,dの初期値c0,d0は、暫定的な注目領域R1の中心、すなわち、(正確な)注目領域R1の略中心のx座標およびy座標である。係数fの初期値f0は背景の画素値の代表値である。
【0045】
係数eの初期値e0の算出では、まず、包含領域画像において暫定的な注目領域R1の中心を通るとともにx方向に平行な線(すなわち、y=d0を示す線)上における断面プロファイルが求められる。また、当該断面プロファイルにおいて、暫定的な注目領域R1における画素値の最小値m1、および、背景における画素値の最頻値m2が求められる。続いて、上記断面プロファイルの各画素値からm2を引き、さらに(m1−m2)にて割ることにより、振幅が1となる(正規化された)トップハット形状のプロファイルが得られる。そして、当該プロファイルにおいて、x方向に並ぶ画素位置の間が線分にて接続され、(画素値を示す軸の)値が0.25となる2つの位置間のx方向の距離の半分がw
1として求められ、値が0.75となる2つの位置間のx方向の距離の半分がw
2として求められる。
【0046】
ここで、上記プロファイルは、暫定的な注目領域R1の中心を通る(y=d0)を示す線上における断面プロファイルを正規化したものである。したがって、上記プロファイルは、数5において係数aに1、係数fに0を代入し、かつ、(y−d)を0とした関数にて表現され、当該関数において(x−c)がw
1である時にF(x,y)が0.25となることから数6が導かれ、(x−c)がw
2である時にF(x,y)が0.75となることから数7が導かれる。
【0049】
そして、数6および数7を変形してbを消去することにより、数8が得られる。
【0051】
数8に上記プロファイルから得られるw
1およびw
2の値を代入することにより、係数eの初期値e0が求められる。このとき、数8中における(w
2/w
1)は、実質的に注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きを示すといえ、係数eの初期値e0は当該外縁部での傾きに依存する値である。また、数6を変形した数9に、係数eの初期値e0およびw
1の値を代入することにより、係数bの初期値b0が求められる。w
1は、注目領域R1における所定の明るさ以下となる領域の半径を示すため、係数bの初期値b0は、実質的に係数eの初期値e0、および、注目領域R1のおよその大きさを用いて求められる。
【0053】
以上のように、係数aの初期値a0は、包含領域画像における注目領域R1の中央部の明るさと注目領域R1の背景の明るさとの差に基づいて決定される。係数cの初期値c0は、注目領域R1の略中心のx座標に基づいて決定される。係数dの初期値d0は、注目領域R1の略中心のy座標に基づいて決定される。係数fの初期値f0は、注目領域R1の背景の明るさに基づいて決定される。係数eの初期値e0は、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定される。係数bの初期値b0は、係数eの初期値e0、および、注目領域R1のおよその大きさに基づいて決定される。
【0054】
続いて、数5を係数a〜fによりそれぞれ偏微分した数10ないし数15(ただし、数10ないし数14におけるZは数16にて表される。)を使用して数17を解くことにより、上記反復計算における係数a〜fの1回目の変更の際の変更量である差分値Δa〜Δfが求められる(ステップS132)。
【0063】
数17では、数式中のxおよびyをxiおよびyiとして取り扱い、当該xiおよびyiは、「i」番目の画素のx座標およびy座標を示す。数17では「i=1〜m」であるため、ステップS13では、m個の画素についての残差の平方和が最小値となるように反復計算が行われる。数17の左辺は、数10ないし数15の6つの偏微分により構成される6次の正方行列と、6つの差分値Δa〜Δfにより構成される6行1列の行列との積を、m個の画素について合計したものである。数17の右辺は、数5を係数a〜fによりそれぞれ偏微分したものと、数5で得られる値から実際の画素値Biを減算したものとの積を示す6行1列の行列を、m個の画素について合計したものである。
【0064】
1回目の差分値Δa〜Δfが求められると、係数a〜fの初期値a0〜f0から差分値Δa〜Δfが減算され、次の係数a〜fの値が求められた後(ステップS133,S134)、ステップS132に戻る。そして、ステップS134にて求められた係数a〜f(の値)を使用した数17を解くことにより、次の差分値Δa〜Δfが求められ、現在の係数a〜fから当該次の差分値Δa〜Δfが減算されて新たな係数a〜fが求められる(ステップS132〜S134)。係数取得部822では、所定の終了条件が満たされるまで、ステップS132〜S134が繰り返される。当該終了条件とは、例えば、ステップS132にて求められた差分値Δa〜Δfのそれぞれの値が所定の大きさ以下となった状態である。あるいは、終了条件は、例えば、上述のステップS132〜S134の繰り返し回数が所定の回数に達した状態である。
【0065】
終了条件が満たされると、現在の係数a〜f(終了条件が満たされた際の係数a〜f)が数5に代入される。このようにして、数5に示す円形状のモデル関数の複数の係数a〜fが取得される。
図8は、複数の係数a〜fが取得されたモデル関数が示す包含領域A1の画素値分布を示す図であり、
図8では、包含領域A1における画素値分布を撮像画像に重ねて示している。
【0066】
ステップS13において、レーベンバーグ・マルカート法により係数a〜fが決定される場合も、ガウス・ニュートン法と同様に、複数の包含領域画像のそれぞれについて、数5のモデル関数(モデル化された包含領域画像の画素値分布)が、包含領域画像における実際の画素値分布に最も精度良くフィットする場合の係数a〜fが反復計算により求められる。レーベンバーグ・マルカート法では、ガウス・ニュートン法により適切な係数a〜fが求められない場合に、最急降下法等の勾配法により係数a〜fの粗い収束を試み、収束度が高くなるに従って徐々にガウス・ニュートン法に移行することにより適切な係数a〜fが求められる。
【0067】
具体的には、ステップS132〜S134が繰り返される際に、数17の左辺の6次正方行列のうち対角成分のみに重み係数が積算された上で差分値Δa〜Δfが求められ、求められた差分値Δa〜Δfが、1回前に求められた差分値Δa〜Δfよりも小さくなった場合は上記重み係数が小さくされ、1回前に求められた差分値Δa〜Δfよりも大きくなった場合は上記重み係数が大きくされる。これにより、ガウス・ニュートン法により係数a〜fが求められる場合に比べて、係数a〜fの収束に要する時間を短縮することができる。また、初期値a0〜f0が、最終的に求められる係数a〜fから比較的大きく離れている場合であっても、係数a〜fを適切に求めることができる。
【0068】
ステップS13が終了すると、位置取得部83では、複数の係数が取得された各注目領域R1に対するモデル関数(近似関数)に基づいて、撮像画像における当該注目領域R1の位置が取得される(ステップS14)。例えば、モデル関数が示す注目領域R1の中心が、注目領域R1の位置として取得される。
【0069】
データ補正部84では、複数の注目領域R1の位置、すなわち、複数の孔部の位置に基づいて基板9の変形状態が取得される。そして、設計データ記憶部85にて記憶された設計データが、基板9の変形に合わせて補正される(ステップS15)。設計データの補正では、例えば、設計データが示すパターンにおいて基板9上の参照部位(注目領域R1が示す部位)と重なるように設定された位置が、実際の基板9上の当該参照部位の近傍に配置されるように、当該パターンが変形されて補正済み設計データが取得される。補正済み設計データは、制御部6へと送られる。制御部6では、補正済み設計データに基づいて、保持部移動機構2や空間光変調デバイス46が制御され、ステージ31上に載置された基板9に対してパターンの描画が行われる(ステップS16)。なお、制御部6では、必要に応じて補正済み設計データが他の形式のデータに変換されてよい。
【0070】
以上に説明したように、データ補正装置8の演算部82では、断面プロファイルがトップハット形状である注目領域R1の画素値分布が、偏微分可能なモデル関数にてモデル化され、当該モデル関数に含まれる複数の係数が最適化法にて決定されることにより取得される。そして、複数の係数が取得されたモデル関数に基づいて注目領域R1の位置が取得される。これにより、撮像画像中の注目領域R1の位置を高精度に測定することができる。その結果、複数の注目領域R1の位置に基づいて基板9の変形を精度よく測定することができ、基板9上に描画されるパターンの設計データを、基板9の変形に合わせて高精度に補正することが可能となる。
【0071】
また、撮像画像が低解像度である場合、例えば、撮像画像を二値化して得られる暫定的な注目領域R1に対応する画素群の全体が、1辺が10画素以下の正方形領域に含まれる場合等であっても、モデル関数を利用するデータ補正装置8では、注目領域R1を示す関数を精度よく求め、注目領域R1の位置を高精度に取得することができる。
【0072】
データ補正装置8では、演算部82においてモデル関数に含まれる複数の係数a〜fを決定する最適化法が、ガウス・ニュートン法またはレーベンバーグ・マルカート法である。これにより、撮像画像におけるノイズ等の影響を抑制して、モデル関数における複数の係数を高精度に求めることができる。
【0073】
演算部82では、係数fの初期値f0が、撮像画像における注目領域R1の背景の明るさに基づいて決定され、係数eの初期値e0が、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定される。また、係数aの初期値a0が、注目領域R1の明るさと背景の明るさとの差に基づいて決定され、係数bの初期値b0が、係数eの初期値e0、および、注目領域R1のおよその大きさに基づいて決定される。さらに、係数c,dの初期値c0,d0が、それぞれ注目領域R1の略中心のx座標およびy座標に基づいて決定される。これにより、係数a〜fの初期値a0〜f0を、容易かつ適切に決定することができる。その結果、係数a〜fを高精度に決定することができ、注目領域R1を示す関数を高精度に求めることができる。
【0074】
次に、
図4中に破線の矩形にて示すステップS11aが行われる他の処理例について説明する。本処理例では、基板9上のパターンの一部である円形状のパッドが参照部位であり、演算部82の画像加工部821では、特定のパッドを示す各注目領域を包含する包含領域画像が撮像画像から切り出される(ステップS11)。なお、パッドは、通常、電極として利用される。
【0075】
図9は、包含領域画像を示す図である。包含領域画像において、基板9上のパターンを示すパターン領域R0は、注目領域R1および配線領域R2を含む。注目領域R1は、基板9上のパッドを示し、配線領域R2は、パッドと同じ材料にて形成される配線部を示す。注目領域R1は配線領域R2と接続している。また、注目領域R1および配線領域R2は、背景よりも明るい。すなわち、注目領域R1および配線領域R2の画素値は背景の画素値よりも大きい。さらに、背景は、比較的明るい第1背景領域H1と、比較的暗い第2背景領域H2とを含む。
図9では、各領域の平行斜線の幅を変えることにより、領域間の明るさの相違を示しており、平行斜線の幅が狭いほど暗い。
【0076】
画像加工部821では、包含領域画像を所定の閾値にて二値化することにより、
図10に示すように、注目領域R1および配線領域R2と背景とを暫定的に(低精度にて)区別して示す二値画像が取得される。続いて、当該二値画像に対して収縮処理が施される。このとき、白い領域のエッジにおいて配線領域R2の幅(
図10のy方向の幅)の半分以上の画素が収縮する程度にて収縮処理が行われ、
図11に示すように、配線領域R2が除去された収縮済み二値画像が取得される。そして、収縮済み二値画像に対して、収縮処理と同じ程度の膨張処理を行うことにより、
図12に示すように、暫定的な注目領域R1のみを示す二値の注目領域画像が取得される。膨張処理では、収縮処理により収縮した画素数と同じ画素数だけ白い領域が膨張する。
【0077】
続いて、
図12の注目領域画像を用いて、
図9の包含領域画像における注目領域R1をマスクしつつ、包含領域画像においてエッジが抽出される。包含領域画像におけるエッジの抽出は、包含領域画像に対する複数の閾値を用いた複数回の二値化処理、または、包含領域画像に対する微分フィルタ処理等により行われる。これにより、包含領域画像が、暫定的な注目領域R1、配線領域R2、第1背景領域H1、および、第2背景領域H2に分割される。また、暫定的な注目領域R1の画素値の代表値D
R1、第1背景領域H1の画素値の代表値D
H1、および、第2背景領域H2の画素値の代表値D
H2が求められる。そして、第1背景領域H1に含まれる各画素の画素値Vが、数18により新たな画素値V’に変換される。
【0079】
以上のようにして、撮像画像の包含領域を示す包含領域画像に対して画像加工部821による前処理が施され、
図13に示すように、背景がおよそ均一な明るさである新たな包含領域画像(以下、「加工済み包含領域画像」という。)が生成される(ステップS11a)。加工済み包含領域画像では、配線領域R2はマスクされており、ステップS12以降の処理では利用されない(演算対象から除外される)。したがって、後述の係数の決定において、配線領域R2が誤差要因となることはない。
図13では、配線領域R2にクロスハッチングを付すことにより、配線領域R2がマスクされていることを示している。
【0080】
複数の注目領域R1を示す複数の加工済み包含領域画像が取得されると、上記処理例と同様に、演算部82では、各加工済み包含領域画像における画素値分布が、偏微分可能なモデル関数にてモデル化される(ステップS12)。加工済み包含領域画像では、注目領域R1は略円形状であり、注目領域R1の断面プロファイルは中央部の画素値が外縁部の画素値よりも大きい上向きのトップハット形状である。したがって、上記処理例と同様に、数5の円形状のモデル関数が利用される。言い換えると、上記前処理により、数5のモデル関数を利用することが可能となる。
【0081】
図14は、モデル関数における係数b,eの変化による画像の変化を示す図である。ここでは、数5のモデル関数における係数aは正の値である。
図14では、9個の画像(画素値分布)が3行3列に並んでおり、最も左側の列から右側に向かうに従って係数eの値が増加し、最も下側の行から上側に向かうに従って係数bの値が増加している。
図14では、係数bの値が大きくなるに従って、白い領域が大きくなる。また、係数eの値が大きくなるに従って、白い領域のエッジが明瞭となり、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きが大きくなることが判る。
【0082】
演算部82の係数取得部822では、上記処理例と同様に、数5のモデル関数に含まれる複数の係数a〜fが、加工済み包含領域画像の画素値を用いて最適化法にて決定されて取得される(ステップS13)。
【0083】
このとき、係数eの初期値e0の算出では、まず、加工済み包含領域画像において暫定的な注目領域R1の中心を通るとともにx方向に平行な線(すなわち、y=d0を示す線)上における断面プロファイルが求められる。また、当該断面プロファイルにおいて、暫定的な注目領域R1における画素値の最大値m1、および、背景における画素値の最頻値m2が求められる。続いて、上記断面プロファイルの各画素値からm2を引き、さらに(m1−m2)にて割ることにより、振幅が1となる(正規化された)トップハット形状のプロファイルが得られる。当該プロファイルにおいて、x方向に並ぶ画素位置の間が線分にて接続され、(画素値を示す軸の)値が0.25となる2つの位置間のx方向の距離の半分がw
1として求められ、値が0.75となる2つの位置間のx方向の距離の半分がw
2として求められる。そして、既述の数8にw
1およびw
2の値を代入することにより、係数eの初期値e0が求められ、既述の数9に係数eの初期値e0およびw
1の値を代入することにより、係数bの初期値b0が求められる。他の係数a,c,d,fの初期値の算出手法は、上記処理例と同じである。
【0084】
ステップS13が終了すると、位置取得部83では、複数の係数が取得された各注目領域R1に対するモデル関数に基づいて、撮像画像における当該注目領域R1の位置が取得される(ステップS14)。データ補正部84では、複数の注目領域R1の位置に基づいて基板9の変形状態が取得され、設計データが、基板9の変形に合わせて補正される(ステップS15)。そして、補正された設計データ(補正済み設計データ)に基づいて、基板9上にパターンが描画される(ステップS16)。
【0085】
以上に説明したように、本処理例では、注目領域R1が撮像画像中のパターン領域R0の一部であり、注目領域R1がパターン領域R0の他の一部(ここでは、配線領域R2)と接続する場合に、演算部82の画像加工部821により、パターン領域R0の当該他の一部がマスクされる。そして、画像加工部821による加工済みの画像に基づいて、係数取得部822により、注目領域R1を表すモデル関数の複数の係数が取得される。これにより、注目領域R1がパターン領域R0の他の一部と接続する場合であっても、モデル関数の係数を適切に求めることができ、撮像画像中の注目領域R1の位置を高精度に測定することができる。また、背景の明るさを均一化することにより、モデル関数を適切に利用することが可能となる。
【0086】
次に、描画装置1におけるさらに他の処理例について説明する。本処理例では、基板9上の略正方形状のパッドが参照部位であり、演算部82の画像加工部821では、特定のパッドを示す各注目領域を包含する包含領域画像が撮像画像から切り出される(ステップS11)。
【0087】
図15は、包含領域画像を示す図である。基板9上の参照部位であるパッドには中央部に孔部(ビア)が形成されており、包含領域画像の注目領域R1内には、孔部を示す孔部領域R3が含まれる。また、注目領域R1は、注目領域R1の周囲の領域である背景、および、孔部領域R3よりも明るい。すなわち、注目領域R1の画素値は、背景および孔部領域R3の画素値よりも大きい。基板9上のパッドの直交する2つの辺は、包含領域画像においてx方向およびy方向におよそ平行である。
【0088】
画像加工部821では、包含領域画像を所定の閾値にて二値化することにより、暫定的な注目領域R1および孔部領域R3を示す二値画像が取得される。続いて、包含領域画像において暫定的な注目領域R1のうち孔部領域R3を除く領域における画素値の代表値が取得される。また、上記二値画像に対して孔部領域R3を膨張する膨張処理が施されることにより、膨張処理済みの孔部領域R3が取得される。そして、包含領域画像において膨張処理済みの孔部領域R3における画素値が、上記画素値の代表値に変換される。これにより、
図16に示すように、注目領域R1のおよそ全体が明るい加工済み包含領域画像が取得される(ステップS11a)。加工済み包含領域画像では、注目領域R1の断面プロファイルが、中央部の画素値が外縁部の画素値よりも大きい上向きのトップハット形状となる。
【0089】
複数の注目領域R1を示す複数の加工済み包含領域画像が取得されると、演算部82では、各加工済み包含領域画像における画素値分布が、偏微分可能なモデル関数にてモデル化される(ステップS12)。ここで、加工済み包含領域画像では、注目領域R1は略正方形状である。したがって、演算部82では、xy平面から当該xy平面に垂直な方向(画素値を示す軸の方向)に突出する略四角錐台形状を示すモデル関数が利用される。このようなモデル関数では、xy平面に平行な断面が略正方形状であるため、当該モデル関数を「略正方形状のモデル関数」とも呼ぶ。演算部82では、包含領域画像において座標(x,y)にて表される画素の画素値が、数19の略正方形状のモデル関数(ただし、nは2以上の自然数)にて表現される。本処理例では、nは2である。
【0091】
包含領域画像の画素値の分布を示す数19の略正方形状のモデル関数は、複数の係数a,b,c,d,e,fを含む。当該モデル関数は、未知数である係数a,b,c,d,e,fのそれぞれにより偏微分可能な関数である。複数の係数a,b,c,d,e,fのうち係数aは、ガウス関数における振幅に対応し、加工済み包含領域画像における注目領域R1の中央部における明るさ(盛り上がり)を示す。また、係数bは、注目領域R1に対応する画素の広がりの程度、すなわち、注目領域R1の大きさを示す。係数cおよび係数dはそれぞれ、注目領域R1の中心のx座標およびy座標、すなわち、当該中心のx方向およびy方向の位置を示す。係数eは、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きを示し、係数eが大きいほど外縁部の傾きが急峻となり、断面プロファイルが理想的なトップハット形状に近似する。係数fは、加工済み包含領域画像における注目領域R1の背景の明るさ(すなわち、背景のオフセット)を示す。
【0092】
注目領域R1のモデル化が終了すると、演算部82により、上記モデル関数に含まれる複数の係数(すなわち、数19中の係数a〜f)が、加工済み包含領域画像の画素値を用いて最適化法にて決定される(ステップS13)。ステップS13において係数a〜fの決定に利用される最適化法は、例えば、上述のガウス・ニュートン法またはレーベンバーグ・マルカート法である。ステップS13では、上記と同様に、各加工済み包含領域画像について、数19にてモデル化された画素値分布が、当該加工済み包含領域画像における実際の画素値分布に最も精度良くフィットする場合の係数a〜fが、反復計算により求められる。
【0093】
ガウス・ニュートン法によるモデル関数の係数決定、および、レーベンバーグ・マルカート法によるモデル関数の係数決定は、上述のステップS131〜S134(
図7参照)とおよそ同様である。ステップS131における複数の係数a〜fの初期値a0〜f0の決定では、上記と同様に、加工済み包含領域画像(
図16参照)において、暫定的な注目領域R1の中央部の画素値の代表値から背景の画素値の代表値を引いて得た値が係数aの初期値a0として求められる。係数c,dの初期値c0,d0は、暫定的な注目領域R1の中心、すなわち、(正確な)注目領域R1の略中心のx座標およびy座標である。係数fの初期値f0は背景の画素値の代表値である。
【0094】
係数eの初期値e0の算出では、加工済み包含領域画像において、x方向の各位置にてy方向に並ぶ複数の画素の画素値を積算することにより積算画素値プロファイルが求められる。積算画素値プロファイルにおいて、暫定的な注目領域R1に対応する位置の積算画素値の最大値m1、および、背景に対応する位置の積算画素値の最頻値m2が求められる。続いて、上記積算画素値プロファイルの各積算画素値からm2を引き、さらに(m1−m2)にて割ることにより、振幅が1となる(正規化された)トップハット形状のプロファイルが得られる。当該プロファイルにおいて、x方向に並ぶ画素位置の間が線分にて接続され、値が0.25となる2つの位置間のx方向の距離の半分がw
1として求められ、値が0.75となる2つの位置間のx方向の距離の半分がw
2として求められる。そして、数8にw
1およびw
2の値を代入することにより、係数eの初期値e0が求められ、数9に係数eの初期値e0およびw
1の値を代入することにより、係数bの初期値b0が求められる。なお、積算画素値プロファイルは、暫定的な注目領域R1の中心を通る線上の断面プロファイルとおよそ等価である。もちろん、当該断面プロファイルから、係数e,bの初期値e0,b0が求められてよい。
【0095】
ステップS132では、数19を係数a〜fによりそれぞれ偏微分した数20ないし数25(ただし、数20ないし数24におけるZは数26にて表される。)を使用して数17を解くことにより、上記反復計算における係数a〜fの1回目の変更の際の変更量である差分値Δa〜Δfが求められる(ステップS132)。
【0103】
1回目の差分値Δa〜Δfが求められると、係数a〜fの初期値a0〜f0から差分値Δa〜Δfが減算され、次の係数a〜fが求められた後(ステップS133,S134)、ステップS132に戻る。そして、ステップS134にて求められた係数a〜fを使用した数17を解くことにより、次の差分値Δa〜Δfが求められ、現在の係数a〜fから当該次の差分値Δa〜Δfが減算されて新たな係数a〜fが求められる(ステップS132〜S134)。係数取得部822では、所定の終了条件が満たされるまで、ステップS132〜S134が繰り返される。
【0104】
終了条件が満たされると、現在の係数a〜f(終了条件が満たされた際の係数a〜f)が数19に代入される。このようにして、数19に示すモデル関数(すなわち、略正方形状のモデル関数)の複数の係数a〜fが取得される。
図17は、複数の係数a〜fが取得されたモデル関数が示す包含領域の画素値分布を示す図である。
【0105】
ステップS13が終了すると、位置取得部83では、複数の係数が取得された各注目領域R1に対するモデル関数に基づいて、撮像画像における当該注目領域R1の位置が取得される(ステップS14)。データ補正部84では、複数の注目領域R1の位置、すなわち、複数のパッドの位置に基づいて基板9の変形状態が取得され、設計データが、基板9の変形に合わせて補正される(ステップS15)。そして、補正された設計データ(補正済み設計データ)に基づいて、基板9上にパターンが描画される(ステップS16)。
【0106】
以上に説明したように、本処理例では、注目領域R1が撮像画像中のパターン領域R0の一部であり、注目領域R1に対応する基板9上の領域が孔部を含む場合に、画像加工部821により、当該孔部を示す孔部領域R3の画素値が注目領域R1の他の領域の画素値に置き換えられる。そして、画像加工部821による加工済みの画像に基づいて、係数取得部822により、注目領域R1を表すモデル関数の複数の係数が取得される。これにより、注目領域R1が孔部領域R3を含む場合であっても、モデル関数の係数を適切に求めることができ、撮像画像中の注目領域R1の位置を高精度に測定することができる。
【0107】
また、演算部82では、係数fの初期値f0が、撮像画像における注目領域R1の背景の明るさに基づいて決定され、係数eの初期値e0が、注目領域R1の断面プロファイルにおける外縁部での傾きに基づいて決定される。また、係数aの初期値a0が、注目領域R1の明るさと背景の明るさとの差に基づいて決定され、係数bの初期値b0が、係数eの初期値e0、および、注目領域R1のおよその大きさに基づいて決定される。さらに、係数c,dの初期値c0,d0が、それぞれ注目領域R1の略中心のx座標およびy座標に基づいて決定される。これにより、係数a〜fの初期値a0〜f0を、容易かつ適切に決定することができる。その結果、係数a〜fを高精度に決定することができ、注目領域R1を示す関数を高精度に求めることができる。
【0108】
上記描画装置1およびデータ補正装置8では、様々な変更が可能である。
【0109】
略正方形状のモデル関数を表す数19は、n乗される値が正の値であるならば、偏微分可能であり、この場合、nが1よりも大きい実数であればよい。すなわち、略正方形状のモデル関数を表す数19は、nを1よりも大きい実数として、数27のように変形することが可能である。
【0111】
上述の数5、数19および数27に示すモデル関数に含まれる複数の係数a〜fは、ガウス・ニュートン法およびレーベンバーグ・マルカート法以外の様々な最適化法により求められてもよい。この場合であっても、上記と同様に、注目領域R1を示す関数を高精度に求めることができる。
【0112】
円形状のモデル関数として数5以外の偏微分可能な関数が利用されてよく、略正方形状のモデル関数として数19および数27以外の偏微分可能な関数が利用されてよい。また、注目領域R1の形状は、円形状および略正方形状以外に、楕円形状や、およそ直交する2つの辺の長さが異なる略長方形状であってもよい。楕円形状のモデル関数や略長方形状のモデル関数は、円形状のモデル関数や略正方形状のモデル関数を適宜修正することにより準備される。以上のように、データ補正装置8では、略矩形状、円形状または楕円形状の注目領域R1を含む撮像画像において、当該注目領域R1の画素値分布を偏微分可能なモデル関数にてモデル化することにより、撮像画像における略矩形状、円形状または楕円形状の注目領域R1の位置を高精度に測定することが可能である。
【0113】
演算部82では、例えば、
図5の画像の全体が包含領域画像として扱われてもよい。この場合、画像加工部821では、所定の閾値にて
図5の画像を二値化することにより、暫定的なパッド領域、当該パッド領域内の暫定的な孔部領域(注目領域R1)、および、当該パッド領域の周囲のパッド周囲領域が取得される。そして、パッド周囲領域の画素の画素値が、当該パッド領域において当該孔部領域を除く領域の画素値の代表値に置き換えられる。これにより、包含領域画像において、注目領域R1を除く領域の全体を背景として扱うことが可能となり、包含領域画像の全体における画素値分布を示すモデル関数の複数の係数を適切に取得することが可能となる。
【0114】
注目領域R1は、パッドや孔部(ビアまたはスルーホール)以外の基板9上の部位を示すものであってもよい。また、基板9上に描画されるパターンの設計データの補正は、異なる種類の参照部位をそれぞれ示す複数の注目領域R1の位置に基づいて行われてもよい。
【0115】
描画装置1では、液晶表示装置等のフラットパネル表示装置用のガラス基板、フォトマスク用のガラス基板、あるいは、半導体基板等の他の種類の基板にパターンが描画されてもよい。描画装置1におけるデータ補正装置8は、様々な種類の基板上に描画されるパターンの設計データの補正に利用可能である。
【0116】
データ補正装置8における位置測定部80は、位置測定装置として単独で使用されてもよく、位置測定装置では、基板以外の様々な対象物を撮像した画像に含まれる注目領域の位置が測定されてよい。例えば、位置測定装置では、血液や培養液等の所定の液中の細胞を撮像した細胞画像において、細胞を示す注目領域の位置が測定されてもよい。
【0117】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。