(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355592
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】樹脂モールドコイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20180702BHJP
H02K 3/44 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
H02K15/12 E
H02K3/44 B
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-102806(P2015-102806)
(22)【出願日】2015年5月20日
(65)【公開番号】特開2016-220393(P2016-220393A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】500421820
【氏名又は名称】三映電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100141450
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 剛
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 孝行
(72)【発明者】
【氏名】池田 修一
(72)【発明者】
【氏名】大工原 英次
(72)【発明者】
【氏名】土田 孝範
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
特表平02−503262(JP,A)
【文献】
特開平11−251164(JP,A)
【文献】
特開2002−170729(JP,A)
【文献】
特開平08−064432(JP,A)
【文献】
特開2009−131052(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/131319(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/140243(WO,A1)
【文献】
特開2014−079119(JP,A)
【文献】
特開2011−139556(JP,A)
【文献】
特開2011−148476(JP,A)
【文献】
特開2012−125080(JP,A)
【文献】
特開2015−167464(JP,A)
【文献】
米国特許第06894418(US,B2)
【文献】
米国特許第04816710(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長形断面の銅線を被覆する絶縁層の周面が接着層で覆われた平角線をα巻きして、隣接する長辺側面を互いに密着する前記平角線が、その短辺側面を接触するように上下方向に二列に積層されている平板状の長形空芯コイルを、その短辺側が湾曲状となるよう曲折した湾曲空芯コイルと、
前記湾曲空芯コイルの同一短辺側から突出する二本の前記平角線の端子の各々に、一端部が接合されている丸断面のピンと、
前記湾曲空芯コイル及び前記ピンとの接合部が挿入されたとき、前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面の全面が密着する湾曲面に、前記湾曲空芯コイルの空芯部に対応する開口部が開口された樹脂製のインサートとから構成され、
前記インサートの前記開口部に前記空芯部が一致するように挿入されて位置決めされた前記湾曲空芯コイルが、溶融成形により前記インサートを形成する樹脂と同一樹脂のモールド樹脂でモールドされており、前記湾曲空芯コイルのうち、前記インサートの前記湾曲面との密着面を除く全面が前記モールド樹脂で被覆され、且つ前記平角線の端子と前記ピンとの接合部が前記モールド樹脂で封止されていることを特徴とする樹脂モールドコイル。
【請求項2】
前記モールド樹脂で被覆された前記湾曲空芯コイルの被膜厚さが0.15〜0.25mmであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂モールドコイル。
【請求項3】
前記インサートが、前記湾曲面を長形状の底面とする箱状体であって、前記箱状体の長辺側の各々が前記底面の長辺よりも外側方向に傾斜する傾斜側面に形成され、前記箱状体の一方の短辺側に前記ピンが挿入される溝部が形成されており、
且つ前記湾曲面の前記開口部に、中空面積が前記開口部の開口面積と同一面積の筒状体が立設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂モールドコイル。
【請求項4】
前記インサートの前記湾曲面と前記湾曲空芯コイルの前記内側湾曲面又は前記外側湾曲面とが接着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂モールドコイル。
【請求項5】
前記インサートの前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面が密着する湾曲面部分の厚さが0.15〜0.25mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂モールドコイル。
【請求項6】
前記樹脂モールドコイルが、モータのステーターに用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂モールドコイル。
【請求項7】
長形断面の銅線を被覆する絶縁層の周面が接着層で覆われた平角線をα巻きして、隣接する長辺側面が互いに密着する前記平角線を、その短辺側面が接触するように上下方向に二列に積層した平板状の長形空芯コイルを、その短辺側が湾曲状となるように曲折して湾曲空芯コイルを形成し、
前記湾曲空芯コイルの同一短辺側から突出する二本の前記平角線の端子の各々に丸断面のピンの一端を接合した後、
前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面に倣って形成された湾曲面に、前記湾曲空芯コイルの空芯部に対応する開口部が開口された樹脂製のインサート内に、前記空芯部と前記開口部とが一致するように、前記ピンとの接合部を含む前記湾曲空芯コイルを挿入し、
次いで、前記インサートの前記湾曲面に前記内側湾曲面又は外側湾曲面の全面を密着した前記湾曲空芯コイルを金型のキャビティ内に挿入し、前記キャビティ内に前記インサートを形成する樹脂と同一樹脂からなるモールド樹脂を注入して、前記湾曲空芯コイルのうち、前記インサートの前記湾曲面との密着面を除く全面を前記モールド樹脂で被覆し、且つ前記平角線の端子と丸断面のピンとの接合部を前記モールド樹脂で封止することを特徴とする樹脂モールドコイルの製造方法。
【請求項8】
前記モールド樹脂で被覆した前記湾曲空芯コイルの被膜厚さを0.15〜0.25mmとすることを特徴とする請求項7に記載の樹脂モールコイルの製造方法。
【請求項9】
前記インサートとして、前記湾曲面を長形状の底面とする箱状体であって、前記箱状体の長辺側の各々を前記底面の長辺よりも外側方向に傾斜する傾斜側面に形成し、前記箱状体の一方の短辺側に前記ピンを挿入する溝部を形成し、
且つ前記湾曲面の前記開口部に、中空面積が前記開口部の開口面積と同一の筒状部が立設されているものを用いることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の樹脂モールドコイルの製造方法。
【請求項10】
前記インサートの前記湾曲面と前記湾曲空芯コイルの前記内側湾曲面又は前記外側湾曲面とを接着していることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の樹脂モールドコイルの製造方法。
【請求項11】
前記インサートの前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面が密着する湾曲面部分の厚さを0.15〜0.25mmとすることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の樹脂モールドコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長形状の銅線を被覆する絶縁層の周面が接着層で覆われた平角線をα巻で巻いて形成した薄状コイルを樹脂で被覆した樹脂モールドコイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータでは、回転可能に設けられた回転子の外側に、複数個のステーターが配設されている。ステーターは、樹脂モールドされた空芯コイルの空芯部に固定鉄心が挿入されて構成されている。このような樹脂モールドされた空芯コイル(以下、樹脂モールドコイルと称する)は、例えば下記特許文献1に、丸断面のエナメル線を巻回し、上面側よりも底面側が狭い逆台形状の空芯コイルを形成し、この空芯コイルの空芯部に、樹脂製の鍔付の筒状スペーサの筒状部を空芯コイルの底面側から挿入し、空芯部の内壁面の一部を筒状スペーサの筒状部で覆った状態で、筒状部内にモールド金型の下型の凸部に挿入して空芯コイルの位置決めした後、空芯コイル及び筒状スペーサをモールド金型の上型で覆って、空芯コイル及び筒状スペーサを挿入したモールド金型のキャビティ内に、筒状スペーサを形成する樹脂と同一樹脂からなる溶融状態のモールド樹脂を導入することにより、逆台形状の樹脂モールドコイルを得ることができる旨記載されている。得られた逆台形の樹脂モールドコイルは、その狭い底面側が回転子側となるようにモータに装着されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−131052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1の樹脂モールドコイルは、空芯コイル及び筒状スペーサがモールド樹脂で一体化されており、空芯コイルの筒状スペーサからの露出面はモールド樹脂で覆われている。このような樹脂モールドコイルは、空芯コイルの空芯部の内壁面が、筒状スペーサの筒状部及びモールド樹脂で覆われており、樹脂モールドコイルの空芯部に固定鉄心を挿入しても、空芯コイルの空芯部の内壁面を損傷させることなく挿入できる。
【0005】
ところで、近年、モータの小型化が進展し、ステーターの小型化も要請されていることから、樹脂モールドコイルを薄肉化し、回転子の回転空間に沿って湾曲状に曲折することが要請されている。しかし、逆台形状の空芯コイルを、丸断面のエナメル線を所定のターン数を確保しつつ、湾曲状に曲折可能に薄肉化することは困難である。また、例え逆台形状の空芯コイルを薄肉化して湾曲状に曲折しても、鍔付の筒状スペーサの筒状部を空芯コイルの空芯部に挿入すると、筒状スペーサの鍔と空芯コイルの湾曲面との間に隙間が形成された状態となる。このような状態で樹脂モールドすると、空芯コイルの周面に形成されるモールド樹脂被膜に厚さ斑が発生し易くなるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、所定数のターン数を確保しつつ薄肉化して湾曲状に曲折した空芯コイルを、薄膜状のモールド樹脂被膜で確実に被覆できる樹脂モールドコイル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る樹脂モールドコイルは、長形断面の銅線を被覆する絶縁層の周面が接着層で覆われた平角線をα巻きして形成され、隣接する長辺側面が互いに密着する前記平角線が、その短辺側面を接触するように上下方向に二列に積層された長形状空芯コイルが、その短辺側が湾曲状に曲折されている湾曲空芯コイルと、前記湾曲空芯コイルの同一短辺側から突出する二本の前記平角線の端子の各々に、一端部が接合されている丸断面のピンと、前記湾曲空芯コイル及び前記ピンとの接合部が挿入されたとき、前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面の全面が密着する湾曲面に、前記湾曲空芯コイルの空芯部に対応する開口部が開口された樹脂製のインサートとから構成され、前記インサートの前記開口部に前記空芯部が一致するように挿入されて位置決めされた前記湾曲空芯コイルが、溶融成形により前記インサートを形成する樹脂と同一樹脂のモールド樹脂でモールドされており、前記湾曲空芯コイルのうち、前記インサートの前記湾曲面との密着面を除く全面が前記モールド樹脂で被覆され、且つ前記平角線の端子と前記ピンとの接合部が前記モールド樹脂で封止されていることを特徴とするものである。
【0008】
前記モールド樹脂で被覆された前記湾曲空芯コイルの被膜厚さが0.15〜0.25mmであることが好ましい。
【0009】
前記インサートが、前記湾曲面を長形状の底面とする箱状体であって、前記箱状体の長辺側の各々が前記底面の長辺よりも外側方向に傾斜する傾斜側面に形成され、前記箱状体の一方の短辺側に前記ピンが挿入される溝部が形成されており、且つ前記湾曲面の前記開口部に、前記開口部の開口面積と同一面積の筒状体が立設されていることが、湾曲空芯コイルの表面の広い面積がインサートで覆われており好ましい。
【0010】
前記インサートの前記湾曲面と前記湾曲空芯コイルの前記内側湾曲面又は前記外側湾曲面とが接着されていることが、インサートの湾曲面で湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲が確実に覆われており好ましい。
【0011】
前記インサートの前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面が密着する湾曲部の厚さが0.15〜0.25mmであることが、湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面が厚さ0.15〜0.25mmのインサートの樹脂製の湾曲面部分で確実に被覆でき好ましい。
【0012】
前記樹脂モールドコイルが、モータのステーターに好適に用いることができる。
【0013】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る樹脂モールドコイルの製造方法は、長形断面の銅線を被覆する絶縁層の周面が接着層で覆われた平角線をα巻きして、隣接する長辺側面が互いに密着する前記平角線を、その短辺側面が接触するように上下方向に二列に積層した平板状の長形空芯コイルを、その短辺側が湾曲状となるように曲折して湾曲空芯コイルを形成し、前記湾曲空芯コイルの同一短辺側から突出する二本の前記平角線の端子の各々に丸断面のピンの一端を接合した後、前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面に倣って形成された湾曲面に、前記湾曲空芯コイルの空芯部に対応する開口部が開口された樹脂製のインサート内に、前記空芯部と前記開口部とが一致するように、前記ピンとの接合部を含む前記湾曲空芯コイルを挿入し、次いで、前記インサートの前記湾曲面に前記内側湾曲面又は外側湾曲面の全面を密着した前記湾曲空芯コイルを金型のキャビティ内に挿入し、前記キャビティ内に前記インサートを形成する樹脂と同一樹脂からなるモールド樹脂を注入して、前記湾曲空芯コイルのうち、前記インサートの前記湾曲面との密着面を除く全面を前記モールド樹脂で被覆し、且つ前記平角線の端子と丸断面のピンとの接合部を前記モールド樹脂で封止することを特徴とするものである。
【0014】
前記モールド樹脂で被覆した前記湾曲空芯コイルの被膜厚さを0.15〜0.25mmとすることにより、湾曲空芯コイルをモールド樹脂で確実に被覆でき好ましい。
【0015】
前記インサートとして、前記湾曲面を長形状の底面とする箱状体であって、前記箱状体の長辺側の各々を前記底面の長辺よりも外側方向に傾斜する傾斜側面に形成し、前記箱状体の一方の短辺側に前記ピンを挿入する溝部を形成し、且つ前記湾曲面の前記開口部に、前記開口部の開口面積と同一面積の筒状体が立設されているものを用いることにより、挿入した湾曲空芯コイルの内側湾曲面及び空芯部の内壁面がインサートで覆われ、湾曲空芯コイルのピンもインサートの所定位置に位置決めでき、且つ湾曲空芯コイルをインサート内の所定位置に確実に位置決めでき好ましい。
【0016】
前記インサートの前記湾曲面と前記湾曲空芯コイルの前記内側湾曲面又は前記外側湾曲面とを接着していることにより、インサートの湾曲面で湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲を確実に覆うことができ好ましい。
【0017】
前記インサートの前記湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面が密着する湾曲部の厚さを0.15〜0.25mmとすることにより、湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面を厚さ0.15〜0.25mmの樹脂層で確実に被覆でき好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る樹脂モールドコイルによれば、長形断面の銅線を被覆する絶縁層の周面が接着層で覆われた平角線をα巻きした長形状空芯コイルを用いており、巻線の所定数のターン数を確保しつつ、長形状空芯コイルを曲折可能に薄肉化できる。また、湾曲空芯コイルの内側湾曲面又は外側湾曲面の全面を、インサートの湾曲面に密着している状態で樹脂モールドしているから、湾曲空芯コイルの全周をインサート及びモールド樹脂被膜で均一に覆うことができる。更に、湾曲空芯コイルの同一短辺側から突出する二本の平角線の端子の各々に丸断面のピンの一端部が接合されており、他の部品との接合を簡単にでき、且つ平角線の端子と丸断面のピンとの接合部はモールド樹脂で封止されていることから信頼性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用する樹脂モールドコイルを用いたモータを説明する概略図である。
【
図2】本発明を適用する樹脂モールドコイルの斜視図及び横断面図である。
【
図3】本発明を適用する樹脂モールドコイルを構成する湾曲空芯コイルの正面図及び横断面図である。
【
図4】本発明を適用する樹脂モールドコイルを構成するインサートの斜視図である。
【
図5】本発明を適用する樹脂モールドコイルの製造方法で用いる長形空芯コイルの正面図及び横断面図である。
【
図6】本発明を適用する樹脂モールドコイルの製造方法で用いる長形空芯コイルの巻工程を説明する工程図である。
【
図7】本発明を適用する樹脂モールドコイルの製造方法において、湾曲空芯コイルをインサート内に挿入した状態を示す正面図及び横断面図である。
【
図8】本発明を適用する樹脂モールドコイルの製造方法において、インサート内に挿入した湾曲空芯コイルをモールド金型のキャビティ内に挿入した状態を示す横断面図である。
【
図9】本発明を適用する他の樹脂モールドコイルの製造方法において、湾曲空芯コイルを他のインサート内に挿入した状態を示す横断面図、及び他のインサートに挿入した湾曲空芯コイルをモールド金型のキャビティ内に挿入した状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0021】
図1は本発明を適用する樹脂モールドコイルを用いたモータの概略図である。モータ10は、回転子14を取り囲むように筒状のステーター12が設けられている。ステーター12は、三個の弧状の樹脂モールドコイル16に分割されている。この樹脂モールドコイル16の弧の中心角θは120°である。
【0022】
図1に示す樹脂モールドコイル16を
図2に示す。
図2(a)は樹脂モールドコイル16の斜視図であり、
図2(b)は
図2(a)のX−X面での横断面図である。
図2に示す樹脂モールドコイル16は、湾曲空芯コイル18が、その内側湾曲面を樹脂製のインサート20の底部20aの湾曲底面に密着して接着剤で接着されつつ、モールド樹脂22でモールドされている。モールド樹脂22は、インサート20を形成する樹脂と同一樹脂である。この湾曲空芯コイル18の巻線の端子に一端が接続された丸断面のピン24,24がモールド樹脂22から突出している。このピン24,24と巻線の端子との接続部はモールド樹脂22で封止されている。また、樹脂モールドコイル16の中央部に形成された貫通部26は、湾曲空芯コイル18の空芯部18aにインサート20の筒状部20bが挿入されて形成され、筒状部20bと湾曲空芯コイル18との間に、モールド樹脂22が充填されている。インサート20には、その底部20aの両側端の各々に外側方向に傾斜する傾斜部20c,20cに形成されており、傾斜部20c,20cの傾斜面と湾曲空芯コイル18との間にも、モールド樹脂22が充填されている。このようなインサート20から露出している湾曲空芯コイル18の露出面は、モールド樹脂被膜22aで被覆されている。このモールド樹脂被膜22aの厚さは0.15〜0.25mmとすることが好ましい。モールド樹脂22としては、熱溶融性で且つ熱溶融時に良好な流動性を呈する熱伝導性樹脂であって、モータに適用できる難燃性を併有するものが好ましい。このような熱伝導性樹脂は、エンジニアリングプラスチックに属するポリフェニリンサルファイド(PPS)や液晶ポリマー(LCP)を挙げることができる。特にポリフェニリンサルファイド(PPS)として、ポリプラスチック株式会社製の商品名DRAFIDE(G40%)(熱伝導率4〜5W/mK)、住友ベークライト株式会社製の商品名スミコンFM(熱伝導率1〜10W/mK)、東ソー株式会社製の商品名サスティール(熱伝導率0.2〜0.4W/mK)、東レ株式会社製の商品名トレリナ(熱伝導率0.2〜0.5W/mK)、DIC株式会社製の商品名DIC.PPS(熱伝導率0.2〜0.6W/mK)を好適に用いることができる。尚、これらのポリフェニリンサルファイド(PPS)の難燃性は、いずれもUL規格でV−0に相当する。
【0023】
湾曲空芯コイル18は、
図3(a)に示すように平角線17を巻いて形成した長形状の空芯コイルであり、中央部に空芯部18aが形成されている。平角線17は、
図3(a)の拡大横断面図に示すように、長形断面の銅線17aを被覆する絶縁層17bの周面が接着層17cで覆われているものである。湾曲空芯コイル18は、
図3(a)のY−Y面での横断面図である
図3(b)に示すように、接着層17cで隣接する平角線17の長辺側面が互いに接合されつつ、平角線17の短辺側面が接合されて上下方向に二列に積層されている。このように平角線17が二列に積層された長形状のコイルは、薄肉化されており、
図3(b)に示すように、その短辺側が湾曲状に曲折されている。更に、湾曲空芯コイル18の同一短辺側から突出する二本の平角線17の端子の各々に、丸断面のピン24の一端が半田等の低融点金属で溶着されている。
【0024】
湾曲空芯コイル18が挿入される樹脂製のインサート20の斜視図を
図4に示す。
図4に示すインサート20は、湾曲空芯コイル18の内側湾曲面に倣った湾曲面を長形状の底部20aの底面とする箱状体である。この箱状体の長辺側の各々に、底部20aの長辺よりも外側方向に傾斜する傾斜部20c、20cが形成されている。更に、箱状体の両短辺側の各々に、底部20aに短辺部20d
1、20d
2が立設されており、幅広の短辺部20d
1に、ピン24,24が挿入される溝部20e,20eが形成されている。また、インサート20の底部20aには、湾曲空芯コイル18の空芯部18aに対応して開口された開口部に、筒状部20bが立設されている。筒状部20bの中空面積は、インサート20の底部20aの開口部の開口面積と同一面積である。また、底部20aの厚さを0.15〜0.25mmとすることが好ましい。このようなインサート20は、モールド樹脂と同一樹脂で形成することが好ましく、溶融成形、特に射出成形で形成することが好ましい。
【0025】
図2に示す樹脂モールドコイル16を製造する際には、先ず、
図3に示す平角線17をα巻きし、
図5に示す平板状の長形空芯コイル19を形成する。長形空芯コイル19は、
図5(a)の正面図に示すように、中央部に空芯19aが形成された長形状であって、隣接する長辺側面を互いに接合する平角線17が、
図5(a)のZ−Z面での横断面図である
図5(b)に示すように、その短辺側面を接合して上下方向に二列に積層されているものである。このような長形空芯コイル19を形成する際には、
図6(a)に示すように、横断面形状が長方形の巻軸30に、中途を斜交に当てた長尺の平角線17の両端部を、巻軸30に対して直角で且つ互いに反対方向に巻いて、いわゆるα形状となるように巻回する。引き続き、平角線17の両端部を巻軸30に対して直角で且つ互いに反対方向に巻回して、
図6(b)に示すように、平角線17が二列となるように巻回する。このように平角線17を巻軸30に巻回をしつつ、加熱処理することにより、隣接する平角線17の長辺側面を互いに接合しつつ、上下方向に積層された平角線17の短辺側面も互いに接合できる。次いで、平角線17を所定ターン数となるように巻いた後、巻軸30を抜き出すことにより、
図5に示す長形空芯コイル19を得ることができる。長形空芯コイル19は、隣接する平角線17の長辺側面が互いに接合されつつ、平角線17の短辺側面が接合されて上下方向に二列に積層されていることから、平角線17の所定数のターン数を確保しつつ、コイルを薄肉化できる。
【0026】
得られた長形空芯コイル19は、
図5(a)に示すように、同一短辺側から二本の平角線17の端子17d,17dが突出し、
図5(a)のZ−Z面の横断面図である
図5(b)に示すように上層部が下層部よりも幅広に形成されている。この長形空芯コイル19は、その厚さが薄肉化されていることから、その短辺側を湾曲状となるように簡単に曲折できる。この曲折の際に、上層部よりも幅狭の下層部側が湾曲の内側となるように曲折することが好ましい。曲折の際に、上層部側に引張力が作用するが、予め上層部を下層部よりも幅広に形成しておくことにより、上層部側に作用する引張力の軽減を図ることができ、且つ曲折後に無駄な空間が形成され難いことから、巻線スペースを有効利用して十分なターン数を確保できるからである。次いで、平角線17の端子17d,17dの各々に丸断面のピン24の一端を半田等の低融点金属で溶着することにより、
図3に示す湾曲空芯コイル18を得ることができる。
【0027】
このようにして得られた
図3に示す湾曲空芯コイル18を、
図4に示すインサート20内に挿入する。インサート20内に湾曲空芯コイル18を挿入した状態を
図7に示す。
図7(a)は、インサート20内に湾曲空芯コイル18を挿入した状態を示す正面図であり、
図7(b)は
図7(a)のW−W面での横断面図である。湾曲空芯コイル18は、その空芯部18a内にインサート20の筒状部20bが挿入され、湾曲空芯コイル18をインサート20内の所定位置に位置決めしつつ、空芯部18aの内壁面を筒状部20bで覆うことができる。また、湾曲空芯コイル18の内側湾曲面はインサート20の底部20aの湾曲底面に密着して接着剤で接着され、湾曲空芯コイル18の内側湾曲面を確実に樹脂層で覆うことができる。この接着剤としては、エポキシ系接着剤を好適に用いることができる。更に、湾曲空芯コイル18の長辺側面は、インサート20の傾斜部20cで覆われている。湾曲空芯コイル18の平角線17の端子の各々に溶着された丸断面のピン24は、底部20aに幅広の短辺部20d
1に形成された溝部20eに挿入され、平角線17の端子と丸断面のピン24との溶着部は、インサート20内の空間内に挿入されている。
【0028】
このように湾曲空芯コイル18は、インサート20内に挿入された状態で、モールド金型40の下型42の凹部の底面から突出する凸部42aに筒状部20bを挿入しつつ、下型42の凹部の底面に底部20aの外側面を密着させた後、上型44を降下して型閉じする。次いで、湾曲空芯コイル18とインサート20とが挿入されたモールド金型40のキャビティ46内に、上型44と下型42とのパーティング面に形成されたゲート48から、溶融状態のモールド樹脂を注入し、湾曲空芯コイル18とインサート20とをモールドする。このモールド樹脂は、インサート20を形成する樹脂と同一樹脂であるから、インサート20とモールド樹脂とは剥離することなく一体化できる。その後、モールド金型40を冷却してから上型44を上昇して型開きし、
図2に示す樹脂モールドコイル16を取り出すことができる。得られた樹脂モールドコイル16は、
図1に示すようにステーター12に用いることができる。
【0029】
図2〜
図8に示すインサート20の底部20aには、湾曲空芯コイル18の空芯部18aに対応して開口された開口部に、筒状部20bが立設されているが、湾曲空芯コイル18の空芯部18aに対応する開口部が底部20aに開口されていれば、筒状部20bが立設されていなくてもよい。また、
図9(a)に示すインサート50であってもよい。インサート50は、湾曲空芯コイル18の外側曲面に倣った内側面形状に形成された長形状の底部50aの両短辺側の各々に、底部50aに幅の異なる短辺部が立設されており、幅広の短辺部に、ピン24,24が挿入される溝部が形成されている。更に、底部50aの湾曲空芯コイル18の空芯部18aに対応する箇所に開口された開口部に筒状部50bが内側面内方に立設されている。但し、
底部50aの長辺側の各々に、湾曲空芯コイル18の長辺側を覆う傾斜部を形成していない。傾斜部を底部50aに設けたインサート50内に湾曲空芯コイル18に挿入する際に、傾斜部が邪魔になるからである。
【0030】
図9(a)に示すインサート50に湾曲空芯コイル18を挿入する際には、湾曲空芯コイル18を、その空芯部18aにインサート50の
底部50aに立設された
筒状部50bを挿入しつつ、インサート20内の所定位置に位置決めし、湾曲空芯コイル18の外側湾曲面をインサート50の底部50aの湾曲底面に密着して接着剤で接着する。更に、湾曲空芯コイル18の平角線17の端子の各々に溶着された丸断面のピン24を、幅広の短辺部に形成された溝部に挿入し、平角線17の端子と丸断面のピン24との溶着部を、インサート20内の空間内に挿入する。
【0031】
図9(a)に示す湾曲空芯コイル18は、インサート50内に挿入された状態で、
図9(b)に示すようにモールド金型60の下型62の凹部の底面から突出する凸部62aを筒状部50b内に挿入しつつ、下型62の凹部の底面に底部
50aの外側面を密着させた後、上型64を降下して型閉じする。次いで、湾曲空芯コイル18とインサート50とが挿入されたモールド金型60のキャビティ66内に、上型64と下型62とのパーティング面に形成されたゲート68から、溶融状態のモールド樹脂を注入し、湾曲空芯コイル18とインサート50とをモールドする。その後、モールド金型60を冷却してから上型64を上昇して型開きし、樹脂モールドコイルを取り出すことができる。得られた樹脂モールドコイルは、ステーターに用いることができる。
【0032】
以上の説明では、湾曲空芯コイル18は、インサート20(50)に挿入した際に、インサート20(50)の湾曲面に湾曲空芯コイル18の内側湾曲面又は外側湾曲面を接着して、湾曲空芯コイル18とインサート20(50)とを接着剤で接着していたが、第1段の樹脂モールドで両湾曲面が密着した湾曲空芯コイル18とインサート20(50)とを固着した後、第2段の樹脂モールドで湾曲空芯コイル18の露出面をモールド樹脂被膜で被覆してもよい。また、得られた樹脂モールドコイルは、発電機のステーターとして用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の樹脂モールドコイルは、モータや発電機のステーターとして好適に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
10:モータ、12:ステーター、14:回転子、16:樹脂モールドコイル、17:平角線、17a:銅線、17b:絶縁層、17c:接着層、17d:端子、18:湾曲空芯コイル、18a:空芯部、19:長形空芯コイル、19a:空芯、20,50:インサート、20a,50a:底部、20b,50b:筒状部、20c:傾斜部、20d
1,20d
2:短辺部、20e:溝部、22:モールド樹脂、22a:モールド樹脂被膜、24:ピン、26:貫通部、30:巻軸、40,60:モールド金型、42,62:下型、42a,62a:凸部、44,64:上型、46,66:キャビティ、48,68:ゲート、θ:弧の中心角