特許第6355596号(P6355596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355596
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20180702BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20180702BHJP
   F16D 13/08 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   F16D7/02 F
   F16D43/21
   F16D13/08 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-115443(P2015-115443)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-2951(P2017-2951A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】井内 晴日
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04869357(US,A)
【文献】 特開2014−185677(JP,A)
【文献】 特開平09−112568(JP,A)
【文献】 特開平08−338441(JP,A)
【文献】 特開平07−293577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00− 9/10
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の内輪と、前記内輪の外周面に接触して装着され、線材を巻回して形成されるコイルばねと、前記コイルばねの装着された前記内輪が挿入される筒状の外輪とを備え、
前記内輪と前記外輪とは共通の中心軸を有し、前記コイルばねは、滑剤が塗布されて前記外輪に相対回転不能に係合されており、
前記内輪と前記外輪とを相対的に回転させる前記中心軸周りの回転トルクが付加されたときは、前記回転トルクが所定値より大きい場合に、前記コイルばねと前記内輪との間の摩擦力に打ち勝って前記外輪と前記内輪とが相対的に回転するトルクリミッタであって、
前記内輪は、前記コイルばねが装着される大径部と、前記大径部の先端側に形成された小径部と、前記大径部及び前記小径部の中間に形成されたテーパー部とを有しており、
前記大径部の径は、自由状態の前記コイルばねの内径よりも大きいと共に、前記小径部の径は、自由状態の前記コイルばねの内径よりも小さく、且つ、前記テーパー部は、その径が前記大径部の径から前記小径部の径まで徐々に減少するよう設定され、さらに、
前記コイルばねは、巻回された線材の接線方向に延びて前記外輪と係合する係合部を備え、前記係合部が線材をコの字形状に屈曲して形成されると共に、前記係合部の軸方向の両側に線材が巻回されており、前記両側の線材は、軸方向の一方から見て反対方向に巻回されている、ことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記コイルばねは、前記係合部の両側で同一数巻回されている、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に回転可能な内輪及び外輪と、両者の間に装着されるコイルばねとを備え、内輪と外輪とを相対的に回転させる回転トルクが所定値より大きいと、コイルばねによる摩擦力に打ち勝って外輪と内輪とが相対的に回転するトルクリミッタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタや複写機においては、上下方向に積層された用紙群から用紙を一枚ずつ給紙するための給紙装置が使用される。このような給紙装置にあっては、静電気のような微小相互吸着力によって複数の用紙が上下に吸着した重層状態で用紙群から用紙が取り出され、重層状態のまま用紙がプリンタや複写機の本体部に給紙されてしまうことがあり、これを回避するため、給紙装置には通常トルクリミッタが装着されている。
【0003】
トルクリミッタを用いる給紙装置の一例として、特許文献1に開示されたものを図5に示す。給紙装置Sは、モーターのような適宜の駆動源に接続されて回転する駆動ローラーKRと、この駆動ローラーKRの回転軸と平行であって且つこの駆動ローラーKRの回転に従動して回転する従動ローラーJRと、用紙群を支持する用紙トレーPTとを有する。駆動ローラーKRと従動ローラーJRの表面は共に比較的摩擦係数が高く弾力性のある樹脂製素材で覆われており、駆動ローラーKRと従動ローラーJRとは、ばねのような適宜の付勢手段によって密着されている。そして、従動ローラーJRにはトルクリミッタTLが組み込まれている。
【0004】
積層された用紙群から給紙装置に用紙が一枚のみ給紙される場合においては、図5(a)に示すとおり、積層された用紙群の上面に位置する用紙と駆動ローラーKRとの表面摩擦力によって送り出された一枚の用紙Pが給紙装置Sに給紙され、駆動ローラーKRと従動ローラーJRに密接される。そして、反時計方向に回転する駆動ローラーKRと用紙Pの上面との摩擦力によって、用紙Pは駆動ローラーKRの回転方向に送り出され、従動ローラーJRは用紙Pを介して伝達される上記摩擦力によって時計方向に所定値より大きい回転トルクが付加されて従動回転する。
一方、用紙群から給紙装置に用紙が上下に重層された状態で給紙される場合においては、図5(b)に示すとおり、重層された用紙P1及びP2は重層状態のまま駆動ローラーKRの摩擦力によって給紙装置Sに給紙され、上側の用紙P1の上面には駆動ローラーKRが密接されると共に下側の用紙P2の下面には従動ローラーJRが密接される。そして、反時計方向に回転する駆動ローラーKRと上側の用紙P1との摩擦力によって上側の用紙P1は駆動ローラーKRの回転方向に送り出されようとする。しかしながら、上側の用紙P1と下側の用紙P2とは上記摩擦力に比べて小さい微小相互吸着力によって吸着しているにすぎず、上側の用紙P1に上記摩擦力が付加されると上側の用紙P1は下側の用紙P2から剥離され、上側の用紙P1と下側の用紙P2との間には滑りが生じる。そのため、従動ローラーJRには下側の用紙P2を介して所定値以下の比較的小さい回転トルクが付加されることとなる。かかる場合にあっては、従動ローラーJRはトルクリミッタTLによってその回転がロックされる。従動ローラーJRがロックすると、プリンタや複写機は運転を休止すると共に使用者に用紙が重層状態であることを報知し、重層した用紙の除去を促す。
【0005】
トルクリミッタは、給紙装置に限らず、駆動源のモーター等に過負荷が掛かったときに負荷を切り離してモーターを保護する部品としても用いられる。トルクリミッタとしては、例えば、特許文献2に記載された摩擦式のトルクリミッタが知られており、これの概要について図6を参照して説明する。
摩擦式のトルクリミッタは、軸状の内輪Nと、この内輪Nの外周面に一部が接触して装着され、摩擦力を付与するコイルばねBと、このコイルばねBが装着された上記内輪Nが挿入される筒状の外輪Gとを備えている。内輪Nは円筒形状であって、その外径は、自由状態(ばねに力が作用していない状態)におけるコイルばねBの接触部の径(図6の右側部分の径)よりも大きい。コイルばねBは、線材を巻回して形成され、その中心軸方向の先端には中心軸方向に延びる係合部K1が形成されていると共に、外輪Gの内側にはこの係合部K1と係合する被係合部K2が形成されている。なお、図6のコイルばねBには、内輪Nと接触しない大径部(図6の左側部分)が設けられているが、この部分は、トルクリミッタの基本的な機能には影響しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274979号公報
【特許文献2】特開2006−307934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、図6に示すような摩擦式のトルクリミッタにおいては、内輪Nと外輪Gとを相対的に回転させる中心軸o周りの回転トルク(コイルばねBの内輪Nへの巻き付けを緩める方向に作用する回転トルク)が、内輪Nの外周面とコイルばねBとの内周面との間で生じる摩擦力よりも大きいときに、外輪Gと内輪Nとが相対的に回転して動力伝達が遮断される。例えば、内輪Nを駆動源のモーターに連結し外輪Gを負荷側に連結している場合には、相対的な回転によりモーターから負荷への最大の伝達トルク(空転トルク)が制限されるが、この際に、以下のような問題点がある。
【0008】
空転トルクは、内輪Nの外周面とコイルばねBの内周面との間の摩擦力Fに、コイルばねBの内径Rを乗じた値(FR)に比例する。ここで、コイルばねBが接触する内輪Nの円周長さも内径Rに比例するから、コイルばねBが小径となるにつれて空転トルクは非常に小さくなる。小径のコイルばねBを用いて同一の空転トルクとするには、摩擦力Fを発生させるコイルばねBの締付力を大きくする必要があり、必然的にコイルばねBの応力が増加して許容応力を越える恐れが生じる。したがって、コイルばねBの小径化による摩擦式トルクリミッタの小型化には限界がある。
空転トルクを充分に大きくするために、複数個のコイルばねBを内輪Nと外輪Gとの間に装着することも考えられるが、この場合にはトルクリミッタの製造及び組み立て作業の効率が悪化すると共に、トルクリミッタが大型化してしまう。
本発明は、コイルばねを有する摩擦式のトルクリミッタにおける、このような問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、摩擦式のトルクリミッタのコイルばねを、軸方向の中央に外輪と係合する係合部を設けると共にこの係合部の両側に線材を巻回することにより形成し、この両側の線材を、軸方向の一方から見て反対方向に巻回するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「軸状の内輪と、前記内輪の外周面に接触して装着され、線材を巻回して形成されるコイルばねと、前記コイルばねの装着された前記内輪が挿入される筒状の外輪とを備え、
前記内輪と前記外輪とは共通の中心軸を有し、前記コイルばねは、滑剤が塗布されて前記外輪に相対回転不能に係合されており、
前記内輪と前記外輪とを相対的に回転させる前記中心軸周りの回転トルクが付加されたときは、前記回転トルクが所定値より大きい場合に、前記コイルばねと前記内輪との間の摩擦力に打ち勝って前記外輪と前記内輪とが相対的に回転するトルクリミッタであって、
前記内輪は、前記コイルばねが装着される大径部と、前記大径部の先端側に形成された小径部と、前記大径部及び前記小径部の中間に形成されたテーパー部とを有しており、
前記大径部の径は、自由状態の前記コイルばねの内径よりも大きいと共に、前記小径部の径は、自由状態の前記コイルばねの内径よりも小さく、且つ、前記テーパー部は、その径が前記大径部の径から前記小径部の径まで徐々に減少するよう設定され、さらに、
前記コイルばねは、巻回された線材の接線方向に延びて前記外輪と係合する係合部を備え、前記係合部が線材をコの字形状に屈曲して形成されると共に、前記係合部の軸方向の両側に線材が巻回されており、前記両側の線材は、軸方向の一方から見て反対方向に巻回されている」
ことを特徴とするトルクリミッタとなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の摩擦式トルクリミッタは、線材を巻回して形成され、軸状の内輪の外周面に接触して装着されるコイルばねと、これらが挿入される筒状の外輪とを備える。内輪と外輪とは共通の中心軸を有し、コイルばねは外輪と相対回転不能に係合されており、内輪と外輪との間の回転トルクが所定値より大きい場合に、コイルばねと内輪との間の摩擦力に打ち勝って外輪と内輪とが相対的に回転する。トルクリミッタとしてのこうした基本的な構造及び機能は、従来のものと変わるわけではないが、本発明の摩擦式トルクリミッタにおいては、コイルばねを、軸方向の中央に外輪と係合する係合部を設け、この係合部の軸方向の両側で線材を巻回し、両側の線材を、軸方向の一方から見て反対方向に巻回するようにしている。コイルばねを反対方向に巻回したのは、コイルばねの巻き付けを緩める内輪の回転方向が、軸方向の一方から見たときは、係合部の両側に巻回されたコイルばね状の線材で互いに逆となるためである。
【0011】
本発明のトルクリミッタにあっては、上述のとおり、係合部の両側に反対方向に巻回した線材が備えられ、これらによってコイルばねが形成される。このコイルばねは、外輪と係合する係合部の両側にそれぞれコイルばねを配置したものに相当し、コイルばねが内輪に及ぼす摩擦力は、両側に巻回された線材の摩擦力を合計したものとなる。したがって、摩擦力増大のために締付力を大きくする必要はないので、本発明の摩擦式トルクリミッタでは、コイルばねに発生する応力を増加することなく、大径のトルクリミッタと同等の空転トルクを得ることができる。
また、本発明のトルクリミッタでは、外輪と内輪とを相対的に回転させるトルクは、コイルばねの係合部から、両側に巻回された線材にそれぞれ均等に作用する。そのため、ばねの係合部付近においても、巻回された線材に確実に摩擦力が作用し、トルクリミッタとして安定した性能を発揮させることができる。これに対し、係合部の片側のみで内輪と接触させるコイルばねでは、係合部から離れた線材は内輪と接触するものの、係合部付近では、相対的な回転トルクによって内輪と線材が離れる現象が生じる。
【0012】
本発明のトルクリミッタでは、コイルばねにおいて、外輪と係合する係合部を、線材をコの字形状に屈曲して形成したことで、両側に巻回される線材の間に、軸方向に延びる一定長さの直線状の線材が存在することとなる。コイルばねの係合部には、外輪と内輪とを相対的に回転させるトルクによる力が作用するが、その力は直線状の線材部分に分散されて作用するので、外輪との接触部分に及ぼす圧力は小さくなる。そのため、外輪の材料として合成樹脂等の硬度の小さいものを用いた場合であっても、コイルばねとの係合部分が損傷したり摩耗したりする不具合は回避される。
そして、コイルばねの係合部は、外輪と係合する関係上、線材が巻回される部分の巻回円よりも径方向の外方に延びる必要がある。線材に巻回などの加工を施して製造するコイルばねにおいて、係合部を、線材が巻回されたことにより形成された円の接線方向に延びるようにして形成することで、その部分の加工が容易となる。
【0013】
本発明のトルクリミッタのコイルばねを、係合部の軸方向の両側で線材を同一数巻回して形成したときは、いわば2個の同一のコイルばね(要素)を背中合わせに配置した構造となる。つまり、係合部に対して対称的な構造となって、内輪に及ぼす摩擦力のバランスなどが良好となり、性能が安定したトルクリミッタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のトルクリミッタの実施例を示す全体図である。
図2図1に示すトルクリミッタの内輪の単体図である。
図3図1に示すトルクリミッタの外輪の単体図である。
図4図1に示すトルクリミッタのコイルばねの単体図である。
図5】トルクリミッタを備えた給紙装置の作動を説明する図である。
図6】従来の摩擦式のトルクリミッタの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明のトルクリミッタについて説明する。図1には、本発明のトルクリミッタの実施例の全体図を示し、その部品の単体図を図2乃至図4に示す。なお、図1は、外輪3とコイルばね4との係合部が分かるよう、外輪3の一部を破断して表したものである。
【0016】
図1に示すように、全体を符号1で示す本実施例のトルクリミッタは、内輪2と外輪3とコイルばね4とを備えている。内輪2は、コイルばね4を外周に装着した状態で、外輪3の円筒状の空洞部に挿入される。内輪2と外輪3は、共通の中心軸oを有し、相対的に回転可能に構成されている。
【0017】
図1と共に図2を参照して説明すると、内輪2は、中心軸oを備えた軸状の部品であって、コイルばね4が装着される大径部21と、この大径部21の先端側(便宜上、図の側を前方、側を後方とする。)に形成された小径部22と、大径部21及び小径部22の中間に形成されたテーパー部23とを有する。本実施例では、内輪2は、鋼材を鍛造することにより成形されている。
【0018】
内輪2の大径部21は円柱形状であり、小径部22も全体として円柱形状である。テーパー部23は、その断面の径が後方端から前方端に向かって次第に小さくなる円錐台形状であり、その後方端は大径部21に接続され、前方端は小径部22に接続されている。ここで、大径部21の径は自由状態のコイルばね4の内径よりも大きく、小径部22の径は自由状態のコイルばね4の内径よりも小さく設定されており、したがって、テーパー部23は、その最小径が自由状態のコイルばね4の内径よりも小さく、最大径が自由状態のコイルばね4の内径よりも大きい。このようなテーパー部23を大径部21と小径部22との間に設けることにより、コイルばね4を大径部21に装着する際に、特殊な治具を用いることなく、内輪2を単に押圧して自由状態のコイルばね4の内径を拡げながら大径部21に装着することが可能となる。
小径部22の先端部には、後述する外輪3に形成される内向き突起部が嵌まり込む段付き溝部24が形成されている。段付き溝部24は小径部22の外周面に全周に亘り形成される。大径部21の後端には円環形状の鍔部25が形成され、鍔部25の後端面には、円柱形状の外周の一部が切り欠かれた連結部26が形成されている。
【0019】
図1と共に図3を参照して説明すると、外輪3は、中心軸oを中心とする筒状部材であって、比較的外径の大きい後方部31と比較的外径の小さい前方部32とを有する。本実施例では、外輪3は、例えばポリアセタールなどの熱可塑性樹脂を射出成型することにより成形される。
【0020】
外輪3の後方部31の内側には、第1の空洞部311が形成されている。第1の空洞部311の内径は上述した内輪2の円環形状鍔部25が収容される程度に大きい。第1の空洞部311の前方には、第2の空洞部312が形成されている。第2の空洞部312は、コイルばね4を装着した状態の内輪2の大径部21を収容する部分であって、第2の空洞部312の内径は第1の空洞部311の直径よりも小さい。
そして、後方部31の周方向における所定角度位置には、後方部31の後端から軸方向中間位置より幾分前方の位置まで直線状に延在するスリット33が設けられており、図3の右側面図から分かるとおり、このスリット33は、後方部31の内側面から外側面まで垂直方向に形成されている。
【0021】
外輪3の前方部32の内側には、円柱形状の第3の空洞部313が形成されると共に、第3の空洞部313の前方には、全体として円柱形状の第4の空洞部314が形成されている。第3の空洞部313の内径は内輪2の大径部21と等しく、また、第4の空洞部314の内径は内輪2の小径部22と等しく設定されている。したがって、これらの空洞部には、内輪2の大径部21及び小径部22を隙間なく嵌め込むことができる。そして、第4の空洞部314の前方端部における内周面には、内輪2の段付き溝部24に嵌まり込む内向き突起部315が形成されている。
トルクリミッタ1の組み立て時には、予めコイルばね4が装着された内輪2を外輪3の後端側(第1の空洞部311側)から挿入する。挿入の際は、コイルばね4の係合部41と外輪3のスリット33との周方向位置を整合させて行い、組み立て後には、図1に示すとおり、コイルばね4の係合部41がスリット33の端部に突き当たるとともに、内輪2の段付き溝部24に外輪3の内向き突起部31が嵌め込まれる。組み立て時には、コイルばね4にグリースなどの潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0022】
ここで、本発明の摩擦式トルクリミッタの特徴的な構造であるコイルばね4について、図1と共に図4を参照して説明する。金属製のコイルばね4は、一般的なばね鋼等の線材に巻き加工等を施して形成したものであって、外輪3のスリット33と係合する係合部41を備え、係合部41の軸方向の両側に線材Lが巻回されている。この両側の線材Lは、軸方向の一方から見て反対方向に同一回数巻かれている。すなわち、図4の実施形態おいては、コイルばね4の線材Lは、正面図の右方から見て、係合部41の右側の線材Lが時計方向に巻回されている(図4の右側面図参照)が、係合部41で折り返すようにして、左側の線材Lが反時計方向に巻回されている。これにより、図1のようにコイルばね4を内輪2の外周面に装着したときは、内輪2に右方から見て時計方向の回転トルクが作用した場合に、コイルばね4の巻き付けが緩むこととなる。
【0023】
図4の実施形態のコイルばね4は、一本の線材Lを連続的に加工して製造されており、外輪3のスリット33に係合する係合部41は、線材Lをコの字形状に屈曲することで形成されている。係合部41には、軸方向に延びる直線部分が存在し、この直線部分が全体的にスリット33と接触するので、接触部分の圧力を低下することができる。また、係合部41は、図4の右側面図に示すとおり、線材Lが巻回されたことにより形成された円の接線方向上方に延びている。一本の線材Lにこのような加工を施して係合部41を形成することで、係合部41として追加部品を別途設ける必要がなく、コイルばね4の製造コストを低減させることができる。
【0024】
次いで、上述の本発明のトルクリミッタの作動について、図1を参照して説明する。
内輪2と外輪3とを相対的に回転させる中心軸oの軸周りに所定値よりも大きい回転トルク、つまり空転トルクが、コイルばね4の内輪2への巻き付けを緩める方向に付加されると、コイルばね4の締付力によるコイルばね4と内輪2との間の摩擦力に打ち勝ち、外輪3と内輪2とが相対的に回転する。一方、空転トルク以下であれば、内輪2とコイルばね4との間の摩擦力により、相対的な回転は生じない。
本発明のトルクリミッタ1では、コイルばね4の係合部41の両側に反対方向に同一数巻回した線材が備えられており、コイルばね4の締付力が内輪2に及ぼす摩擦力は、両側に巻回された線材の摩擦力を合計したものとなる。そのため、従来の摩擦式トルクリミッタのように、係合部の片側に線材を巻回したものと比較すると、コイルばね4の締付力が同一の場合であっても、ほぼ2倍の空転トルクを得ることができる。また、外輪3と内輪2とを相対的に回転させるトルクは、コイルばね4の係合部41から両側に巻回された線材にそれぞれ均等に作用するため、係合部41付近においても巻回された線材に確実に摩擦力が作用し、トルクリミッタとして安定した性能を発揮できる。
【0025】
空転トルク以上のトルクが作用して内輪2と外輪3とが相対的に回転する場合、本発明のトルクリミッタ1では、第3の空洞部313の内径は内輪2の大径部21と等しく、第4の空洞部314の内径は内輪2の小径部22と等しく設定されていて、内輪2と外輪3の回転軸の「ぶれ」が防止される。第2の空洞部312内では、コイルばね4の係合部41の両側に線材Lが巻回されており、内輪2が係合部41の両側で支持されるので、コイルばね4に対する内輪2の回転が円滑になる。さらに、外輪3の突起部315が内輪2の先端部の段付き溝部24に嵌り込むことで、内輪2と外輪3の相対的な軸方向への移動が防止される。
【0026】
以上、本発明のトルクリミッタの好適な実施形態について詳述した。上記の実施形態においては、内輪を鍛造により製作しているが、焼結やプレス等で製造できるのは言うまでもない。また、コイルばねの係合部を、線材が巻回されたことにより形成されたの接線方向に延びるようにすることに替えて、線材が巻回されたことにより形成されたの法線方向に延びるようにしてもよい。この場合にあっては、外輪に設けられるスリットは径方向に延在することとなる。このように、上記の実施形態を適宜変更することができるのは明らかである。
【符号の説明】
【0027】
1:トルクリミッタ
2:内輪
3:外輪
33:スリット
4:コイルばね
41:係合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6