特許第6355598号(P6355598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6355598X線データ処理装置、その方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355598
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】X線データ処理装置、その方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20180702BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20180702BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20180702BHJP
【FI】
   G01T1/17 C
   G01T1/17 A
   G01N23/223
   G01N23/207
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-127043(P2015-127043)
(22)【出願日】2015年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-9504(P2017-9504A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】松下 一之
(72)【発明者】
【氏名】作村 拓人
(72)【発明者】
【氏名】中江 保一
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第7667205(US,B2)
【文献】 国際公開第2015/087663(WO,A1)
【文献】 Bronnimann CH et al,Synchrotron beam test with a photon-counting pixel detector,Journal of Synchrotron Radiation,2000年 9月,vol.7, pt.5,pp.301-306
【文献】 Broennimann CH et al,The PILATUS 1M detector,Journal of Synchrotron Radiation,2006年 3月,vol.13, pt.2,pp.120-130
【文献】 Kraft P et al,Performance of single-photon-counting PILATUS detector modules,Journal of Synchrotron Radiation,2009年 5月,vol.16, pt.2,pp.368-375
【文献】 Makeev A et al,Evaluation of position-estimation methods applied to CZT-based photon-counting detectors for dedicated breast CT,Journal of Medical Imaging,2015年 4月,vol2, no,2,#23051
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器により検出されたX線の計数値から真値を推定するX線データ処理装置であって、
検出部分ごとの計数値を受信し管理する管理部と、
前記検出部分に関するデータおよび線源および検出エネルギーの閾値に関するデータを用いて、前記検出部分の本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合を前記検出部分の有効面積率として算出する有効面積率算出部と、
前記管理されている計数値を前記算出された有効面積率で補正して真値を推定する補正部と、を備えることを特徴とするX線データ処理装置。
【請求項2】
前記有効面積率算出部は、各線源および各検出エネルギーの閾値に対して前記有効面積率を算出し、
前記補正部は、前記算出された有効面積率を連立方程式の係数として表し、前記連立方程式を用いて、各検出エネルギーの閾値に対する計数値を各線源に対する補正値に1次変換することを特徴とする請求項1記載のX線データ処理装置。
【請求項3】
前記検出部分に関するデータは、前記検出部分に応じて予め記憶された、前記検出部分のサイズおよび前記検出部分内の電荷の拡がりの分布を表すデータであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のX線データ処理装置。
【請求項4】
フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器により検出されたX線の計数値から真値を推定するX線データ処理の方法であって、
検出部分ごとの計数値を受信し管理するステップと、
前記検出部分に関するデータおよび線源および検出エネルギーの閾値に関するデータを用いて、前記検出部分の本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合を前記検出部分の有効面積率として算出するステップと、
前記管理されている計数値を前記算出された有効面積率で補正して真値を推定するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器により検出されたX線の計数値から真値を推定するX線データ処理のプログラムであって、
検出部分ごとの計数値を受信し管理する処理と、
前記検出部分に関するデータおよび線源および検出エネルギーの閾値に関するデータを用いて、前記検出部分の本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合を前記検出部分の有効面積率として算出する処理と、
前記管理されている計数値を前記算出された有効面積率で補正して真値を推定する処理と、を含む一連の処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定線源のX線強度について計数値から真値を推定するX線データ処理装置、その方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ検出器においては、一般的にモノリシックなセンサを使用するため、センサの内部では、ピクセル間に明確な境界は存在しない。読み出しチップと接続する側に形成される読み出しパッド部分だけが、ピクセル状に形成されているのが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
そのため、隣接するピクセルの境界部分でキャリアが拡散する場合、それらのピクセル間で1フォトン分の電荷が共有されるチャージシェアという現象が生じる。このチャージシェアが原因となり、入射しているX線の強度が一定であっても、各ピクセルに設定されている閾値に依存して計数が本来よりも多く計数される場合、少なく計数される場合が存在する。
【0004】
従来、チャージシェアの影響を無視して測定を行うか、閾値を適当な値に設定することで影響を最小限にして測定が行われてきたが、このような方法ではチャージシェアの効果を取り除くことはできない。一方、チャージシェアによる影響そのものをキャンセルする回路を読み出しチップのピクセル間に実装する研究もなされている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−242111号公報
【特許文献2】特開2014−159973号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.-E. Nilsson, B. Norlin, Frojdh, L. Tlustos, “Charge sharing suppression using pixel-to-pixel communication in photon counting X-ray imaging systems”, Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, Available online 6 February, A576, 2007, 243-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、チャージシェアによる影響をキャンセルする回路を実装する方法は、ピクセル間で信号の波高をそれぞれ比較する必要がある。そのため、比較器の実装により相応の面積が占められ、比較器間で比較するための閾値にばらつきが生じる。また、ピクセルサイズが小さいときに複数ピクセルに跨るチャージシェアに対応することが困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、比較器等を用いることなく、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器で検出され、チャージシェアの影響を受けたX線の計数値を補正することができるX線データ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のX線データ処理装置は、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器により検出されたX線の計数値から真値を推定するX線データ処理装置であって、検出部分ごとの計数値を受信し管理する管理部と、前記検出部分に関するデータおよび線源および検出エネルギーの閾値に関するデータを用いて、前記検出部分の本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合を前記検出部分の有効面積率として算出する有効面積率算出部と、前記管理されている計数値を前記算出された有効面積率で補正して真値を推定する補正部と、を備えることを特徴としている。これにより、比較器等を用いることなく、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器で検出され、チャージシェアの影響を受けたX線の計数値を補正することができる。
【0010】
(2)また、本発明のX線データ処理装置は、前記有効面積率算出部が、各線源および各検出エネルギーの閾値に対して前記有効面積率を算出し、前記補正部は、前記算出された有効面積率を連立方程式の係数として表し、前記連立方程式を用いて、各検出エネルギーの閾値に対する計数値を各線源に対する補正値に1次変換することを特徴としている。これにより、多波長のX線が検出部分に入射する場合でも、波長依存性を有するチャージシェアの影響を小さくすることができる。
【0011】
(3)また、本発明のX線データ処理装置は、前記検出部分に関するデータが、前記検出部分に応じて予め記憶された、前記検出部分のサイズおよび前記検出部分内の電荷の拡がりの分布を表すデータであることを特徴としている。これにより、検出部分の特性や形状に応じて、チャージシェアの影響を見積もり、有効面積率を算出することができる。
【0012】
(4)また、本発明の方法は、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器により検出されたX線の計数値から真値を推定するX線データ処理の方法であって、検出部分ごとの計数値を受信し管理するステップと、前記検出部分に関するデータおよび線源および検出エネルギーの閾値に関するデータを用いて、前記検出部分の本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合を前記検出部分の有効面積率として算出するステップと、前記管理されている計数値を前記算出された有効面積率で補正して真値を推定するステップと、を含むことを特徴としている。これにより、チャージシェアの影響を補正することができる。
【0013】
(5)また、本発明のプログラムは、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器により検出されたX線の計数値から真値を推定するX線データ処理のプログラムであって、検出部分ごとの計数値を受信し管理する処理と、前記検出部分に関するデータおよび線源および検出エネルギーの閾値に関するデータを用いて、前記検出部分の本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合を前記検出部分の有効面積率として算出する処理と、前記管理されている計数値を前記算出された有効面積率で補正して真値を推定する処理と、を含む一連の処理をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、チャージシェアの影響を補正することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較器等を用いることなく、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器で検出され、チャージシェアの影響を受けたX線の計数値を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のX線回折システムの構成を示す概略図である。
図2】主にX線検出器およびX線データ処理装置の構成を示すブロック図である。
図3】(a)、(b)それぞれチャージシェアが生じない場合と生じる場合のX線の検出を示す模式図である。
図4】主にX線データ処理装置の構成を示すブロック図である。
図5】ROICのゲインのばらつきを示すグラフである。
図6】ピクセルサイズおよび閾値に応じたチャージシェアの影響を示す表である。
図7】実測のX線プロファイルおよび各線源の有効面積率曲線を示すグラフである。
図8】(a)、(b)補正をしない場合および有効面積率を用いて補正した場合それぞれの画像を表す図である。
図9】有効面積率を用いた補正をしない場合およびした場合の強度分布を表すグラフである。
図10】蛍光X線低減モードで測定されたX線強度および有効面積率を用いた補正で蛍光X線を除去したX線強度を表すグラフである。
図11】閾値を5keVおよび7keVのそれぞれとして測定された画像(上段)と有効面積率を用いて補正されたCu光源画像およびFe光源画像(下段)とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(全体構成)
図1は、X線測定システム10の構成の一例を示す概略図である。図1に示すようにX線測定システム10は、X線源20、試料S、X線検出器100およびX線データ処理装置200で構成されている。
【0018】
X線源20は、例えば、陰極であるフィラメントから放射された電子束を対陰極であるロータターゲットに衝突させてX線を発生させる。X線源20から放射されるX線は、断面形状が円形または矩形のドット状の、いわゆるポイントフォーカスのX線ビームである。
【0019】
ロータターゲットの外周面に、原子番号が互いに異なる複数種類の金属(例えば、MoおよびCu)を設けることで、X線源20を多波長の線源にすることもできる。Cuターゲットに電子が衝突したとき、特性線であるCuKα線(波長1.542Å)を含むX線が放射され、Moターゲットに電子が衝突したとき、特性線であるMoKα線(波長0.711Å)を含むX線が放射される。ロータターゲットから出射されるX線には、互いに違ったターゲット素材の特性X線であるCuKα線およびMoKα線が混在している。
【0020】
試料Sは、試料支持装置により支持されている。試料支持装置は、試料Sの特性および測定の種類に応じて決められる。X線検出器100は、試料Sで回折された回折X線および蛍光X線を検出する。X線データ処理装置200は、測定された回折X線および蛍光X線のX線データを処理し、測定結果を表示させる。X線検出器100およびX線データ処理装置200の詳細については、後述する。
【0021】
(X線検出器およびX線データ処理装置の構成)
図2は、主にX線検出器100およびX線データ処理装置200の構成を示すブロック図である。X線検出器100は、複数のX線受光用のピクセル110(検出部分)を有しており、例えば2次元半導体検出器である。複数のピクセル110は、2次元的にアレイ化されており、規則的に配列されている。なお、検出器は、2次元半導体検出器に限られず、1次元半導体検出器であってもよい。
【0022】
分別回路120は、複数のピクセル110の個々に接続されており、さらにはカウンタ部130が、分別回路120の個々に接続されている。カウンタ読み出し回路150は、各カウンタ部130に接続されている。
【0023】
分別回路120は、ピクセル110のパルス信号をX線波長ごとに分別して出力する。カウンタ部130は、分別回路120によって波長毎に分別された信号のそれぞれの個数を計数する。カウンタ部130は、例えば、分別回路120によって分別された数のパルス信号をそれぞれカウントできるように分別数と同じ数のカウンタ回路を内蔵する。カウンタ読み出し回路150の出力信号は、エネルギーの閾値により分離されたX線データとしてX線データ処理装置200に通信線を通して伝送される。
【0024】
X線データ処理装置200は、例えば、パーソナルコンピュータである。パーソナルコンピュータは、例えば、演算制御するためのCPU、データを記憶するためのメモリ、メモリ内の所定領域に記憶されたシステムソフト、およびメモリ内の他の所定領域に記憶されたアプリケーションプログラムソフト、等によって構成されている。
【0025】
X線データ処理装置200には、ユーザの入力を受け付ける入力部300としてキーボード等が接続されている。ユーザは、入力部300を介して測定結果の表示や補正の指示等を行うことができる。また、入力部300は、線源および検出エネルギーの閾値に関するデータの入力を受け付ける。なお、線源には、試料への照射X線源だけでなく、蛍光X線源も含まれる。また、X線データ処理装置200には、ディスプレイやプリンタ等の出力部400が接続されている。出力部400は、X線データ処理装置200からの指示に従って測定結果を出力する。
【0026】
図3(a)、(b)は、それぞれチャージシェアが生じない場合と生じる場合のX線の検出を示す模式図である。図3(a)に示すように、X線が単一のピクセル110にのみ入射する場合には、チャージシェアが生じず、正確な測定が可能である。しかし、図3(b)に示すようにX線検出器100の表面近傍でできた電荷の雲が電極に到達するまでの間に拡がってチャージシェアが起こる。2つのピクセル110にわたって生じたチャージシェアにより、一方のピクセル110の検出したピークが低くなり、他方のピクセル110にも低いピークが検出されることになる。
【0027】
(X線データ処理装置の構成)
図4は、主にX線データ処理装置200の構成を示すブロック図である。X線データ処理装置200は、管理部210、データ記憶部220、有効面積率算出部230、補正部250を備えており、X線の計数値から真値を推定する。なお、X線データ処理装置200は、複数種類の光源の回折X線データを分離する場合に用いてもよいし、回折X線データから蛍光X線を分離する場合に用いてもよい。
【0028】
管理部210は、X線検出器100でピクセルごとに検出された計数値を受け取り、管理する。例えば、管理部210は、ピクセル110の番地(i,j)に関連付けて波長毎の回折X線強度を決定し、その結果のデータを記憶する。管理部210は、ユーザの指示に応じて、例えば記憶されたCu線源の回折X線像とMo線源の回折X線像の両方の回折像のデータを、出力部400に表示させることができる。いずれか一方の回折像を表示させることもできるし、両方の像を同時に表示させることもできる。
【0029】
データ記憶部220は、X線検出器100のセンサの材質、構造およびピクセルに関するデータならびにX線源20および検出エネルギーの閾値に関するデータを記憶している。ピクセルに関するデータは、ピクセルに応じて予め記憶された、ピクセルのサイズ、形状およびセンサ内の電荷の拡がりの分布を表すデータである。また、X線源20および検出エネルギーの閾値に関するデータは、X線測定システム10が用いられる際の条件を表すデータであり、ユーザにより入力される。これにより、ピクセルの特性や形状に応じて、チャージシェアの影響を見積もり、有効面積率を算出することができる。
【0030】
有効面積率算出部230は、ピクセルに関するデータおよび入力されたデータを用いて、ピクセルの本来の検出能力に対するチャージシェアの影響を受けた検出能力の割合をピクセルの有効面積率として算出する。特に、複数の線源および複数の閾値に対して有効面積率算出部230は、各線源および各検出エネルギーの閾値に対して有効面積率を算出する。
【0031】
補正部250は、管理されている計数値を算出された有効面積率で補正して真値を推定する。このようにして、フォトンカウンティング方式のピクセルアレイ型のX線検出器で検出され、チャージシェアの影響を受けたX線の計数値を補正することができる。具体的には、複数の線源および複数の閾値に対して、補正部250は、算出された有効面積率を連立方程式の係数として表し、連立方程式を用いて、各検出エネルギーの閾値に対する計数値を各線源に対する補正値に1次変換する。これにより、多波長のX線がピクセルに入射する場合でも、波長依存性を有するチャージシェアの影響を小さくすることができる。
【0032】
(補正および補正に用いられる有効面積率の算出)
チャージシェアによる有効面積率は閾値波長と、入射X線の波長に対する依存性が存在する。この波長依存性と、複数の閾値によって測定された計数値を用いて、波長毎に、ピクセルに到達したX線の計数の推定を行う。
【0033】
異なる2つの波長をA、Bとし、異なる2つの適当な閾値をL、Hとする。また、波長A、Bの光源から各ピクセルに到達するX線の真の光子数をそれぞれI、Iとし、閾値L、Hで観測される計数をそれぞれI、Iとする。閾値Lと波長Aによって決まるピクセル有効面積率をpLAのように表せば、以下の数式(1)ように観測される計数と真の光子数の関係が得られる。
【数1】
【0034】
ここで有効面積率からなる行列をPとして、その逆行列を求めれば、以下の数式(2)となることから、波長A、Bによる信号を区別せずに観測した計数を元に、線源A、Bによる計数を独立に得ることが可能となる。
【数2】
【0035】
半導体センサ内での電荷の拡がりが正規分布に従い、その標準偏差がσであると仮定し、ピクセルの一辺の長さをdとすると、有効面積率pは次の数式(3)のように近似できる(∵d≫σ)。
【数3】
ここで、λは対象としているX線の波長、λTHは検出回路の閾値波長である。d≫σが成立しない場合にはピクセルの4つの角による効果を考慮する必要がある。
【0036】
上記のX線測定システム10は、多色光源の分離に用いることができる。例えば、高エネルギー側の閾値と低エネルギー側の閾値によりそれぞれ分離されたX線の計数値IおよびIから、以下の数式(4)によりCu光源およびMo光源の回折X線強度ICuおよびIMoを求めることができる。
【数4】
【0037】
また、上記のX線測定システム10は、温度補正後の一様性補正テーブルを仮想一様照射無しで再作成することにも応用できる。
【0038】
(実施例1)
上記のX線測定システム10を用いて測定を行った。X線検出器20に用いた標準読み出し集積回路(ROIC)は、ゲインのばらつきを有する。例えば、6keVに閾値を設定しても実際に検出するエネルギーは、ピクセルごとにばらつく。図5は、ROICのゲインのばらつきを示すグラフである。図5に示す例では、ゲインは、平均値μ=6.0keV、標準偏差σ=0.2keVの分布を有している。
【0039】
X線の検出には、一辺100μmの矩形で、センサ厚が320μm、キャリアの広がりがσ=5.0μmのガウス分布のピクセルを表面に有するX線検出器を用いた。ピクセルサイズの大小に応じてチャージシェアの影響の大小が異なり、有効面積率も異なる。図6は、ピクセルサイズおよび閾値に応じたチャージシェアの影響を示す表である。ROICの性能由来で設定値に対して1keV程度のばらつきが生じると、X線の計数値が8%程度ばらつく。
【0040】
上記のようなX線検出器を用いて閾値に対するCuKのX線強度を測定するとともに、閾値に対するMo、Cu、Fe、Cr光源のそれぞれのX線検出の有効面積率を算出した。図7は、実測のX線プロファイルおよび各線源の有効面積率曲線を示すグラフである。算出において、有効面積率曲線は、ノイズピークの中心を0keVとして、閾値を計算した。また、8.04keVの単色光について計算した有効面積−閾値曲線にFWHM24%(一例としてσ=8.04keVで830eV)のガウス分布を畳み込んだ。その結果、実測のCuKのX線プロファイルとCu光源のX線検出の有効面積率の曲線とがほぼ一致した。
【0041】
(実施例2)
上記のX線測定システムを用いて得られた実験データを、有効面積率を用いて補正する例を説明する。Cu光源を用いて、以下の(5)の通りに実験結果が得られたものとする。
【数5】
【0042】
このような実験結果に対して、単純な有効面積率による補正のみを行うと以下の(6)のようにX線の計数値が補正される。
【数6】
【0043】
上記の実験結果が、鉄製の試料にCu光源のX線を照射して得られたものであれば、蛍光X線による低減分を反映して、以下の(7)のようにCu光源由来のX線強度ICuおよび蛍光X線のX線強度IFeを計算できる。
【数7】
【0044】
また、入射するX線が単色であることが明らかであれば、バックグラウンドと有効面積100%での強度が得られる。
【数8】
【0045】
(実施例3)
一辺100μmの矩形のピクセルのX線検出器を備えたX線測定システムにより、実際に検出されたX線強度の有効面積率による補正を行った。センサに並べて接続されたROIC間の計数値の補正には単純平均した値を採用した。図8は、(a)補正をしない場合および(b)有効面積率を用いて補正した場合、それぞれの画像を表す図である。補正しない場合は、全体的に計数値が小さく、一方、補正した場合は、全体的に計数値が大きくなっている。
【0046】
図9は、有効面積率を用いた補正をしない場合およびした場合の強度分布を表すグラフである。補正しない場合の曲線は、全体的に計数値が小さく、ピクセル間の計数値のばらつきが大きくなっている。一方、補正した場合の曲線は、全体的に計数値が大きく、ピクセル間の計数値のばらつきが小さくなっている。
【0047】
(実施例4)
上記の実施例と同様の条件で、Cu光源を用い鉄製の粉末試料にX線を照射したときの回折パターンを撮影した。その際に、まず、Feの蛍光X線を低減するために閾値を7keVに設定して撮影を行った(蛍光低減モード)。次に、閾値を5keVおよび7keVのそれぞれとしてX線画像を撮影した。そして、撮影された画像に対して各閾値とCu光源(8.04keV)およびFe光源(6.4keV)のそれぞれに対して決まる有効面積率を係数として用いた連立方程式を解くことで、画像を補正し、各光源由来の画像に分離した(蛍光分離モード)。
【0048】
図10は、蛍光X線低減モードで測定されたX線強度および有効面積率を用いた補正で蛍光X線を分離したX線強度を表すグラフである。図10は、蛍光低減モードの測定データ画像と蛍光除去画像をx=360〜411の範囲で、平均計数プロファイルとしてプロットしたものである。蛍光分離モードのグラフは、蛍光低減モードのグラフに対し、SBR(Signal to Background Ratio)で約3倍の向上が見られた。
【0049】
このようにして、分離されたCu光源(8.04keV)由来の画像は、閾値を4.1keVとして撮影した場合に得られるCu光源由来の画像に相当する画像として得られた。また、Fe光源(6.4keV)由来の画像は、閾値3.3keVとして撮影した場合に得られるFe光源由来の画像に相当する画像として得られた。
【0050】
図11は、閾値を5keVおよび7keVのそれぞれとして測定された画像(上段)と有効面積率を用いて補正されたCu光源画像およびFe光源画像(下段)とを示す図である。閾値7keVの画像(上段左)に比べ、有効面積率を用いて補正されたCu光源画像(下段左)では、回折線が明確になり、蛍光X線をバックグラウンドとして分離、除去できているのが分かる。
【符号の説明】
【0051】
10 X線測定システム
20 X線源
100 X線検出器
110 ピクセル(検出部分)
120 分別回路
130 カウンタ部
150 カウンタ読み出し回路
200 X線データ処理装置
210 管理部
220 データ記憶部
230 有効面積率算出部
250 補正部
300 入力部
400 出力部
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11