(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
この発明に係るセラミック焼結体の製造方法の一例を、製造工程に沿って説明する。
この実施形態のセラミック焼結体の製造方法は、原料粉末と熱可塑性樹脂とを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、顆粒を形成する顆粒形成工程と、前記顆粒を成形型に投入し、前記顆粒を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、融点未満の温度Tにした状態で圧縮成形して圧粉体を得る成形工程と、前記圧粉体の脱脂を行う脱脂工程と、脱脂した圧粉体を焼成してセラミック焼結体を得る焼成工程とを有する。
【0017】
(スラリー作製工程)
まず、セラミック焼結体の原料粉末と熱可塑性樹脂とを含むスラリーを作製する。スラリーは、原料粉末と熱可塑性樹脂と所望により溶媒とをボールミル等で混合することにより得ることができる。この実施形態では、原料粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを混合してスラリーを得る。原料粉末、熱可塑性樹脂、及び溶媒の混合方法は特に限定されず、原料粉末と溶媒とを混合した後に、これに熱可塑性樹脂を添加する方法、熱可塑性樹脂と溶媒とを混合して、エマルジョン又は溶液の状態にして、これと原料粉末とを混合する方法等を挙げることができる。
【0018】
原料粉末の種類は、焼成することによりセラミック焼結体が得られる限り特に限定されない。原料粉末としては、例えば、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、マグネシア粉末、及びフェライト粉末等の金属酸化物の粉末、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン等の金属炭化物の粉末、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の粉末、及びチタン、タングステン、ニオブ等の金属粉末等を挙げることができる。原料粉末としては、例えば、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。原料粉末の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm〜5.0μmが例示される。この平均粒径は日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000)によりレーザ回折法で測定した値である。
【0019】
熱可塑性樹脂は、公知のバインダーを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂の添加率の好ましい範囲は、熱可塑性樹脂の種類により異なるが、熱可塑性樹脂の添加率が多くなるほど後述する脱脂に必要な時間が長くなり、また脱脂・焼成に伴う体積変化も大きくなることから変形やワレが発生しやすくなるので、原料粉末の全質量に対して15質量%以下であるのが好ましく、3質量%以下であるのがより好ましい。また、後述する圧粉体の形状を保持するためにはスラリーに熱可塑性樹脂を添加する必要があり、0.5質量%以上添加するのが好ましい。
【0020】
溶媒は、公知の溶媒を使用することができ、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等の有機溶媒、水等を挙げることができる。溶媒の添加率は、溶媒の種類により異なるが、通常、原料粉末の全質量に対して100質量%程度である。
【0021】
(顆粒成形工程)
得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して造粒することにより、顆粒を作製する。顆粒における溶媒の含有率の好ましい範囲は、溶媒の種類により異なるが、顆粒形成工程後の原料粉末の全質量に対して0.5質量%以上5質量%以下であるのが好ましい。溶媒の含有率が5質量%より多いと、後述する圧粉体の内部に多量の気孔が残留し易くなる。溶媒は、熱可塑性樹脂を軟らかくするので、熱可塑性樹脂と共に含有するのが好ましく、1質量%以上含有するのがより好ましい。顆粒における溶媒の含有率は、スプレードライをする際のスラリーの温度、スプレードライ後の顆粒の乾燥条件等により調整することができる。顆粒における溶媒の含有率は、顆粒の質量m
1と、顆粒を加熱して溶媒を除去した後の質量m
2とを測定し、次の式(1)によって算出することができる。
(m
1−m
2)/m
1×100(%)・・・(1)
顆粒の平均粒径は、特に限定されないが、通常、原料粉末より大きく、1.0μm〜200μmが例示される。この平均粒径は日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000)によりレーザ回折法で測定した値である。
【0022】
(成形工程)
得られた顆粒を成形型に投入し、顆粒を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度Tにした状態で圧縮成形して圧粉体を得る。顆粒を前記温度Tにした状態で圧縮成形すると、顆粒に含まれる熱可塑性樹脂が軟らかい状態で圧縮成形されるから、顆粒が潰れ易くなり、隣接する顆粒同士が隙間なく密着し、得られた圧粉体の内部に粗大な気孔が残るのを抑制することができる。そのため、内部欠陥が少ないセラミック焼結体を提供することができる。なお、前記温度Tは、通常融点未満である。
【0023】
成形方法としては、金型プレス成形法及びラバープレス法すなわち静水圧成形法等の圧縮成形を挙げることができる。以下においては、金型プレス成形法により圧粉体を得る方法の一例を説明する。
図1に示す金型1は、軸線O方向に沿って圧縮成形する一軸方式の金型の一例である。金型1は、2つの開口部4a,4bを有すると共に顆粒7が充填される空間6を有する円筒形の筒部2と、一方の開口部4aから挿入して圧縮成形の際に空間内6を移動させることにより顆粒7を押圧する円柱形の第1パンチ3と、他方の開口部4bから挿入して開口部4bを閉塞する円盤形の第2パンチ5とを有する。常温において、第1パンチ3の外径は筒部2の内径より僅かに小さく、第1パンチ3の外周面と筒部2の内周面との間に適度な隙間を有するので、第1パンチ3を開口部4aから挿入して軸線O方向に移動させることができる。第2パンチ5は、開口部4bを気密に閉塞している。
図1に示す金型1では、顆粒7を圧縮成形する際に、第2パンチ5は軸線O方向に可動せずに筒部2の開口部4bに挿入された状態で固定されているので、第1パンチ3とは機能が異なる。したがって、圧縮成形する際に固定された状態で顆粒7を充填する空間6を形成する、筒部2と第2パンチ5とを総称して本体部8と称する。
【0024】
筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の形状は、筒部2と第1パンチ3及び第2パンチ5とが互いに相補的な形状又は嵌合可能な形状を有する限り特に限定されない。第1パンチ3及び第2パンチ5の断面形状は円形以外に、多角形、及び楕円形等でもよく、目的とするセラミック焼結体の形状に合わせて適宜選択することができる。
図1に示す筒部2は、円筒形の一体物であるが、複数の領域に分割可能に形成されていてもよい。また、筒部2の内周面の断面形状は、円形以外に、多角形、及び楕円形等でもよい。
【0025】
顆粒7を前記温度Tにした状態で圧縮成形する方法は、特に限定されず、投入前に顆粒7を前記温度Tに加熱する方法、予め加熱した金型1に顆粒7を投入して顆粒7を前記温度Tにする方法、及び顆粒7を投入した後に金型1を加熱することにより顆粒7を前記温度Tにする方法を挙げることができる。例えば、投入前に顆粒7を前記温度Tに加熱する方法では、予め顆粒7を炉等に入れて温度Tに加熱しておいて、これを速やかに本体部8に投入し、第1パンチ3を開口部4aから挿入して軸線O方向に押圧することにより、顆粒7を圧縮成形して圧粉体を得る。この方法では、顆粒7を投入する前に筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の少なくとも一つを常温から前記温度Tまでの適宜の温度にしておいてもよい。これらが前記温度T程度に維持されていると、投入した顆粒7を前記温度Tに維持し易い。
圧縮成形するときのプレス圧は、特に限定されず、原料粉末の種類、粒径、熱可塑性樹脂の種類、添加率等に応じて適宜設定される。
顆粒7を圧縮成形した後に金型1から圧粉体を取り出すことにより圧粉体が得られる。
【0026】
(脱脂工程)
得られた圧粉体を加熱することにより脱脂を行う。脱脂により、圧粉体に含まれる熱可塑性樹脂及び溶媒等が取り除かれる。脱脂工程では、熱可塑性樹脂を完全に取り除く加熱温度及び加熱時間、または、脱脂後の圧粉体に熱可塑性樹脂の分解物である炭素が残留する程度の加熱温度及び加熱時間で、圧粉体を加熱する。
【0027】
(焼成工程)
脱脂した圧粉体を焼成することにより、セラミック焼結体が得られる。焼成温度及び焼成時間は、原料粉末の種類、粒径等により、適宜設定される。
【0028】
この発明に係るセラミック焼結体の製造方法により製造されるセラミック焼結体は、圧縮成形により形成可能な形状を有するものを挙げることができ、例えば、板状、円盤状、円柱状、円筒状、多角柱状、リング形状、棒状等の形状を有する。前記セラミック焼結体としては、例えば、切削インサート、軸受及びカム等の機械部品、タイル、耐火物等を挙げることができる。
【0029】
この実施形態のセラミック焼結体の製造方法によると、原料粉末と熱可塑性樹脂とを含む顆粒7を金型1に投入し、顆粒7を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度Tにした状態で圧縮成形して圧粉体を得る成形工程を有するので、顆粒7に含まれる熱可塑性樹脂が軟らかい状態で圧縮成形されるから、顆粒が潰れ易くなり、隣接する顆粒同士が隙間なく密着し、圧粉体の内部に粗大な気孔が残るのを抑制することができ、それによって、内部欠陥が少ないセラミック焼結体を提供することができる。したがって、この実施形態のセラミック焼結体の製造方法によると、強度低下等の製品性能の低下及び寿命の低下を抑制したセラミック焼結体を提供することができるセラミック焼結体の製造方法を提供することができる。
【0030】
[第2実施形態]
この実施形態のセラミック焼結体の製造方法は、顆粒形成工程において、原料粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを含む顆粒を形成し、成形工程において、顆粒7を本体部8に投入した後に、顆粒7が充填されている空間6を気密にした状態で、顆粒7を前記温度Tにすること以外は、第1実施形態のセラミック焼結体の製造方法と同様である。具体的には、空間6に第1パンチ3を配置した状態で、かつ顆粒7を圧縮成形する前に、同じ材質で形成された、本体部8と第1パンチ3とを異なる温度に加熱することにより顆粒7が充填されている空間6を気密にした状態で、顆粒7を前記温度Tにする。以下では、第1実施形態のセラミック焼結体の製造方法とは異なる点を中心にして説明する。
【0031】
この実施形態では、原料粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを含むスラリーを、第1実施形態のスラリー作製工程と同様にして作製する。次いで、第1実施形態の顆粒形成工程と同様にして、得られたスラリーを造粒して顆粒を作製する。熱可塑性樹脂及び溶媒の種類、添加率等、原料粉末及び顆粒の粒径等については、第1実施形態と同様である。
【0032】
この実施形態の成形工程は、
図2に示すように、得られた顆粒7を、本体部8の空間6に投入する工程(投入工程)と、空間6に第1パンチ3を配置した状態で、かつ顆粒7を圧縮成形する前に、本体部8と第1パンチ3とを異なる温度に加熱することにより、顆粒7が充填されている金型1の内部空間6を気密にした状態で、顆粒7を前記温度Tにする工程(加熱工程)と、第1パンチ3を冷却することにより、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面との間に間隙を設けて気密状態を解除する工程(気密状態解除工程)と、第1パンチ3を軸線O方向に移動させて顆粒7を押圧することにより、顆粒7を圧縮成形して圧粉体を得る工程(圧縮成形工程)と、を有する。
【0033】
投入工程において、顆粒7は常温であってもよいし、顆粒7に含まれる溶媒が揮発しない程度の温度で予め加熱されていてもよい。また、本体部8は、通常、常温であるが、顆粒7に含まれる溶媒が揮発しない程度の温度に維持されていてもよい。熱可塑性樹脂に加えて溶媒を含む顆粒7を前記温度Tにすると、顆粒7がより一層軟らかくなり、圧縮成形の際に潰れ易くなる。顆粒7を金型1の内部空間6に密閉する前に顆粒7に含まれる溶媒が揮発してしまうと、溶媒を添加することにより顆粒7を軟らかくし、圧縮成形の際に顆粒7を潰れ易くなる効果が低減し、圧粉体の内部に粗大な気孔が形成され難くなる効果が低減してしまう。したがって、顆粒7が金型1の内部空間6に充填されて密閉されるまで、顆粒7は溶媒が揮発しない程度の温度に維持されているのが好ましい。
【0034】
加熱工程では、開口部4aから第1パンチ3を挿入し、空間6内の適宜の位置に第1パンチ3を配置した状態で、かつ顆粒7を圧縮成形する前に、第1パンチ3の温度が筒部2の温度よりも高くなるように金型1を加熱する。開口部4aから第1パンチ3を挿入するとき、筒部2と第1パンチ3とは、少なくとも顆粒7に含まれる溶媒が揮発し難い温度に維持され、通常、常温である。したがって、筒部2と第1パンチ3とは、常温で適度な間隙を有して第1パンチ3を筒部2に挿入できる大きさを有する。筒部2と第1パンチ3とは同じ材料で形成されているので、第1パンチ3の温度が筒部2の温度よりも高くなるように加熱すると、第1パンチ3は筒部2よりも熱膨張して筒部2に比べて体積が大きくなる。加熱は、第1パンチ3の外周面と筒部2の内周面との間の少なくとも一部が接触し、第1パンチ3の外周面と筒部2の内周面との間の間隙がなくなり、顆粒7が充填されている空間6が気密になるように、行われる。このような気密な空間6で顆粒7を前記温度Tにすることにより、顆粒7に含まれる溶媒が揮発するのを抑制することができる。第1パンチ3の外周面と筒部2の内周面との間に間隙がある状態で本体部8に投入された顆粒7を前記温度Tに加熱した場合、空気と接している面すなわち解放面にある顆粒7から溶媒が揮発し易い。そのため、解放面にある顆粒7は他の領域にある顆粒7に比べて硬くなり、圧縮成形する際に潰れ難くなるので、圧縮成形した後の圧粉体は解放面付近の密度がその他の領域に比べて小さくなる。圧粉体に密度分布の偏りがあると、焼成工程を経て得られるセラミック焼結体の変形及び強度の低下を引き起こすおそれがある。したがって、本体部8に投入された顆粒7を、金型1を加熱することにより前記温度Tにする場合には、空間6に第1パンチ3を配置した状態で、かつ顆粒7を圧縮成形する前に、筒部2及び第1パンチ3を適宜の温度で加熱して顆粒7が充填されている空間6を気密にすることが好ましい。
【0035】
なお、この実施形態では、第2パンチ5を筒部2と同じ温度に加熱しているが、常温で第2パンチの外周面と筒部の内周面との間に間隙を有する場合には、第1パンチ3の場合と同様に、第2パンチの温度を筒部の温度よりも高くなるように加熱して、顆粒7が充填されている空間6を気密にした状態で顆粒7を前記温度Tに加熱することが好ましい。
【0036】
筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の材質は、特に限定されず、従来公知の材質を挙げることができる。筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の材質としては、例えば、SUS303、及びSUS440C等のステンレス鋼、炭素鋼、ダイス鋼、ハイス鋼、超硬合金等を挙げることができる。
【0037】
筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の加熱方法は、顆粒7が充填されている空間6を気密にした状態で顆粒7を温度Tにすることができる限り特に限定されない。
図2には、筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の内部に予め設けておいた流路9a〜9cに温めた液体、例えば温水及び温オイル等を流して加熱する方法が示されている。この他に、筒部、第1パンチ、及び第2パンチにヒータを巻き付けておき、ヒータにより加熱する方法、金型をオーブン等の高温雰囲気に載置した状態で、さらに第1パンチ及び/又は第2パンチを、流路9b,9cに流す液体やヒータ等で加熱する方法等を挙げることができる。
【0038】
例えば、筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の材質がすべてSUS440Cであり、常温における、筒部2の内径が10mm(公差H7)、第1パンチ3の外径が10mm(公差g6)である場合、SUS440Cの0℃〜100℃における線熱膨張係数は10.2×10
−6(deg
−1)であるので、筒部2及び第2パンチ5を70℃に加熱し、第1パンチ3を100℃に加熱すると、計算上、筒部2の内径は10.020mm(公差を考慮した最大値)に、第1パンチ3の外径は10.067mm(公差を考慮した最小値)になる。なお、加熱した後の筒部2の内径及び第1パンチ3の外径は、以下の式(1)により、筒部2の内周の長さの変化量及び第1パンチ3の外周の長さの変化量を算出し、これを径寸法に換算することにより求めた。
ΔL=L×α×ΔT・・・・(1)
(ΔL:前記内周又は前記外周の長さの変化量、L:常温(20℃)における前記内周又は前記外周の長さ、α:線熱膨張係数、ΔT:常温(20℃)との温度差)
このように、筒部2と第1パンチ3とが同じ材質である場合、第1パンチ3の温度が筒部2の温度よりも高くなるように加熱することにより、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面とを接触させて顆粒7が充填されている空間6を気密にすることができる。
【0039】
気密状態解除工程では、第1パンチ3を冷却することにより、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面との間に間隙を設けて、顆粒7が充填されている空間6の気密状態を解除する。これによって、第1パンチ3の軸線O方向の移動が可能になる。
【0040】
第1パンチ3の冷却方法は、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面との間に間隙を形成することができる限り特に限定されず、例えば、
図2に示すように、第1パンチ3の内部に予め設けておいた流路9bに冷媒を流して冷却する方法等を挙げることができる。冷媒としては、例えば、第1パンチ3の加熱温度よりも低い温度の液体や気体、例えば、冷却水、オイル、空気等を挙げることができる。
【0041】
圧縮成形工程では、気密状態を解除した後に速やかに第1パンチ3を軸線O方向に移動させて顆粒7を押圧することにより、顆粒7を圧縮成形して圧粉体を得る。
【0042】
脱脂工程及び焼成工程は、第1実施形態と同様にして行うことにより、セラミック焼結体が得られる。
【0043】
この実施形態のセラミック焼結体の製造方法によると、成形工程において、原料粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを含む顆粒が充填されている空間6を気密にした状態で、顆粒7を前記温度Tにして圧縮成形するので、顆粒7に含まれる溶媒が揮発することを抑制することができる。熱可塑性樹脂に加えて溶媒を含む顆粒7を前記温度Tにすると、顆粒7がより一層柔らかくなるので、圧縮成形の際に顆粒7が潰れ易く、隣接する顆粒7同士が隙間なく密着し、圧粉体の内部に粗大な気孔が残るのをより一層抑制することができる。その結果、内部欠陥がより一層少ないセラミック焼結体を提供することができる。したがって、この実施形態のセラミック焼結体の製造方法によると、強度低下等の製品性能の低下及び寿命の低下を抑制したセラミック焼結体を提供することができるセラミック焼結体の製造方法を提供することができる。
【0044】
[第3実施形態]
この実施形態のセラミック焼結体の製造方法は、成形工程において、顆粒7を本体部8に投入した後に、空間6に第1パンチ3を配置した状態で、かつ顆粒7を圧縮成形する前に、異なる材質で形成された、本体部8と第1パンチ部3とを略同じ温度に加熱することにより顆粒7が充填されている空間6を気密にした状態で、顆粒7を前記温度Tにすること以外は、第2実施形態のセラミック焼結体の製造方法と同様である。以下では、第2実施形態のセラミック焼結体の製造方法とは異なる点を中心にして説明する。
【0045】
まず、第2実施形態と同様にして、スラリー作製工程と顆粒形成工程とを行うことにより、原料粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを含有する顆粒を作製する。
【0046】
成形工程は、第2実施形態と同様に、投入工程と加熱工程と気密状態解除工程と圧縮成形工程とを有する。
この実施形態の成形工程で使用される金型1は、第1パンチ3の材質が筒部2に比べて熱膨張率が大きい材質であり、加熱工程で筒部2と第1パンチ3とを略同じ温度に加熱すること以外は第2実施形態のセラミック焼結体の製造方法と同様である。この実施形態の金型1は、第1パンチ3の材質が筒部2に比べて熱膨張率が大きい材質であるので、筒部2と第1パンチ3とを略同じ温度に加熱した場合に、第1パンチ3は筒部2よりも熱膨張して筒部2に比べて体積が大きくなる。筒部2及び第1パンチ5それぞれの材質は、筒部2と第1パンチ3とを略同じ温度に加熱したときに、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面との間の少なくとも一部が接触し、第1パンチ3の外周面と筒部2の内周面との間の間隙がなくなり、顆粒7が充填されている空間6が気密になるように、適宜選択される。このような気密な空間6で顆粒7を前記温度Tにすることにより、顆粒7に含まれる溶媒が揮発するのを抑制することができる。
【0047】
筒部2、第1パンチ3、及び第2パンチ5の加熱方法は、第2実施形態で例示した加熱方法を挙げることができる。また、これら以外に、金型1をオーブン等の高温雰囲気に載置して加熱する方法を挙げることができる。
【0048】
例えば、筒部2の材質がSUS440C、第1パンチ3の材質がSUS303であり、常温における、筒部2の内径が10mm(公差H7)、第1パンチ3の外径が10mm(公差g6)である場合、SUS440Cの0℃〜100℃における線熱膨張係数は10.2×10
−6(deg
−1)であり、SUS303の0℃〜100℃における線熱膨張係数は17.3×10
−6(deg
−1)であるので、筒部2及び第1パンチ3を共に70℃に加熱すると、計算上、筒部2の内径は10.020mm(公差を考慮した最大値)に、第1パンチ3の外径は10.072mm(公差を考慮した最小値)になる。なお、加熱した後の筒部2の内径及び第1パンチ3の外径は、第2実施形態と同様にして、式(1)により求めた。このように、第1パンチ3が筒部2に比べて熱膨張率が大きい材質である場合、第1パンチ3と筒部2とを共に同じ温度で加熱することにより、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面とを接触させて顆粒7が充填されている空間6を気密にすることができる。
【0049】
気密状態解除工程では、第1パンチ3のみを冷却するか、或いは第1パンチ3と本体部8とを冷却することにより、筒部2の内周面と第1パンチ3の外周面との間に間隙を設けて、顆粒7が充填されている空間6の気密状態を解除する。これによって、第1パンチ3の軸線O方向の移動が可能になる。気密状態解除工程は、第1パンチ3のみを冷却することにより空間6に気密状態を解除すると、顆粒7を圧縮成形する際に顆粒7を前記温度Tに維持し易いので、第1パンチ3のみを冷却することが好ましい。第1パンチ3、筒部2、及び第2パンチ5の冷却方法は、第2実施形態と同様である。
【0050】
圧縮成形工程では、気密状態を解除した後に速やかに第1パンチ3を軸線O方向に移動させて顆粒7を押圧することにより、顆粒7を圧縮成形して圧粉体を得る。
【0051】
次いで、第1実施形態と同様にして、脱脂工程及び焼成工程を行うことにより、セラミック焼結体が得られる。
【0052】
この実施形態のセラミック焼結体の製造方法によると、成形工程において、原料粉末と熱可塑性樹脂と溶媒とを含む顆粒が充填されている空間6を気密にした状態で、顆粒7を前記温度Tにして圧縮成形するので、顆粒7に含まれる溶媒が揮発することを抑制することができる。熱可塑性樹脂に加えて溶媒を含む顆粒7を前記温度Tにすると、顆粒7がより一層柔らかくなるので、圧縮成形の際に顆粒7が潰れ易く、隣接する顆粒7同士が隙間なく密着し、圧粉体の内部に粗大な気孔が残るのをより一層抑制することができる。その結果、内部欠陥がより一層少ないセラミック焼結体を提供することができる。したがって、この実施形態のセラミック焼結体の製造方法によると、強度低下等の製品性能の低下及び寿命の低下を抑制したセラミック焼結体を提供することができるセラミック焼結体の製造方法を提供することができる。
【0053】
この発明に係るセラミック焼結体の製造方法は、前述した実施形態に限定されることはなく、この発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0054】
例えば、
図1に示す金型1は、第2パンチ5を固定した状態で第1パンチ3を軸線O方向に移動して圧縮成形する片押し型の金型であるが、
図3に示すように、第1パンチ103と第2パンチ105との両方を軸線O
1方向に移動して圧縮成形する両押し型であってもよい。
図3に示す第2パンチ105は、円柱形である。
図3に示す第2パンチ105は、筒部102に固定されているのではなく、軸線O
1方向に移動して顆粒107を圧縮成形するので、第1パンチ103と同様の機能を有する。したがって、常温において、第2パンチ105の外周面と本体部102の内周面との間に、第2パンチ105を移動可能な程度の適度な間隙を有する。よって、
図3に示す金型101を用いて第2実施形態の製造方法によりセラミック焼結体を製造する場合には、加熱工程において、第1パンチ103と同様に第2パンチ105の温度も本体部102の温度よりも高くなるように加熱することにより、顆粒107が充填されている空間106を気密にした状態で顆粒107を前記温度Tに加熱する。また、
図3に示す金型101を用いて第3実施形態の製造方法によりセラミック焼結体を製造する場合には、第1パンチ103と同様に第2パンチ105の材質を筒部102に比べて熱膨張率が大きい材質とする。なお、
図3に示す金型101は、圧縮成形する際に、第1パンチ103及び第2パンチ105が共に軸線O
1方向に移動し、圧縮成形に寄与するので、筒部102を本体部108と称することもある。
【0055】
また、第1パンチ3,103及び第2パンチ5,105の形状は、軸線O方向に沿って径が変化せずに同一である場合に限定されない。例えば、
図4(a)及び(b)に示すように、第1パンチ203,303は、顆粒207,307に接触する部分が筒部202,302の内径と略同一の外径を有する円盤体213,313であり、それ以外の部分が筒部202,302の内径より小さい外径を有する棒状体223,323であってもよい。
図4(a)に示すように、第2パンチ205は、顆粒207に接触する部分が筒部202の内径と略同一の外径を有する円盤体215であり、それ以外の部分が筒部202の内径より大きい外径を有し、筒部202の端面に接触する円盤体225であってもよい。
図4(b)に示すように、第2パンチ305は、顆粒307に接触する部分が筒部302の内径と略同一の外径を有する円盤体315であり、それ以外の部分が筒部302の内径より小さい外径を有する棒状体325であってもよい。
【0056】
また、
図1に示す金型1は、第1パンチ3及び第2パンチ5をそれぞれ一つ有するが、第1パンチ3及び第2パンチ5の数は特に限定されず、複数のパンチで構成されてもよい。例えば、
図5に示すように、第1パンチ403が軸線O
4を含む領域に配置されるパンチ403aとこのパンチ403aの外周部に配置される円筒状のパンチ403bとの2つのパンチで構成されてもよい。