特許第6355622号(P6355622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ショット コーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許6355622-多結晶カルコゲナイドセラミック材料 図000004
  • 特許6355622-多結晶カルコゲナイドセラミック材料 図000005
  • 特許6355622-多結晶カルコゲナイドセラミック材料 図000006
  • 特許6355622-多結晶カルコゲナイドセラミック材料 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355622
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】多結晶カルコゲナイドセラミック材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/547 20060101AFI20180702BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C04B35/547
   G01J1/02 H
【請求項の数】33
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-507089(P2015-507089)
(86)(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公表番号】特表2015-520719(P2015-520719A)
(43)【公表日】2015年7月23日
(86)【国際出願番号】US2013036618
(87)【国際公開番号】WO2014011295
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年3月18日
(31)【優先権主張番号】13/447,921
(32)【優先日】2012年4月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507359579
【氏名又は名称】ショット コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】キース グレゴリー ローズンバーグ
(72)【発明者】
【氏名】エリック ヘクター アールティ
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−271122(JP,A)
【文献】 特開平05−310467(JP,A)
【文献】 特開2008−195593(JP,A)
【文献】 特開昭61−205659(JP,A)
【文献】 特開平08−271701(JP,A)
【文献】 特開2008−127236(JP,A)
【文献】 特開平08−034639(JP,A)
【文献】 特開平11−295501(JP,A)
【文献】 特開2010−237029(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/062394(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
G01J 1/02−1/08
G02B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶構造を有する多形体でのカルコゲナイド材料を含み、且つ、波長1100nmでの吸光係数≦2.75cm-1、およびビッカース硬度≧180kg/mm2を有する、焼結された多結晶セラミック体。
【請求項2】
立方晶構造を有する多形体でのカルコゲナイド材料が、硫化亜鉛の閃亜鉛鉱である、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項3】
前記セラミック体が、波長1100nmでの吸光係数0.05〜2.75cm-1を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項4】
前記セラミック体が、吸光係数≦2.5cm-1を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項5】
前記セラミック体が、ビッカース硬度180〜265kg/mm2を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項6】
前記セラミック体が、ビッカース硬度≧200kg/mm2を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項7】
前記セラミック体が、0.1Nで測定されたヌープ押込み硬度少なくとも180kg/mm2を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項8】
前記セラミック体が、波長1100nmでの吸光係数2.0cm-1およびビッカース硬度少なくとも200kg/mm2を有する、請求項2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項9】
前記セラミック体が、波長1100nmでの吸光係数1.0cm-1およびビッカース硬度少なくとも220kg/mm2を有する、請求項8に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項10】
前記セラミック体が、波長1100nmでの吸光係数1.0cm-1およびビッカース硬度少なくとも240kg/mm2を有する、請求項2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項11】
前記セラミック体が、波長1100nmでの吸光係数≦1.0cm-1およびビッカース硬度少なくとも250kg/mm2を有する、請求項10に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項12】
前記セラミック体が、孔の平均半径0.10ミクロン未満を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項13】
前記セラミック体が、孔の平均半径0.05ミクロン未満を有する、請求項12に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項14】
前記セラミック体が、平均粒度8μm未満を有する、請求項1または2に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項15】
前記セラミック体が、平均粒度5μm未満を有する、請求項14に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項16】
多結晶カルコゲナイドセラミック材料の製造方法であって、
カルコゲナイド粉末を温度900〜1000℃に加熱すること、
加熱された粉末を、圧力40〜60MPa且つ温度900〜1000℃で、0.16〜6時間の間、一軸プレスに供すること、および
得られるプレスされたカルコゲナイド材料を、温度880〜1000℃、180〜250MPaの不活性ガス圧力下で、10〜100時間の間、熱間等方圧プレスに供すること、
を含む、前記方法。
【請求項17】
前記カルコゲナイド粉末が、ZnS粉末である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記カルコゲナイド粉末を、焼結温度900〜1000℃に、1.5〜12K/分の速度で加熱する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記カルコゲナイド粉末の粒径が、≧400nm〜10μmの範囲内である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
焼結前に、カルコゲナイド粉末を真空に供して捕捉されたガスおよび/または汚染物質を除去する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項21】
真空が10-4〜10-2torrの範囲内である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
焼結前に、カルコゲナイド粉末を1つまたはそれより多くの温度焼却段階に供して、カルコゲナイド粒子の表面に吸着していることがある捕らわれた炭化水素を取り除く、請求項16または17に記載の方法。
【請求項23】
1つまたはそれより多くの焼却段階を、10-4〜10-2torrの真空下、温度50〜300℃で実施する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の多結晶カルコゲナイドセラミックを含む、赤外線センサを保護するための赤外線窓またはドーム。
【請求項25】
少なくとも1つの赤外線センサ、および前記少なくとも1つの赤外線センサを外部環境から保護するための赤外線窓またはドームを含む、赤外線画像化システムであって、前記赤外線窓またはドームが請求項24に記載の赤外線窓またはドームである、前記赤外線画像化システム。
【請求項26】
波長0.4〜14μmの範囲内の光を集光するための赤外線レンズであって、請求項1から15までのいずれか1項に記載の多結晶カルコゲナイドセラミック材料を含む、前記赤外線レンズ。
【請求項27】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、0.7〜3μmの波長範囲、3.0〜8.0μmの波長範囲および8.0〜12.0μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも40%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項28】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、0.7〜3μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも50%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項29】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、3.0〜8.0μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも50%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項30】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、8.0〜12.0μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも50%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項31】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、0.7〜3μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも60%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項32】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、3.0〜8.0μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも60%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【請求項33】
前記セラミック体が、厚さ6mmで、8.0〜12.0μmの波長範囲内で、入射赤外光の少なくとも60%を透過する、請求項1に記載の焼結された多結晶セラミック体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の要約
本発明は、赤外線スペクトル内、例えば波長範囲0.7〜14μm、例えば近赤外線範囲0.7〜1.0μm、中波赤外線範囲(MWIR)3〜5μm、または長波赤外線範囲(LWIR)8〜14μmの光を透過する多結晶材料に関する。かかる材料は、赤外線窓、ドーム、およびレンズ用途のために使用される。本発明は、多結晶ZnSセラミック材料を製造するための独自の方法にも関する。
【0002】
赤外線センサは、民間および軍事用途において使用されている。例えば、赤外線センサを、熱線追尾ミサイルの誘導システムにおいて使用することもできるし、あるいは、赤外線を放射する任意の物体を検知するために使用することもできる。壊れやすく且つ敏感なそれらの素子を保護するために、IRセンサは典型的には赤外線窓またはドームに対して後ろの構造に位置している。例えば、衛星、ミサイル、航空機および他の類似の装置において、外部のIR窓またはドームが使用される。それらのIR窓は、2つの一般的な機能を提供する。第一に、IR窓は当然、赤外光をIRセンサに伝達しなければならない。さらには、IR窓は、外部環境からセンサを保護できなければならない。
【0003】
Propst et al. (US5425983号)によって、飛行体、例えばミサイルおよび航空機について記載されるとおり、IRセンサはミサイルまたは航空機のノーズまたは腹部に搭載され、前方方向に遮ることのない視野を有するように、飛行経路に対して前を向いていることが一般的である。その結果、IRセンサを保護するIR窓またはドームの材料は、粒子、例えば雨および埃によって、特にミサイルまたは航空機が高速で且つ/または砂漠領域の上を飛行する際に、損傷、劣化または侵食を受ける。これは、窓材料の強度の低下、赤外光を透過する窓の能力の低下、または窓材料自体の破損すらみちびくことがある。
【0004】
赤外線窓は、例えば2〜12μm、または8〜14μmの波長範囲において透明である材料で製造される。即ち、それらは著しい割合、例えば少なくとも50%の範囲の入射赤外光を透過する。この水準の透過を達成するために、赤外線窓またはドームのために使用される一般的な材料は、サファイア、ゲルマニウム、ケイ素、フッ化マグネシウム、リン化ガリウムおよびカルコゲナイド材料(II−VI材料)、例えば硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛およびテルル化カドミウムである。
【0005】
それらの材料は、赤外スペクトルの少なくとも一部において充分な透過を示すが、それらの強度は特定の用途のために常に充分であるというわけではない。赤外線窓の材料として、サファイアは非常に有力である。しかしながら、中域の赤外光を透過するサファイアの能力は、波長5ミクロンで減少し、且つ、波長6ミクロン以上の赤外光に対しては不透明である。さらには、サファイアは機械加工が困難であり、従って特定の曲率を必要とする用途、例えば誘導ミサイルのノーズにおけるセンサを保護するためのIRドームのためには不適であることがある。
【0006】
他の材料、例えば硫化亜鉛、セレン化亜鉛、ゲルマニウムおよびヒ化ガリウムは、厚さがより厚くても、赤外スペクトルにおいて良好な水準の透過を保持する。しかしながら、それらの材料の強度は、多くの場合、特定の用途においてIR窓が曝露される腐食および劣化(例えば高速ミサイルおよび航空機における雨および埃粒子への曝露)に耐えるために充分ではない。
【0007】
赤外線窓の製造における硫化亜鉛の使用は長年知られている。当初、硫化亜鉛のIR窓は、ホットプレス法によって製造された。例えば、Carnall et al. (US3131025号およびUS3131238号)(硫化亜鉛粉末を鋳型内に入れ、それを真空に供することによって多結晶性の光学素子を製造するための方法を記載)を参照のこと。硫化亜鉛が、1420°F〜1770°F(例えば1550°F)の高温に加熱され、その後、硫化亜鉛は、高温を保持しながら液圧プレスによって20000〜40000psiの圧力に5〜35分間供される。Carnall et al. (US3131026号)、Roy et al. (US3454685号)、およびMartin et al. (US4366141号)も、硫化亜鉛のホットプレスのための材料および方法を記載している。
【0008】
しかしながら、より良好な光学特性を有するより大きなサイズのZnS材料を提供することが望まれていた。結果として、ZnS窓を製造するための化学気相堆積(CVD)法が開発された。CVD法において、固体の亜鉛が蒸発され、硫化水素と高温中で反応される。例えばTeverovsky et al. (US 5,383,969)は、ZnSをCVDで製造するための方法および装置を開示している。しかしながら、未だに、赤外スペクトル範囲内での充分な光学特性と、改善された機械的特性、例えば高い硬度との両方を示し、IR窓およびドームが曝露される過酷な条件に耐える赤外光学材料を提供する必要性がある。
【0009】
従って、本発明の態様は、0.7〜14μmの波長範囲内で、例えば1〜10μmまたは8〜12μmの波長範囲内で良好な光学透過特性を示す多結晶セラミック組成物を提供することである。本発明の他の態様は、赤外線窓、ドームおよびレンズ用途のためのかかる材料の使用である。本発明のさらなる態様は、本発明の多結晶セラミック材料を製造するための独自の方法である。
【0010】
明細書および添付の特許請求の範囲を熟読すれば、本発明のさらなる態様および利点は、当業者に明らかになる。
【0011】
従って、本発明によれば、立方晶構造を有する多形体でのカルコゲナイド材料、例えば硫化亜鉛の閃亜鉛鉱を含み、且つ、波長1100nmでの吸光係数≦2.75cm-1、およびビッカース硬度≧180kg/mm2を有する、焼結された多結晶セラミック体が提供される。
【0012】
本発明によれば、多結晶セラミック材料を、立方晶構造を有する多形体を示す任意のカルコゲナイド材料、たとえは硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、テルル化カドミウムから選択することができる。好ましくは、多結晶セラミック材料は、主として(完全にまたは本質的に完全にではない場合)、閃亜鉛鉱(立方晶)結晶構造から構成される。
【0013】
本発明による多結晶セラミック材料(好ましくはZnS)は、赤外スペクトル範囲の光を透過する。例えば、前記多結晶のZnSセラミック材料は、厚さ6mmで、例えば0.7〜3μmの波長範囲、3.0〜8.0μmの波長範囲、および/または8.0〜12.0μmの波長範囲内で、好ましくは入射赤外光の少なくとも40%を、特に、入射赤外光の少なくとも50%を、特に入射赤外光の少なくとも60%を、および最も好ましくは入射赤外光の少なくとも70%を透過する。
【0014】
本発明の態様によれば、多結晶ZnSセラミック材料は、波長1100nmで、好ましくは吸光係数≦2.75cm-1(例えば0.2〜2.5cm-1または0.2〜1.0cm-1)を、特定には≦2.0cm-1、特に≦1.5cm-1、および最も好ましくは≦0.5cm-1、例えば0.2cm-1、0.1cm-1、さらには0.05cm-1を有する。
【0015】
多結晶ZnSセラミック材料は、本発明によれば、有利な物理的特性も示す。硬度に関しては、本発明の多結晶ZnS材料は、高いビッカース硬度およびヌープ硬度の値を示す。例えば、本発明の多結晶ZnS材料は、好ましくはビッカース硬度≧180kg/mm2(例えば180〜265kg/mm2)、特定には≧200kg/mm2、非常に特定には≧210kg/mm2、特に≧230kg/mm2、および最も好ましくは≧250kg/mm2を有する。
【0016】
同様に、本発明の多結晶ZnS材料は、0.1Nの力で測定して、好ましくはヌープ押込み硬度少なくとも≧180kg/mm2(例えば180〜265kg/mm2)、特に≧200kg/mm2、特定には≧225kg/mm2、非常に特定には≧250kg/mm2、および最も特定には≧260kg/mm2を有する。
【0017】
最も一般的な用途において、ZnSは多スペクトル用途(この場合、材料は0.7〜14μmの波長範囲内の広い部分を透過させる)、およびFLIR(前方監視赤外線)用途(この場合、材料は8〜12μmの波長範囲を透過させる)のために使用される。
【0018】
多スペクトル用途について、市販のZnS材料は、典型的には(1100nmでの)吸光係数約0.05cm-1を示し、ビッカース硬度約147kg/mm2を有する。FLIR用途について、市販のZnS材料は、典型的には(1100nmでの)吸光係数約3.6cm-1を示し、ビッカース硬度約230kg/mm2を有する。
【0019】
本発明のさらなる態様に関連して、本発明の多結晶ZnS材料は、多スペクトル用途のために適しており、且つ、好ましくは(1100nmでの)吸光係数≦1.5cm-1を示し、少なくとも200kg/mm2のビッカース硬度を有し、特定には(1100nmでの)吸光係数≦1.0cm-1を示し、少なくとも200kg/mm2のビッカース硬度を有し、特に(1100nmでの)吸光係数≦0.5cm-1を示し、少なくとも200kg/mm2のビッカース硬度を有し、最も好ましくは(1100nmでの)吸光係数≦0.2cm-1を示し、少なくとも220kg/mm2のビッカース硬度を有する。
【0020】
本発明のさらなる態様に関連して、本発明の多結晶ZnS材料は、FLIR用途のために適しており、且つ、好ましくは(1100nmで)≦2.5cm-1、特定には(1100nmで)≦2.0cm-1、特に(1100nmで)≦1.5cm-1、および最も好ましくは(1100nmで)≦1.0cm-1の吸光係数を示す。さらには、該材料は好ましくは少なくとも210kg/mm2、特定には少なくとも220kg/mm2、特に少なくとも240kg/mm2、および最も好ましくは少なくとも250kg/mm2のビッカース硬度を示す。
【0021】
他の物理的特性については、本発明によるZnS材料は好ましくは、多スペクトル用途については、熱膨張率少なくとも6.0×10-6/K、特に少なくとも約6.5×10-6/K、およびFLIR用途については、熱膨張率少なくとも6.0×10-6/K、特に少なくとも約6.8×10-6/Kを有する。さらには、本発明によるZnS材料は好ましくは、多スペクトル用途については、熱伝導率最大0.3ワット/cm ℃、特に最大約0.27ワット/cm ℃、およびFLIR用途については、熱伝導率最大0.2ワット/cm ℃、特に少なくとも最大約0.167ワット/cm ℃を有する。
【0022】
物理的構造に関して、本発明によるZnS材料は、好ましくは本質的に立方晶閃亜鉛鉱の多形体のZnSからなる。特に、ZnSの他の主な多形体、つまり、六方晶ウルツ鉱の結晶形の形成を制限することが望ましい。ウルツ鉱結晶は、ZnS材料の光学的特性と機械的特性との両方に悪影響を及ぼす。ウルツ鉱の存在は、2つの相の間の屈折率の不整合に基づき、より短い波長での散乱を引き起こす。好ましくは、ウルツ鉱結晶のパーセンテージは、1体積%未満、特定には0.1体積%未満、特に0.05体積%未満である。
【0023】
また、物理的構造に関して、本発明によるZnS材料は、好ましくは本質的に、平均粒度好ましくは8μm未満、特に6μm未満、特定には5μm未満、および最も好ましくは3μm未満を有する立方晶閃亜鉛鉱の多形体のZnSからなる。
【0024】
材料の強度を高めるためには、小さな粒度が望ましい。粒度は、よく知られたHall−Petchの関係
σy=σ0+kd-1/2
[式中、σyは降伏応力、σ0は固有降伏応力(intrinsic yield stress)、kは特定の材料についての定数、且つdは粒度である]
に基づく強度と関係している。従って、粒度が減少すると(約10nmの粒度まで)、降伏応力の観点で強度が増加する。
【0025】
さらには、本発明によるZnS材料が低い多孔性並びに低い平均孔径を有することが好ましい。多孔性が上昇すると、透過品質は低下する傾向にある。同様に、平均孔径が増加すると、透過品質は低下する傾向にある。従って、本発明によるZnS材料は、好ましくは約0.10ミクロン未満、特に0.07ミクロン未満、殊に0.05ミクロン未満の孔の平均半径を有する。
【0026】
所望の光学特性および機械的特性を達成するために、本発明による多結晶ZnSセラミック材料は、焼結と、熱間等方圧プレスを用いた一軸プレスとを組み合わせた独自の方法によって製造される。従って、本発明の方法の態様によって、ZnS粉末を最初に焼結および一軸プレスに供し、その際、粉末を好ましくは900〜1000℃の温度に、(例えば好ましくは約1.5〜12K/分の速度で)加熱する。その際、材料を、好ましくは約40〜60MPaの圧力で、好ましくは約0.16〜6時間の間、一軸プレスに供する。その後、得られるプレスされた材料を、例えば880〜1000℃、好ましくは約900〜1000℃、特に約925〜975℃の温度で、好ましくは約200〜210MPaの圧力の不活性ガス下で、好ましくは約10〜100時間の間、熱間等方圧プレスに供する。
【0027】
従って、本発明の他の態様によれば、多結晶カルコゲナイドセラミック材料、好ましくは多結晶ZnSセラミック材料の製造方法であって、
カルコゲナイド粉末を温度900〜1000℃に加熱すること、
加熱された粉末を、圧力40〜60MPa且つ温度900〜1000℃で、0.16〜6時間の間、一軸プレスに供すること、および
得られるプレスされたカルコゲナイド材料を、温度880〜1000℃、好ましくは900〜1000℃、特に925〜975℃、180〜250MPaの不活性ガス圧力下で、10〜100時間の間、熱間等方圧プレスに供すること
を含む、前記方法が提供される。
【0028】
出発材料、例えばZnS粉末の粒径は、好ましくは≧400nm〜10μmの範囲内である。焼結挙動を改善するために充分に微細であるが、ウルツ鉱−閃亜鉛鉱転移温度の低下を防ぐためには充分に粗い粒径を有する粉末を使用することによって、改善された強度を有する非常に透明な材料が、光学特性を劣化させることなく作製される。好ましくは、ZnS粉末は粒子で構成され、その際、粒子の10質量%未満が直径500nm以下を有し、粒子の50質量%未満が直径5μm以下を有し、且つ、粒子の90質量%未満が直径10μm以下を有する。
【0029】
焼結温度は、ZnSの昇華点(〜1185℃)より充分下、好ましくは閃亜鉛鉱形がウルツ鉱形に変換する転移温度(〜1020℃)よりも下に保たれる。XueおよびRajは、硫化亜鉛において観察される熱的に誘導された可塑性を記載している(Xue, L. A., & Raj, R. (1989) Superplastic Deformation of Zinc Sulfide Near Its Transformation Temperature. J. Am. Ceram. Soc, 72 [10], 1792−1796)。焼結鋳造工程(つまり、焼結と一軸プレスとの組み合わせ)は、双晶化の機構を通じて結晶の変形を引き起こす。この工程の間に作り出されたこの高度に双晶化された微細構造は、引き続く工程の間、例えば、熱間等方圧プレスの間の粒成長を阻止する。
【0030】
焼結および一軸プレスの後、ZnS材料を熱間等方圧プレス(HIP)に供する。熱間等方圧プレスにおいて、材料を高められた温度および高められた等方性ガス圧力(つまり、全ての側から印加されるガス圧)に供する。本発明によれば、一軸にプレスされた材料の熱間等方圧プレスを、好ましくは925〜975℃の温度で、不活性ガス(典型的にはアルゴン)下、好ましくは200〜210MPaの圧力で実施する。ホットプレスの間、部品が所望の温度に達した後に圧力を印加することによって、高度の透明度が達成される。これは、ある程度の塑性変形を可能にし、且つ、孔を取り込みかねない素早い粒成長を阻止する。従って、熱間等方圧プレスの1つの機能は、孔の数および孔の平均半径を減少させることによって、残留する多孔性を減少させることである。熱間等方圧プレスを好ましくは10〜100時間、例えば12〜20時間の間、実施する。
【0031】
本発明の他の態様によれば、ホットプレス一式の鋳型内に設置した後、ZnS粉末化試料を最初に真空に供して、捕捉されたガスおよび試料からの汚染物質を除去する。真空は好ましくは10-4〜10-2torrの範囲内である。
【0032】
さらには、焼結前に、ZnS粉末化試料を1つまたはそれより多くの低温焼却段階に供して、表面に吸着されていることがある捕らわれた炭化水素を除去する。そのような炭化水素の存在は、IRスペクトルの重要な領域における吸収を引き起こすことがあり、得られる材料の透過効率がそのことによって低減する。それらの焼却段階を、好ましくは真空下(例えば10-3〜10-2torr)下、温度50〜300℃で実施する。例えば、ZnS粉末化試料を、50℃、150℃、その後200℃に加熱し、それらの温度の各々で所望の真空度(例えば10×10-3torrの真空)が達成されるまで保持することができる。
【0033】
熱間等方圧プレスの完了後、材料を室温に冷却し、その後、慣例に従って研摩に供することができる。
【0034】
得られる材料を、赤外線窓、ドーム、およびレンズ用途のための典型的な用途において使用できる。
【0035】
従って、本発明の他の態様によれば、赤外線センサを保護するための赤外線窓またはドームであって、赤外線窓またはドームが本発明の多結晶ZnSセラミック材料、好ましくは波長1100nmで吸光係数≦2.75cm-1およびビッカース硬度≧180kg/mm2(例えば波長1100nmで0.25〜2.75cm-1および180〜265kg/mm2)を有する多結晶ZnSセラミック材料を含む、前記赤外線窓またはドームが提供される。
【0036】
本発明の他の態様によれば、少なくとも1つの赤外線センサおよび前記少なくとも1つの赤外線センサを外部環境から保護するための赤外線窓またはドームを含む赤外線画像化システムであって、前記赤外線窓またはドームが本発明の多結晶ZnSセラミック材料、好ましくは波長1100nmで吸光係数≦2.75cm-1およびビッカース硬度≧180kg/mm2(例えば波長1100nmで0.05〜0.2cm-1および180〜265kg/mm2)を有する多結晶ZnSセラミック材料を含む、前記赤外線画像化システムが提供される。
【0037】
本発明の他の態様によれば、0.7〜14μmの波長範囲内の光を集光するための赤外線レンズであって、前記赤外線レンズが本発明の多結晶ZnSセラミック材料、好ましくは波長1100nmで吸光係数≦2.75cm-1およびビッカース硬度≧180kg/mm2(例えば波長1100nmで0.05〜0.2cm-1および180〜265kg/mm2)を有する多結晶ZnSセラミック材料を含む、前記赤外線レンズが提供される。
【0038】
本発明の様々な他の特徴および付随する利点はより完全に理解され、なぜなら、それは添付の図面と関連づけて考える際により良く理解されるからであり、前記図面において、同様の特徴の参照は、複数の図を通して同一または同様の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明による多結晶ZnSセラミック組成物の製造において使用するためのホットプレスダイ鋳型を図示する。
図2】本発明によって達成される細かい微細構造を、標準的なホットプレス法によって達成される微細構造と比較して図示する。
図3】本発明による例のビッカース硬度を、1100nmでの吸光係数の関数として示す表である。
図4】本発明による例7についての透過スペクトルと、市販のFLIR(Forward Looking Infrared)材料についての透過スペクトルとの比較をグラフで図示する。
【0040】
図1は、例えば微細粒子化され等方圧プレスされたグラファイト製のホットプレス鋳型を図示する。該鋳型は、中実円筒として形成された鋳型部品1、中空円筒として形成された鋳型部品2および4、長軸方向に切り開くスリットを有する中空円筒として形成された鋳型部品3、および円筒として形成された鋳型部品5を含む。追加的に、第一の中間ディスク8および第二の中間ディスク11(両方とも微細粒子化され等方圧プレスされたグラファイト製)が備えられる。
【0041】
平均粒径5μmを有し、圧粉体10の形態である粉末化されたZnSは、第一の中間ディスク8と第二の中間ディスク11との間に配置される。圧粉体10に面する中間ディスク8および11の表面および中空円筒3の内壁が、鋳型の空洞部の表面を形成する。それらの表面は約0.010インチの厚さを有するグラファイト箔のシート6、7、9で覆われている。
【0042】
鋳型を完全にホットプレス一式の中に入れる。該一式をまず、圧力50×10-3torrに排気し、その後、焼却サイクルに供して吸着したガスをセラミック粉末から除去する。粉末化された試料を、50℃、150℃、200℃に加熱し、それらの温度の各々で所望の真空度(例えばそれぞれ200℃且つ10×10-3torr)が達成されるまで保持する。該一式をその後、圧力を印加せずに温度900℃〜1000℃、好ましくは950℃付近に加熱する。所望の温度に達した後、1分あたり7トンの速度で、40〜60MPa、好ましくは約55MPaの圧力が得られるまで、鋳型部品1に圧力を印加する。圧力を、この水準で例えば0.16〜6時間、例えば2〜4時間、保持する。次に、加圧された物品を、鋳型部品5を除去し且つ内容物を中間ディスク8および11の厚さの合計と等しい深さの空洞に押し出すことによって、損傷なく引き続き鋳型から取り出すことができる。
【0043】
前記の部分をグラファイトるつぼ内に設置し、アルゴン下、圧力180〜230MPa、温度900℃〜1000℃、例えば950℃で、6〜100時間、例えば12時間、熱間等方圧プレスする。
【0044】
図2Aは、出発材料として化学気相堆積によって製造されたZnSを使用し、標準的なホットプレス法によって製造されたZnSセラミック体の微細構造を示す。示されるとおり、その微細構造は非常に粗く(例えば平均粒度25μm)、且つ、該材料はビッカース硬度150kg/mm2を有した。図2Bは、本発明の方法によって製造されたZnSセラミック体の微細構造を示す。その微細構造は非常に細かく(例えば平均粒度3μm)、且つ、該材料はビッカース硬度200kg/mm2を有した。
【0045】
実施例
さらなる詳述がなくても、当業者は先の記載を使用して、本発明を最大の範囲まで利用することができると考えられる。従って、以下の好ましい特定の実施態様は、単に例示的なものであり、且つ、本開示の残りをいかようにも限定するものではないと解釈されるべきである。
【0046】
表1および2は、本発明によるZnS組成物の製造例、および得られる材料の特性を記載する。
【0047】
表1 本発明によるZnSセラミック組成物の製造例
【表1】
【0048】
例1〜6は、半径25cmを有するダイを使用し、例7〜8は半径127cmを有するダイを使用した。
【0049】
表2 本発明によるZnSセラミック組成物の特性
【表2】
【0050】
ZnS MultiSpectral(登録商標)は、II−VI Infrared製のZnS材料であり、化学気相堆積によって製造され、且つ熱間等方圧プレス(HIP)法によって改質されている。該材料は0.4〜12ミクロンの範囲で透過を示す。
【0051】
CLEARTRAN(登録商標)はDOW製のZnS材料であり、化学気相堆積によって製造され、且つ熱間等方圧プレス法によって改質されている。該材料は0.35〜14μmの範囲で透過を示す。
【0052】
1 化学気相堆積(CVD)によって製造されたII−VI Infrared製のZnS。該材料は8〜12ミクロンの範囲内で使用される。
【0053】
図3は、本発明による例1〜7について、並びにFLIR用途に使用される市販のZnSセラミックおよび多スペクトル用途に使用される市販のZnSセラミックについて、1100nmでの吸光係数の関数としてのビッカース硬度を示す表である。
【0054】
図4は、波長範囲1〜14ミクロン(線B)においてPerkin−Elmer Lambda 900分光光度計を使用して測定された、例7についてのインラインの赤外線透過を図示する。使用された試料は厚さ6.3mmであった。図4の線Aは、典型的な市販のFLIR等級のZnS材料についてのインラインの赤外線透過を示す。ここで、インライン透過率は、入射光の透過部分の強度の、入射光の強度に対する比を表す。
【0055】
先の例を、一般に若しくは特定に記載された反応物質、および/または先の例において使用されたものについての本発明の作業条件を置き換えても、同様にうまく繰り返すことができる。
【0056】
先の記載から、当業者は本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、且つ、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、本発明を様々な用途および条件に適合させるための様々な変更および修正を行うことができる。
【0057】
本願内で引用される全ての出願、特許および刊行物の開示の全ては、参照をもって本願内に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4