特許第6355645号(P6355645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6355645活性成分としてテトラゾール誘導体を含む、溶解性が改善された固体分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355645
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】活性成分としてテトラゾール誘導体を含む、溶解性が改善された固体分散体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4725 20060101AFI20180702BHJP
   C07D 405/14 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 31/475 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20180702BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   A61K31/4725
   C07D405/14CSP
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61P43/00 105
   A61K31/337
   A61K31/475
   A61K31/704
   A61K31/4745
   A61K31/7048
   A61K45/00
   A61P43/00 121
   A61K9/14
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/04
   A61K47/12
   A61K47/20
   A61K47/22
   A61K47/18
   A61K47/36
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-547856(P2015-547856)
(86)(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公表番号】特表2016-507489(P2016-507489A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】KR2013011545
(87)【国際公開番号】WO2014092489
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年11月30日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0145603
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】599139534
【氏名又は名称】ハンミ ファーム. シーオー., エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン・イル
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジュン・ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ヨン・クン
(72)【発明者】
【氏名】パーク,ジェ・ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ジョン・スー
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−507493(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/156361(WO,A1)
【文献】 特開2000−309588(JP,A)
【文献】 特表2008−529999(JP,A)
【文献】 国際公開第1997/006781(WO,A1)
【文献】 European Journal of Pharmacology,2010年,Vol.627,No.1-3,pp.92-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 43/00
C07D 405/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として式(II)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む非晶質固体分散体。
【化1】
【請求項2】
固体分散体がさらに水溶性高分子を含む、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項3】
水溶性高分子が、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ジエチルアミノアセテート、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の非晶質固体分散体。
【請求項4】
水溶性高分子は、活性成分の1重量部を基準として0.1〜4重量部の量で含まれる、請求項に記載の非晶質固体分散体。
【請求項5】
固体分散体は酸を含む、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項6】
酸は、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ホウ酸などの無機酸、ならびに、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、トシラート、コハク酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、アルギン酸、マレイン酸、アジピン酸などの有機酸からなる群から選択される、請求項に記載の非晶質固体分散体。
【請求項7】
酸は、活性成分の1重量部を基準として0.1〜3重量部の量で含まれる、請求項に記載の非晶質固体分散体。
【請求項8】
固体分散体の平均粒径が150μm未満である、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項9】
請求項1に記載の固体分散体を含む医薬組成物。
【請求項10】
医薬組成物が癌細胞における多剤耐性を低減させるために用いられる、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の固体分散体および抗癌剤を含む医薬組成物。
【請求項12】
抗癌剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、トポテカン、イリノテカン、アクチノマイシンおよびエトポシドからなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、活性成分としてテトラゾール誘導体を含む、溶解性が改善された固体分散体に関し、より特定的には、活性成分として式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む非晶質固体分散体と、これを含む医薬製剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
式(I)の以下のテトラゾール誘導体およびその薬学的に許容可能な塩は、癌細胞における多剤耐性に対して阻害活性を有するp−糖タンパク質阻害剤として公知である(韓国特許第10−0557093号を参照)。
【0003】
【化1】
【0004】
からR11、m、nおよびXは以下に規定されるものと同じである。
P−糖タンパク質は、胃腸管などの内皮細胞において発見されるものであって、いくつかの薬剤の経口吸収を制限することが知られている。パクリタキセル、ドセタキセルなどの主要な抗癌剤のうちのいくつかは、経口投与された場合、P−糖タンパク質の作用のせいで、身体にほとんど吸収させることができない(シンケル(Schinkel)他、「細胞(Cell)」、77号、491〜502頁、1994年)。抗癌治療における重大な問題のうちの1つとして、癌細胞における抗癌剤に対する耐性の発現が挙げられる。中でも、最も重大な問題は、P−糖タンパク質の過剰発現によってもたらされる多剤耐性(MDR:multi-drug resistance)である。一般的に、抗癌剤の使用が増えるのに応じて癌細胞におけるMDRが高まり、これが、癌生存率を実質的に低下させる原因因子となる。
【0005】
したがって、式(I)のテトラゾール誘導体を含むP−糖タンパク質阻害剤は、P−糖タンパク質の作用を阻害することができ、これにより、いくつかの薬剤を経口投与することが可能となり、このため、P−糖タンパク質の過剰発現によって癌細胞において誘発されるMDRに対して有効であると予想される。
【0006】
それにもかかわらず、テトラゾール誘導体およびその薬学的に許容可能な塩は溶解性が非常に低いので、優れた生体内吸収率を期待することは難しい。したがって、上述の薬剤の溶解性および生体内吸収率を向上させる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
したがって、本発明の目的は、上述のテトラゾール誘導体およびその薬学的に許容可能な塩の溶解性および生体内吸収率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一目的に従うと、活性成分として式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩と、これを含む医薬製剤とを含む非晶質固体分散体が提供される。
【0009】
【化2】
【0010】
は、C−Cアルキル、水酸基、Cアルコキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロまたはアミノによって置換されていないかまたは置換されているキノリン、イソキノリン、キノキサリン、ピリジン、ピラジン、ナフタレン、フェニル、チオフェン、フラン、4−オキソ−4H−クロメンまたはシンノリンである。
【0011】
〜RおよびR〜R11は、各々が独立して、H、水酸基、ハロゲン、ニトロ、C−CアルキルまたはCアルコキシを表わし、RおよびRは、各々が独立して、H、水酸基、ハロゲン、ニトロ、CアルキレンまたはCアルコキシを表わし、RおよびRは、4員環〜8員環を形成するように接続されてもよく、
mおよびnは各々が独立して0〜4の整数であり、
XはCH、OまたはSである。
【0012】
本発明の固体分散体は水溶性高分子および/または酸を含み、その活性成分、すなわち式(I)のテトラゾール誘導体、の溶解性を向上させることによって、その生体内吸収率を改善させるので、癌細胞におけるMDRを低減させるために有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】HM30181A、式(I)のテトラゾール誘導体、HM30181Aを含む固体分散体、および、さまざまな量の水溶性高分子(例1〜6)の溶解性を示すグラフである。
図2】HM30181Aおよびさまざまな種類の酸を含む固体分散体(例7〜13)の溶解性を示すグラフである。
図3】HM30181AのX線回析パターンを示す図である。
図4】実施例8の固体分散体のX線回析パターンを示す図である。
図5】本発明の固体分散体を用いることによって調製された実施例14の錠剤、および単に成分と混合することによって調製された比較例1の錠剤についての溶解を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、活性成分として式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む非晶質固体分散体を提供する。
【0016】
式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩、これを製造するための方法およびその使用が韓国特許第10−0557093号に開示されている。
【0017】
本発明の具体的な一実施形態に従うと、テトラゾール誘導体は、式(II)の化合物、クロモン−2−カルボキシル酸[2−(2−{4−[2−(6,7−ジメトキシ−3,4−ジ−ヒドロ−1H−イソキノリン−2−イル)−エチル]−フェニル}−2H−テトラゾール(tetrazol)−5−イル)−4,5−ジメトキシフェニル]アミンメシレート、または、式(III)の化合物、クロモン−2−カルボキシル酸[2−(2−{4−[2−(6,7−ジメトキシ−3,4−ジ−ヒドロ−1H−イソキノリン−2−イル)−エチル]−フェニル}−2H−テトラゾール−5−イル)−4,5−ジメトキシフェニル]アミンであってもよい。
【0018】
【化3】
【0019】
本発明の固体分散体は、式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を溶媒中、好ましくは有機溶媒中、に溶解させて、混合溶液を作成し、次いで、従来の方法、好ましくは噴霧乾燥法を用いることによって溶媒を除去することによって得られてもよい。
【0020】
本発明の固体分散体はさらに、式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩の溶解性を高めるために、活性成分の他に水溶性高分子を含んでもよい。
【0021】
固体分散体がテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩から調製される場合、水溶性高分子が水溶性基剤として作用して、活性成分を親水性にすることにより、その溶解性を向上させる。この水溶性高分子はまた、固体分散体を非晶質状態で維持するのにも役立つ。水溶性高分子の例は、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ジエチルアミノアセテート、ポリエチレングリコールまたはそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。本発明の好ましい一実施形態においては、ヒプロメロースは、固体分散体がテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩から調製されている場合に用いられる。
【0022】
水溶性高分子は、活性成分の1重量部を基準として0.1〜4重量部の量で含まれてもよい。水溶性高分子が、活性成分の1重量部を基準として4重量部以下の量で用いられる場合、溶解性が高まる。しかしながら、重量が4重量部を上回ると、固体分散体のゲル化が起こり、これにより、活性成分の放出が妨げられる。
【0023】
本発明の固体分散体はさらに、式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩の溶解性を高めるために、活性成分の他に酸を含み得る。酸は、錯塩を形成し、主要成分の周囲の領域のpH値を調整することなどによって活性成分の溶解性を向上させ得る。本発明の固体分散体を調製するのに用いることができる酸の例として、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ホウ酸などの無機酸と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、トシラート(tosilate)、コハク酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、アルギン酸、マレイン酸、アジピン酸などの有機酸とが含まれる。溶解性の改善度合は、用いられる酸の種類に応じて異なり得る。本発明における酸の特定の例には、リン酸、リンゴ酸、クエン酸および酒石酸が含まれる。酸は、活性成分の1重量部を基準として0.1〜3重量部の量で含まれてもよい。
【0024】
本発明の具体的な一実施形態に従うと、活性成分として式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む固体分散体は、水溶性高分子および酸を含み得る。
【0025】
本発明に従った固体分散体は、塩化メチレン、エタノールおよび蒸留水からなる混合溶液中に活性成分を溶解および分散させることによって調製されてもよい。塩化メチレン:エタノール:蒸留水からなる混合溶液の比は、好ましくは、総混合溶液の1重量部を基準として、0.5〜0.85重量部:0.1〜0.4重量部:0.05〜0.2重量部である。好ましい一実施形態に従うと、塩化メチレン:エタノール:蒸留水からなる混合溶液の重量比は、60〜80:20〜40:2〜10である。別の好ましい実施形態に従うと、塩化メチレン:エタノール:蒸留水からなる混合溶液の重量比は、65〜75:25〜35:4〜6である。混合溶液の比が上記範囲外であれば、層の分離などの問題を引起こす可能性があるか、または、主要成分が溶液に溶けなくなる可能性がある。
【0026】
本発明の固体分散体は粒径が小さく、このため、表面積が大きくなっている。本発明の固体分散体の平均粒径は、150μm未満、好ましくは100μm未満、より好ましくは40μm未満である。
【0027】
本発明のテトラゾール誘導体に水溶性高分子または酸を加えて、非晶質固体分散体を調製することによって、テトラゾール誘導体の溶解性を向上させる。こうして、上記薬剤の生体内吸収率を著しく改善させ得る。
【0028】
本発明は、上記固体分散体を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、単に式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含むだけである従来の医薬組成物と比べて、癌細胞におけるMDRを低減させるのに有効である。
【0029】
また、本発明に従った式(I)のテトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を含む固体分散体は、抗癌剤の経口吸収を高めて、癌細胞に対する抗癌活性を向上させることができる。このため、抗癌剤、好ましくは、P−糖タンパク質のせいで経口吸収率が制限されている抗癌剤を同時投与して、その治療効果を高めてもよい。したがって、化学療法耐性が付いてしまった患者に対して、本発明に従った固体分散体を抗癌剤と同時に投与して、MDRを克服し、多剤耐性癌を治療することもできる。
【0030】
本発明に従った固体分散体と混合させるのに適した抗癌剤は特に限定されないが、例のうちのいくつかは、パクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサンベースの薬剤;ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびビノレルビンなどのビンカアルカロイドベースの薬剤;ダウノマイシンおよびドキソルビシンなどのアントラサイクリンベースの薬剤;トポテカンおよびイリノテカンなどのカンプトテシンベースの薬剤;アクチノマイシン;ならびに、エトポシド(etopocide)などを含む。
【0031】
本発明の医薬組成物は従来の方法に従って調剤されてもよく、錠剤、ピル、粉末剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、マイクロエマルジョン他のなどの経口製剤の形で、または、非経口注射、たとえば筋肉内投与、静脈内投与もしくは皮下投与の製剤の形で調製されてもよい。本発明の医薬組成物は、本発明の固体分散体ならびに実現可能な如何なる基剤および賦形剤をも含み得る。本発明の医薬組成物が経口製剤の形で調製されている場合、基剤または添加剤の例は、セルロース、ケイ酸カルシウム、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、デキストロース、リン酸カルシウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ゼラチン、タルク、界面活性剤、沈殿防止剤、乳化剤、希釈剤等を含む。また、本発明の医薬組成物が注射製剤の形で調製される場合、基剤の例は、水、食塩水、グルコース溶液、グルコース溶液類似物、アルコール、グリコール、エーテル(たとえばポリエチレングリコール400)、オイル、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセリドまたは界面活性剤、沈殿防止剤、乳化剤等を含む。
【0032】
本発明の固体分散体を含む医薬組成物は、当該技術において公知のいずれかの方法によって調剤され、抗癌剤の投与前もしくは投与後に単独で投与され得るか、または、1つ以上の抗癌剤と共に投与され得る。投与方法は、患者の症状、抗癌剤の物理的性質などのさまざまな要因に応じて調整され得る。
【0033】
本発明の固体分散体は、癌細胞におけるMDRを低減させるために、テトラゾール誘導体またはその薬学的に許容可能な塩をベースにして、0.1〜100mg/kg(体重)の範囲で、人を含む哺乳動物に対して抗癌剤と共に経口または非経口で投与され得る。
【0034】
以下において、本発明を以下の実施例によってより具体的に説明するが、これら実施例は例示だけを目的として提供されるものであって、本発明はそれらに限定されない。以下において、「HM30181A」という語は、この明細書中において用いられる場合、式(II)の化合物、すなわち、クロモン−2−カルボキシル酸[2−(2−{4−[2−(6,7−ジメトキシ−3,4−ジ−ヒドロ−1H−イソキノリン−2−イル)−エチル]−フェニル}−2H−テトラゾール(tetrazol)−5−イル)−4,5−ジメトキシフェニル]アミンメシレートを指しており、これは、韓国特許第10−0557093号において開示されているように、式(I)の化合物の一例である。
【0035】
【化4】
【実施例】
【0036】
実施例1〜6:さまざまな量の水溶性高分子を用いた固体分散体の調製
表1に列挙された成分に従って、活性成分としてHM30181A;水溶性高分子としてヒプロメロースP−645;賦形剤としてシリケートを、塩化メチレン(MC:methylene chloride)、エタノール(EtOH:ethanol)および蒸留水(DW:distilled water)からなる混合溶液中において完全に溶解および分散させ、次いで、結果として得られた溶液を小型の噴霧乾燥器B−290(Buchi;スイス(Switzerland))を用いて噴霧乾燥させることによって、実施例1〜6の固体分散体を調製した。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例7〜13:さまざまな種類の酸を用いた固体分散体の調製
表2に列挙された成分に従って、活性成分としてHM30181A;酸としてリン酸、DL−リンゴ酸、クエン酸、L(+)−酒石酸、フマル酸またはシュウ酸;および水溶性高分子としてヒプロメロースP−645を、MC、EtOHおよびDWからなる混合溶液中において完全に溶解および分散させ、次いで、結果として得られた溶液を噴霧乾燥器を用いて噴霧乾燥させることによって、実施例7〜13の固体分散体を調製した。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例14:錠剤の調製
表3に列挙された成分に従って、活性成分としてHM30181A;酸としてリン酸;および水溶性高分子としてヒプロメロースP−645を、MC、EtOHおよびDWからなる混合溶液中において完全に溶解および分散させ、次いで、結果として得られた溶液を、噴霧乾燥器を用いて噴霧乾燥させることによって固体分散体を調製した。
【0041】
その後、表4に列挙された成分に従って、賦形剤としてD−マンニトール、崩壊剤としてクロスポビドン;賦形剤として軽質無水ケイ酸;および潤滑剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを固体分散体に混合し、次いで、結果として得られた混合物を錠剤化することによって、実施例14の錠剤を調製した。
【0042】
【表3】
【0043】
比較例1:錠剤の調製
表5に列挙された成分に従って、活性成分としてHM30181A;酸性の可溶化剤としてリン酸;水溶性高分子としてヒプロメロースP−645;賦形剤としてD−マンニトール;崩壊剤としてクロスポビドン;賦形剤として軽質無水ケイ酸;および潤滑剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを混合し、次いで、結果として得られた混合物を錠剤化することによって、比較例1の錠剤を調製した。
【0044】
【表4】
【0045】
試験実施例1:さまざまな溶媒中における活性成分の溶解性
固体分散体に最も適した溶媒を見つけ出すために、過剰量のHM30181Aを活性成分として溶媒に追加し、2時間振り混ぜ、次いで、結果として得られた混合物を遠心分離機にかけ、HPLCによって分析して溶解性を測定した。溶解度試験のために用いられた溶媒は、MC、メタノール、EtOH、ヘキサン、ジエチルエーテル、イソプロピルアルコール、アセトンおよびDWであった。結果を表6に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
上述の表6に示されるように、テトラゾール誘導体(HM30181A)は、ほとんどの溶媒中に溶解させたとき、その溶解性が低かった。結果に示されるように、固体分散体を調製するのに1種類の溶媒しか用いない場合、活性成分を可溶化するために相当量の溶媒が必要となり、生産性の低下および製造コストの上昇をもたらす可能性がある。
【0048】
一方で、上述の溶解度試験で結果として優れた溶解性を示した2つの溶媒、すなわちMCおよびEtOH、の組合せが調製され、HM30181Aの溶解特性が観察された。メタノールは、同様に優れた溶解性を示すが、毒性があるために試験では除外された。結果を以下の表7に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
上述の表に示されるように、DWが追加されたMCとEtOHとの混合溶液の使用は、MCおよびEtOHだけからなる混合溶液を用いる場合よりも有利であることが確認された。なぜなら、DWを加えることにより、透明溶液中の活性成分の可溶化が高まったからである。また、固体分散体のために混合溶媒を調製する際の好ましい重量比がMC:EtOH:DW=70:30:5であったと結論付けることができる。
【0051】
試験実施例2:水溶性高分子に応じた固体分散体の溶解性
実施例1〜6において調製された固体分散体は、150mgのHM30181Aに対応する適量の各サンプルを用いることによって、溶解について分析された。次いで、溶解性が比較された。
【0052】
<試験条件>
−溶出溶媒:蒸留水を900mL
−テストシステム:サンプル容器を100rpmで回転
−温度:37℃
<分析条件>
−カラム:LC(5μmの直径)のためにオクタデシルシリルシリカゲルが充填されたステンレス鋼カラム(約4.6mmの内径および15cmの長さ)
−移動相:アセトニトリル:pH2.5の緩衝剤(56:44)
−カラム温度:40℃
−流量:1.0mL/分
−注入量:10μL
*pH2.5の緩衝剤:7.0gの過塩素酸ナトリウム(NaClO)および1.7gのリン酸二水素カリウム(KHPO)を900mLの蒸留水に溶解させ、これにリン酸を加えてpHを2.5に調節し、次いで、蒸留水を加えて総容積を1Lとした。
【0053】
実施例1〜6において調製された固体分散体の溶解性が図1に示される。図1に示されるように、固体分散体の粉末はほとんどが溶媒中には溶解しなかったが、ヒプロメロース(P−645)、すなわち水溶性高分子、が溶媒に追加されると、固体分散体の溶解性が改善された。また、水溶性高分子の量が増えるのに応じて固体分散体の溶解性が高まる傾向があることが観察された。特に、溶解性は、水溶性高分子の量が活性成分の4倍になる時点での程度にまで上昇した。しかしながら、活性成分の4倍の量を超えると、固体分散体のゲル化を引起こし、これにより、活性成分の放出が妨げられた。
【0054】
上述の結果から、本発明の固体分散体にとって最適な量の水溶性高分子は、活性成分の1重量部を基準として0.1〜4重量部の範囲であると結論付けることができる。
【0055】
試験実施例3:酸に応じた固体分散体の溶解性
実施例7〜13において調製された固体分散体は、試験実施例2において記載されたのと同じ条件下で、150mgのHM30181Aに対応する適量の各サンプルを用いることによって、溶解について分析された。結果を図2に示す。
【0056】
図2に示されるとおり、固体分散体がリン酸(実施例7および8)ならびにDL−リンゴ酸(実施例9)を酸として用いることによって調製された場合、150mgのHM30181Aに対応する固体分散体が、900mLのDW中に十分に溶解し、溶解した状態が24時間よりも長く維持された。こうして、固体分散体が優れた溶解性を有することが示される(図2は6時間までの経時的進行しか示していない)。また、分散体がクエン酸(実施例10)およびL(+)−酒石酸(実施例11)を用いることによって調製された場合、約130mgのHM30181Aに対応する固体分散体が900mLのDW中に溶解した。こうして、固体分散体が優れた溶解性を有することが示される。
【0057】
試験実施例4:活性成分およびこれを含む固体分散体の結晶形状についての分析
CuX線、40kVおよび100mAの条件下で、6°/分の走査速度で、M18XHF−SRA(Macsciences株式会社;日本)を用いることによって、活性成分、すなわちHM30181Aと、実施例8の固体分散体とについてのX線回折パターンが決定された。
【0058】
HM30181Aおよび実施例8の固体分散体のX線回折パターンの結果を図3および図4にそれぞれ示す。図3に示されるとおり、活性成分(H30181A M)は、2θ(度)4.911、6.474、7.948、9.827、10.712、11.522、12.007、12.936、13.498、14.063、14.744、15.282、15.878、16.686、18.66、19.388、19.698、21.065、23.22、25.222、26.485、26.86および28.405においてピークを有していた。しかしながら、図4に示されるように、活性成分を含む固体分散体は噴霧乾燥プロセスによって非晶質となった。
【0059】
試験実施例5:固体分散体の粒径についての分析
実施例1〜13の固体分散体の平均粒度は、4.5バール条件下でR1レンズを備えたHELOS/BR(Sypatec(ドイツ(Germany))を用いたレーザー回折によって測定された。
【0060】
結果を以下の表8に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
上述の表8に示されるように、実施例1〜13の固体分散体は30μm以下の平均粒度を有していた。
【0063】
試験実施例6:錠剤の溶解特性についての分析
比較例1および実施例14において調製された錠剤は、溶解について分析され、比較された。
【0064】
<試験条件>
−溶出溶媒:蒸留水を900mL
−テストシステム:100rpmで攪拌
−温度:37℃
<分析条件>
試験実施例2の条件と同じである。
【0065】
結果を図5に示す。図5に示されるように、固体分散体を用いることによって調製された実施例14の錠剤は、15分以内に完全に溶解した。しかしながら、単に成分と混合することだけによって調製された比較例1の錠剤は、時間が経過しても全く溶解しなかった。この結果は、本発明のテトラゾール誘導体を単に賦形剤と混合することだけで錠剤が調製された場合には当該テトラゾール誘導体の溶解性を改善させることができないことを示しており、溶解性は、むしろ、固体分散体を用いることによって改善させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5