(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355652
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】複数のマルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する方法並びに装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/08 20060101AFI20180702BHJP
D01D 10/00 20060101ALI20180702BHJP
D01D 11/02 20060101ALI20180702BHJP
D02J 1/14 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
D01D5/08 D
D01D10/00 B
D01D11/02
D02J1/14
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-558388(P2015-558388)
(86)(22)【出願日】2014年2月3日
(65)【公表番号】特表2016-511334(P2016-511334A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】EP2014052042
(87)【国際公開番号】WO2014127981
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2016年10月24日
(31)【優先権主張番号】102013002992.9
(32)【優先日】2013年2月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】307031976
【氏名又は名称】エーリコン テクスティル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハンスイェルク マイゼ
(72)【発明者】
【氏名】ルートガー シェアマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル コハネク
(72)【発明者】
【氏名】フィリプ ユングベッカー
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−095306(JP,A)
【文献】
実開昭53−111014(JP,U)
【文献】
国際公開第2013/020866(WO,A1)
【文献】
特表2011−521120(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0121480(US,A1)
【文献】
特表2012−500909(JP,A)
【文献】
特開平10−183424(JP,A)
【文献】
実公昭48−028004(JP,Y1)
【文献】
特公昭44−032621(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00−13/02
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の合成マルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する方法であって、糸を互いに平行に並べてポリマ溶融物から押し出し、糸を冷却後に一緒に、複数の被駆動のゴデットの複数の加熱されたゴデット周壁において、該ゴデット周壁に少なくとも部分的に巻き掛けて案内しかつ加熱し、糸を、複数のゴデットの間における少なくとも1つの速度差によって延伸する方法において、
糸に、複数のゴデットのうちの1つのゴデットの加熱されたゴデット周壁との接触前に、静電荷を与えており、
糸を紡糸後に乾燥状態で引き出しかつ延伸し、糸を延伸後に液体で湿潤することを特徴とする、複数のマルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する方法。
【請求項2】
糸の静電荷を、複数の糸において一緒に又は個別に生ぜしめる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
糸の静電荷を、電気的な電荷発生器によって無接触式に生ぜしめる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
糸の静電荷を、単数又は複数の摩擦エレメントとの接触によって生ぜしめる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
糸を一緒に、ナイフ状のガイドエッジを介して案内する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
糸をゴデット周壁の周囲において、相互に2mm〜6mmの範囲の最小間隔をもって案内する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
複数の合成マルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する装置であって、複数のマルチフィラメント糸(7)を押し出すために複数の紡糸ノズル(2)を有する紡糸装置(1)と、糸(7)を冷却する冷却装置(3)と、糸(7)を引き出しかつ延伸する延伸装置(10)と、を備えており、該延伸装置(10)は、複数の加熱されたゴデット周壁(12.1〜12.4)を備えた複数の被駆動のゴデット(11.1〜11.4)を有している、装置において、
延伸装置(10)の糸走入側に、糸(7)において静電荷を生ぜしめる帯電手段(14)が対応配置されており、前記延伸装置(10)の下流側に、糸(7)を液体によって湿潤可能な湿し装置(16)が配置されていることを特徴とする、複数のマルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する装置。
【請求項8】
帯電手段(14)は、糸(7)が通過する共通の電界を生ぜしめる電気的な電荷発生器(15)によって形成されている、請求項7記載の装置。
【請求項9】
帯電手段(14)は、糸が接触して案内される単数又は複数の摩擦エレメント(17)によって形成されている、請求項7記載の装置。
【請求項10】
前記摩擦エレメント(17)は、セラミック材料製のナイフ状のガイドエッジ(18)を有している、請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記帯電手段(14)の上流側に、相互に2mm〜6mmの範囲における糸間隔(B)をもって糸(7)を別個に案内するガイド手段(6)が配置されている、請求項7から10までのいずれか1項記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段部に記載された、複数の合成マルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する方法、並びに請求項8の前段部に記載された、複数の合成マルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する装置に関する。
【0002】
溶融紡糸プロセスにおいて合成糸を製造する場合には、通常、複数の糸が同時に1つの糸群として製造される。このとき、プロセスの終わりにおいて、糸はそれぞれ、同一の物理的な特性を有する必要があるので、すべての糸の均一な案内及び処理に対しては高い要求が課せられている。各マルチフィラメント糸は、多数の繊細なフィラメントストランドから形成されているので、特に熱処理時に均一性の問題が生じる。それというのは、糸の内部において個々の各フィラメントストランドは、特に糸の延伸時に均一に温度調整されていなくてはならないからである。例えば、糸の均一な温度調整が不十分な場合には、糸の着色時に不均一性、つまりむらが発生することが公知である。
【0003】
このような問題を排除するために、独国特許出願公開第102010048017号明細書に記載の従来技術に基づいて公知の方法及び装置では、糸は冷却後でかつ延伸前に、それぞれ1つのバンドつまり帯状体に広げられる。そのために糸には、紡糸装置と延伸装置との間における糸走路において、複数の油剤塗布ローラが対応配置されており、これらの油剤塗布ローラは、湿潤のみならず、個々の糸を帯状に案内することが可能である。公知の方法及び公知の装置は、特に、マルチフィラメント糸が番手の大きな比較的少数のフィラメントストランドを有するテクニカル・ヤーンのために使用される。このとき糸は一緒に、ゴデットの加熱されたゴデット周壁に複数回巻き掛けられて案内されるので、一方では、糸とゴデットの加熱された周壁表面との間において長い滞在時間を得ることができ、かつ他方では、交互に巻き掛けられることによって、糸を両側から加熱することができる。従ってこのような公知の方法及び公知の装置は、長く張り出したゴデットユニットを必要とする。
【0004】
しかしながらまた、独国特許出願公開第102008039378号明細書に基づいて公知の、テキスタイル・ヤーンを製造する方法及び装置では、糸の加熱及び延伸は、ゴデットにおける1回の巻掛けによって行われる。この公知の構成では、延伸装置の直ぐ上流側に糸ブレーキが配置されており、この糸ブレーキは、マルチフィラメント糸の帯状の拡開を可能にする。これによって、フィラメント束の内部におけるフィラメントストランドとゴデットの加熱されたゴデット周壁の表面との接触を均一化することができる。このような公知の方法及び公知の装置では、ゴデットのゴデット周壁に環状のガイド溝が設けられており、これらのガイド溝は特に、糸の静電荷による拡開を阻止するようになっている。またこのようなガイド溝は、個々の糸が帯状に案内されることを妨害する。
【0005】
ゆえに本発明の課題は、前段部に記載した形式の、複数のマルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する方法並びに装置を改良して、糸の製造時にゴデットにおける1回の部分巻掛けによる糸案内においても、糸の処理における高い均一性を達成できるようにすることである。
【0006】
この課題は、本発明によれば、糸が、複数のゴデットのうちの1つのゴデットの加熱されたゴデット周壁との接触直前に、静電荷を得ることによって、解決される。
【0007】
本発明は、合成糸において発生する静電荷がゴデット周壁において放電されるべきではないという条件から解放されている。例えば、ゴデットにおける静電気の放電は、軸受を損傷し得ることが公知である。しかしながら溶融紡糸プロセスにおいて、糸からは僅かしか放電されないこと、及び糸の内部におけるフィラメントを拡開させる電荷エネルギは、ほぼ維持されたままであることが分かっている。従って、糸の内部における静電荷を、電荷エネルギによって強いられる、ゴデット周壁における糸の帯状の案内を得るために、好適に使用することができる。このようにして、糸の熱処理及び加熱をさらに改善することができる。
【0008】
ゴデットの加熱されたゴデット周壁への乗上げ前に糸に静電気を帯電させることは、好ましくはすべての糸において一緒に同時に行われる。しかしながらまた基本的には、静電気の帯電、つまり静電荷をそれぞれの糸において個々に又は不均一に行うことも可能である。
【0009】
基本的には、本発明に係る方法のためには、合成糸において静電荷を生ぜしめるのに、無接触に作動する帯電手段を使用することも又は接触して作動する帯電手段を使用することも可能である。多数の糸において同時に静電荷を生ぜしめるために使用される、方法の好適な態様では、糸は、電気的な電荷発生器の電界を通して案内される。
【0010】
糸における静電荷の拡開特性の反作用が可能な限り生じないようにするために、方法の特に好適な態様では、糸の静電荷は単数又は複数の摩擦エレメントとの接触によって生ぜしめられる。
【0011】
このとき特に糸群のためには、糸が一緒にナイフ状のガイドエッジを介して案内される、方法の態様が好適であることが示されている。このようにすると、渦動によって前もって生ぜしめられている、糸のフィラメントストランドにおける軽い交絡を、除去することができる。
【0012】
グループとして案内される糸の相互の影響を回避するために、方法の別の態様では、糸は、ゴデット周壁の周囲において、相互に2mm〜6mmの範囲の最小間隔をもって案内される。このようにすると、糸が相互に接触することなく、糸をゴデット周壁の周囲において互いに平行に並べて案内できることが保証される。
【0013】
一方では可能な限り強い拡開効果を得るため、かつ他方では糸における静電荷の影響を制限するために、方法の別の特に好適な態様では、糸が紡糸後に乾燥状態で引き出されかつ延伸され、糸は延伸後に液体で湿潤させられる。このようにすると、延伸装置への糸の進入時に、糸のフィラメントを拡開させるために、糸の内部における追加的な接着力を克服する必要がなくなる。
【0014】
本発明に係る装置は、特に、延伸装置の糸走入側に、糸において静電荷を生ぜしめる帯電手段が対応配置されていることによって傑出している。帯電手段とゴデットを備えた延伸装置とのこのような組合せが、驚くべきことに可能である。それというのは、電荷エネルギは糸において維持されたままであり、かつ実質的に複数のゴデット周壁を介しても、事前に放電することなく有効なままだからである。従って本発明に係る装置によって、完全に延伸された糸も部分的に延伸された糸も生ぜしめることができる。
【0015】
帯電手段は、複数の糸を一緒に処理するために、糸が通過する共通の電界を生ぜしめる電気的な電荷発生器によって形成することができる。
【0016】
しかしながらまた択一的に、帯電手段を、糸が接触して案内される単数又は複数の摩擦エレメントによって形成することも可能である。このように構成されていると、糸において極めて所望のように電荷エネルギを好適に生ぜしめることができる。
【0017】
溶融紡糸法では、特に湿潤されていない糸では、糸の間における第1の糸結合部を得るために、糸において紡糸後でかつ延伸前に渦動を実施することが通常であるので、糸の内部においてフィラメントは個々に絡み合わされる。摩擦エレメントがセラミック材料製のナイフ状のガイドエッジによって形成されている、本発明に係る装置の態様によって、糸におけるフィラメントのこのような絡み合いを好適に排除することができる。これによって、前もって渦動された糸をも、静電気を帯電させることによって好適に拡開させることができる。
【0018】
延伸装置の内部における糸の案内を好適に促進する、本発明の別の態様では、帯電手段の上流側に、相互に2mm〜6mmの範囲における糸間隔をもって糸を別個に案内するガイド手段が配置されている。このように構成されていると、ゴデット周壁の周面における糸相互のオーバラップを回避することができる。
【0019】
延伸過程の終了時に糸の静電荷を放電させるために、本発明の別の態様では、延伸装置の下流側に、糸を液体によって湿潤可能な湿し装置が配置されている。
【0020】
本発明に係る方法及び本発明に係る装置は、基本的には、マルチフィラメント糸を製造する汎用のすべての溶融紡糸法のために適している。従って、テキスタイル又はテクニカルの使用分野のための、部分延伸された、完全延伸された又は高延伸された合成糸を生ぜしめることができる。
【0021】
次に図面を参照しながら、本発明に係る装置の幾つかの実施の形態について本発明を詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る装置の第1の実施の形態を概略的に示す側面図である。
【
図2】
図1に示した実施の形態を概略的に示す正面図である。
【
図3】
図1に示した実施の形態の延伸装置を部分的に示す概略図である。
【
図4】本発明に係る装置の別の実施の形態を概略的に示す側面図である。
【
図5】
図4に示した実施の形態を概略的に示す正面図である。
【
図6】帯電手段の1つの実施の形態を概略的に示す側面図である。
【0023】
図1及び
図2には、合成糸である複数のマルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する、本発明に係る装置の第1の実施の形態が、別方向で見て概略的に示されている。
図1には、本実施の形態が側面図で示され、
図2には本実施の形態が正面図で示されている。図面のうちの1つを特に参照しない限り、以下の記載は両方の図面に対するものである。
【0024】
本実施の形態は、紡糸装置1、冷却装置3及び延伸装置10を有していて、これらの装置は、互いに上下に配置されており、これによって、複数の合成マルチフィラメント糸の製造時に、ほぼ鉛直に方向付けられた糸走路を得ることができる。
【0025】
紡糸装置1は紡糸ビーム8を有しており、この紡糸ビーム8はその下側に、複数の紡糸ノズル2を備えている。本実施の形態では、紡糸ビーム8に4つの紡糸ノズル2が保持されており、これらの紡糸ノズル2はそれぞれ、1つのマルチフィラメント糸の多数のフィラメントストランドを生ぜしめる。紡糸ビーム8に保持された各紡糸ノズル2はそれぞれ、別個の溶融物管路を介して、多連ポンプ(図示せず)に連結されている。このような多連ポンプ(Mehrfachpumpe)は、好ましくは、いわゆる遊星歯車ポンプとして構成されている。ポリマ溶融物の供給は、このとき、多連ポンプに接続されている溶融物供給路4を通して行われる。
【0026】
紡糸装置1の下には冷却装置3が設けられており、この冷却装置3は、送風室19を有している。送風室19は冷却ダクト9と共働し、この冷却ダクト9を通して、押し出されたフィラメント束は案内される。
【0027】
送風室19及び冷却ダクト9の図示は、一例であり、送風室19及び冷却ダクト9は、冷却方法に関連して任意に構成することができる。例えば、冷却ダクトを、紡糸ノズルに対して同心的に配置されていて送風室の内部に保持される複数の冷却シリンダによって形成することが公知である。このような構成では、冷却空気を半径方向において内側から外側にフィラメント束に向かって導くことができる。同様にまた、送風室を、冷却ダクトの片側に送風壁を設けて形成することも可能であり、この送風壁は、横方向に流出する冷却空気流を生ぜしめる。従って本発明は、マルチフィラメント糸の特定の冷却形式に制限されるものではない。
【0028】
押し出された合成マルチフィラメント糸それぞれは、多数のフィラメントストランドによって形成されているので、冷却装置3の出口において糸毎にフィラメントはまとめられる。そのために複数の集合糸ガイド5が設けられている。これらの集合糸ガイド5はそれぞれ、上流側に配置された紡糸ノズル2の真ん中に保持されていて、それぞれ1本の糸7にまとめられる押し出されたフィラメントストランドの収束点を形成している。
【0029】
冷却装置3の下には、延伸装置10が配置されている。冷却装置3と延伸装置10との間の移行領域において、糸は、いわゆる紡糸ピッチ(Spinnteilung)によってまとめられ、これによって、相互に比較的小さな糸間隔をおいて、後続の処理段階のための糸群を得ることができる。そのために延伸装置10の上流側には、ガイド手段6が配置されている。ガイド手段6は、個々の糸ガイドによって形成することも又は1つの櫛歯状の糸ガイドエレメントによって形成することもできる。
【0030】
延伸装置10は本実施の形態では、複数のゴデット11.1〜11.4を有している。本実施の形態では、延伸装置10は全部で4つのゴデット11.1〜11.4から成っており、これらのゴデットはそれぞれ、加熱されたゴデット周壁12.1〜12.4を有している。ゴデット11.1〜11.4のゴデット周壁12.1〜12.4は、ゴデットモータ13.1〜13.4によって駆動され、糸が互いに平行に並んで一緒に、それぞれゴデット周壁12.1〜12.4に部分的に巻き掛けられて案内されるようになっている。
【0031】
延伸装置10の構造は一例であり、さらに、追加的な被駆動の変向ローラ又は別の被駆動のゴデットによって補足されてもよい。
【0032】
延伸装置10の供給側には、ガイド手段6と第1のゴデット11.1との間に、糸7において静電荷を生ぜしめる帯電手段14が設けられている。この帯電手段14は、本実施の形態では、電荷発生器15によって形成されており、この電荷発生器15によって生ぜしめられる電界は、電荷発生器15においてガイド手段6とゴデット11.1との間の糸走路において発生する。
【0033】
帯電手段14の機能を説明するために、延伸装置10の供給側の部分図である
図3を追加的に参照する。
図3の図示から分かるように、糸7は互いに平行に並んで処理間隔をおいて延伸装置10に供給される。ガイド手段6によって決定された処理間隔は、
図3では、Bで示されている。糸7が、第1のゴデット11.1の加熱されたゴデット周壁12.1の表面に乗り上げる前に、糸7は、電荷発生器15と、これによって生ぜしめられた電界を通過するので、糸7には静電気が帯電する。この静電気の帯電によって、静電荷はフィラメントストランドにおいて、フィラメントが互いに離反する反発力を、ひいては糸におけるフィラメントストランドの拡開を生ぜしめる力を発生させる。このようにして帯電された糸7は拡散されたフィラメント束をもってゴデット周壁12.1の表面に達する。これによって、ほぼすべてのフィラメントを、ゴデット11.1の加熱されたゴデット周壁12.1の周面に接触させかつ均一に加熱することが可能になる。
【0034】
糸7の相互の影響を回避するために、処理間隔Bは、2mm〜6mmの範囲における最小値に調節されている。処理間隔Bは、電荷発生器15の上流側に配置されたガイド手段6によって調節されている。
【0035】
図2における図示から分かるように、糸7は一緒に1つの糸群として、ゴデット周壁12.1〜12.4を介して案内される。糸7を延伸させるために、ゴデット11.2とゴデット11.3との間には、速度差が設定されているので、ゴデット11.2とゴデット11.3との間に本来の延伸ゾーンが形成されている。このとき、糸における電荷はほとんど弱化しないので、拡開効果は後続のゴデット11.2〜11.4にわたっても糸において維持されたままであることが観察された。これによって、糸におけるリラクゼーション処理のために必要な熱処理をも、極めて高い均一性で実施することができる。
【0036】
図1及び
図2における図示から分かるように、延伸装置10には、その走出側において直ぐ下に湿し装置16が対応配置されており、この湿し装置16によって糸7は、最後のゴデット周壁12.4からの走出直後に油剤(Praeparationsfluessigkeit)によって湿潤される。これによって好適に糸における放電が実施されるので、糸は例えば次いで巻成されてボビンを形成することができる。
【0037】
図1及び
図2に示した本発明に係る装置の実施の形態では、合成マルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する本発明に係る方法は、4本の糸において平行に実施される。糸の数は一例である。基本的に本発明に係る方法及び本発明に係る装置は、多数の糸を同時に製造するのに適している。
【0038】
本発明に係る方法及び本発明に係る装置の機能を説明するために、
図1及び
図2には、糸の糸走路が略示されている。最初に、ポリマ溶融物から複数の繊細なフィラメントストランドが、紡糸ノズル2を通して押し出される。紡糸ノズル2毎に押し出された繊細なフィラメントストランドは、冷却後に集合糸ガイド5によってまとめられる。本実施の形態では、このような糸のまとめは、糸の湿潤なしに行われるので、糸は実質的に乾燥状態で紡糸装置1から引き出される。糸7の乾燥状態は、次いで行われる静電荷の帯電によって生ぜしめられる糸内部における拡開を得るのに特に好適である。
【0039】
糸7は、1つの糸群として一緒に紡糸装置1から引き出され、まとめられた後でガイド手段6によって、後続の処理のために必要な処理間隔Bをおいて配置される。この処理間隔Bは、2mm〜6mmの範囲である。次いで糸7は帯電手段14によって静電気を帯電させられ、これによってフィラメント複合体においてフィラメントストランドを帯電によって拡開させることができる。静電気を帯電させられた糸7は、次いで直ぐに、加熱及び延伸のために、ゴデット11.1〜11.4の加熱されたゴデット周壁12.1〜12.4を介して案内される。延伸装置10から進出した後で、油剤によって糸の湿潤が行われる。これによって、フィラメントストランドの放電とフィラメントストランドの湿潤が行われるので、それぞれの糸において、フィラメントストランドはまとまる。
【0040】
従って本発明に係る方法及び本発明に係る装置は、特に1本の糸を形成する複数のフィラメントストランドにおける熱処理及び延伸の均一化を可能にする。それぞれのフィラメントストランドは、主として温度と延伸とによって同一のポリマ構造を有するので、製造された糸は特に、着色に関して高い均一性を有するテキスタイルの使用分野に適している。
【0041】
糸の合成フィラメントストランドに対する帯電は、
図1及び
図2に示した実施の形態によって、無接触式に、特に優しく行われるので、極めて繊細なフィラメントストランドを備えた糸を製造することもできる。また、
図1及び
図2に示した実施の形態とは異なり、糸が紡糸後にまず湿潤することによって糸結合部(Fadenschluss)を得ることも可能であり、糸は次いで電荷発生器の電界において静電荷を得ることができる。
【0042】
糸を乾燥状態で紡糸装置から延伸装置に案内する場合には、さらに、糸結合部を渦動作用(Verwirbelung)によって形成することが通常である。このような装置は、別方向で見て
図4及び
図5に概略的に示されている。
【0043】
図4には、複数の合成マルチフィラメント糸を溶融紡糸しかつ延伸する本発明に係る装置の実施の形態が、正面図で示され、
図5には側面図で示されている。本実施の形態は、
図1及び
図2に示した上述の実施の形態とほぼ同じであるので、以下においては相違点についてだけ説明し、その他については上述の記載を参照するものとする。なお以下の記載は、
図4及び
図5の両方に対するものである。
【0044】
図4及び
図5に示した、本発明に係る装置の実施の形態では、糸は溶融紡糸後において延伸の前に渦動させられる。そのために冷却装置3と延伸装置10との間には、渦動装置20が設けられている。この渦動装置20は、糸毎に渦動ノズル21を有しており、この渦動ノズル21は、圧縮空気流を用いて糸7におけるフィラメントストランドを混合させる。
【0045】
しかしながら、糸7におけるフィラメントストランドのこのような交絡(Verflechtung)によって、フィラメントストランドの静電気の帯電が、糸を拡開させるのに不十分にしか作用し得ないような事態が生じ得る。このような交絡を可能な限り排除するために、
図4及び
図5に示した実施の形態では、帯電手段14は摩擦エレメント17によって形成されている。摩擦エレメント17は、ナイフ状のガイドエッジ18を有しており、このガイドエッジ18において糸7は接触状態で案内される。ガイドエッジ18は好ましくは、耐摩耗性のセラミック材料から形成されており、このとき、乾燥したフィラメントストランドには摩擦によって静電気が帯電させられる。糸7と摩擦エレメント17のガイドエッジ18との間における摩擦接触によって、予備渦動によって生ぜしめられた交絡を好適に最小にすることができる。このようにして糸7は、拡開された状態でゴデット11.1〜11.4のゴデット周壁12.1〜12.4を介して案内される。
【0046】
このとき糸7を加熱しかつ延伸するための機能は、既に述べた実施の形態と同じである。
【0047】
静電気の帯電のみならず、存在し得る交絡の解除を達成するために、複数の摩擦エレメントを糸走路に配置することも可能である。
図6には、例えば
図4及び
図5に示した実施の形態において使用することができる、このような帯電手段の1つの実施の形態が示されている。
図6には帯電手段14が、概略的に側面図で示されている。このとき、走入する糸7はそれぞれガイド手段6によって、後続の処理のために必要な処理間隔に合わせて配置される。ガイド手段6はここでは、糸7毎に各1つのガイド溝(略示のみ)を有する櫛歯糸ガイド22として形成されている。
【0048】
櫛歯糸ガイド22の下において、帯電手段14は、複数の摩擦エレメント17によって形成されている。摩擦エレメント17は、半円形の横断面を有するエッジ糸ガイド23として形成されている。摩擦エレメント17は、互いにずらされて配置されており、このときエッジ糸ガイド23の丸く面取りされた形状は、走入する糸7に向けられ、つまり上側を向いている。糸の走出は、摩擦エレメント17において、エッジ糸ガイド23の比較的鋭い縁部を有するそれぞれの下側において行われる。エッジ糸ガイド23は、棒状に形成されているので、複数の糸を互いに平行に並べて案内することができる。エッジ糸ガイド23は、好ましくはセラミック材料から製造されている。
【0049】
帯電手段14の図示の実施の形態では、全部で4つの摩擦エレメント17が、糸走路において相前後して配置されている。摩擦エレメント17の数は、基本的に任意である。しかしながら、摩擦エレメント17の数によって、糸に対する静電気の帯電に影響を及ぼすことができる。例えば、渦動されていない糸では摩擦エレメント17として、互いにずらして配置された比較的多数の湾曲した接触面を使用することが可能であり、これによって、フィラメントに静電気を帯電させることにより糸を拡開させることができる。
【0050】
図6に示した実施の形態では、摩擦エレメント17は通常、単数又は複数の支持体によって保持されている。このときまた、摩擦エレメント17の少なくとも一部を、糸の巻掛け程度を変化させるために可動に保持することも可能である。このようになっていると、フィラメントストランドにおいて生ぜしめられる摩擦を調節すること及び該摩擦に影響を及ぼすことが可能である。
【0051】
図1及び
図2並びに
図4及び
図5に示した、本発明に係る装置の実施の形態において、延伸装置のゴデットの配置形態及び数は例に過ぎない。基本的には、追加的に、加熱されない又は加熱される被駆動のゴデット又は加熱されない変向ローラを、延伸装置の内部に組み込むことが可能である。本発明に係る方法及び本発明に係る装置にとって重要なことは、加熱されたゴデット周壁の周囲において、糸のすべてのフィラメントストランドとの強力な糸接触を達成するために、静電気を帯電させられた糸を案内することである。
【0052】
本発明に係る方法及び本発明に係る装置は、小さな番手又は大きな番手の合成マルチフィラメント糸を製造するのに適している。そしてテキスタイル・ヤーン及びテクニカル・ヤーンを共に好適に製造することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 紡糸装置
2 紡糸ノズル
3 冷却装置
4 溶融物供給路
5 集合糸ガイド
6 ガイド手段
7 糸
8 紡糸ビーム
9 冷却ダクト
10 延伸装置
11.1〜11.4 ゴデット
12.1〜12.4 ゴデット周壁
13.1〜13.4 ゴデットモータ
14 帯電手段
15 電荷発生器
16 湿し装置
17 摩擦エレメント
18 ガイドエッジ
19 送風室
20 渦動装置
21 渦動ノズル
22 櫛歯糸ガイド
23 エッジ糸ガイド